……部屋の中に、リースが二人いた。
それが示していることは、まだリースの過去の映像が終わっていないことと……

「……どうやら、お前はここに来たことがあるらしいな」
「……そのようね」

最初に部屋の風景が変わる前に言いかけたことを、俺はまた言った。
リースがここの女神について知っていたこと。
そして、そのことを覚えていなかったこと。
この二つの要素で、俺はラケシスの間あたりからそんな仮説を立てていた。
同じような仮説を立てていたのか、それとも事実を簡単に受け入れられたのか、リースの反応に大きな動揺などはなかった。
……と、不意に過去のリースの声が聞こえてきた。

『なんで!?なんでこれを魔物達に飲ませちゃいけないの!?』

過去のリースは、奥の方にいる何者かに向かって叫んでいる。
何者かは、像の影の方に姿が隠れていて誰かが分からない。

『駄目なものは駄目なのよ』

何者かが答える。
それは、聞いたような、聞いたことのないような女性の声だった。

『駄目って……なんでなの!?この薬は……私の……私達の夢だったじゃない!!』

過去のリースが叫ぶと、像の影から何者かが姿を現した。

『あの薬は駄目なの。あれを魔物が飲んで人間になってしまったら……』

白い……白過ぎるくらい白い二つの小さな翼に、金の髪と青い瞳、そして、彼女の種族を示す頭の輪……

『私の主の不利益になってしまうのよ』

彼女は、あの時研究所に来ていたエンジェルだった。

「“私の主”？」
「……おそらくだが、教会の主神のことではないか？エンジェルの主と言うと、その辺しか思い浮かばん」
「その通り。私の主は、主神よ……」

俺達の会話に入ってきたのは、今俺達が見ていたものとそっくり……いや、同一のエンジェルだった。

「……お前は……」
「久しぶりね、リース。……と言っても、私のことを覚えてるわけがない、か」
「ええ。一応、さっき見た過去から、貴方が私の薬の研究を手伝ってくれていた、というのはわかったけどね」
「そっか、見ちゃったのか……残念。そしたら、私は貴方達を殺さなきゃ……」
「……なぜ、俺達を殺す？一応お前も魔物であるはずだが……」
「少なくとも、私があの時に薬を飲むまでは、ね」
「……薬を……飲んだ？」

エンジェルは本当に残念そうな顔で、どこからともなく剣を出してきた。
しかし、すぐに攻撃することもなく、俺の質問に答えてくれている。
何かが、おかしい。

「ええ。魔物の魔力をのみを枯渇させる薬。貴方は聞いてないかしら？」
「……いや、聞いた。それをお前は飲んだ、と。だが、あの薬を飲んだら、人になるのではないのか？」
「……少なくとも、魔物は、ね」
「……元々は神の使いであったエンジェルが飲んだ場合、人にはならず、かつ魔物化する前の、神聖の天使になる、ということね？」
「そういうこと。相変わらず察しがよくて助かるわ」
「……だが、それに関して少し疑問があるぞ？なぜ、神聖の天使であるに関わらず、俺達をすぐに殺さず、さらには質問に答えてくれている？」
「……もちろん、完全に昔の、純聖の天使にはなれないわ。例え誰であっても過去は変えられない。私は魔物と過ごした過去があったおかげで、純聖の天使のように心を失わずに済んだの。でも、上位者の命令……主神と、それを崇拝する司祭の命令には逆らえない」
「つまり、貴方は、主神、またはその司祭の命令で私達を殺さなければならない、といったところなのね？」
「そういうこと。それに、昔のことも謝らないとね。昔、貴方の記憶を消したのは私よ……ほら……」

そう言って指を差すエンジェルの先に、過去の二人が近づいていた。

『ごめんね……』
『何……を……!?』

トン……とリースの額にエンジェルが触れ、その瞬間、リースの体から力が抜け、その場に崩れ落ちてしまった。

「……一応、想像は出来ていたけど、やっぱり貴方だったのね……」
「ええ。あの時は薬の存在を秘匿することが主だったから、貴方を殺さないでいけた。でも、今回は駄目……侵入者を殺せ、と命令されているから」
「……見逃すことは、出来ないのか？」
「無理ね。命令を無視すれば途端に体の自由が効かなくなって操られてしまうわ……だから、私は全力で貴方達を殺しにかからないといけない……でも」

