前編
―――――― 西コンルボ地方 チユジの外れ
「よいしょ…よいしょ…。」
チユジの街を少し離れた小高い丘に、一つの寂れた家屋があった。
その家屋に向かって、一抱え程ある重そうな木箱を抱え、小走りで向かうサイクロプスの少女がいた。
「よい…しょっと。…相変わらず遠いなぁ。」
少女は家屋の前に着くと、小さくぼやきながら木箱を下ろしてドアを軽くノックした。
少し待ってみるが、誰も出てくる気配が無い。
「…あれ?今日、お休みの日だっけ?」
そう言って少女はドアの真ん中に掛けてある木札に目をやった。
木札にはいつも通り、"営業中"と焼き付いている。
「…?」
少女は異常な事に首を傾げながら、ドアを開けて家屋の中に入った。
何の変徹も無い部屋の中には、少し大きめのテーブルと二脚の椅子、そして奥にある暖炉以外何もない。
「ゲンさーん。依頼の物を持ってきましたー。」
「うえぇ!?い、今出まーす!!ってうわぁ!?」
慌てたような声がしたかと思うと、次いで何かが転げ落ちたような音が聞こえてきた。
驚いた少女が音がした方向へ顔を向けると、そこにはそれなりに顔の整った青年が逆さまになって目を回していた。
「………………。」
「うーん…。ハッ!?」
青年は少女の姿を見るとすぐに立ち上がった。
「アハハ。いやぁ、すいません。引っ越しの荷物を整理してて、気付きませんでした。」
「……………。」
「あ、あの〜…。」
「ふえぇ!?あ、はい!」
青年が呆然としていた少女に声をかけると、ハッとした様子で青年を見た。
そんな少女の様子を気にする風でもなく、青年はにこやかに笑いながら少女に手を差し出した。
「初めまして。リルさん…ですよね?祖父から話は聞いてますよ。」
「え、えと…。あなたは?」
にこやかな青年とは対象的に、戸惑っているかのような態度のリル。
「あ、すいません。申し遅れました。俺はレン・ユンカース、貴女もご存知のゲン・ハタナカの孫で今日からこの店を継ぐ事になりました。」
「あ、はい…。よろしくお願いします。」
表情を硬くしたまま、リルは差し出された手を握り返した。
「…あ、そうだ。荷物。」
リルは荷物の存在を思い出すと、握っていた手を離して玄関に置きっぱなしの荷物に手をかけた。
「よい…。」
「手伝いますよ。」
「ふぇ?」
リルが荷物を持ち上げようとした時、不意にレンが割って入ってきた。
何が何だか分からず固まるリルを他所に、レンは手際よく荷物を持ち上げて部屋のテーブルの脇に置いた。
「…?どうされました?」
「あ、いえ!何でも…って、すいません!!荷物運ばせちゃって!!」
「いえいえ、お気になさらず。…それより、こんな重い荷物を持って来られたならお疲れでしょう?お茶でも飲んで一息していって下さい。」
彼なりの気遣いのつもりなのだろう、その笑顔に表裏は見当たらない。
「…え、で、でも…。」
「あ、この後仕事でもありましたか?」
「い、いえ…一応ありません…。」
「そうですか。なら是非に。母から貰ったジパングの『ソチャ』があるんですよ。今、持ってきますんでそこに掛けて待っててください。」
「え…。」
リルの返事を待たずに、レンは足早に階段をかけ上がって行ってしまった。
一人残されたリルは少しの間固まっていたが、レンの言う通り片方の椅子に腰かけた。
「よいしょ…よいしょ…。」
チユジの街を少し離れた小高い丘に、一つの寂れた家屋があった。
その家屋に向かって、一抱え程ある重そうな木箱を抱え、小走りで向かうサイクロプスの少女がいた。
「よい…しょっと。…相変わらず遠いなぁ。」
少女は家屋の前に着くと、小さくぼやきながら木箱を下ろしてドアを軽くノックした。
少し待ってみるが、誰も出てくる気配が無い。
「…あれ?今日、お休みの日だっけ?」
そう言って少女はドアの真ん中に掛けてある木札に目をやった。
木札にはいつも通り、"営業中"と焼き付いている。
「…?」
少女は異常な事に首を傾げながら、ドアを開けて家屋の中に入った。
何の変徹も無い部屋の中には、少し大きめのテーブルと二脚の椅子、そして奥にある暖炉以外何もない。
「ゲンさーん。依頼の物を持ってきましたー。」
「うえぇ!?い、今出まーす!!ってうわぁ!?」
慌てたような声がしたかと思うと、次いで何かが転げ落ちたような音が聞こえてきた。
驚いた少女が音がした方向へ顔を向けると、そこにはそれなりに顔の整った青年が逆さまになって目を回していた。
「………………。」
「うーん…。ハッ!?」
青年は少女の姿を見るとすぐに立ち上がった。
「アハハ。いやぁ、すいません。引っ越しの荷物を整理してて、気付きませんでした。」
「……………。」
「あ、あの〜…。」
「ふえぇ!?あ、はい!」
青年が呆然としていた少女に声をかけると、ハッとした様子で青年を見た。
そんな少女の様子を気にする風でもなく、青年はにこやかに笑いながら少女に手を差し出した。
「初めまして。リルさん…ですよね?祖父から話は聞いてますよ。」
「え、えと…。あなたは?」
にこやかな青年とは対象的に、戸惑っているかのような態度のリル。
「あ、すいません。申し遅れました。俺はレン・ユンカース、貴女もご存知のゲン・ハタナカの孫で今日からこの店を継ぐ事になりました。」
「あ、はい…。よろしくお願いします。」
表情を硬くしたまま、リルは差し出された手を握り返した。
「…あ、そうだ。荷物。」
リルは荷物の存在を思い出すと、握っていた手を離して玄関に置きっぱなしの荷物に手をかけた。
「よい…。」
「手伝いますよ。」
「ふぇ?」
リルが荷物を持ち上げようとした時、不意にレンが割って入ってきた。
何が何だか分からず固まるリルを他所に、レンは手際よく荷物を持ち上げて部屋のテーブルの脇に置いた。
「…?どうされました?」
「あ、いえ!何でも…って、すいません!!荷物運ばせちゃって!!」
「いえいえ、お気になさらず。…それより、こんな重い荷物を持って来られたならお疲れでしょう?お茶でも飲んで一息していって下さい。」
彼なりの気遣いのつもりなのだろう、その笑顔に表裏は見当たらない。
「…え、で、でも…。」
「あ、この後仕事でもありましたか?」
「い、いえ…一応ありません…。」
「そうですか。なら是非に。母から貰ったジパングの『ソチャ』があるんですよ。今、持ってきますんでそこに掛けて待っててください。」
「え…。」
リルの返事を待たずに、レンは足早に階段をかけ上がって行ってしまった。
一人残されたリルは少しの間固まっていたが、レンの言う通り片方の椅子に腰かけた。
12/02/08 23:39更新 / 一文字@目指せ月3
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