the angel fall |
私の生まれた日、母さんは私にレオナという名前をくれた。
私が初めて歩けるようになった日、母さんは私に剣をくれた。 私が初めて母さんから一本を取った日、母さんは私の背中を叩いてこう言った。 「ここから先は、私があげられるものは何もないよ。自分で探しなさい」 the angel fall ――はぁ、はぁ どうしてこんなことになったの? 前線は崩壊、隊列はめちゃくちゃ。 私達の隊は撤退を余儀なくされた。 相手が弱小だと甘く見ていた。 聞いたことのない敵司令官の名を聞いて、新人だと油断していた。 戦線を押し上げ始めた途端の突然の奇襲。 矢の雨が降る。 おかしい、ここには高台なんてどこも…。 体を分断して二面で攻める。 とたんに相手の増援が左右から挟み撃ち。 完全に見透かされてる。 長槍で馬が倒される。 まずい。 一心不乱に剣を振る。 撤退。敗走。 完全に私の負けだ。 追手を払いのけながら。 地面に転がる傷ついた兵士たち。 全部私の責任だ。 一人でも多く、逃がさなくては。 追手に向き直り、時間を稼ぐ。 相手が多すぎる。 長くはもたない。 最後の一人が逃げ切った。 早く、私も…。 ――ガツン! 首筋に衝撃を受ける。 手足がもつれる。 身体が動かない。 ――僕の勝ちだね。隊長サン。 三日月の様に嗤う顔。 私の意識は夜に沈んでいった。 目が覚めると、はじめに見えたのは暗い石の壁だった。 「気分はどぉ?隊長サン」 ――バッ! 声の主はまだ幼さの残る少年だった。 「っ!」 両手が拘束されている。 「あはは。だめだよぉ?暴れちゃあ。これから色々と聞きたい事があるんだ。しっかりと最後まで話してもらわなくちゃいけないからね」 「殺せっ!私は何もしゃべるつもりはない!私にもリザードマンとしての誇りが在る」 「いやだよ。隊長サンの誇りなんて僕には関係ないもの」 そう言って少年は私の前まで歩いてくる。 「ねぇ、気分はどぉ?敵前で無様に逃げようとして捕まっちゃった気分は?」 少年の顔に邪悪な笑みが浮かぶ。 その言葉から悪意が迸る。 「ねぇ、答えてよ。悔しい?悲しい?恥ずかしい?ねぇ、どうなの?お知えてよ」 「最悪だ…」 苦虫を噛みしめる思い。 「あっははははっ!最悪?そうっ!それは良かった。でも安心してよ。これからもっともっと悪い事が起こるよ。今の気持ちなんて最高だったって思えるくらいに」 少年が大笑いする。 その顔が、その言葉が、私の心に突き刺さる。 その時、檻の向こうから足音がやってきた。 「エルンスト・ウィギナー少佐。将軍がお呼びです」 どうやら敵軍の兵士の様だった。 「ちっ。せっかくいい所だったのに。あぁ〜あ。つまんないなぁ。あのおっさん。話し長いから嫌いなんだよね」 兵士に聞こえるようにわざと大きな声で不満を話す。 少年は檻を出ていく。 最後にちらりとこっちを見た。 ――また後でね。 それから数時間して、食事が運ばれてきた。 お世辞にもおいしいとは言えなかったが、空腹だったので、吸い込まれる様に私の喉を流れていった。 その時兵士が言った。 「あなたが“青竜のモリガン”…。お目にかかれて光栄です」 その後、その兵士は私に積極的に話しかけてきた。 まったく、私は敵国の捕虜だというのにこの軍は一体どういう教育をしているのだろう。 そんな事を考えながら、一方的に話しかけてくる兵士に私は適当に答えを返していた。 「はは。ずいぶんと楽しそうだね。僕も混ぜてよ」 檻の戸を開けて入ってきたのはあの少年だった。 相も変わらず悪意のこもった笑顔を顔に張り付かせている。 「こ、これはウィギナー少佐!も、申し訳ありません!」 兵士が深々と頭を下げる。 「いいよ。こっちこそ楽しそうなところを邪魔しちゃった?」 「そ、そんな事ありません!」 その兵士の姿が、まるで怯えているように見える。 「今日は戦で疲れたでしょ?君はもう帰っていいよ。あとは僕が観てるから」 「そ、そんな!少佐にこのような雑用…」 「聞こえなかったのかなぁ?後は僕が観てるよ」 少年の顔には先ほどまでと対照的な無表情が浮かぶ。 「はっ!それでは、あとをお任せします!」 そう言って兵士は逃げるように去っていった。 それを見届けると、少年は再び笑顔で私の前にやってくる。 拘束も解かれているというのに、不用心な事だ。 「あぁ〜。抵抗しようとしても無駄だよ?」 私の心を読むかのように少年が言う。 次の瞬間、衝撃の様にめまいが襲ってくる。 「あはは。効いたみたいだね。どぉ?おいしかった?僕の手料理は?」 「くそっ!何か薬を…」 「うん。せっかくだから、隊長サンに僕の料理を食べてもらいたくって、捕虜用の食料とすり替えておいたんだ」 「ゲボマズだったわよ」 「あらら。お口に合わなかった?ごめんね。もっと勉強しておくよ」 大げさに残念そうなジェスチャーをする少年。 「さっきの兵士が喋っていたわ。戦の指揮をとっていたのはあなただったのね」 「うん。そうだよ。僕が命令してたんだ」 「くっ。まさか、この私が君の様なワカゾーに負けちゃうとはね…」 「そうだよねぇ。ほんっとに頼りない話だねぇ」 そう言ってにやにやと私の顔を覗き込む少年。 「ねぇ、知ってる?」 「何がだ?」 「今日の戦で何人死んだか」 少年の口元に三日月が浮かぶ。 「23人だってさ。みんな、隊長サンの所為で死んじゃったんだよ。かわいそうだねぇ」 その言葉が薬で痺れた頭に鈍器で殴られたような衝撃を放つ。 「くっ!」 「みぃ〜んな、隊長サンに言われたとおりに頑張って戦ったのにね。隊長サンが頼りないせいでみんな天国へ逝っちゃったんだ」 「殺したのはお前たちだろうっ!」 「あはは。何言ってるの?相手が僕だったから、それだけですんだんだよ?もっと怖い人が相手だったら、もっと、もぉ〜っと死んじゃってたよ?」 確かにその通りだ。 こいつの策に前線が早くに崩されたため、兵の多くは撤退する事が出来た。 「僕は優しいから、かわいそうな兵隊さんたちは逃がしてあげるって決めてるんだ。でもね、隊長サンは許してあげないよ?隊長サンの所為でみんなは逃げなくちゃいけなくなったんだ。隊長サンの所為でみんな死ななくちゃいけなかったんだ」 「っ!!」 何も言い返すことが出来ない。 その笑顔が、その一言一言が私の心を剣の様に刺し貫いていく。 「ねぇ、悲しい?悔しい?痛い?あはは。痛いよね。だって隊長サンも頑張ったんだもんね。