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第十八話 二つの契約 前編

「ダメだよハンスお兄ちゃんっ!!」

トーマの制止を振り切るようにハンスはおぼつかない足取りで走っていた。

「このまま寝てなんかいられませんよ…アレスさんの援護に行かないと…!!」
「ハンスお兄ちゃんの怪我だってまだちゃんと治ってないんだよ?本当に死んじゃうよ!!」
「それでも…僕は行かないと、アレスさんは無茶をする人ですからね…!」

そう言って内に先ほどカシムと戦っていた場所までハンスはたどり着いた。
着いたとき、ハンスは驚いたように目を見開いた。

「こ、これは…一体どうしたんだ?」

ハンスの目の前にはそこら中に煙が上がり、ここからでも少し熱気を感じるほどに焼け野原となった広場があった。
そして当のカシムの姿はなく、代わりに誰かを囲うようにして人だかりが出来ていた。
ハンスは急いでその人だかりへと向かう。

「一体…何があったんですか?」
「おぉ、あんたか…あんたの相方が見事カシムに勝ったんだよ。」
「えぇ?!」

驚いて人だかりを覗くとその中心でアレスが寝かされていた。
見るとサキュバスを中心とした魔物達がアレスを取り囲むようにして治癒魔法をかけていた。
優しい光とともにアレスの身体から徐々に傷がなくなっていく。

「それで…カシムはどうなったんですか?」
「あっちでのびてるよ、縛るのも可哀想なぐらいな有様でな。」
「何言ってんだよ、俺ならあと百発はぶちのめしてるぜ?」
「ははは、違いない。」

先ほどまでの表情とは裏腹にみんなの顔には笑顔が戻っていた。
ようやくこの街は本来の姿を取り戻せるのだろうとハンスは安堵した。
笑い合う中、アレスに掛けていた魔法の光が治まった。

「お、どうやら終わったみてぇだな。」

皆が覗き込むとアレスの身体のほとんどの傷はなくなっていた。
しかし、ところどころ火傷が残り、特に顔の部分は目立つほどに皮膚がただれていた。
それとともに、魔法を掛けていた彼女たちの表情も暗かった。

「あ、あの…アレスさんは?」
「…。」

重苦しい空気が流れる中、代表して一人のサキュバスが口を開いた。

「傷のほとんどを治すことが出来たわ、多少残ってしまってるけど最初の時に比べたらベストな方ね…ただ…。」
「ただ…?」
「普通ならすぐに意識が戻るハズなんだけど…これだけやられたら精神面の方も心配だわ…私たちの力は体の傷は直せても心までは直せないの…このまま意識が戻らなかったら…後遺症が残ると考えたほうがいいわね。」
「そ、そんな…。」

サキュバスの重い言葉に誰もが口をつぐんだ。
彼女自身も無力な自分を許せないのか下を向いて下唇を噛み締めた。
トーマに関しては心配そうにアレスを見つめている。

「…とにかく、今はアレスさんを移動させましょう…それから考えます。」
「そ、そうだな、みんな…旦那を運ぶぞ?」

無言で頷いて数人がアレスを運ぼうと手を伸ばした。
同じようにハンスもアレスの体に触れた時だった。


「あぁ…頼むぜ。」

「「「?!」」」

その場にいた者たち全員が飛び上がるほどに驚いた。
なぜなら先程まで重苦しい雰囲気を出した原因のアレスがハンスの手を掴んだからである。
これにはハンス自身も驚いたがため息をつきながらアレスを抱き起こした。

「もう…肝を冷やしましたよ、アレスさんは本当に無茶が好きな人ですね?」
「悪いな、そういう性格なんだよ…でもおかげで上手くいった。」
「あ、あんた…本当に大丈夫なのか?」
「あぁ、あんたたちの妻のおかげだがな。」
「私たちもあんな状態だったからもう助からないと思ってたけど…ほんとに人間なの?」
「人間じゃなきゃできないこともあるさ…。」

