5話 異常・休日・幼稚園にて
――――――鈴本幼稚園・内部
「・・・どうしてこうなった?俺は、ただゆっくりと休日を過ごそうとしてただけなのに・・・。」
「諦めろよ、もう園長先生達出ちゃったしさ。」
エプロンをして園児達の名簿を持って項垂れる俺の肩を、鉄ちゃんが軽く叩く。
・・・そもそも何処からおかしくなったんだっけ?ええと・・・もういいや、考えるだけ頭が痛くなる。
「さ〜、みんな集まってるか確認するから集まって〜!」
『は〜い!』
鉄ちゃんが慣れた様子で呼ぶと、10人程の園児達が元気な声で返事をし一斉に俺と鉄ちゃんの周りに集まってきた。・・・ちなみに、茜ちゃんは部屋の隅っこで眠っている。
「ほら、自己紹介。」
「あ、ああ・・・。」
全員が、俺に対して好奇の眼差しで見つめてくる。
そういえば、人の前にこうやって立つの初めてだな・・・。
「え〜っと・・・どうも初めまして。今日一日みんなと一緒に遊ぶ天地陽介っていいます。よろしく。」
『よろしくおねがいしま〜す。』
「みんな、陽介兄ちゃんに訊きたい事あるかな?」
んなっ!?聞いてねぇぞ!?
「はいっ!」
鉄ちゃんが連れていたワーラビットの子供が元気良く手を上げる。
えっと、あの子は・・・。
「宇佐兎月(うさ うづき)ちゃん、でいいのかな?」
「うん!」
「で、質問は?」
「ようすけおにいちゃんはかのじょいるんですか?」
「いや、いないよ。」
「なんでですか?」
いや何でってあーた。まず、俺に興味持つ奴なんか居ないだろう、普通に考えて。
「陽介兄ちゃん困ってるからウッチーそこまで。じゃー次は誰が訊きたい?」
「・・・梵、ちっくと話しゆうが?」
「はい、ここまで!」
「え〜。」
子供達が残念そうに声を上げるが、これ以上醜態晒して堪るか。
思いっきり恨みを込めた目で鉄ちゃんを睨むと、流石に伝わったのか大慌てで俺への質問コーナーを終らせた。
「さ、出席取ろうか。」
『は〜い。』
「え〜と、阿立夕華(あだち ゆうか)ちゃん。」
「はいっ!」
褐色の肌とポニーテールを結んだ黒いリボンが特徴的なサラマンダーの子供が元気良く手を上げた。
「宇佐兎月ちゃん。」
「はいっ!」
先程のワーラビットが手を上げる。
・・・・・・・・・・・・以下略。
「箱真間(はこ まま)ちゃん以外はみんな揃ってるみたいだな。・・・で、どうすんだ?」
「陽介、暫らく遊んであげててくれるか?俺は向こうでカオリ先生と資料纏めてくるから。」
「あ?・・・ああ、わかった。」
鉄ちゃんは踵を返して教室を出ると、その後を小さな稲荷が追って行く。
あの子は・・・確か狐璃先生の娘さんで梨璃ちゃん・・・だっけ。
因みに狐璃先生というのは、うちの学校の古典の教師だ。種族は稲荷で村の中央から少し外れた所にある神社で暮らしている。
よっぽど鉄ちゃんに懐いてるんだろうな。・・・まあ、鉄ちゃんについて行ったし大丈夫・・・だな。
「・・・さ、今日は自由時間だからみんな思い思いに遊ぼうね〜。」
『は〜い!』
「怪我しない様にね。じゃあ解散!」
合図に手を叩くと、子供達は散らばっていった。外へ行く子もいれば本を読み出す子もいる。
さて、どうするか・・・。
「ねえねえ、ようすけおにいちゃん。」
「ん?」
不意に、後ろから声を掛けられた。振り返ってみるとラージマウスの子供が俺のズボンを引っ張っていた。
この子は確か中谷八雲(なかたに やくも)ちゃん・・・だったな。
「ん?どうしたの?八雲ちゃん。」
「いっしょにあそぼ?」
「いいよ、じゃあ何して遊ぼうか。」
どうやら人懐っこい子の様だ。
「あのね、あのおもちゃばこにつみきがあるの。」
そういって、八雲ちゃんは少し遠くにある蓋の付いた青い玩具箱を指差す。
「でねでね、おっきいおしろつくりたいからつみきがいっぱいいるの。」
身振りを交えながら、八雲ちゃんが一生懸命説明する。
・・・なるほど、積み木を出すのを手伝って欲しいのか。
