〜狐の嫁入り〜第一幕
「ここか、仲介屋というのは。」
大江戸の端っこにある平屋の前に、一人の青年が立っていた
髪はボサボサでちょっと茶色がかっている、服はピシッとした着物に羽織も
羽織っている。
しかし、どことなく気の弱そうな雰囲気を醸し出している彼が、
今回の依頼人、名を 豆蔵 という。
豆蔵は恐る恐る平屋の戸を叩こうとした時だった。
中からほのぼのとした声が聞こえた。
「どうぞ〜そのまま、お入りくださ〜い」
豆蔵は少しオドオドとして、躊躇いながらも戸を開いた。
中には畳の上に座布団とちゃぶ台そして桐箪笥という民家の居間のような
空間が広がっていた、その真ん中にはこの店の店主と思しき人物が猫を膝に乗せて座っていた。
歳の頃は十代後半〜二十歳前後といったところで、
よれた上に褪せた色の着物に、薄い若草色の羽織を羽織っている。
髪は色素の薄い灰色で、それを短髪にしている、目鼻立ちも悪くなく、特に目は綺麗な金色をしていた。
しかし、そんな青年なのにどこか、年寄りのような空気を身に纏っている。
「いらっしゃいませ、ココは仲介屋、人と妖の間に起きた問題を解決します、今日はどのようなご用件で?」
ニコニコとした優しい笑顔で店主は言った。
「仲晴〜先に自己紹介しニャきゃダメニャ〜」
豆蔵は驚いた、女性の声が聞こえた事にではなく、その声が他ならぬ猫からすることに。
「こーら、タマその姿でしゃべらないっ、お客さんがビックリするだろ、僕も自己紹介するから、お前もちゃんと人型でご挨拶しなさい」
「分かったニャ〜」
そう言い終わると猫は店主の膝から降りて伸びをした
すると、その猫のシルエットはみるみる内に少女の形えと変わった
「申しおくれました、僕はこの仲介屋の店主で安倍仲晴と申します、そして今、猫から人に変わったのが猫又のタマと言います。」
「タマだニャ〜よろしくニャ〜」
そう言った猫又の少女はとても可愛らしかった。
クリッとした目に、耳は猫のまま、茶色っぽい髪、幼さが抜けきらない顔だちに
裾の短い赤い着物が相まって彼女に太陽のよう明るさと、活発的な印象を与える
「驚きました、妖についての相談所にまさか妖がいるなんて」
豆蔵は驚きながらも、猫又の少女の無邪気な印象の、お蔭か割とすんなり状況
をうけいれた。
「で、ご用件は?」
店主が優しく促した
「はっ、そうでした実は・・・・」
彼の話を纏めると、こういうことだ・・・・
彼は町の大きな豆腐屋の跡取りで豆蔵というらしい、数日前彼の家に一通の手紙が届いたそうだ
内容は「いつもあなたのことをお慕いしています、この気持ちをもうおさえられません、次の満月の日にお迎えに上がります。嫁狐より」というものだ
しかし、彼には既に思い人がいるのと断るため、この手紙に返事を書いたところ
その思い人が姿を消してしまったとのことである
彼は、それが狐が嫉妬か怒りでした事ではないかと思い今日ココに来たということだ
すべて話終えたところで、店主が奥の方に声をかけた。
「辰巳〜すまんが、お茶とお菓子をもってきてくれるか〜」
すると奥から澄んだ声が聞こえてきた
「はい、かしこまりました、おいくつですか?」
「四人分頼む〜」
店主は向き直り私に申し訳なさそうな顔をした
「すいません、先に出すのが常識ですよね。つい、うっかりしてました」
「そっそんな気にしないでください」
豆蔵はあわて気味に答えたが、話していてた自分が汗を書いていることに気付いた
「いえいえ、お茶もださないんじゃウチの店の沽券にかかわりますから」
店主は明るい笑顔で豆蔵に微笑んだ
「では、いただきます」
話しているうちに知らず知らずに自分が熱くなっているのに気づき豆蔵はお茶を頂くことにした
「ところで二、三お聞きしてもよろしいですか?」
さっきまでの優しいほのぼのとした声音に少し真剣差が挿す
「かまいませんが、なんですか?」
「まず、あなたの思い人のお名前と、その詳細。それと狐に好かれるようなことをした覚えがあるかどかです」
