「あ、ハーラデスさん、おはようございます！」
「おはよう。……と言っても、もう昼ですけどね。あ、昼食をお願いしてもいいですか？」
「はいっ！」

ダイニングで、僕は給仕担当の魔女の子に頼んで昼食をつくってもらう。
時刻は、1時くらい。
ここにくる前は、ずっと部屋で眠っていた。
昨夜襲われた疲労などで、なにより、休息の時間が必要だったのだ。

「ハーラデスさん、できましたよ〜」
「ありがとうございます。いただきます」

手を合わせてから、僕は昼食を食べる。
そして、咀嚼しながらも、昨日の、メリカさんからの説明を思い出していた。

『襲撃の正確な日時まではわからん。が、ラインやトーラ……ここの周囲の街に3部隊づつほどの教団師団、および教団騎士団が滞在し、出撃準備を行っている。さらに、この街に向かって教団の船が10艘ほどか出発している、というのが、ライカからもたらされた情報だ』
『一つの街……しかも、それほど大きくもないこの街に向かって教団師団や教団騎士団ががそんなに……戦争でも起こす気ですか!?』
『それくらいしないと、ここを落とし、ハーラデス殿を捕まえることは出来ないと踏んでいるのだろうな』
『どうしてですか？』
『前にも一度、ここやラインが教団と戦争をやらかしたことがあるんじゃよ。その時教団は惨敗してな。街一つとはいえ警戒せねば、と考えておるのじゃろう』
『うーん、そしたら、前みたいにライカおにぃさんに力を貸してもらうのは？』
『向こうも向こうで忙しいらしくての。他の人に頼む暇がないとライカ殿の……ラインの助力は得られなかった』
『……ちなみに、ここの戦力はどうなんですか？』
『正直、少ない。このサバトの者と冒険者、あとは一部の魔物くらいじゃ。ラインのように自警団はないから……教団に攻められたら、かなりの痛手を受けるの。……じゃがまぁ、戦力に関しては問題ない。上手くいけば、じゃがの』
『どういうことですか？』
『そこは、ハーラデス殿が気にすることではないよ。ともかく、わしらに任せろ』

と、言われたのだが、やはり、気になるものは気になる。
でもまぁたしかに、僕が気にするべきことは、そのことではなく、別のことかもしれない。

「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした〜」

昼食を食べ終え、食器を返してから、僕はまた自室に戻る。
休息を取ることと、襲撃に備えて、外出は控えるように言われたのだ。
モフッ、とベットの上に乗りながら、僕は、自分が最も気にすべきこと……僕のあの力についての説明を思い出して、整理し始める。

『お主のあの力。あれは、わしら……というより、ここら一帯で言う、魔法というものなんじゃ』
『魔法……って、いやそれが関わっているのは知ってますけど……』
『いや、お主の思い浮かべているものとは全くの別物じゃ。魔法はハーラデス殿の考えている魔法……わしらで言う魔術とは違い、魔力を必要とせず、かつ強力な力なんじゃ。しかもそれは、代償が付きまとう厄介な代物じゃ』
『と、言うことは、あの事件はその代償が原因……ということですか？』
『いや、違う。先ほども言ったが、お主の魔法……ライカが名付けたなら、“トート”。まったく、皮肉っぽいのぉ……まぁ、それは本来、人を殺せるようなものではない。それの能力は、“媒体を通して自分を伝える”というものじゃ』
『媒体を通して自分を伝える……媒体は……ピアノだって簡単に思いつきますが、自分……？いったい、自分ってなんなんですか？』
『そんなに限定はされんよ。ほとんど言葉通りの意味じゃ。自分とはすなわちお主、その知識、記憶、感情……お主の持つものすべてなんじゃよ』

知識、記憶、感情……
僕のあらゆるものを伝える魔法、“トート”。
ある場所では、知識の神様として崇められている名前であるためそう名付けたらしい。
この魔法の特徴は、媒体の多様性と情報量……そして、その代償は、その媒体への依存性、との話だ。
トートという神様も、多様な役割を持つ神様であったらしく、楽器もその神様が作った、という逸話があるらしい。
らしいらしい、と言うのも、話は全部メリカさんから聞いた話で、実際にその話を知ってるわけじゃないからなぁ……
いやいや、今は神様の話を思い出したいわけじゃない。
閑話休題しよう。
“レクイエム事件”。
あの悲劇……そして、あの後に起きた村の悲劇で僕が伝播した情報は用意に想像がつく。
感情だ。
あの時僕は、彼女が叱咤してくれなければ、そのまま死んでいたと断然できるほどの、深く、暗い感情を感じていた。
おそらくはそれのみが、あの時の演奏で伝播したんだろう。
そして、その感情に引っ張られてみんな……
この目に焼き付いている悲劇を思い返すと、よくはわからなかったけど、みんな、バラバラな死に方をしていたと思う。
思い出したくはないけど、確認する意味で思い出す。
……やっぱり、みんな死んでるのは一緒だけど、死に方は……バラバラだ。
嫌なことを思い出して、僕は吐き気を感じ、手で口を抑えて嘔吐感を堪えた。
もう、この話はやめよう。
せっかくメリカさんたちが僕のこの力をなんとかするために頑張ってくれているんだ。
後ろばかり見ずに、前もちゃんと見なければ。
あの力は、簡単に言ってしまえば、僕の心次第でなんとでもなるものだ。
でも、その心次第、という部分が厄介である。
僕は、ピアノを演奏する時、ほとんど何も考えない。
演奏時に湧き出る感情は、すべて無意識的なものなのだ。
だから、頭で考えてどうこうなるものではない。
考えつく解決法は、過去を……母さんの死と、あの二つの悲劇を吹っ切ること。
でも、それが出来てたら、あんな悲劇が起きることなんてない。
……問題は、とても難しいものだった。
まったく、どうすればいいんだろう……
そうつぶやきながらため息をついていると、不意にコンコンッ、とドアをノックする音が聞こえた。