それなのにみんなを死なせちゃって、そしてここで僕にいじめられてるんだもんね」 唇を噛みしめる。 痛い。痛い。痛い。 力が入らなくなって両膝をつく。 薬の所為?それとも…。 「でも、安心して。僕が隊長サンを責めてあげる。死んだみんなが、隊長サンの事許してくれるぐらいに責めてあげるからね」 少年が私を抱きしめる。 そのぬくもりを感じて私から涙があふれ出てくる。 その温もりは熱を増し、気が付けば暑苦しいぐらいになっていた。 少年がそっと離れていく。 その隙間から地下を流れる風が吹き抜けていく。 そして気がついた。 私の身体が汗ばんでいる。 「うふふ。効いてきたみたいだね。僕のおクスリ」 ゆがみ始める視界に三日月が浮かぶ。 「しびれ薬と媚薬をミックスしたんだ。隊長サンが痛くないように、僕からのプレゼントだよ」 ――ハァ、ハァ まるで何百メートルも走ったみたいに息が上がってる。 じんわりとしびれが身体に溶け込んでいくみたいになって。 「あはは。隊長サンの顔、すっごくエッチだよ。まるで僕を誘っているみたい」 「…くそ………」 頭がしびれる。 子宮が熱くなる。 くそっ。耐えなければ。 こんな薬(モノ)に、こんな奴に…。 負けてはだめだ。 「こうするとどうなるかな?」 「っヒャン」 突然痺れた頭が電撃によって呼び覚まされる。 そしてじんわりと股の間から刺激が抜けていく。 「あははは。すごぉい。とっても敏感になってるね。見て。隊長サンのここ、こんなにどろどろになってるよ?」 そう言って少年はてらてらと濡れた指を見せてきた。 顔が一気に熱くなる。 「うふふ。それにとってもかわいい声が出たね。隊長サン、僕みたいな子供に触られて嬉しかったの?もしかして、変態サン?」 「違うっ!これはあなたの薬の所為で!」 「ほんとにそぉ?心の底から全部薬の所為だって言える?薬はきっかけに過ぎなかったんじゃないの?薬は言い訳に過ぎないんじゃないの?本当は隊長サン、欲しくて欲しくて仕方無かったんじゃないの?軍に入って毎日毎日戦闘ばかり。ほんとは溜まってたんじゃないの?」 「っ!?」 どうなんだろう。 私は、本当に薬の所為で嫌々求めさせられているだけなんだろうか? わからない。 あの日以来。あの時以来。 私の中で諦めて抑え込んでいた気持ちが在る。 あの人を、レクサスを好きだという気持ち。 あの人に、この身を捧げたいという気持ち。 それを否定できるの? 私はほんとに…。 「あはは。迷ってるみたいだね。迷うよね?自分の本当の気持ちなんてわからないもんね。仕方のない事だもんね。安心してよ。僕がもう迷わなくていいようにしてあげるよ。すぐに欲しかった、って言えるようにしてあげるよ」 そう言って少年の顔が近づいてきた。 抵抗しようにも手足はしびれて動かない。 身を捩っても、せいぜい体の向きを変えられる程度。 ――ちゅ 「ひっ!」 ――ビクビク! 私の首筋に少年の唇が触れる。 優しく、ついばむ様に。 なに、これ? へん。 ゾクゾクって。 身体が震えてる。 気持ちが悪いからじゃない。 だって寒気がないもの。 どうして?どうして私の身体は震えてるの? ――ちゅ、ちゅ ――れろ 「ひゃぁっ!」 おかしい。 絶対におかしい。 こんな所で、こんな…。 「うふふ。どう?気持ちいいでしょ?隊長サンに飲ませてあげた薬はとても高価なものなんだ。とっても効き目が強くて、でも気を付けてね。あんまりこの薬で感じすぎちゃうと、脳みそがおかしくなって、一生元に戻らなくなっちゃうよ?」 少年がくすくすと笑う。 私の背筋に冷たいものが走る。 いやだ、こんな所でこんなに感じちゃうぐらい敏感なのに、それを一生だなんて…。 「あはは。怯えてるね。怖いよね?嫌だよね?首を甘がみされたぐらいで背骨が反り返っちゃうぐらい感じてるのに、こんなの一生なんて。だって、こんなの誰が見たって淫乱の変態さんだもんね」 「…ぃゃ…」 私の口から洩れた声は恐ろしく弱く、小さなもの。 怖くて、声が出ない。 「あははは。ごめんね。ちょっと脅かしすぎたね。安心して。そうならないようにしびれ薬も混ぜてあげたんだよ」 「…大丈夫、なの?」 声が震えてるのが分かる。 でも、少年の言葉が幾分か私の心の締め付けを幾分か弱めてくれる。 「このしびれ薬はね、神経伝達物質の受容体に先回りして、正常な神経伝達を阻害する作用があるんだ。そしてこの媚薬は、それとは反対に、正常な神経信号の中で、刺激や歓喜、抑揚といった信号の伝達物質だけを選択的に何倍も何十倍も多く分泌させる効果がある。つまり、このしびれ薬が効いている間はね、どんなに媚薬が効いても、ある程度の所でその作用を阻害して、効き目を抑えてくれるんだよ」 少年は難しい話をし始める。 でも、怯えと恐怖に支配されつつある私の頭にはその言葉の意味は届かない。 ただ、少年の表情から、なんとなく、大丈夫そうだ、という事だけが伝わってくる。 私は気が抜けるのを感じた。 しかし、そんな私の様子を見て、少年の口元に、またあの三日月が浮かび上がった。 「あ、そうそう。この二つのお薬はね、効いている時間に違いがあって、しびれ薬の効果が抜けた後でも、媚薬の効果はまだまだ続くんだ」 「え!?」 「つまり、しびれ薬が切れた後、本当の媚薬の効果が現れるんだよ。そうなったらどうなるだろうねぇ?あはは。僕の予想だと、隊長サンの身体は、今の何倍、何十倍の快感を感じてしまうようになっちゃうと思うんだ。そうしたらきっと楽しいよ。何をしても、どこを触られても感じちゃって。どんなに我慢しても欲しくなっちゃうよ。それでね、気絶するほどイキ続けて、脳みそが壊れて、一生そのままになっちゃうんだ」 少年は邪悪な笑みを耳元に近づけて、こう言った。 ――よかったね。素敵な変態さんになれるよ 「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」 私は叫んだ。 恐怖と絶望が私の心を支配する。 「どうしたの?泣いてるの?」 ――ぅ…っひ…うぅ… 止まらない。 涙が止まらない。 「大丈夫だよ。僕がいるからね。泣かないでいいよ。僕がきっと君を楽にしてあげる」 ――ちゅ 「っ!?」 唇に感じた温もり。 温もりが私の唇を包む。 甘くて、花の蜜を吸っているみたい。 私も求める。 心地いい甘さ。 気持ちいい。もっと欲しい。 それが少年の唇だと気づくのと、私が正気を取り戻すのはほぼ同時だった。 ――チュパ 「ねぇ、どう?気分は良くなった?」 少年と私の唇を銀色の糸が結ぶ。 少年が微笑むと同時にその糸は私たちを引き離す。 「…ぅん」 不思議と心が落ち着いた。 そして、少年が愛おしくなる。 たまらなく、欲しくなる。 「うふふ。眼の色が変わったね。きっと、僕に負けたと隊長サンの心が感じたんだね」 少年の笑顔はとても優しいものに感じる。 「ねぇ。私どうなるの?」 少女の様な言葉しかつながらない。 「君はね、僕の事が好きで好きでたまらなくなってしまうんだ。仕方無いよ。隊長サンはそう言う生き物なんだから」 「仕方、ないの?」 「うん。そうだよ。だから、何も怖がらなくていいんだよ」 「うん」 やさしい。 好き…。 「ほら、身体の力を抜いて」 身体の力を抜く。 彼の指がそっと私の身体に触れる。 「…ぁん」 戦闘では、邪魔にしかならないおっぱい。 ふにゅって、彼の指が触れて。 すすす…って、撫でてくれる。 「きもちいい…」 「うふふ。素直になれたね。どう?まだ怖い?」 「ううん。気持ちいい…」 彼の指がすぅって、お腹の方に降りてくる。 そこから私の服をゆっくりと脱がせてくれる。 子どもに戻ったみたいで、少し恥ずかしい。 「綺麗だよ。隊長サン」 「…レオナって、呼んで」 「かわいいよ。レオナ」 彼の呼んだ私の声が、すぅって心に吸い込まれていく。 「ひゃぁん」 彼の指が裸の私の身体に触れる。 気持ちいい。嬉しい。 「好きなだけ、素直に感じればいいよ。気持ち良くなれば気持ち良くなるほど、レオナは素敵な女の子になれるんだから」 「うん。いっぱい、気持ち良くして」 ――くちゅ 「ひぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 頭の中が真っ白。綺麗。 「ふふ。ここに触っただけでイっちゃったね。また感度が上がってるね。しびれ薬が切れてきたのかな?」 「ふぁぁ…わかんないぃ…」 頭がぼぉ〜っとして。 なのに、彼が私に触れる感触だけが、強く強く私を導くの。 「レオナ。愛してるよ」 「わたひも…」 彼とキスする。 長い長いキス。 キスしながら、おくちも気持ち良くなってくるの。 彼がおっぱいを触るとおっぱいが。 おへそを触るとおへそが。 おまんこを触るとおまんこが。 どんどんどんどんどんどん気持ち良くなる。 気がついたら、頭が真っ白なまま、何も考えられなくなってた。 ノド、震えてるのに、何も聞こえないの。 めいっぱい叫んでるはずなのに、声が聞こえないの。 ――ぁ 唇が離れて、景色が戻ってくる。 なのに手足はまだ痺れたまま。 私の身体じゃないみたい。 「レオナ、入れるよ」 彼がズボンからおちんちんを出した。 小さくて可愛い。 私、彼の為に彼のオチンチンをお口で大きくしてあげるの。 あまい。あまい。 「いい子だね。レオナ」 頭ナデナデしてくれる。 ふにゃぁ〜って、なる。 「どうしてほしい?」 彼が聞いてきた。 私は足を開いておまんこを彼に広げて見せる。 「ちょうだい」 「あはは。レオナ、とってもエッチだね」 「うん。わたし、エッチなの。あなたの前だとエッチになるの」 そう言うと、彼はまた頭をナデナデしてくれた。 「いくよ?」 「うん。きてぇ」 ――メリィ 彼が入ってくる。 ぷちって、私のおまんこの中でなる。 私のはじめて、彼がもらってくれた。 嬉しくて、それだけで何度も何度もイっちゃった。 「動くよ?」 「…ぅん」 彼が動く度、私はイク。 気持ち良くって、気持ち良くって。 とっても、幸せだった。 私はその幸せをもっと味わいたくてさらに身体を開く。 もっと、もっと彼にイかされたい。 もっと、もっと… 私は目を覚ます。 相変わらず私は地下牢に閉じ込められているらしい。 起きあがろうとして、身体をよじる。 「っひゃ!」 頭に電撃が走った。 乳首がじんじんしている。 その乳首がぷくぅっと大きくなるのが変にクリアに見えた。 「え?」 何が起こったのか分からなかった。 そして、今度は上半身を起こした時、その正体がわかった。 「ぃひゃあ!」 今度は股の間。 こすれただけで、異常な快感が生まれる。 私の頬を冷や汗が流れた。 『あんまりこの薬で感じすぎちゃうと、脳みそがおかしくなって、一生元に戻らなくなっちゃうよ?』 昨日の少年の言葉が蘇ってきた。 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 叫んでみても、もう手遅れだった。 涙を拭いて、現実と向き合う。 立っているだけで、風が吹くとビクっと反応してしまう身体。 一度快楽を感じると、異常なほど敏感になり、勃起したままの乳首とクリトリス。 その乳首とクリトリスが空気に触れるだけで、疼きの様に快感が湧きあがってくる。 「そんな…」 私の身体は、変えられてしまった。 私は静かに立ちつくす。 そして、しばらくして、部屋の中を見渡す。 ベッドの横に、私の服が綺麗にたたんで置いてあった。 私はそこまで歩いていく。 ――クチュ 股から水音が漏れる。 同時に快感が駆けあがってくる。 私はその感覚にひるみながらも、服の中から下着を手にとった。 ――シュルシュル 太ももに生地がこすれる。 それだけでむずむずとした快感になる。 そして、 「ぃきゅん!」 勃起したクリトリスに生地が触れる。 ビクンと身体が跳ねた。 それでも、ゆっくりと、ショーツを尻尾の所まで持ち上げた。 ――はぁ、はぁ 息が落ち着くのを待って、今度はブラを取る。 「っひ!」 こちらも乳首が生地に擦れて声が漏れる。 私は、そのまま動けなくなってしまった。 勇気を振り絞って、一歩を踏み出す。 「ぅひい!」 クリトリスが生地とこすれる。 生地の微かなざらつきが私に快楽を送り込む。 私はとうとう諦めて下着を脱ぐ。 身体を見下ろす。 紅く充血し、痛々しく尖ったままの乳首。 全身から送られる微弱な快楽の所為で上気して赤みを増した身体。 その肌にはうっすらと汗が浮かび、光を微かに跳ね返す。 今まで戦ばかりでまともに女として扱ったことのなかったこの身体が、たった一晩で淫らな娼婦の様に変えられてしまった。 いや、しかし、鍛え抜かれうっすらと筋肉の浮ぶ腹部や腕はそうでもない、か。 それでも、その中身はもはやどんな娼婦よりも快感に敏感で、快楽に貪欲なものに変えられてしまったのだ。 