フッ、と微笑みながら、エンジェルは一拍間を開けてから、一言言った。

「貴方達なら、逃げられると信じているわ」

そして、彼女は剣を構える。

「……最後に一つ、訊いてもいいか？」
「ええ。いいわよ。何かしら？」
「……お前達の夢とは、いったいなんなんだ？」

俺の問いに、エンジェルはさらに笑みを深め、答えた。

「私達の夢、それは……「全ての魔物と人間が、分け隔てなく幸せに過ごしていけること」……！」

重ねられたリース声に、エンジェルは驚いていた。

「……昔も今も、夢は同じようね？……私も、一つ訊くわ」
「……何かしら？」
「名前。貴方の名前よ。まだ、訊いてなかったからね」
「私は、ジェミニよ」
「そう。じゃあ、ジェミニ。“また会いましょう？”」

リースがそう言うと、過去の風景が霞のように消え去り、元の風景に戻った。

「さて……逃げるわよ!!」
「……ああ!!」

リースの言葉にジェミニが動揺している内に、俺達はジェミニの隣を抜けて廊下に向かう。

「……っ!?りゃぁあ!!」

我に返ったジェミニはすぐに反応して剣を振る。
狙いは……この中で一番大きく、当たりやすい……俺だ!!

「……っ!!」

紙一重のところで、俺は斬撃を避けることが出来た。
……剣のリーチが長い。接近戦では結構有利な獲物だな……
避けてからもなお俺は走って、通路に入った。
リースは俺と並走しながら訊いてくる。

「ジル、魔力の方はどうなの？」
「……少ししか回復していない。飛ぶどころか、強い魔術も使えないだろうな」
「っ、何か手は？このままだと外の騎士団も相手にしなきゃいけなさそうよ？」
「……手か……今のところはない……いや、待て。クロトの間まで行けば、なんとかなるかもしれない」
「……分かったわ。急ぎましょう」

クロトの間、あそこにはアレがあった。
アレを使えば、なんとかなるかもしれない。
俺とリースは、少し足を早めて真っ直ぐに走る。

「“パワースラッシュ”！」

そこに、ジェミニが斬撃を飛ばしてきた。
狙いは、俺でもリースでもなく……

「……!!急げ!!」
「っ!!なるほど……!!」

斬撃は、通路入り口付近の天井に放たれていた。
狙いは、出入り口を塞ぐこと。
マズイ。ここで遅れたら確実に殺られる。
だが、しかし、だ。
全く、無理させるな……

「リース、掴まれ!!」
「何を……!!分かったわ！」

俺が手を差し伸べると、少しだけ訝しげな顔をしたが、すぐに意味を理解し、俺の手を硬く握った。それを見た瞬間、俺は回復した微量の魔力を足裏に全て溜め、加速するために爆発させた。
風の爆発は、とても攻撃に使えるようなものではない。
しかし、俺達を軽く吹き飛ばす程度の威力は出せた。
俺は、爆発のタイミングに合わせて跳躍し、さらに加速を図った。
そしてその試みは成功し、ギリギリ天井が通路を塞ぐ前に俺達はラケシスの間に突っ込むことが出来た。
俺の体が床に叩きつけられると同時に、通路の入り口に天井の瓦礫が降ってきた。
……危なかった。あと少し遅れてたら……

『ふふ……あぁあ、これじゃあ追いつくのに少し時間がかかるなぁ……』

瓦礫の向こうから、ワザとらしく、嬉しそうなジェミニの声が聞こえてきた。

「……全く……殺す気か……」
『そのつもりだったけど？』
「……でも、助かったわ。ありがとう」
『ほら、私が追いつく前に早く逃げなさい。あと、この音を聞いて騎士団も来てしまうわ』
「……急ぎましょう」
「……了解」

