第九章「フィスのいる日常」
「おーいルー君!!アーシェ!!遅いよー!!」
街の中央通りを走っていたフィスが立ち止まって僕の方に振り返り、そんなことを言ってくる。
いやいやフィスさん?荷物持ち状態の僕にそれは辛いですよ?
“大蛇の洞窟”を出て四日目。僕達はとある街で買い出しをしている。
食料やら何やらを買い集めてるんだが、その荷物持ちはもちろん僕。重たい荷物を両腕に抱えていて、とてもじゃないが走れない。
「…………なんというか、大変じゃのう……」
「いえいえ。いつものことです」
隣で僕と歩調を合わせて歩いてくれているアーシェさんが、同情するように言ってくるが、そんなことはない。
「それに、好きな人に甘えられるのは、結構嬉しいことなんですよ?」
「……………………………………………」
「二人ともー!!」
「はいはい。分かったから…………」
「うむ。今行く!!」
もう店の前までフィスが行ってしまったので、僕達は出来るだけ早くフィスの下に行こうと頑張った。
「…………のぅ、ルシア、わしも甘えて…………」
「……?何か言いましたか、アーシェさん?」
「…………いや、なんでもないぞ」
「………………?」
××××××××××××××××××××××××××××××
「はぁ、疲れた〜」
宿の部屋に入ってすぐに、フィスはベットに寝転がりそう言った。
「…………まぁたしかにわしも歩き疲れたが、一番疲れたのはルシアじゃろうな。お疲れ様じゃの、ルシア」
「うん。ありがとう」
「…………むぅ!!ルー君!!」
「わっ!?フィス!?まだ夕方!!」
「あ〜、わしはちと散歩に行ってくる。どの位が良いかのう?」
「アーシェさん!?止めてくださいよ!?」
「うーん……一時間くらいでいいわ」
「承知した」
…………部屋に入ってすぐなのに、なんでこうなるんだろう…………
そんなことを考えながら、僕はフィスに押し倒されてしまった。
××××××××××××××××××××××××××××××
「………………はぁ…………」
…………今頃、二人は楽しく交わっているんじゃろうな…………
ため息をつきながら、わしは夕方の中央通りを歩いている。
まだ暗くはなっていないので、子供達が楽しそうに遊んでいる。
…………その端の方でわしは、暗い顔をしてそれを遠目に見る。
…………こんな明るいところに今のわしは場違いじゃな。
そう思い、酒場に向かうことにした。
「いらっしゃい!!……っと、バフォメットか!!珍しいな!!」
酒場に入ると、気の良さそうな店主が挨拶をし、わしがバフォメットだったことに驚いていた。
…………ここは親魔物領なので人化しなくても平気じゃが、やはり驚かれはするらしい。
「やはり、魔物の客は珍しいかの?」
「まぁな!!俺の嫁さんは魔物なんだが、ここでの魔物の客は大半が人化してるらしい」
「ふむ、やはり近くに反魔物領があるからかの?」
「だろうな。……で、注文は?」
「…………おすすめの酒はあるかの?出来れば度のきついやつがよい。つまみも頼む」
「はいよ!!」
…………とにかく、嫌なことは飲んで忘れることにしたのじゃった…………
××××××××××××××××××××××××××××××
「…………ねぇ、ルー君…………」
「…………なにかな?フィス」
アーシェさんが出てから大体30分。すでに二回は果てて、少し休憩…………僕が提案。出来ればこのまま終わって欲しい…………していたところ、僕の胸に寄りかかっていたフィスが唐突に口を開いた。
「…………アーシェのこと、どう思ってるの?」
「…………どうって、いい人だと思うよ?」
「………………そうじゃなくて、異性として、男としてよ」
「………………………………」
男として…………か…………
ちょっとだけ…………難しいな…………
好きなのはフィスだけだよ。
そう言えたら、いいんだけど…………
…………アーシェさんはよく僕に気を利かせてくれる。
それに僕は好感を持ってる。
まぁ、それだけなら判断素材にはならない。
…………問題は……消えてる僕の記憶なんだよな…………
「正直に答えると、分からないっていうのが正しいかな…………?今の状態だと、フィスだけが好きだって言えるんだけど、忘れた部分が……なぁ…………」
「…………やっぱり、私を探している間に一緒に過ごしてるから……好きになっちゃったんだ……?」
「だから分からないって。ただ、気にはなるんだよね…………僕の忘れてる二ヶ月間に、僕が何を思ったのか。………………何せ、フィスに止められていた“イレイス”を使ったんだもんね…………」
…………たしか、最初に“イレイス”を使ったのは……最初にフィスを見つけたその二ヶ月後…………だったって言ってたな…………大体3年前か…………
フィスから聞いただけで確証はないんだけど、たしか…………そう、反魔物領だと知らないでフィスと一緒に街に入ったら、教会の連中に襲われて…………だったっけ?
