連載小説
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4話 非日常のキワミ
――――――次の日


「・・・ぃちゃん!おにいちゃん!」
「ん?」

揺れる様な感覚と共に目が覚めた。目を開いてみると、そこはいつもの見慣れた部屋の天井。しかし、揺れている感覚は未だ止まる事が無い。何だか、視界も少し揺れているような・・・。

「おにいちゃん!おきて!」
「紫苑ちゃん、起きるの早いね?」

隣を見てみると、紫苑ちゃんが俺のことを揺さぶっていた。

「はやくおきてー!」
「起きた起きた。で、どうしたの?朝ご飯?」
「ちがうのー!」

紫苑ちゃんが頬を膨らませて俺の言葉を否定する。
・・・一体なんだ?今日は休みの日だし、もう少しゆっくり眠って居たい・・・。

「きょうはようちえんのひなのー!だからはやくー!」
「・・・へ?」

・・・今なんて・・・?幼稚園・・・?

「今日、土曜日だよ?」
「うん、きょうもあるよ!だからはやくー。」
「・・・今何時?」
「わかんない。」

急いで外の日の角度を見る。窓からはまだ日が見えてない・・・って事はまだ8時じゃないな!多分、幼稚園って言うと鈴本幼稚園の事だよな・・・。ここら辺に、幼稚園ってあそこしかないし・・・。ココからあそこまで、歩いて大体20分ぐらい・・・。い、急がないと遅刻する!?

「し、紫苑ちゃん!じゅ、準備を・・・!」
「もうできてるよー。」
「・・・・・・。」

流石、留美さんの娘・・・。しっかりしてる。
用意が出来てるなら話が早い。幸い俺も昨日私服のまま寝ちゃったし、このまま出ても怪しまれないだろう。

「じゃ、行こうか。」
「うん!」

まだ眠っている茜ちゃんを起こさないように慎重に抱き上げてゆっくりと、それでいて早足に玄関まで歩く。紫苑ちゃんは既に玄関でジャンプをしてドアに手を掛けようとしている。見ていて微笑ましい。

「・・・とどかない。」
「ハハハ、じゃあ行こうか。」

履きなれたサンダルを履き、ドアを開く。涼やかな風と共に田舎特有の青臭い匂いが鼻を擽る。・・・っとと、のんびりしている暇は無いな。少しゆとりがあるとは言え、急がなくては。


――――――鈴本幼稚園


「ふう、やっと着いたな・・・。」
「あれ、陽介?」
「ん?」

不意に後ろから聞き慣れた声がして振り返ると、三人の小さな子供を連れた鉄ちゃんが意外そうな顔をして立っていた。

「よう、鉄ちゃん。って、お前もなんでココに居るんだよ。」
「何でって・・・この子達のお迎えだけど。陽介は?」
「大体お前と同じ。」

鉄ちゃんの足元を見てみると小さなメデューサとワーラビット、それに黒い毛並みのネコマタが俺のことを不思議そうに見つめていた。

「みっちゃん、ウッチー、スズちゃん!おはよー!」

俺の足元にいた紫苑ちゃんが三人の下へと駆け寄る。それに呼応して、三人は興味を俺から紫苑ちゃんに向ける。

「どうも、おはようございます。」

不意にまた後ろから声を掛けられた。振り返ると、俺の腰ほどの身長の青い髪をした魔女の少女がニコリと笑っていた。

「ん、この子も園児?」
「!!」

突然、少女はショックを受けたような顔をして項垂れてしまった。

「陽介、その人先生。」
「え!?」
「・・・・・・。」

いつの間にか先生(?)はその場で膝を抱え、地面に指でのの字を書いていた。

「し、失礼しました!」
「いえ、良いんです・・・。もう慣れてますから・・・。」

そう言いながら地面にのの字を書くことを止めない先生(?)。

「カオリちゃん、おはよーございます。」
「はい、おはようございます。」

しかしその言葉の通り、言われ慣れているのかネコマタの少女が挨拶した途端すぐに立ち直った。
おいおい、先生って敬称すら付いてないぞ・・・。本当に先生なのか?

「あら、陽介君じゃない。珍しいね?」
「うぇ、凛先生!?」

幼稚園の奥から、学校で家庭科を教えているアリスの鈴凜(すず りん)先生が顔を出した。凛という名前とは裏腹に、見た目どおりの性格で子供っぽい先生だ。その所為か、学園内じゃ男女共に結構な人気がある。
・・・一体、何でここに。あ、確か違う所でも働いてるって言ってたっけ。ココの事だったのか・・・。

「リン、お友達かい?」

建物の中から落ち着いた声が聞こえ、茶髪の男性が顔を出した。

「ううん、教え子なの。」
「そうか。」

男性はこちらに向き直ると、ニコリと笑って手を差し出してきた。

「僕はここの園長で凛の兄の鈴理路(すず りろ)。いつも妹がお世話になってます。」
「天地陽介と申します。こちらこそ、凛先生にはお世話になりっぱなしで・・・。」
「そうそう。破れた剣道着、いつも直してあげてるもんね!」
「ハハハ。・・・そうか、君が陽介君か。」

そう言いながら、凛先生は慎ましい胸をこれでもかと張って威張る。
うん、威厳もへったくれもありゃしない。

「ええ、またお願いします。」
「また破れたの!?」
「うちの流派は結構動きますんで。」
「そんなぁ〜・・・。」

きっぱりと言うと、凛先生は先ほどの魔女の先生のように項垂れてしまった。

「天地流(てんちりゅう)・・・だったっけ?」
「ああ、親父が創った流派だよ。」
「でも練習覗いた時、そんなに動いてなかったように見えたけど?」
「・・・何時の事か分からないけど、多分それは普通の練習。」
「何か違うの?」
「結構違う。」
「ふ〜ん。」

鉄ちゃんは半分納得していない様子で頷いた後、園内にいる子供達を見渡した。

「うん、決めた!」

その時、理路さんが少し大きな声をだした。

「鉄ちゃん、この前話したこと覚えてる?」
「え?ええ。園長先生が御実家に帰られるから一日先生をやってくれ・・・でしたよね?」
「うん、そうそう。」
「でも、あと一人は欲しいって・・・あ。」

そう言いながら、何故か俺の方を向く理路さんと鉄ちゃん。
ま、まさか・・・。
嫌な予感が全身を駆け巡る。数秒もせずに、それは現実となった。

「陽介君。」
「・・・・・・・・・。」
「頼んでもいいかな?」
「・・・・・・はい。」

さらば、俺のいつもの休日・・・。
11/10/01 16:01更新 / 一文字@目指せ月3
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■作者メッセージ
ハイどうもお久し振りです一文字です。
更新、遅くなって申し訳ありません。
なにぶん仕事が溜まってまして・・・。(あと食中毒発症

とにかく、今日から復活いたします!

今日一日幼稚園を任される事になってしまった陽介!
魔物娘がいっぱいのこの幼稚園では一体何が起こるのか!?
次回!幼女いっぱい出ます!(笑)

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