1話 ・・・日常?
キーンコーンカーンコーン・・・
「セ・・・セーフ・・・。」
「ハァ・・・ハァ・・・。危なかったぁ・・・。」
急いで走ってきたお陰か何とかチャイムがなる直前に校門に入り、間に合う事が出来た。
今日は朝の小テストも無いから、授業開始までは少し時間がある。ついでなので部室に顔を出しておこう。
「美夜、俺は部室に顔出してから教室に向かうから先行っててくれ。」
「え?あ、うん。じゃあ先に行って待ってるね?」
「じゃあまた後で。」
美夜に別れを告げて、体育館にある部室へと足を向ける。
言い忘れていたが俺はこれでも剣道部に所属している。まあそこまで強い訳じゃないけど、護身や美夜を守れる程度の腕はあるつもりだ。
ちなみに、ココ天宮学園は「学園」と付いてはいるが所詮田舎の学校。そこまで豪華じゃない。実のところ少し大きい高校の校舎と言った感じで、体育館も長年外側が手入れされていないのか何処か古臭い。クラスも高等部で20人が2クラスと少ない。正直、一クラスでも十分ではないかと思えてしまう程だ。
そんな体育館の隣にある、プレハブ小屋のような部室のドアに手を掛ける。
「うい〜っす、お疲れさ〜ん。」
「何だ天地か。遅かったじゃない。」
中の状態を見た瞬間、俺の時が周りの空気と共に止まった。
無理も無い。中ではクラスメートでリザードマンの篠崎楓(しのさき かえで)が着替えをしていたのだ。急いでドアを閉める。幸い、まだ脱ぎ始めたばかりなのか練習用の着物の下に着ているブラジャーが見えた程度で済んだ。
「・・・お前なぁ、着替えてるんだったらそう言えよ・・・。」
「?何を恥しがってんのよ、見て何かが減る訳じゃなし。」
「寿命が減る。」
「あっそ。」
ドアの向こうから呆れたような声が聞こえてくる。かなり心臓に悪いが、これでもまだ良い方だ。一時など、練習あがりに着替えていたら何の断りも無しに部室に入ってきて固まってる俺の隣で平然と時分の水筒の中身を飲んでいたりする。
・・・お前も女ならもう少し羞恥心をだな・・・。
何度も楓に自重しろと言っているものの、幾度と無く一蹴されてきた。なので最近は俺から気をつけることにしている。・・・それでも今みたいな事に三回に一回はなるんだが。
「ハァ・・・。先、教室行ってるからな?」
「了解、すぐに向かうわ。」
俺は楓の居る部室を後にして校舎に裏口から入る。
ココからなら左へ曲がった階段から上がるのが一番早かった事を思い出し、角を曲がる。そのまま階段を上がって教室のある2階へと向かった。そして教室に入る。
「おはよ〜っす。」
「おはよ〜。」
「はよ〜。」
朝の所為なのかクラスの殆どがやる気の無い声で挨拶を返してきた。一部机に突っ伏して眠ってる奴まで居る。まあ、数分も経たずに俺も後者の仲間入りになるのだが。窓際にある自分の机に座り、鞄を机の横にあるフックに掛ける。腕を枕にして突っ伏すと、自然と瞼が垂れて来た。
・・・暖かい、な・・・。
うとうととし始めた矢先、不意に声を掛けられた。
「陽ちゃん、起きて!」
「んあ・・・?」
顔を上げると、すぐ近くにしかめっ面をした美夜の顔があった。
「・・・何?」
「陽ちゃん、今日日直でしょ!?ほら、のんびりしてないの!」
そう言って美夜が俺の腕を掴んで立たせようとする。しかし所詮はか弱い女子高生の力、剣道で鍛えた俺の体を持ち上げるのは到底無理だった。
「じゃあ、美夜が俺を動かせたら動こうかな〜。」
「・・・・・・。」
再び机に突っ伏して目を瞑りながら意味も無く意地悪な事を言ってみる。・・・先に言っておくが、俺は別にサディスティックな性分は無い。今の一言も先程言った通り、特に意味は無い。目を瞑っているので分からないが多分美夜も諦めてくれただろう。
これで1時限目までゆっくりと・・・。
「こら、起きな天地。」
「ぶっ!?」
突然美夜とは違う声が聞こえ、俺の頭に強い衝撃が降ってきた。お陰で思い切り机に額と鼻をぶつけてしまった。
