第二章「同行者、アーシェ」
特に何事もなく、僕は朝を迎えることが出来た。
アーシェと一緒に旅を始めて、まだ5日程しか経っていない。
そして、アーシェと一緒に旅をしてから、初めてゆっくりと出来る朝がきた。
というのも彼女、毎日何回も襲ってくるのだ……
今回はなかったが、朝起きた時、夜寝る前、移動中、果てには食事中まで襲ってくる始末だ……
まぁ、何故か寝ている間は襲ってこないので、さほど追い詰められているわけではないけど…………
それでも、疲れるものは疲れるのだ。
なんとか“レテ”を使って一線は超えさせていないが、避けてはいても根本的な解決にはならない。
体の動かし方だけではなく、今自分が何をしようとしていたのかも忘れさせたりもしたのだが、少しした後はケロっともとに戻っていて、ほとんど効果はない。
「おーい、アーシェ、そろそろ行くよ」
荷物をまとめた後、僕はアーシェを起こしにかかる。
一回だけ、アーシェが寝た後で先に進んで置いていったことがあるんだけど、結局追いつかれ、ふてくされてしまった。
そして、その後は寝れないくらい頻繁に襲いかかってきたので、もう置いていかないようにしよう、と心に決めたのだ。
「う…………ん……? ……ああ、おはよう……」
まだ寝呆けたままの状態で、アーシェが起き出す。
そして、流れるような動作で僕に寄りかかってきた。
女性特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
……まずい……理性が…………
「アーシェ、それ、ワザとやってるでしょ?」
「ああ…………バレたかのぅ…………?」
未だ眠そうな表情のまま、アーシェはペロリと舌を出す。
全く、寝起きでもこれなのか…………
はぁ……と溜息をつきながら僕はアーシェを退ける。
「何度も言うけど、僕には彼女がいるんだからね……?」
「じゃが、それはお主が言っているだけで確証はないじゃろ?」
「そうだけど……」
「なら、パートナーのいる男は襲わないというルールは曖昧なままじゃの」
本来なら、パートナー……彼女や妻のいる男は襲わないというルールが魔物の中で広まっていて、普通なら僕もそれが適用されて襲われないはずなんだけど、生憎フィスが行方不明であるため、確証が取れず、適用されなくなってしまっているのだ。
「まぁ、それともかく早く起きてくれない?」
「…………つれないのぅ……」
「ほら、さっさと行こう」
とにかく、僕はアーシェを叩き起こして出発することにした。
××××××××××××××××××××××××××××××××××
「うぅ……眠いのぅ……」
「一応起こしたし、寝たら置いてっちゃうよ?」
「うぅ…………酷いのじゃ……」
今、僕達は森の中を歩いて、最寄りの洞窟へと向かっている。
というのも、フィスの呪いの特性のためである。
フィスの呪い、あれの効果は、“不定期にルールにそった最寄りの場所に転移させる”、というものであり、そのルールが、“危険な場所”という曖昧なものであるらしい。
そして、今ここから最も近いダンジョンは、今向かっている洞窟、たしか名前が…………
「あれ? アーシェ、今僕達、なんてところに向かってるんだっけ?」
「……お主、また忘れたのか!? これで何度目じゃ!!」
「いやぁ……ごめんごめん…………」
ううむ……またと言われると痛いなぁ…………
「今向かっておるのは“大蛇の洞窟”、わしの知り合いの住処じゃ!!」
「…………ああ、そうだった。思い出したよ。たしか、なんの捻りもない簡素な名前だって言ったよね?」
「そう、その通りじゃ!! 全く、いったい何回忘れつもりなんじゃ…………今日はもう5回は訊いてきておるぞ? この前だって町の名前を忘れておったし…………もう忘れっぽいとかそういう次元ではないのではないか?」
アーシェはぶちぶちと文句を言う。
仕方がないじゃないか、忘れっぽいのは生まれつきなんだし……
「…………にしても、疲れたのぅ…………」
さっき大声を出したからか、だらーんと腕を垂らしながら、アーシェの歩く速さが少し遅くしながら、そんなことを言ってきた。
疲れるの早いな…………と言いたいところだけど、まぁ、歩いて結構時間が経ってるしな……
「じゃあ、そろそろ休憩にしようか」
「お、賛成じゃ!!」
僕も疲れているので、休憩を取ることにした。
「ルシア、何か食べ物が欲しいのじゃ!!」
「はいはい……パンとかでいい?」
