第十二楽句〜つかの間の休息〜
「……ふむ、まぁ構わないが、お主は大丈夫なのか？」
「とりあえずは大丈夫です。スートの方が護衛についてくださいますしね。それよりも、本当にいいんですか？」
「ああ、いいとも。お主のことを考えれば少し心配ではあるが、きっと大丈夫だと信じているからの」
「……ありがとうございます」
「ハーおにぃちゃ〜ん！準備できたよっ！」
エルのメッセージが届いてから3日が過ぎた。情報では、明後日に教団がくるらしいので、みんな……無論、僕も、それぞれその日に向けて頑張っていた。
しかし、ずっと気を張るわけにもいくまい、とメリカさんが、前日に追い込みを控えさせて、僕らに休みを取ってリフレッシュするように言われた。ということで、僕はこれからアミリちゃんとお出かけだ。
メリカさんとこのあとのことなどを話し合っている間にアミリちゃんが準備を済ませて僕の元に戻ってきた。
「お、アミリちゃん、今日はおめかしかな？」
「はいなのです！ちょっと気合をいれてきたのですよ！」
「ちょっとしたお出かけなのに、気合入れすぎだよ……」
「ハーおにぃちゃん、アミリ、似合ってますか!?」
そう言ってクルッと回って自分の服装を見せるアミリちゃん。
今着ているのは、いつもの魔女の服ではなく、白いワンピースに麦わら帽子という、普通の女の子、と言った感じのものだった。
いつも同じような服だったから、なんというか、新鮮である。
なんというか、年相応というか、アミリちゃんらしい服装であったので、うん、似合ってるんじゃないかな？と僕は答えた。
「えへへ……よかったのですよ！」
「……じゃあ、アミリちゃんが来たことですし、メリカさん、先ほどの話、よろしくお願いします」
「うむ、任された。では、いってらっしゃい、なのじゃ」
「はい。じゃあアミリちゃん、行こっか？」
「はいなのです！」
とりあえず、相談した件はメリカさんに任せて、僕はアミリちゃんとお出かけにいくのだった。
「さて、と……まずはまたミルフィーさんのところだったよね？」
「はいなのです！メリカおねぇちゃんがアミィ用に杖を新調してくれるから、アミィはそのための魔石選びをするの！」
「そっか。アミリちゃんに合った魔石、見つかるといいね？」
「はいなのです！」
アミリちゃんがエルを倒すために頑張っている、と聞いた時、僕は少なからず驚いた。
理由は……まぁ、わからなくもない。約束、したからね……
時々その修行風景を見てるけど……なんというか、メリカさん、案外スパルタだなぁ、なんて感じたものだ。
最初に話を聞いた時はたった5日で……なんて思ったけど、エルが手加減してくれるのであれば……もしかしたら、簡単に勝てるかもしれない。いや、エルが本気を出しても、きっといい勝負になるだろう。
でも、無理はしないで欲しいよな……
そう思わなくもなかったけど、言ってもきっとアミリちゃんたちは、自分たちがしたいんだから僕が気にする必要はない、それに無理もしてないと言うだろうし、実際メリカさんに言ったらそう返されたので、黙っておくことにしている。
そんなこんなで、ミルフィー魔石店に到着。
「いらっしゃい……っと、アミリちゃんにハーラデスさん、こんにちは。アミリちゃん、なんか珍しい格好してるわね？今度こそデートかしら？」
「そうなのです！」
「違いますよ、ただの買い物です」
「えっ？」
「えっ？」
ミルフィーさんの質問に対する答えが違ったため、僕とアミリちゃんは顔を見合わせてから首を傾げた。
そんな僕たちの様子を見ながら、はいはい、わかったわかった、とミルフィーさんは苦笑する。
「まぁとりあえず、好きに魔石を選んでちょうだいな」
「は〜いなのです！」
ミルフィーさんが言ったところで、アミリちゃんはすぐにトテトテと店の中を見回りに行ってしまった。
とりあえず、僕は魔石についての知識はほぼ皆無に等しいので、ミルフィーさんと話をすることにした。
「……あ、そういえば疑問なんですけど、魔晶石と魔石って、なにか違うんですか？」
「ええ、純度が違うわね。魔晶石の方が純度が高いわ。でも、魔具に使われるのはほとんど魔石ね」
「え？どうしてですか？純度の高い方がいいものができますよね？」
「純度が高過ぎるから加工しにくいし一点特化型の魔具に偏るから、あまり好まれないのよ。だから、魔石は道具に加工、魔晶石が魔術や魔具の燃料、というのが一般的ね。まぁ、俗にいう天才ってのは、魔晶石で汎用性の高い物を作っちゃうらしいけどね……」
「そうなんですか……」
はいどうぞ、とレジカウンター近くに椅子を置いてもらったため、お礼を言いながら僕は座らせてもらうことにした。
「そうそう、メリカから話、聞いたわよ。大変ねぇ、教団に狙われるなんて」
「いえ、実際に襲撃された場所やここに比べたら、簡単に逃げられてましたから全然ですよ……そういえば、教団が襲ってきたら、ミルフィーさんはどうするんですか？」