アレスは皆に支えられながら街の方へと戻った。


…。


そしてとある民家の中で…。
アレスはベッドに腰掛けながら女将さん特製の紅茶を飲んで一息ついていた。
隣にはハンスもいて周りには彼らにお礼がしたいと何人かの町の人たちが集まっていた。
窓の外も興味津々といった感じで人や魔物が集まり、ちょっとした有名人みたいな扱いを二人は受けていた。

「いやぁ…ほんとにあんたたちのおかげだよ、なんとお礼を言えばいいか。」
「気にするな、殆ど俺のお節介でやったことだからな。」
「お節介で火だるまになる人なんて聞いたことないわよ…、でも本当にありがとうね。」
「いえ、僕なんかすぐやられちゃって…面目ないです。」
「仕方ないさ、相手が悪すぎたんだ…それでも向かっていったお前の勇気は見事だったぞハンス?」
「…そう言って貰えると助かります。」
「何はともあれみんな助かったんだ、それでいいじゃない?」
「今日は夜通し宴だ、あんたたちが今回の主役なんだからお礼させてくれよ?」
「一応…俺は怪我人なんだがな…。」

…あっはっはっはっはっは!!!

皆が談笑していた時、不意にノックの音が聞こえ扉が開かれた。

「アレスの旦那、持ってきたぜ?」

町の男の一人が入ってきてそう言うとアレスにひび割れた水晶玉のようなものを渡した。
手渡されるそれを見てハンスが反応する。

「それって確か…カシムの胸に付いてあった―」
「あぁ、奴が強力な魔法を使えたのもこいつのおかげだ。」
「それって…どういうことだい?」
「それはな…―」


アレスは魔宝石の秘密をその場にいた皆に説明した。
聞いていたハンスを含めた皆が驚きと動揺を隠しきれなかった。

「じゃ、じゃあ…その中にイグニスが閉じ込められているのか?」
「なるほど通りで…でもイグニスとはそんなに危険な精霊なのですか?」
「いいや、本来彼女たちは人を傷つけるのは好きじゃないし、魔精霊なら尚更だな…こいつはそれを無理やり可能にしてしまう兵器だ。」
「なんてむごい…くそっ、カシムの野郎めっ!!」
「いや…これを作ったのは恐らくカシムじゃない、奴の肩を持つわけじゃないが。」
「ど、どういうこと?」

魔宝石を手に取りながらアレスは淡々と説明し始めた。

「奴の言い方からして誰かにもらったみたいな言い方をしていたからな…それにこの水晶は直接奴の身体に埋め込まれていた、ご丁寧に神経まで繋げてな…とてもカシム達が思いつく技術ではないだろう。」
「とすると…他に黒幕がいるってことでしょうか?」
「魔精霊のイグニスを手玉に取るぐらいだろ…並みの悪党ではないだろうな。」
「そんなことが出来るのは―」

ハンスとアレスはそんな恐ろしいことをしでかす団体を頭に思い浮かべ、二人して一つの答えを導き出した。

「「教団。」」

二人が顔を見合わせてぴったりとハモッた言葉に皆はなるほどと頷いた。

「確かに奴らならやりかねねぇな、ということはカシムも教団の一味?」
「神に祈るような奴には見えなかったがな…どちらにせよ繋がりはあるだろう。」
「そういえば…そのカシムは今どこに?」
「奴なら自分から檻に入っていったよ、旦那がよっぽど怖いのか隅で震え上がってたぜ?」
「そりゃそうだろ…あの時の旦那は迫力が違ったからな、まるで魔王様だったぜ。」
「魔王…か。」

