連載小説
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第十一楽句〜選択と助力、そして希望〜
「……はぁ……」

部屋に戻った僕は、疲れていたためにすぐにベットにダイブした。
とりあえず体を休めながらも、僕は少し前のことを思い出す。

『……やっぱり、メリカさんたちと一緒に、自由を勝ち取ります。魔法は……消しません』
『なっ!?なぜじゃハーラデス殿!?折角のチャンスを……』
『……一応、理由を聞いてもいいかな?』

結局僕は、そのままメリカさんたちと教団に抗戦することを決めた。
本当は、直前まで魔法を消してしまう方に傾いていた。でも……

『アミリちゃんと、約束したんですよ。僕のこと、アミリちゃんたちに……ここに、任せるって。助けてもらうって。約束は、守らないといけませんからね。それに、有名なピアニストになったのも、悲劇を起こしたのも、全部、僕です。そこは、変えちゃいけない気がするんです。だから、折角ですけど、遠慮させていただきます』
『ハーラデス殿……』
『そっか。なるほど……うん、いいね。合格だよ、ノザーワさん』
『えっ?』
『どういう意味じゃ?』

鶴城さんが言うのは、どうやら彼は、今回の戦いで自分たちが力を貸すかどうかを見極めていたらしい。
魔法を消す、という話も嘘ではなかったが、消すと魔法と一緒に魔法に関わっていた者のその魔法に関わる記憶が全部抜け落ちる……つまり、僕の場合はすべての記憶がなくなるという大変恐ろしいことになっていたらしい。
本人曰く安易な逃げに走る奴だったら別に助ける必要もない、とのことだけど、それを知ったメリカさんはカンカンに怒ってしまって、今も鶴城さんにお説教をしている。
さて、とりあえずは暇になったなぁ……
アミリちゃん、そろそろ帰ってくるころだろうか?
そう思った時だった。

『メリカおねぇちゃんっ!』

タイミングよくアミリちゃんの声が玄関の方から聞こえた。さらに、ドタドタと走る音もする。
ただいまも言わなかったし、なにかあったのかな?……大方、また犬に追いかけられて逃げて来たんだろうねぇ……
そう結論づけて、僕はそのままアミリちゃんのことを放っておくことにした。
それにしても……

「ピアニストになったのも、悲劇を起こしたのも、全部僕、か……」

よく自分でいう気になったものだ。今まで、ずっと逃げてきたのに。
自分じゃないって思っていたかったから、教団に捕まらないように逃げていたのに。

「……うん、悲劇を起こしたのは、僕だ」

だから、僕は過去と向き合うべきなんだ。自分のためにも、メリカさんやアミリちゃん、トートサバトの皆さんのためにも。
そうしたら、メリカさんたちに協力してもらわないとな。
まず僕のすべきことは、今まで演奏してこなかったブランクを取り戻すことだ。

「……よし、頑張ろう」

ベットから起き上がり、僕は顔を叩いて気合を入れてから、メリカさんのいるであろう執務室へ向かった。

「あれ?ハーラデスさん、どこかにお出かけですか?」
「いえ、メリカさんに頼みごとがありまして」
「そうですか。お出かけの時は言ってくださいね。護衛としてお供しますから!」
「ははは……ありがとうございます」

執務室に向かう途中、こんな感じに何人かの魔女の子たちに声を掛けられた。
まぁ、過保護な気もしなくはないけど、仕事熱心だなぁ……と思いながら、僕はそのままメリカさんのところへ行く。
……後々に知ったことだけど、その時声をかけてくれた魔女の大半が独身の子であったらしい。
メリカさんにそのことを話したら、まぁ、ハーラデスだからの。緊急時ほどポイント稼ぎができるものじゃし、アプローチをかけられてもおかしくはないな。と頷かれたあと、ちなみにわしも独り身なんじゃが……といろいろと雲行きの怪しい話になったんだけど、それはいつかの未来の話なので、今の僕が知る由はなかった。
そんなこんなで、何人かの魔女の子たちに話しかけられながらも、僕は執務室の前に到着する。
いつもの通りなら、たぶん私室にいるだろうから意味ないだろうけども、僕はノックしようとする。
が、ノックした手は部屋の誰かがドアを開けたことにより、空を切ることになった。
ドアが開いた時、僕の視界には誰も映らなかったけど、数日ここで過ごしてもうそれには慣れてしまったので、そのまま僕は下の方を見ると、そこにはメリカさんがいた。