「あー、私たちみたいに戦力になれない一般人は、街の地下にある通路から避難するわ。まぁ、スートもいるし、たぶん街の中までは入ってこれないでしょうけどね」
「あははは……そうですか」
とりあえず、ミルフィーさんたちは大丈夫そう、か……
「というか、ハーラデスさんは避難しないの？」
「ええまぁ。囮という役割をとって目をこっちに集中させることもできますし、なにより……逃げたくないですからね」
「そう。そしたら、アミリちゃんも頑張らないとね。お気に入りの人を守るために……」
「お気に入り、ですか……ただちょっと仲がいいだけですよ」
「そうでもないわよ？あの子ね、いつも明るい子なんだけど、あなたと一緒にいるとすっごい楽しそうで、なんていうか……輝いてるって言うのかな？そんな感じなのよ」
「そう、ですか……」
うーん、なんかこそばゆい感じだ……
……一人っ子だったから、わからないけど。兄妹とかがいると、こんな感じに感じるの……かな？
「さてと……そろそろアミリちゃんの様子でも見に行きますね」
「そうね、あなたが放って置いたら、アミリちゃんふてくされそうだしね」
「なんですかそれは……」
微笑みながら茶化してくるミルフィーさんに、ため息をつきながら僕はアミリちゃんを探す。
といっても、店内はさほど広くはないから簡単に見つけることができた。
「どう、アミリちゃん？いいのは見つかった？」
「う〜ん、ちょっと難しいのです……」
そういいながら、アミリちゃんは小さな机の中に6色の魔石を置く。
赤、桃、黄、紫、橙、黄緑……
「6種類まで絞ったんだけど、ここでちょっと迷ってるの……」
「そっかぁ……」
「うん、ハーおにぃちゃんは、どれがいいですか？」
「ん？僕が選んじゃってもいいの？」
「うん！性能はほとんど一緒だから、あとは好みの問題なの！」
「そっかぁ……そしたら……」
これかな？と僕が手にとったのは、黄緑色の魔石。
「ほうほう！なかなかな選択ですね！」
「え、これなんか順位とかあったの？」
「ないよ？」
「……あ、うん、そっか」
「ちなみにハーおにぃちゃんはなんで黄緑なんですか？」
「ん？まぁ、アミリちゃんの目の色に近い色だったから、かな？」
「ほぇ〜、そうなんですかぁ」
僕の言葉に、アミリちゃんは、これがアミィの目の色に近いんだ〜と興味深げに覗き込む。
そして少しの間覗き込んでから、じゃあ、これにするのです！と僕の選んだ黄緑色の魔石を取ってミルフィーさんに渡した。
「本当に僕が選んだやつでよかったの？」
「いいのです！ハーおにぃちゃんがアミィに近いって言ったこの子に決めたのです！」
「ふふふ、本当にハーラデスさんはアミリちゃんのお気に入りだねぇ……」
「の、ようですね」
と言っても、父親とか兄とか、そういうのっぽそうですけど、と付け加えて話したりしている間に、アミリちゃんは会計をさっさと終わらせた。
「とりあえず、これであとは自由なのです！」
「そうだね、そしたら次はどこに行こうか？」
「うーん……とりあえず、いろいろと見て回るのです！ハーおにぃちゃんはどこか行きたいところはありますか？」
「今のところは……ないかな？」
「そしたら、ウィンドウショッピングと洒落込むのかしら？」
「なんか使い方が違う気がしますが……そうみたいですね、行きたいところもないですし」
「じゃあね、ミーおねぇちゃん！」
「うん、頑張ってね。ありがとうございました、またお越しください、なんてね」
「はい、また会いましょう」
ひらひらと手を振って見送るミルフィーさんに礼をしながら、僕たちは店を後にした。
「ん〜、あ！ハーおにぃちゃん、洋服でも見にいきましょうなのです！」
「洋服か……女の子ってそういうの見るのが好きだね」
「ハーおにぃちゃんに似合いそうなのも選びますですよ！」
「僕のもかぁ……」
「はい！ハーおにぃちゃんも女の子の格好をするのです！」
「えっ!?」
と、そんな会話をしながら、僕とアミリちゃんは街の中を自由に回るのだった。
××××××××××××××××××××××××××××××
コンッ、コンッ
ゆっくりと、私の泊まっている部屋のドアがノックされた。
「はーい」
「はろはろ〜んめーたん！お元気〜？」
応対しようとドアを開けると、訪問者がそんなことを喚きながら私に向かって飛びついてきた。
私はそれを避けることができず、訪問者はそのまま私に抱きつく。
突然そんなことをしてきた訪問者ではあるが、聞こえた声と行動から、それが私の知り合いであることがわかったので、私は反射的にソレを弾き飛ばさずにすんだ。
とりあえず、文句は言いたいけどその前に挨拶ね……
「お久しぶりね、百合姫」
「百合姫言っちゃいや〜ん。ちゃんとローズって言ってよぉめーたん！」
