サナギとコクリ
どうも いらっしゃいませ
え？この店は何を売っているかって？
そうですねぇ
この店にない物はないです
まぁ、ある物の方が少ないんですけどね
見ての通り売り物はあまりありません
でも、ご入り用とあらば何でもお作りいたします
え？ああ
すみません
私、薬師のサナギと申します
え？あぁ。いえいえ
薬師の蛹ではありません。薬師の“佐名木”です
“さ”を強く発音してください
そうです“サライ”の発音です
佐名木ルイと申します
いいえ。蛹類ではありません
“佐名木るい”です
“さ”と“る”を強く発音してください
あ、いや。「さとる」を強く発音していただかなくても結構ですよ
さ と る ですよ
いや、そうじゃなくて、あぁ…まぁ、もうそれでいいです
大体そんな感じです
ところで今日はどんなご用件で？
はぁ。そうですねぇ
最近多い注文はやはり妖怪の方達から“媚薬”のご注文が多いですね
おや！？あなたの奥様も妖怪で？
種族の方は？
ほぅほぅ…
それでしたらこちらの薬なんていかがでしょうか？
いえいえ。怪しくなんかございませんよ
この薬はかの富士の山の麓、その大樹海の奥地に広がる触手の森の触手から絞り出しました体液を大陸の娑婆党（さばと）なる集団の魔女より伝え賜った構成法により成分を抽出しました生薬でしてね
あ、いえ、「不死の魔女の小学の集団を触手に性交させて絞り出した体液」ではありません
「富士の触手から絞り出した体液を魔女の構成法で抽出した生薬」です
いや、「なんかやらしい」と言われましても…
ゴホン…
とにかく、これでしたらあなた様には体力増強精力増大の効果を
そして奥方様にはより一層の美しさと若さを
さらにはこちらに用意いたしました軟膏などを奥方様の感じやすい部分に塗っていただけましたならいつもより激しく素敵な夜をお過ごしいただけるかと思います
はい
そちらの軟膏は今ならおまけに付けましょう
はい
そうですね
お値段はこちらの方で…
あ、いえいえ
少々貴重なお薬ですので、これくらいのものかと
はい
ありがとうございます
良い夜をお過ごしくださいませ
はい
今後とも、是非とも我が商店をご贔屓に
ありがとうございました〜
サナギとコクリ
「ふぅ…」
私は今日も商売を終え、夕日を浴びながら店の暖簾を片づけていた
祖父から受け継いだ薬屋の中は橙色の光が奥まで差し込み、何とも言えない寂しさを感じさせる
今日もあまり客は来ず、売り上げはスズメの涙ほど
しかし食うにほと困るという有様ではないので私は日々の生活に満足していた
――カタン
――キィキィ
私はかつて祖父のものだった揺り椅子に腰かける
ゆったりと動く景色
埃を被った大昔の人体図
子供のころから使われ続け、すっかり角の丸くなった調合台
私が三年前大陸から持ち帰ったさまざまな形の硝子器具
それらが天窓や西側の格子窓から入る橙に照らされ薄く光る
吹き抜けになった店内を見下ろせば古めかしい洋風の棚には様々な漢方の入った硝子瓶が並び
そこからここへと続く滑らかにすり減った手すりはうっすらと輝いて見える
幼かった頃はそれにしがみついていた小さな手
今では生薬の色の染みついたうす黄色い指先
物心付いたころより教わった薬師としての技
そして、十年前大陸に渡り会得してきた新たな技術
それらを合わせた私の薬は効き目が強く毒気が少ないのが自慢だ
しかし、去年祖父が亡くなり、この店を継ぐ事になってからというもの
私の自慢を聞いてくれる人はとんと少ない
とは言っても
祖父の居た頃から私の自慢を聞いてくれていたのは祖父ぐらいのものだったが…
町外れにある古ぼけた薬屋
街中の商店街に店を出したならば私の自慢を買ってくれる人はもう少し増えるのかもしれない
しかし、かつて祖父の背中を見ながら過ごしたこの店を
祖父の背中を追いかけ、一度は離れたこの場所を
私はもう離れるつもりはなかった
――ガララ…
一階の玄関にある古いガラス戸が音を立てる
「はい？どなたでしょうか？」
もう暖簾は下した筈だが…
私は揺り椅子から立ちあがろうとして
――グラ
――ズドン！
「いたぁ！！」
揺り椅子ごと壁に激突し、私は強く頭を打ってしまった
――バサバサッ！
頭の上に重い本がいくつか落ちてきて
舞った埃が夕日に照らされ黄色く輝く
「あいたたたた…」
「あれぇ？大丈夫でやすかぁ？」