「うむ!!」
大体5日間、アーシェと一緒に過ごして、大方彼女の性格が分かってきた。
なんというか、彼女は見た目通り、まるで子供のような性格をしている。
簡単に言うなら、我儘で寂しがり屋。
しかし、要求が通らないと少しふてくされるが、駄々はこねなかったり、色々と自制したりと、子供のようでない部分もあって、何か、子供のようで子供でないという、不思議な性格であると、僕は思う。
「さて、じゃあいただくのじゃ!!」
「はいはい、召し上がれ」
アーシェはモグモグとパンを頬張り、ニコニコしながら食べている。
ほんと、この姿だけならただの、僕より年下の女の子にしか見えないよなぁ…………
僕はパンを頬張り、そんなことを考えていた。
でも、アーシェはバフォメットだから………………
…………と、一つ、気になったことがあった。
「そういえばアーシェ、前に自分はサバトを持ってないって言ってたよね? なんでなの?」
「ムグ…………む? ああ、今のわしがサバトを持つのは、わしの理念に背くからじゃよ」
「理念?」
「うむ。集団を率いる者は、実力と魅力、そしてテクニックが必要である、といったところかの? 今のわしには、そのどれも足りんのじゃ」
「うぅん……どれも問題なしな感じがするだけどなぁ…………」
「いや、他のものにはまだ敵わぬよ。実力も、魅力も、テクニックも……の」
「ふぅん…………そうなんだ……」
やっぱり、ただ子供らしいだけではない、なんとも不思議な少女だと、僕は思った。
「………………と、いうことで、テクニック向上のためにお主には協力してもらうぞっ!!」
「ちょっ!? アーシェ!!」
アーシェは一瞬ニヤリとしたと思ったら、いきなり僕にのしかかってきた。
…………はぁ、またか……飽きないなぁ…………
心中で溜息をつきながら、僕は、たった5日間で二桁は言っている定型句を言い放つ。
「“忘れろ”ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
まぁ、色々と大変だけれども…………
…………一人でずっとフィスを探していた時よりも、旅は楽しくなっている…………かな?
アーシェと一緒に旅を始めて、まだ5日程しか経っていない。
そして、アーシェと一緒に旅をしてから、初めてゆっくりと出来る朝がきた。
というのも彼女、毎日何回も襲ってくるのだ……
今回はなかったが、朝起きた時、夜寝る前、移動中、果てには食事中まで襲ってくる始末だ……
まぁ、何故か寝ている間は襲ってこないので、さほど追い詰められているわけではないけど…………
それでも、疲れるものは疲れるのだ。
なんとか“レテ”を使って一線は超えさせていないが、避けてはいても根本的な解決にはならない。
体の動かし方だけではなく、今自分が何をしようとしていたのかも忘れさせたりもしたのだが、少しした後はケロっともとに戻っていて、ほとんど効果はない。
「おーい、アーシェ、そろそろ行くよ」
荷物をまとめた後、僕はアーシェを起こしにかかる。
一回だけ、アーシェが寝た後で先に進んで置いていったことがあるんだけど、結局追いつかれ、ふてくされてしまった。
そして、その後は寝れないくらい頻繁に襲いかかってきたので、もう置いていかないようにしよう、と心に決めたのだ。
「う…………ん……? ……ああ、おはよう……」
まだ寝呆けたままの状態で、アーシェが起き出す。
そして、流れるような動作で僕に寄りかかってきた。
女性特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
……まずい……理性が…………
「アーシェ、それ、ワザとやってるでしょ?」
「ああ…………バレたかのぅ…………?」
未だ眠そうな表情のまま、アーシェはペロリと舌を出す。
全く、寝起きでもこれなのか…………
はぁ……と溜息をつきながら僕はアーシェを退ける。
「何度も言うけど、僕には彼女がいるんだからね……?」
「じゃが、それはお主が言っているだけで確証はないじゃろ?」
「そうだけど……」
「なら、パートナーのいる男は襲わないというルールは曖昧なままじゃの」
本来なら、パートナー……彼女や妻のいる男は襲わないというルールが魔物の中で広まっていて、普通なら僕もそれが適用されて襲われないはずなんだけど、生憎フィスが行方不明であるため、確証が取れず、適用されなくなってしまっているのだ。