「よし、一緒に取りに行こうか。」
「うんっ!はやくはやく!」
「っとと・・・。」
八雲ちゃんは元気良く返事をすると、余程楽しみなのか小さな両手で精一杯俺の脚を押してきた。
「この中にあるんだね?」
「うんっ!」
改めて玩具箱を見てみると、結構大きい。裕に一抱えほどはありそうだ。蓋も持ち上げるタイプではなく、宝箱の様な作りになっているようだ。
箱の蓋に手を掛ける。
「じゃーん、中身はハコでしたー!」
突然元気な声が聞こえたかと思うと、視界が紫一色になった。と、同時に顔面を激しい痛みが襲う。
「ぶっ!?」
「っきゃん!?」
「ま、まっちーん!?」
どうやらこの箱はミミックが化けていたらしい。勢いよく飛び出してきたのはミミックの本体のようだ。後ろにいた八雲ちゃんも驚きの声を上げている。
「いたぃ・・・。」
「ってて・・・だ、大丈夫?」
「・・・ふえっ。・・・うん。」
今にも泣きそうなミミックの子供の頭に手を置いて撫でてやると、目尻に涙を溜めたままだが泣き止んで俺の手に身を任されてくれた。
「危ないから、もうこんな事しちゃダメだよ?」
「・・・ふぁい。」
「あ、そうだ。君、名前は?」
「・・・箱真間。」
そうか、この子が・・・。さっき呼んでも返事しなかったのはばれない為か。子供ながら見事な隠れ精神だな。
さて、問題は・・・。
「八雲ちゃん?」
「!は、はい!」
俺が振り返ると、八雲ちゃんは耳と尻尾をピンと張り肩を思い切り跳ねさせて返事をする。
・・・やっぱり。この子、最初から分かってたな?
「今から聞く質問に、正直に答える事。」
「は、はい・・・。」
「一つ、箱ちゃんが此処に居るのは分かってたの?」
「はい・・・。」
「二つ、何でこんな事をしたの?」
「え、えっと・・・。あの・・・。」
「お兄ちゃん怒ってないから、正直に言いなさい。」
「うゅ・・・。」
上手く説明できないのか、八雲ちゃんの目に徐々に涙が溜まってくる。
・・・仕方が無いな。
「・・・・・・。」
「・・・ふぇ?」
真間ちゃんのときと同じ様に、優しく頭に手を置いてやる。すると意外だったのか目を丸くして此方を見てくる。
「もうこんな事しないって約束できる?」
「・・・・・・うん!」
八雲ちゃんは一瞬躊躇ったものの、元気な声で返事をした。
「よし、じゃあ一緒にお城作ろう!」
「うん!」
「ねぇ、おにいちゃん。」
くいくいとエプロンの裾を引っ張られたので振り返ると、箱ちゃんがおずおず、といった様子で俺を見上げていた。
「ハコもいっしょにおしろつくってもいい?」
「勿論、みんなで作ろうな。」
「うん!」
「さ、積み木を出し」
「すーぱーでんじゃらすきーっく!」
「うわぁっ!?」
「おにいちゃん!?」
大きな声が横から聞こえてきたかと思うと、突然側頭部に衝撃が走り視界が大きく揺らぐ。バランスをとろうとするも、足が突っかかって勢いをそのままに壁に激突してしまった。
「いてて・・・。」
「へっへーん!どーだ、あたしの『すーぱーでんじゃらすきっく』のいりょくは!」
蹴られた方向を確認すると、先程出席の時に元気良く返事をしていた阿立夕華ちゃんが此方を指差しながら自慢げな表情で立っていた。
「あー、すごいすごーい。」
正直、夕華ちゃんの蹴りの痛みよりも壁にぶつかった時の衝撃の方が痛かったがここは彼女の顔を立てて黙っておいてあげよう。
・・・にしても、今日は厄日か?怪我・・・までは行かないけど痛みが多い。
「おにいちゃん、だいじょうぶ?」
「ん?ああ、大丈夫だよ。こんな事で倒れるほど俺も柔じゃないからね。」
「すごーい!」
不意を突かれたとは言えまだ子供、力もそれ程ではない。
「・・・むー。」
振り返ってみると、今言った言葉が夕華ちゃんに聞こえてしまったらしく夕華ちゃんが頬を思い切り膨らませていた。
し、しまった・・・。
「ゆ、夕華ちゃん・・・?」
「しょうぶだー!」
「うえぇ!?」
そこまで怒る!?
