連載小説
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第一話 新人とその日常
「ふぁ〜あ」

起き上がって大きなあくびをする。
ああ〜。今日も良い朝だなぁ。
俺はギシギシと軋むボロいベッドから出て、二階の自分の部屋から1階のリビングへ降りて行くと。

――ジュー

良い匂いがする。

「あ、リアン、もう起きたのか? ごめんね〜。まだ朝ご飯出来てないんだよ〜」
「母さん、おはよ。いいよ。ちょっと早く目が覚めちゃったんだ。井戸で顔洗ってくるよ」
「は〜い。いってらっしゃ〜い。 気をつけろ。井戸に落ちたりするなよ」
「大丈夫だよ」

母さんは本当に心配症だなぁ。
でも、その癖俺に鍛錬をつける時などは人が変わった様に厳しくなったりするし。
しかも時々、一人で会話してるみたいに独り言してる時もあるし。
まぁ、変わってるけど、良い母さんだ。

――ジャバ ごしごし

「ぷはっ」

くぅ。
流石に最近は冷えてきたから井戸の水も冷たい。
でも、おかげで寝ぼけた頭が一気に冷めたけど。
ふぅ。
それにしても、俺も慣れたもんだなぁ。
小さな頃、森からこの街に移り住んできた時は俺と母さん以外にこんなにたくさんの人間がいるって事も知らなかった。
母さんと2人、森の中の洞窟に住んで、狩りをしながら暮らしてた。
でも、ある日母さんが言った。

「リアン。お前も大きくなった。だから、これからはお前が人間として立派に生きて行くために人間の国へ移り住もうと思う。 だいじょ〜ぶだよ〜。リアンはいい子だから、きっとすぐにいっぱいお友達が出来て、みんなと仲良くなれるからね〜」

まだ小さかった俺には良く分からなかった。
でも、ここへ引っ越した時、最初は随分と戸惑ったのを今でも覚えてる。
森では動物を捕まえて食べていたし、逆に襲われる事もあった。
ここではそんな事は全くない。
でも、物を買うにもお金を払わなくちゃいけないし。
食べ物もその辺の犬や猫を捕まえるわけにはいかない。
何より、ここには自分たち以外のたくさんの人間がいた。
最初のうち、俺はどうしていいか分からず随分と苦労したのを覚えている。
まぁ、ここに住む様になって10年。
今ではそんな事は全くなくなったのだけれど。

「やぁ、おはよう。リアン、今日は随分と早起きだな」
「あ、ベニーさん。おはよう。ちょっと早く目が覚めちゃったんだ」
「そういやぁ、リアン、国の守備隊に入隊出来たそうだな。名誉な事じゃないか」
「そんなことないよ。入隊試験、合格者の中で最下位だったんだから。それで良く同僚にもからかわれてるし」
「はは。リアンらしいな」
「それはどうも」

近所のベニーさんが挨拶をしてくれた。
人当たりの良い人で、俺と母さんが越してきた時も真っ先に顔なじみになった人だ。
おかげで小さい頃から俺の事をよく見てるし、時々からかわれてしまう。

「ただいま」
「おかえり〜。ちょうど今ご飯が出来たよ〜。 遠慮せずにしっかりと食えよ」
「うわ。またこんなに作ったの?」
「安心しろ。お前が残したら全部私が食ってやる。 おか〜さんはくいしんぼ〜なんだよ〜。 何っ!?誰が食い意地が張っているだと!?」
「言ってないよ。いただきま〜す」
「いただきま〜す♪ うむ。やはり朝は肉だな」
「野菜も食べなきゃだめだよ」
「あはは〜。言われちゃった〜。 わ、分かっている」

母さんは変わってる。
時々母さんの中には2人の母さんがいるんじゃないかって思う時もあるけど、そんな事、普通に考えてあるはずがないか。

「守備隊の仕事はどうだ?」
「ん〜。楽しいよ?」
「お友達からいじわるとかかされてない? 何!?誰だ!?母さんがボッコボコにしてやるぞ?」
「大丈夫だよ。 ってか、やめてよ。母さんの「ボッコボコ」は本当に加減がないんだからさ」
「そ、それならいいのだが…。 嫌なことされたらいつでもおか〜さんに言うのよ〜?」

