―――――――奇縁たちの家


人里離れた山の裾野。朝も夜も鳥や季節の虫達の声を除いて一日を通して静かなこの場所に、奇縁たちの家はある。

「･･･ふう。」

その家の中に深く蒼い長髪の女子が、昼食の片付けを終え額の汗を拭っていた。
普段は仕事で忙しそうに家の内外へ走り回っている夫も、暇を持て余して遊びを強請る愛しい娘も、今は村へ行っておりその影は無い。
洗濯や庭の掃除は夫が眠っている間に終らせており、今急いでやるべき事の無くなった深雨は予め沸かしておいたお湯の入った急須と食器を入れる棚から夫の物と比べて小さな自分用の湯飲と茶葉の入った缶を盆に載せて、先程まで夫の居た食卓へ腰を下ろした。
そして急須の中に缶の茶葉を少しだけ入れる。そしてそれがふやけるのを待つ間、深雨はそっと外の音に耳を傾けた。
聞こえてくるのは季節相応の蝉の声。そして、それとは正反対に静かに流れてくる風の音だけ。
深雨はふと、夫と出逢った日の事を思い出して小さく笑った。

「ふふっ･･･。」


――――――――数年前


時刻は日も落ちかけた夕刻。しかし夕焼けも見えないほどの暗雲と降り注ぐ雨がその時間を夜なのではないかと錯覚させる。

「･････････。」

そんな空を、深雨は柳の木の下から見上げる。
ここ最近ずっと降り続くこの雨で村近くの川は氾濫し始めていた。おかげで、本来なら人の多いこの大通りには人一人、猫一匹もいない。
ふと上から通りへと視線を戻す。すると、通りの向こうから衣冠を着た一人の男性が小走りに歩いてくるのが見えた。
男性はかなり急いでいるのか、深雨に気付く様子も無い。
しかし不意に、男性が深雨のいる通りの端の柳の木の前で止まった。そして傘を前が見える程度に少し退け、深雨のことを見つめる。
深雨は突然の事に驚きながらも何時もしているように優しく男性に微笑んだ。もしかすれば、この人は私の夫になってくれる。そんな期待を込めて。
すると、男性は無言で柳に近付いてきた。数秒もせずに、男性と深雨の距離は二寸（約６cm）ほどになる。
近くで見るその男性は無表情で、目には光が無く瞳には夜の帳のような暗闇が広がっていた。

「･･･どうした。」
「え？」

不意に、男性が話し掛けて来た。それも雨にかき消されそうな、よく聞かなければ分からないような小さな声で。

「･･･どうしたと、訊いている。」
「え、えと･･･あの･･･。」
「･･････。」

予想外の質問に深雨が口篭ってしまうが、男性はのっぺらぼうに貼り付けただけの様な無表情のまま深雨が答えるのをただただ待っていた。

「その･･･えっと･･･。」
「･･････。」
「きゃっ･･･！？」

深雨が必死に頭の中から答えを探していると、突然男性に引っ張られて傘の中に入れられる。男性としてはそんなに強い力では無かったのかも知れないが深雨にとっては思い切り引っ張られた事に等しく、勢いをそのままに男性にぶつかってしまう。

「･･･すまん。」
「い･･･いえ･･･ありがとうございます･･･。」

男性が無表情のまま光の無い目で深雨の方を見つめ、謝る。
普通の人間ならば、そのような目で見つめられるのは気味が悪いと言うだろう。しかし深雨はその目で見られるのが嫌だという気にはならなかった。むしろその目に見つめられれば見つめられる程に、今まで感じた事の無い程心臓が早鐘を打ってゆく。深雨にとって、それが男性への好意だと気付くのにそう時間は掛からなかった。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　◆



そのまま二人は黙ったまま、人のいない大通りの道を歩いてゆく。
暫らく歩くと山に入る直前にボロボロの家が見えた。男性は一直線に古家に向かって歩き、物の数分としない内に辿り着いた。深雨はここで雨宿りをするのかと思いきや、男性はさも当然の様に中へ入っていった。
深雨も慌てて後を追うと、中はオンボロな外とは違い小綺麗に片付けられていた。