「あ、メリカさん、ちょっと頼みたいことがあるんですけど……」
「おお、ハーラデス殿か。ちょうど良かった、こちらもお主に用があるんじゃよ」

今度はなんだろうか?と思いながら、メリカさんに促されてメリカさんの私室に入る。
メリカさんの私室には、僕が部屋に戻ってからもずっと説教されていたのか、床に正座させられている鶴城さんに……なぜか、同様に正座しているアミリちゃんがいた。
なぜだろうか、鶴城さんだけならば可哀想だな、としか思わなかったのだが、二人一緒にならんで正座しているところを見ると、同情どころか憐れみを覚えてしまう。
そして不意に二人がなにか荷馬車のような物に乗せられて連れていかれる様を幻視したあと、どなどなどーなーどーなどなーと、よくわからないフレーズを口ずさみたくなったけど、そこはぐっと堪えておくことにした。

「あの、メリカさん、鶴城さんはともかく、なんでアミリちゃんまで正座を?また買い物失敗したんですか?」
「いや、それだけだったらいつものことじゃから正座なんぞさせんよ」
「むぅ〜、いつものことって、アミィそんなに買い物失敗してないよ!」
「成功確率がだいたい5割、というのはお主の年では低すぎると思うぞ。せめて9割にしてから言え。……まぁ、それでだ。アミリのやつ、思考が緩んでいるのか、よりにもよって教団側の人間と接触しおりよったんじゃよ……」
「え……?」

教団側って、もしかしてもうこの街に……?
そう警戒すると、メリカさんは、あいや、大丈夫じゃ。教団側と言っても、お主のよく知っておる者じゃからの。と注釈してきた。
僕の知っている、と言うと……

「エルですか?」
「ああ、そうじゃ。話ではエル殿は敵対意思の薄い者と聞いておるし、アミリの受けた術式も害のないものじゃったが、敵対者になにかしらの術式を受けた、というのは流石にの。ということでお説教をしていたのじゃ……まぁ、もう一応は終わったがの」
「でも、アミィがエルおねぇさんに会ったおかげで、なんかの情報が入ったんだよ〜」

メリカさんの説明が終わった直後に、アミリちゃんがにぱっと笑いながらそう言うと、メリカさんはギラッと睨んで、ふむ、説教の追加が必要かの?と言ってきたので、い、いらないのです……とアミリちゃんは正座して小さくなった体をさらに小さくしたのだった。
というかさっきメリカさん、アミリちゃんが術式を受けたとか言ってたな……

「いったい、どんな術式を受けたんですか、アミリちゃんは」
「む、ああ、アミリが受けたのは伝令通達の術式じゃ。しかも、かなり秘匿レベルの高いものじゃ。パスコードを入力し、さらに本人確認をせんと中身がわからんようになっとる。中に情報が入っておるのはわかるんじゃが、パスコードはわからんし、宛も一応わし宛ではないから見てないんじゃよ」
「それで、僕を呼ぼうとしていたんですね」
「ああ、もう気づいてるだろうが、宛先はお主なんじゃよ……まぁ、ついでにわしらトートサバト宛にもなってるがの。で、なんじゃが、なにかパスコードとなるようなものを知らないかの?」
「パスコードになるもの、ですか……ふむ」

