「で、何に見える？」

グリムは粉々に砕け散った残骸の中から一つ取り上げてハンスに見せた。
ハンスはうーん、と唸りながらその残骸を手にとって良く見てみる。

「どう見ても唯の鉄の破片にしか見えませんね…魔石などならともかく。」
「…だよな、稼動部分の歯車や機関部分もどう見たってあれほど意思を持って器用に動くとは思えん、中に人でも入ってりゃ説明がつくんだがなぁ。」
「二人とも、何か分かりそうか？」

二人で調べているところに後ろからアレスが声を掛けた。
グリムはアレスに首と手を振ってさっぱりとジェスチャーする。

「なんにもわかりゃしねぇ…お手上げだ。」
「あの巨人は間違いなく意思を持ってここを襲撃に来ていました、ですからその命令を伝達する…あるいは意思を司る部分が何処かにあると思ったんですが…。」
「戦っていて分かったんだが、動きは殆ど人間のそれだった…ダメージを受ければ苦しんでいたし防御もしていた、単に動いていたというわけじゃない。」
「いったいなんだったのでしょうか…少なくとも彼女達とは敵対する勢力、大方教団辺りかと思うのですが。」
「あるいはもっと別の…ま、敵であることには変わりはねぇさ…で、アレス。」
「なんだ？」

グリムは話を切ってアレスの右手の方を指差して言った。

「それ、なんとかなんねぇのか？」
「…僕も気になって仕方が無いんです。」

ハンスも同様にアレスの右手、正確には鎧の『獅子』の顔がついた篭手を指した。

「……♪」スリスリ

そこには獅子の顔に満面の笑顔で頬ずりするサリアがいた。

「あぁ、リコから聞いたんだが彼女の癖というか決まりみたいなものらしい…、リコを送った後にどうしても堪能させて欲しいと言われてな。」
「…♪」
「まぁ…経緯を知れば分からなくもないが…だったら外して渡してやりゃいいじゃねぇか？」
「それが…どうしてか分からないんだがこの鎧、身体から外れないんだ…まるで離れたくないみたいに。」
「なんですかそれ…一種の呪いですか？」
「分からない、一応戦闘時以外は背中に収納できるみたいだから邪魔にはならないが…。」
「案外、元が魔物だから好かれたのかもなアレス？」
「アレスさんの場合、冗談では言い切れないところもありますけどね。」
「…せめて人型で出てこればな。」

三人は冗談を言いながら談笑しあった。


−−−−−−−。

時は遡り、アレスが巨人を倒した直後、洞窟より少し離れた丘にて。

「おい、これは一体どういうことだ?!」
「……ふむ。」

一部始終を見ていた軍服の男は顔を真っ赤にさせ怒鳴り散らしていた。
隣で怒鳴られている白衣の男はさも気にした様子も無くしきりに何かを呟きながらメモしていた。

「あんな奴がいただなんて聞いていないぞ、我が軍の主力であるタイタンを…しかも人の身で倒すなど奴は一体何者なのだ?!」
「私も聞かされてはおりませんでしたよ、もしかすれば勇者様が立案したのも奴のせいなのかもしれませんね、ははは…これは驚きましたな。」
「何を暢気にしておる、あんな脅威を野放しになど出来るか…城に戻りすぐに対策を練らなければ、博士…その間に貴様にはタイタンに変わる新たな兵器を開発してもらうぞ？」
「勿論ですよ…お任せを。」

一頻り言い終わると軍服の男はいそいそとその場を後にする。

「…随分と楽しそうですね。」

続こうとした白衣の男に後ろで佇んでいたローブの女が呟いた。
男は特に隠そうともせず半ば笑いながら答える。

「当然だろ、戦争というものはお互いが強ければ強いほど長続きする、その間ずっと国は兵器の研究に金を掛ける、私は好きなだけ研究と開発を続けられるんだ…これほどの旨みは無いよ。」
「その研究のためには如何なる犠牲も問わないと？」
「タイタンは鉄や歯車だけではつくれないからねぇ…それに犠牲とは人聞きが悪い、私はチャンスを与えているんだよ…"死んだ後"も国の為に戦士として戦えるんだからねぇ…。」
「…。」
「ま、それもこのままじゃ効率も悪いからね…別の動力源も探すとしよう、さぁ…楽しくなってきたぞ…。」

