連載小説
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〜狐の嫁入り〜第二幕
豆蔵がやってきたその夜

夕食も終わり、お茶を飲みながらまったりする妖万堂の三人

店主の膝には人間の姿のタマがすわって、あやとりをしている

何かができる度に店主に向き直っては、それを見せる

店主はその度にタマの頭を撫でながら「よくできたね〜」と褒めてやる。

辰巳はそんな二人の様子を見ながら、いそいそと針仕事を進めていく

そんな、ほのぼのした状況の中、戸の隙間から煙が帰ってきた

「お帰りニャ〜」「おつかれ様です」「ごくろうさん、それじゃ案内頼むよ」

それぞれに煙に声をかけると煙は形を整え「任」の文字をつくった

「よし支度して、二人とも。」

「はいなのニャ〜」「かしこまりました。」

数十分後、平屋を出て煙に連れられやってきたのは、大江戸八丁目からそんなに遠くはない森の中だった

この森の近くは、昼間は子供達の遊び場だが、夜の森はまるで人の侵入を拒んでいるかのように静かで、怪しい空気をもっていた

森の中心の開けた場所で、煙は止まった

「この近くかい?」店主が聞くと煙は「〇」の形になった

店主が辺りを見回すと、そこには一匹の白狐がいた。

とても美しい毛並と、どこか気品のようなものを感じさせる狐に

店主は、ニコニコと笑いながら声をかけた

「あなたが芒乃さんですね?」

狐は目を丸くして、店主の前まで歩いてきた

丁度店主の三メートル前くらいで止まると、月明かりを受けて狐の姿がみるみるうちに、人間の女性へと変わっていった

その女性はまるで聖女と娼婦が溶け合い混じりあったような空気を身に纏っていた

月明かりに照らされた彼女は実に美しかった

まるで絹糸のような長く白い髪を片側で結び

薄紅いろの唇はとても艶めかしく

腰は抱いたら折れてしまいそうな程細い

しかし、その目はどこまでも澄んだ泉のような清らかさを感じさせる

白い着物がよく似合う二十代前半の女性だ

「豆蔵さんから伺った通り、お美しいですね。」

店主は、微笑みながら彼女をみる

「なぜ、私が芒乃だと、わかったのですか?」

店主の賛辞にを気にもとめず、彼女は聞き返した

「なに、職業柄多くの妖の事件に関わってきましたからね。その経験と、あとは勘です。」

店主は、芒乃を優しさと、温かさの籠った目で答える

「なぜ、こんなことを?今のあなたを人でないと見抜ける者はそういません。事実、豆蔵さんも芒乃さんを人間の幼馴染だと思っていたでしょう?」

店主の声が森の中に響き、静かに暗闇の中に消えていく

その声に少し戸惑いながらも、芒乃が語りだした

「私は昔、豆蔵さんに罠から助けていただいて、それからずっとお慕いし続けています。はじめは、遠くから見ているだけで満足でした。でも、豆蔵さん狐の姿の私を怖がるんです。助けてもらった時に、私は、怖くて、何が何だか解かんなくなって、豆蔵さんに襲いかかったんです。」

芒乃の表情が段々と森の暗さに同化していく

店主は、そんな芒乃の言葉を真剣に黙ったまま只聞き続けた

「それでも、やっぱり傍にいたくて、私は人の姿で豆蔵さんと遊ぶようになりました。天にも昇る気持ちでした、豆蔵さんの傍で豆蔵さんの笑顔を見れて、同じ時間をすごせて、沢山の思い出を貰いました。私はこれで満足したつもりでした。でも、時が経てば経つほどに、豆蔵さんへの思いは強くなっていきました。豆蔵さんと夫婦になりたい、そう思ってしまったのです。」

それまで、店主の後ろで黙っていた二人が口を開いた

「そんなの当り前の事なのニャ、タマだって仲晴とずっと一緒にいたいのニャ、別におかしな事じゃニャいのニャ。」

「芒乃さん。豆蔵さんは、あなたの事を心配して私達に依頼されたんですよ。」

その言葉を聞いて、芒乃は、その美しい瞳に涙を浮かべた

「それでも、恐いんです。豆蔵さんは、狐をすごく嫌っています。私はそれがどれくらか確かめたくて、あんな手紙を出しました。豆蔵さんは、手紙を見るや脅えながら即座に筆を執り、断りの返事を書き始めました。それを見て私は、とても恐ろしくなりました、自分の正体がばれてしまうことが、あの、私に対する優しい笑顔が、脅えた顔になるのが。夫婦にになれば、いつかは私の正体も隠せない時が来ます。だから、そうなる前に・・・・・」