「・・・どうしてこうなった?俺は、ただゆっくりと休日を過ごそうとしてただけなのに・・・。」
「諦めろよ、もう園長先生達出ちゃったしさ。」
エプロンをして園児達の名簿を持って項垂れる俺の肩を、鉄ちゃんが軽く叩く。
・・・そもそも何処からおかしくなったんだっけ?ええと・・・もういいや、考えるだけ頭が痛くなる。
「さ〜、みんな集まってるか確認するから集まって〜!」
『は〜い!』
鉄ちゃんが慣れた様子で呼ぶと、10人程の園児達が元気な声で返事をし一斉に俺と鉄ちゃんの周りに集まってきた。・・・ちなみに、茜ちゃんは部屋の隅っこで眠っている。
「ほら、自己紹介。」
「あ、ああ・・・。」
全員が、俺に対して好奇の眼差しで見つめてくる。
そういえば、人の前にこうやって立つの初めてだな・・・。
「え〜っと・・・どうも初めまして。今日一日みんなと一緒に遊ぶ天地陽介っていいます。よろしく。」
『よろしくおねがいしま〜す。』
「みんな、陽介兄ちゃんに訊きたい事あるかな?」
んなっ!?聞いてねぇぞ!?
「はいっ!」
鉄ちゃんが連れていたワーラビットの子供が元気良く手を上げる。
えっと、あの子は・・・。
「宇佐兎月(うさ うづき)ちゃん、でいいのかな?」
「うん!」
「で、質問は?」
「ようすけおにいちゃんはかのじょいるんですか?」
「いや、いないよ。」
「なんでですか?」
いや何でってあーた。まず、俺に興味持つ奴なんか居ないだろう、普通に考えて。
「陽介兄ちゃん困ってるからウッチーそこまで。じゃー次は誰が訊きたい?」
「・・・梵、ちっくと話しゆうが?」
「はい、ここまで!」
「え〜。」
子供達が残念そうに声を上げるが、これ以上醜態晒して堪るか。
思いっきり恨みを込めた目で鉄ちゃんを睨むと、流石に伝わったのか大慌てで俺への質問コーナーを終らせた。
「さ、出席取ろうか。」
『は〜い。』
「え〜と、阿立夕華(あだち ゆうか)ちゃん。」
「はいっ!」
褐色の肌とポニーテールを結んだ黒いリボンが特徴的なサラマンダーの子供が元気良く手を上げた。
「宇佐兎月ちゃん。」
「はいっ!」
先程のワーラビットが手を上げる。
・・・・・・・・・・・・以下略。
「箱真間(はこ まま)ちゃん以外はみんな揃ってるみたいだな。・・・で、どうすんだ?」
「陽介、暫らく遊んであげててくれるか?俺は向こうでカオリ先生と資料纏めてくるから。」
「あ?・・・ああ、わかった。」
鉄ちゃんは踵を返して教室を出ると、その後を小さな稲荷が追って行く。
あの子は・・・確か狐璃先生の娘さんで梨璃ちゃん・・・だっけ。
因みに狐璃先生というのは、うちの学校の古典の教師だ。種族は稲荷で村の中央から少し外れた所にある神社で暮らしている。
よっぽど鉄ちゃんに懐いてるんだろうな。・・・まあ、鉄ちゃんについて行ったし大丈夫・・・だな。
「・・・さ、今日は自由時間だからみんな思い思いに遊ぼうね〜。」
『は〜い!』
「怪我しない様にね。じゃあ解散!」
合図に手を叩くと、子供達は散らばっていった。外へ行く子もいれば本を読み出す子もいる。
さて、どうするか・・・。
「ねえねえ、ようすけおにいちゃん。」
「ん?」
不意に、後ろから声を掛けられた。振り返ってみるとラージマウスの子供が俺のズボンを引っ張っていた。
この子は確か中谷八雲(なかたに やくも)ちゃん・・・だったな。
「ん?どうしたの?八雲ちゃん。」
「いっしょにあそぼ?」
「いいよ、じゃあ何して遊ぼうか。」
どうやら人懐っこい子の様だ。
「あのね、あのおもちゃばこにつみきがあるの。」
そういって、八雲ちゃんは少し遠くにある蓋の付いた青い玩具箱を指差す。
「でねでね、おっきいおしろつくりたいからつみきがいっぱいいるの。」
身振りを交えながら、八雲ちゃんが一生懸命説明する。
・・・なるほど、積み木を出すのを手伝って欲しいのか。
「よし、一緒に取りに行こうか。」
「うんっ!はやくはやく!」
「っとと・・・。」