「めーたんって言わないで頂戴っ！」
「いやんっ！酷いわめーたん、膝蹴りなんてっ！」
鬱陶しいので挨拶をしてから膝蹴りをして吹き飛ばすのだけれど、この変態はさほど吹き飛ぶこともなく、ダメージを受けた様子もない。さらに言うと、体をくねらせながら顔をわずかに赤くしている。
「でも、なんだろう……感じty」
「言わせないわよこんな場所で!?」
「うひゃんっ」
不穏なことを言いかけてくれたので頭に手刀を入れて黙らせる。
この私の目の前にいる変態女の名前はローズ。私たち人工聖女たちからは百合姫と呼ばれる同性愛者であり、聖女計画によって作られた人工聖女であり……そして同じくして組織された聖女部隊の部隊長代理……つまり、私たちの上司である。
「めーたん酷いよ〜。でもでも、こんな場所でってことは、もっと雰囲気のある場所なら……って待って！待って！流石に鎌は危ないから！私傷物にされちゃうっ……あ、それはそれで……」
「いいから本題に入りなさい。状況はどんな感じなのよ？」
「ぶ〜、真面目なめーたんきらぁい」
「嫌いで結構。さっさと話しなさい」
さて、本来私たち聖女部隊は個人行動が主であり、こうやって二人以上の聖女が同じ街にいることはほとんどないのだけれど、なぜ百合姫はここにいるのか、その回答は至極簡単。私が呼んだのである。……非常に不本意ではあるけど。
というのも、やはりある程度の情報を手にいれるには、それに見合った身分の人間を頼らないといけないからだ。
今回は私が欲したのは今回の戦争で投入される戦力の詳しい最新の内訳。
これを先に知っておけば、ある程度自由に動けるようになり、そこを利用してなんとか私はこの戦争を自分の望む結末にもって行きたいのだ。
ちょうど百合姫も部隊を指揮するために招集をかけられたため、私は若干諦めていたその情報を、早めにこいつをここに呼んで聞くことができるのだ。
私の態度に百合姫はぶーたれるが、こいつは放っておくといつまでも私たちにべたつくため、冷たくあしらって本題に入らせる。
「むぅ、みんな冷たいなぁ……ま、いいわ。さて、じゃあ今回の戦力、及び陣形や部隊の内訳を説明するわね」
少し残念そうにうつむいたかと思うと、すぐにデレデレしていた表情はなくなり、凛とした顔で説明を始める。……仕事になれば切り替えは早い……いつものことだ。この人のそういうところはあの人……私たちの前部隊長に似ており、尊敬することができる。
「まず伝えておくべきなのは、新しい戦力が追加投入されることね」
「まさか、新しい師団の部隊が？」
「いいえ、もっと厄介よ。……人造勇者計画は知っているかしら？」
「あ、うん、概要だけなら。被験者には合ってないけどね」
「まぁ、直接それに関わってるわけではないんだけど、その計画、どうも被験者たちがいろいろと厄介みたいで雲行きが怪しくなってきてね……その代替案……というより、問題を解決させた改善案ね。その戦力が、今回投入されるらしいのよ」
「代替案、ね……」
「ええ、しかも、なんか知らないけど、あなたはその部隊の補佐に回されてるわ。実験部隊と行動を共にして、その部隊が危険になったら退避させる……ってことらしいわ。……ちなみに部隊長は……司祭、らしいわよ」
「それはまた、厄介な……」
「なにをしたいのか……は、ターゲットを知ってるから予想はできるけど、あんまり目立つ行動はしないで頂戴ね。身内はみんなわかってるとはいえ、私たちにも立場があるんだから」
「うん、大丈夫。今回はたぶん私がなにもしなくても、きっと望むような結末になるだろうから。これは、もしもの時のための用心よ。心配しないで」
「そう……ならいいわ。じゃあ、この話は終わりね。一応さっきの情報は式に込めて手紙にしたから、使いたければ使いなさい」
「ありがとう百合姫」
「だ〜かーらぁ〜百合姫って呼ばないでよぉめ〜たんっ！」
手紙を受け取りながらお礼を言うと、仕事が終わったからか、百合姫は文句を言いながら私に抱きつき……今度は匂いまで嗅いでくる。
「ちょっ、百合姫やめなさいっ！」
「ふへへへへ……よいではないかよいではないか……って、ん……？」
クンクンと犬のように私の匂いを嗅ぐ百合姫だが、不意にその動きが止まる。
と、思ったら今度はよろよろとしながら後ろに下がって私から離れ始める。
そして百合姫が浮かべた表情は……驚愕。
「めーたんから、めーたんから……微かにだけど男の人の臭いがする！」
「えっ!?」
「う、嘘だ！私のめーたんが男なんかにその華を散らされるわけが……！」
「なにいってるのよあんたは！華を散らすって、そんなことしてないわよ！」
「はっ!?まさか、めーたんが昔休日によく合ってたあの男……！あいつか、あいつがめーたんの華を散らしたのか!?」
「違うっ！違うからっ！というか私のめーたんってなによ！私はあんたのものじゃないわ百合姫っ！」