僕宛、ってことだから、なにかしら僕に関係するものなんだろうけど……
せめてヒントのようなものが欲しいな……

「すみませんけど、アミリちゃんの打たれた術式の中に、ヒントみたいなものはなかったですか?」
「ふむ、ヒントのようなもの、か……ちょっと待っておれ。アミリ、首裏見せい」
「は〜い」

メリカさんに聞くと、彼女はおそらく術式が打たれたのだろうアミリちゃんの首を調べ始めた。
アミリちゃんの首裏から、淡い紫色の光が漏れる。
……懐かしいな。昔、彼女の魔法……ここでは魔術、だったっけな……を見せてもらった時にも同じような光を発したっけ。なんとなく、やっぱり彼女の魔術なんだな、と少し安心を覚える。

「おお、あったぞ。そういえば、こんな文が挟まれておったよな……意味はわからんかったからスルーしていたが、これがパスコードのヒントじゃったのか……ともかく、読むぞ。“ハー君へ。あの時話していた曲は、もう完成したのかな?”……だ、そうだ」
「あの時話していた曲、ですか……」
「心当たりはあるかの?」

……心当たりがある、なんてもんじゃない。
あの曲は、僕の起こした悲劇を除けば、最も強い思い出の一つだ。
母が病気で亡くならなければ、おそらくは今まで母の作曲した曲を弾いてきた僕の、最初に作った曲となっていたあの曲。
悲劇がなければ、そのあとすぐに作曲を再開したであろうあの曲。
最も希望に満ち、自分の知り及ばなかったものへの憧れを込め、そして僕のできうる限りの技巧表現を使う、あの曲。
エルに教えたその曲の名前を、僕はメリカさんに伝え、そしてパスコードとして入力してもらう。
と、淡い紫色の光を放っていた術式が、より一層輝き、そして、魔力の文章となってアミリちゃんの体を離れ、空中に浮かんだ。

「ふむ、どうやらあっていたようじゃの」
「みたい、ですね」

さて、紙に魔力を移さねばな……と、メリカさんは自分の机のもとへ行き、ガサゴソを漁り始める。
……エル、覚えててくれたんだ……
僕は、少し嬉しく思った。でも、残念ながらあの曲は完成していない。完成させるための時間も、心の余裕も、今までの僕にはなかった。
でも……

「よし、じゃあ紙に移すぞ」

魔力で作った文字を写し取るという特殊な紙……羊皮紙かな?……を持って、メリカさんは宙に浮かんでる文章を写し取り始めた。

「それにしても、すごい術式ですね。魔力によって文章を作成するから、伝令一人いれば他のものは必要ないし、見る場所も選ばない。しかも、秘匿レベルも高く、なにより物じゃないから見つかりずらい、と……」
「いったい、誰が作ったんじゃろうな……わしがわかるのは、この術式を作った者は、天才だということじゃな。利便性に隠匿性、さらに術の扱いやすさ、どれを取っても完璧じゃ。正直こんなもの、わしでも思いつかんわ……」
「……たしか、ここを襲撃した人はメシュエル・ラメステラという人でしたよね?“黄泉の神殿”の」
「はい、そうですけど……」
「たしか、“黄泉の神殿”は教団が一時期行っていた聖女計画の出身だったはず……」
「聖女計画?」
「ああ、聖女計画っていうのは、まぁ神の祝福を受けている聖女になりうる人材……つまり、生まれた時から魔力の高い女の子を引き取り戦闘訓練を積ませて、聖女を大量生産しようって計画です。まぁ、結局強さやコストが割に合わず、裏でやってた人造勇者計画の方が効率がいい、という理由でもう二年ほど前に解体されてしまいましたけどね。そして噂だと、その聖女計画の被検体だった彼女たちの元部隊の統率者、その人がかなり優秀な魔術師だったらしく、彼女たちはその人から教わった魔術を使用して活躍しているらしいですよ。憶測でしかないですが、この術式はその統率者が作ったのではないでしょうか?」
「なるほどの。いやまったく、人の発想、それを実現させる技術力には感嘆させられるのぉ。っと、移し終わったぞ」