そう言って調合房への階段を上がってきたのは聞き知った声だ
気の抜けた様な
気を抜かせる様な
明瞭で快活な
豪胆で狡猾な
妖怪狸の声
「ああ。大丈夫ですよ。すみません。お見苦しいところをお見せしてしまいました」
私が体勢を直し、立ち上がる
そこにはニマニマとした笑顔の狸が
「はは。見苦しい店だけにお見せできないとは。流石はサナギの旦那。おつむの方がよろしいでやすねぇ。そんな旦那が頭を打っちまったとなっちゃあ大変だぁ。そんなホコリ被った本なんてぇ捨てちまいやしょう。なんならあっしが買い取ってやってもよろしいんでやすぜぇ？ついでにどうですぁ？この埃まみれな店もぉ売っちまっちゃあくれやせんかねぇ？」
こちらの頭も回らない内に一つも二つも良くしゃべる
「この店を売るという話なら、何度もお断りしましたが？」
私はいつものようにうんざりとした声を返す
しかし狸は
「いえいえぇ。今回はぁ前とはちぃっと違うお話でしてねぇ。あっしが仕切っておりやす商店街をご存じでぇ？」
目を狐のように細め、猫のように笑う狸娘
「貴女の商店街と言えばここいらじゃ一番の繁盛ぶりだそうですね」
「いやぁ〜。そう言っていただけるとはありがてぇ限りですぁ。しかしね旦那ぁ。あっしの所は呉服問屋に米問屋、酒屋に魚屋、八百屋に畳、寝るなら布団屋、建てるは大工。いっちょうたぁんと揃ってぇおりやすがぁ、そんな中でも未だに薬屋だけはぁ置いてないんでやすよぉ。そこで旦那ぁ、是非この際だ、この古い店を閉まって、あっしの所へ引っ越しやせんか？今なら建屋は格安、隣は風呂屋、薬の材料だってたぁんとあっしがご用意できやす」
くるくるとしゃべる狸は右へ左へと大きな尻尾を忙しなく動かし
細めた目から黄色い瞳で覗き込んでくる
「何ともありがたいお話ですね」
「そうでやすとも。そうでしょう。なんてぇたってぇあっしは旦那に…もとい旦那の腕にぃ惚れ込んでぇやすからねぇ。祖父の代から腕は一流、店舗は三流。毒に薬に気付けに媚薬。人間妖怪、相手は問わず、治せぬ病気は老いと恋のみ。なんてぇたってそのお顔。優しいお口に、通ったお鼻。惚れぬは男、堕ちるは女。そんな旦那があっしの所に来てくれりゃあ。鬼に金棒、狸に旦那。怖いものなんざぁありゃしないでやすぜぇ？」
身振り手振りを踊らせて
よくよく回る、頭と舌だ
「でも、すみません。せっかくのお話ですが、この店は私が祖父から遺された唯一の品でして、それをおいそれとは手放せないのですよ」
途端に曇る、狸の顔色
私は何とも悪いことをしてしまったと思ってしまう
「そうでやすかぁ…。はは。いやぁ〜。そうでやすかぁ。そいつぁとんだお節介でやした」
口数の少なくなった笑顔
何ともいたたまれない
しかし、これも仕方のないことだ
私は小さくため息を吐く
「いやぁ〜。こいつはすいやせんでした。しかしまぁ、そういう事でしたら、この話はまた今度といたしやしょう。いやぁ〜しかし、この暑い中しゃべったら何とも喉が渇いてしまいやした」
そう言いながら大きな身振りで狸は首の辺りを手で仰いだ
「ん？おお。こんなところにお水があるでやすねぇ。すいやせん旦那ぁ、ちょっと一杯いただきやすぜぇ」
そう言って狸は硝子の容器に入った透明な液体を飲み込む
「あ！ちょっと待ってください！！」
私が慌てて叫んだ時にはもう遅かった
「んく、んく…。っぷはぁ！おお。何とも言えない甘さと酸味だぁ。だんなぁ？こいつぁなんかの果実の搾り汁でやすかぁ？」
飲んだものの正体も知らずに呑気な事を言う狸娘
「あぁ……。それ…薬です、狸さん…」
「ほぇ？いったい何の？」
「…………媚薬です…」
「ふえぇぇ！？な、なんでそんな物がぁ！？」
やっと事の重大さに気づき、驚く狸
「色町のジョロウグモさんから注文を受けてたものでして…。ああ。なんという事だ…。ちゃんと瓶に仕舞っておくべきでした」
「……は、はは。ってぇ、言ってもただの媚薬でやすよねぇ？あっしも妖怪の端くれですぁ。そんなものどうってこと……。？？…あ…あぁ…な、…だ、旦那ぁ？…なんか、手足が寒くもねぇのに震えてきやがったんでやすがぁ…」
やはりか…
私はさらに深くため息を吐いた
「それはウシオニの血液から抽出した魔清と大百足の媚毒をカラステングダケから抽出した成分で解毒して精製したものです。…本当はそれを100倍から120倍に薄めて使うものです…」
