プロローグ 日常
「ん・・・もう朝か・・・。」
カーテンの開いた窓から射し込む陽光を顔に受け、目が覚める。
・・・しまった、閉めときゃよかった。そしたらまだゆっくり眠ってられたのに。
普通ならばこういうのは気持ちの良い朝なのだろうが今の俺にとっては苦痛以外の何者でもない。
別に夜更かしした訳でもないのだが、いつも何故か朝はこんな調子だ。今まで気持ちの良い朝など経験した例が無い。
俺の名前は天地陽介(あまち ようすけ)。
生まれも育ちもココ神宮村の、いたって健全な高校生だ。
本当は両親と一緒に暮らしてたんだけど今は訳あってアパートの一室を借りて一人暮らしをしてる。
寝転がったまま腕を伸ばして思い切り伸びをする。小気味良く骨が音を立てると共に、目が完全に覚めた。
・・・早く支度しないと、またアイツにどやされるな。
そう考えつつ、先程まで心地よい安眠を提供してくれていた枕から頭を離す。
立ち上がろうとした時、ドアからノック音がした。
・・・こんな朝早くに、宅配便か?
いつも寝ている居間から十数歩で着くドアに向かう間もノック音は途絶える事が無かった。
・・・速達か?
「は〜い、今出ま〜す。」
そう言いながら、ドアノブに手を掛け、捻る。
そこに居たのは予想していた宅配業者ではなく、丁度俺の胸ほどの背の少し特徴的なセーラー服・・・天宮学園の女子用の制服を着てストレートの黒髪を肩まで伸ばした少女が鞄を手に立っていた。
「おはよう陽ちゃん・・・!?」
少女は俺のパジャマ姿を見た途端、目の前にある光景が信じられない、といった様な顔をした。
「ん、ああ・・・。何だ、美夜か・・・。」
「な、何だじゃ無いよ!陽ちゃん、何でまだパジャマなの!?今何時か分かってる!?このままじゃ遅刻しちゃうよ!?」
美夜は突然俺の腹を押して部屋の中へと無理やり押し込むと、自身も少し俺の部屋の中に入った。
「ほら、早く支度して!今日遅刻すると今月三回目なんでしょ!?」
この少女は風祭美夜(かざまつり みよ)。
俺の幼馴染のドッペルゲンガーだ。といっても、美夜がドッペルゲンガーだからって別段俺が幼い時分に失恋をした訳ではない。美夜の親がドッペルゲンガーだった、それだけだ。
実は、俺の一人暮らしが決まった時に、美夜も一緒に同じアパートに越してきた。理由は分からないが本人曰く「陽ちゃんが心配だから」だそうだ。
まあ、そのお陰で現に結構助かってる訳なんだが。
「ん〜・・・。今何時?」
頬を軽く掻きながら美夜に訪ねる。
日の角度からの予想ならば、多分登校時間までには余裕があるはずだ。
普通ならばココで目覚まし時計やその類で時間を見るだろう。しかし、俺は生憎今はそれが出来ない状況下にある。なぜなら、その肝心な目覚まし時計が壊れているのだから。
因みに壊れた原因は俺が夜中に起きた際、誤って踏み潰してしまったのだ。このことは絶対に美夜に知られたくない。もし知れば1時間の説教は確実。それだけは避けたい。
「もう7時50分!ほら、早く着替えて!」
「へ〜へ〜。」
「もう・・・!」
適当に返事をすると、美夜は少し頬を膨らませて外に出る。
「じゃあ、下で待ってるからね?」
「おう、了解。」
「いい?二度寝は禁止だよ?」
「分かってるって・・・。ったく、お前は俺の母さんか。」
「そんな下らない事言ってる暇あったら早くして!」
美夜は顔を真っ赤にしながら大きな声でそう言い残すと、ドアを音が鳴るほど思い切り閉めた。
・・・俺、何か悪い事言った・・・?
