第十楽句〜それぞれの示す選択肢〜
メリカさんに呼び出され共に応接室に入ると、そこには一人の男性が座っていた。
肩まで真っ直ぐに伸ばした白髪に、黒色の瞳。顔立ちは女性的なところと男性的なところ、両方が合わさった中性的なものであった。細身な体型もあってか、服装が男性のそれでなければ女性だとに間違ってしまいそうだ。
「竜司殿、連れてきたぞ」
「ありがとうございます。はじめまして、鶴城 竜司(つるぎ・りゅうじ)です」
「は、はじめまして、ノザーワ・ハーラデスです。よろしくお願いします」
「ハーラデス殿、立って話すのも疲れるじゃろうから、座ってくれ」
「あ、はい。失礼します」
メリカさんに促され、僕は鶴城さんと対面するように座った。
……そういえば、鶴城というとなにか聞いたような気が……
いや、それはまた後でだな。今聞くべきことは……
「あの、僕はなんで呼ばれたんでしょうか?」
「そうだね、とりあえず一つは、魔法使いの様子見ってところかな?」
「魔法使い?」
「ハーラデス殿、お主のことじゃ」
「あ、そうなんですか……」
一瞬、魔法使い?と疑問符を浮かべたのだが、メリカさんに言われて、魔法が使える人が魔法使いなら、まぁそうかと微妙な感じではあるがそう解釈して納得することにした。
でも、なんでわざわざそんなことをするんだろうか?もしかして、なにか魔法に関係しているのかな?と思って聞こうとしたのだが、まだ鶴城さんの話は終わってなかった。まだ、理由を全部言ってないのだ。
「まぁ見る限りそこまで追い詰められてはないだろうけど、もう一つの理由。本題なんだけど、僕はね、選択肢を示しにきたんだ」
「選択肢、ですか?」
「うん。まずは今君が取ってる道。メリカさんたちと協力して教団と戦い、自由を勝ち取ること」
「お主らの助力を得られれば、この選択で万事解決できるの。特に、お主はあのライカ殿の息子なのじゃからな」
「ちゃかさないでください。万事解決なんてできませんよ。僕も父さんも人の子なんですから……」
ちゃかさないでくださいよ。そう言った鶴城さんを見ながら、そういえば、鶴城ってライカさんの名前であったな、と思いだした。なるほど、鶴城さんはライカさんの息子さんなのか……
というか、メリカさん、さっきお主ら、と言ったような……
まぁとりあえずそれはともかくとして、話は本題に戻った。
「もう一つは、君一人だけ逃げて、とりあえずは今までと同じことを繰り返すこと」
「その方法だけは絶対に取りません」
「じゃな。まずここでハーラデス殿が逃げたところで、今までと同じ、というわけにはいかんからの。あちら側はもうハーラデス殿を餌にせず、始末するつもりであるとライカ殿から聞いておる」
「ま、だろうね。そしたら、残り一つ。魔法を消してしまうという選択肢を示すよ」
「え……?」
「どういう意味じゃ?」
鶴城さんの言葉に、僕たちは疑問符を浮かべた。
ちょっと待って。この人今、魔法を消す、って言ったよね……?
