連載小説
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メイドさん
ポツ……ポツ……
ポツポツポツポツ……
サァァァァァァァァァァ……
ローランの言ってた終了時刻、4時の十分前くらい。
やはり雨が降りそうな雲だったため、予告通り傘を持って学校へローランを迎えに行く途中で、雨が降ってきた。
なので、私は自分用である、二本の内の一本の傘をさして濡れないようにする。
……私としては、別にローランと一つの傘で帰ってもよかったんだけど、ローランが恥ずかしいらしく、頑なに二本持ってきてと頼むため、こうしてローラン用の傘も持ってきているのだ。
残念なことこの上ない。
反抗期なのかなぁ。4年くらい前までは素直だったんだけどなぁ……
まぁ、今は今でいいところはあるんだけど♪
などと考えていると、すぐに校門前に到着した。
学校終了まで、あと5分ってところかな?
そしたら、ローランが来るまでローランのいいところをいっぱい挙げてみよう!
と、一人で勝手にテンションを上げながら、私は5分という短い時間をとても楽しく過ごすのだった。


××××××××××××××××××××××××××××××


放課後を告げるチャイムが鳴り、僕たちはいっせいに荷物の片付けを始める。

「お疲れ、方丈君」
「うん、お疲れ様……と言いたいところだけど、この後も頑張らないといけないんだよね」
「ああ、今日もバイト?」
「うん、そう。結構バイト代いいから、その待遇分頑張りたいんだ」
「そっか。でも、それで5人をほっといたら、後が大変だと思うよ?」
「そうだぞ正孝。私たちより仕事を優先されてしまったら、悲しくなってしまうぞ?」
「そうそう。最近だってほぼ毎日店に行っちゃってるし……」
「デートだってだいたい週一回で二人っきりでは行けないし……」
「だな。まぁ、店に行きゃあえるから、少しは我慢出来るがな」
「皆さんそうは言いますけど、私たちだってバイトが忙しかったりしますよね?」
『まぁ、そうだね(な)』

やっぱりこの6人、すごく仲いいよなぁ、など考えながら話しているうちに、荷物をまとめ終わったので、じゃあ僕は行くね、と6人と別れ、校門に向かった。
しかし、雨か……
姉さんの言ったとおりになったなぁ……
ということは、やっぱり姉さんはきっと学校に傘を持ってくるということで……
恥ずかしいやら、嬉しいやら、よくわかんない時間を過ごすんだろうなぁ。
そんな風に、困ったような少しニヤついたような顔をしながら昇降口についた僕は、まず姉さんを探すことにする。
……前に、校門から小走りにこちらに向かってくる傘が一つ。
うん、あれだね。
あれだねというか、姉だね。
というくだらないこと思っていると、傘が、正確には傘を持った誰かが昇降口に到着した。

「ローラン、傘持ってきたよ!」
「うん、ありがとう、姉さん」

傘を持った誰かは間違えようもなく姉さんであったので、僕は傘を受け取ってさし、そして二人一緒に歩き始めた。

「……あ、そういえばそろそろパンがなくなりそうだった。姉さん、お金持ってる?」
「うん、あるよ。このあと喫茶店でも行こっかな〜って考えてたから」
「うん、あまり咎める気はないけど、毎日喫茶店にいくっていうのは少し自重しようね」
「だってあそこメニューそこそこあるから飽きないじゃん。おしゃべりするのも楽しいし」
「それでも、毎日店に行くのは感心しないよ。家にも食べるものがあるんだから、もったいないでしょ?」
「うーん、まぁ、そうね」
「わかったならいいよ。とりあえず今日は買うもの買ったら帰るよ」
「は〜い」

そんな感じな会話をしながら、街のベーカリー「ファミリエ」へ。

「いらっしゃい。っと、ダラン姉弟か。いつものでいいかい?」
「あ、はい。お願いします」
「そしたら運が良かったね。今から焼く準備をしようと思ってたんだ。ちょっと待っててくれ。……まぁ、長く見積もって三十分くらいかな?その間は……なにか好きなパンでも買って食べてくれると嬉しいかな?」
「そうですね。そしたら……」

運良く欲しかったパンが焼かれるそうなので、とりあえず僕たちは自分たちの食べたいパンを二つくらい買って、テーブルのある場所に座りに行った。
と、そこには人が二人ほど。
種族はエルフで、片方はファミリエの制服とエプロンを、もう片方はメイド服を着ている。
……あれ?メイド服もエプロンあるよね?
両方エプロンを付けてるってことでいいのかな?
頭の片隅でそんな疑問浮上したけど、とりあえずそのままテーブルに向かう。

「む?ダラン姉弟か。いらっしゃい」
「あら、デューナ様とその弟様、こんにちは」
「こんにちは」
「こんにちは……って、ルゥちゃんのお付きのメイドじゃない。珍しいわね、貴方が外にでるなんて」

テーブルに向かう……というか、二人に近づくと、二人とも僕たちに気がついて挨拶をする。
と、姉さんが驚いたような顔でメイド服のエルフさんの方を見る。
ので、僕は少し不思議に思いながら姉さんの訊く。
いや、姉さんの交友関係はだいたい把握してたと思うんだけどなぁ……