白衣の男は不気味な笑みを零しながら軍服の歩いていった方向へ消えていく。
最後に残ったローブの女はふぅっ…とため息をつくと二人についていった。


−−−−−−−。

場所は変わり、今度は魔界…リリム城のエレンの部屋にて。

「うぅ…ぐすっ…。」

ハートの模様が描かれた壁紙、高貴なイメージのシャンデリア、一人が寝るには大きすぎるベッド。
全てがゴシック調の黒とピンクに装飾され、魔王の娘達との総称とも言えるリリムに相応しいほどの高品質な部屋。
そんな部屋のベッドでエレンはクッションを抱いて独り泣いていた。

『俺はお前を"女"として見れないんだ』

エレンはその赤い目を涙でより赤くし、自分を侮辱したアレスを心底恨んでいた。
あの時のアレスの言葉を思い返すたびに涙が溢れ、悔しさと怒りが滲み出る。

「こ、こんな屈辱…初めてだわ、この、この私が…あんな人間なんかに!!」

エレンは憤慨してクッションを部屋の隅へと投げつける。
それでも涙は治まらずまたクッションを取りに行っては抱きしめ、また投げる。
それを部屋へと帰ってきてからずっと繰り返していた。

「んもぉぉぉー!!!」

そんなことを何回も繰り返しているとコンコンッとエレンの部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「?!」
「エレン様、よろしいですか？」
「ちょ、ちょっと待って。」

するとエレンは散らかっていた部屋を片付け、涙ぐんだ顔を魔法で戻し乱れた服を調えた。
ふぅ…っと深呼吸するといつもの口調で答える。

「…いいわよ。」
「失礼します。」

ドアが開き、一礼をして入ってきたのはメイド服を着たダークエンジェル。
彼女はエレンによって堕落した後、宮仕えとしてここにいる。

「エレン様、ご入浴の準備が整いましたのでお知らせに参りました、その間にお部屋のシーツの交換もさせて頂きます。」
「そう、わかったわ…いつもありがとうね。」
「そんな、私たちには勿体無きお言葉です。」

そう言って彼女は慌てて深々と一礼をする。
エレンはそのまま部屋を出ようとしたが…ふと、ドアノブに手を掛けようとしたところで立ち止まった。

「…。」
「？」

急に動きが止まったエレンを不思議に思って見ていると、エレンはダークエンジェルの方へと向き直った。
彼女を二つの赤い目がじっと見つめた。

「あの…なに…か？」

緊張した面持ちで見上げるように見つめるダークエンジェル。
そんな彼女の息が掛かるほどにまでエレンは近づきそっと肩に手を置く。
肩に触れた瞬間、軽く悲鳴を上げ彼女の身体がビクンっと跳ねる。
エレンはそんなことお構いなしにふふっと笑いながら両肩をまさぐり始める。

「ひゃっ…え、エレンさ、ま?!」
「ねぇ、堕落してからの貴方って素敵よ…すごく素敵だわ？」
「い、いえ…あの…私……あ、…。」

エレンはそのまま手を肩から下へと服の上から滑らせていく。
腰、お尻とまさぐっていき最後にはスカートの中へと手を入れた。

「ふわぁっ、あ、だめ、ダメで、す…。」

スカートの中に手をいれ、エレンの指が彼女の下着に触れる。
上から分かるほどに彼女の下着は湿っておりそればかりか滴るほどに濡らしていた。

「あら、こんなに濡らして…可愛い。」
「え、エレン…さ、ま…。」

見れば彼女の頬は紅潮し、息遣いも慌く艶やかに零していく。
とろんとした表情のダークエンジェルの彼女はもうエレンの虜となってしまっていた。
下着の上から擦らせていたエレンの指が突如下着の中へと潜りこみ、彼女の大事な所へと挿っていく。

「あ、あぁ…っ!!」

彼女が悶えるのも束の間、エレンは手を小刻みに動かし指を上下に出し挿れさせる。
出し挿れするたびにスカートの中から愛液が飛び散り、太ももを伝わってニーソを濡らし、床には水溜りが出来上がっていた。
勢いが増し、彼女は壁に追いやられ片足を上げさせられる。

「あぁ、エレン様ぁぁ、もっとぉ、もっと苛めてくださいっ、私を苛めてくださいぃっ!!」

絶え間ない快楽とリリムの魅了にメイドのダークエンジェルは立場も忘れ、一匹の魔物娘としてのメスと成り果てていた。
エレンも彼女の表情が愉快なのか堪らないという表情で魅了を掛け続け身体を攻め立てる。
彼女の秘部からはまるで噴水のように愛液が溢れ出ていた。