「どういう意味って、言ったそのまま、ノザーワさんの魔法を消す、という道を示してるんですよ」
「それって、どうやって……」
「待て、魔法は消えない、いつまでも残るものじゃろうが」
「なにごとにも、例外はあるよ。たしかに、魔法は普通は消えない。どうあがいたってつきまとうものだし、使わなくても代償は払われてしまう。でもね、魔法を魔法で消してしまうことはできる」
まぁ、それこそ一部の魔法だけが魔法を消せるんだけどね。
それを聞いて僕は、少しだけ揺れてしまった。
もしかしたら、鶴城さんは……
希望を持つと、表情に変化に気がついたのか、さらに鶴城さんは説明を続ける。
「結論を言うと、僕の魔法なら君の魔法を消せる。ただし、だ。魔法がなくなると、もしかしたら、過去が改変されて、君が今……いや、もう今じゃないか。昔持っていた、世界的に有名なピアニストという立場はなくなるかもしれない。それでもいいのかい?」
……やっぱり、この人も魔法使いなんだ……
……有名にならないかもしれない……それは、別に構わない。有名にならなかったとしても、僕がピアノを好きであることは変わらない。名声なんて、求めてない。だから、それは問題なんかではない。
鶴城さんは言った。自分なら僕の魔法を消してくれると。
魔法さえ消えれば、僕はもう、悲劇を起こさないで済む。
それならば……
「僕は…………」
××××××××××××××××××××××××××××××
時刻はお昼時。
先ほどタイミング良くメリカサバトの構成員の一人である可愛らしい魔女、アミリちゃんを捕らえた私は、とりあえずお昼を食べていなかったため、喫茶店で昼食をとることにした。
ただし……
「えと、エルおねぇさん、できれば離して欲しいのです……」
「えー?嫌よ、折角捕まえたんだから」
……捕らえたアミリちゃんを自分の膝の上に乗せながら、である。
まぁ、捕らえたと言っても、犬を怖がって逃げてきたアミリちゃんを助けたあと、昼食に誘っただけなんだけどね。
ほぼ強引に膝の上に乗せられたからか、アミリちゃんは不機嫌そうな顔をして抗議をする。が、可愛いもの好きな私はそれを却下してアミリちゃんの腰のあたりにギュッと手を回して抱きしめた。
やっぱり可愛いなぁ……
「お待たせしました、ミックスサンドイッチ二つとオレンジジュース二つです」
「あ、ありがとうございます」
「てやっ!」
「あっ、アミリちゃん」
昼食に視線を向けたその隙をついて、アミリちゃんは私の膝の上から逃れて向かい側の席に逃げてしまった。
うーん、もうちょっと膝の上においておきたかっただけどなぁ……まぁいっか、向かい側の席に逃げただけだし。
それしても、この子、逃げないのね。
なんていうか、警戒心が薄いというか、まだまだ子供というか……まぁいいわ。逃げないのは都合がいいし。
とりあえず、私はアミリちゃんと一緒に昼食を食べてしまうことにした。
「ところで、アミリちゃんはなにをしてたの?」
「えと、アミィはメリカおねぇちゃんに頼まれておつかいをしているのです!」
「そうなんだぁ、えらいね〜」
「本当はハーおにぃちゃんと行きたかったですけど、ハーおにぃちゃんは外に出るのは危ないから一緒にいけなかったのです……」
「あー、それは……ごめん」
しゅんとしたアミリちゃんを見て、原因であるだろう私は苦笑いをしながら謝った。
まぁでも、そこが気にしちゃいけないか。とりあえず今は本題を済ませるとしちゃおう。
「ねぇねぇアミリちゃん、ちょっと内緒話をしたいから、こっちに来てくれない?」
「?なんですか?」
私がお願いすると、案の定、アミリちゃんはなんの疑いもなく私の隣にやってきた。
ほんとこの子将来が心配だわ……いや何年経ってもこの姿なんだろうけど。
相手が私で、害意がないから今はいいとして、私が本当に敵意のあるやつだったら危ないわよ……
そう思いながら、私はよってきたアミとちゃんの首筋に指を当てて……
「ちょっと痛いけど我慢してね〜」
「ふにゃうっ!?」
魔術をかけてちょっとした仕掛けを施すと、アミリちゃんは飛び上がって自分の席に走り逃げてしまった。
「おおおおねぇさんなにをするんですか!!」
「んー、ちょっとした悪戯かな?」
「やめてくださいですっ!」
「ごめんなさいね。プリンも注文してあげるから許して、ね?」
「む、むぅ……しょうがないのです」
……こう言うと失礼だろうけど、なんていうか……ちょろいな。
この子、他にいろいろと騙されていないか心配だわ……って、騙してる私が言っても変か。
ま、うった術式は害のあるものじゃないし、むしろ彼女たちにとっては益になるものだからそれを免罪符としよう。
さて、無事すませたいことはすませたわけだけど……