「あ、あぁ ぁ ぁ ぁ …。だ、旦那ぁ？か、身体が震えてるのに熱くなってきやした…」
後は突然発作的に軽い快感を感じ始め、意識が朦朧として来たら、異性の性臭に対して嗅覚が異常に反応し始め、その身体を欲する飢餓感に襲われるようになる…
「きゃ、きゃふっ！？」
――ビクン
「ふ、ふへぇ！？！？」
――ビクンビクン
何度も痙攣し
とうとう立っていられなくなった狸は床にへたり込み、それでもビクビクと快感に震え続ける
媚薬の原薬を、しかもあれ程の量を飲み干してしまったのだ
恐らくはさっき言った症状がより顕著に表れ、もしかしたら本来の薬効とは違い、毒として働いてしまうかもしれない
確か解毒するには、人間の精でウシオニの魔清を中和し、人間の男性の唾液で大百足の毒を変性させたのちに、毒を彼女の体液と共に絞り出さなければならない
「にゃ、にゃにこれぇ？へ、ふへぇ！？」
――ビクンビクン
――プシャっ
媚薬に犯され、身体が膨大な快感に耐えられなくなったのか、絶頂し、股間から飛沫を飛ばす
古い気の床に彼女の体液がしみ込んでいく
それと一緒に、まるで花のような甘酸っぱい香りが辺りに広がる
「媚毒のせいで分泌物の成分が変化しているのか？」
――フワ
――クラ…
「なっ！？」
突然立ちくらみのようになり、体が熱く火照り始める
これは、間違いなく媚薬の成分だ
恐らくは濃度の高すぎる媚薬が彼女の体内で分解しきれずに体液に漏れ出しているに違いない
そうなると肝の臓にも毒として働いてしまう可能性もある
さらにはウシオニの魔清の興奮作用が心の臓に負担をかけ、最悪命も危ない
「あ、あ あ あ あっ…。ら、らんなぁ？、あ、あぁあ、あっひ、もうらめれさぁ…」
ふらふらと、うずくまる様に倒れ込むと狸娘はピクピクと震えたまま動かなくなった
いや、恐らくは動けなくなってしまったに違いない
「まずい！」
私は動転する頭でどうにか彼女を救う方法を探す
精…精…
そうだ
「ま、待っていてください。今助けますから」
そう言って自分のズボンを脱ごうとしたとき、ふと理性が甦った
いくら緊急事態とはいえ、女性を相手にこんなことをしてしまってもいいのだろうか？
しかし
「あ、あぁ〜。こ、このにおひ〜…らんなぁ〜…！」
――ガバッ！
突然彼女が私の方に飛びかかってきた
「いつっ！…」
私は肩と頭を床に打ち付けてしまった
しかし、そんな私を余所に、彼女は尋常ではない様子で、私のズボンをずらすと
「あ、だ…だんなぁ、ふいやせんっ！」
「んあっ！？」
彼女は一心不乱に私のものをしゃぶり始める
私のそこは先ほどから嗅いでしまっている彼女の媚薬を含んだ体液の匂いですでに硬くなっていた
「ずじゅ…んむ…らんなぁ…じゅむ…ふいやへん…あむ…おいひぃ…んあぁ…がまんれきない…」
彼女の中でも理性と薬で暴走した本能が戦っているようだった
「ぐっ…んあ…わ、わたしは…ん…だいじょうぶですから…」
「らんなぁ〜…じゅむ…あむ…らんなぁ〜〜」
過剰に分泌された唾液でぬめる彼女の口が私を責めたてる
「らんなぁ…おいひぃ…ん…らんなぁ…〜〜」
――くちゅ
――じゅる…れろ
日が落ちて暗くなってきた店内に水音が響く
「う…うぐ…」
私は無意識に堪えようとするが、彼女の普段からよく回る舌が私を高みへと押し上げていく
「ああっ…すみません…すみません……」
「らんなぁ…らひてぇ…じゅず…らひてぇぇぇぇ！」
――じゅちゅ…ちゅうぅぅぅぅぅっ！
ぱちん と
何かがはじけたような気がした
「あぁぁぁぁぁっ！」
――ビュク
――ドクッドクッ
「んん〜！…んく…こく……んぐ…」
私の精をまるで寒露のようにおいしそうに飲み干す彼女
「……んく…ぷはぁ〜……」
彼女は自分の唾液すらも飲み干そうと私のものを深くまで飲み込んでから、口を離した
「んはぁ〜…おいひぃ〜……」
融けかけの雪だるまのように顔を緩ませた彼女はぐったりと放心した
「はぁ…はぁ。お、落ち着きましたか？」
私は息を整えながら彼女に聞く
しかし
「らんなぁ…。も、もうがまんできやせん！あっしをもらってくだせぇ！！」
「な、何をっ！？わぷっ！！？」
唇に触れたのは驚くほどに柔らかな感触
沈み込むほどに柔らかく、プルンとはじく様な
彼女の唇が私の唇に重なっていた
私の頭を抱きしめ、まるで離さないとでも言うようにしっかりと口づける彼女
媚薬の混じったほんのりと甘いにおいがする
