第三部 3話 驚愕の男
――ピキ
あれ?
私は何をしてるんだろう?
ここは真っ暗で何も見えない
あれ?
あ、そうか
目を開けばいいんだ
「うっ」
眩しい
白い光
偽物の光
灰色の部屋
初めて見る景色
ううん
何度も見たことがある気がする
ひび割れた壁
天井のガラスはところどころ割れて穴があいている
ここはどこだろう?
見たことのあるはずの場所
でも知らない場所
誰もいない場所
私一人の場所
私は…
「あれ?」
私は誰だったっけ?
思い出せない
横たわった体を見る
茶色い肌
ところどころ黒い体毛が生えて
手足にはごつごつとした鱗
――ベシン
これは…しっぽ?
黒いふわふわの毛に包まれた、大きな尻尾
――バサバサ
ん?
後ろから聞こえた音
寝そべったまま振り向こうとして
――コツン
「痛っ」
床にぶつかった
――さわさわ
「角?」
大きな角
頭の後ろから、耳の横まで
太く捩じれた角
握るとじんわり暖かい
私から生えてるみたい
――バサバサ
私は身体を起こしてそちらを見る
――バサ
あ、逃げるなぁ!
――ハラリ
「ん?」
“それ”から何かが剥がれ落ちた
「鱗?羽根?毛?」
なんだろう
軽くて薄くて柔らかい
光にすかせば向こう側がぼんやりと見える
でも、鱗ほど固くないし
羽根みたいにふわふわしてないし
毛ほど細くはない
――バサバサ
「あ!」
気が付いた
「ん〜」
――バサバサ
“それ”は私の力で動かせた
「ん〜〜〜〜〜〜」
――バサバサバサっ
――ふわっ
「あわわわわ!?」
体が浮き上がる
これ、知ってる
鳥が持ってる
「翼だ…」
――バサっバサっ
ゆっくりと羽ばたいて
――すと
着地する
「ん?」
私、二本足で立ってた
あれ?
なんだか変な感じ
でも、普通な感じ
前足 ぶらぶら
「ん〜〜〜〜????」
二本足で立って
翼で飛べて
尻尾があって
角がある
……
私はなんだろう?
「不思議だなぁ〜」
そうか!
私は不思議生物だ!
「すごいぞ私!」
私は嬉しくなって体をもう一度よく見てみる
「ふむぅ〜」
人間みたいな身体だ
「ん?」
にんげん…人間!
そうだ。二本足で歩く動物は人間だ!
ふむふむ
じゃあ角のある動物はなんだろう?
「ん〜」
ハッ!
「ひつじだ!」
ふむふむ
私は鳥で人間で羊なんだ!
じゃあ尻尾は
尻尾はね……
ん〜とね…
「あれ?」
尻尾のある動物…
「犬でしょ、猫でしょ、牛でしょ、馬でしょ。それからそれから……あれ?」
いっぱいいる!!?Σ(゚д゚lll)
「あわわわわわわゎ……」(((( ;゚д゚)))
……
よし、寝ながら考えよう
「おやすみぃ……」
――カンカンカンカンカンカン
「んぁ?」
俺は身体を起こした
遠くから何やら金属音がする
「なんだよ?こんな朝早くから…」
ん?
もう朝か…
「ふわぁぁ〜」
俺は大きな欠伸を吐いてベッドから出た
昨日は旅の途中で買ったパンと干し肉をかじりながら荷物の整理をして、早めにベッドに入った
すごくよく寝た気がする
寝すぎて頭がぼぅっとする
頭のてっぺんあたりがずきずきと痛いのは、マゼンダ様のせいだ
俺以前にも同じ痛みを味わったやつらがいると思うと、かわいそうに思えてくる
ちくしょう
あの女城主め、いつかロリに変身させたうえで、羞恥プレイをさせてやる
……って、それはもうしたんだった
ふむ………
俺は可憐なロリ姿と、ゆさゆさと揺れるおっぱいを同時に思い浮かべる
「俺はあの人のためなら死んでもいい気がする…」
聖者のような気持になった
「……っと、食事は一階だっけ?」
俺は昨日のシズルさんの話を思い出しながら、着替えを始めた
「ここかな?」
俺はぞろぞろと寝ぼけ眼な兵士の制服を着た魔物たちが入っていく部屋に入った
しかし本当に魔物が多いなぁ…
見れば
ブロンドのラミア
赤毛のミノタウロス
ブルネットのワーキャット
……
ケンタウロス
オーク
ゴブリン
アラクネ
魔女
… (スキャンモード ON)
巨乳
貧乳
並乳
巨乳
巨乳
貧乳
巨乳
無乳
……
「眼福眼福」
俺は朝のお祈りをその場で済ませて女の子たちに続いた
「ほら、たんとお食べ!あんたは育ちざかりなんだからね!」
中に入るとすごいパワフルな感じの小太りなオーガの元へ5,6人の行列ができていた
なるほど
あの人がマダムか…
『行っていただけば分かります』か…
確かにマダムだ
どこがどうマダムなのか説明できないが、何となくマダムだ
行列の途中には積み上げられたトレーとからの皿が置いてある
どうやらこれを持ってマダムのところに行けばいいみたいだ
……
どうやら順番が回ってきたみたいだ
「お!あんた、新入りさんかい!?」
「え?ああ。よろしくお願いします。マダム」
「んもう!マダムだなんて、よしとくれよっ!」
ん?