急いでその場を離れた方がいいのだけれど、私はアミリちゃんのことをジッと観察する。
「……?おねぇさん、どうかしたのですか?」
「え?あ、いや、なんていうか……」
こんな見た目小さな子供に大人げないよなぁ、と思いつつも、私はアミリちゃんに一つ質問をする。
「アミリちゃんは、ハー君のこと、好きなのかな?」
「はいっ!アミィはハーおにぃちゃんが大好きなのです!」
聞いてすぐに、真っ直ぐな答えが帰ってきた。
なるほど、自分に正直な子だ。羨ましいな。
「エルおねぇさんはどうですか?」
「私?私も好きだよ」
たぶん、アミリちゃんと違う意味だけどね。
そう心の中で付け足しながら、私は話を続ける。
「そしたらさアミリちゃん、私と、ハー君を賭けて勝負しない?」
「うみゅ?どういうことですか?」
「ハー君が、ここに残れるかどうか、勝負しようよ、昨日みたいにさ」
「ここに、残れる……?」
「私が勝ったら、ハー君は私がもらって、ここから出ていくわ」
「ダメなのですっ!」
意味が理解できなかったアミリちゃんだけど、私の最後の言葉にはすぐに反応した。よほど、ハー君に懐いているらしい。
「ハーおにぃちゃんは、ピアノが弾けるようになるまで、アミィたちのところにいてもらうんです!勝手に連れてっちゃダメなのです!」
「そっかぁ……でもね、私も引けないのよねぇ、立場的にも、私個人としても」
だから、ね。と、私は、すでに賭けとかは関係なく、アミリちゃんに個人的に一番言いたかった言葉を伝える。
「ハー君をここに繋ぎ止めておきたかったら、強くなりなさい。強くなって、私を倒しなさい」
じゃないと、本当にハー君のこと、奪っちゃうわよ?
そう言って、私はサンドイッチの最後の一片を口に放り込んで、席を立ち上がった。
「じゃあねアミリちゃん。次会う時は、たぶん、敵同士だから」
そう言い残して、私はその場をあとにするのだった。
……もちろん、会計を済ませるのを忘れないで。
肩まで真っ直ぐに伸ばした白髪に、黒色の瞳。顔立ちは女性的なところと男性的なところ、両方が合わさった中性的なものであった。細身な体型もあってか、服装が男性のそれでなければ女性だとに間違ってしまいそうだ。
「竜司殿、連れてきたぞ」
「ありがとうございます。はじめまして、鶴城 竜司(つるぎ・りゅうじ)です」
「は、はじめまして、ノザーワ・ハーラデスです。よろしくお願いします」
「ハーラデス殿、立って話すのも疲れるじゃろうから、座ってくれ」
「あ、はい。失礼します」
メリカさんに促され、僕は鶴城さんと対面するように座った。
……そういえば、鶴城というとなにか聞いたような気が……
いや、それはまた後でだな。今聞くべきことは……
「あの、僕はなんで呼ばれたんでしょうか?」
「そうだね、とりあえず一つは、魔法使いの様子見ってところかな?」
「魔法使い?」
「ハーラデス殿、お主のことじゃ」
「あ、そうなんですか……」
一瞬、魔法使い?と疑問符を浮かべたのだが、メリカさんに言われて、魔法が使える人が魔法使いなら、まぁそうかと微妙な感じではあるがそう解釈して納得することにした。
でも、なんでわざわざそんなことをするんだろうか?もしかして、なにか魔法に関係しているのかな?と思って聞こうとしたのだが、まだ鶴城さんの話は終わってなかった。まだ、理由を全部言ってないのだ。
「まぁ見る限りそこまで追い詰められてはないだろうけど、もう一つの理由。本題なんだけど、僕はね、選択肢を示しにきたんだ」
「選択肢、ですか?」
「うん。まずは今君が取ってる道。メリカさんたちと協力して教団と戦い、自由を勝ち取ること」
「お主らの助力を得られれば、この選択で万事解決できるの。特に、お主はあのライカ殿の息子なのじゃからな」
「ちゃかさないでください。万事解決なんてできませんよ。僕も父さんも人の子なんですから……」
ちゃかさないでくださいよ。そう言った鶴城さんを見ながら、そういえば、鶴城ってライカさんの名前であったな、と思いだした。なるほど、鶴城さんはライカさんの息子さんなのか……
というか、メリカさん、さっきお主ら、と言ったような……
まぁとりあえずそれはともかくとして、話は本題に戻った。
「もう一つは、君一人だけ逃げて、とりあえずは今までと同じことを繰り返すこと」
「その方法だけは絶対に取りません」
「じゃな。まずここでハーラデス殿が逃げたところで、今までと同じ、というわけにはいかんからの。あちら側はもうハーラデス殿を餌にせず、始末するつもりであるとライカ殿から聞いておる」
「ま、だろうね。そしたら、残り一つ。魔法を消してしまうという選択肢を示すよ」
「え……?」
「どういう意味じゃ?」
鶴城さんの言葉に、僕たちは疑問符を浮かべた。
ちょっと待って。この人今、魔法を消す、って言ったよね……?