「ん…」
目を開くと、彼女の瞳があった
薄暗闇の中で、ほんのりと夕日色に輝く金色の瞳
涙で溢れ深く透き通った湖の水面のように揺れていた
――ちゅ
一度唇が離れる
ずっと感じていた温かで柔らかな感触が不意に消え
言い知れない寂しさを感じた
「だんなぁ…。だんなぁっ！」
また目の前で揺れる瞳
まるで泣きそうな
しかし、嬉しそうな
そんな彼女が
またゆっくりと近づいてくる
私も ゆっくりと彼女に近づいていた
「んっ…」
今度は、少し先ほどよりも激しく
舌を絡ませあい
お互いの唾液を味わう
彼女の甘い唾液の味が私に広がる
彼女の誘惑に満ちた雫が喉を伝って落ちていく
――ドクン…ドクン
響き渡るような鼓動
――トクトクトク
触れ合う彼女から感じる興奮
――くちゅ
「ん？…」
彼女の手が私の手を彼女の濡れそぼったそこへと導いた
「……」
彼女の瞳が真剣なまなざしで私を見つめていた
しかし、その陰には物欲しい欲情が映りこんでいる
――こくん
私は小さく頷き、彼女のそこへ指を這わす
――くちゅ…くちっ
――にゅる にゅぷ
まるで私の指を飲み込むように彼女が蠢く
そんな底とは対照的な彼女の瞳はそれでも続けてほしいと訴える
「んっ…んむ…んんっ…」
唇の端から彼女の喘ぎが漏れる
私の指で感じている
それが、たまらなく愛おしく思える
私は彼女の中に何かを探すようにそこを弄った
「んむぅ…んん〜……」
彼女の声が私の口の中を震わせる
その声が徐々に切羽詰ったものへと変わっていく
そして
「んんんっ〜〜〜！」
――ぷしゅ
――ビクンッ
彼女の体が大きく跳ねた
――ちゅ…
彼女と唇が離れ
お互いの唇の間に密色の糸が伸びて
千切れた
「んはぁ〜。だんなぁ…。好き…。あっし…旦那の事…」
見たことのない
切なそうな彼女の表情
まるで幼い少女のようで
揺れて
「旦那ぁ…あっし、実はずっと前から…お慕いしておりやした…。もう我慢できないんですぁ！あっしを、あっしを…もらってくだせぇ……」
そう言って、細い身体で私に抱きよった
――トクントクントクン
熱い鼓動が
彼女の胸から伝播する
私はそっと、彼女を抱きしめた
その身体は細くて
柔らかく
力を入れれば折れてしまいそうだ
しかし、とても熱く
その中では力強く心が脈打っているのがわかった
「私で…いいんですか？」
いろいろなものが回りすぎた頭が考えた言葉はそれだった
しかし
彼女はそんな陳腐な言葉にさえ、まるで幼い少女のように微笑むと
「はい…はいっ！旦那しか…旦那しかいねぇんです。あっしは…旦那の事が…」
恋しかった
私は
もう一度彼女を抱き寄せ
背を屈めると
――ちゅ
その小さな唇に口づけた
「ん…だんなぁ……」
すぐに離れた唇に、彼女は寂しそうな表情を浮かべると
ゆっくりと立ちあがって
――ギィ…
揺り椅子に手を着いた
「だんなぁ、来てくだせぇ……」
頬をリンゴ色に染めながら、彼女は大きな尻尾を立てると、左手で自らの一番大事なところを広げて見せた
――くちゅ
薄紅色に色づき
ぷっくりと充血した美しいそこ
私は彼女の腰を抱き寄せると、ゆっくりと自分のものをあてがった
「いきますよ…」
「うん…だんなぁ……あのぉ…」
彼女は少しためらうように言う
「どうしました？」
「あのぉ……コクリって…呼んでくだせぇ…」
「……はい。コクリ」
――ちゅく…
柔らかな肉の感触
まるで沼に沈んでいくように飲み込まれていく
「んあぁ…」
――っち
たらりと
紅が垂れる
「痛くはないですか？コクリ」
「だいじょ…ぶ……。気持ちいいです…」
ふるふると震えながら
自分の唇に左手の甲をあてがい答えた
「入れます」
「はい…」
――じゅぶ
沈む
彼女の奥底へと
「んん〜！」
彼女がその細い背を反らす
肩にかかっていた着物がはらりと肌蹴る
目の前で大きな尻尾がピンと立ち上がって
――ちゅ
奥まで到達し
ふにゃりと尻尾から力が抜けた
「動きますね」
――こくん
彼女は小さく頷いて
私は腰を動かし始める
ゆっくりと
大きく
「ん…んむっ……」
その度に彼女の口から声が漏れる
いつもの明瞭な声ではない
可愛い、愛らしい声
――じゅ
――じゅむ
動きを速める
彼女の中が私を締め付ける
まるで私にせがむ様に
私を欲するように
「んはぁ…あぁ……あっ…」
彼女の声も大きくなっていく
お互いにお互いを感じあう