「そんな…。これが、私の身体、なのか?」 落ち着いていた心の中に、再び絶望が鎌首をもたげ始める。 こんな身体で、今までの様に戦う事が出来るのだろうか? いっそのこと、彼に溺れてしまおうか? 「ぁ…」 昨晩の事を思い出し、じんわりと秘部が濡れてくるのを感じた。 子どもの様な心のまま、彼に甘えて気持ちよくされた記憶。 何も考えず、ただただ彼のくれる快楽だけを求めた。 とても甘美で、残酷な記憶。 「……私は…負けたの?」 彼に、快楽に。 屈するの? ――クチュクチュ 私の手が快楽を思い出し、そこをいじり始める。 ――むにゅむにゅ どんなに鍛えても邪魔なくらい大きくて、鬱陶しいだけだった乳房が私に甘美な快感をくれる。 「きもちいい…」 雫が溜まっていくみたいに。 止まらない。 私の指が彼の指になっていく。 彼が私を責め立てる。 悔しいはずなのに。 こんな子供にいい様にされて。 悲しいはずなのに。 「きもち、いいの…」 溜まりきった雫が、とうとうこぼれおちる。 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 光。 暗い天井に穴が開いたみたいに。 『逃げるんですか?隊長?』 「え?」 『隊長がそんなんじゃ、張り合いがないっすよ』 数年前の、彼の記憶。 そこから光が溢れ出す。 やがて光は視界全部に満ちて。 「っ!!」 そこは暗い天井。 「……私は、負けない」 あの日、私のプロポーズを蹴った彼は、あろうことかそのまま姿を消した。 『ははっ。隊長を嫁にもらうのは俺なんかじゃ勿体無いっすよ』 「…あなたしか、いなかったのに」 生まれてから今まで、私が唯一人好きだと思った男。 人が真面目な話をしても絶対に不真面目な態度でしか表わさないような男。 そのくせ、その軽口の様な約束は絶対に守って見せる。 誰よりも自由で、誰よりも優しくて、誰よりも強い男。 気が付けば、彼が私の事を“隊長”ではなく、“レオナ”と呼んでくれる様になる。そんな未来を想像していた。 あの日、それが未来ではなく、夢だった事に気づいた。 あの日、私の夢が覚めたから。 あの日、私は彼から最後の贈り物をもらった。 自由を。 私の次の“好きな人”を探す自由を。 「まだ負けられない」 私は少しさめた体と頭で立ち上がる。 ずれたブラを直す。 ショーツは、少し迷って諦めた。 その上から服を着ていく。 本来履くはずのホーズがはけないせいで、下半身を覆う物が短いスコート一枚になってしまう。 しかし、無いよりはずいぶんとマシだった。 相変わらず乳首がこすれて動く度に刺激が響くが、戦闘用に胸を押さえつけるようなきつめのブラを付けているため、ショーツよりも幾分もマシだった。 私はまだ彼と戦える。 ――カツン、カツン、カツン 檻の外から足音が聞こえる。 「…どう?昨日はよく眠れ…。へぇ…」 少年は私の顔を見て、笑顔を崩すと一瞬驚いたようになり、その後三日月を浮かべて笑った。 「昨日はあんなに乱れていたのに。今日は見違えるように精錬されている。隊長サンの身に何かあったのかなぁ?できれば僕に教えてほしいなぁ」 「私は、戦う事にした。ただそれだけだ」 少年がじっとわたしを見つめる。 それだけで子宮がキュンとなるのが分かる。 私のリザードマンとしての本能がそうさせているのだろうか? でも、もう負けない。 私は闘う事もせずに負けるわけにはいかない。 「すごいねぇ。よくそんな身体でまた立ちあがったね。とてもすごい事だよ。今までそんな人間一度も見たことはなかった。隊長サンが魔物だから?リザードマンだから?」 「私は私。レオナ・モリガンだ。私は強いぞ、少年?気をつけた方がいい」 「あははははは!それはすごい。じゃあ、僕に見せてよ!強い君の姿をさぁ!」 その言葉で分かる。 彼がこれほど虚栄に満ちた言葉を吐いたことは一度も無かった。 それは少年に余裕がない事を示している。 私は闘える。 幸い少年に護衛はいない。 しかし、牢の外には警備の兵がいるはずだ。 武器を奪われた私は不利になるだろう。 しかし、拘束はされていない。 少年を倒せばどうにかなる。 しかしその時だった。 ――パチン 少年が指を鳴らした。 それと同時に地面に魔法陣が浮かび上がる。 「なっ!?」 身体が、動かない。 「うふふ。どう?動けないでしょ?」 「くっ!」 「残念だったね。そんな身体で立ち向かおうとしたことは褒めてあげる。でも、もう少し頭を使うべきだったね。ここは君の家じゃあない。僕が何もしていないと思っていたの?」 少年は勝ち誇ったように笑う。 「どうした?今日はずいぶんと“強い言葉”を使うじゃないか。私にこの魔法陣を抜けられると何かまずい事でもあるのかしら?」 私は心を落ち着けて話す。 心は震えそうだったが、少年にそれを教えるわけにはいかない。 「くっ! …流石は知勇兼備の勇将、青竜のモリガン。今までの木偶と同じようにはいかないね。 その通りだよ。僕は昨日の隊長サンの様子を見てこの魔法陣すら必要ないと思っていたぐらいだ。これ以外に僕を守る物はなにも用意してないんだ。すごいね。 でも、安心してよ。その魔法陣は見た目よりもずっと頑丈なんだ。そこいらの魔術師じゃ解除できないくらいにね。あとは、もう一度隊長サンを拘束してしまえば、僕を守る物は2つになる」 そう言って動かない私の腕を牢の端に捨てられていた縄で結び始める。 縄は昨日まで私につけられていたもので、長い間使われているのか、もろくなっている。 それでも拘束されてしまえば切ることは難しい。 「よし、これで一安心だね」 少年が私から離れ、魔法陣を解く。 「この魔法陣は地面に埋め込んだ魔具で発動してるんだ。僕の意思で自由に発動できる。その縄を解いても無駄な抵抗はしないことだね」 少年は地面にうずくまった私を見下ろす様に、ベッドに腰掛ける。 その時私は腕に微かな痛みを感じた。 普段なら絶対に気づかないような微かな痛み。 しかし、薬の所為で敏感にされた私の身体にははっきりとそれがわかった。 そこには陶器かガラスの破片の様なものが落ちていた。 恐らく過去に此処に囚われていたものが配給された食料入っていた食器を割ったのだろう。 石の床の窪みにはまり込んだ様な形でそれはあった。 私は、少年が私に背を向けた瞬間にそれを拾い上げた。 「あれ?このベッド、なんだか甘い匂いがするね。あれれ?