10:00〜12:30
「いらっしゃいませ〜、っと、立宮さんか。毎度どうも」
「おはようラキさん。人の入りはどう?」
次に僕達が寄ったのは、さっきの店の隣にある、雑貨屋である。
美核はここで主にぬいぐるみなんかを買っている。
あの部屋の8割9割のぬいぐるみ、人形はここで買ったものらしい。
ちなみに残りの1割2割は自作であると本人は言っていた。
「うーん、そうだね……まぁまぁかな?いつものようにちょいちょい売れてるよ」
「おはようラキ。相変わらずだね」
「お、星村も一緒か。なんだい、デートかい?」
「好きに受け取ってもらっていいよ」
挨拶をしてすぐにこの店の店主、ラキ・ハルトはそう茶化してくるので、僕は適当に受け流しておく。
この、ラキという男には、なにを言っても無駄であるということを、長年の付き合いから僕は学んでいるからだ。
ちなみに、この店も隣のルーフェさんのお店と一緒で、従業員は店主一人……つまり、ラキだけである。
なにやら噂ではルーフェさんとの仲が怪しいらしいが、審議の程は確かではない。
……普通なら、こんな会話を聞いて美核が慌てたりするのだが、今回はその様子はなかった。
やっぱりこいつはそういうやつなんだと諦めてるのかな、なんて思って後ろを振り向いて見ると、すでに美核の姿はそこになく、あたりを探してみると、もう人形のある方で物色していたのだった。
……なんというか、本当にぬいぐるみ好きなんだな……
「で、今日もあれかい?面白そうなものでも探しに来たのかい?」
「うーん、今日はちょっと違うかな?もちろん探すけど、今回のメインは美核の買い物だからね」
「ふぅん。やっぱりデートなのか」
「そう思いたければそう思っていいよ」
ニヤリと笑うラキをスルーして、僕は適当に店の中を見て回る。
僕も、この店にはよく来る。
たまに面白いものが売ってたりするからだ。
たしか、前はタロットカードなんかを買った気がする。
あれは驚いた。まさかあんなものがここに売ってるとは……
「……!?こ、これは……!?」
中央にあった“あるモノ”を見て、僕は驚愕した。
トップハットに黒い仮面、仮面の口には火を出す細工……
外骨格式で取り付けるようになっている鎧のような、ギブスのようなモノ……その延長には、太く、長いバネで取り付けられた手と足……
間違いない。これは……これは……!!
「スプリンガルド……!!」
「ん?星村、これがなんだか知ってるの?」
「……うん。スプリンガルド……とある放蕩貴族が作った、悪戯道具……でしょ?」
「そうそう。まぁ、正確にはそれを領主様が再現したやつ、なんだけどね。なんかいらないって押し付けられちゃった……星村、使い方分かるなら買ってくんない?いや、むしろ貰ってっていいよ。タダで貰ったモノだし……」
「……いや、置くとこないし、いらないかな……」
「……そっか……」
迷惑そうにスプリンガルドを見るラキ。
貰ってもいい、というが、しかし、僕は断る。
先ほど言った置くところがない、というのもあるが、何より、ライカの作った……いや、ライカの関わったモノだ。
なにが起こるかわかったものではない。
というわけで、僕はそこから離れて、別のものを見に行くのだった。
「ねぇねぇ空理!これ可愛くない!?」
いろいろと見ている僕に、美核は近づき、そして手に持っていたものを見せてきた。
持っていたのは、まん丸なフォルムの、白い鶏を模したぬいぐるみ……というか、もはやクッションに近い。
なんというか、可愛いけど、なんか……
「独特だね……」
「えー?でも可愛いでしょ!?」
「まぁね」
表現するなら、らき☆すたのあの猫を鶏にした様な感じ。
可愛いが、この世界で売るとしたら、独特すぎる。
というか、どういった経緯でこれが作られたのか不思議で気になる。
感触は柔らかそうだ。……というか、美核がモフモフしてむぎゅむぎゅしている様子を見ると、相当柔らかいのが分かる。