愛し合う
――じゅ ジュッ ずじゅ
激しくなっていく水音
私も掻き立てられるように腰を動かす
――ばさっ
――ばさ
目の前で大きく揺れ動く尻尾
「あぁん…んっ………んあぁ……」
彼女の愛しい声
私は恋しい彼女の尻尾を
――ぎゅ
掴んだ
――ビクン！
「んひゃぁぁ！！？」
――ビクビクっ
その瞬間私を彼女が猛烈に締め上げた
「うっ」
私は耐えられずに
――ごぷっ
吐き出した
――ドクドク
彼女の中に吐き出した想い
彼女は身体全体でそれを感じるようにビクビクと震えた
――ビクンビクン
未だに入ったままの私を彼女が小刻みに締め付ける
「はぁ…くっ……」
私は自分を引き抜く
とたん、彼女は力が抜けたように椅子へともたれかかった
「あぁ〜…あっひ……しあわせれふ〜……」
彼女のつぶやきのような声が聞こえた
その後、
私は何度か彼女に迫られるままに彼女を愛し
そして愛された
とても幸せな時間だった
気が付けば、とっぷりと夜は更け
私と彼女は調合房の脇に置かれたベッドに腰掛け、天窓から見える星空を眺めた
お互いにもう服は着ていない
ただ一枚の布を二人で羽織り
お互いの肩を寄せて眺めた
「旦那様ぁ…あっし。幸せです…」
「私もです…。コクリ」
私が微笑みかけると
彼女は一度微笑んで
そして少しうつむくと
「旦那様…あの…あっしと…あっしと一緒に暮らしちゃあ…もらえやせんか？」
そう言ってきた
「ほんとは…旦那様を脅して無理やりにでもあっしの所に来てもらおうと思ってやした…。でも、旦那様が悲しむ顔……。あっしは見たくなくて…」
「……そうですか…」
一度
店の中を見渡す
どれもが思い出深いものばかり
どれも手放すには惜しいものばかり
しかし…
「そうですねぇ……」
私は彼女を見て
そして決めた
「いいですよ」
「ホントでやすかっ！？」
ぱあっと
彼女が明るい笑顔を浮かべた
「でも、２つ、条件があります」
「条件？………」
「いらっしゃいませ」
私は客を迎え入れる
ここに店を移して以来、見違えるように客足は増えた
私の薬はよく効くと評判になり
街の外からも人が訪ねてくるようになった
これもすべては彼女のおかげだ
「ありがとうございました」
客を見送ると、私は二階に上がり
その古い揺り椅子に腰かけた
見渡す店内
かつてかぶっていた埃は取り払われ
見た目には明らかにきれいになった
しかし、置かれている物は
古い調合台
擦り切れた手すり
古ぼけた薬棚
どれもが思い出の品ばかり
そう
私は彼女に頼んで、店を丸ごと移動してもらった
大勢の大工が家財を運びだし
店を一度解体すると、商店街の中にまったく同じように組み立て直したのだ
私は改めて彼女の力の大きさに驚いた
正直、不可能なことだと思っていたからだ
そう
私はあの時、条件を出した
一つは「私はこの店でしか商売はしない」
つまり、私は暮らすのは彼女と共にするが、昼間はあの場所で店を構えるつもりでいたのだ
それが、まさかこんな方法で店ごと持って行かれてしまうとは…
彼女の頭の回転には未だに舌を巻くことばかりだ
さて、
もう一つの条件は
「いらっしゃいませぇ〜。腕は一流、店は二流。看板娘は超一流！頭痛腰痛、風邪脚気、体の悩みに恋の病。なんでもござれの万能薬！お悩みあるなら誰でも来ませい。さぁ、よってらっしゃい見てらっしゃい！」
店の外から明瞭で快活、呑気で陽気な声が聞こえる
最愛の妻、コクリの声が
「ふぅ…。旦那様ぁ。もうじきお昼でやすぜぇ。ちょいとここらで一休みといきやしょうかい」
「ええ。そうですね」
トコトコと
彼女が飛び跳ねるように階段を上がってくる
そして
――ぽす
揺り椅子に座った私の上に彼女が腰かけ、もたれかかる
「はぁ〜。旦那様の匂い…」
「ふふ。なんですか。突然」
「いいや。あっしには、これが一番の薬だと思いやしてね」
そう言って、くるりと振り向くと
彼女は私に口づけた
「お慕いしてやす…旦那様ぁ…」
その笑顔が
それが私の疲れを癒す、何よりの薬だった
サナギとコクリ
え？この店は何を売っているかって？
そうですねぇ
この店にない物はないです
まぁ、ある物の方が少ないんですけどね
見ての通り売り物はあまりありません
でも、ご入り用とあらば何でもお作りいたします
え？ああ
すみません
私、薬師のサナギと申します
え？あぁ。いえいえ
薬師の蛹ではありません。薬師の“佐名木”です