「もう、イっちゃいますぅっ、イっちゃっ、イクぅ、イクぅぅぅっ!!!」

ダークエンジェルの身体は強く強張ったかと思うとビクビクと震えだした。
秘部からプシャァ…と音がした後、彼女は糸の切れた人形のようにへたり込んで
しまった。
エレンは恍惚の表情で愛液が滴る指を舌でぺろりと舐めとった。

「ふふ、ごちそうさま…このまま入浴してくるからあなたはここで休んでるといいわ。」
「ふぁ、ふぁい、あひがとうごはいまふ…。」

快楽が余韻が抜けきれず呆けたように座るダークエンジェル。
それとは対照的に何か自信を持ったように部屋を後にするエレン。
後ろでパタンとドアが閉まるとエレンは勝ち誇った笑みを浮かべる。

「そう、これが本来の私よ…見てなさいアレス、次は貴方の番よ？」

赤い瞳をギラリと光らせ、エレンは再びアレスを服従させることを目論んだ。




−−−−−−−−−−。


そして…とある峡谷にて。

深く切り立った谷が続き、下には大きな河が流れる峡谷。
その山が駈った部分に木に隠れるようにして崖と一体になっている小屋があった。
その小屋の中には二人の男、迷彩柄に身を包み一人は小屋の細い窓から外の様子を伺っていた。

「そろそろだな…おい、起きろ。」
「うーん、んあ…わりぃ。」

隣で仮眠をとっていた男を揺さぶり起こす。
うーんと唸りながら男は起き上がり、寝ぼけた眼を擦った。

「ふぅ…今日で観測任務も終わりか、長かったな。」
「あぁ、通過するのを見届けるだけなのは楽でいいんだが、そこまでにかかる移動が大変だな、予定通りとはいえ来るのに三日も掛かってしまった。」
「まぁそれでお給金が出るなら安いもんだろ、早く報告して旨いもん食って綺麗なお姉さんの所にでも行こうぜ？」
「また行くのか、そろそろ司教様にバレるとまずいぞ？」

二人で笑いながら任務とは関係ないところで談笑した。
丁度その時、小屋の外…小屋からは死角に当たる部分の茂みの中。

「おっ…見つけたよ、あそこにいる。」
「どれどれ…よし、二人ともオスだ!」

そこには二人の魔物が小屋の様子を伺っていた。
一人はハーピー、もう一人はサンダーバードという種族だ。
二人とも息を荒くして小屋の中にいる二人のオスを凝視する。

「ねぇねぇ、早く、早く襲撃しよう、ね？」
「まぁまぁ慌てんなって、作戦はこうだ…まずあたしがキツイ雷撃食らわしてそれから−」

そんな作戦を説明してると視界の端に動くものがあった。
反対側の峡谷から緑の茂みには似つかない黒い影、それが点々と現れ始める。

「え、あれって…。」
「ちょ、おま−」

それが一定の数になった途端、黒い影…ブラックハーピーの群れが一斉に飛び始めた。

「ちょ、ちょっとまって、それじゃバレちゃうよ!!」
「ままままままてまてまてまて!!!」

二人の制止も聞こえるはずも無くどんどん小屋へと近づいていくブラックハーピー達。
そんなことにも気付かず二人の男はまだ談笑を続けていた。

「どうせあの司教だって良い女抱いてるよあの風体なら、構うこたぁねえよ。」
「まったくお前は…まぁ、楽しいし今回も付き合うよ。」
「そうこなくっちゃ…って、ん？」

一瞬、男の一人が外に目をやると黒い影がこちらへと向かってきていた。
目を凝らして見ようとすると、それより早く何かが目の前の視界を遮った。

「え？」

それは緑と黄色で配色された羽。
その綺麗な配色が見る見るうちに青白く変色する。
否、青白い雷が纏われていく。

「くらえっ!!」

小屋に向かってサンダーバードが身体に溜めた雷撃を放った。
それは球体にへと変わり小屋の中で爆発音と共に炸裂する。

「うおわっ!!」
「どわぁ?!」

雷撃が直撃した男二人は後ろに吹っ飛び倒れこんだ。
その衝撃で小屋の一部が崩れてしまい同時に土煙を上げた

「げほっ…んは…なんだ、身体が、痺れて…。」

咳ごもりしながら立ち上がろうとするが先程の雷撃のせいか男達の身体は思うように動かなかった。

土煙が晴れてようやく首だけ見渡せるようになると二人はその光景に絶望した。
何故ならその周りにはブラックハーピーで囲まれていたからだ。
たくさんのブラックハーピーと目が合う男二人。