物騒な事言ったり、抜けた様な笑顔になったり。
本当にコロコロと表情の変わる母さん。
森の中で女手一つで俺を育ててくれて、
街に来た時は最初、森から来たからと言って魔物だって疑われて色々と言われた事もあった。
それでも、母さんはいつも俺を守ってくれた。
だから、俺は母さんを守りたいって思って、守備隊の入隊試験を受けたんだ。
まぁ、試験の結果は最下位合格だったけれど、それでも合格できたことの方が奇跡みたいなものだった。

「あ、そろそろ集合の時間だ。ごちそうさま」
「あ、お着替えはリアンのお部屋に置いておいたわよ〜」
「ありがと」

俺は急いで2階に上がり、守備隊の制服に着替え、まだ使い慣れない守備隊のサーベルを腰に挿して1階へと降りた。
1階ではあれほどあった朝食をもう食べ終えた母さんが洗い物をしていた。

「じゃあ行ってくるよ」
「おう。気をつけろ。悪い奴等に襲われたら母さんを呼べよ。どこに居てもすぐに駆けつけるぞ」
「だから大丈夫だってば。いってきます」
「いってらっしゃ〜い」






「あ」

守備隊の朝礼の集合場所へ向かう途中、おばあさんが大通りの真ん中でうろうろとしているのが見えた。
まだ時間が早いので大丈夫だが、もう少しして市場が開くと馬車なども行き交うし危ない。

「おばあちゃん。こんな所でどうしたんです?」
「あぁ。守備隊のひとかぇ?すまないねぇ。久しぶりに市場に行こうと思ったんじゃが、行き方をとんと忘れてしまってねぇ」
「ん〜。市場は開くまでまだ少し時間がありますね」
「大丈夫じゃよ。あたしゃ歩くのが遅いでねぇ。これくらいでちょうどいいんだよ」
「そうですか。えっと。市場はこの通りより2つ隣の通りですね」
「ほぉ〜。それはそれはご丁寧に。ありがとねぇ」
「いいえ。では」

そう言って俺はおばあちゃんを見送ろうとした。
しかし…

「あ、ちょ!おばあちゃん、市場そっちじゃないってば!」
「えぇ?あら、守備隊の人かぇ?」
「えぇ!?そこに戻るの!?」
「市場の行き方が分からんでのぉ」
「………はぁ。仕方ない。 おばあちゃん。俺が連れてってあげますよ」

こうして俺は集合場所とは真逆の市場へ向かっておばあちゃんを送って行くことにした。
おばあちゃんの歩みは遅い。

「すまないねぇ〜。そういえばあんたはわしの孫に良く似てるのぉ〜」
「へぇ〜。お孫さんがいらっしゃるんですか」
「あぁ〜。今じゃ娘夫婦ともっと田舎へ行ってしまったがねぇ〜」

ゆっくりとした歩み。
ゆっくりとした口調。
嫌いじゃないんだけど、このままじゃ集合時間に遅刻してしまう。
どうしようか…。

「で、のぉ〜。その孫というのがの…」
「あはは…」

まぁ、仕方ないか…。








「リアン、ただ今到着しました!」
「………り〜あ〜ん〜〜?」
「あれ?どうしたんですか?カデナ隊長?顔が茹でダコみたいになっておりますよ?」
「ふふふ〜。ど〜して私がこんなに怒っているか分かるかしら〜?」
「え〜っと…。それは俺が遅刻した事とかかわりがあるのでしょうか?」
「まさにその通りだこのボケ茄子野郎!」
「それは申し訳ありませんでした」
「あなたはいつまで私を舐めているつもりなのかしら?」
「俺は隊長の事を舐めた事はありませんよ。舐めると甘いんですか?」
「はは。いい度胸だ。  そこに直れ!」
「はい!」
「歯を食い縛れ!」
「縛り方が分かりません!」
「黙れぇ!」

――ビシィ!