隊長サン、もしかしてここで1人でしてたのかな?その淫乱な身体で?」 「…さぁな。だいたい、私の身体はなんともなっていないぞ?どうやらお前の技量不足で私は満足出来なかったらしいな」 私は動揺を押し殺し、少年を挑発する。 その間にもこっそりと手首をよじり、拘束を切る。 「うふふ。それはどうかなぁ?隊長サン、気づいてないみたいだけど、この牢は入った瞬間から分かるぐらい、隊長サンの匂いであふれてたよ?隊長サンのエッチな匂いで」 「あなたの妄想じゃないの?思春期の坊やにはよくあることよ」 「あっははは!そうかもしれないね。 あ、でも隊長サンは勘違いしてるよ。僕はこう見えてももう二十歳になるんだ。たしかに、この外見はコンプレックスだけど。僕は一方でこの容姿も気に入っているんだ。だって、僕みたいな子供に腕や足を切り落とされるのがよほど悔しいんだろうね。あいつら、僕の顔見ながら睨みつけてくるんだ。馬鹿みたいに」 「ずいぶんといい趣味だな。強姦ごっこに処刑ごっこか」 「どうかなぁ?でも、本当にヤってることだしごっことは言わないんじゃないの? あ、そうか。ごめんね、安心してよ。ちゃんと後で隊長サンの手足も切り裂いてあげるから。きっとすごいよ?その神経の塊みたいな肌を切り裂かれるのは。何倍、何十倍の痛みだろうね?僕、ショック死させないようにする自身がないなぁ」 この身体を切り裂かれる痛みを一瞬想像して、それだけで痛みを感じそうになる。 微かな刺激ですらあれほどになるのだ。 それを刃物で切り裂かれたりしたらひとたまりも無いだろう。 しかし、それを防げる自信があった。 私の敏感な肌を伝って来るその微かな感触は、私に拘束がもうすぐ解ける事を伝えてくる。 後は、少年の隙をついて逃げるだけだ。 幸い少年は武術はあまり得意ではないようだ。 その歩き方、行動、態度を通じて私の経験がそう教えてくれる。 「おいおい、大丈夫か?そんなヘボい腕じゃあ、私が死んだ兵の償いをする前にキミが私を殺してしまうぞ?」 「あははは。そしたら隊長サンの死体を切り刻んで、犯して、壊してあげるよ」 私達はあくまで舌戦を続ける。 大丈夫だ。 少年がこのまま気づかなければもうすぐ縄が切れる。 しかしその時だった。 ――ギぃ… 突然の出来事だった。 乱入してきた二人の兵士が少年に背後から剣を突き立てる。 「…え?」 自分の腹部から突き出た血のついた剣を見て疑問の声を漏らす少年。 そしてそのまま少年は崩れ落ちた。 「はっはははは!「え?」だってよ。“戦場の悪魔”の最後のセリフはたったそれだけだ。なにも恐れる事はねぇ!こいつもただの人間だったんだ!」 ひどく興奮した様子で狂喜の声を上げる兵士。 それとは対照的に、剣を突き立てた兵はビクビクと震えている。 その兵士はあの時私に話しかけてきた兵士だった。 「どどどどうしよう!?やっちまった…。俺、この手で少佐を…」 自分の犯した過ちを前に、震える若い兵士。 「うるっせぇな!これでいいんだよ!もうこいつの狂ったお遊びにはついていけねぇよ!戦が起こるたび毎晩毎晩この地下牢で悲鳴を聞き続ける!こんな生活、もううんざりだ!」 兵士はこれまでのストレスをぶちまけるように叫ぶ。 「で、でも。この人は少佐だ!俺は、自分の上官を…この手で…」 「だまれっつってんだろ!」 業を煮やした兵士が、震える兵士を殴る。 余程強く殴ったのか、兵士は糸の切れた人形のように倒れ、気絶してしまう。 「ははははは!そうだ!上官殺しは全部こいつになすりつけちまおう!俺は何もしていないんだ。ははは、はははははははは!」 狂喜を叫び続ける兵士。 「…お前は、最低の屑だな」 その兵士に、私は言葉をぶつける。 「あぁん?なんだよ。お前もうれしいだろう?もうお前を痛めつける悪魔は死んだんだぜ?」 「上官殺しは私の軍では極刑に値する」 「俺の軍でも同じだよ。ばぁ〜っか!へっ!縛られて身動きとれねぇくせに。こんなガキに犯されてキャンキャン呻いていたくせに。うるせぇんだよ」 兵士は私に言葉の牙をむく。 「…その拘束が解けていたとしたら、お前はどうする?」 「あぁん?」 私はついに縄を切り落とした。 縄が解けて私の腕が自由になったのを見た途端、兵士の顔が青ざめる。 「貴様は最低だ。軍人として、人間として」 私はそのままそいつを渾身の力で殴りつけた。 兵士は壁に叩きつけられ、意識を失った。 「ふぅ…」 私は檻の中に転がる敵を見渡した。 その中に血を流している少年を見つける。 「……………」 自分でもどうしてそうしたのか分からない。 でも、私の腕の中には彼がいた。 兵士の目をかいくぐる様に砦を出る。 平時の為か、警備は薄く、容易に逃げる事が出来た。 そのまま森の中を逃げる。 腕にしびれを感じる。 見下ろせば少年がぐったりとしている。 「…死なせない」 私は腕に力を入れ直し、走り続けた。 気合いで堪えてはいるが、私の身体は戦闘や、激しく走ったせいで何度も強い性的な刺激をうけ、異常なぐらい息が上がっている。 「くそっ…。この身体…はぁ…どうしてくれるのよ。責任取るまで…ん、殺させてあげないわよ!」 私の腕の中で静かにしている少年に言い放つ。 私の腕を温かい液体が伝うのが分かる。 あまり時間がない。 どこか安全な場所に隠れなくては。 しばらくして、打ち捨てられている小屋が目に入る。 私はそこに飛び込み、枯れた乾草の上に少年を横たえた。 幸い急所は外れている。 でも、酷い出血だ。 私は服を破ると、少年の傷口を強く縛った。 ――ウッ 少年からうめき声が漏れる。 よかった。まだ生きてる。 衰弱の所為か、相変わらず意識はないが、まだ間に合う。 私は、回復魔法を患部に当て続けた。 少年の意識が戻ったのは、外が闇に沈む頃だった。 「……どうして」 少年の口から弱弱しい声が漏れる。 「どうして僕を助けたの?…」 その言葉は少年を年相応の年齢に見せる。 「僕、あんなに隊長サンに酷い事したのに…」 「…気にするな。お前は軽いから、一人で逃げるのと変わりはなかったからな、ついでだ」 「あはは。変な人。それだったら、放って置いてくれればよかったのに」 「君は「ありがとう」と言えない病気か?」 「あはは。そうだね。ありがとう」 少年は弱々しく微笑んだ。 その笑みは、今まで少年が見せていたものとは大きく違って見えた。 しばらく少年を見つめていると、少年も私の瞳をじっと見つめ、ゆっくりと口を開いた。 