「めーたんは私のものだっ！だからあの男は排除しないと……！」
「ま、待ちなさいよっ！」
「めーたん退いてあいつ始末しにいけない」
……百合姫の暴走は止まる様子を見せない。……もう、だからこの変態はめんどくさいのよ……
誰か、この女をどうにかしてください……
それだけが、今の私の強い望みです……
××××××××××××××××××××××××××××××
「へくしゅっ!!」
「ハーおにぃちゃん、風邪ですか？」
服屋やら食べ物屋やらを回って街をうろうろしていると、不意にくしゃみをしてしまった。
風邪かとアミリちゃんは心配したようだけど、昨日は体を冷やすようなことをした覚えがないから、それはないだろう。
「うーん、違うと思う。誰かが噂でもしてるのかな……？」
「きっとエルおねぇちゃんなのです！」
「そうかなぁ……？」
「または、アミィなのです！」
「近くにいるのにっ!?」
アミリちゃんの言動に、ちょくちょく僕は驚かされるわけだけど、アミリちゃんって、たまに予想不可能な行動やら受け答えやらをするよね……
「さっきまでハーおにぃちゃんのことを考えてましたから！」
「そうなんだ……」
「はいっ！ハーおにぃちゃんになにを着せようか考えてましたっ！」
「……まだ考えてたのね、それ……」
「ハーおにぃちゃんは立派な男のコになれるって、おねぇちゃんたちも言ってましたよ！」
「えっ？」
「えっ？」
いやいや、僕、すでに男だよ？もう男の子じゃないよ？と言おうとしたんだけど、なんとなく、ニュアンスが違ったような気がしたため、指摘する箇所を見つけあぐねてしまった。
結果、また二人そろって首を傾げることに。
「まぁ、いいや。っと、楽器店か……アミリちゃん、ちょっとこっちも見て行こうか」
「はいなのです！」
ちょうどよく手頃なお店が見つかったので、僕は話を切り上げてアミリちゃんと一緒に楽器店に入る。
さほど大きな店ではないけど、見て回ると楽器の質はかなりいいことがわかる。さすが、音楽の街、ってところかな？
しかし、やはり店が小さいからかピアノなどの大きな楽器は見当たらない。
店主さんに聞いてみると、やはり店に置くスペースがないから取り扱ってないらしい。同時に、そういう大きな楽器を取り扱うお店もあるという話を聞いたので、いつか行って見てみたい。が、今日は時間的にもうこの店が最後になりそうなので諦めておく。
「管楽器ばっかりあるね〜」
「そうだね。リコーダー、フルート、アコーディオン、トランペット、ホルン……本当に、管楽器がたくさんあるね」
「お、ハーモニカなのです！」
「ハーモニカかぁ……母さんもたまに演奏して聞かせてくれたなぁ……」
「ハーおにぃちゃんのお母さんはハーモニカも演奏してたんですか？」
「うん。母さんはピアノが有名だったけど、他の楽器の演奏もすごかったんだ。ハープ、バイオリン、木琴……いろいろ演奏して聞かせてくれたっけ」
「ハーおにぃちゃんはどうなんです？」
「僕？僕は……まぁ、ちょっとだけならできる……かな？」
「たとえばたとえば!?」
目をキラキラさせながら僕を見てくるアミリちゃんを見て、僕はえーっと、と周りを見て自分の演奏できる楽器を探す。
「あ、これとか、かな」
そういって僕が手にとったのは、オカリナ。独特な音が気に入って、練習していたのだ。
「へぇ〜オカリナですか〜。まったくわからないのです！」
「でも名前は知ってるんだね」
「そこに書いてありました！」
ビシッと自信満々に値札を指差すアミリちゃんを見て、僕は苦笑いをしながらそうなんだぁ……と言っておく。
「そしたらそしたら、あとでハーおにぃちゃんのオカリナ演奏、アミィに聞かせて欲しいのです！」
「うん、いいよ。でも、それより先にピアノを聞くことになるだろうけどね」
「ハーおにぃちゃんの演奏、いつ聞けますか!?」
「そうだなぁ……案外、早く聞けるかもね」
「明日ですかっ!?」
「いや、明日は流石にないよ」
そんなに急かさないで欲しいなぁ〜、なんて言いながら、僕は微苦笑する。
流石に、明日は無理だけど、でも……きっと、アミリちゃん驚くだろうなぁ……いや、アミリちゃんだけが驚くわけじゃないね。
みんな驚かせられるように、頑張らないと。
じゃあ、今夜にでも早速、作業に戻ろうか。
そんなことを考えながら、僕はアミリちゃんと楽しくお話しながら店を回るのだった。
××××××××××××××××××××××××××××××
教団襲撃予定日は、もう目前
少年は過去と向き合い
少女は己を磨き
街は備え
聖女は自分のできることを模索し
人は集まりつつある
その先になにがあるかは、まだ誰も知らない
それは、神のみぞ知ること
……物語は、決戦当日へ……
「とりあえずは大丈夫です。スートの方が護衛についてくださいますしね。それよりも、本当にいいんですか？」
