第三話 親友と儀式 後編
「何やってんだ…?」
俺はロイス達を送った後、彼女達ワーウルフの集落へと戻ってきていた。
だが集落は静まり返り、彼女達は中央の大きな(恐らく族長の)家の前に集まっていた。
近くにいって見ると、彼女達は家を囲み神妙な顔で見守っていた。
…その中心に族長はいた。
彼女は目の前に片膝を付いているワーウルフに自分の付けていた首飾りのような物を授けていた。
授けられたワーウルフは立ち上がり、自分を象徴するかのように高々と遠吠えをした。
どうやら何かの儀式をしているらしい、俺は終わるまで待つ事にした。
「族長継承の儀式?」
「そうだ。」
儀式が終わった頃。
テーブルに沢山の食事が並べられ、彼女達は火を囲み歌い踊り、宴が始まった。
俺は宴の席に呼ばれ飲み食いする中、彼女に何をしていたのか聞いてみた。
次の族長を決める儀式だったらしい。
「お前、族長を辞めるのか?」
「辞めるというより託すだな、私はお前の良き妻になると誓った。…誓った以上族長を続ける事は出来ない、だから、次なる世代に託したのだ。」
「えらく律儀だな…。」
俺は苦笑しながらも答えた。
まあ、この後ヴェンの所にへと送るのだから都合としてはかなり良かった。
だが、俺の頼みで彼女から族長という位置が無くなるのは少し心苦しかった。
彼女達のためとはいえ、生活までも束縛してしまう事になる。
そう思うと俺は途端に不安になった。
「後悔してないか?」
「ん?何をだ?」
「俺の…妻になる事を。」
「今更それを聞くのか?」
ここまでしといてだが俺は彼女にそう聞いていた。
だが彼女は呆れながらも、さも当たり前かのように言った。
「私がお前に惚れ込んだのだ、後悔は無い。」
「そ、そうか。」
俺は自分の頬が熱くなるのを感じ、酒を飲んで誤魔化した。
これは酔いが回って熱くなっているのだ、断じて照れている訳ではない。
その様子を見ていた彼女が「ふふっ」と笑った。
火に照らされて赤く火照る彼女の笑みはとても情熱的で、その姿に俺は不意を突かれ身体を硬直させてしまう。
まずい、何か話を逸らさないと…。
「そ、そういえば。」
目を泳がしながら俺は話題を振った。
「まだ名乗って無かったよな、俺はアレスだ。…お前は?」
そう言うと彼女は突然、恥ずかしそうに顔を逸らした。
俺は訳も分からず「どうした?」と聞くと彼女はぼそぼそと言った。
「…笑わないか?」
こちらを時折伺いながら彼女は聞いてきた。
その容姿はとても愛らしく、最初に会った時とは想像もつかないほどだった。
俺はその姿に微笑みながらも彼女の“要望”に答えた。
「笑わない。」
「ぜ、絶対にか?」
「ああ、絶対に。」
俺がそう答えると彼女は視線を逸らせながら呟くように言った。
「…“ルー”だ。」
「ルー?」
聞き返すと彼女は恥かしそうに頷いた。
「…。」
俺は黙ったままの彼女の姿をみて、
「くっくく、あっはははは!!」
盛大に吹き出してしまった。
「わ、わわ、笑わないと言っただろう?!」
予想外の裏切りに彼女はあたふたとする。
「わ、悪い、でも、くくくくっ。」
怒る彼女を余所に俺はまだ笑いが止まらなかった。
彼女は機嫌を悪くして「ふん」とそっぽを向いてしまっため、俺は笑いながらも慌てて弁解をする事にする。
「いや、悪い悪い、別に名前が可笑しくて笑ってたわけじゃないよ。」
「…本当か?」
彼女はちらりと疑いの眼差しを向けて俺の方を見た。
俺はそのまま話を続ける。
「ただ、あんまり恥かしそうにしてたから何かと思って。」
「物心つく頃からそう呼ばれてたのだ、仕方ないだろう…。」
「いや、いいんじゃないか?…お前と一緒で可愛いぞ?」