とにかく、それ以降フィスからそれを使わないように言われてたんだよなぁ…………
そしてその後に…………
……………………余計なこと思い出したな…………
「…………ルー君、なんか勃ってるだけど…………」
「…………いやごめん。なんか考え事してたらフィスとの初めての話思い出しちゃって…………」
「……ふふ…………じゃあ、休憩はもういいでしょ?」
「…………はい………………」
というわけで、三回戦……開始…………
…………嬉しいには嬉しいけど、体力もつかなぁ…………
××××××××××××××××××××××××××××××
「なぁなぁ嬢ちゃんなんでこんなとこにいんだぁ?」
ちびちびと大人しく酒を飲んでいると、近くにいた酔っ払いに絡まれてしまった。
むぅ…………厄介じゃのう…………
あまり飲み過ぎないように酒を飲んでいたため、ほとんど酔っていないわしは、迷惑そうな顔をしながら答えた。
「この見た目でもわしは十分大人じゃ。ここで酒を飲んでなにが悪い?」
「ほぅ……そうなのかぁ……じゃあ俺とちょっと遊ぼうぜぇ…………?」
はぁー。と酒臭い息を吹きかけながら酔っ払いはわしのことを誘ってくる。
…………うざったいのぅ…………
「生憎じゃが今は気分が乗らん。他を当たってくれ」
「そんなこと言うなよぉ……俺とお前の仲だろう……?」
どんな仲じゃ…………
呆れながらわしは酔っ払いから離れる。
全く、魔物も人も、酔っ払いは何を言っているのか分からんのぅ…………
「俺とイイコトしようぜぇ…………?」
「いい加減にせんと怒るぞ?」
離れても尚もしつこく男は誘ってくる。
わしもそろそろ限界がくる。
ここらでやめて欲しいんじゃが…………
「いいじゃねぇかよぉ……!!…………こんなとこにいるってんなら、どうせ相手なんていないんだろぉ?」
「………………言いおったな?」
プツン、と自分の中で何かが切れた音がした。
「……ああそうじゃのう……今のわしには相手がおらん。好きな男は他の女といちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃ…………」
「ヒッ……………………!?」
今、わしは自分でも分かるくらいドス黒いオーラを発している。
それを肌で感じた男は酔いなんて一瞬で冷め、恐怖でジリ…………と後退りをした。
……全く、ルシアはわしが女であることを忘れてるのではないか……!?
それともフィスしか見えとらんのか!?
………………全く……!!…………全く…………!!
…………ああ、なんか考えたらムカムカしてきたぞ………………
「…………おい、そこの男!!」
「ヒァッ!?はっ、ハイ!!なんでございましょう!?」
「今日は呑むぞ!!奢れ!!」
「えぇ!?なんで俺が!?」
「ああ?なんか文句あるのか!?」
「いえ!!全くありません!!」
………………一時間で戻るつもりが、二倍も時間をかけてしまったのに気がついたのは、16本目の酒瓶を空にし、男が泣き始めた時だった………………
××××××××××××××××××××××××××××××
「…………アーシェさん、遅いね…………」
「……もう待たなくていいから食べようよ。お腹減っちゃったよ…………」
ヤり終えた後、僕達は夕飯を作ってアーシェさんのことを待っていた。
「……うーん…………でも、追い出しちゃったのは僕達の勝手で、だったし……待ってあげないと可哀想だよ……」
「でも、言っておいた一時間からもう一時間も過ぎてるじゃない!!」
うーむ、確かにフィスは一時間って言ってたのに、もう二時間は経ってる。
…………何か事故とかに巻き込まれちゃってるのかな…………?