アレスは魔王と聞いて少し含み笑いをしてしまった。
なぜならその当人はそれとはまったくかけ離れた存在だったからだ。
それも白衣かエプロンが似合いそうな…。

「話が逸れちまったが…旦那は結局のところそいつをどうするんだ?」
「この魔宝石か?…もちろん中のイグニスを助け出す。」
「でもどうやるんですか…下手にすると中のイグニスが死んでしまうかもしれませんよ?」
「そこでだ、こういうのに詳しそうな奴に聞いてみるさ。」
「…詳しそうな奴?」

アレスは耳につけたイヤリングに意識を集中させ、交信した。
もちろん相手は―

「ヴェン、今いいか?」
「おぉ、アレス…なんだか声を聞くのが久しぶりな気がするよ、一年ぶりくらいに(投稿日時的な意味で)。」
「余計なことを言うな…そんなことよりお前に聞きたいことがあるんだ。」
「聞きたいこと?…私が答えられるなら。」
「あぁ、実はな―」

…。

「な、なぁ…アレスの旦那、どうしたんだ?」
「ん?…あぁ、あれはアレスさんの友人にイヤリングを通して交信してるんですよ。」
「そ、そうなのか?…てっきり旦那がおかしくなったかと思ったぜ。」
「…僕も最初同じこと思いましたよ。」
「ははは…。」

「…わかった、やってみよう。」

ハンスが町の男と話している間にアレスは話の目処が立ったのか別れの挨拶をして交信を切った。

「それでアレスさん、分かりましたか?」
「わかったが…これはちょっとした賭けになるかもしれないな。」
「もしかして…また無茶を?」
「無茶かどうかは彼女次第さ…それより皆、ちょっと用意してもらいたいものがある…それとここじゃまずい、ちょっと外に出るぞ。」
「おぅ、任しとけ…おいお前ら、ちょっと手ぇ貸せ!!」

アレスは町の人たちに用意して貰いたいものを告げると水晶を持って外の広場へと歩き出した。
その後ろをハンスが少し心配そうな面持ちで付いていく。


…。




「旦那、こんなもんでいいのかい?」

アレスが町の広場につくと目の前には空のバケツ、いくつかの木炭と燃えやすい木材、そしてそれを囲うように大きく描かれた魔法陣が用意されていた。

「仕事が早いな、助かるよ。」
「なぁに、命の恩人の頼みとあっちゃぁこのくらい当然さ。」
「あなたの言った通りに魔力を逃がさない結界の魔法陣も書いたわ、大きさはこれでよかった?」
「十分だ、ありがとう。」

アレスは町の男とサキュバスに礼を告げるとそのサキュバスだけ残るように言った後、他は皆魔法陣から離れるように伝えた。
状況から見れば魔法陣の外をハンス、トーマを含めた町の人々が見守り、その中にはアレスとサキュバスだけが立っている状態だった。
そのサキュバスは炭鉱の時にアレスが助けたサキュバスだった。

「で、私だけ残ってどうするの?…もしかしてこのまま私とここで公開セックスでもする?」
「(俺もだが)お前は既婚者だろうが…そういえば旦那は無事か?」
「えぇ、あなたのおかげで助かったわ…私も危ない所だったし、あなたが望むんなら私はそれでも構わないわ?」
「そういうのは旦那としろ、お前に残ってもらったのは火を起こして貰いたいんだ。」
「火?…もしかしてそこに?」

サキュバスが指を刺した方向には先ほど積まれた木炭やら木材やらがあった。
中心に木炭が集まり、それを点火するように木材が敷き詰められていた。

「イグニスは炎の精霊だからな、近くに火があった方が魔力を回復しやすい。」
「なるほどね、それで私の魔法で火をつけるわけね。」
「そういうことだ。」

言いながらサキュバスは火の魔法を使い木材に火を灯した。
木材は油でも塗ってあったかのように勢いよく燃え上がりあっという間に大きな炎へと変わった。

「よし…こんなものか、っと、そろそろ来たようだ。」
「?」

アレスがそう言うと目の前に光の柱が立ち、ゆっくりと消えていくと同時に瓶のような物が何本か出現した。
サキュバスは咄嗟にそれが物質転移の光だと察知した。

「それって…何?」
「魔物の魔力をより濃縮させた液体、の入った瓶だな。」
「魔物の魔力の濃縮液…?」
「この中のイグニスはかなり魔力を消費しているかもしれないからな、なるべく負担のかからないように魔力を吸収しやすくしてやるのさ。」