一旦縦に潰されたりして原型を崩しても、簡単に元に戻るため、弾力もそこそこあるのだろう。
……ビーズクッションかこれは……
「じゃあ、お金払っちゃうから」
「え、あちょっと……?」
などと突っ込んでいると、美核がそう言って会計に向かってしまった。
仕方がないので、僕も会計に向かう。
「ラキさーん、これくださーい!」
「はいはい。そのぬいぐるみだね」
「あ、ちょい待ち。それ僕が払うよ」
えーと、と値札を探すラキと、財布を取り出す美核に、僕がそう割り込んだ。
「ん、了解。1500円なーりー」
「いや、いいよ空理。さっき二万も払ったじゃない!」
「いやいや、今日くらいは僕持ちでお願いしたいかな?こんな日がまたいつあるか分からないし……ね?」
「ん、ん〜……ん、分かったわよ……」
……次にいつ一緒に出かけられるか分からないんだ。
今日くらいは、全部僕に払わせて欲しい。
そんな思いとともに僕が説得すると、渋々、と言った感じで、美核は頷いた。
それに僕は、うん。ありがとう。とこたえて、ぬいぐるみの代金を払う。
「えと……ありがとうね、空理」
「いや、気にしなくていいよ。僕が払いたくて払ったんだからね」
「うん…………あ……空理、悪いんだけど……もうちょっと見ていいかな……?まだ可愛いのありそうだからさ……」
「うん、構わないよ」
まだ他の場所を見たいそうなので、僕は承諾する。
まぁ。ここにいれば普通に3〜4時間は潰せるしね。
面白いものがいっぱいあるから。
「……さてと、じゃあ僕はあっちの方でも見にいきますか」
「あ、そういえばさ星村」
美核が他の人形なんかを見にいき、僕も移動しようとすると、ラキが少し小さな、離れた場所にいる美核には聞こえないような声で、声をかけてきた。
「ん?なに?」
「いつになったら自分に正直になるの?」
「………………」
突然のラキの一言に僕は黙る。
なんのことか、とは誤魔化せない。
第一、こいつは一度そうだと確信したら考えを変えようとしないから、もうなにを言っても無駄だ。
なので、僕は黙るしかなかった。
「彼女、生殺し状態じゃん?両想いなのに、告白しないで……いや、星村がそのタイミングを必ず誤魔化して、ズラして……いつまでそうしてるつもりなの?……正直さ、見てらんないよ……」
「あ…………はははは……参ったね、そんなことを言われるとは、思ってもいなかったよ……うん。そうだね。多分、僕の過去が振り切れたら、自分に正直になる、だろうね……」
または、もっと正直な気持ちを伝える覚悟が決まったら、 ね。
そう心の中で付け加えながら、僕は微苦笑して答えた。
まぁ、正直な話、代償のせいで過去は振り切れない。
だから、自分が正直になるのは、覚悟が決まった時しかない。
でも、その覚悟が決まらない。
まったく、本当に、困ったもんだよ。
僕だって、好きだって言いたい……けど……
……後ろめたいんだよ……
「そんなこと言って、臆病な君のことだ。ずっと一定の距離を保ち続けるつもりなんじゃないの?」
「あはは……よく僕のことを理解してるね。でも、これだけは言える。いつか絶対に僕は美核に自分の気持ちを伝える。この言葉は、信用してもいいよ」
呆れたような顔で言うラキに、僕は薄く微笑みつつも、至極まともな顔で返した。
話さなければならない時が来れば、僕は絶対に美核に自分の気持ちを伝える。
たとえ、自分の気持ちを無視しても。
……どんなに、伝えることが辛くても……
それは、美核を失うよりも……愛せなくなることよりも、辛くはないのだから。
「ねぇねぇ星村!これ面白くない!?」
「ん、どれどれ?……変声キャンディ?なにそれ?たしかに面白そうだね」
微笑みを、自嘲気味な笑みに変えてそんなことを思っていると、美核が不思議なものを持ってきたので、僕は今まで纏っていた真面目な空気を霧散させて、ニッコリといつもの調子で美核と話すのだった。
「おはようラキさん。人の入りはどう?」
