〜泣いた青鬼〜第一.幕
冬の夕暮れ時・・・・・・
大都市は大江戸の端の端にある、大江戸八丁目は大江戸の中でも特別な場所である
それというのも、この大江戸八丁目には多くの妖が住んでいるからである
大江戸に住む彼女らの多くは、この大江戸八丁目に自然と集まってくる
もちろん全てではない
理由は様々だが、やはり人との間に溝を感じてのことだろう。
此処で暮らしてる妖は既に夫をもっている者たちや、人間に嫁いできた者達
それに、複雑な理由でここに来た妖も少なくはない
そんな場所なので今では八丁目は「妖人町」なんて呼ばれている
そんな妖と人間の暮らす町の更に端に一軒の平屋が存在する
そこには、一人の人間と二人の妖が住んでいる
彼らは「仲介屋」この町で問題や悩みを抱える者を人間、妖を問わず助ける存在。
そして今日も、悩みを抱えた妖の女性がその戸の前に立っている
「こ、ここが仲介屋さんか。すーーーーーはーーーーーーーーすーーーーー」
彼女は緊張した気持ちを落ち着けようと戸の前に立って深呼吸をしている途中に中から声が掛かる
「どうぞ〜お入りください。」
「わわっわ、は、はいぃぃ!」
中からの声に驚き慌てて大声で返事をすると彼女は緊張しながらも、その戸を開けた
「ようこそ、僕はこの店の主で安倍仲晴といいます。どうぞ汚いところですが上がってください。」
緊張した面持ちの彼女を落ち着かせるように店主はゆっくりと自己紹介をした。
「ははは、はい失礼します!」
それでも緊張している彼女の様子を見て店主は頬を描きながら奥に声を掛ける
「辰巳〜お茶よろしく〜少しさましたのをね〜」まったりとした声で奥に声を掛けた後に店主はもう一度優しく彼女に声を掛けた
「どうぞ外は寒いでしょ?コタツもありますし今、お茶もきますから。」
その言葉でようやく少し落ちついたのか彼女は草履を脱いだ
「で、では失礼します。」
そう言いながら彼女は冷えた足をコタツの中へと入れた・・・すると
「わわわ、な、中で何かが動きましよ!?モフモフした何かが!」
それを聞いて店主はコタツの布団をめくり中を覗く。
「コラ、タマ。コタツの中に入って寝ちゃダメだって言っただろう。」
仲には、可愛い小さな女の子が丸くなっていた、その女の子は店主の声を聴いて、目を擦りながら上半身を、依頼人である彼女の側から出した
「そんなこと言ったって、外は寒いのニャ、コタツの温かさが悪いのニャ。」
「タマ、いいからこっちに来なさいお客さんに失礼でしょ。早くしないと今日の夕飯のお魚無しよ?」
奥からお盆にお茶とお菓子を乗せて黒髪に淡い紫の着物を着た、美しい女性が出てきてちょっとだけ眉間に皺をよせてタマに言った
その言葉を聞くや否や、タマは風のような速さで店主の膝へと移動した。
「これでいいニャ?お魚ちゃんとタマにもくれるにゃ?」
そんなタマを撫でながら店主は客へ笑顔であやまった
「すいません、この子はタマ、後ろのは辰巳といいます。」
「よろしくニャお姉ちゃん!」「よろしくお願いします。」
「は、はい、よろしくです!!」
そして沈黙がながれた・・・・・・・・・・・・・・・
「あの失礼ですがお名前をお聞かせして頂いてもよろしいですか?」
店主はちょっと困り顔で彼女に言った
「ごごごごめんなさい!わわわ私、青鬼のスミレと言います!」
そう名乗った彼女の肌は青鬼の名の通り美しい青色だった、整った顔は鬼というには気弱すぎる感じで額の角も右に一本だけだ、そんな鬼のイメージとの、ギャップもあり彼女はとても儚げな美しさと清らかさを持っていた
歳はだいたい15・6歳といったところだろうか、あわてる様子が彼女を幼く見せているのかもしれない、青い肌に金色の刺繍の入った黒い着物が良く似合っていた
そんなスミレに店主は優しく言った
「スミレさんですか良いお名前ですね、どうぞ粗茶ですが飲んでください。」
「いっ頂きます!!・・・・・・ふぅ〜。」