ほれ、お主宛なんじゃから、お主が先に読め、とメリカさんは手紙を僕に渡す。
まぁ、たしかに一応メインは僕らしいし、とりあえず先に読ませてもらおう。

親愛なるハー君へ。
お元気ですか?襲撃した後に体調を崩しちゃってたら大変だなぁって思ってるんだけど、まぁ、大丈夫だよね?
今回は、緊急の連絡があるから、無理やりにでもこのメッセージを届けたよ。
このメッセージを書いた日から約5日後、私を含める教団側が君を捕まえるって建前の下、アリュートを制圧するための戦力がそろい、そして攻め入るわ。それまでに、ここを出るか、トートサバトの人たちに伝えてちょうだい。あと、一応メッセージにもいれたけど、迷惑をかけてしまったトートサバトの人たちに、謝罪したいって言うことを伝えておいて欲しいわ。

……そして、それからはメリカさんたちに宛てての謝罪と、これから襲ってくる教団側の戦力の概要、及びその待機先が書いてあったので、そこで僕は読むのをやめて、メリカさんに手紙を渡した。

「さて、なにが書いてあるのやら……」
「エルには感謝してもしこれないですね。まさか、こんな情報を届けてくれるなんて……」
「ふむ……」
「いったい、なにが書かれていたんですか?」
「教団側の人たちが攻めてくる日程とか、戦力とか、待機場所とか、ともかくエルが現時点でわかる限りのすべて、だそうですよ」
「……それはすごい。よくもまぁそんな大切な情報を流せたものですね。もしかしたら、ダミーの可能性も……」
「ないですよ。それだけは、友人である僕の名にかけて、保証します」
「……ふむ、そうですか……」
「……うむ、たしかにこれはありえないほどに好都合な情報じゃな。罠だと疑うのも無理はない。正直、わしも少し疑ってしまうよ。しかし、この術式の秘匿レベルを考えると、たぶん大丈夫じゃろうな。これは、教団側の幹部であろうと覗くことのできないものじゃからの。まぁだからといって、これが偽りである可能性は0ではないが……しかし、信じてみる価値はある。よし、これを踏まえて今より……ふむ、ちょうど今日書かれたものだから、5日後じゃな。それに向けて対策なんかを練るとしよう」
「今から会議をするのなら、僕も他のメンバーを召集しますよ」
「うむ、そうじゃの。では、早速話し合いをするか。そしたら、アミリ、いつもの会議メンバーを集めてきてくれ」
「は〜い」

話はどんどん進んで行き、メリカさんはアミリちゃんに言って他の人たち……幹部みたいな人たちかな?……を集めさせにいかせた。
鶴城さんも、部屋を出て、彼の仲間を呼びにいった……らしい。
というか、結局鶴城さんってなにをやってる人なんだろうか?……傭兵とか冒険者とか、そこらへんかな?
まぁ、それはともかく、今は部屋にいるのは僕とメリカさんの二人だけ。
部屋に入ってからずっと言い出せなくてお流れになってたけど、ようやく僕の本題を切り出せる。

「さて、そしたらあとはあの水槽領主でも……」
「あの、メリカさん、少し……相談をしてもいいでしょうか?」
「む、なんじゃ?」
「その、ですね、できればでいいんですけど、完全防音で部屋の外に音が出ていかなくて、かつ部屋の中からでしか施錠できないような、ピアノを弾ける部屋を一つ、用意して欲しいんですけど……」
「……お主、まさか……!?」
「ええ、少し、自分の過去と、向き合ってみようかと、思いまして……」
「……そ、そうか。そしたら、部屋を一つ注文通りに調整させよう。そしたら、まずはアミリと合流せんとな……会議の前に調整をすまさねば、時間が取れなくなってしまうからの」
「すみません、突然こんなことを頼んでしまって……」
「なぁに、またハーラデス殿の演奏を聞けるのならば、この程度、お安い御用じゃよ。……ああ、そうそう、ハーラデス殿、お主、手紙は全部読んだかの?」
「あ、いえまだです。メリカさんたちへの内容に変わってから先はそんなに読んでません」
「そうか、そしたら、全部読んでみるといい。なかなか面白いものが読めると思うぞ」
「はぁ……?そうですか」
「さて、それではわしはもういくぞ。ハーラデス殿は部屋で待機して置いてくれ。用意が終わったら呼びにいかせる」
「あ、はいわかりました」