一体誰だ?・・・と言っても、声でと口調で大体分かるんだが。
打たれた頭を片手で押さえながら顔を上げると、予想通り絹のようなストレートの黒髪をロングにしたブラックハーピーが種族特有の鋭い目で冷ややかに、呆れた様に此方を見て腕を・・・いや、正確には羽を――組んで立っていた。
この人は俺のクラスメートであり先輩の八咫 玲奈(やた れいな)さん。クラスメートで先輩と言う奇妙な関係なのは、八咫さんが留年をしているからだ。彼女自身、関東を束ねるヤクザ(これを言うと八咫さんが怒るので任侠集団と言っておく)の頭だとか噂されている。定かではないが、留年の理由も家業の抗争とかで出席日数が足りなくなったとか・・・。事実、授業の終わり際に携帯が鳴って「家のシマが〜」とか物騒な話をしていたので満更嘘ではないのかも知れない。
「・・・八咫さん、頼むから羽でしばくのは止めて下さい・・・。」
「何言ってるんだい。馬鹿言ってないで謝んな、美夜が泣いてるじゃないか。」
「え・・・。」
八咫さんの後ろを見てみると、美夜が俯きながら肩を震わせていた。
・・・あ、まずい。この状態は泣いていると言うより怒ってる・・・。
「陽ちゃんの・・・。」
「美、美夜・・・ごめ」
「陽ちゃんの馬鹿ーーーー!」
「美夜ーーーー!?」
もうすぐ先生が来ると言うのに美夜は走って教室を出て行ってしまった。
「ふみゅん!?」
外から素っ頓狂な声が聞こえてきた。
・・・こけたな、あいつ。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
美夜が走り去った後に残ったのは、俺と八咫さんと異常なまでに気まずい教室の空気だった。
「行ってやんな。」
「はい・・・。」
八咫さんに促されるまま、俺は席を立ち多分廊下で座り込んでいるであろう美夜の元へと足を向けた。
「セ・・・セーフ・・・。」
「ハァ・・・ハァ・・・。危なかったぁ・・・。」
急いで走ってきたお陰か何とかチャイムがなる直前に校門に入り、間に合う事が出来た。
今日は朝の小テストも無いから、授業開始までは少し時間がある。ついでなので部室に顔を出しておこう。
「美夜、俺は部室に顔出してから教室に向かうから先行っててくれ。」
「え?あ、うん。じゃあ先に行って待ってるね?」
「じゃあまた後で。」
美夜に別れを告げて、体育館にある部室へと足を向ける。
言い忘れていたが俺はこれでも剣道部に所属している。まあそこまで強い訳じゃないけど、護身や美夜を守れる程度の腕はあるつもりだ。
ちなみに、ココ天宮学園は「学園」と付いてはいるが所詮田舎の学校。そこまで豪華じゃない。実のところ少し大きい高校の校舎と言った感じで、体育館も長年外側が手入れされていないのか何処か古臭い。クラスも高等部で20人が2クラスと少ない。正直、一クラスでも十分ではないかと思えてしまう程だ。
そんな体育館の隣にある、プレハブ小屋のような部室のドアに手を掛ける。
「うい〜っす、お疲れさ〜ん。」
「何だ天地か。遅かったじゃない。」
中の状態を見た瞬間、俺の時が周りの空気と共に止まった。
無理も無い。中ではクラスメートでリザードマンの篠崎楓(しのさき かえで)が着替えをしていたのだ。急いでドアを閉める。幸い、まだ脱ぎ始めたばかりなのか練習用の着物の下に着ているブラジャーが見えた程度で済んだ。
「・・・お前なぁ、着替えてるんだったらそう言えよ・・・。」
「?何を恥しがってんのよ、見て何かが減る訳じゃなし。」
「寿命が減る。」
「あっそ。」
ドアの向こうから呆れたような声が聞こえてくる。かなり心臓に悪いが、これでもまだ良い方だ。一時など、練習あがりに着替えていたら何の断りも無しに部室に入ってきて固まってる俺の隣で平然と時分の水筒の中身を飲んでいたりする。
・・・お前も女ならもう少し羞恥心をだな・・・。