うぅむ…………心配だ………………
と、そんなことを考えていると、部屋の扉が開いた。
「ただいま……なのじゃ………………」
「遅かったじゃない!!こっちはお腹ペコペコなのに!!」
「お帰りなさい。どうしたんですか?フラフラですよ?」
入ってきたのは、やはりアーシェさんだった。
何故か顔は赤みがさしていて、足元はフラフラだった。
「いやちょっと、酒を飲んできてしまっての…………」
……ああ、なるほど。確かに息が酒臭くなってる。
相当飲んできたんだろうなぁ…………
でも、そしたら…………
「あの……ご飯作ったんだけど、どうします?食べてきたんなら、片付けますけど…………」
「いや、いただくぞ。あっちではつまみしか食べておらんからのぉ」
ああ、良かった。
アーシェさんの分、無駄にならなかったな。
それに、フィスにも怒られないで済みそうだし。
「……にしても、アーシェって意外にお酒強いのね?匂いのキツさからすると、相当飲んだでしょ?」
「いや、さほど強いわけではないぞ?あっちではかなり荒れていたからのぉ…………」
…………荒れてるアーシェさんか…………
……見たくないな。というか、巻き込まれたくない。
まぁ、それはともかく。
「じゃあ食べましょうか。フィスもかなりお腹が減ってるようだしね……」
「うん!!早く食べよう!!」
「そうじゃの。すまんかったな待たせてしまって」
「いえいえ。追い出しちゃったのは僕達ですから…………じゃあ、いただきます」
「「いただきます(じゃ)」」
ちなみに、今回の夕飯はシチュー。
……僕が作ると、どうも簡単なものしか作れないからなぁ…………
二人がスプーンでシチューをすくって食べる。
……美味しかったらいいんだけど…………
ゴクリ……と無意識に少しだけ息を飲む。
「………………ふむ、美味いの」
「当たり前でしょ。ルー君のつくったものなんだから!!」
アーシェは少し驚いたように、フィスはニッコリと嬉しそうにそう言った。
よかった…………美味しかったか…………
ホッとしながら僕も一口食べる。
野菜などの具の味が染み込んでいて美味しい。
シチューの良さはこれだよなぁ…………
なんて、そんなことを考えていると、アーシェが食べながら話し始めた。
「……さて、サバトに向かってから約4日。大体後4、5日で着く。立ち寄る町もあと一つほどじゃ。で、じゃが、お主達、フィスの呪いが解けた後はどうするのじゃ?」
「え?呪いが解けた後…………ですか?」
うーん…………考えてなかったな…………
でも、とりあえずは………………
「そうですね…………故郷に……“ライン”に、帰るでしょうね。まずは」
「そうね…………ルー君の家族に挨拶もしないと…………」
「………………………………………………」
「まぁ、それを言うならアーシェさんはどうするんですか?」
「……?わしかの?わしは…………そうじゃのぅ………………まだ決めておらんわ」
「……あれ?てっきりサバトに戻るのかと思ったんだけど…………?」
「いや、サバトは…………あまり気が乗らん」
苦い顔をしながらアーシェさんは言う。
そういえば、なんでアーシェさんってサバトを持たない…………
「………………っ!?」
「……?どうしたの、ルー君?」
「ん…………いや、なんでも…………ない、かな?」
…………なんだろ……頭の奥が引っ掻かれるような…………
「なぜ自分のことなのに疑問符がつくんじゃ…………」
「え?ああ、なんかね、曖昧?みたいな感じだったから」
「「…………?」」
「とにかく、大丈夫。何も問題はないよ」
「なら、いいんじゃが…………」
「………………にしてもアーシェ、なんで突然そんなことを訊いてきたの?」
「…………いやの、少し、決めとかないといかんと思っての…………」
「…………?何をですか?」
「いや、こっちの話しじゃ。気にするな」
「…………そうですか…………」
うーん……なんか気になるんだけど、言外にもう訊くなって言ってるしなぁ…………
訊かない方がいいよな…………
そう結論付けて、僕はそれ以上この話題に触れないことにした。
それにしても、なんだろう…………
決めとかないといかんと思っての……
そう言った時のアーシェさんの顔は、何か悲しそうなものだったように思えた…………
街の中央通りを走っていたフィスが立ち止まって僕の方に振り返り、そんなことを言ってくる。
いやいやフィスさん?荷物持ち状態の僕にそれは辛いですよ?