「まぁ、それともかく早く起きてくれない?」
「…………つれないのぅ……」
「ほら、さっさと行こう」
とにかく、僕はアーシェを叩き起こして出発することにした。
××××××××××××××××××××××××××××××××××
「うぅ……眠いのぅ……」
「一応起こしたし、寝たら置いてっちゃうよ?」
「うぅ…………酷いのじゃ……」
今、僕達は森の中を歩いて、最寄りの洞窟へと向かっている。
というのも、フィスの呪いの特性のためである。
フィスの呪い、あれの効果は、“不定期にルールにそった最寄りの場所に転移させる”、というものであり、そのルールが、“危険な場所”という曖昧なものであるらしい。
そして、今ここから最も近いダンジョンは、今向かっている洞窟、たしか名前が…………
「あれ? アーシェ、今僕達、なんてところに向かってるんだっけ?」
「……お主、また忘れたのか!? これで何度目じゃ!!」
「いやぁ……ごめんごめん…………」
ううむ……またと言われると痛いなぁ…………
「今向かっておるのは“大蛇の洞窟”、わしの知り合いの住処じゃ!!」
「…………ああ、そうだった。思い出したよ。たしか、なんの捻りもない簡素な名前だって言ったよね?」
「そう、その通りじゃ!! 全く、いったい何回忘れつもりなんじゃ…………今日はもう5回は訊いてきておるぞ? この前だって町の名前を忘れておったし…………もう忘れっぽいとかそういう次元ではないのではないか?」
アーシェはぶちぶちと文句を言う。
仕方がないじゃないか、忘れっぽいのは生まれつきなんだし……
「…………にしても、疲れたのぅ…………」
さっき大声を出したからか、だらーんと腕を垂らしながら、アーシェの歩く速さが少し遅くしながら、そんなことを言ってきた。
疲れるの早いな…………と言いたいところだけど、まぁ、歩いて結構時間が経ってるしな……
「じゃあ、そろそろ休憩にしようか」
「お、賛成じゃ!!」
僕も疲れているので、休憩を取ることにした。
「ルシア、何か食べ物が欲しいのじゃ!!」
「はいはい……パンとかでいい?」
「うむ!!」
大体5日間、アーシェと一緒に過ごして、大方彼女の性格が分かってきた。
なんというか、彼女は見た目通り、まるで子供のような性格をしている。
簡単に言うなら、我儘で寂しがり屋。
しかし、要求が通らないと少しふてくされるが、駄々はこねなかったり、色々と自制したりと、子供のようでない部分もあって、何か、子供のようで子供でないという、不思議な性格であると、僕は思う。
「さて、じゃあいただくのじゃ!!」
「はいはい、召し上がれ」
アーシェはモグモグとパンを頬張り、ニコニコしながら食べている。
ほんと、この姿だけならただの、僕より年下の女の子にしか見えないよなぁ…………
僕はパンを頬張り、そんなことを考えていた。
でも、アーシェはバフォメットだから………………
…………と、一つ、気になったことがあった。
「そういえばアーシェ、前に自分はサバトを持ってないって言ってたよね? なんでなの?」
「ムグ…………む? ああ、今のわしがサバトを持つのは、わしの理念に背くからじゃよ」
「理念?」
「うむ。集団を率いる者は、実力と魅力、そしてテクニックが必要である、といったところかの? 今のわしには、そのどれも足りんのじゃ」
「うぅん……どれも問題なしな感じがするだけどなぁ…………」
「いや、他のものにはまだ敵わぬよ。実力も、魅力も、テクニックも……の」
「ふぅん…………そうなんだ……」
やっぱり、ただ子供らしいだけではない、なんとも不思議な少女だと、僕は思った。
「………………と、いうことで、テクニック向上のためにお主には協力してもらうぞっ!!」
「ちょっ!? アーシェ!!」
アーシェは一瞬ニヤリとしたと思ったら、いきなり僕にのしかかってきた。
…………はぁ、またか……飽きないなぁ…………
心中で溜息をつきながら、僕は、たった5日間で二桁は言っている定型句を言い放つ。
「“忘れろ”ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
まぁ、色々と大変だけれども…………
…………一人でずっとフィスを探していた時よりも、旅は楽しくなっている…………かな?
10/09/30 22:41更新 / 星村 空理
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