「……僕はね。1歳の頃からの経験を全部覚えてるんだ」 「…?」 「初めての記憶は、お父さんに打たれた時」 「………」 少年は、何かに取りつかれたように喋り始めた。 「お父さんはね「お前の所為で母さんが死んだんだ。お前の所為で」って泣きながら、僕を殴った。何度も何度も。僕のお母さんはね、昔から身体が弱くて、僕を生んだときに死んじゃったんだって。はは。きっとお父さんはすごくすごぉく、お母さんを愛してたんだね。だから、それを知っちゃったから、僕はお父さんを恨むことが出来なかった。お父さんの暴力は12歳になるまでずっと続いたんだ」 少年は寂しげに微笑みながら話し続ける。 「でも、ある日お父さんは死んだ。流行病だった。僕は孤児院に移されて、そこでいろんな子供たちと暮らし始めた。…でも、そこでも暴力は続いた。きっと皆寂しくて仕方無かったんだね。みんな小さくして親を亡くした子どもたちだったから。その寂しさを紛らわす様に、ぶつける様に。僕を毎日のように殴った。僕もみんなと同じように寂しかったから。やり返すことなんて、とてもできなかったよ」 少年はちらりとこちらを見つめる。 その瞳は透き通る様に輝いていて、あの狂ったような濁りは何処にもなかった。 「でもね、お兄ちゃんがそれを助けてくれたんだ。あ、お兄ちゃんって言っても、本当のお兄ちゃんじゃないんだよ?でもね、お兄ちゃんは僕の事を本当の弟みたいに可愛がってくれた。僕をいじめる子どもたちから僕を守ってくれて、寂しくて僕が泣いていると後ろからキュって抱きしめてくれた。温かくって大きくって。僕はお兄ちゃんの胸の中にいると何処にいるよりも幸せで、安心できた」 私は少年の転がった手をなんとなく握り、その綺麗な瞳を見つめながら、話を聞いた。 「そんなお兄ちゃんだから、もっと多くの人の為になりたいって、兵隊さんに志願したんだ。その2年後、僕もお兄ちゃんと一緒に居たくて、同じ隊に志願した。2年ぶりに会っても、お兄ちゃんは変わらず僕の事を大切にしてくれた。僕はどんなに辛い訓練でも、どんなに過酷な戦だって、お兄ちゃんと一緒なら幸せだった。でも、あの日、僕の幸せは、全部全部どこかに消えてしまったんだ」 少年の瞳から涙が溢れてくる。 そして、溜まりきった涙は、一筋の光になって、その白い頬を滑り落ちていく。 少年の瞳が訴えかける。 ――僕の話を、僕を聞いて 「つらい戦だった。敵も味方もいっぱい死んだ。僕等の上官は毎日毎日イライラして。そしてある日、こう言ったんだ。 「お前ら全員、槍を持って敵軍に突っ込め」 みんなとても嫌がった。みんなすでにボロボロだった。僕も両足を矢で打ち抜かれて、立てない状態だったから。そしたらね、その上官は銃を持って、突然一番端っこにいた兵士を撃った。 「できないなら俺が殺してやる」って言って怒鳴った。みんな怖いから、仕方なく槍をとって敵軍のど真ん中に突っ込んでいった。あはは。どうなったと思う?」 少年の瞳からはぽろぽろと涙がこぼれおちる。 それでも尚、涙声で少年は語る。 「みんな、みぃ〜んな。死んじゃった。残ったのは怪我をして立つ事の出来なかった僕を合わせて3人だけ。その中の1人は、その命令をした上官だったよ。馬鹿みたいだよね。そいつの命令で突撃していった人たちはみんな死んだのにさ。僕のお兄ちゃんも死んでいったのにさ。その命令をしたそいつはちゃっかり生き残ってるんだよ?…だから、その時僕は思ったんだ。偉くなろうって。偉くなって、ちゃんとみんなをまとめて、誰も無駄な死をしなくて済む様に、って」 少年はその時の事を思い出しながら、ゆっくり、ゆっくりと語る。 「でもね、偉くなっても、だめなものは駄目だった。どんなに僕が兵法を学んでも、どんなに僕が策を考えても。戦の度に何人も死んでいった。僕は悲しくて悲しくて。そしてある日、敵軍の上官を捕まえたんだ。その戦で、僕の兵は何人も殺された。僕はそれが許せなくって、そいつの腕に剣を突き立てて、足を切り落として、胸を貫いた。そいつはそのまま死んだよ。そうしたら、とっても楽になったんだ。それまでどんな事をしても消えなかった胸の痛みがウソのように消えた。きっと死んでいったみんなが僕の事を許してくれたんだって、思った。それから戦の度に相手のえらい人を捕まえていじめる様になった。そうすれば痛くなくなるんだもん」 少年は大粒の涙を溢しながらにっこりと笑った。 その笑顔は、とても笑っているようには見えなかった。 「…それで、痛いのは治ったの?」 私は訪ねてみた。 「ううん。全然。あはは。全然治らないんだ。痛くなくなるのはその時だけで、それが終わるともっともっと痛くなるんだ。痛くて痛くて痛くて痛くて…。だから何人も何人も…」 狂ったように涙を溢して笑う少年。 私はそれを見ているのが痛くて堪らなかった。 気がついたら抱きしめてた。 「ごめんね。君みたいな優しい子を。戦争に巻き込んだのは私達だ」 「っ!……」 少年は強張る様に一瞬ビクッとしたが、しばらくするとその身体から力が抜けるのがわかった。 そして、少年の細くて小さな腕が私を抱きしめたのがわかった。 「かわいそうに。痛かったんだよね。辛かったんだよね。人が死んでいくのが、痛くて痛くて」 私の目から涙が零れ落ちて、流れだして、止まらなくなった。 「……優しいな。隊長サンは…。ほんっと。馬鹿みたい。僕が隊長サンの兵士さんを殺したんだよ?僕が隊長サンを痛くしたんだよ?なのに…馬鹿みたい…。なんで?なんで…なんで僕なんかの為に泣いてくれるの?…馬鹿だよ…。馬鹿…」 少年は声を出して泣き始めた。 外見よりもずっと恐ろしく見えていた少年が、私の腕の中でほんとの子供のように泣いている。 その姿はとても小さくて。無垢で。 私は強く強く少年を抱きしめながら一緒に泣いた。 少年は、私の腕の中で、産まれたばかりの赤ちゃんの様に泣き続けた。 私はそんな少年が哀れで、痛くて、愛おしくて。 ずっとずっと抱きしめ続けた。 「…馬鹿だよね、僕。隊長サンにこんな事を話しても、何にもならないのにさ」 泣きやんで、落ち着いた少年はぽつりとそんな事を言った。 そこにはもう、あの張り付いた笑顔はなかった。 「……慰めてあげる事なら、私にもできるわ」 「…隊長サン、やっぱり変だよ」 「そう?」 「うん。絶対変だよ。こうなったのも、僕の所為なんだ。僕が捕虜をいじめる度に、みんなが怖がっているの、僕は知ってたんだ。