「･･････。」
「え！？」

突然目の前に手拭が出現したと思いきや、男性がいつの間にか少し前に立っており、自身も濡れてしまった髪を他の手拭で拭きながらこちらに渡してくれているのだった。

「･･･拭くといい。･･･風邪、引くぞ。」
「あ、ありがとうございます･･･。」

深雨が手拭を受け取ると、男性は先程からと同じ無表情で居間の向こうにある台所まで歩き、湿っていない薪を選び始める。
そして慣れた手つきで竈に火を付け、急須･･･と呼ぶには少し大きいものを竈の上に置いた。
そして、少し吃驚して停止している深雨に手招きをする。深雨が気が付いていそいそと、それでいて遠慮がちに居間に上がると、男性は深雨の体を無表情のままじっと見つめる。
すると何かを思いついたのか衣装棚の中をゴソゴソとやり始め、中から厚めの着物を取り出して深雨に投げてよこす。

「それ･･･。」
「え？」
「･･･着替えるといい。･･･着物、濡れてるから。」
「え、あ、あのっ･･･！」
「･･･？」

慌てる深雨に、男性は一瞬無表情のまま顔をほんの少しだけ顰めた。そして何かを思い出したかのような素振りを見せ、深雨から目を逸らした。

「あ、あの･･･。何を･･･？」
「･･･女子は。･･･人に裸を見せるのが、嫌なのだろう。･･･だからだ。」
「･･･ふふっ。」

深雨はこの余りにも無表情な男性の見せた人間味に、着物の裾で口元を隠しながら小さく笑った。

「･･･？何が可笑しい。」
「･･･ご厚意には感謝いたしますが、私には必要御座いません。」
「･･･気に入らなかったか？」
「いえ、そうではなく･･･。」
「･･･？」

深雨はそこまで言うと俯き、少し押し黙ってしまった。このまま自分の正体を明かすと、この男性はどんな反応をするのか。それを考えると深雨はなかなか口に出せなかった。
しかし決心がついたのか、すぅっ、と息を吸うと確りとした眼差しで男性を見た。

「あの･･･。驚かないで、聞いて欲しいんです･･･！」
「･･････何だ？」
「わ、私は･･･ぬれおなごというまも」

ダン！

突然、深雨の顔のすぐ真横を何かが途轍もない速度で通過する。後ろを振り返ってみると、小刀が先程まで深雨が居た玄関の壁に突き刺さっていた。
恐る恐る向き直ると、男性は今までと同じ無表情のまま、だが目線は今までとは比べ物にならないほど恐ろしいものになって深雨を見つめる。

「ひっ･･･！」
「･･････。」

しかし、目線はすぐに今までと同じく何も無い物に戻った。

「･･･それ以上。」
「え？」
「･･･それ以上、言うな。」

そう言うと、男性は立ち上がり台所へと向かう。
そして火にかけていた急須を取り、食器棚から缶を取り出して茶葉を少し入れた。湯飲を出した後、座って急須を円卓に置く。

「･･･それ以上言えば･･･俺はお前を、退治しなければならない。」
「･･････。」
「･･･お前が、魔物だというのは。･･･初めから分かっていた。」

深雨も、男性の着ている衣冠で薄らとは気付いていた。
それと同じように、男性も深雨を魔物だと気付いていたようだ。

「では何故･･･！？」

なら寧ろ、何故魔物である自分を家に上がりこませ、こんなにも優しくしてくれたのか。深雨はそれが知りたかった。

「･･･何故、か。」
「･･････。」
「･･･正直、俺にも分からない。」
「え･･･？」

それは、意外な言葉だった。

「･･･俺達は、俺達宮代の家は･･･。･･･代々退魔師の家系だ。」
「･････。」
「･･･魔、･･･つまり魔物は、悪いものだと。･･･そう、教えられてきた。」
「･･････。」
「･･･でも。･･･寂しそうに笑ってた、お前を滅する事は･･･。したくない。」
「･･････っ！」

今まで無表情だった男性の笑いながらのその一言は、深雨の心に深く刺さった。今まで誰にも気付かれもせず、気付かれても魔物だと恐れられてきた深雨にその言葉は余りにも大きく、力強い物だった。

「ふぇ･･･。」
「･･･？」
「ふええええぇええん！」
「･･･！？」

深雨は突然泣き出すと、男性の胸へ抱きついた。男性は一瞬驚いたものの、今までとは違う目で深雨を見つめ、頭をそっと撫でた。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　◆