そう言って、メリカさんは手紙を僕に渡し、部屋を後にした。
……とりあえず、僕は言われた通りに部屋に戻るとしますか……
……それにしても、いったいどういう意味なんだろう、なかなか面白いものが読めるって……
気になったので、歩きながら少しずつ手紙を読み進めていく。
とりあえずは、ほとんどの内容が教団側の情報だ……
いったい、なにが面白いんだ……
と、思っている内に、手紙の最後まで読み進めていた。
手紙には、こう書いてある。

追伸・もし今回の戦いに勝っても、私がハーくんに相応しい場所だと認められなかったら、何度でもハーくんのことを連れ去るつもりだからよろしくね♪

……うーん、なんていうか……
過保護な親って、こんな感じなんだろうか?まぁ、昔っからエルは僕に対していろいろと世話焼きだったからなぁ……仕方ないといえば、仕方ない、か。
のんきにそう思いながら、僕は手紙を畳んでポケットにしまうのだった。


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「ん〜、緊急召集なんて、いつぶりですかね〜……10年ぶり?」
「じゃな。今回もお主のところから人員募集、頼んだぞ」
「はいはい。ここの領主としてもその事態は見逃せないし、ギルドマスターとしてもお金が入って美味しいし、お任せですよ〜」

ハーラデス殿と別れたあと、わしはこの街の領主であり、同時にギルドマスターでもあるシービショップ、イーリスを呼び、会議室に向かった。
もしかしたら、海の魔物のパートナーさんも増えるかもですしねーと、イーリスは尻尾をバタバタさせて水面を揺らした。
……先ほどの表現は間違いではない。イーリスは人化の魔術は使用せず、魔力で動かすタイプの滑車を搭載した水槽に乗って移動しているのだ。
普段からそんな移動方法をしているため、水槽領主と呼ばれている。ちなみに彼女は旦那持ちである。
それはともかく、わしとイーリスは会議室に到着し、中に入った。
中にはすでに召集した全員が到着して、各自席に座っていた。

「……さて、それでは対教団の会議でも、始めるとするかの」


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「……いや、防音の部屋をって言ったんだけどさ……」

準備ができた、とメリカさんに使いとして出された魔女さんに連れてこられた部屋は、なんと、コンサートホールだった。
話では、ここは元から完全防音の魔術をかけてあって、手間が省けるから、らしい……
時間がないし、仕方ないといえば仕方ないけど、うん、部屋の選択が……まぁ、過去と対峙する、という点に関してはいい場所だし、なにも言わないことにしよう……

「さて、と、触る……のは最近あったけど、演奏するのはすごい久しぶりだよね……二年ぶり、か……」

椅子に座りながら、僕はピアノを開けて鍵盤を撫でる。
目標は、あの曲の完成。でも、今やったところで、昔みたいに上手くできるなんてことはないだろう。なら、まずは昔のカンを取り戻すことからだ。上手く弾けるといいけど……そこは、努力しかないか。
思った通りに動いてくれよ、僕の指……!!
そっと指を鍵盤の上に降ろしながら、僕はまたピアノを演奏できるという現実に、どうしようもないほどの興奮を感じた。


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「……さて、とりあえずここらへんで一旦解散としよう。あと5日間しかないとはいえ、まだ時間はあると言える。各自、それぞれ話し合ってから、また明日再び集まるとしよう。時間は……」