次に僕達が寄ったのは、さっきの店の隣にある、雑貨屋である。
美核はここで主にぬいぐるみなんかを買っている。
あの部屋の8割9割のぬいぐるみ、人形はここで買ったものらしい。
ちなみに残りの1割2割は自作であると本人は言っていた。
「うーん、そうだね……まぁまぁかな?いつものようにちょいちょい売れてるよ」
「おはようラキ。相変わらずだね」
「お、星村も一緒か。なんだい、デートかい?」
「好きに受け取ってもらっていいよ」
挨拶をしてすぐにこの店の店主、ラキ・ハルトはそう茶化してくるので、僕は適当に受け流しておく。
この、ラキという男には、なにを言っても無駄であるということを、長年の付き合いから僕は学んでいるからだ。
ちなみに、この店も隣のルーフェさんのお店と一緒で、従業員は店主一人……つまり、ラキだけである。
なにやら噂ではルーフェさんとの仲が怪しいらしいが、審議の程は確かではない。
……普通なら、こんな会話を聞いて美核が慌てたりするのだが、今回はその様子はなかった。
やっぱりこいつはそういうやつなんだと諦めてるのかな、なんて思って後ろを振り向いて見ると、すでに美核の姿はそこになく、あたりを探してみると、もう人形のある方で物色していたのだった。
……なんというか、本当にぬいぐるみ好きなんだな……
「で、今日もあれかい?面白そうなものでも探しに来たのかい?」
「うーん、今日はちょっと違うかな?もちろん探すけど、今回のメインは美核の買い物だからね」
「ふぅん。やっぱりデートなのか」
「そう思いたければそう思っていいよ」
ニヤリと笑うラキをスルーして、僕は適当に店の中を見て回る。
僕も、この店にはよく来る。
たまに面白いものが売ってたりするからだ。
たしか、前はタロットカードなんかを買った気がする。
あれは驚いた。まさかあんなものがここに売ってるとは……
「……!?こ、これは……!?」
中央にあった“あるモノ”を見て、僕は驚愕した。
トップハットに黒い仮面、仮面の口には火を出す細工……
外骨格式で取り付けるようになっている鎧のような、ギブスのようなモノ……その延長には、太く、長いバネで取り付けられた手と足……
間違いない。これは……これは……!!
「スプリンガルド……!!」
「ん?星村、これがなんだか知ってるの?」
「……うん。スプリンガルド……とある放蕩貴族が作った、悪戯道具……でしょ?」
「そうそう。まぁ、正確にはそれを領主様が再現したやつ、なんだけどね。なんかいらないって押し付けられちゃった……星村、使い方分かるなら買ってくんない?いや、むしろ貰ってっていいよ。タダで貰ったモノだし……」
「……いや、置くとこないし、いらないかな……」
「……そっか……」
迷惑そうにスプリンガルドを見るラキ。
貰ってもいい、というが、しかし、僕は断る。
先ほど言った置くところがない、というのもあるが、何より、ライカの作った……いや、ライカの関わったモノだ。
なにが起こるかわかったものではない。
というわけで、僕はそこから離れて、別のものを見に行くのだった。
「ねぇねぇ空理!これ可愛くない!?」
いろいろと見ている僕に、美核は近づき、そして手に持っていたものを見せてきた。
持っていたのは、まん丸なフォルムの、白い鶏を模したぬいぐるみ……というか、もはやクッションに近い。
なんというか、可愛いけど、なんか……
「独特だね……」
「えー?でも可愛いでしょ!?」
「まぁね」
表現するなら、らき☆すたのあの猫を鶏にした様な感じ。
可愛いが、この世界で売るとしたら、独特すぎる。
というか、どういった経緯でこれが作られたのか不思議で気になる。
感触は柔らかそうだ。……というか、美核がモフモフしてむぎゅむぎゅしている様子を見ると、相当柔らかいのが分かる。
一旦縦に潰されたりして原型を崩しても、簡単に元に戻るため、弾力もそこそこあるのだろう。
……ビーズクッションかこれは……