「この人、姉さんの知り合いなの?」
「え?ああ、そっかローランはあの時のこと覚えてないよね。この人は、私たちを保護してくれた人のお付きのメイドさんなのよ。……ん?保護であってるかしら?」
「一応あってますよ。デューナ様たちはあの時倒れてましたから」
「そう。まぁ、そういうこと。知り合い、というより……うん、恩人のメイドって感じね」
「……うんまぁわかったけど、僕たちを保護してくれた人って?」
「ナイトフィア家のお嬢様よ」
「ナイトフィアって、あのハラバ通りの?」
「そうよ、あのナイトフィア家」
「そうなんだ……」

ナイトフィア家
ラインの北通り、“ハラバ通り”に構えた大きな屋敷の主で、テベルナイト家と同等の権力を持つ家系だ。
歴史でたしか知ったはずだけど、なんでもラインになる前のこの土地を所有していたのがナイトフィア家で、それをテベルナイト家が交渉して人が住める街にしたらしい。
そんなすごい家の人に、僕たちは助けられたんだ……
……というか、覚えてないから、あまり感慨とかは浮かばない。
僕は、ラインにつく前のことを覚えていない。
一番古い記憶で、今住んでいる家のベットで目覚めた時のものだ。
僕がここにくる前の記憶は、ない。
記憶喪失……って言えばいいのか、まぁそんな感じなのだ。
姉さんはたぶんどこかで頭でも打ったのよ、と投げやりに答えていたけど、正直、過去の記憶が気になる。
姉さんの出会った記憶も、そこにあるのだから。
まぁ、思い出す方法がわからないから、放置してるけど。

「とりあえず、座りませんか?パンが焼きあがるまでまだ時間がかかりますし……デューナ様たちも、食パンを買いにきたのでしょう?」
「というと、あなたも?」
「ええまぁ。最近お嬢様がお料理を始めまして……まずはサンドイッチをと、使用人の朝食をまかなえるほど試作品をおつくりに……まぁ、使用人の人数は少ないのでそれほど多くはないんですけどね」
「へぇ、あの時はあんまりそういうのをする子には見えなかったけど……なにか心境の変化でもあったのかしら?」
「そこまで大きな話じゃないですが……どうも、“スート”の皆様がここに帰ってくるとライカ様が仰っていたようで……」
「……ああ、そういえば、ライカが使用人を取られそうだって一時期ボヤいてたっけね。なるほど、そういうことか……」

座ってから、姉さんはメイドさんと一緒に話し続けているので、少し残念に思いながらも、あまりベタベタされないことに安心した。
……にしても……

「偏見かもしれないですけど、あのメイドさん、エルフにしては柔和というかなんというか……親しみ易い人ですね?」
「それは人付き合いが若干苦手な私に対する嫌味かなにかか?と言いたいところだが、たしかにサラは性格が丸いな。私のいた場所のエルフたちと違って、人を見下すような考えも持ってないしな」
「ですよね。……と言っても、基準がミロさんと図鑑のものしか知らないんですけど」
「というか、よくサラがエルフだとわかったな?」
「まぁ、耳が尖ってますしね。あ、あのメイドさんサラさんって言うんですか」
「……見た目だけでわかるというのも、すごいんだがな……」

そんな感じに話していくと、ミロさんがふと、僕と姉さん、二人に話しかける。

「……それにしても、デューナ様も弟様も元気そうでなによりですよ〜。最初にあった時なんて、デューナ様は今にも自殺しそうなくらい危ない雰囲気でしたし、弟様なんて、心がなくなったような……人形みたいな表情をなさってましたもんね……」
「えっ……どういうことですか?」
「ああ、そうでしたね。弟様はあの時のことをほとんど覚えていないんですよね……えとですね、デューナ様たちは……」
「……サラ」

姉さんが、今にも……?
疑問に思うと同時に驚き、僕がどういうことか質問してサラさんが答えようとすると、姉さんが少し怒ったような口調でサラさんの名を呼ぶ。
その様子を見たサラさんは、あらあら、言ってはいけないことのようでしたね。申し訳ありません。と謝ってそれ以上はなにも言わなかった。
そして、少しだけ気まずい時間が流れる……
姉さんは目を伏せ、サラさんは少し困った顔をして、ミロさんはオロオロして二人の様子を交互に見る。
これは、まずいなぁ……
と、そう思ったけど、そんな時間はほんの一瞬だけの出来事だった。
というのも、ちょうどそのくらいで、30分が経ったからである。

「ミロ〜、焼けたから手伝ってくれ〜」
「あ、ああ!わかったすぐ行く!!」

ロレンスさんに呼ばれて、ミロさんは慌てて逃げるようにロレンスさんの手伝いに向かう。
……いや、逃げるようにというか、逃げたんだろうなぁ……
あの人、ちょっとメンタル弱いからなぁ……
子供が泣いてるだけでオロオロして泣きそうになってたし……
……まぁ、かく言う僕もちょっと逃げたいんですけどね……