“さ”を強く発音してください
そうです“サライ”の発音です
佐名木ルイと申します
いいえ。蛹類ではありません
“佐名木るい”です
“さ”と“る”を強く発音してください
あ、いや。「さとる」を強く発音していただかなくても結構ですよ
さ と る ですよ
いや、そうじゃなくて、あぁ…まぁ、もうそれでいいです
大体そんな感じです
ところで今日はどんなご用件で？
はぁ。そうですねぇ
最近多い注文はやはり妖怪の方達から“媚薬”のご注文が多いですね
おや！？あなたの奥様も妖怪で？
種族の方は？
ほぅほぅ…
それでしたらこちらの薬なんていかがでしょうか？
いえいえ。怪しくなんかございませんよ
この薬はかの富士の山の麓、その大樹海の奥地に広がる触手の森の触手から絞り出しました体液を大陸の娑婆党（さばと）なる集団の魔女より伝え賜った構成法により成分を抽出しました生薬でしてね
あ、いえ、「不死の魔女の小学の集団を触手に性交させて絞り出した体液」ではありません
「富士の触手から絞り出した体液を魔女の構成法で抽出した生薬」です
いや、「なんかやらしい」と言われましても…
ゴホン…
とにかく、これでしたらあなた様には体力増強精力増大の効果を
そして奥方様にはより一層の美しさと若さを
さらにはこちらに用意いたしました軟膏などを奥方様の感じやすい部分に塗っていただけましたならいつもより激しく素敵な夜をお過ごしいただけるかと思います
はい
そちらの軟膏は今ならおまけに付けましょう
はい
そうですね
お値段はこちらの方で…
あ、いえいえ
少々貴重なお薬ですので、これくらいのものかと
はい
ありがとうございます
良い夜をお過ごしくださいませ
はい
今後とも、是非とも我が商店をご贔屓に
ありがとうございました〜
サナギとコクリ
「ふぅ…」
私は今日も商売を終え、夕日を浴びながら店の暖簾を片づけていた
祖父から受け継いだ薬屋の中は橙色の光が奥まで差し込み、何とも言えない寂しさを感じさせる
今日もあまり客は来ず、売り上げはスズメの涙ほど
しかし食うにほと困るという有様ではないので私は日々の生活に満足していた
――カタン
――キィキィ
私はかつて祖父のものだった揺り椅子に腰かける
ゆったりと動く景色
埃を被った大昔の人体図
子供のころから使われ続け、すっかり角の丸くなった調合台
私が三年前大陸から持ち帰ったさまざまな形の硝子器具
それらが天窓や西側の格子窓から入る橙に照らされ薄く光る
吹き抜けになった店内を見下ろせば古めかしい洋風の棚には様々な漢方の入った硝子瓶が並び
そこからここへと続く滑らかにすり減った手すりはうっすらと輝いて見える
幼かった頃はそれにしがみついていた小さな手
今では生薬の色の染みついたうす黄色い指先
物心付いたころより教わった薬師としての技
そして、十年前大陸に渡り会得してきた新たな技術
それらを合わせた私の薬は効き目が強く毒気が少ないのが自慢だ
しかし、去年祖父が亡くなり、この店を継ぐ事になってからというもの
私の自慢を聞いてくれる人はとんと少ない
とは言っても
祖父の居た頃から私の自慢を聞いてくれていたのは祖父ぐらいのものだったが…
町外れにある古ぼけた薬屋
街中の商店街に店を出したならば私の自慢を買ってくれる人はもう少し増えるのかもしれない
しかし、かつて祖父の背中を見ながら過ごしたこの店を
祖父の背中を追いかけ、一度は離れたこの場所を
私はもう離れるつもりはなかった
――ガララ…
一階の玄関にある古いガラス戸が音を立てる
「はい？どなたでしょうか？」
もう暖簾は下した筈だが…
私は揺り椅子から立ちあがろうとして
――グラ
――ズドン！
「いたぁ！！」
揺り椅子ごと壁に激突し、私は強く頭を打ってしまった
――バサバサッ！
頭の上に重い本がいくつか落ちてきて
舞った埃が夕日に照らされ黄色く輝く
「あいたたたた…」
「あれぇ？大丈夫でやすかぁ？」
そう言って調合房への階段を上がってきたのは聞き知った声だ
気の抜けた様な
気を抜かせる様な
明瞭で快活な
豪胆で狡猾な
妖怪狸の声
「ああ。大丈夫ですよ。すみません。お見苦しいところをお見せしてしまいました」
私が体勢を直し、立ち上がる
そこにはニマニマとした笑顔の狸が