芒乃は涙を流しながら、すべてを話終えた

その時、ビキッ 店主達の後ろの大木から人影が現れた

その人影を見て、芒乃の顔に驚きと緊張が走った

「豆蔵さん。」

豆蔵は芒乃をじっと見つめている、眉間に皺をよせて何とも言えない表情で
彼女の名を呼んだ

「すまない芒乃。俺・・・お前が心配で、こっそり仲介屋さんのあとをつけてきて来たんだ。俺、俺・・・・・・」

そんな豆蔵を見て、芒乃は叫んだ

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

その叫び声は森の静寂を破り、森中の眠りをさました。

芒乃の目は濁り、彼女は黒い霧のような者に包まれていく

「まずいっ!」

店主が叫んだ瞬間、芒乃の周りに漂っていた黒い霧が一気に彼女から噴き出した

噴き出した黒い霧は、完全に彼女を包こんだ

すると、その黒い霧は半実態化し、黒い大きな化け物になった

濁った一つ目に、大きく裂けた口、長い爪の生えた指が三本

その中心には縮こまって意識を無くした芒乃がいた

「な、なんだこいつはっ」

豆蔵は腰を抜かしてその場に座り込む

そんな豆蔵の前に店主は躍り出て振り返らずに、話始めた

「あれは、物の怪。人や妖の強い負の思いから生まれる異形の存在。時に人や妖に害をなす危険な存在。」

「物の怪。」

さっきまでとは違って、とても真剣な表情の店主

そして、豆蔵は我に帰った

「芒乃・・・芒乃は大丈夫なんですか!?」

慌てふためく豆蔵に店主はいった

「このままだと危険です、物の怪を生んで今の彼女の精神は危険な状態にあります。そして、物の怪は彼女の精神に多大な負荷をかけ続けます。このまま放って置けば精神を物の怪に食われ、彼女の心は壊れます。」

それを聞いた豆蔵は店主の想像だにしない行動をとった

「芒乃を離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

豆蔵は、その場にあった木の棒を手に、物の怪に向かって走り出しました

「すすきのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

しかし物の怪は、向かってきた豆蔵を、その大きな腕で吹き飛ばしました

豆蔵はまるで小石のよに宙を舞い店主の真横に落ちた

「す すき のを・・・」

傷だらけで喋るのすら辛そうな豆蔵に店主はしゃがんで、彼の胸に手をあて
聞き取れない声で何かを唱えた

すると、豆蔵の傷が見る見るよくなっていった

何が起きたのか解からない豆蔵に店主は普段の優しい笑顔で言った

「ここからは、僕達のしごとです。どうぞ安心して見ていてください。」

そう言い終えると、いつもの笑顔は真剣な表情へと変わった

「辰巳!タマ!、やるぞっ!!」

その言葉に呼応して二人は物の怪の前に躍り出た

「わっかてるニャ!」「心得ております。」

二人はそれぞれ袖から何かを取り出した

タマは神社の儀式で使う鈴

辰巳は刀身も鞘も無い刀の柄

「猫又式鈴術、清音ニャん!」

タマは物の怪の前で舞いながら鈴を鳴らし始めた

すると、物の怪はその場で耳抑えて苦しみだした

リン リン と音が鳴る度に物の怪の周囲に漂う黒い霧が霧散していった

辺り一面まるで、神聖な霊所のような清らかな空気になる

そして

「目覚めて 竜刀 爪牙!」

辰巳の声に呼応して、柄から刀身が生えてきた

生えてきた鋼のやいばは、うっすらと青白い光を帯びていた

「竜神式剣術 一の型、堅角!」

辰巳はまるで紫電のような踏込で物の怪めがけて渾身の突きを放つ

辰巳の刀が物の怪の目玉に突き刺さる

そのまま、一気に物の怪の体を切りおろす

「がぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁ」

物の怪が苦しみのあまり絶叫する

切り開かれた物の怪の体から辰巳は、芒乃を抱き抱えて飛び退く

「仲晴!」「仲晴様!」「今(ニャ)(です)!!」

二人の後ろに控えていた店主は懐から一丁のリボルバー式の拳銃を取り出した

不思議なことに、その薬室には弾が入っていない

そして、店主はまた聞き取れない声で何かを唱えた

すると、店主の足元に幾何学的な五芒星の魔法陣が現れた

店主は物の怪の方をじっと見つめた

物の怪は、核となる芒乃を失い口だけ残して大きな黒い霧に戻りつつあった

「いや、お願い私を嫌わないで、ずっと傍にいさせて、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいいややいやいやいやいやいやいやいややいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいいいやいやいやいいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや・・・」