「か、かわ?!」
彼女は顔を真っ赤にして俺の方を向いた、心なしか顔から湯気も出ている。
「わ、私が、…可愛い?」
「ああ、とてもな。嫌か?」
「い、いや、今まで言われた事は無かったのだが…可愛いか、その、不思議と悪い気はしないぞ?」
頬を赤らめながら上目遣いに見てくる。
後ろの尻尾は左右に勢い良く振っており、彼女自身もそわそわと落ち着かない様子だった。
意を決して彼女は“催促”をする
「なあ…、アレス?」
「うん?」
「そろそろ…いいか?」
「…ああ。」
そう返事すると彼女は俺の手を握り、中央の大きな家へと入っていった。
彼女を寝床へと優しく寝かせ、服を脱がせていく。
布がはだける音と共に彼女の透き通るような肌が姿を見せる、肌をなぞると彼女は「んっ」と声を漏らし、びくんと跳ねた。
身体が重なっていくほどに体温は上がり、二人の息も自然と荒げてくる。
俺は堪らず彼女の豊満な胸へと顔を埋め、揉み解しながら桃色の突起物を指先で弄った。
「ん、私の胸、そんなに、いいのか?」
彼女は恥ずかしいのか手で顔を隠しながら俺に聞いてきた。
その返事として俺は彼女の胸を大きく揉み始め、突起物を舌の上で優しく転がした。
予想外の快感に彼女は大きく喘ぎ、身体を大きく捩じらせる。
その淫靡な姿に俺の股間は熱を帯び膨らませていった。
「頼む、もう、熱いのを…挿れてくれ。」
彼女は背を向け、四つん這いになり俺を求めた。
尻尾をふりふりとさせ、股下からは愛液が滴り落ち蜜壷がいやらしく口を開けている。
肉棒を彼女の蜜壷へとあてると愛液が糸をひき、淫らな水の音を出して誘ってくる。
その姿に俺は…。
俺の理性は弾けた。
「はあ、ん、ああ、アレス…?」
「な、なんだ?」
身体を揺らし、激しく腰を振る彼女は俺に話しかけてきた。
俺も肉棒を突きたてながら彼女に言葉を返す。
「私とじゃ、ん、嫌か?」
「どうして、…そんな事を?」
「お前は、…悲しい顔をしている。」
「!」
不意に彼女は身体の動きを止め心配そうに俺にそういった。
俺は彼女に心を覗かれた気がして戸惑ってしまう。
気づかぬ間に顔に出てしまっていたようだ。
ある事を自己嫌悪する俺の心が。
「だ、大丈夫、大丈夫だ。」
「…本当にか?」
「…。」
彼女の不安そうな顔に俺は黙ってしまう。
意思に反して俺の頭の中で一つの議論がなされる。
『待ってるからね、ダーリン♪』
スラミーはそういってヴェンの所にへと行った。
俺の妻として、今でも帰りを待っているのだ。
それを俺は今別の相手と交じり合っている。
目の前にいる彼女、ルーも俺を信じて妻になると誓ってくれた。
それは二人に対する裏切りなのではないか?
彼女達のためという大義を振りかざし、自分の欲を満たしているだけではないのか?
ヴェンは彼女達の意思とは別に実行するとは言っていたが、俺は二人の笑顔を思い出すたびに心が張り裂けそうだった。
所詮俺は強がっていただけだ、あの勇者と何にも変わらない。
俺は…俺は。
「アレス、お前…。」
「…。」
いつの間にか俺は涙を流していた。
絶え間なく溢れる涙を見ながら俺は力なく笑う。
甘く見ていた。
魔物娘は性を求め、人を襲い子孫を残していく、そんな彼女達に理性は殆ど無いと思っていた。
だが俺が出会った彼女達は人間となんら変わりない。
言葉を理解し、笑い、人を愛することが出来る。
そんな彼女達を裏切り続けなければならない。
今になってそんな重大なことを気づく俺は救いようの無い馬鹿だ。
ロイスに強がっておきながらこのザマだ。
初めから無理だったのかもしれない。
俺はこんなにも脆い生き物なのだから。
俺が悪人であればどんなに楽だったろう?