「ああ、いいとも。お主のことを考えれば少し心配ではあるが、きっと大丈夫だと信じているからの」
「……ありがとうございます」
「ハーおにぃちゃ〜ん！準備できたよっ！」
エルのメッセージが届いてから3日が過ぎた。情報では、明後日に教団がくるらしいので、みんな……無論、僕も、それぞれその日に向けて頑張っていた。
しかし、ずっと気を張るわけにもいくまい、とメリカさんが、前日に追い込みを控えさせて、僕らに休みを取ってリフレッシュするように言われた。ということで、僕はこれからアミリちゃんとお出かけだ。
メリカさんとこのあとのことなどを話し合っている間にアミリちゃんが準備を済ませて僕の元に戻ってきた。
「お、アミリちゃん、今日はおめかしかな？」
「はいなのです！ちょっと気合をいれてきたのですよ！」
「ちょっとしたお出かけなのに、気合入れすぎだよ……」
「ハーおにぃちゃん、アミリ、似合ってますか!?」
そう言ってクルッと回って自分の服装を見せるアミリちゃん。
今着ているのは、いつもの魔女の服ではなく、白いワンピースに麦わら帽子という、普通の女の子、と言った感じのものだった。
いつも同じような服だったから、なんというか、新鮮である。
なんというか、年相応というか、アミリちゃんらしい服装であったので、うん、似合ってるんじゃないかな？と僕は答えた。
「えへへ……よかったのですよ！」
「……じゃあ、アミリちゃんが来たことですし、メリカさん、先ほどの話、よろしくお願いします」
「うむ、任された。では、いってらっしゃい、なのじゃ」
「はい。じゃあアミリちゃん、行こっか？」
「はいなのです！」
とりあえず、相談した件はメリカさんに任せて、僕はアミリちゃんとお出かけにいくのだった。
「さて、と……まずはまたミルフィーさんのところだったよね？」
「はいなのです！メリカおねぇちゃんがアミィ用に杖を新調してくれるから、アミィはそのための魔石選びをするの！」
「そっか。アミリちゃんに合った魔石、見つかるといいね？」
「はいなのです！」
アミリちゃんがエルを倒すために頑張っている、と聞いた時、僕は少なからず驚いた。
理由は……まぁ、わからなくもない。約束、したからね……
時々その修行風景を見てるけど……なんというか、メリカさん、案外スパルタだなぁ、なんて感じたものだ。
最初に話を聞いた時はたった5日で……なんて思ったけど、エルが手加減してくれるのであれば……もしかしたら、簡単に勝てるかもしれない。いや、エルが本気を出しても、きっといい勝負になるだろう。
でも、無理はしないで欲しいよな……
そう思わなくもなかったけど、言ってもきっとアミリちゃんたちは、自分たちがしたいんだから僕が気にする必要はない、それに無理もしてないと言うだろうし、実際メリカさんに言ったらそう返されたので、黙っておくことにしている。
そんなこんなで、ミルフィー魔石店に到着。
「いらっしゃい……っと、アミリちゃんにハーラデスさん、こんにちは。アミリちゃん、なんか珍しい格好してるわね？今度こそデートかしら？」
「そうなのです！」
「違いますよ、ただの買い物です」
「えっ？」
「えっ？」
ミルフィーさんの質問に対する答えが違ったため、僕とアミリちゃんは顔を見合わせてから首を傾げた。
そんな僕たちの様子を見ながら、はいはい、わかったわかった、とミルフィーさんは苦笑する。
「まぁとりあえず、好きに魔石を選んでちょうだいな」
「は〜いなのです！」
ミルフィーさんが言ったところで、アミリちゃんはすぐにトテトテと店の中を見回りに行ってしまった。
とりあえず、僕は魔石についての知識はほぼ皆無に等しいので、ミルフィーさんと話をすることにした。
「……あ、そういえば疑問なんですけど、魔晶石と魔石って、なにか違うんですか？」
「ええ、純度が違うわね。魔晶石の方が純度が高いわ。でも、魔具に使われるのはほとんど魔石ね」
「え？どうしてですか？純度の高い方がいいものができますよね？」
「純度が高過ぎるから加工しにくいし一点特化型の魔具に偏るから、あまり好まれないのよ。だから、魔石は道具に加工、魔晶石が魔術や魔具の燃料、というのが一般的ね。まぁ、俗にいう天才ってのは、魔晶石で汎用性の高い物を作っちゃうらしいけどね……」
「そうなんですか……」
はいどうぞ、とレジカウンター近くに椅子を置いてもらったため、お礼を言いながら僕は座らせてもらうことにした。
「そうそう、メリカから話、聞いたわよ。大変ねぇ、教団に狙われるなんて」
「いえ、実際に襲撃された場所やここに比べたら、簡単に逃げられてましたから全然ですよ……そういえば、教団が襲ってきたら、ミルフィーさんはどうするんですか？」
「あー、私たちみたいに戦力になれない一般人は、街の地下にある通路から避難するわ。まぁ、スートもいるし、たぶん街の中までは入ってこれないでしょうけどね」