「どういう意味って、言ったそのまま、ノザーワさんの魔法を消す、という道を示してるんですよ」
「それって、どうやって……」
「待て、魔法は消えない、いつまでも残るものじゃろうが」
「なにごとにも、例外はあるよ。たしかに、魔法は普通は消えない。どうあがいたってつきまとうものだし、使わなくても代償は払われてしまう。でもね、魔法を魔法で消してしまうことはできる」
まぁ、それこそ一部の魔法だけが魔法を消せるんだけどね。
それを聞いて僕は、少しだけ揺れてしまった。
もしかしたら、鶴城さんは……
希望を持つと、表情に変化に気がついたのか、さらに鶴城さんは説明を続ける。
「結論を言うと、僕の魔法なら君の魔法を消せる。ただし、だ。魔法がなくなると、もしかしたら、過去が改変されて、君が今……いや、もう今じゃないか。昔持っていた、世界的に有名なピアニストという立場はなくなるかもしれない。それでもいいのかい?」
……やっぱり、この人も魔法使いなんだ……
……有名にならないかもしれない……それは、別に構わない。有名にならなかったとしても、僕がピアノを好きであることは変わらない。名声なんて、求めてない。だから、それは問題なんかではない。
鶴城さんは言った。自分なら僕の魔法を消してくれると。
魔法さえ消えれば、僕はもう、悲劇を起こさないで済む。
それならば……
「僕は…………」
××××××××××××××××××××××××××××××
時刻はお昼時。
先ほどタイミング良くメリカサバトの構成員の一人である可愛らしい魔女、アミリちゃんを捕らえた私は、とりあえずお昼を食べていなかったため、喫茶店で昼食をとることにした。
ただし……
「えと、エルおねぇさん、できれば離して欲しいのです……」
「えー?嫌よ、折角捕まえたんだから」
……捕らえたアミリちゃんを自分の膝の上に乗せながら、である。
まぁ、捕らえたと言っても、犬を怖がって逃げてきたアミリちゃんを助けたあと、昼食に誘っただけなんだけどね。
ほぼ強引に膝の上に乗せられたからか、アミリちゃんは不機嫌そうな顔をして抗議をする。が、可愛いもの好きな私はそれを却下してアミリちゃんの腰のあたりにギュッと手を回して抱きしめた。
やっぱり可愛いなぁ……
「お待たせしました、ミックスサンドイッチ二つとオレンジジュース二つです」
「あ、ありがとうございます」
「てやっ!」
「あっ、アミリちゃん」
昼食に視線を向けたその隙をついて、アミリちゃんは私の膝の上から逃れて向かい側の席に逃げてしまった。
うーん、もうちょっと膝の上においておきたかっただけどなぁ……まぁいっか、向かい側の席に逃げただけだし。
それしても、この子、逃げないのね。
なんていうか、警戒心が薄いというか、まだまだ子供というか……まぁいいわ。逃げないのは都合がいいし。
とりあえず、私はアミリちゃんと一緒に昼食を食べてしまうことにした。
「ところで、アミリちゃんはなにをしてたの?」
「えと、アミィはメリカおねぇちゃんに頼まれておつかいをしているのです!」
「そうなんだぁ、えらいね〜」
「本当はハーおにぃちゃんと行きたかったですけど、ハーおにぃちゃんは外に出るのは危ないから一緒にいけなかったのです……」
「あー、それは……ごめん」
しゅんとしたアミリちゃんを見て、原因であるだろう私は苦笑いをしながら謝った。