会議が一段落し、わしは皆を解散させてから、ふぅ、とため息をつきながら椅子の背もたれに寄りかかった。

「お疲れさまです、メリカさん」
「ああ、そちらもお疲れさまじゃ、竜司殿。そちらは話し合いはいいので?」
「いえ、とりあえず、夕食の後にでも、と思ってます」
「そうか」
「メリカおねぇちゃん、お茶だよ〜。あ、りゅーじおにぃさん!おにぃさんもどうぞー」

誰かに頼まれたのか、次々と人が出て行く中に、アミリが部屋に入ってきて、わしのテーブルにお茶を置いてくれた。

「ああ、ありがとね、アミリちゃん」
「ありがとな、アミリ」
「はいですー」

あとは……あ、おにぃさんたちにもどうぞー、と今度は部屋に残った竜司殿のお仲間にも配りにいった。
そしてこの部屋にいる全員にお茶を配り終わったあと、ハーラデス殿を探しにいくかと思ったのじゃが、予想は外れ、わしのところに来た。

「む、どうしたのじゃアミリ?」
「あのね、おねぇちゃんに、お願いがあるんだけど……」
「なんじゃ?」
「あの、えと……」

昔、おねだりをする時にしたような仕草をしながら、アミリは予想しなかった、しかし、少しだけこいつが成長したような、そんな台詞を言った。

「アミリを……強くして欲しいのです!エルおねぇちゃんに勝てるように!」
「…………ふむ、メッセージを打ち込まれた時、なにかあったようじゃな」
「あのね……」

とりあえず、アミリから聞いた話を要約してみると、喧嘩を吹っかけられて負けたらハーラデス殿が連れ去られてしまうから強くなりたい、らしい。
なるほど、の。ハーラデス殿はアミリの一番のお気に入り。そんなことを頼むはずじゃ。
わしとしても、ハーラデス殿にはここにいてもらいたいし、あわよくば誰かと契って専属の……
ともかく、だ。

「わかった。どうせ向こうがくる日まで警戒と準備しかできんしの。わしのできる限りを教えよう」
「ほんとに!?」
「ただし、かなり厳しいから、覚悟はするんじゃぞ?なんせ、たった5日以内で教団の主戦力に対抗できるレベルまで強くするんじゃからの……」
「は、はいなのです……」
「面白そうな話ですね。僕たちも一つ噛みましょうか?」
「む?お主ら、“スート”が、か?是非願いたいものじゃ。なんせ時間が足りないからの」
「ええ、では時間のあうやつを回しますよ。今回は……まぁ、僕が行きましょう」
「では、暴れられる部屋を準備して、すぐに始めようではないか」

わしの知る中で最も強い冒険者集団であるスートの協力も得られるし、もしかしたらもしかするかもしれんの!
そう思いながら、わしはそれと同時にわしらの大切な妹の成長に喜びながら、アミリの修行の準備をしにゆくのじゃった。
12/08/21 22:47更新 / 星村 空理
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■作者メッセージ
いかがだったでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
今回は、ハーラデス君の決断、そしてノザーワ君とアミリちゃん、それぞれの努力の方向の話になりました。
ハーラデス君は、ある曲の完成を目指して、アミリちゃんは妥当メシュエル・ラメステラを目指して……それぞれ努力をしていきます。
え?修行パート……?
ある人は言ってたんだ……修行パートなんて、普通は人気が出るわけないんだって……
要約すると、面白い修行パートなんて僕には書けないんでカットします、という意味です。
代わりに、次回はハーラデス君とアミリちゃんのデート(みたいな)回を予定しています。
楽しみにしていただけたた嬉しいです。
さて、では今回はここで。
感想をくださると嬉しいです。
星村でした。

……ハーラデス君やアミリちゃんはメシュエルをエルって読んでるけど、僕はあえてめーたんという呼び方を推奨したい(キリッ
あと、タイトルのネーミングセンス欲しい……

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