“大蛇の洞窟”を出て四日目。僕達はとある街で買い出しをしている。
食料やら何やらを買い集めてるんだが、その荷物持ちはもちろん僕。重たい荷物を両腕に抱えていて、とてもじゃないが走れない。
「…………なんというか、大変じゃのう……」
「いえいえ。いつものことです」
隣で僕と歩調を合わせて歩いてくれているアーシェさんが、同情するように言ってくるが、そんなことはない。
「それに、好きな人に甘えられるのは、結構嬉しいことなんですよ?」
「……………………………………………」
「二人ともー!!」
「はいはい。分かったから…………」
「うむ。今行く!!」
もう店の前までフィスが行ってしまったので、僕達は出来るだけ早くフィスの下に行こうと頑張った。
「…………のぅ、ルシア、わしも甘えて…………」
「……?何か言いましたか、アーシェさん?」
「…………いや、なんでもないぞ」
「………………?」
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「はぁ、疲れた〜」
宿の部屋に入ってすぐに、フィスはベットに寝転がりそう言った。
「…………まぁたしかにわしも歩き疲れたが、一番疲れたのはルシアじゃろうな。お疲れ様じゃの、ルシア」
「うん。ありがとう」
「…………むぅ!!ルー君!!」
「わっ!?フィス!?まだ夕方!!」
「あ〜、わしはちと散歩に行ってくる。どの位が良いかのう?」
「アーシェさん!?止めてくださいよ!?」
「うーん……一時間くらいでいいわ」
「承知した」
…………部屋に入ってすぐなのに、なんでこうなるんだろう…………
そんなことを考えながら、僕はフィスに押し倒されてしまった。
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「………………はぁ…………」
…………今頃、二人は楽しく交わっているんじゃろうな…………
ため息をつきながら、わしは夕方の中央通りを歩いている。
まだ暗くはなっていないので、子供達が楽しそうに遊んでいる。
…………その端の方でわしは、暗い顔をしてそれを遠目に見る。
…………こんな明るいところに今のわしは場違いじゃな。
そう思い、酒場に向かうことにした。
「いらっしゃい!!……っと、バフォメットか!!珍しいな!!」
酒場に入ると、気の良さそうな店主が挨拶をし、わしがバフォメットだったことに驚いていた。
…………ここは親魔物領なので人化しなくても平気じゃが、やはり驚かれはするらしい。
「やはり、魔物の客は珍しいかの?」
「まぁな!!俺の嫁さんは魔物なんだが、ここでの魔物の客は大半が人化してるらしい」
「ふむ、やはり近くに反魔物領があるからかの?」
「だろうな。……で、注文は?」
「…………おすすめの酒はあるかの?出来れば度のきついやつがよい。つまみも頼む」
「はいよ!!」
…………とにかく、嫌なことは飲んで忘れることにしたのじゃった…………
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「…………ねぇ、ルー君…………」
「…………なにかな?フィス」
アーシェさんが出てから大体30分。すでに二回は果てて、少し休憩…………僕が提案。出来ればこのまま終わって欲しい…………していたところ、僕の胸に寄りかかっていたフィスが唐突に口を開いた。
「…………アーシェのこと、どう思ってるの?」
「…………どうって、いい人だと思うよ?」
「………………そうじゃなくて、異性として、男としてよ」
「………………………………」
男として…………か…………
ちょっとだけ…………難しいな…………
好きなのはフィスだけだよ。
そう言えたら、いいんだけど…………
…………アーシェさんはよく僕に気を利かせてくれる。
それに僕は好感を持ってる。
まぁ、それだけなら判断素材にはならない。
…………問題は……消えてる僕の記憶なんだよな…………
「正直に答えると、分からないっていうのが正しいかな…………?今の状態だと、フィスだけが好きだって言えるんだけど、忘れた部分が……なぁ…………」
「…………やっぱり、私を探している間に一緒に過ごしてるから……好きになっちゃったんだ……?」
「だから分からないって。ただ、気にはなるんだよね…………僕の忘れてる二ヶ月間に、僕が何を思ったのか。………………何せ、フィスに止められていた“イレイス”を使ったんだもんね…………」
…………たしか、最初に“イレイス”を使ったのは……最初にフィスを見つけたその二ヶ月後…………だったって言ってたな…………大体3年前か…………
フィスから聞いただけで確証はないんだけど、たしか…………そう、反魔物領だと知らないでフィスと一緒に街に入ったら、教会の連中に襲われて…………だったっけ?