「はは。見苦しい店だけにお見せできないとは。流石はサナギの旦那。おつむの方がよろしいでやすねぇ。そんな旦那が頭を打っちまったとなっちゃあ大変だぁ。そんなホコリ被った本なんてぇ捨てちまいやしょう。なんならあっしが買い取ってやってもよろしいんでやすぜぇ？ついでにどうですぁ？この埃まみれな店もぉ売っちまっちゃあくれやせんかねぇ？」
こちらの頭も回らない内に一つも二つも良くしゃべる
「この店を売るという話なら、何度もお断りしましたが？」
私はいつものようにうんざりとした声を返す
しかし狸は
「いえいえぇ。今回はぁ前とはちぃっと違うお話でしてねぇ。あっしが仕切っておりやす商店街をご存じでぇ？」
目を狐のように細め、猫のように笑う狸娘
「貴女の商店街と言えばここいらじゃ一番の繁盛ぶりだそうですね」
「いやぁ〜。そう言っていただけるとはありがてぇ限りですぁ。しかしね旦那ぁ。あっしの所は呉服問屋に米問屋、酒屋に魚屋、八百屋に畳、寝るなら布団屋、建てるは大工。いっちょうたぁんと揃ってぇおりやすがぁ、そんな中でも未だに薬屋だけはぁ置いてないんでやすよぉ。そこで旦那ぁ、是非この際だ、この古い店を閉まって、あっしの所へ引っ越しやせんか？今なら建屋は格安、隣は風呂屋、薬の材料だってたぁんとあっしがご用意できやす」
くるくるとしゃべる狸は右へ左へと大きな尻尾を忙しなく動かし
細めた目から黄色い瞳で覗き込んでくる
「何ともありがたいお話ですね」
「そうでやすとも。そうでしょう。なんてぇたってぇあっしは旦那に…もとい旦那の腕にぃ惚れ込んでぇやすからねぇ。祖父の代から腕は一流、店舗は三流。毒に薬に気付けに媚薬。人間妖怪、相手は問わず、治せぬ病気は老いと恋のみ。なんてぇたってそのお顔。優しいお口に、通ったお鼻。惚れぬは男、堕ちるは女。そんな旦那があっしの所に来てくれりゃあ。鬼に金棒、狸に旦那。怖いものなんざぁありゃしないでやすぜぇ？」
身振り手振りを踊らせて
よくよく回る、頭と舌だ
「でも、すみません。せっかくのお話ですが、この店は私が祖父から遺された唯一の品でして、それをおいそれとは手放せないのですよ」
途端に曇る、狸の顔色
私は何とも悪いことをしてしまったと思ってしまう
「そうでやすかぁ…。はは。いやぁ〜。そうでやすかぁ。そいつぁとんだお節介でやした」
口数の少なくなった笑顔
何ともいたたまれない
しかし、これも仕方のないことだ
私は小さくため息を吐く
「いやぁ〜。こいつはすいやせんでした。しかしまぁ、そういう事でしたら、この話はまた今度といたしやしょう。いやぁ〜しかし、この暑い中しゃべったら何とも喉が渇いてしまいやした」
そう言いながら大きな身振りで狸は首の辺りを手で仰いだ
「ん？おお。こんなところにお水があるでやすねぇ。すいやせん旦那ぁ、ちょっと一杯いただきやすぜぇ」
そう言って狸は硝子の容器に入った透明な液体を飲み込む
「あ！ちょっと待ってください！！」
私が慌てて叫んだ時にはもう遅かった
「んく、んく…。っぷはぁ！おお。何とも言えない甘さと酸味だぁ。だんなぁ？こいつぁなんかの果実の搾り汁でやすかぁ？」
飲んだものの正体も知らずに呑気な事を言う狸娘
「あぁ……。それ…薬です、狸さん…」
「ほぇ？いったい何の？」
「…………媚薬です…」
「ふえぇぇ！？な、なんでそんな物がぁ！？」
やっと事の重大さに気づき、驚く狸
「色町のジョロウグモさんから注文を受けてたものでして…。ああ。なんという事だ…。ちゃんと瓶に仕舞っておくべきでした」
「……は、はは。ってぇ、言ってもただの媚薬でやすよねぇ？あっしも妖怪の端くれですぁ。そんなものどうってこと……。？？…あ…あぁ…な、…だ、旦那ぁ？…なんか、手足が寒くもねぇのに震えてきやがったんでやすがぁ…」
やはりか…
私はさらに深くため息を吐いた
「それはウシオニの血液から抽出した魔清と大百足の媚毒をカラステングダケから抽出した成分で解毒して精製したものです。…本当はそれを100倍から120倍に薄めて使うものです…」
「あ、あぁ ぁ ぁ ぁ …。だ、旦那ぁ？か、身体が震えてるのに熱くなってきやした…」
後は突然発作的に軽い快感を感じ始め、意識が朦朧として来たら、異性の性臭に対して嗅覚が異常に反応し始め、その身体を欲する飢餓感に襲われるようになる…
「きゃ、きゃふっ！？」
――ビクン
「ふ、ふへぇ！？！？」
――ビクンビクン
何度も痙攣し