サキュバスがなにか複雑そうな面持ちで呟いているとアレスはそれを全てバケツの中へと注いでいった。
ドロッとして独特の臭いのした液体がバケツの中一杯に溢れている。

「ちょっとそれ…一体どうする気―」

サキュバスが聞く間もなく、アレスはそれを頭から被った。

だばぁ…!

「え、ちょっ?!!」

「アレスの旦那…一体何やってんだ?」
「さ、さぁ…?」
「き、きっとアレスお兄ちゃんだから大丈夫だよ!!」

違うところでは―

「だ、大丈夫かな?」
「お前の嫁なら大丈夫だって、妬くのも大概にしとけこの幸せ者が。」
「ち、違うって!!」

町の人たちやサキュバスの驚きを他所にアレスは準備万端と言った様子でバケツを置き、首をコキコキと鳴らした。
その横から気まずそうにサキュバスが話しかけた。

「ね、ねぇ、準備万端のところ悪いんだけど…。」
「ん、どうした?」

頭からねっとりと液体を被ったアレスを指差しながらサキュバスが言った。

「一応言っておくけどそれ…”アレ”よ?」
「…アレ?」
「だ、だから…その…私たちのアソコから出る…その…。」
「…。」
「あ…あ、愛え―」
「それ以上言うな。」

サキュバスに言われるまで気がつかなかったがこの液体の臭いは確かにアレスも知っている”アレ”の臭いだった。
それを頭から被ったアレスは傍から見れば変態の何者でもない。

(ヴェンには後でなぜこれを選んだのかとどうやって入手したかを問い詰める必要があるな。)

不敵な笑みを浮かべた後、アレスは最後にひび割れた魔宝石を手に取った。

「すまなかったな、こっからあとは一人で出来る…危ないから下がっててくれ。」
「で、でも本当に大丈夫なの?」
「この中のイグニスはかなりの負担とストレスが掛かっている、それも悲痛の叫びを上げる程にな…出てきたら何が起こるか分からん。」
「そんなのダメよっ、私もここに残る!!」
「駄目だ、危険すぎる…それにもしも暴走したらこの町だってどうなるかわからないんだぞ?」
「その時は私があなたを止めてみせる…あなたは私たちの命の恩人よ、あなたばっかりに辛い思いはさせられない!!」
「…勝手にしろ。」

アレスはサキュバスの強引な意気込みに折れると、魔宝石を再び手に取った。
それを見てサキュバスは当然の様な質問をする。

「で、結局だけど…そのイグニスをどうやって助け出すの?」

サキュバスの質問にアレスは目線を変えぬまま、言った。

「それはな―」

アレスはもう片方の手を強く握り、高く挙げたかと思うと―

「こうするのさっ!!」



パキャァッン!!


魔宝石に振り下ろし、粉々にした!!


「?!」
「な、なんだ?!!」

サキュバスと町の人々が驚いたのも束の間、その砕いた魔宝石から赤い光点がヨレヨレと浮き上がってきた。

それをアレスは優しく掴み、自分の身体へと押し付けた!

「あ、あなた…まさかイグニスを助ける方法って?!」
「あぁ…俺の親友の話だと、これしかないらしい。」


アレスがそう言って隣にいたサキュバスに微笑みかけた時だった。


ボォォゥ!!!!