ジェミニの言葉に従い、俺達はその場を後にした。
……ジェミニが天井に斬撃を飛ばしたのは、俺達ではなく、自分の足止めをするためだったのだ。
俺達の足止めをするなら、俺達を直接狙ったりすればもっと効率がよかったはずだ。
彼女は俺達を逃がしたかった。
しかし、命令のせいで俺達を殺しにいかなければならない。
あれが、ちょうどいいギリギリの妥協点だったのだろう。
とにかく、彼女が時間を稼いでくれているうちに出来るだけ逃げよう。
……そういえば、騎士団の連中も音を聞いて向かってくるかもしれない、と言っていたな……
……急がなければならなさそうだ。


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「……ふぅ……これで、しばらくは大丈夫かしらね？」

目の前の瓦礫の山を見ながら、私はそう呟いた。
あの二人なら、教会の騎士団はなんとかなるだろう。
でも、一番の問題は……

「……っ……!!」

体の力が抜けてきて、私は倒れそうになる。
敵と会話を交わした。
しかも、こちらの情報を流した。
それはすでに重大な命令違反だった。
体の力は少し前から抜け始めている。
それでも動けているのは、私の精神力のおかげだ。
でも、それももう限界近くまできてしまっている。

「……せめて、“私”に襲われる前に逃げてちょうだいよ……」

そう呟きながら、私は倒れてしまった。


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「いたぞ!!男に……魔女だ!!殺せ！殺せぇ!!」
「……厄介だな……!!」

クロトの間に入る前に、俺達は騎士団と接触してしまった。
俺には今素手しか戦う術がない。
クロトの間につけばおそらく魔術が使えるだろうが、今はリースの戦闘能力に頼るしかない。

「リース、お前は戦えるのか？」
「う〜ん……あまり戦えるわけじゃないけど、取り合えず、クロトの間までは持たせてみせるわ」
「頼……む!!」

リースに頼みながら、俺は近づいてきた騎士団の一人を殴る。
鎧越しであるため、もちろんダメージはない。
しかし、相手を怯ませ、少しだけ後退させることが出来た。
そのうちに俺は騎士団の間を縫うように走る。

「逃がすと……思うなぁ!!」
「させないわ。“アギラオ”!!」

一人がかかってこようとしたところで、俺とそいつの間に火柱が立ち、遮ってくれた。

「どんどん行くわよ!!“マハガルーラ”！“マハジオンガ”！“マハブフーラ”！」

リースは次々と魔術を発動する。
風、雷、氷の柱が、6本ずつ。計18本。俺が通る道を守るように発生した。
流石は魔女だ。普通の魔術師でも一度に一つしか使えないレベルの魔術を、3つもか……

「逃がすな!!落ち着いて対処しろ!!」

後ろの方にいる指揮官らしきものが命令すると、騎士団の連中は、即座に判断し、部屋の入り口付近に集まり始めた。
なるほど、下手に移動せず、待ち構えるという寸法か。
だが……

「それじゃあ良い的よ！……“ファイラ”!!」

リースはそう言って、中級火炎魔術を放った。
放たれた炎弾は固まっている騎士団の連中に向かって飛び、見事に吹き飛ばしてくれた。

「よし!!あとはクロトの間まで逃げればジルも戦えるわね」
「……そうだな」

倒れている連中を避けながら、俺達はクロトの間に入った。
そして、そこには……

「……あ〜、やっぱりあの数が全員じゃなかったのか……」
「全く、最悪ね……」
「侵入者を絶対に出すんじゃないぞ!!」

クロトの間には、先ほどリースがなぎ倒した数の、およそ五倍近い人数の騎士団だった。
……まさか、ここまで大量にここに派遣されているとはな……
内心で舌打ちしながらも、俺は冷静にクロトの間という空間を視た。
……よし。これならいける。