「は、はい わかりました。」
「彼女の名は芒乃といいます。昔からの幼馴染で、いなくなる前はウチの豆腐屋で働いてました。私が言うのも何ですが、お淑やかな美人だと思います。」
「そうですか、それは是非あってみたいですね〜、それで狐の方の心あたりは?」
「あるには、ありますが・・・・・」
「話して下さい」
店主の真剣差が増す
「昔、子供の頃に山で遊んでいた時に猟師の罠に掛かった子ぎつねを助けたことがありますが、私はその子狐に襲われまして、その時から狐が怖くて近づいてもいないので、心当たりがあるとすれば、それだけなのですが・・・・・
やはり、あの狐が芒乃を消したんですかね・・・・許せません。」
後半、豆蔵の声に怒りの色が隠れていた
「まだ、そうと決まったわけではございませんよ」
奥から澄んだ声とともに、お盆にお茶とお菓子をのせて綺麗な黒髪の女性が出てきた
目はとても深い吸い込まれそうな黒で、体の線は大人の女性を思わせるとてもバランスが取れたものだった。
薄紫の着物がとてもよく似合う。
静かで、儚げ、でも芯の強うそうな雰囲気はどこか闇夜をてらす月のような印象を彼女にあたえている
「私は、辰巳と申します。どうぞ粗茶ですが。」
柔和な空気に自分が鬼のような形相になっていることに気付く豆蔵。
「いただきます・・・」
勧められた、お茶を飲むと少し心が落ち着いた。
「おいしいです。」
その言葉を聞いて辰巳は満足げに笑みをうかべた
「話は、わかりました。失礼ですが髪の毛を一本拝借します。」
そういった店主は、豆蔵の頭から髪を一本抜いた プチっ
「痛っ、なにするんですか!?」
少し驚いた豆蔵に店主はゆっくりと言った
「いえ、芒乃さんを探すのに少々必要なんですよ。」
「へっ?」
何を言ってるのか解からず呆けている豆蔵を見て、店主は言った
「まぁ、わからないのも無理ありませんね。普通の人間には縁も所縁もないことですから。」
「それを、どう使うんですか?」
不思議そうな顔を浮かべて豆蔵は店主を見た。
すると店主は、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「企業秘密です、あと今日はお帰りください、また後日いらっしゃるまでに調べておきますから。」
豆蔵は少し不満そうな顔を浮かべながらも、ココで自分にできることがあるわけでもないと、渋々ながら帰って行った。
「さて、始めるか。」
そう言った店主はキセルを取り出し火をつけた。
店主の口からもわっと出てきた煙に向かって店主が聞き取れない声で何かを唱えた
すると霧散して消えるはずの煙はそこに留まっているではないか
彼は煙の中心に豆蔵の髪を入れると煙は実態があるかのように、その髪を取り込んだ
「さぁ、探してきておくれ。この髪の主の思い人を。」
やさしく煙に語りかけると煙は戸の隙間から外へと消えた
「さて、式神が帰ってくるまでは、出来ることもないし、僕は調合した薬を診療所に届けてくるよ。」
店主は立ち上がって脇に包みを抱えて草鞋を履いた。
「昼までには帰るよ、今日の昼ご飯はなに?」
店主の質問に辰巳は嬉しそうに答えた
「今日は良い秋刀魚があるので、それを七輪で焼いて、お味噌汁はさっき豆蔵さんに頂いたお豆腐と、ワカメです。」
「ニャ!秋刀魚かニャ〜楽しみなのニャ〜 ダラ〜 」
ヨダレをたらす、タマにちょっと呆れつつ、辰巳は手拭いを取り出した
「もう、タマったらヨダレ出てるわよ、ほらこっち向いて。」
優しく顔を拭かれつつ、タマは満面の笑みで辰巳に抱き着いた
「ありがとニャ、辰巳大好きニャ〜」
甘えてくるタマの頭を優しくなでながら、辰巳は店主をみる
「いってらっしゃいませ。」
「いってらっしゃいニャ〜。」
そんな二人を見つめて店主は優しい顔をした
「いってきます。」
〜第二幕に続く〜
大江戸の端っこにある平屋の前に、一人の青年が立っていた