「にぱぁ♪」

その誰もが無垢な表情で笑いかける。

…男達が何かを言いかける前にブラックハーピー達は襲い掛かった。
衣服を剥ぎ取り、いやらしい水音を奏でて男女交じり合う媚声がその峡谷中に響き渡った。



……………。


「すっごぉい、このオスもう１０発ぐらい出してるのにまだ元気よ♪」
「なんか、ん、チンポから、ビリビリきて、この感覚、痺れるわ〜!」
「ちょっと、早くしてよ〜まだまだつっかえてるんだから。」

後ろではオスを求めて順番待ちでブラックハーピー達が群がっていた。
先程、一悶着あった小屋ではサンダーバードが難しい表情で小屋を見回していた。

「……。」
「もう、そんなに怒らないでよ〜ヒカリ、ちゃんとじゃんけんで決めたんだから。」

難しい顔していたからか一人のブラックハーピーが見かねてサンダーバード『ヒカリ』に声を掛けてきた。
それに気付いてかヒカリも腕の翼を振り、違うとジェスチャーする。

「そうじゃなくて、ここ…何のためにあるんだろって思ってさ。」
「ここって…この小屋の事？」

ブラックハーピーが小屋の中を見渡しながら尋ねるとヒカリは無言で肯定した。
小屋の中はテーブルが一つと資料を保管する棚ぐらいしか物が無く、人が寝泊りするような環境ではなかった。
ヒカリはそれを疑問に思っていた。

「これを見る限り、あのオス達はここに住んでたわけじゃないみたいだから、なにしてたんだろってさっきから考えてたんだ。」
「なにって…まさかナニを？」
「気持ち悪いこと言うなよ…。」

男二人でナニ…そんな想像を二人は慌てて頭から振り払った。
そうしているうちにヒカリと一緒にいたハーピーの『モカ』が資料の入った棚からある巻紙を持ってきた。

「ねぇねぇ、なんか大事そうな棚にこんなの入ってたよ。」
「ん、どれ？」

モカによってテーブルの上にその巻紙が広げられる。
テーブルいっぱいに広げた巻紙には文字やら図形やらがびっしり書かれていた。

「なんだこれ…？」
「あれ、大事そうだったから宝の地図かなんかだと思ったのに…。」
「えっと…。」

巻紙を見てもヒカリにはさっぱり、モカに至っては宝の地図だと思ってたいたのがはずれたので少ししょぼくれていた。
ブラックハーピーはなんとなくだがその巻紙が何かを作る為の設計図というのがわかった。

「多分、何か作ろうとしてたんじゃないかな…？」
「なにって…なんだよ？」
「わかんないけど…大きな空飛ぶ船…みたいだよ？」
「なんだそれ…鳥や魔物でもねぇのに船なんかが空を飛ぶわけないじゃん。」

急に馬鹿らしくなったのかヒカリはつまらなさそうに窓から景色を眺めた。
すると外にいた数人のブラックハーピー達が唖然と皆何かを見ていることに気がついた。

「ん、あんた達どうし−」

言いかけた所でヒカリの視界いっぱいに”それ”は横切った。

「?!」

あまりの出来事にヒカリは驚いた声すらも上げられなかった。
後ろからどうしたの？…と他の二人が見るも同じ反応を示した。

「なに…これ…？」

そこには設計図に書かれたとおりの船が…否、軍艦が目の前を横切っていた。
白く巨大な船体に無数のプロペラが回り、帆の代わりに両脇に翼が付いた物体。
そして誇らしげに教団のシンボルとその隣には『セイントバード』という名前が彫られているのが目に入った。
軍艦はそのまま彼女達を置いて峡谷の先へと進んでいった。

「うわぁ…すごぉい。」

モカはぽかんと口を開けてその姿に圧巻されていた。
しかし、それとは逆にヒカリは小屋の上へと登り、他のブラックハーピーの一部は飛び始めていた。

「え、ちょっと、どうするの？」

驚いて聞いてくるモカにヒカリとブラックハーピー達は一斉に振り向く。

「決まってんでしょ？」

そして当たり前のように答えた。

「「「「船ごとオスを頂くのよ!!」」」」

テンションが上がり、まるで野党にでもなったかのように奇声を上げてヒカリ達は飛び立ち軍艦を追いかけていった。

「もう…仕方ないな、！皆…ヒカリを追いかけて……緊急集合!!」

そしてモカの口から強烈な甲高い音が鳴り、峡谷中に響き渡った。

■作者メッセージ
今回は少し短めです。
また新たな話のための繋ぎだと思っていただけたら幸いです。