一口すすり、もう一口、どうやら落ち着いたようだ。
「す、すいません、落ち着きがなくて。私、き、緊張とか突然の出来事に弱いんです。い、いつもこんなだから、ま、周りの人にも迷惑ばかり掛けてしまうんです。」
「ふふっ、そんな事無いと思いますよ?なんというか見ていて可愛く思いますよ。」
店主が言うと彼女の青い顔が急激に赤くなった。
「かかかかかっか、かわいいいいい!!!???だなんて!!」
その様子を見ていたタマと辰巳の眉間に皺がよる。
「な〜か〜は〜る〜(さ〜ま〜)」
二人の声と視線に店主はビクッとなり、慌て気味に話を進めた
「ははは・・・・。それで、今日はどのようなご用件で?」
その言葉で取り乱して錯乱していたスミレは我に帰り話を切り出した
「じ、実は・・・・」
〜数刻後〜
「でででは、よよ、よろしくお願いします!!」
スミレは頬を染めながら戸の前でお辞儀した
「はい、近日中に経過をお知らせします。」
珍しく笑顔が苦笑いになっている店主は、そう言いながら去っていくスミレを見送った
「珍しく困り顔ですね。クスッ」
店主の横で辰巳が笑いをこぼした
「まぁね〜、いつの時代も一目ぼれの恋が実るのは稀だからね〜。」
頬を描きつつスミレの去って行った方を見ながら店主が答える
「一目ぼれは悪いことなのかニャ?」
タマは頭に疑問符を浮かべたような顔で尋ねる
「そんなことは無いよ。でも、あまり上手くはいかないよって事さ。」
店主はタマの頭を撫でながらスミレから聞いた話を頭の中で纏めていった
・
・
・
・
・
・
・
話の内容を一言で言うなら「恋の悩み」といったところだろう
彼女は呉服問屋の一人娘でとても大事に育てられてきたそうだ
そのせいか、彼女は最近まで年若い男性と会話をしたこともなかったらしい
いわゆる箱入り娘という奴だ
それが最近になって町で噂の劇団一座の役者に一目惚れしてしまったそうだ
なんでも美青年で演技力も高いと町娘の間では大人気だそうだ
そんな彼に一目惚れしてしまった、彼女はウチに仲を取り持って欲しいと依頼に来たわけだ
正直あまり気の進まない内容だった
その役者のことは知らないが舞台役者への一目惚れが実る確率などめったにない
ましてや、彼女は妖で相手は人間である
認めたくはないが人間と妖が出会って直ぐに打ち解けあえる事は少ない
この依頼、厄介な事にならなければいいが。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
「「仲晴(さま)?」」
考えて黙り込む店主に二人が少し心配な顔して声をかける
辺りはもう暗く、家の中からこぼれる光だけが辺りを照らしている
裸電球のわずかな光は、二人の表情に浮かぶ心配の色をより顕著にしているように思えた
「大丈夫。さぁ、夕飯にしよう」
「はい!」「にゃ〜」
店主が答えると二人は周りを照らすような笑顔を浮かべた
二人が店の中へ入って行く背を見ながら店主は懐からキセルをとりだし火をつけた
そして、口から煙を出すと聞き取れない声で’ ’何かを唱える
煙は散らずに留まり、まるで意思を持つかのように店主の周りを自由に飛びまわる
「たのむよ、煙鬼」
店主は煙に向かって微笑むと煙は夜の闇へと消ええていった。
それを見送る店主の顔には、いつもの笑顔はなかった
「仲晴さま〜ごはん冷めちゃいますよ〜!」
「タマもう我慢できないにゃ〜早く食べようニャ〜」
そんな二人の声に表情をいつもの穏やかな笑顔に戻し店主も店の中へと入って行く
「今日の夕飯は何だい?」
「今日は寒いので豆腐と鱈でお鍋ですよ。」
「鱈にゃ?タマの分大盛りにゃ?」
「はいはい、仕方ないですね。」
「よかったなタマ。」
「やったにゃ〜!!」
「ちなみに豆腐はもちろん豆蔵さんのところのですよ」
「それは楽しみだ、さぁいただこう。」
そんな温かな空気の店内とは裏腹に
夜の闇は静かに深まっていった