「ちょっと、あの数は流石に難しいわね……」
「……大丈夫だ。俺の予想が当たってた。ここでなら……」

そう言いながら、俺は奴らに手をかざした。
そして、魔術を発動する。

「……“万物流転”……!!」

途端、騎士団の中心に巨大な一つの竜巻が発生した。
沢山の連中が竜巻に巻き込まれ、吹き飛んでいく。
……若干、いや、結構、いつも使う時の威力より強力だったのは、ここの魔力のおかげだろう。
クロトの間には、大量の魔力が漂っている。
俺は、自分の魔力ではなく、その魔力を直接使って臨界魔術、“万物流転”を発動したのだ。
魔力の濃いここだからこそ使える手だ。他の場所では絶対に使えないだろう。
竜巻が消えた跡には、騎士団の連中のほとんどが倒れ、気を失っていた。
一部は立ち上がろうとしているが、あのダメージではもう戦闘は出来まい。

「……よし、あとはここから離れるだけだな」
「ええ。早く行きましょう」

俺達は、連中が意識を取り戻す前に急いで神殿を出ようとした。
しかし、それは俺達の後ろから放たれた白い光によって邪魔されてしまった。

「……!?ジェミニ!?」
「……いや、ジェミニ、ではないな」

後ろを見ると、そこにはジェミニが立っていた。
しかし、様子がおかしい。
動き方がぎこちなく、まるで操り人形のようになっているのだ。
……おそらく、言ったまま操られているのだろう。
厄介だな……さっきの攻撃で出口が崩れ、塞がれてしまった。つまりは逃げづらくなってしまった。
俺が時間を稼いでリースに瓦礫を退かしてもらっても、あの威力の攻撃を防げるかどうか……
……とにかく、やるしかないな……

「……リース、俺が足止めする。瓦礫を退かしてくれ」
「分かったわ」

短く言葉を交え、俺はすぐにジェミニに突っ込んで行った。
拳を握り、放つ。
ジェミニは、それを最低限の動きで払い、カウンターで同じく拳を振ってきた。

「ぐ……!!」

すぐさま俺はそれをガードしたが、一撃が重い。
ただ殴っただけでこの威力となると、一撃一撃が危険だな……
それなら、一撃で吹き飛ばすだけだ！

「“万物流転”!!」

カウンターによって間合いを離された瞬間に、俺は万物流転を放つ。
今度は、ジェミニを囲うように竜巻が発生し、襲いかかる。
これで……どうだ！
そう、期待した瞬間、いともたやすく竜巻が弾かれ、消え去ってしまった。

「……なん……だと……!?」
「……………………」

驚愕する俺に対して、ジェミニは何も答えず、目の前に大量の魔術陣を展開する。
……まずい、あの魔術か!!

「うぉぉぉぉお!!“エアロジャ・クワトロ”!!」

この攻撃は通したら危険過ぎる。
即座に判断し、俺は今操れる最大限の魔力を使い、最大級の魔術を使った。
暴風を閉じ込めた家一つなら簡単に吹き飛ばすほど巨大な玉が四つ、ジェミニに向かって放たれる。
防げる……か!?
いや、防げ!!
そう念じながら、俺は四つの玉をジェミニにぶつけ、閉じ込めていた暴風を開放した。
おおよそ竜巻でも起こせないような量の風が瞬時に解放され、術者である俺でさえ吹き飛んでしまうほどの力がジェミニに襲いかかった。

「……!?二人とも!?」

必死に魔術を使って瓦礫を退かそうとしていたリースが、その状況に気がついて叫ぶ。
クロトの石像が破壊され、床に残骸が散らばっていく。
そして、それから数秒後に、暴風は止んだ。
埃が舞い、視界が悪くなっている。

「どう、だ？」

立ち上がった俺は、目を凝らしてジェミニのいた場所を見る。
彼女は……まだ立っていた。
魔術陣を、展開したまま。

「……!?」

気がついて走ろうとした時にはすでに白い光が目の前に迫っていた。
これは……避けられ……!!
死を覚悟した。
あんな威力の攻撃を食らったら、ただではすまない。
まず、死ぬ。
諦めたその時、声が聞こえた。