何度も楓に自重しろと言っているものの、幾度と無く一蹴されてきた。なので最近は俺から気をつけることにしている。・・・それでも今みたいな事に三回に一回はなるんだが。
「ハァ・・・。先、教室行ってるからな?」
「了解、すぐに向かうわ。」
俺は楓の居る部室を後にして校舎に裏口から入る。
ココからなら左へ曲がった階段から上がるのが一番早かった事を思い出し、角を曲がる。そのまま階段を上がって教室のある2階へと向かった。そして教室に入る。
「おはよ〜っす。」
「おはよ〜。」
「はよ〜。」
朝の所為なのかクラスの殆どがやる気の無い声で挨拶を返してきた。一部机に突っ伏して眠ってる奴まで居る。まあ、数分も経たずに俺も後者の仲間入りになるのだが。窓際にある自分の机に座り、鞄を机の横にあるフックに掛ける。腕を枕にして突っ伏すと、自然と瞼が垂れて来た。
・・・暖かい、な・・・。
うとうととし始めた矢先、不意に声を掛けられた。
「陽ちゃん、起きて!」
「んあ・・・?」
顔を上げると、すぐ近くにしかめっ面をした美夜の顔があった。
「・・・何?」
「陽ちゃん、今日日直でしょ!?ほら、のんびりしてないの!」
そう言って美夜が俺の腕を掴んで立たせようとする。しかし所詮はか弱い女子高生の力、剣道で鍛えた俺の体を持ち上げるのは到底無理だった。
「じゃあ、美夜が俺を動かせたら動こうかな〜。」
「・・・・・・。」
再び机に突っ伏して目を瞑りながら意味も無く意地悪な事を言ってみる。・・・先に言っておくが、俺は別にサディスティックな性分は無い。今の一言も先程言った通り、特に意味は無い。目を瞑っているので分からないが多分美夜も諦めてくれただろう。
これで1時限目までゆっくりと・・・。
「こら、起きな天地。」
「ぶっ!?」
突然美夜とは違う声が聞こえ、俺の頭に強い衝撃が降ってきた。お陰で思い切り机に額と鼻をぶつけてしまった。
一体誰だ?・・・と言っても、声でと口調で大体分かるんだが。
打たれた頭を片手で押さえながら顔を上げると、予想通り絹のようなストレートの黒髪をロングにしたブラックハーピーが種族特有の鋭い目で冷ややかに、呆れた様に此方を見て腕を・・・いや、正確には羽を――組んで立っていた。
この人は俺のクラスメートであり先輩の八咫 玲奈(やた れいな)さん。クラスメートで先輩と言う奇妙な関係なのは、八咫さんが留年をしているからだ。彼女自身、関東を束ねるヤクザ(これを言うと八咫さんが怒るので任侠集団と言っておく)の頭だとか噂されている。定かではないが、留年の理由も家業の抗争とかで出席日数が足りなくなったとか・・・。事実、授業の終わり際に携帯が鳴って「家のシマが〜」とか物騒な話をしていたので満更嘘ではないのかも知れない。
「・・・八咫さん、頼むから羽でしばくのは止めて下さい・・・。」
「何言ってるんだい。馬鹿言ってないで謝んな、美夜が泣いてるじゃないか。」
「え・・・。」
八咫さんの後ろを見てみると、美夜が俯きながら肩を震わせていた。
・・・あ、まずい。この状態は泣いていると言うより怒ってる・・・。
「陽ちゃんの・・・。」
「美、美夜・・・ごめ」
「陽ちゃんの馬鹿ーーーー!」
「美夜ーーーー!?」
もうすぐ先生が来ると言うのに美夜は走って教室を出て行ってしまった。
「ふみゅん!?」
外から素っ頓狂な声が聞こえてきた。
・・・こけたな、あいつ。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
美夜が走り去った後に残ったのは、俺と八咫さんと異常なまでに気まずい教室の空気だった。
「行ってやんな。」
「はい・・・。」
八咫さんに促されるまま、俺は席を立ち多分廊下で座り込んでいるであろう美夜の元へと足を向けた。
11/09/23 00:29更新 / 一文字@目指せ月3
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