「･･･落ち着いたか？」
「･･･は、はぃ･･･。すいません、取り乱してしまって･･･。」

男性は急須から淹れたお茶を深雨に渡す。深雨は恥かしさで顔を真っ赤に紅葉の様に染め上げながら、湯飲みを受け取った。

「･･･俺は、構わない。･･･むしろ、嬉しかった。」
「･･･ふえぇ！？」

男性の言葉に驚いた深雨は持っていた湯飲みを落としてしまいそうになった。

「･･･ほ、本当･･･ですか？」
「･･･嘘は、吐かない。」

今までの無表情とは違い、男性は深雨と同じ位まで真っ赤になりながら少しだけ目を逸らした。

「･･････。」
「･･････。」

そのまま、気まずい沈黙だけが家の空気を支配する。それを最初に破ったのは、深雨の方だった。

「あの･･･。」
「･･･何だ。」
「そっちに行っても･･･いいですか？」
「･･･構わない。」
「♪」

深雨は嬉しそうに自分に渡された湯飲みを持ったまま、男性の隣に座る。そして、頭を男性の腕へと預けた。

「･･････。」
「･･･あ！」

急に、深雨が何かを思い出したように声を上げる。

「･･･どうした？」
「苗字は分かりましたけど、まだ貴方のお名前を聞いてませんでした。」
「･･･宮代、奇縁だ。」
「きえん？」
「･･･奇妙な縁、と書いて奇縁。」
「面白い名前ですね♪」
「･･･そう言われたのは、初めてだ。」

嬉しそうに腕に抱きつく深雨に、奇縁はただただ顔を真っ赤に染め上げていた。

奇縁もまた、深雨と同じ様に扱われてきていた。
宮代の人間として、恥の無い様に暮らせと言われ強いられてきた苦痛の日々。
厳しい修行の結果力は得たものの、父が亡くなり残ったのは村の人間からの、奇縁と言う『異形』への恐怖と魔を祓うと言う『使命』だけであった。
村の人間からは恐れられ、罪はあれども命を奪うという生活を繰り返すうちに目の光と共に消えてしまった『心』。
だがその『心』を、深雨と居れば取り戻せるかもしれない。徐々に奇縁は今深雨に抱きつかれているこの瞬間にも心臓が高鳴っている理由を分かり始めた。

「･･･そういえば。」
「･･･はい？」
「･･･君の名前、まだ･･･。」
「あ、失礼しました！私の名前は深雨、と申します！」
「みう･･･？」
「はい、深い雨と書いて深雨です。」
「･･･いい、名前だな。」
「ありがとうございます♪」

そう言って、深雨はまた奇縁の腕に抱きつく。そんな深雨の髪を、奇縁は優しく撫ぜた。

「･･･深雨。」
「はい、何ですか？」
「･･･君は、俺のことが･･･好きか？」
「ふぇ！？あ、あの、その･･･！」
「･･･嫌いなのか？」
「い、いえ･･･！だ、大好き･･･です･･･。」
「･･･そうか。･･･なら、俺と夫婦に、なって欲しい。」
「みぇ、みぇおとに！？」

奇縁の突然の問いに深雨は余程驚いたのか、わたわたと腕から手を離し慌てながら返事をする。すると、またも不意に奇縁が、今度は深雨の体を抱きしめた。
そんな予測不能の吉事に、深雨の顔は先程とは比べ物にならないほど真っ赤に染まった。

「き、きききき奇縁しゃん！？い、いいいい一体な、ななな何を･･･！？」
「･･･？好きな者とは、こうすると･･･先代が･･･。」
「･･････！！」

その時、何処かでぷつんという、糸状の何かが切れるような音が聞こえた。

「き、奇縁さん･･･！」
「ん･･･！？」
「ちゅっ、んん……はむっ。」
「んっ、んむ……。」

深雨からいきなりの激しい接吻。奇縁は一瞬戸惑ったが、すぐにそれを受け入れた。

「ぷあっ･･･！」
「ふぅ･･･。」
「奇縁さぁん･･･♪」
「･･･深雨。」
「んふふ･･･♪」

接吻だけで蕩けきって見上げる深雨の深い蒼の髪を、奇縁が優しく撫ぜる。すると、嬉しそうな声を出して子供の様に奇縁の胸に抱きついた。

「〜♪」
「･･･深雨？」
「はい？」
「･･･何で、衣冠を脱がす？」
「だって、こうしないと気持ち良くなれないじゃないですかぁ♪」
「･･･そう、なのか？」
「はい♪」

そう言いながら、深雨は少し戸惑っている奇縁の衣冠をどんどんと脱がしてゆく。一分も経たない内に、奇縁は半裸にされてしまった。
外が蒸し暑い所為と、接吻等の行為で奇縁の体は汗をかいていた。その汗を、深雨が丁寧に舐め取る。

「･･･深雨、汚いぞ？」
「･･･ペロッ♪奇縁さんの体に汚い所なんてペロッ、ありませんよぉ♪」
「･･･そうか。」

自分の体を必死に舐める深雨に、奇縁は少し驚きながらもこれが営みと言うものなのか、と身を任せた。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　◆