でなければ、こんなにも苦しくないのに。
そんな俺を彼女は…。
ぎゅっ…。
「え…?」
優しく抱きしめてくれた。
暖かい、優しい香りがした。
「良いんだ、アレス。もういいんだよ?」
俺の髪を優しく撫でながらルーは続ける。
「私の事を思って…泣いてくれているのだろう?」
「ルー、俺は…。」
「さっきも言ったが、私がお前に惚れ込んだのだ。…お前にどんな事情があるかはまだ知らないが、私はどんなことでも受け入れよう、…だから。」
彼女は微笑んでいた、俺の全てを見透かしたように。
「私を、お前の妻にしてくれ。」
彼女の言葉が俺の闇を晴らしてくれた。
心が救われた気がした。
そんな彼女を俺は、
「ルー!!」
堪らなく愛おしくなった。
落ち着いた俺は彼女に全てを話した。
彼女は俺の言葉を聞き、驚きながらも最後まで聞いてくれた。
今になっては言い訳になってしまうかもしれないが、俺は彼女に知って欲しかった。
今の俺の、精一杯の気持ちを。
「それは、お前の杞憂だな。」
「杞憂?」
すべてを聞いた彼女は俺にそう言った。
「私達魔物は人間に忌み嫌われ、退治される存在だ。…だから私達も無差別に人間を襲い、性を奪う、それは相手の事情も弁えずだ、この意味が分かるか?」
「…つまり、お互い様と言いたいのか?」
「そういうことだ、私だって人を襲い性を奪った事もあるし、恐らくそのスラミーも違う人を襲ったはずだ、だからお前が気にするような事じゃない、お前は優しすぎるのだろうな…。」
彼女はそう言い、俺の頭を撫でた。
少し恥ずかしかったが何故か不思議と心地よかった。
撫でながら彼女は話を続ける。
「それに、そこまで私達を思ってくれているのだ。…感謝こそすれ裏切られたなんて思わないよ。」
「それで…本当に良いのか?」
「ああ、少なくとも私はお前の事がもっと好きになったよ。」
俺は彼女の好きという言葉が嬉しかった。
彼女は俺を救ってくれた恩人だ、だが彼女に好きという言葉はかけられない。
だから俺は彼女に、いや彼女達に言った。
「俺も、お前達が好きだ。」
そういうと彼女はそっと笑ってくれた。
日が昇り、森が光に満ちた頃。
彼女を無事にヴェンの所へと送り、皆に別れを告げ、俺は集落を出た。
森を抜け、ラズと初めて会った所まで戻ってくる。
予期せぬ寄り道だったが、必要な寄り道だった。
彼女達に会った事で、俺は自信を取り戻していた。
もう迷わない、彼女達のために生きよう。
たとえそれが恨まれる事でも俺は構わない、それは俺自身にしか出来ない事だから。
そうして俺は、目的の街へと歩き出した。
程なくして街らしき建物が見えてきた。
周りが外壁に囲まれているため、中の様子は分からないが他に大きな街が見当たらなかったのであそこが目的の街、『ミルアーゼ』だろう。
「…何かあったのか?」
入り口らしき所へ向かうと沢山の人だかりが出来ていた。
旅人以外にも、街の住人らしき者や商人の姿も見えた。
皆がざわざわと騒ぎ、落ち着かない様子で街のほうを眺めていた。
俺は誰かに事情を聞こうと探した所、見知った顔が道端で座り込んでいた。
「ムンド!!」
「おや、アレスさん!!随分遅かったですね?」
彼は俺の姿を捉えると、こっちに走ってきた。
荷物などが無い辺り、街に置いてあるのだろう。
俺は彼に何があったか聞いてみると、彼は俺に小さな声で耳打ちした。
「実は今、魔物が街を占拠しているのです。」
…この先に、一体何がいるんだ?
俺は彼の言葉が信じられぬまま街の外壁を見ていた。
11/07/30 19:10更新 / ひげ親父
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