「“風舞”！」

幼い、しかししっかりとした少女の声。
その声を俺は知っていた。

「……まったく、君はなんで力任せに相手を抑えようとするのかなぁ？」

近くでそんな言葉が聞こえてきたので、恐る恐る俺は目を開く。

「もぉ、ボクがいなかったら死んじゃってたよ、ジル？」

俺の目の前には、小さな少女がいた。
小さな体は全体的に黄緑に染まっており、それより少し濃い緑の、肩まで伸ばした髪は、中性的な印象を与える。
顔はまだ小さな子供らしい無邪気で可愛いものだが、俺はそれが決して中身を表していないことを知っている。

「……久しぶりだな、ルフト」

彼女の名はルフト。
俺の知り合いのシルフだ。
とりあえず、あたりの様子を見ることにしようとして、浮遊感を感じていることに気がついた。
おそらく、彼女が風を操って俺を宙に浮かせているのだろう。
……！そうだ。

「リースはどうした!?」
「うん？あの魔女さんならちゃんと一緒に浮かせているよ」

そう言いながら、ルフトはリースのいる場所を指差した。
リースは、突然のことに呆然としているようだが、怪我はなかった。
良かった。なんとか死なずにすんだようだな……

「今、どういう状況だ？」
「う〜ん？ああ、あの子か。今はまたあの気持ち悪いの放とうと魔力を溜めてるよ。早くここ離れないとやばいね」

俺が状況を訊くと、ルフトは微苦笑をして下を見た。
つられて、俺も下を見る。
天井近くまで飛んでいるらしく、床が結構離れた位置に見える。
そして、そこにジェミニが魔術陣をまた展開している姿が見えた。
溜まり具合からすると、そろそろ発射されるだろう。

「おい、大丈夫なのか？」
「大丈夫大丈夫♪ほい、“風舞”♪」

ルフトは鼻歌でも歌いそうなノリで指を一振りし、風を操った。
すると、ジェミニの足元に鋭い風が過ぎ去り、足をすくって転ばせた。
その瞬間、あの光が放たれ、ジェミニの真上の天井が崩れ、ジェミニに降り注いだ。

「!?ジェミニ!?」
「おい、ルフト!?」
「大丈夫大丈夫。君の“エアロジャ・クワトロ”受けても平気だったんだよ？あの程度じゃ死ぬことはないよ」

それを見たリースが叫ぶ。
俺も驚き、ルフトに怒鳴る。
しかし、ルフトはほら、と指差しながら調子を崩さずに答えた。
見ると、確かに、瓦礫に挟まれて身動きは取れていないが、無傷のジェミニがいた。
リースも安心したのか、はぁ、と小さくため息をついていた。
……にしても、あの丈夫さはいったいどこから来ているんだろうな……

「さ、動きも封じ込めたことだし、早くここから離れましょう」
「……そう、だな」
「ええ。目的も果たしたし、問題はないわ。でも、帰りながら、どういうことか説明してちょうだいね？」
「ああ、俺もいろいろと訊きたいことがあるしな」
「うん。いいよ。飛びながら説明してあげる」

そう会話を交わしながら、俺達はモイライ神殿を後にした。

「…………また、絶対に、ね……」

神殿の去り際に、リースがそんなことを言った気がしたのだが、真実は彼女しか知らないのだった。


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「……また、会いましょう、か……」

瓦礫に埋まって動けないなか、私は瓦礫の隙間から空を眺めながら呟いた。
そう言えば、記憶を消したあの時も、言ってたっけな……
まったく、来たら危ない目に合うっていうのになぁ……
私としては、もうここには来て欲しくない。
でも、本心から言うと、やっぱり来て欲しい。
私が誰かに操られていようと、たとえ敵同士であったって、あの子は私の友人なんだ。

「……また、ね。リース……」

そう呟いてから、私は一度目を瞑り、眠ることにした……


××××××××××××××××××××××××××××××


「……で、なぜ俺達を助けられたんだ？」

しばらく飛んで、後ろから誰も追ってこないことを確認した後、俺はルフトに訊いた。

「うーん、なんて説明したらいいかな？まぁ、なんか突然嫌な予感がしてジルを探したんだよ。そしたら、あの子に襲われていて助けた……ってところかな？」
「……実際のところは？」
「ジルが他の女の子と一緒に飛んでたんで後をつけていました♪」
「おい……」
「ま、まぁ、そのおかげで助かったんだし、怒ることはないでしょう？」