「･･･深雨。」
「はい？」
「･･･何で、君も着物を脱ぐ？」
「奇縁さんと、気持ち良くなる為です♪」

何処と無く楽しそうに深雨は着物を脱いでゆく。奇縁は会話に既視感を覚えつつも、露になっていく美しくも艶かしい深雨の体に目を釘付けにされた。
少し青みを帯びながらも健康的な深雨の肢体。それを見ている内に、奇縁は無意識に生唾を飲み込む。
深雨は着物を脱ぎ終えると、また奇縁に抱きついた。

「････！？」
「ふふふ･･･♪奇縁さぁん♪」
「･･･深雨･･･。」
「何ですかぁ？」
「･･･胸、当たってる。」
「当ててるんですよぉ♪」

完全に蕩け切った顔で、深雨は奇縁に抱きついて豊満なその胸を押し当てる。
ひんやりとした感触を持つ深雨の肌に、恥かしそうな奇縁の手が優しくなぜた。

「ふあぁ･･･奇縁さんの手、温かいですぅ･･･♪」
「･･････。」
「じゃあ、そろそろ･･･。」
「･･･？」

怪訝そうな顔をする奇縁の袴の帯を解いていく。そこで初めて、奇縁が慌てた。

「･･･！深、深雨！？」
「〜♪」
「･･･さ、流石にこれ以上は･･･マズんむっ！？」
「んぅ･･･ちゅるっ･･･むぅ。」

制止しようとする奇縁の口を、深雨が接吻で塞ぐ。塞いでいる間も深雨の手は休めることなく袴を脱がせてゆく。そして奇縁の目に映ったのは、今まで見たことも無いほど怒張している自分の一物であった。

「んふふ･･･もうおっきくなってますねぇ･･･♪」
「･･････。」

驚きを隠せない奇縁とは裏腹に恍惚の表情で奇縁の一物を見る深雨。すると、何を思ったのか自身の腰を奇縁の股間の上へと移動させる。

「じゃあ･･･そろそろ･･･。」
「･･･深、深雨！？」
「えいっ！」
「･･････っ！」
「ふぁああああああああ♪」

深雨は奇縁の一物を自分の秘部に宛がうと、一気に腰を下ろして咥え込む。苦しそうに呻く奇縁に対し、深雨は挿入だけで絶頂したのか大きな声で嬌声を上げた。

「ふにゃあ･･･。」
「･･････。」

深雨の四肢から力が抜け、奇縁の胸に寄りかかる。その時、奇縁を支えていた彼自身の右腕から力が抜け、奇縁の上体が揺れた。

「･･･あ。」
「ひぁああああ♪」

不意に襲い掛かった強烈な快楽に、深雨がまた大きな声で嬌声を上げる。

「う、動からいで、下ひゃいい･･･♪」

呂律の廻っていない状態で涙目になりながら奇縁に懇願する深雨。

「深、深雨･･･。」
「ひ、ひゃい？」
「･･･すまん。」

奇縁は深雨の背中を左手で抱くと、そのまま深雨を床に寝かせる。

「ふぇ･･･？ふぇ･･･？」
「･･･すまん。」
「ふゃぁああああ♪」

訳が分からない、といった様子の深雨に奇縁が小さな声で謝り、深雨の秘部に挿し込まれた一物を上下させ始める。

「ふっ、やっ、あっ、んっ、んぅ♪」
「･･････深雨っ！」
「ひゃいいいい、にゃかでおにゃがいしまふううう♪」

早々限界が来たのか、奇縁が深雨の名前を呼ぶと内容を察して深雨が腕や足を奇縁の背中に回して抱きついた。

「･･･っ！」
「ひゅあああああああっ♪」

奇縁が小さく呻き、深雨が手足の力を強めると奇縁は一物から精を迸らせた。
と、同時に深雨も背筋を反らせて絶頂を迎える。

「はぁ･･･。はぁ･･･。」
「･･････。」

絶頂の余韻に浸っている深雨に、突然奇縁が倒れこんだ。

「ふみゃあっ！？」
「すー･･･すー･･･。」
「･････くすっ♪」

一回の射精で疲れ果てたのか眠ってしまった奇縁の頭を、深雨は優しい目で撫でるのであった。

■作者メッセージ
･･･そういや、あっしこれで初エロだっけ。
と言うか砕け散れ奇縁。
今と全然違うじゃねぇか奇縁。

･･･夏祭りＳＳ多いけど、あっしも書いたほうがいいかなぁ？
リクエストあれば書きます。
小説のキャラでも何でも。ただしエロなしで。