髪はボサボサでちょっと茶色がかっている、服はピシッとした着物に羽織も
羽織っている。
しかし、どことなく気の弱そうな雰囲気を醸し出している彼が、
今回の依頼人、名を 豆蔵 という。
豆蔵は恐る恐る平屋の戸を叩こうとした時だった。
中からほのぼのとした声が聞こえた。
「どうぞ〜そのまま、お入りくださ〜い」
豆蔵は少しオドオドとして、躊躇いながらも戸を開いた。
中には畳の上に座布団とちゃぶ台そして桐箪笥という民家の居間のような
空間が広がっていた、その真ん中にはこの店の店主と思しき人物が猫を膝に乗せて座っていた。
歳の頃は十代後半〜二十歳前後といったところで、
よれた上に褪せた色の着物に、薄い若草色の羽織を羽織っている。
髪は色素の薄い灰色で、それを短髪にしている、目鼻立ちも悪くなく、特に目は綺麗な金色をしていた。
しかし、そんな青年なのにどこか、年寄りのような空気を身に纏っている。
「いらっしゃいませ、ココは仲介屋、人と妖の間に起きた問題を解決します、今日はどのようなご用件で?」
ニコニコとした優しい笑顔で店主は言った。
「仲晴〜先に自己紹介しニャきゃダメニャ〜」
豆蔵は驚いた、女性の声が聞こえた事にではなく、その声が他ならぬ猫からすることに。
「こーら、タマその姿でしゃべらないっ、お客さんがビックリするだろ、僕も自己紹介するから、お前もちゃんと人型でご挨拶しなさい」
「分かったニャ〜」
そう言い終わると猫は店主の膝から降りて伸びをした
すると、その猫のシルエットはみるみる内に少女の形えと変わった
「申しおくれました、僕はこの仲介屋の店主で安倍仲晴と申します、そして今、猫から人に変わったのが猫又のタマと言います。」
「タマだニャ〜よろしくニャ〜」
そう言った猫又の少女はとても可愛らしかった。
クリッとした目に、耳は猫のまま、茶色っぽい髪、幼さが抜けきらない顔だちに
裾の短い赤い着物が相まって彼女に太陽のよう明るさと、活発的な印象を与える
「驚きました、妖についての相談所にまさか妖がいるなんて」
豆蔵は驚きながらも、猫又の少女の無邪気な印象の、お蔭か割とすんなり状況
をうけいれた。
「で、ご用件は?」
店主が優しく促した
「はっ、そうでした実は・・・・」
彼の話を纏めると、こういうことだ・・・・
彼は町の大きな豆腐屋の跡取りで豆蔵というらしい、数日前彼の家に一通の手紙が届いたそうだ
内容は「いつもあなたのことをお慕いしています、この気持ちをもうおさえられません、次の満月の日にお迎えに上がります。嫁狐より」というものだ
しかし、彼には既に思い人がいるのと断るため、この手紙に返事を書いたところ
その思い人が姿を消してしまったとのことである
彼は、それが狐が嫉妬か怒りでした事ではないかと思い今日ココに来たということだ
すべて話終えたところで、店主が奥の方に声をかけた。
「辰巳〜すまんが、お茶とお菓子をもってきてくれるか〜」
すると奥から澄んだ声が聞こえてきた
「はい、かしこまりました、おいくつですか?」
「四人分頼む〜」
店主は向き直り私に申し訳なさそうな顔をした
「すいません、先に出すのが常識ですよね。つい、うっかりしてました」
「そっそんな気にしないでください」
豆蔵はあわて気味に答えたが、話していてた自分が汗を書いていることに気付いた
「いえいえ、お茶もださないんじゃウチの店の沽券にかかわりますから」
店主は明るい笑顔で豆蔵に微笑んだ
「では、いただきます」
話しているうちに知らず知らずに自分が熱くなっているのに気づき豆蔵はお茶を頂くことにした
「ところで二、三お聞きしてもよろしいですか?」
さっきまでの優しいほのぼのとした声音に少し真剣差が挿す
「かまいませんが、なんですか?」
「まず、あなたの思い人のお名前と、その詳細。それと狐に好かれるようなことをした覚えがあるかどかです」
「は、はい わかりました。」