なのに、止められなかった」 少年は俯いた。 「なら、私が止めさせてあげるわ」 「え!?」 「私はこう見えても問題児の扱いには定評があるのよ」 「あはは。無理だよ。僕自分のことぐらい分かってるもん。もう僕は壊れてるって」 再び少年は笑い始める。 あの笑顔で。 だから私は、 抱きしめた。 「え!?」 「どう?痛いのは治った?」 腕の中の少年に尋ねる。 「…………ぅん」 少年の身体の力が抜ける。 「あなたが痛くなったら。私がいつでも抱きしめてあげる。だから、もう泣かないでいいのよ?」 「……うん」 身体を離そうとする。 ――キュ 少年の手が私の服を掴んだ。 「…もう少し、このままで居させて」 私はそれを聞いて、強く少年を抱きしめた。 少年は私の胸に耳を押さえつける様にきゅっとくっつき、離れようとしなかった。 ほっと、気が抜ける。 その時だった。 ――ぴくん 私の気が抜けた途端、私の身体が快感を思い出す。 「……ねぇ」 突然少年は私の顔を見つめ、聞いてきた。 「ホントは、あの薬、効いてるんでしょ?」 「………ああ」 突然何を聞くのかと思えば…。 「今こうしているだけでも、君から伝わる鼓動や温かさ、息使いが全部私を変な気持にさせる」 「うふふ。それは良かった」 少年が笑う。 その笑みに邪悪なものはない。 「…また私に変な事をするつもりか?」 「ううん。実はね、僕、悔しかったんだ」 「ん?」 「隊長サン、僕をあそこまで追いつめた。あんなに焦ったの、僕は生まれて初めてだったよ」 「ははっ。伊達に君より生きていないさ」 「僕は負けるのは大っきらいなんだ。 だから、隊長サンの身体だけでも僕の思い通りになって、よかったなって」 「……いい迷惑だ。治せるのか?」 「さぁ。薬の副作用だからね。難しいと思う」 「…君は自分のしたことの責任も取れないのか?」 「責任か…」 ――ニヤァ 少年の唇が三日月になる。 しまった、まずい事を言った。と思ったが、あとの祭りだった。 「僕が責任とって、隊長サン…ううん。 レオナを気持ち良くさせてあげるね」 「…君は獣か!?」 「レオナが、綺麗だからいけないんだ…」 そう言って少年が私を押し倒した。 ただでさえ無理な姿勢で彼を抱いていたのに、のしかかられたらいかに私がリザードマンで、彼が軽くても、重力には勝てない。 ――はぁ、はぁ 「うふふ。レオナ、かわいいよ」 「…ばかぁ」 ついさっきまで我が子の様にかわいかった少年が、狼男になって襲いかかってきた。 天使の顔をした悪魔だ。 私はそう思った。 ――チュ 彼の小さな舌が、私の口の中に入ってくる。 私の舌を追いかけ、唇を甘噛みして、私に快楽を与える。 彼に変えられてしまった身体はすぐに私を昇らせていく。 …だめ。 このままじゃキスだけでイっちゃう。 「んっっっ!!!」 ――ぴくんぴくんぴく… 「ぷはぁ…。うふふ。イっちゃったんだね。真っ赤なレオナの顔。潤んだレオナの瞳。とってもかわいいよ」 彼が天使の笑顔を向ける。 そのすぐ後ろに悪魔が見え隠れする。 恐ろしい子。 「…ねぇ、私は君の事を何と呼べばいい?」 私は上気した肺を落ち着けながら訊ねた。 「…エルンスト・ウィギナー。それが僕の名前だよ。好きに呼んだらいい」 「そうか。エル」 私が彼の名前を呼ぶと、彼は少し困ったように、 「あはは。その呼び方、懐かしいけど、照れちゃうよ」 笑った。 「ねぇ、エル。きて…。私の準備は、もう出来ている」 「うふふ。僕を慰めながらずっと濡らしてたんだよね。エッチだなぁ。レオナは」 「そんな身体にしたのは誰だ?……責任、とってよね」 「うん。僕なんかでよければ」 「エルじゃなきゃ、いやだ」 「うん。これからずっと。責任を取るよ」 「そんな事、約束していいのか?約束を破ると、私は許さないぞ?」 「破らないよ。第一、僕はもう軍には帰らない」 「…そうか」 私は胸が熱くなるのを感じた。 不思議だ。 こんなにも全身が熱く燃えているのに、温かさを感じたところは全く別の所にあるみたいな…。 「あれぇ?ショーツはどうしたの?」 「………クリトリスが…擦れちゃって」 「うふふ。かわいい。ほんとに敏感な変態さんになっちゃったんだね。こんな短いスカートにノーパンだなんて」 「だ、誰の所為だと思ってるのよ…」 「ねぇ、レオナ。入れるよ?」 「…うん」 ――クチュ 快感が迸る。 彼が触れている。 私の敏感なそこに。 それを考えただけでイってしまいそう。 ――クキュ 「いひっぃ!」 彼が入ってくると、私の身体はビクビクと跳ねあがった。 彼が進む度に尋常じゃない程の快楽が波のように押し寄せる。 頭が真っ白。 「…はぁ。…全部、入ったよ?」 「ふあぁぁ。…きもちいい」 「すごいね。レオナのここ、イキながら僕をぐにゅぐにゅ締め付けてくるよ」 「うん。だって私…ふぁっ…今度は、本当に、あなたを求めてる。…心も、身体も」 「…レオナの心も、僕のモノになったの? …嬉しいな」 「ひきゅぅっ! …エルも、私のモノに、なってぇ」 「うん。約束するよ」 「ありがとぉ…」 「動くよ?」 「うん。来て」 ――びくぅっ! 私の身体、おもちゃみたいに跳ねまわる。 心もどんどん解けていく。 どんどん何もわからなくなってくる。 あの時と同じ。 でも…。 今度はエルの心を私の心が感じてる。 あの時と、全然違う。 そのまま、二人で白い世界に融けていった。 すやすやとエルの寝息が聞こえる。 あんなに恐ろしかった笑顔をしていたエルが、まるで天使の様な微笑みを浮かべて私の腕の中にいる。 不思議。 私の身体、とても敏感に彼の体温を伝えてくる。 彼の寝息を素肌が感じる。 でも、その中には淫らな感覚は一つも起こらない。 ただ、腕の中に眠る少年が愛おしくて、その事が私を気持ち良くさせる。 あの狂ったような昨晩を思い出す。 彼に乱され、薬に覚醒めさせられ、快楽に溺れたまま感じた愛おしさ。 それとは全然違う。 心の奥から響いてくるような、重みのある温かさ。 はじけて飛ぶような快楽の熱さでは無い。 「…君の所為だぞ。…君の事が好きで、好きでたまらない…」 これは私が負けを認めたということなのだろうか? どこで彼の何に負けたのだろう? 何もわからない。 でも、本能にも近いような深い所から、私は彼の事を好きだと思った。 ――カツン… 地面に響く微かな音。 私の神経はそれを察知する。 私の意識が覚醒に向かう。 