〜泣いた青鬼〜第一幕[続]
大都市は大江戸の端の端にある、大江戸八丁目は大江戸の中でも特別な場所である
それというのも、この大江戸八丁目には多くの妖が住んでいるからである
大江戸に住む彼女らの多くは、この大江戸八丁目に自然と集まってくる
もちろん全てではない
理由は様々だが、やはり人との間に溝を感じてのことだろう。
此処で暮らしてる妖は既に夫をもっている者たちや、人間に嫁いできた者達
それに、複雑な理由でここに来た妖も少なくはない
そんな場所なので今では八丁目は「妖人町」なんて呼ばれている
そんな妖と人間の暮らす町の更に端に一軒の平屋が存在する
そこには、一人の人間と二人の妖が住んでいる
彼らは「仲介屋」この町で問題や悩みを抱える者を人間、妖を問わず助ける存在。
そして今日も、悩みを抱えた妖の女性がその戸の前に立っている
「こ、ここが仲介屋さんか。すーーーーーはーーーーーーーーすーーーーー」
彼女は緊張した気持ちを落ち着けようと戸の前に立って深呼吸をしている途中に中から声が掛かる
「どうぞ〜お入りください。」
「わわっわ、は、はいぃぃ!」
中からの声に驚き慌てて大声で返事をすると彼女は緊張しながらも、その戸を開けた
「ようこそ、僕はこの店の主で安倍仲晴といいます。どうぞ汚いところですが上がってください。」
緊張した面持ちの彼女を落ち着かせるように店主はゆっくりと自己紹介をした。
「ははは、はい失礼します!」
それでも緊張している彼女の様子を見て店主は頬を描きながら奥に声を掛ける
「辰巳〜お茶よろしく〜少しさましたのをね〜」まったりとした声で奥に声を掛けた後に店主はもう一度優しく彼女に声を掛けた
「どうぞ外は寒いでしょ?コタツもありますし今、お茶もきますから。」
その言葉でようやく少し落ちついたのか彼女は草履を脱いだ
「で、では失礼します。」
そう言いながら彼女は冷えた足をコタツの中へと入れた・・・すると
「わわわ、な、中で何かが動きましよ!?モフモフした何かが!」
それを聞いて店主はコタツの布団をめくり中を覗く。
「コラ、タマ。コタツの中に入って寝ちゃダメだって言っただろう。」
仲には、可愛い小さな女の子が丸くなっていた、その女の子は店主の声を聴いて、目を擦りながら上半身を、依頼人である彼女の側から出した
「そんなこと言ったって、外は寒いのニャ、コタツの温かさが悪いのニャ。」
「タマ、いいからこっちに来なさいお客さんに失礼でしょ。早くしないと今日の夕飯のお魚無しよ?」
奥からお盆にお茶とお菓子を乗せて黒髪に淡い紫の着物を着た、美しい女性が出てきてちょっとだけ眉間に皺をよせてタマに言った
その言葉を聞くや否や、タマは風のような速さで店主の膝へと移動した。
「これでいいニャ?お魚ちゃんとタマにもくれるにゃ?」
そんなタマを撫でながら店主は客へ笑顔であやまった
「すいません、この子はタマ、後ろのは辰巳といいます。」
「よろしくニャお姉ちゃん!」「よろしくお願いします。」
「は、はい、よろしくです!!」
そして沈黙がながれた・・・・・・・・・・・・・・・
「あの失礼ですがお名前をお聞かせして頂いてもよろしいですか?」
店主はちょっと困り顔で彼女に言った
「ごごごごめんなさい!わわわ私、青鬼のスミレと言います!」
そう名乗った彼女の肌は青鬼の名の通り美しい青色だった、整った顔は鬼というには気弱すぎる感じで額の角も右に一本だけだ、そんな鬼のイメージとの、ギャップもあり彼女はとても儚げな美しさと清らかさを持っていた
歳はだいたい15・6歳といったところだろうか、あわてる様子が彼女を幼く見せているのかもしれない、青い肌に金色の刺繍の入った黒い着物が良く似合っていた
そんなスミレに店主は優しく言った
「スミレさんですか良いお名前ですね、どうぞ粗茶ですが飲んでください。」
「いっ頂きます!!・・・・・・ふぅ〜。」