アレスの身体が一瞬で炎に包まれた。


「う”あ”あああぁぁっ!!!!」

「アレスッッ!?!!」

アレスは駆け寄ってくるサキュバスを最後に、意識を無くした。




………。



「?」

次に目を開けたとき、俺は何もない暗い所に立っていた。
何もないはずなのに何処か陰鬱な空気が漂い、それは身体にずしりとのしかかってきて気力を奪っていく。

そんな暗闇の中で、小さく声が聞こえてきた。

「…。」

何処かすすり泣くようなその声は後ろから聞こえてきた。
振り向くとそこには今にも消え入りそうで座り込む赤い光があった。
人の女性の形をした”それ”は声を押し殺してずっと泣いていた。

「よぉ。」

俺が声をかけるとそれは顔を上げた。
やつれ果てて目に光がなく、何処か遠くを見るように俺と目があった。
いや、焦点も合ってないかもしれないが気にせず俺は言葉を続けた。

「こんな寂しい所で居続けることもないだろう?…こっちへおいで。」
「…どうして?」
「俺の妻として、もっと素敵な所へ招待したいからだ。」
「…!!」

妻という言葉に過剰反応した”彼女”はその光を強くし俺に反発するように怒鳴った。

「嘘だっ!!どうせあんたもあたしを物としか見てないんだっ!!」

怒鳴り声とともに俺の前に大きな炎の壁が立ちはだかった。
炎は通る者を焼き尽くさんと轟々と燃えている。

「あの男だってそう言ってあたしにあんなことさせてきたんだ…もう誰も傷つけたくなんかない、また誰か傷つける前に…あたしを、あたしを殺―!!」

バサッ!!

その続きを言わせないように、俺は彼女を抱きしめた。

「っ?!」

彼女は一瞬何が起こったのか分かっていないようだった。
抱きしめた俺とその後ろの炎の壁とを見比べてあたふたとしている。
どうして俺がここを通り抜けられたか、正直そんなことどうでもいい。
ただ俺は彼女を信じて通った、そしたら炎が勝手に避けただけだ。

「確かに俺はお前と一緒になる以上、お前の力を借りる事があるかもしれない。」
「…。」

俺が話し始めると彼女は俺の目を見ながら黙って聞き入っていた。

「そしてお前が人間と魔物を傷つけたのも事実、それはお前がこれから償っていかなくちゃならないことだ。」
「…でも、あたしは―」
「死だけが償う方法じゃない、そのために俺がお前を助け出した。…これからお前の夫としてどうすれば良いか教えてやる。」
「あ、あんたはどうしてそこまでしてあたしを?」
「言っただろ?俺の妻としてもっと素敵な所へ招待したいからだ。」
「で、でもあたしはどうしたらいいかわからない。」
「少なくとも俺は―」

俺は彼女の頭に手を置きながら言った。



「…人を殺せなんて言わない。」



………。



「アレスさんっ、くそ…なんで消えないんだ!?」
「だからもっと水持ってこいよ?!これじゃ旦那が死んじまうぞ!!」
「お願い、こんな所で死なないで!!」

町の人たちはアレスが炎に飲まれたのを見て、急いで水をかけて消火しようとした。
けれどもいくら水をかけようが砂をかけようが火は全く消えずアレスを包み込んだままだった。

「こ、このままじゃ…一体どうすればいいんだ?!!」

ハンスが頭を抱えて膝をついたとき、隣にいたサキュバスが何かに気づいて叫んだ。

「ちょ、ちょっと待って…様子がおかしいわ。」
「え?」

見てみるとアレスを包んでいた炎が急に弱々しくなっていき色も赤から青へと変わっていった。
それと同時に先程まで蹲っていたアレスがゆっくりと立ち上がった。

「だ、旦那?!!」
「ど、どうなっているの…?」

皆が動向を見守る中、アレスが深呼吸する形をとると青い炎は自然と消えていった。

「「「…。」」」

皆が唖然としながら見ていた中、恐る恐るトーマが一人アレスに話しかけた。

「ア、アレスお兄ちゃん、大丈夫なの…?」
「ん?あぁ、なんともないぜ?」
「そ、そんな馬鹿な?!あれだけ火に飲まれたのに―?!!」

驚いてハンスやサキュバスが駆け寄っていくと確かにあれだけ炎に包まれていたアレスの身体には火傷一つなく、そればかりか治りきらなかった顔の火傷の痕がいつの間にか殆ど直っていた。