まぁでも、そこが気にしちゃいけないか。とりあえず今は本題を済ませるとしちゃおう。
「ねぇねぇアミリちゃん、ちょっと内緒話をしたいから、こっちに来てくれない?」
「?なんですか?」
私がお願いすると、案の定、アミリちゃんはなんの疑いもなく私の隣にやってきた。
ほんとこの子将来が心配だわ……いや何年経ってもこの姿なんだろうけど。
相手が私で、害意がないから今はいいとして、私が本当に敵意のあるやつだったら危ないわよ……
そう思いながら、私はよってきたアミとちゃんの首筋に指を当てて……
「ちょっと痛いけど我慢してね〜」
「ふにゃうっ!?」
魔術をかけてちょっとした仕掛けを施すと、アミリちゃんは飛び上がって自分の席に走り逃げてしまった。
「おおおおねぇさんなにをするんですか!!」
「んー、ちょっとした悪戯かな?」
「やめてくださいですっ!」
「ごめんなさいね。プリンも注文してあげるから許して、ね?」
「む、むぅ……しょうがないのです」
……こう言うと失礼だろうけど、なんていうか……ちょろいな。
この子、他にいろいろと騙されていないか心配だわ……って、騙してる私が言っても変か。
ま、うった術式は害のあるものじゃないし、むしろ彼女たちにとっては益になるものだからそれを免罪符としよう。
さて、無事すませたいことはすませたわけだけど……
急いでその場を離れた方がいいのだけれど、私はアミリちゃんのことをジッと観察する。
「……?おねぇさん、どうかしたのですか?」
「え?あ、いや、なんていうか……」
こんな見た目小さな子供に大人げないよなぁ、と思いつつも、私はアミリちゃんに一つ質問をする。
「アミリちゃんは、ハー君のこと、好きなのかな?」
「はいっ!アミィはハーおにぃちゃんが大好きなのです!」
聞いてすぐに、真っ直ぐな答えが帰ってきた。
なるほど、自分に正直な子だ。羨ましいな。
「エルおねぇさんはどうですか?」
「私?私も好きだよ」
たぶん、アミリちゃんと違う意味だけどね。
そう心の中で付け足しながら、私は話を続ける。
「そしたらさアミリちゃん、私と、ハー君を賭けて勝負しない?」
「うみゅ?どういうことですか?」
「ハー君が、ここに残れるかどうか、勝負しようよ、昨日みたいにさ」
「ここに、残れる……?」
「私が勝ったら、ハー君は私がもらって、ここから出ていくわ」
「ダメなのですっ!」
意味が理解できなかったアミリちゃんだけど、私の最後の言葉にはすぐに反応した。よほど、ハー君に懐いているらしい。
「ハーおにぃちゃんは、ピアノが弾けるようになるまで、アミィたちのところにいてもらうんです!勝手に連れてっちゃダメなのです!」
「そっかぁ……でもね、私も引けないのよねぇ、立場的にも、私個人としても」
だから、ね。と、私は、すでに賭けとかは関係なく、アミリちゃんに個人的に一番言いたかった言葉を伝える。
「ハー君をここに繋ぎ止めておきたかったら、強くなりなさい。強くなって、私を倒しなさい」
じゃないと、本当にハー君のこと、奪っちゃうわよ?
そう言って、私はサンドイッチの最後の一片を口に放り込んで、席を立ち上がった。
「じゃあねアミリちゃん。次会う時は、たぶん、敵同士だから」
そう言い残して、私はその場をあとにするのだった。
……もちろん、会計を済ませるのを忘れないで。
12/04/19 11:06更新 / 星村 空理
戻る
次へ