拳骨の一発でも浴びせようかと思ったが、リースがなだめてきたのでやめることにした。
確かに、ルフトがいなかったら今頃は塵も残さずに消滅していただろう。

「……まぁ、そうだな。ありがとうな、ルフト」
「えへへぇ♪いいよん♪……ところで、その女の子は誰なの？」
「私も気になるわ。彼女を紹介してちょうだい？」
「……ああ、そうだな。ルフト、こいつはリース。魔女で、今回の俺の依頼主だ。リース、こいつはルフト。俺の知り合いのシルフだ」
「よろしくね〜、リースちゃん」
「ええ。よろしく。……なるほど、彼女があなたの知ってるシルフなのね」

挨拶をしながら、二人は握手する。
……そう言えば言い忘れていたが、今俺達はルフトの力で空を飛んでいる。
ルフトは俺と違って、自分以外のものも飛ばすことが出来るため、少し羨ましい。

「……ところで、ルフト。ルフトって、いるの？契約者」
「ううん。いないよ。ボクはフリーの精霊なのだ〜。あ、ちなみに契約者最有力候補はジルね」
「……俺は契約するつもりはないからな？」
「え〜？でも、ジルほど風を愛してくれる人っていないんだよ〜？契約者にしなきゃ損だよ〜。主にボクが♪」
「断る」
「ブーブー」

ルフトにはだいたい一ヶ月に一度会うくらいなのだが、会う度にこう誘われるので、もう慣れたものだ。

「……たしか、街の空気を変えてしまうから、だったかしら、契約しないのは？」
「ああ。別に覚える必要はないんだが、よく覚えてたな」
「……というか、完全に好意があるじゃない。……それで気がつかないなんて、貴方、どれだけ鈍いの……」
「いや、あいつのあれを好意だと思わない方がいい」
「なんで？」
「だってボクはそういうの興味ないもん。ただ力が欲しいだけだから。風を愛してくれる人は、ボクにいくらでも力をくれるからね♪」
「……なるほど」

納得したようにリースは頷く。
そう。ルフトは自分の力が大きくなればそれでいいと考えているやつだ。
だからこそ、こいつには人に対する好意というものがない。

「あ、でも、ジルのことは結構気に入ってるんだよ〜？ボクの本性知っても態度変えなかったしねぇ。何より、本当に風が好きな人だし」
「……まぁ、それは嘘じゃないんだろうな……」
「で、リースの方こそどうなのぉ？ジルって結構かっこいいからねぇ♪」
「うん？私？私かぁ……まぁ、そこそこ、かな？」
「ふぅんなるほどねぇ……」
「……どうしたルフト、ニヤニヤして……？」
「いんや〜、若いなぁ、と思ってねぇ〜♪」
「……まるで老人だな……あと、リースは旧魔王時代出身らしいぞ」
「……ジル、女性に年齢の話は、駄目よ？」
「……ジルはそこらへんまったく気にしないからねぇ……ふつ〜にポロリとそういうの言っちゃうんだよねぇ……」
「？？」

はぁ、と二人がため息をついている理由がわからず、俺は首を傾げた。

■作者メッセージ
あと千字で、一万字……
よく書いたな、僕……
というわけで、後編をUPさせて頂きました。
……また中途半端なところで終わってる……
orz
でも、一応理由があります。
エピローグを用意したからです。
とてもみじかいと思いますが、明日には……正確には午前零時くらいにはupしてると思うんで、お付き合い願います。
さて、いかがだったでしょうか？
楽しく読んでいただけたら幸いです。
今回はシルフのルフトさんが登場しました!!
幼女！幼女！つるぺた幼女！
ということで、早速質問です。
ジルとルフトさんの話、書いた方がよろしいでしょうか？
感想、またはメールの方に書いていただけると助かります。
さて、さらにエンジェルのジェミニさんも出て来ましたね。
……最後の方に新キャラ続出って……orz
ごめんなさい……
さて、それでは今回はここら辺で。
星村でした。