連載小説
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冒頭
「ふい〜…ただいまっと。」

…ったく、鬼課長め。結局大晦日まで仕事呼び出しやがって。しかも残業まで…。ハァ、ついてないよなぁ…。
憂鬱な気分のまま、我が家の無駄に重厚なドアを開け、外とは比べ物にならない程の暖かさを身に受ける。

「ごしゅじんしゃま〜。」
「はい、ただいま。」

気配に気付いたのか、居間から出てきた宵は小さな体をあっしの足にへばりつかせ、じゃれついてくる。
そんな宵を抱き上げ、その小さなおでことあっしのおでことを軽くぶつける。
飼いはじめてから結構経つと言うのに、宵の体の大きさは殆ど変わらない。
餌は当然決まった時間にやっている。大きくならない種類なのか、あるいは…。
大分前から習慣になったこの一連の行動。いつもならこの後…。

「ご主人、お帰りニャ。」
「おう、ただいま。」

やっぱり。いつの間にか背中を登っていたトウが、肩から顔を出して声を掛けてきた。

「ごしゅじんしゃま、きょうのごはんはなににゃ?」
「ん?…今日はな、特別な日だから缶詰めだ。」
「「ホントニャ!?」」

2人は心底嬉しそうに目を爛々と輝かせた。
あ〜もうちくしょう二人ともかわいいなぁ〜♪

「…さて、ご飯準備しようか。」
「「はいニャ!!」」
「各員、台所に向かって突撃!」
「「ニャー!」」

さっきの愚痴はどこへやら。軍隊かと思われてもおかしくないノリで、あっし達は台所へ突撃した。


―――――― 数時間後


「ふい〜…食った食った。」
「んべんべ。」
「けぷっ。」

一頻りそれぞれの夕食を食べ終え、あっしは居間に寝そべり、トウは毛繕い、宵はあっしの胡座の中で可愛らしいゲップ。
まさに三者三様。各々が楽なように寛いでいた。

「あ、そうニャ。」
「ん?」

不意に、トウが何かを思い出したような声を上げた。

「どした?」
「い、いや…何でもないニャ…。」

怪しい…。あからさまに目線をあっしから遠ざけ、何事もないかのように振る舞おうとする。しかし、あっしに嘘を吐きたくないのか茶縞の一対の尻尾が不規則に揺れる。

「ごしゅじんしゃま、だっこー。」
「あ〜はいはい。」

宵が胡座の中から小さな体を懸命に伸ばし、だっこをねだる。宵とトウに溺愛しているあっしに抗える筈もなく、すぐに宵を抱き上げた。

「…ご主人。」
「ん?」

トウが服の裾をクイクイと引っ張り、話しかけてきた。
…何だろう。

「…ご主人は、異界って信じるニャ?」
「…は?」

異界?…って、あれだよな。霊体験とかでよくある、妖怪や地縛霊が作る固有結界の事だよな。

「ああ、信じてるよ。…まあ、何回も見といて信じてないって言う方がおかしい。」

幼少の頃に行った故郷のF病院、仕事で行った〇会社の応接間に知り合いの☆☆さんの自宅。数えても切りがない。
毎回死ぬ思いして這い出てきて、その度に白い目で見られて…。
自慢にならんが、霊体験の多さと霊に関する知識なら他人に負け無いな、うん。

「…で、その異界がどうした?」
「…ご主人、これから行く所に驚かないで欲しいニャ。」
「…へ?」

なにが何だか分からずに困惑していると、不意に視界が真っ暗になった。

「うわぁ!?」
「ごしゅじんしゃま、みちゃだめにゃ〜。」

顔に当たる柔らかい感触。どうやら宵が目隠しの様に顔にへばりついているらしい。

「こっちニャ。」

宵を引き剥がそうともがいていると、トウに服の裾を引っ張られて異界(?)へと先導される。
いや、ちょ待て、シャレならんって!異界のヤバさは異常だから待てって!!

「……………。」

そんな思いが通る筈もなく、無言で愛猫に異界(?)拉致された2012年直前の夜の話である。
12/01/04 03:26更新 / 一文字@目指せ月3
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■作者メッセージ
ラストミスったいwww

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