「お待たせ。食パンが一本ずつであってたよね?一本400円だよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
「いつもお世話になります……」
「いやいや。こちらこそ、いつもありがとうね。っと、たしかに、400円ずつね」
「さて、そしたら私はここで失礼させてもらいますね。お嬢様をお待たせしてはいけないので」
「ん?なにかあったのかい?そんな気まずそうな顔をして」
「なにもなかったわよ」
「そうですね。あったとしても私が悪いので気にしないでください」
「……まぁ、そういうならなにもなかったでいいけど……」
「では、失礼します」

そう言って、サラさんはそそくさと店を後にする。
と、ドアに手をかけたところで、そういえば、とサラさんはこちらに振り返る。

「忘れてました。ライカ様からデューナ様に伝言があるのでした」
「私に……というと、あのことかしらね?」
「ええ。少々お耳をお貸し願いますか?」
「いいわよ」

そう言って、サラさんは姉さんに一言二言耳打ちをする。
それを聞いた姉さんは、了解。ありがとね。とお礼を言った。

「いえいえ。ライカ様からは会ったらでいいからと言われておりましたので。……それにしても、ライカ様はよく私がデューナ様に会うとお分かりになられましたよね。もしかしたら探偵かなにかをやっているのでしょうか?」
「そういうんじゃないわよあいつは。まぁ、とりあえずいろいろとわかってる奴ってくらいに認識しておけば問題はないわよ」
「そうですか〜」

では、今度こそ失礼しますね。
少し雑談を交わした後で、サラさんはそう言って、本当に今度こそ、店を後にするのだった。

「……私たちも行きましょっか」
「そうだね」
「ありがとうございました。パンがなくなったらまたよろしく」

店内にはチャタル夫妻と僕たちしかいなくなったため、姉さんに同意して、僕たちも店を後にする。

「ところでサラさん……というか、ライカ先生の伝言ってなんだったの?」
「ん?ん〜、秘密。というか、ローランには関係ない話よ」
「関係ないなら話してもいいんじゃないの?」
「むぅ、反抗期かなぁこんなに突っかかるなんて……お姉ちゃん悲しいよ〜」
「そんなので反抗期だったら僕は年中反抗期ってことになるよね……?」
「まぁいっか。伝言の内容はあれよ。昔の知り合いが明日来るってことよ」
「そうなんだ?よかったね、あいにきてくれるなんて」
「いや、実は会いたくないのよね……あれとは知り合いだけど仲悪いのよ」
「そうなんだ?」
「で、会いたくないから明日は学校に逃げさせてもらうわよ」
「仕事は?」
「まぁ、休みにしようと思ってるわ。あ、大丈夫よ。自警団のみんなはしばらく訓練できないくらいボ……疲れてるから、まぁ休養日ってことにできるわ」
「若干不穏な単語を言いかけたように聞こえたけど、まぁそれならいいや。でも、あんまり邪魔しないでよ?」
「大丈夫よ。授業中には押しかけないから」
「それは暗に休み時間には必ずくるって言ってるよね……」
「まぁ、そうね」

はぁ……休み時間も次の授業があるから毎回は来て欲しくないんだよなぁ……
まぁ、嬉しいと言えば嬉しいんだけどさ……
そんな感じに普通な会話をしながら、僕たちは家に帰る。
その時僕は、
明日は騒がしくなるかな?としか考えていなかった。
姉さんの言っていた、昔の知り合いが、なにを示すのかを考えもしなかったのだ。


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誰もいたがらないような暗い空間の中、俺と教団師団第四部隊部隊長である、いかにも研究者といった感じの男が対面していた。

「で、用件はなんだ?正直あまりここにいたくはないんだが?」
「そうですね。私も早く調整に向かわねばならないので簡潔に言いましょう……」

そしてなんの前触れもなく、耳障りな声が、俺にもっとも最悪なカードを引かせた。

「デューナ・ダランの弟をさらってきてください」
「……っ!なんでそれを……!」
「言っておきますが、教団の情報を敵に流した裏切り者に、決定権はありませんよ」

そして第四部隊長も、俺にとって最悪なカードを切ってきた。
そして、悲劇は始まった。
11/11/08 23:25更新 / 星村 空理
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■作者メッセージ
いかがだったでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
今回は緩衝材のような役割をはたす姉弟回でしたが……
とりあえず、新しい名前が出ましたね。
ここらへんは今度ある作家様が説明してくれるだろう、とある家系、というものです。
じつはある作品のヒロインでもやらせたい……というか、旧作「旅人たちの物語」のヒロイン枠を取るはずだったナイトフィア家の御令嬢とそのメイド、サラさんを出しました。
特に意味はありません。出したかっただけです。
まぁそんなどうでもいい話はともかく次回予告でも。
さぁ、次回は……とりあえず、アニメみたいにいいところで切るつもりです。
そして、物語はだんだんと加速していきます。
いや、急加速します。
狙われたローラン君、デューナさんの昔の知り合いの意味、最後の男は誰なのか……は、わかるとしても、どうなってしまうのか……
次回も楽しみにしていただけたらと思っております。
では、今回はここで。
星村でした。

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