「じゃあ、お金払っちゃうから」
「え、あちょっと……?」
などと突っ込んでいると、美核がそう言って会計に向かってしまった。
仕方がないので、僕も会計に向かう。
「ラキさーん、これくださーい!」
「はいはい。そのぬいぐるみだね」
「あ、ちょい待ち。それ僕が払うよ」
えーと、と値札を探すラキと、財布を取り出す美核に、僕がそう割り込んだ。
「ん、了解。1500円なーりー」
「いや、いいよ空理。さっき二万も払ったじゃない!」
「いやいや、今日くらいは僕持ちでお願いしたいかな?こんな日がまたいつあるか分からないし……ね?」
「ん、ん〜……ん、分かったわよ……」
……次にいつ一緒に出かけられるか分からないんだ。
今日くらいは、全部僕に払わせて欲しい。
そんな思いとともに僕が説得すると、渋々、と言った感じで、美核は頷いた。
それに僕は、うん。ありがとう。とこたえて、ぬいぐるみの代金を払う。
「えと……ありがとうね、空理」
「いや、気にしなくていいよ。僕が払いたくて払ったんだからね」
「うん…………あ……空理、悪いんだけど……もうちょっと見ていいかな……?まだ可愛いのありそうだからさ……」
「うん、構わないよ」
まだ他の場所を見たいそうなので、僕は承諾する。
まぁ。ここにいれば普通に3〜4時間は潰せるしね。
面白いものがいっぱいあるから。
「……さてと、じゃあ僕はあっちの方でも見にいきますか」
「あ、そういえばさ星村」
美核が他の人形なんかを見にいき、僕も移動しようとすると、ラキが少し小さな、離れた場所にいる美核には聞こえないような声で、声をかけてきた。
「ん?なに?」
「いつになったら自分に正直になるの?」
「………………」
突然のラキの一言に僕は黙る。
なんのことか、とは誤魔化せない。
第一、こいつは一度そうだと確信したら考えを変えようとしないから、もうなにを言っても無駄だ。
なので、僕は黙るしかなかった。
「彼女、生殺し状態じゃん?両想いなのに、告白しないで……いや、星村がそのタイミングを必ず誤魔化して、ズラして……いつまでそうしてるつもりなの?……正直さ、見てらんないよ……」
「あ…………はははは……参ったね、そんなことを言われるとは、思ってもいなかったよ……うん。そうだね。多分、僕の過去が振り切れたら、自分に正直になる、だろうね……」
または、もっと正直な気持ちを伝える覚悟が決まったら、 ね。
そう心の中で付け加えながら、僕は微苦笑して答えた。
まぁ、正直な話、代償のせいで過去は振り切れない。
だから、自分が正直になるのは、覚悟が決まった時しかない。
でも、その覚悟が決まらない。
まったく、本当に、困ったもんだよ。
僕だって、好きだって言いたい……けど……
……後ろめたいんだよ……
「そんなこと言って、臆病な君のことだ。ずっと一定の距離を保ち続けるつもりなんじゃないの?」
「あはは……よく僕のことを理解してるね。でも、これだけは言える。いつか絶対に僕は美核に自分の気持ちを伝える。この言葉は、信用してもいいよ」
呆れたような顔で言うラキに、僕は薄く微笑みつつも、至極まともな顔で返した。
話さなければならない時が来れば、僕は絶対に美核に自分の気持ちを伝える。
たとえ、自分の気持ちを無視しても。
……どんなに、伝えることが辛くても……
それは、美核を失うよりも……愛せなくなることよりも、辛くはないのだから。
「ねぇねぇ星村!これ面白くない!?」
「ん、どれどれ?……変声キャンディ?なにそれ?たしかに面白そうだね」
微笑みを、自嘲気味な笑みに変えてそんなことを思っていると、美核が不思議なものを持ってきたので、僕は今まで纏っていた真面目な空気を霧散させて、ニッコリといつもの調子で美核と話すのだった。
11/05/12 18:33更新 / 星村 空理
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