「あははは……そうですか」
とりあえず、ミルフィーさんたちは大丈夫そう、か……
「というか、ハーラデスさんは避難しないの？」
「ええまぁ。囮という役割をとって目をこっちに集中させることもできますし、なにより……逃げたくないですからね」
「そう。そしたら、アミリちゃんも頑張らないとね。お気に入りの人を守るために……」
「お気に入り、ですか……ただちょっと仲がいいだけですよ」
「そうでもないわよ？あの子ね、いつも明るい子なんだけど、あなたと一緒にいるとすっごい楽しそうで、なんていうか……輝いてるって言うのかな？そんな感じなのよ」
「そう、ですか……」
うーん、なんかこそばゆい感じだ……
……一人っ子だったから、わからないけど。兄妹とかがいると、こんな感じに感じるの……かな？
「さてと……そろそろアミリちゃんの様子でも見に行きますね」
「そうね、あなたが放って置いたら、アミリちゃんふてくされそうだしね」
「なんですかそれは……」
微笑みながら茶化してくるミルフィーさんに、ため息をつきながら僕はアミリちゃんを探す。
といっても、店内はさほど広くはないから簡単に見つけることができた。
「どう、アミリちゃん？いいのは見つかった？」
「う〜ん、ちょっと難しいのです……」
そういいながら、アミリちゃんは小さな机の中に6色の魔石を置く。
赤、桃、黄、紫、橙、黄緑……
「6種類まで絞ったんだけど、ここでちょっと迷ってるの……」
「そっかぁ……」
「うん、ハーおにぃちゃんは、どれがいいですか？」
「ん？僕が選んじゃってもいいの？」
「うん！性能はほとんど一緒だから、あとは好みの問題なの！」
「そっかぁ……そしたら……」
これかな？と僕が手にとったのは、黄緑色の魔石。
「ほうほう！なかなかな選択ですね！」
「え、これなんか順位とかあったの？」
「ないよ？」
「……あ、うん、そっか」
「ちなみにハーおにぃちゃんはなんで黄緑なんですか？」
「ん？まぁ、アミリちゃんの目の色に近い色だったから、かな？」
「ほぇ〜、そうなんですかぁ」
僕の言葉に、アミリちゃんは、これがアミィの目の色に近いんだ〜と興味深げに覗き込む。
そして少しの間覗き込んでから、じゃあ、これにするのです！と僕の選んだ黄緑色の魔石を取ってミルフィーさんに渡した。
「本当に僕が選んだやつでよかったの？」
「いいのです！ハーおにぃちゃんがアミィに近いって言ったこの子に決めたのです！」
「ふふふ、本当にハーラデスさんはアミリちゃんのお気に入りだねぇ……」
「の、ようですね」
と言っても、父親とか兄とか、そういうのっぽそうですけど、と付け加えて話したりしている間に、アミリちゃんは会計をさっさと終わらせた。
「とりあえず、これであとは自由なのです！」
「そうだね、そしたら次はどこに行こうか？」
「うーん……とりあえず、いろいろと見て回るのです！ハーおにぃちゃんはどこか行きたいところはありますか？」
「今のところは……ないかな？」
「そしたら、ウィンドウショッピングと洒落込むのかしら？」
「なんか使い方が違う気がしますが……そうみたいですね、行きたいところもないですし」
「じゃあね、ミーおねぇちゃん！」
「うん、頑張ってね。ありがとうございました、またお越しください、なんてね」
「はい、また会いましょう」
ひらひらと手を振って見送るミルフィーさんに礼をしながら、僕たちは店を後にした。
「ん〜、あ！ハーおにぃちゃん、洋服でも見にいきましょうなのです！」
「洋服か……女の子ってそういうの見るのが好きだね」
「ハーおにぃちゃんに似合いそうなのも選びますですよ！」
「僕のもかぁ……」
「はい！ハーおにぃちゃんも女の子の格好をするのです！」
「えっ!?」
と、そんな会話をしながら、僕とアミリちゃんは街の中を自由に回るのだった。
××××××××××××××××××××××××××××××
コンッ、コンッ
ゆっくりと、私の泊まっている部屋のドアがノックされた。
「はーい」
「はろはろ〜んめーたん！お元気〜？」
応対しようとドアを開けると、訪問者がそんなことを喚きながら私に向かって飛びついてきた。
私はそれを避けることができず、訪問者はそのまま私に抱きつく。
突然そんなことをしてきた訪問者ではあるが、聞こえた声と行動から、それが私の知り合いであることがわかったので、私は反射的にソレを弾き飛ばさずにすんだ。
とりあえず、文句は言いたいけどその前に挨拶ね……
「お久しぶりね、百合姫」
「百合姫言っちゃいや〜ん。ちゃんとローズって言ってよぉめーたん！」
「めーたんって言わないで頂戴っ！」
「いやんっ！酷いわめーたん、膝蹴りなんてっ！」