「ぐはっ!た、隊長、今日も相変わらず良いツッコミです」
「ツッコミじゃないわ!ってか何であなたはいつもそうなの?」
「はい?」
「あなたは唯でさえ最下位入隊なのよ? 少しは皆に追いつこうと言う気がないのかしら?」
「えっと、駆けっこか何かでしょうか?」
「はぁ…。馬鹿の相手をしていても時間の無駄ね。いい?今日は西C地区を私と見回りよ」
「隊長とご一緒出来るとは、光栄です」
「私は不満よ。大不満。 全部あなたが遅刻したせいよ」
「遅刻をすれば隊長とペアを組めるのなら、是非明日も遅刻をしてきますね」
「ふざけろぉ!!」

――ビシィ!

「ぐはっ!良いツッコミです!」
「だからツッコミじゃねぇぇぇぇ!!」

この面白い女性はカデナ隊長。
女性でありながら2期前の入隊試験でトップ入隊を果たし、守備隊の隊長にたった2年で昇りつめた女傑だ。
そして何より、おっぱいが大きい。
俺は母さんより胸の大きな人を見た事はないけど、それでも母さんを外せば今まで会った人の中で1番大きい。
しかもあの鋭いツッコミを胸で体現するかのような綺麗なロケットおっぱいだ。
こんなおっぱいとお付き合いできる男性はきっと幸せなんだろうけど、隊長には男っ気のある話は全然聞かないなぁ。
まぁ、心当たりがないでもないけど…。

「隊長。今日はいい天気ですねぇ」
「………そうだな」

天気の良い城下町を散歩しながら隊長と話す。

「こんな日に隊長と散歩出来るなんて夢みたいだなぁ〜」
「散歩じゃねぇ!」

――ゴドス!

「ゴバッハ! い、良いツッコミです。内臓に響きました」
「くぅ!何で私がこんな奴とパトロールをしなくちゃいけないのよ!?」
「あ、もっとかっこいい男の人の方がよかったですかねぇ?4番隊のウェルキン中尉とか」
「うぇ、ウェルの事は今は関係ないでしょ!」

あ、隊長はウェルキン中尉の事が好きなのかな?
全く男性の話を聞かないカデナ隊長だけど、ウェルキン中尉の話を隊の他の女の子がしてる時だけは聞き耳を立ててるみたいだったからなぁ。

「ウェルキン中尉は人気ありますもんねぇ。かっこいいし、剣の腕も隊長の次ぐらいに強くて、学力テストじゃ隊長よりも優秀ですもんねぇ」
「わ、私には関係の無い話よ。うぇ、ウェルは確かに優秀な男よ。士官学校に居た時からライバルに成りえるのは奴ぐらいだとは思っていたわ」
「そういえば隊長と士官学校の同期だったんでしたっけ?」
「ええ。あいつと私は士官学校始まって以来の好成績で卒業して、何かともてはやされたのよ」

あ、隊長が胸を張った。
隊長用の特注品と噂のある隊長の胸当てからこぼれそうなおっぱいがプルンと揺れる。
眼福眼福…。

「んふふ…」
「な、何よ気持ち悪い」
「いや〜。ウェルキン中尉の話をしてる隊長って、なんだか嬉しそうだなぁ〜って。まぁ、好きな人の話だったら当然なのかなぁ?」
「っっっ!! い、いつから気づいてたのよ…(小声)」

あ、やっぱりそうか。

「ずっと前から」
「よ、4年も誰にも気づかれた事無かったのよ!?」
「4年も片思いしてたんですか!?ありゃ〜。これは不肖私め、恋のキューピットこと、リアン.M.シュヴァルツィアがお手伝いした方がよろしいですかねぇ?」
「っっっっ//////(かぁ〜〜〜〜)」
「あれ?隊長?」

隊長が固まっちゃった…。
でもおっぱいだけはプルプル小刻みに震えてるなぁ。

「隊長?どぉしましたぁ?」
「よ、よよよ…ヨロシクオネガイシマス」
「はぁい。よろこんでぇ〜」

カチンコチンの隊長が顔を真っ赤にして俺にお願いしてる。
むふふん。なぁんか悪い気はしないなぁ。

「任せてくださいよぉ〜。俺の読みじゃ、たぶんカデナ隊長のお悩みは即解決しますよぉ〜」
「ば、馬鹿な…。リアンが頼りに見える…だと?」
「んふふ〜。安心して下さいよぉ。泥船…大船に乗った気持ちでいてくださいねぇ」
「し、沈みそうね…」
「だぁいじょうぶだぁいじょうぶ〜。安心して下さいよぉ〜」
「大丈夫かしら…」