一口すすり、もう一口、どうやら落ち着いたようだ。
「す、すいません、落ち着きがなくて。私、き、緊張とか突然の出来事に弱いんです。い、いつもこんなだから、ま、周りの人にも迷惑ばかり掛けてしまうんです。」
「ふふっ、そんな事無いと思いますよ?なんというか見ていて可愛く思いますよ。」
店主が言うと彼女の青い顔が急激に赤くなった。
「かかかかかっか、かわいいいいい!!!???だなんて!!」
その様子を見ていたタマと辰巳の眉間に皺がよる。
「な〜か〜は〜る〜(さ〜ま〜)」
二人の声と視線に店主はビクッとなり、慌て気味に話を進めた
「ははは・・・・。それで、今日はどのようなご用件で?」
その言葉で取り乱して錯乱していたスミレは我に帰り話を切り出した
「じ、実は・・・・」
〜数刻後〜
「でででは、よよ、よろしくお願いします!!」
スミレは頬を染めながら戸の前でお辞儀した
「はい、近日中に経過をお知らせします。」
珍しく笑顔が苦笑いになっている店主は、そう言いながら去っていくスミレを見送った
「珍しく困り顔ですね。クスッ」
店主の横で辰巳が笑いをこぼした
「まぁね〜、いつの時代も一目ぼれの恋が実るのは稀だからね〜。」
頬を描きつつスミレの去って行った方を見ながら店主が答える
「一目ぼれは悪いことなのかニャ?」
タマは頭に疑問符を浮かべたような顔で尋ねる
「そんなことは無いよ。でも、あまり上手くはいかないよって事さ。」
店主はタマの頭を撫でながらスミレから聞いた話を頭の中で纏めていった
・
・
・
・
・
・
・
話の内容を一言で言うなら「恋の悩み」といったところだろう
彼女は呉服問屋の一人娘でとても大事に育てられてきたそうだ
そのせいか、彼女は最近まで年若い男性と会話をしたこともなかったらしい
いわゆる箱入り娘という奴だ
それが最近になって町で噂の劇団一座の役者に一目惚れしてしまったそうだ
なんでも美青年で演技力も高いと町娘の間では大人気だそうだ
そんな彼に一目惚れしてしまった、彼女はウチに仲を取り持って欲しいと依頼に来たわけだ
正直あまり気の進まない内容だった
その役者のことは知らないが舞台役者への一目惚れが実る確率などめったにない
ましてや、彼女は妖で相手は人間である
認めたくはないが人間と妖が出会って直ぐに打ち解けあえる事は少ない
この依頼、厄介な事にならなければいいが。
・
・
・
・
・
・
・
・
・
「「仲晴(さま)?」」
考えて黙り込む店主に二人が少し心配な顔して声をかける
辺りはもう暗く、家の中からこぼれる光だけが辺りを照らしている
裸電球のわずかな光は、二人の表情に浮かぶ心配の色をより顕著にしているように思えた
「大丈夫。さぁ、夕飯にしよう」
「はい!」「にゃ〜」
店主が答えると二人は周りを照らすような笑顔を浮かべた
二人が店の中へ入って行く背を見ながら店主は懐からキセルをとりだし火をつけた
そして、口から煙を出すと聞き取れない声で’ ’何かを唱える
煙は散らずに留まり、まるで意思を持つかのように店主の周りを自由に飛びまわる
「たのむよ、煙鬼」
店主は煙に向かって微笑むと煙は夜の闇へと消ええていった。
それを見送る店主の顔には、いつもの笑顔はなかった
「仲晴さま〜ごはん冷めちゃいますよ〜!」
「タマもう我慢できないにゃ〜早く食べようニャ〜」
そんな二人の声に表情をいつもの穏やかな笑顔に戻し店主も店の中へと入って行く
「今日の夕飯は何だい?」
「今日は寒いので豆腐と鱈でお鍋ですよ。」
「鱈にゃ?タマの分大盛りにゃ?」
「はいはい、仕方ないですね。」
「よかったなタマ。」
「やったにゃ〜!!」
「ちなみに豆腐はもちろん豆蔵さんのところのですよ」
「それは楽しみだ、さぁいただこう。」
そんな温かな空気の店内とは裏腹に
夜の闇は静かに深まっていった
〜泣いた青鬼〜第一幕[続]
12/08/12 05:53更新 / 北極@todo
戻る
次へ