「エルっ!?」 よかった。私の腕の中にいた。 「ん?…どうしたの?」 エルが眠そうに目を擦りながら身体を起こした。 その仕草はとても愛らしい。 「って、そんな事言ってる場合じゃないわ。敵よ」 「ん?」 「人が来るの。何人もいる。早くここを出ないと囲まれてしまうわ」 「…何も聞こえないよ?」 「あなたの所為で敏感になったのはエッチな事だけじゃないの。他の感覚もとっても敏感になってるの」 「……そりゃすごいね」 はぁ。 エルはどうやら寝ぼけてるらしい。 私はため息をつくと、エルを抱えて小屋を飛び出した。 そのまま近くの大きな木の幹に隠れる。 「脱走者は見つかったか!?」 「いいえ。中にはいないようです。しかし、先ほどまでいた形跡があります」 「わかった。 脱走者と裏切り者はすぐ近くにいるぞ!探せっ!」 私達はその光景をこっそりと窺う。 どうやら外に出たことで、エルも目を覚ましたらしい。 「…僕、裏切り者だってさ。こりゃ戻ったら死刑だね」 そう言ってエルは私に笑いかけた。 「これで本当に戻れなくなったな。どうする?」 私もエルに笑い返す。 「あはは。言ったでしょ。僕はずっとレオナと一緒にいるよ」 「エル…。嬉しいわ。 でも、まずはこの場をうまく逃げなきゃ」 「…まって、今、探査魔法を使うから」 そう言ってエルは目を閉じて精神を集中させる。 私も鋭敏な耳を使い、足音を聞く。 ……2、30人ぐらいだろうか? かなり広範囲に探索しているみたいだ。 「わかったよ。27人の兵士が散らばって僕らを探してる。でも、どうやら森を抜けると逃げられそうだよ」 「そう。でも、この分だと難しそうね。誰にも見つからずに逃げるのは」 「うふふ。それなら、任せといて」 「ん?何か名案でもあるの?」 「あはは。僕はこう見えても戦場の悪魔だよ。僕を捕まえるんならこの10倍は兵を用意しなくちゃ」 そう言って笑うと、エルはかがみこみ、地面に指で何かを掻き始めた。 その姿ははたから見ると、地面に落書きしているみたいで、なんだか可愛い。 「よし、できた。あとは…」 エルは立ち上がると、目をつむって何かをつぶやく。 ――フワッ 私の肌を風が撫でる。 そして、次の瞬間視界が霧に覆われた。 私は一瞬何かと思ったが、周りを見渡すと、本当に霧が出ていた。 「どう?湿気をたくさん含んだ森の中に、氷の魔法と風の魔法をミックスした冷風を吹かせてあげたんだ。空気中の水分は一気に飽和して、霧が出る。ってわけ」 「…すごい」 先ほどまであんなに晴れていた森は、ウソのように深い霧に覆われた。 「でも気を付けて。この霧、あまり長くはもたないから。 あとは兵士を2人こっそり倒す」 「ん?わざわざ倒すの?」 「この霧で視界が利かないのはこっちも同じだからね。保険だよ」 「ずいぶんと用心深いのね」 「だいじなレオナがいるんだもん。当たり前だよ」 「…エル」 小さな彼が、とても大きく見える。 「あ、来た。ちょっと待っててね…」 「え?」 私が彼の声を聞いて止まったのは、2人の兵士を当て身で気絶させた後だった。 身体と共に敏感になった聴覚は霧の中でも、彼よりも先に敵を探すことが出来た。 「……流石、モリガン将軍…忘れてたよ」 「何に使うのかしら?」 「えっと、ちょっと待ってね」 そう言って彼は兵士のズボンと上着を脱がせる。 「これを着て」 私は言われたとおりにした。 サイズが大きめだったので、ズボンはむき出しのあそこに触れることが無かったことは幸いした。 「さ、行こう。これで敵に見つかっても、霧の中じゃ僕らだって絶対にばれないよ」 「流石ね。裸にひんむいたあの人たちを放っていくあたり、ほんとに悪魔ね」 「じゃあ君の服を着せてあげる?昨晩までのエッチなお汁が付いた甘い匂いのする服を」 「…それは嫌」 「僕も絶対に嫌だ。レオナの身に付けていたものが他の男に触れるなんて」 「私が着てる服はいいの?」 「…緊急事態だよ」 「ふふ。そうね。小さな隊長サン」 「そうだよ。今は僕が隊長なんだ。レオナは僕の言うとおりに動けば、絶対に傷つくことはないさ。僕が何をしてでも守って見せる」 「ありがと。エル」 私達は、そうやって国を抜け出せた。 1年半後。 私はティントゥの自分の家で編み物をしていた。 ふと私の退軍証書と勲章の飾られた壁にある時計を見る。 そろそろ彼が帰ってくる頃だ。 自然と頬が緩むのを感じた。 キッチンには私の頑張って作った料理の入った鍋が湯気を吹いている。 1年とちょっと前、 こんな身体ではもう実戦に身を置くのは危ない、と彼が聞かなかったからしぶしぶ軍を辞めた。 王や同僚達はせっかく帰って来た私が除隊する理由を問いただしたが、私はこう言った。 「その代り、もっと優秀な人を連れてきました」 初めはその人物を見て、みんな驚き、同時に怪しんだ。 しかし、彼が裏切る事は絶対にない。 私がこの国にいる限り。 私はそれを婚約指輪を見せながら言った。 みんながそれを見て、彼を認めてくれた。 その後すぐ、私達は結婚した。 孤児院の隣の教会には多くの人が来てくれた。 その中の一人を見て、私はとっても驚いた。 それは行方不明になっていた彼だった。 その隣にいたのは綺麗な女の人。 でも、心なしかそのドレスは似合っていないように見えた。 なんというか、ドレスよりも、剣や槍が似合うような、そんな気がする。 それを彼に言うと、 「それは隊長も同じですよ」 と笑われた。 不思議と、彼を見ても、少しの安心と、懐かしむ思い程度しか感情は浮かばなかった。 だって、私には彼がいるもの。 私は結婚式の写真から目を離し、ドアのほうを見た。 私の耳が彼の足音を聞いたから。 「ただいま」 彼はあれから少し身長がのびた。 それでもまだ、私の方が少し大きい。 でも、私がよりかかっても絶対に倒れないぐらい彼は強い。 だって、私が選んだ夫だもの。 彼はコートを掛けると、私の方に笑顔でやってきた。 そのまま私のお腹に耳を当てて、さらに優しく微笑んだ。 「もうすぐ生まれると思うわ。感じるの。早く外に出たいって」 「ふふ。レオナみたいに可愛い子だったらいいな」 「そうね。きっと、あなたみたいに可愛いわ」 私達は私のお腹に降りてきた天使を感じながら、笑いあった。 the angel fall fin |
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