鬱陶しいので挨拶をしてから膝蹴りをして吹き飛ばすのだけれど、この変態はさほど吹き飛ぶこともなく、ダメージを受けた様子もない。さらに言うと、体をくねらせながら顔をわずかに赤くしている。
「でも、なんだろう……感じty」
「言わせないわよこんな場所で!?」
「うひゃんっ」
不穏なことを言いかけてくれたので頭に手刀を入れて黙らせる。
この私の目の前にいる変態女の名前はローズ。私たち人工聖女たちからは百合姫と呼ばれる同性愛者であり、聖女計画によって作られた人工聖女であり……そして同じくして組織された聖女部隊の部隊長代理……つまり、私たちの上司である。
「めーたん酷いよ〜。でもでも、こんな場所でってことは、もっと雰囲気のある場所なら……って待って！待って！流石に鎌は危ないから！私傷物にされちゃうっ……あ、それはそれで……」
「いいから本題に入りなさい。状況はどんな感じなのよ？」
「ぶ〜、真面目なめーたんきらぁい」
「嫌いで結構。さっさと話しなさい」
さて、本来私たち聖女部隊は個人行動が主であり、こうやって二人以上の聖女が同じ街にいることはほとんどないのだけれど、なぜ百合姫はここにいるのか、その回答は至極簡単。私が呼んだのである。……非常に不本意ではあるけど。
というのも、やはりある程度の情報を手にいれるには、それに見合った身分の人間を頼らないといけないからだ。
今回は私が欲したのは今回の戦争で投入される戦力の詳しい最新の内訳。
これを先に知っておけば、ある程度自由に動けるようになり、そこを利用してなんとか私はこの戦争を自分の望む結末にもって行きたいのだ。
ちょうど百合姫も部隊を指揮するために招集をかけられたため、私は若干諦めていたその情報を、早めにこいつをここに呼んで聞くことができるのだ。
私の態度に百合姫はぶーたれるが、こいつは放っておくといつまでも私たちにべたつくため、冷たくあしらって本題に入らせる。
「むぅ、みんな冷たいなぁ……ま、いいわ。さて、じゃあ今回の戦力、及び陣形や部隊の内訳を説明するわね」
少し残念そうにうつむいたかと思うと、すぐにデレデレしていた表情はなくなり、凛とした顔で説明を始める。……仕事になれば切り替えは早い……いつものことだ。この人のそういうところはあの人……私たちの前部隊長に似ており、尊敬することができる。
「まず伝えておくべきなのは、新しい戦力が追加投入されることね」
「まさか、新しい師団の部隊が？」
「いいえ、もっと厄介よ。……人造勇者計画は知っているかしら？」
「あ、うん、概要だけなら。被験者には合ってないけどね」
「まぁ、直接それに関わってるわけではないんだけど、その計画、どうも被験者たちがいろいろと厄介みたいで雲行きが怪しくなってきてね……その代替案……というより、問題を解決させた改善案ね。その戦力が、今回投入されるらしいのよ」
「代替案、ね……」
「ええ、しかも、なんか知らないけど、あなたはその部隊の補佐に回されてるわ。実験部隊と行動を共にして、その部隊が危険になったら退避させる……ってことらしいわ。……ちなみに部隊長は……司祭、らしいわよ」
「それはまた、厄介な……」
「なにをしたいのか……は、ターゲットを知ってるから予想はできるけど、あんまり目立つ行動はしないで頂戴ね。身内はみんなわかってるとはいえ、私たちにも立場があるんだから」
「うん、大丈夫。今回はたぶん私がなにもしなくても、きっと望むような結末になるだろうから。これは、もしもの時のための用心よ。心配しないで」
「そう……ならいいわ。じゃあ、この話は終わりね。一応さっきの情報は式に込めて手紙にしたから、使いたければ使いなさい」
「ありがとう百合姫」
「だ〜かーらぁ〜百合姫って呼ばないでよぉめ〜たんっ！」
手紙を受け取りながらお礼を言うと、仕事が終わったからか、百合姫は文句を言いながら私に抱きつき……今度は匂いまで嗅いでくる。
「ちょっ、百合姫やめなさいっ！」
「ふへへへへ……よいではないかよいではないか……って、ん……？」
クンクンと犬のように私の匂いを嗅ぐ百合姫だが、不意にその動きが止まる。
と、思ったら今度はよろよろとしながら後ろに下がって私から離れ始める。
そして百合姫が浮かべた表情は……驚愕。
「めーたんから、めーたんから……微かにだけど男の人の臭いがする！」
「えっ!?」
「う、嘘だ！私のめーたんが男なんかにその華を散らされるわけが……！」
「なにいってるのよあんたは！華を散らすって、そんなことしてないわよ！」
「はっ!?まさか、めーたんが昔休日によく合ってたあの男……！あいつか、あいつがめーたんの華を散らしたのか!?」
「違うっ！違うからっ！というか私のめーたんってなによ！私はあんたのものじゃないわ百合姫っ！」
「めーたんは私のものだっ！だからあの男は排除しないと……！」
「ま、待ちなさいよっ！」
「めーたん退いてあいつ始末しにいけない」