八雲ちゃんは元気良く返事をすると、余程楽しみなのか小さな両手で精一杯俺の脚を押してきた。
「この中にあるんだね?」
「うんっ!」
改めて玩具箱を見てみると、結構大きい。裕に一抱えほどはありそうだ。蓋も持ち上げるタイプではなく、宝箱の様な作りになっているようだ。
箱の蓋に手を掛ける。
「じゃーん、中身はハコでしたー!」
突然元気な声が聞こえたかと思うと、視界が紫一色になった。と、同時に顔面を激しい痛みが襲う。
「ぶっ!?」
「っきゃん!?」
「ま、まっちーん!?」
どうやらこの箱はミミックが化けていたらしい。勢いよく飛び出してきたのはミミックの本体のようだ。後ろにいた八雲ちゃんも驚きの声を上げている。
「いたぃ・・・。」
「ってて・・・だ、大丈夫?」
「・・・ふえっ。・・・うん。」
今にも泣きそうなミミックの子供の頭に手を置いて撫でてやると、目尻に涙を溜めたままだが泣き止んで俺の手に身を任されてくれた。
「危ないから、もうこんな事しちゃダメだよ?」
「・・・ふぁい。」
「あ、そうだ。君、名前は?」
「・・・箱真間。」
そうか、この子が・・・。さっき呼んでも返事しなかったのはばれない為か。子供ながら見事な隠れ精神だな。
さて、問題は・・・。
「八雲ちゃん?」
「!は、はい!」
俺が振り返ると、八雲ちゃんは耳と尻尾をピンと張り肩を思い切り跳ねさせて返事をする。
・・・やっぱり。この子、最初から分かってたな?
「今から聞く質問に、正直に答える事。」
「は、はい・・・。」
「一つ、箱ちゃんが此処に居るのは分かってたの?」
「はい・・・。」
「二つ、何でこんな事をしたの?」
「え、えっと・・・。あの・・・。」
「お兄ちゃん怒ってないから、正直に言いなさい。」
「うゅ・・・。」
上手く説明できないのか、八雲ちゃんの目に徐々に涙が溜まってくる。
・・・仕方が無いな。
「・・・・・・。」
「・・・ふぇ?」
真間ちゃんのときと同じ様に、優しく頭に手を置いてやる。すると意外だったのか目を丸くして此方を見てくる。
「もうこんな事しないって約束できる?」
「・・・・・・うん!」
八雲ちゃんは一瞬躊躇ったものの、元気な声で返事をした。
「よし、じゃあ一緒にお城作ろう!」
「うん!」
「ねぇ、おにいちゃん。」
くいくいとエプロンの裾を引っ張られたので振り返ると、箱ちゃんがおずおず、といった様子で俺を見上げていた。
「ハコもいっしょにおしろつくってもいい?」
「勿論、みんなで作ろうな。」
「うん!」
「さ、積み木を出し」
「すーぱーでんじゃらすきーっく!」
「うわぁっ!?」
「おにいちゃん!?」
大きな声が横から聞こえてきたかと思うと、突然側頭部に衝撃が走り視界が大きく揺らぐ。バランスをとろうとするも、足が突っかかって勢いをそのままに壁に激突してしまった。
「いてて・・・。」
「へっへーん!どーだ、あたしの『すーぱーでんじゃらすきっく』のいりょくは!」
蹴られた方向を確認すると、先程出席の時に元気良く返事をしていた阿立夕華ちゃんが此方を指差しながら自慢げな表情で立っていた。
「あー、すごいすごーい。」
正直、夕華ちゃんの蹴りの痛みよりも壁にぶつかった時の衝撃の方が痛かったがここは彼女の顔を立てて黙っておいてあげよう。
・・・にしても、今日は厄日か?怪我・・・までは行かないけど痛みが多い。
「おにいちゃん、だいじょうぶ?」
「ん?ああ、大丈夫だよ。こんな事で倒れるほど俺も柔じゃないからね。」
「すごーい!」
不意を突かれたとは言えまだ子供、力もそれ程ではない。
「・・・むー。」
振り返ってみると、今言った言葉が夕華ちゃんに聞こえてしまったらしく夕華ちゃんが頬を思い切り膨らませていた。
し、しまった・・・。
「ゆ、夕華ちゃん・・・?」
「しょうぶだー!」
「うえぇ!?」
そこまで怒る!?
11/10/16 03:35更新 / 一文字@目指せ月3
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