お世辞を言った気もなかったが、何やら好感触のようだ
「いえいえ。なんだかとても輝いてらっしゃるので」
「あっはっは!うれしいこと言ってくれるねぇ!」
――バシバシっ!
「いでっ!いででっ!」
「おやぁ?男の子なのにそんなヒョロヒョロでどうするんだい!たくさんお食べ!」
なぜだかスクランブルエッグとマッシュポテトを特盛にされてしまった…
「あたしの愛情もたっぷり入れておいたからね(ウインク)」
「あはは…。ありがとうございます」
見た目通りパワフルな人だ
叩かれた肩がまだジンジンする
俺はセルフサービスのパンを2つ取ると、トレーに乗せた
「ふむ……」
見回せば、40人ほどの兵が各々仲の良いグループで集まって食事をとっているようだ
しかし、その中に男性は10人程しか見受けられない…
ん?あの子はアルプか…
じゃあ9.5人だな
女の子の中でも人間は少ないようだし、7割方が魔物のようだ
などと考えていると
「にゃ?お兄さん、新入り?ん〜合格だにゃ。どう?私たちと一緒に食べないかにゃ?」
声をかけてきたのはワーキャットのかわいらしい女の子だった
そしてその子の後ろにはグリズリーにハーピーそれと人間の女の子…
「儂もおるぞ!」
「ん?」
見れば、足元には俺の腰下ぐらいまでの背丈の小動物がいた
「ドワーフじゃ!馬鹿にするな!」
エスパー?
「ふん。顔を見ればそれぐらい分かるわい」
もはや読心術の域だった…
「…あ、いや。ごめん。みんなかわいいから、つい。いいの?一緒しても?」
「ふふ。もちろんよ。さ。こっちこっち」
そう言って人間の女の子が席へ案内してくれた
ふむふむ
初日からハーレムな気分だ
「鼻の下が伸びておるぞ?」
足元から低めのロリボイスが聞こえ、俺はあわてて顔を取り繕った
「でね、この子ったら演習そっちのけでね――」
楽しそうにしゃべる女の子たち
俺は質問攻めにやんわり答えつつ
女の子たちの話を聞いていた
女の子たちは俺をぐるりと取り囲んで座っている
まるで王様にでもなったような気分だ
「また鼻の下が伸びておるぞ?」
「おっと…」
隣では
「ん〜。あむ…。あは〜(にぱー)」
反対側ではゆっくりとした動きでグリズリーちゃんが小鉢に入ったはちみつをスプーンからこぼしながら満足そうに食べている
「でねでね、この子がね――」
「あ、あれは仕方がなかったのにゃ〜!」
「でも、うれしそうにしてたじゃん」
目の前の三人娘はにぎやかにご飯を食べている
「股間が膨らんでおるぞ?」
「え!?嘘!?」
「嘘じゃ。阿呆め(にやり)」
このドワーフさんはもしかしたら俺よりずいぶんと年上かもしれない…
俺はいろいろとおなか一杯になって食堂を後にした
俺はいったん部屋に向かい、マゼンダ様に折られてしまった剣の代わりに頂いたサーベルを取りに行った
と…
――コンコン
「失礼します!」
「はい?」
ドアの向こうから凛とした女性の声が聞こえた
「どなたですか?」
ドアを開けると、そこには兵士の制服とは違う鎧を身に着けた女性がビシッっと立っていた
女騎士?でもなんで俺のところに?
「私、副隊長のアリステラ=コンラッドと申します!本日よりエリオット=アイヴズ様の右腕となり、精一杯従事させていただきます!」
「は、はい!よろしくお願いします!」
俺は彼女につられて返事をしてしまった
って、ん?