とにかく、それ以降フィスからそれを使わないように言われてたんだよなぁ…………
そしてその後に…………
……………………余計なこと思い出したな…………
「…………ルー君、なんか勃ってるだけど…………」
「…………いやごめん。なんか考え事してたらフィスとの初めての話思い出しちゃって…………」
「……ふふ…………じゃあ、休憩はもういいでしょ?」
「…………はい………………」
というわけで、三回戦……開始…………
…………嬉しいには嬉しいけど、体力もつかなぁ…………
××××××××××××××××××××××××××××××
「なぁなぁ嬢ちゃんなんでこんなとこにいんだぁ?」
ちびちびと大人しく酒を飲んでいると、近くにいた酔っ払いに絡まれてしまった。
むぅ…………厄介じゃのう…………
あまり飲み過ぎないように酒を飲んでいたため、ほとんど酔っていないわしは、迷惑そうな顔をしながら答えた。
「この見た目でもわしは十分大人じゃ。ここで酒を飲んでなにが悪い?」
「ほぅ……そうなのかぁ……じゃあ俺とちょっと遊ぼうぜぇ…………?」
はぁー。と酒臭い息を吹きかけながら酔っ払いはわしのことを誘ってくる。
…………うざったいのぅ…………
「生憎じゃが今は気分が乗らん。他を当たってくれ」
「そんなこと言うなよぉ……俺とお前の仲だろう……?」
どんな仲じゃ…………
呆れながらわしは酔っ払いから離れる。
全く、魔物も人も、酔っ払いは何を言っているのか分からんのぅ…………
「俺とイイコトしようぜぇ…………?」
「いい加減にせんと怒るぞ?」
離れても尚もしつこく男は誘ってくる。
わしもそろそろ限界がくる。
ここらでやめて欲しいんじゃが…………
「いいじゃねぇかよぉ……!!…………こんなとこにいるってんなら、どうせ相手なんていないんだろぉ?」
「………………言いおったな?」
プツン、と自分の中で何かが切れた音がした。
「……ああそうじゃのう……今のわしには相手がおらん。好きな男は他の女といちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃ…………」
「ヒッ……………………!?」
今、わしは自分でも分かるくらいドス黒いオーラを発している。
それを肌で感じた男は酔いなんて一瞬で冷め、恐怖でジリ…………と後退りをした。
……全く、ルシアはわしが女であることを忘れてるのではないか……!?
それともフィスしか見えとらんのか!?
………………全く……!!…………全く…………!!
…………ああ、なんか考えたらムカムカしてきたぞ………………
「…………おい、そこの男!!」
「ヒァッ!?はっ、ハイ!!なんでございましょう!?」
「今日は呑むぞ!!奢れ!!」
「えぇ!?なんで俺が!?」
「ああ?なんか文句あるのか!?」
「いえ!!全くありません!!」
………………一時間で戻るつもりが、二倍も時間をかけてしまったのに気がついたのは、16本目の酒瓶を空にし、男が泣き始めた時だった………………
××××××××××××××××××××××××××××××
「…………アーシェさん、遅いね…………」
「……もう待たなくていいから食べようよ。お腹減っちゃったよ…………」
ヤり終えた後、僕達は夕飯を作ってアーシェさんのことを待っていた。
「……うーん…………でも、追い出しちゃったのは僕達の勝手で、だったし……待ってあげないと可哀想だよ……」
「でも、言っておいた一時間からもう一時間も過ぎてるじゃない!!」
うーむ、確かにフィスは一時間って言ってたのに、もう二時間は経ってる。
…………何か事故とかに巻き込まれちゃってるのかな…………?