「ハーラデス殿、おるかの？」
「あ、はい。なんですか？」

声を聞いてみると、メリカさんのものだったから、僕は返事をしてドアを開ける。

「こんにちは、メリカさん」
「ああ、こんにちはじゃな。ハーラデス殿、昼食はもうとったかの？」
「ええ、いただきました」
「そうか。なら、合わせたい者がおるんじゃが、いいかの？」
「はい、大丈夫ですよ。どうせ外出できなくて暇ですしね」
「すまんの。一応サバト全体で警戒はしておるんじゃが、やはり心配でな」

そう、トートサバトは、僕のために黒ミサを延期して、警戒体制をとってくれている。
黒ミサは、教団の件が一旦収まってから行うらしい。
別に謝る必要なんてないのに、と思う一方で、僕はメリカさんの周りにいるかな、と予想していたのにいなかった人のことを訊いた。

「わかってますよ。不満もありません……ところで、アミリちゃんはどうしました？一緒に遊んでればいい暇つぶしになると思ったんですけど……」
「ああ、あやつならちょっとしたお使いじゃ」
「……アミリちゃんだけで？」
「そうじゃな。他に頼める者もおらんかったしの」
「……大丈夫なんですか？」
「緊急時だし、大丈夫じゃろう……犬さえ絡まなければ」
「……ものすごく、心配です……」
「言ってやるな……と、言いつつも、わしも不安になってきたの……」

そして、僕とメリカさんは互いに顔を見合ったあと、大丈夫、ですよね。ああ、大丈夫じゃ大丈夫。多分、大丈夫じゃ……と、遠い目をしながら気休めの言葉を交わしていた。


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おつかいなのです！
少しはしゃぎながら、アミィは街のお店を回っています！
メリカおねぇちゃんに頼まれて、アミィは今、いろいろとサバトに足りないものの補給を行っているのです！
ハーおにぃちゃんと一緒に行けないのがさみしいけど、ハーおにぃちゃんは教団の人たちに狙われているからお外に出れないからしかたがないのです……
とりあえず、あと買わなきゃいけないのは……

「わふ」
「ふにゅ？」

突然なんか後ろから声が聞こえてきました。
聞き覚えがあって、とっても嫌な予感がしますです。
でも、怖いから振り向かないのです。
声も予感も無視して、アミィはお店に向かいま……

「わふっ」
「〜〜っ!?」

ペロッて！
なんかペロッてきたよ!?
なんか手にザラザラしたのが来たよ!?
うう、もしかして……
恐る恐る、アミィは後ろを振り向きます。

「……わふんっ」
「……お、お、おおお……！」

目に写ったのは、青い目に白と黒のゴワゴワした毛の、前にアミィを追っかけてた……

「お犬さんなのですぅぅぅぅ!!」
「わんっ！わんっ！」

お犬さんを見た瞬間、アミィは走り出します！
だって怖いもん！
すごい追いかけてくるもん！
ペロペロしてくるんだもん！

「うにゃぁぁぁぁぁぁぁあ！」
「わんっ！わんわんっ！」

走るアミィを、お犬さんは容赦なく追いかけてきます！
お犬さんに悪気がないのはわかってます！
わかってますけど……

「怖いものは怖いのですぅぅぅぅ！」

全力でアミィは逃げます！
お犬さんも追ってきます！
うう……怖いよぉ……
ハーおにぃちゃ〜ん！

「みゃふっ!?」
「ふぁっ!?っとと……」

サバトにいるハーおにぃちゃんに助けを求めたら、なんか前の人にぶつかったのです……

「あうう……ごめんなさいです」
「ううん、こっちもよそ見してたから……って君は……」
「あれ？」

ぶつかったことを謝っていると、おねぇさんはアミィの姿を見て、不思議そうな声をあげました。
気になったアミィは、おねぇさんの顔を見て、おねぇさんと同じように不思議そうな声をあげました。
あの時と違う、真っ黒けな格好じゃなくて普通のスカートだったり麦わら帽子だったりで少し分かりにくかったけど、銀の髪に緑の目の、すっごい綺麗なこのおねぇさんは、たしかに……
えと、ハーおにぃちゃんが名前を言ってたような……
たしか……

「える……おねぇさん？」
「アミィちゃん……だっけ？」

昨日の夜に来たおねぇさんが、そこにはいたのです。

■作者メッセージ
いかがだったでしょうか？
楽しんでいただけたら幸いです。
今回は、ハーラデス君の能力の説明と、アミィちゃんとメシュエルの再開を書きました。
ええと、たかが感情で死ぬとかなくね？とか思っても突っ込まないでください……
拙作に理論の穴はあきまくりなんで……
あと、アミリちゃんなんか年齢の割に言動幼過ぎね？と自分自身でおもいましたが、魔女としての性質とメリカさんたちに甘やかされて育ったせいだ……と言い訳してみます。
さて、では次回予告をば。
次回は、アミリちゃんとメシュエルの話……と、余裕があったらハーラデス君とメリカさんの紹介する人との話も書こうと思います。
実はその紹介する彼らとの話は別作品で絡んでくるんですが、そちらは書くかどうかはわからないのであまり突っ込まない方向でお願いします。
では、今回はここで。
感想をくださるとありがたいです。
では、星村でした。