……百合姫の暴走は止まる様子を見せない。……もう、だからこの変態はめんどくさいのよ……
誰か、この女をどうにかしてください……
それだけが、今の私の強い望みです……
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「へくしゅっ!!」
「ハーおにぃちゃん、風邪ですか？」
服屋やら食べ物屋やらを回って街をうろうろしていると、不意にくしゃみをしてしまった。
風邪かとアミリちゃんは心配したようだけど、昨日は体を冷やすようなことをした覚えがないから、それはないだろう。
「うーん、違うと思う。誰かが噂でもしてるのかな……？」
「きっとエルおねぇちゃんなのです！」
「そうかなぁ……？」
「または、アミィなのです！」
「近くにいるのにっ!?」
アミリちゃんの言動に、ちょくちょく僕は驚かされるわけだけど、アミリちゃんって、たまに予想不可能な行動やら受け答えやらをするよね……
「さっきまでハーおにぃちゃんのことを考えてましたから！」
「そうなんだ……」
「はいっ！ハーおにぃちゃんになにを着せようか考えてましたっ！」
「……まだ考えてたのね、それ……」
「ハーおにぃちゃんは立派な男のコになれるって、おねぇちゃんたちも言ってましたよ！」
「えっ？」
「えっ？」
いやいや、僕、すでに男だよ？もう男の子じゃないよ？と言おうとしたんだけど、なんとなく、ニュアンスが違ったような気がしたため、指摘する箇所を見つけあぐねてしまった。
結果、また二人そろって首を傾げることに。
「まぁ、いいや。っと、楽器店か……アミリちゃん、ちょっとこっちも見て行こうか」
「はいなのです！」
ちょうどよく手頃なお店が見つかったので、僕は話を切り上げてアミリちゃんと一緒に楽器店に入る。
さほど大きな店ではないけど、見て回ると楽器の質はかなりいいことがわかる。さすが、音楽の街、ってところかな？
しかし、やはり店が小さいからかピアノなどの大きな楽器は見当たらない。
店主さんに聞いてみると、やはり店に置くスペースがないから取り扱ってないらしい。同時に、そういう大きな楽器を取り扱うお店もあるという話を聞いたので、いつか行って見てみたい。が、今日は時間的にもうこの店が最後になりそうなので諦めておく。
「管楽器ばっかりあるね〜」
「そうだね。リコーダー、フルート、アコーディオン、トランペット、ホルン……本当に、管楽器がたくさんあるね」
「お、ハーモニカなのです！」
「ハーモニカかぁ……母さんもたまに演奏して聞かせてくれたなぁ……」
「ハーおにぃちゃんのお母さんはハーモニカも演奏してたんですか？」
「うん。母さんはピアノが有名だったけど、他の楽器の演奏もすごかったんだ。ハープ、バイオリン、木琴……いろいろ演奏して聞かせてくれたっけ」
「ハーおにぃちゃんはどうなんです？」
「僕？僕は……まぁ、ちょっとだけならできる……かな？」
「たとえばたとえば!?」
目をキラキラさせながら僕を見てくるアミリちゃんを見て、僕はえーっと、と周りを見て自分の演奏できる楽器を探す。
「あ、これとか、かな」
そういって僕が手にとったのは、オカリナ。独特な音が気に入って、練習していたのだ。
「へぇ〜オカリナですか〜。まったくわからないのです！」
「でも名前は知ってるんだね」
「そこに書いてありました！」
ビシッと自信満々に値札を指差すアミリちゃんを見て、僕は苦笑いをしながらそうなんだぁ……と言っておく。
「そしたらそしたら、あとでハーおにぃちゃんのオカリナ演奏、アミィに聞かせて欲しいのです！」
「うん、いいよ。でも、それより先にピアノを聞くことになるだろうけどね」
「ハーおにぃちゃんの演奏、いつ聞けますか!?」
「そうだなぁ……案外、早く聞けるかもね」
「明日ですかっ!?」
「いや、明日は流石にないよ」
そんなに急かさないで欲しいなぁ〜、なんて言いながら、僕は微苦笑する。
流石に、明日は無理だけど、でも……きっと、アミリちゃん驚くだろうなぁ……いや、アミリちゃんだけが驚くわけじゃないね。
みんな驚かせられるように、頑張らないと。
じゃあ、今夜にでも早速、作業に戻ろうか。
そんなことを考えながら、僕はアミリちゃんと楽しくお話しながら店を回るのだった。
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教団襲撃予定日は、もう目前
少年は過去と向き合い
少女は己を磨き
街は備え
聖女は自分のできることを模索し
人は集まりつつある
その先になにがあるかは、まだ誰も知らない
それは、神のみぞ知ること
……物語は、決戦当日へ……
12/06/07 18:15更新 / 星村 空理
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