うぅむ…………心配だ………………
と、そんなことを考えていると、部屋の扉が開いた。
「ただいま……なのじゃ………………」
「遅かったじゃない!!こっちはお腹ペコペコなのに!!」
「お帰りなさい。どうしたんですか?フラフラですよ?」
入ってきたのは、やはりアーシェさんだった。
何故か顔は赤みがさしていて、足元はフラフラだった。
「いやちょっと、酒を飲んできてしまっての…………」
……ああ、なるほど。確かに息が酒臭くなってる。
相当飲んできたんだろうなぁ…………
でも、そしたら…………
「あの……ご飯作ったんだけど、どうします?食べてきたんなら、片付けますけど…………」
「いや、いただくぞ。あっちではつまみしか食べておらんからのぉ」
ああ、良かった。
アーシェさんの分、無駄にならなかったな。
それに、フィスにも怒られないで済みそうだし。
「……にしても、アーシェって意外にお酒強いのね?匂いのキツさからすると、相当飲んだでしょ?」
「いや、さほど強いわけではないぞ?あっちではかなり荒れていたからのぉ…………」
…………荒れてるアーシェさんか…………
……見たくないな。というか、巻き込まれたくない。
まぁ、それはともかく。
「じゃあ食べましょうか。フィスもかなりお腹が減ってるようだしね……」
「うん!!早く食べよう!!」
「そうじゃの。すまんかったな待たせてしまって」
「いえいえ。追い出しちゃったのは僕達ですから…………じゃあ、いただきます」
「「いただきます(じゃ)」」
ちなみに、今回の夕飯はシチュー。
……僕が作ると、どうも簡単なものしか作れないからなぁ…………
二人がスプーンでシチューをすくって食べる。
……美味しかったらいいんだけど…………
ゴクリ……と無意識に少しだけ息を飲む。
「………………ふむ、美味いの」
「当たり前でしょ。ルー君のつくったものなんだから!!」
アーシェは少し驚いたように、フィスはニッコリと嬉しそうにそう言った。
よかった…………美味しかったか…………
ホッとしながら僕も一口食べる。
野菜などの具の味が染み込んでいて美味しい。
シチューの良さはこれだよなぁ…………
なんて、そんなことを考えていると、アーシェが食べながら話し始めた。
「……さて、サバトに向かってから約4日。大体後4、5日で着く。立ち寄る町もあと一つほどじゃ。で、じゃが、お主達、フィスの呪いが解けた後はどうするのじゃ?」
「え?呪いが解けた後…………ですか?」
うーん…………考えてなかったな…………
でも、とりあえずは………………
「そうですね…………故郷に……“ライン”に、帰るでしょうね。まずは」
「そうね…………ルー君の家族に挨拶もしないと…………」
「………………………………………………」
「まぁ、それを言うならアーシェさんはどうするんですか?」
「……?わしかの?わしは…………そうじゃのぅ………………まだ決めておらんわ」
「……あれ?てっきりサバトに戻るのかと思ったんだけど…………?」
「いや、サバトは…………あまり気が乗らん」
苦い顔をしながらアーシェさんは言う。
そういえば、なんでアーシェさんってサバトを持たない…………
「………………っ!?」
「……?どうしたの、ルー君?」
「ん…………いや、なんでも…………ない、かな?」
…………なんだろ……頭の奥が引っ掻かれるような…………
「なぜ自分のことなのに疑問符がつくんじゃ…………」
「え?ああ、なんかね、曖昧?みたいな感じだったから」
「「…………?」」
「とにかく、大丈夫。何も問題はないよ」
「なら、いいんじゃが…………」
「………………にしてもアーシェ、なんで突然そんなことを訊いてきたの?」
「…………いやの、少し、決めとかないといかんと思っての…………」
「…………?何をですか?」
「いや、こっちの話しじゃ。気にするな」
「…………そうですか…………」
うーん……なんか気になるんだけど、言外にもう訊くなって言ってるしなぁ…………
訊かない方がいいよな…………
そう結論付けて、僕はそれ以上この話題に触れないことにした。
それにしても、なんだろう…………
決めとかないといかんと思っての……
そう言った時のアーシェさんの顔は、何か悲しそうなものだったように思えた…………
10/10/22 12:33更新 / 星村 空理
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