結局その日の午前中のパトロールは何事もなく終了した。
つっても、カデナ隊長が通るだけで悪い事してそうな人はみんな逃げちゃうもんなぁ〜。
本当に明日から毎日遅刻しようかなぁ?そうすれば毎日楽になりそうだ。
いやぁ、でも、正直な話、ウェルキン中尉は隊長の事を好きだって噂もあるし、俺も何度かお会いした時にその噂を確かめた事もある。
どっちも真面目で仕事第一な人だから恋愛事には疎いのだろう。
ふむぅ〜。でもしかし。どういう手段でくっつければいいかなぁ〜?
カデナ隊長はちょっとおっぱい押し付けて迫れば大抵の男は落ちちゃうだろうけど、相手はあの天然ウェルキン中尉だ。
それにそれはカデナ隊長のキャラでもないしなぁ…。
あ、そだ。




俺は仕事終わりにカデナ隊長を食事という名の作戦会議に招待する事にした。

「で?どうすればいいの?んくっ(グビ)」

カデナ隊長がビールを景気良く呑みこんでいく。
そうして喉が鳴る度に揺れるおっぱい。
仕事上がりで軽鎧も外され、うっすらと汗ばんだ服が何ともエロい。

「え〜っとすねぇ、こっちで一応策は立てておきました。後は、巡回の組み分け表をちょびっと見せて戴ければ」
「巡回組み分け表?そんなもの、何に使うのよ?」
「へへ〜。い〜からい〜から」
「うん?…」




「ただいまぁ〜」
「あ〜。おかえりぃ〜」
「うわっ!?またこんなに夕飯作ったの?」
「うん〜。だって、リアンが帰ってくるの遅いから〜。す、少し作りすぎただけだ」
「もぉ。こっちだって付き合いもあるんだから…。ちょっと食べて帰ってきちゃったよ…」
「えぇ〜!?そんなぁ〜。わ、私のご飯が食べられないと言うのか?」

母さんがうるうると悲しそうな顔をする。

「わ、わかったよ。食べるよぉ」
「わ〜い。そうか!よし、すぐに食べよう」

母さんが嬉しそうに俺の椅子を引いてくれる。
ちくしょう。かわいいな…。
我が母親ながら出来る…。
こうして俺は今日も満腹を越えて夕飯を食べてしまった。

「ごちそうさまでしたぁ〜♪」
「うぅ…お腹が重い…」

重いお腹をさする俺とは正反対に俺の5倍程の量をぺろりと平らげた母さんはご機嫌な感じで大量の食器を洗い始めた。
あれだけの量…いったいどこに入ってるの?
全部おっぱいにいってるんだろうか?
いや、あのおっぱいにお尻だ…あり得ない話では…。
そういえば母さんは不思議な人だ。
俺の記憶が確かなら、俺がまだ森に居た小さな頃から20になった今まで全く外見が変化していない。
そういえば歳を聞いた事もないなぁ。
髪は真っ白だから実は相当な歳なのかな?
そういえば時々すごく年寄りくさいしゃべり方をしたり、すごいおじいさん相手でもまるで年下の人と話す様にしゃべったりしている…。
母さん…謎だ。

「あ、そういえば母さん。明日の夕食、ジャックが来るかもしれないから」
「ジャックちゃん?あらあら。懐かしいわね〜。あの悪がきか…」
「そそ。悪いけど、ご飯お願いするよ」
「あら〜。じゃあいつもよりいっぱい作らなくちゃ」
「あ、それは良いよ。いつもの量で充分だから…。ってか、何でいつもあんなに食べるのさ!?どっからあんなに食材買うお金が出てきてるの!?」
「うふふ〜。それはねぇ〜。ティ …ひ、秘密だ」
「???」

母さん、謎だ。
10/11/09 10:58更新 / ひつじ
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■作者メッセージ
あぁ〜やっちゃったな〜。
まだ1万文字ぐらいしかストックないよ。
これ途中で力尽きるパターンだよ。

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