「彼女の名は芒乃といいます。昔からの幼馴染で、いなくなる前はウチの豆腐屋で働いてました。私が言うのも何ですが、お淑やかな美人だと思います。」
「そうですか、それは是非あってみたいですね〜、それで狐の方の心あたりは?」
「あるには、ありますが・・・・・」
「話して下さい」
店主の真剣差が増す
「昔、子供の頃に山で遊んでいた時に猟師の罠に掛かった子ぎつねを助けたことがありますが、私はその子狐に襲われまして、その時から狐が怖くて近づいてもいないので、心当たりがあるとすれば、それだけなのですが・・・・・
やはり、あの狐が芒乃を消したんですかね・・・・許せません。」
後半、豆蔵の声に怒りの色が隠れていた
「まだ、そうと決まったわけではございませんよ」
奥から澄んだ声とともに、お盆にお茶とお菓子をのせて綺麗な黒髪の女性が出てきた
目はとても深い吸い込まれそうな黒で、体の線は大人の女性を思わせるとてもバランスが取れたものだった。
薄紫の着物がとてもよく似合う。
静かで、儚げ、でも芯の強うそうな雰囲気はどこか闇夜をてらす月のような印象を彼女にあたえている
「私は、辰巳と申します。どうぞ粗茶ですが。」
柔和な空気に自分が鬼のような形相になっていることに気付く豆蔵。
「いただきます・・・」
勧められた、お茶を飲むと少し心が落ち着いた。
「おいしいです。」
その言葉を聞いて辰巳は満足げに笑みをうかべた
「話は、わかりました。失礼ですが髪の毛を一本拝借します。」
そういった店主は、豆蔵の頭から髪を一本抜いた プチっ
「痛っ、なにするんですか!?」
少し驚いた豆蔵に店主はゆっくりと言った
「いえ、芒乃さんを探すのに少々必要なんですよ。」
「へっ?」
何を言ってるのか解からず呆けている豆蔵を見て、店主は言った
「まぁ、わからないのも無理ありませんね。普通の人間には縁も所縁もないことですから。」
「それを、どう使うんですか?」
不思議そうな顔を浮かべて豆蔵は店主を見た。
すると店主は、悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「企業秘密です、あと今日はお帰りください、また後日いらっしゃるまでに調べておきますから。」
豆蔵は少し不満そうな顔を浮かべながらも、ココで自分にできることがあるわけでもないと、渋々ながら帰って行った。
「さて、始めるか。」
そう言った店主はキセルを取り出し火をつけた。
店主の口からもわっと出てきた煙に向かって店主が聞き取れない声で何かを唱えた
すると霧散して消えるはずの煙はそこに留まっているではないか
彼は煙の中心に豆蔵の髪を入れると煙は実態があるかのように、その髪を取り込んだ
「さぁ、探してきておくれ。この髪の主の思い人を。」
やさしく煙に語りかけると煙は戸の隙間から外へと消えた
「さて、式神が帰ってくるまでは、出来ることもないし、僕は調合した薬を診療所に届けてくるよ。」
店主は立ち上がって脇に包みを抱えて草鞋を履いた。
「昼までには帰るよ、今日の昼ご飯はなに?」
店主の質問に辰巳は嬉しそうに答えた
「今日は良い秋刀魚があるので、それを七輪で焼いて、お味噌汁はさっき豆蔵さんに頂いたお豆腐と、ワカメです。」
「ニャ!秋刀魚かニャ〜楽しみなのニャ〜 ダラ〜 」
ヨダレをたらす、タマにちょっと呆れつつ、辰巳は手拭いを取り出した
「もう、タマったらヨダレ出てるわよ、ほらこっち向いて。」
優しく顔を拭かれつつ、タマは満面の笑みで辰巳に抱き着いた
「ありがとニャ、辰巳大好きニャ〜」
甘えてくるタマの頭を優しくなでながら、辰巳は店主をみる
「いってらっしゃいませ。」
「いってらっしゃいニャ〜。」
そんな二人を見つめて店主は優しい顔をした
「いってきます。」
〜第二幕に続く〜
11/11/08 08:08更新 / 北極@todo
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