副隊長?
「え?君が副隊長なの?」
「はい!まだまだ未熟者ではございますが、一生懸命にお仕えいたします!」
「ああ。そんなに堅くならなくてもいいよ?」
「いえ!エリオット様は王都で門番兵、それも名誉ある検査官をなさっていたとお聞きします。そんな方に…」
「あ〜。わかった。ありがとう。その気持ち、とてもうれしく思うよ」
「も、もったいなきお言葉であります!」
鎧も立派で硬そうだけど、それ以上に性格の堅い人だなぁ…
てっきり文官の出だし、武官の守備隊員たちにはバカにされるものだとばかり思っていたけど、俺の予想とは正反対な反応だった
しかしこの子、言葉遣いは堅いけど、よく見ると硬そうな鎧のところどころから除く白い肌に、鎧からはみ出んばかりの胸、それに身長も高くてスラリとしていて、すごくスタイルがいい
それに…
「君、すごくかわいいね」
俺は正直な感想を言った
「な、か、かわ…あ…わ…」
「え??」
とたん、凛としていた彼女に異変が起こった
「わ、私など…か、かわ…」
顔が真っ赤になって、とつぜんプルプルと震え始めた
緊張しているんだろうか?
俺はそんな緊張を解きほぐそうともう一度言った
「そう?かわいいと思うけどなぁ?」
その一言が引き金になってしまった
――ポォォォォーーー!
突然船の汽笛のような音が鳴ったかと思うと
――スポーン
目の前の女の子の首が飛んでいくのが見えた
「ゑ?………」
俺の思考はそこで止まってしまった
飛んだ……?
い、いや
そんなはずないって
だって首だもん
そんなもん飛ぶはずないって
だって首だぜ?
そんなもん飛んだらお前…
いや
そんなわけないよね?
――チラ
俺がもう一度彼女の方を見ると
「……」
無言の首から下が相変わらず凛とした姿勢で立っていた
「ヱ?………」
え!?
嘘
え?これ、え?
これ、俺のせい!?
俺のせいなの!?
エリオカッター?
エリオカッターなのか!?
俺の言葉にはそんな殺傷力が秘められていたの!?
ちょ、おま、え!?
だって…えぇ!?
嘘、ちょっと…
そ、そうだ。落ち着け
落ち着いてもう一度よく見てみろ
幻覚だ
こんなの幻覚だよ
だって首だよ!?
飛ぶわけないもん
翼なんてないんだぜ!?
そんなもん首についてたら無職のおっさんだって明日に向かって羽ばたけるよ
――チラ
「……」
………もう何も怖くない
「ま、まままままままままマミってらっしゃるぅぅぅぅ!!!??」
え、嘘!?うそぉぉ!?
お、落ち着け!
落ち着いてQBと契約するんだ
そんなわけないって
こんなの絶対おかしいよ!?
だって、え!?
せっかく無実が証明されたのに
そんな馬鹿な…
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええ之之之!!!??
「ちょ、嘘!?嘘だよね!?ちょ、君、え!?嘘おぉぉ!?」
俺はあわてて彼女
――コロン
あわてていた俺の足に何かが当たった
「え?………」
――・・・・・・・・・。
め、めめめめめめめ、目が合っちゃったぁぁぁ!!!
く、首いぃぃぃぃぃぃぃ!?!?
め、目目目目目め、め、めぇぇぇ!?
えぇぇぇぇぇ!?
首 転がってるぅ!?
じゃ、じゃあやっぱりこれ、首、ちょ、え!?
お、落ち着け
落ち着くんだエリオット
これは何者かによる攻撃だ
幻術の類だ。写輪眼だ
そ、そうだ。
この首を戻せばきっと大丈夫だ
きっと何事もなかったかのように…
「………」
俺はそっと足元でじっとこちらを見ている彼女の首を目を合わせないように持ち上げた
うわぁ…温かい…温かいよ、コレ…
――そぉ…
俺は目をつぶってそっと首を身体に乗せる
と…
「………」
そぉ…
首が乗っかる感覚があり、俺はそっと目を開けた
「…………」
「…………」
俺はばっちりと彼女と目が合ってしまっていた
「………」
「………や、やぁ…」
俺はためしに挨拶をしてみた
「………(ぷるぷる)」
と、小刻みに彼女が震え始めた
「(ぷるぷるぷる)」
次の瞬間には耳まで真っ赤になっていく
と、
「わきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
突然彼女は大声を上げて走り去って行ってしまった
俺はそのまま意識を失った
12/06/25 23:27更新 / ひつじ
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