「ど、どういうことなの?」
「何故かはわからんが…これで彼女達に説教されなくて済みそうだ。」
「良くはわからんが、無事ならいいんだ…。」
「あぁ、もうあんたには驚かされっぱなしだからな…流石になれたぜ。」
「それで、肝心のイグニスは?」
「ここにいる。」

アレスが右手の手の甲を見せるとそこには黒く炎の様な痣が浮かび上がっていた。

「彼女の名前はフラン、今は疲れて眠っているから代弁するが彼女がしたことを許してやってくれないか?」
「…許すって?」
「操られてたとはいえ彼女が作った炎だ、本人はそれを凄く気にしていてな…彼女の事は俺がこうして面倒を見るからそれで許してやってくれないか?」
「なんだ、そんな事気にしてたのか?」

町の人々は一瞬キョトンとした顔をしたがそれがすぐに笑った顔に変わっていった。

「仕方ないさ、あんなもんに閉じ込められちゃどうしようも無かっただろうし恨む理由なんかないよ。」
「面倒を見るってことは…旦那の嫁さんになったって事だろ?」
「まぁ、そういうことになるな。」
「なら俺たちとしては歓迎しないとな、今日は旦那の結婚式も兼ねての祝勝会だ…派手に騒ぐぞ!!」
「そうだ、これからは楽しく仕事ができるぞっ、いやっほうっ!!!!」
「さぁ皆準備して!!騒ぐわよ〜!!」

「「「「おぉうっ!!!」」」」

「…ありがとう。」
「アレスお兄ちゃん、早く!!」
「あぁ、今行くよ。」

トーマに連れられてアレスとハンスは宴の雰囲気を楽しむことにした。
宴は夜中まで続き、酒を飲み踊り狂い食べ狂い(性的な意味で)夜通しで騒ぎ尽くした。



…。

そして宴が終わった次の日。


「う…ん、ふわぁ…。」

サキュバスが目を開けるといつの間にか自室のベッドへと寝かされていた。
彼女は自分の旦那の服を剥ぎ取って襲いかかったとこまでしか覚えていない。
外を見るともう日は昇っており窓から差す光が彼女を眩しく感じさせた。

「あれ…?…あ、そっか、多分あの人が運んでくれたんだ。」

昨日のことを思い出したサキュバスは酒に酔っていたとはいえ少し後悔した。
その当人は近くにはいないようで家はガランとした様子だった。

「あなた…ごめんね、さて…帰ってくるまでにご飯でも作ってあげますか♪」

そう思って彼女がベッドから降りた時だった。


ガチャ…。

家の扉が開かれ誰かがすっと入ってきた。
サキュバスは自分の夫が帰ってきたのだと思い、その人物に向きながら声をかける。


「あ、ごめんねあなた…今からご飯作るから―」


バサッ…!!


突如、彼女の視界が遮られ目の前が真っ暗になった。

「ちょ、ちょっとなに?!!!なにが…あ…。」


突然入ってきた人物に袋か何かを被せられたのだとサキュバスが気づいたのは彼女が薬で眠らされる直前のことだった。
意識が途切れる中、聞いたことのない男の声がした。

「へへ、悪いな…運がなかったと諦めな。」

そう言って男は気を失ったサキュバスを家から連れ去った。

13/04/07 01:45更新 / ひげ親父
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■作者メッセージ

ちょっと短くなりましたが書けました。
いろいろ書きたいことがあるのですが後編で書きたいと思います。
また未定ですが読んでもらえたら嬉しいです。

ここまで見ていただいてありがとうございます!!

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