物の怪の口からは芒乃の声でそんな言葉が聞こえてきた

その声はただただ儚く、夜の風にかき消されてしまいそうだった

「我が名は、安倍仲晴。陰陽と魔道の血に名を連ねる者なり。悲しき心より生まれし、物の怪よ今その心を解き放つ。」

店主の言葉に呼応して魔法陣は無数の光の奔流となって、拳銃の薬室におさまった

「大丈夫、きっと・・・・うまくいくよ。」

物の怪に笑いかけながら、そんなこと言って店主は引き金を引いた

銃口からは、さっき薬室に集まって行った時とは比べものにならない量の光が噴き出した

物の怪はその閃光に飲まれ、跡形も無く消えていった

「ありがとう・・・・・・。」

静かな森の中でさえ聞こえるかわからないくらいの小さな声で、そんな言葉が聞こえた気がした。

すべてが終わり、やっと目の前の状況が終わったことに気付いた豆蔵は急いで辰巳に抱きかかえられている芒乃に駆け寄った

「芒乃!芒乃!おい芒乃!返事してくれ!」

その声に答えるかのように、ゆっくりと目を開ける芒乃

「まめ・・ぞ・・・うさん、・・・はっ!」

芒乃は、我に返り豆蔵の存在を認識した

「ごめんなさい豆蔵さん。私、あなたを今までずっと騙して・・・お嫌いになりましたよね?だって私は狐なんですもの、あなたの嫌いな。」

その言葉を聞いた豆蔵は彼女に歩み寄り、彼女を・・・・抱きしめた

「ごめんな、気づいてやれなくて、誰よりも同じ時を過ごしてきたのに。誰よりも傍にいたのに。なぁ芒乃、俺がお前を好きなのに狐かどうかなんて関係ない。俺はお前がいなくなった時自分の身も心も半分に割かれた思いだった。それに、俺が手紙に直ぐ断りの返事を書いたのは俺にはお前という心に決めた人がいたからなんだ。」

「豆蔵さん・・・」

「頼む、もう俺の傍から離れないでくれ。一生一緒にいてくれ。俺の嫁になってくれ」

芒乃は、また瞳に涙を浮かべた。しかし、その瞳はいつも以上に澄んでいた

「はい・・・・喜んで。末永くお傍に・・・」

そんな二人を、少し離れて三人は温かく見つめていた

「一件落着だな」「ニャ〜」「はいっ。」
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〜数日後〜

「ニャンニャンニャニャニャ〜ン」

縁側に座る仲晴の膝に頭を乗せて鼻歌を口ずさむタマ

そこへ、辰巳が奥の間から出てくる

「ほら、タマも仲晴様も支度してください。式に遅れてしまいますよ。」

そんな言葉を受けてタマと仲晴は重い腰を上げた

「そうだな、折角招待して頂いたんだ遅れる訳にはいかないな。」

タマの頭を撫でながら仲晴が言った

「結婚式楽しみだニャ〜、ご馳走いっぱいニャ〜、お腹が茉莉みたいになるまで食べるのニャ、そんでいっぱい遊ぶニャ」

「駄目よタマお行儀よくしててね。折角綺麗な着物なんだから。」

ちょっと困った顔浮かべつつも、タマの無邪気さに負けそうな辰巳

「さて、じゃあ行こうか。」

三人はしっかりと正装して平屋の戸を開けた

すると外は明るく太陽も出ているのに雨が降っている

「やばい、急ごう!はじまってしまう!」

三人は一つの番傘に仲良く入り歩きだした。

そう、昔から晴れた空に降る雨は「狐の嫁入り」を知らせるものなんだ。



余談だが

最近大江戸では、おいしい油揚げを作る豆腐屋が評判らしい

そこの女将さんはとても美しく旦那さんと仲睦まじく暮らしているそうな

そこの旦那曰く、油揚げの美味しさの秘密は「妻への愛」だそうな。


         〜狐の嫁入り〜  =完=
11/09/28 20:29更新 / 北極@todo
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■作者メッセージ
なんとか書き終えましたが、
誤字脱字が多くまだまだ自分の
表現の稚拙さが目立ちます
今後は、もっと豊かな表現を
覚えていきたいと思います

最後までお付き合いいただきありがとうございました^^

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