何故怒ったのかは分からないが、とりあえず後で謝っておこう。
・・・おっと、ゆっくりしてる暇は無いな。急いで着替えて支度しないと・・・。
えっと、今日は現文と数学と―――――――
――――――5分後・・・
「こんなもんか・・・。」
着替えと大方の教科の用意を済ませ、少し膨らんだ鞄を背負ってドアノブに手を掛ける。と、同時に後ろを振り返り窓やガスの点検を目だけで済ます。
・・・うん、大丈夫だな。・・・多分。
確証がないままドアを開く。すると秋口の涼しい風と共に眩しいほどの陽光。そして、何処からどう見ても田舎な風景が目に入った。
深い緑の中に幾つかの家、そして少し向こうには所々紅葉を始めた山が見える。毎朝見ている、いつもの村、いつもの風景。見飽きるほど長い間ココに居るのに・・・だからこそなのかも知れないが見ていると安心する。
・・・っと、急がないと。
ドアの鍵を閉め、コンクリートで出来たアパートの通路を歩いていく。階段を下りていき、角を曲がると美夜の姿が見えた。美夜の隣には、赤ん坊を抱いた女性と、小さな子供が足にくっついた男性が立っていた。
「あ、陽ちゃん!遅いよー。」
美夜は俺に気がつくと、笑顔で大きく手を振って呼ぶ。
・・・さっきまで怒っていたのは何処へやら。
内心少し呆れながらも、少し安心して美夜の方へと近付いた。
「あら陽介君、おはよう。」
「おう陽介、元気にしてるか?」
美夜と話していた夫婦がこちらに笑い掛けてくる。
この夫婦はアパートの大家さん。
針のような黒髪を散切りにして、安全第一と書かれたヘルメットと作業着のつなぎを着ているこの男性は秋山茂(あきやま しげる)さん。見た目通り工事員をしてる髭の似合う頼れるナイスガイだ。
黒にほんの少しくらい紫の注した髪をショートボブにし、本来人間には生えていない獣のような耳が生えているこの女性は秋山留美(あきやま るみ)さん。留美さんは元々村の人間じゃなく、都会から来たらしい。留美さんによると、出張で都会に居た茂さんに一目惚れしてそのまま告白したとか。因みに種族はワーウルフ。
「茂さん、留美さん、おはようございます。・・・茂さん、俺達毎日顔合わせてるでしょう?」
「ハッハッハ!違ぇ無ぇ!」
「ようすけおにいちゃん、おはよう。」
豪快に笑う茂さんをよそに、彼の足元に居る小さな女の子が小さな声で挨拶をしてきた。
この子は茂さん達の娘で秋山紫苑(あきやま しおん)ちゃん。恥かしがり屋だが素直でいい子だ。紫苑ちゃんには遺伝なのか母親と同じような耳が頭に生えている。
「紫苑ちゃん、おはよう。」
「ふに・・・。」
不意に、留美さんの抱えている赤ん坊が少し身じろいで小さな声を上げた。
「おはよう、茜ちゃん。」
留美さんの手の中に居る赤ん坊の手の中に人差し指を入れ、眠っている茜ちゃんに自分の存在を示す。
「そういえば美夜ちゃん、陽介君、貴方達急いでるんじゃなかったの?」
「「あ・・・。」」
留美さんが思い出したように呟いた一言で俺と美夜の顔が同時に青くなる。
「み、美夜!今何時だ!?」
「えっと・・・8時ぴったり!陽ちゃん、急ご!」
「おう!じゃあ、茂さん留美さん!また後で!」
「いってらっしゃい。」
「気をつけてなー!」
小さく手を振る留美さんと茂さんに見送られ、俺達は学校へと急いだ。
カーテンの開いた窓から射し込む陽光を顔に受け、目が覚める。
・・・しまった、閉めときゃよかった。そしたらまだゆっくり眠ってられたのに。
普通ならばこういうのは気持ちの良い朝なのだろうが今の俺にとっては苦痛以外の何者でもない。
別に夜更かしした訳でもないのだが、いつも何故か朝はこんな調子だ。今まで気持ちの良い朝など経験した例が無い。
俺の名前は天地陽介(あまち ようすけ)。
生まれも育ちもココ神宮村の、いたって健全な高校生だ。
本当は両親と一緒に暮らしてたんだけど今は訳あってアパートの一室を借りて一人暮らしをしてる。
寝転がったまま腕を伸ばして思い切り伸びをする。小気味良く骨が音を立てると共に、目が完全に覚めた。
・・・早く支度しないと、またアイツにどやされるな。
そう考えつつ、先程まで心地よい安眠を提供してくれていた枕から頭を離す。
立ち上がろうとした時、ドアからノック音がした。
・・・こんな朝早くに、宅配便か?
いつも寝ている居間から十数歩で着くドアに向かう間もノック音は途絶える事が無かった。
・・・速達か?
「は〜い、今出ま〜す。」
そう言いながら、ドアノブに手を掛け、捻る。
そこに居たのは予想していた宅配業者ではなく、丁度俺の胸ほどの背の少し特徴的なセーラー服・・・天宮学園の女子用の制服を着てストレートの黒髪を肩まで伸ばした少女が鞄を手に立っていた。
「おはよう陽ちゃん・・・!?」
少女は俺のパジャマ姿を見た途端、目の前にある光景が信じられない、といった様な顔をした。
「ん、ああ・・・。何だ、美夜か・・・。」
「な、何だじゃ無いよ!陽ちゃん、何でまだパジャマなの!?今何時か分かってる!?このままじゃ遅刻しちゃうよ!?」
美夜は突然俺の腹を押して部屋の中へと無理やり押し込むと、自身も少し俺の部屋の中に入った。
「ほら、早く支度して!今日遅刻すると今月三回目なんでしょ!?」
この少女は風祭美夜(かざまつり みよ)。
俺の幼馴染のドッペルゲンガーだ。といっても、美夜がドッペルゲンガーだからって別段俺が幼い時分に失恋をした訳ではない。美夜の親がドッペルゲンガーだった、それだけだ。
実は、俺の一人暮らしが決まった時に、美夜も一緒に同じアパートに越してきた。理由は分からないが本人曰く「陽ちゃんが心配だから」だそうだ。
まあ、そのお陰で現に結構助かってる訳なんだが。
「ん〜・・・。今何時?」
頬を軽く掻きながら美夜に訪ねる。
日の角度からの予想ならば、多分登校時間までには余裕があるはずだ。
普通ならばココで目覚まし時計やその類で時間を見るだろう。しかし、俺は生憎今はそれが出来ない状況下にある。なぜなら、その肝心な目覚まし時計が壊れているのだから。
因みに壊れた原因は俺が夜中に起きた際、誤って踏み潰してしまったのだ。このことは絶対に美夜に知られたくない。もし知れば1時間の説教は確実。それだけは避けたい。
「もう7時50分!ほら、早く着替えて!」
「へ〜へ〜。」
「もう・・・!」
適当に返事をすると、美夜は少し頬を膨らませて外に出る。
「じゃあ、下で待ってるからね?」
「おう、了解。」
「いい?二度寝は禁止だよ?」
「分かってるって・・・。ったく、お前は俺の母さんか。」
「そんな下らない事言ってる暇あったら早くして!」
美夜は顔を真っ赤にしながら大きな声でそう言い残すと、ドアを音が鳴るほど思い切り閉めた。
・・・俺、何か悪い事言った・・・?
何故怒ったのかは分からないが、とりあえず後で謝っておこう。
・・・おっと、ゆっくりしてる暇は無いな。急いで着替えて支度しないと・・・。
えっと、今日は現文と数学と―――――――
――――――5分後・・・
「こんなもんか・・・。」
着替えと大方の教科の用意を済ませ、少し膨らんだ鞄を背負ってドアノブに手を掛ける。と、同時に後ろを振り返り窓やガスの点検を目だけで済ます。
・・・うん、大丈夫だな。・・・多分。
確証がないままドアを開く。すると秋口の涼しい風と共に眩しいほどの陽光。そして、何処からどう見ても田舎な風景が目に入った。
深い緑の中に幾つかの家、そして少し向こうには所々紅葉を始めた山が見える。毎朝見ている、いつもの村、いつもの風景。見飽きるほど長い間ココに居るのに・・・だからこそなのかも知れないが見ていると安心する。
・・・っと、急がないと。
ドアの鍵を閉め、コンクリートで出来たアパートの通路を歩いていく。階段を下りていき、角を曲がると美夜の姿が見えた。美夜の隣には、赤ん坊を抱いた女性と、小さな子供が足にくっついた男性が立っていた。
「あ、陽ちゃん!遅いよー。」
美夜は俺に気がつくと、笑顔で大きく手を振って呼ぶ。
・・・さっきまで怒っていたのは何処へやら。
内心少し呆れながらも、少し安心して美夜の方へと近付いた。
「あら陽介君、おはよう。」
「おう陽介、元気にしてるか?」
美夜と話していた夫婦がこちらに笑い掛けてくる。
この夫婦はアパートの大家さん。
針のような黒髪を散切りにして、安全第一と書かれたヘルメットと作業着のつなぎを着ているこの男性は秋山茂(あきやま しげる)さん。見た目通り工事員をしてる髭の似合う頼れるナイスガイだ。
黒にほんの少しくらい紫の注した髪をショートボブにし、本来人間には生えていない獣のような耳が生えているこの女性は秋山留美(あきやま るみ)さん。留美さんは元々村の人間じゃなく、都会から来たらしい。留美さんによると、出張で都会に居た茂さんに一目惚れしてそのまま告白したとか。因みに種族はワーウルフ。
「茂さん、留美さん、おはようございます。・・・茂さん、俺達毎日顔合わせてるでしょう?」
「ハッハッハ!違ぇ無ぇ!」
「ようすけおにいちゃん、おはよう。」
豪快に笑う茂さんをよそに、彼の足元に居る小さな女の子が小さな声で挨拶をしてきた。
この子は茂さん達の娘で秋山紫苑(あきやま しおん)ちゃん。恥かしがり屋だが素直でいい子だ。紫苑ちゃんには遺伝なのか母親と同じような耳が頭に生えている。
「紫苑ちゃん、おはよう。」
「ふに・・・。」
不意に、留美さんの抱えている赤ん坊が少し身じろいで小さな声を上げた。
「おはよう、茜ちゃん。」
留美さんの手の中に居る赤ん坊の手の中に人差し指を入れ、眠っている茜ちゃんに自分の存在を示す。
「そういえば美夜ちゃん、陽介君、貴方達急いでるんじゃなかったの?」
「「あ・・・。」」
留美さんが思い出したように呟いた一言で俺と美夜の顔が同時に青くなる。
「み、美夜!今何時だ!?」
「えっと・・・8時ぴったり!陽ちゃん、急ご!」
「おう!じゃあ、茂さん留美さん!また後で!」
「いってらっしゃい。」
「気をつけてなー!」
小さく手を振る留美さんと茂さんに見送られ、俺達は学校へと急いだ。
11/09/20 19:50更新 / 一文字@目指せ月3
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