とうとう立っていられなくなった狸は床にへたり込み、それでもビクビクと快感に震え続ける
媚薬の原薬を、しかもあれ程の量を飲み干してしまったのだ
恐らくはさっき言った症状がより顕著に表れ、もしかしたら本来の薬効とは違い、毒として働いてしまうかもしれない
確か解毒するには、人間の精でウシオニの魔清を中和し、人間の男性の唾液で大百足の毒を変性させたのちに、毒を彼女の体液と共に絞り出さなければならない
「にゃ、にゃにこれぇ？へ、ふへぇ！？」
――ビクンビクン
――プシャっ
媚薬に犯され、身体が膨大な快感に耐えられなくなったのか、絶頂し、股間から飛沫を飛ばす
古い気の床に彼女の体液がしみ込んでいく
それと一緒に、まるで花のような甘酸っぱい香りが辺りに広がる
「媚毒のせいで分泌物の成分が変化しているのか？」
――フワ
――クラ…
「なっ！？」
突然立ちくらみのようになり、体が熱く火照り始める
これは、間違いなく媚薬の成分だ
恐らくは濃度の高すぎる媚薬が彼女の体内で分解しきれずに体液に漏れ出しているに違いない
そうなると肝の臓にも毒として働いてしまう可能性もある
さらにはウシオニの魔清の興奮作用が心の臓に負担をかけ、最悪命も危ない
「あ、あ あ あ あっ…。ら、らんなぁ？、あ、あぁあ、あっひ、もうらめれさぁ…」
ふらふらと、うずくまる様に倒れ込むと狸娘はピクピクと震えたまま動かなくなった
いや、恐らくは動けなくなってしまったに違いない
「まずい！」
私は動転する頭でどうにか彼女を救う方法を探す
精…精…
そうだ
「ま、待っていてください。今助けますから」
そう言って自分のズボンを脱ごうとしたとき、ふと理性が甦った
いくら緊急事態とはいえ、女性を相手にこんなことをしてしまってもいいのだろうか？
しかし
「あ、あぁ〜。こ、このにおひ〜…らんなぁ〜…！」
――ガバッ！
突然彼女が私の方に飛びかかってきた
「いつっ！…」
私は肩と頭を床に打ち付けてしまった
しかし、そんな私を余所に、彼女は尋常ではない様子で、私のズボンをずらすと
「あ、だ…だんなぁ、ふいやせんっ！」
「んあっ！？」
彼女は一心不乱に私のものをしゃぶり始める
私のそこは先ほどから嗅いでしまっている彼女の媚薬を含んだ体液の匂いですでに硬くなっていた
「ずじゅ…んむ…らんなぁ…じゅむ…ふいやへん…あむ…おいひぃ…んあぁ…がまんれきない…」
彼女の中でも理性と薬で暴走した本能が戦っているようだった
「ぐっ…んあ…わ、わたしは…ん…だいじょうぶですから…」
「らんなぁ〜…じゅむ…あむ…らんなぁ〜〜」
過剰に分泌された唾液でぬめる彼女の口が私を責めたてる
「らんなぁ…おいひぃ…ん…らんなぁ…〜〜」
――くちゅ
――じゅる…れろ
日が落ちて暗くなってきた店内に水音が響く
「う…うぐ…」
私は無意識に堪えようとするが、彼女の普段からよく回る舌が私を高みへと押し上げていく
「ああっ…すみません…すみません……」
「らんなぁ…らひてぇ…じゅず…らひてぇぇぇぇ！」
――じゅちゅ…ちゅうぅぅぅぅぅっ！
ぱちん と
何かがはじけたような気がした
「あぁぁぁぁぁっ！」
――ビュク
――ドクッドクッ
「んん〜！…んく…こく……んぐ…」
私の精をまるで寒露のようにおいしそうに飲み干す彼女
「……んく…ぷはぁ〜……」
彼女は自分の唾液すらも飲み干そうと私のものを深くまで飲み込んでから、口を離した
「んはぁ〜…おいひぃ〜……」
融けかけの雪だるまのように顔を緩ませた彼女はぐったりと放心した
「はぁ…はぁ。お、落ち着きましたか？」
私は息を整えながら彼女に聞く
しかし
「らんなぁ…。も、もうがまんできやせん！あっしをもらってくだせぇ！！」
「な、何をっ！？わぷっ！！？」
唇に触れたのは驚くほどに柔らかな感触
沈み込むほどに柔らかく、プルンとはじく様な
彼女の唇が私の唇に重なっていた
私の頭を抱きしめ、まるで離さないとでも言うようにしっかりと口づける彼女
媚薬の混じったほんのりと甘いにおいがする
「ん…」
目を開くと、彼女の瞳があった
薄暗闇の中で、ほんのりと夕日色に輝く金色の瞳
涙で溢れ深く透き通った湖の水面のように揺れていた
――ちゅ
一度唇が離れる
ずっと感じていた温かで柔らかな感触が不意に消え
言い知れない寂しさを感じた
「だんなぁ…。だんなぁっ！」
また目の前で揺れる瞳
まるで泣きそうな
しかし、嬉しそうな
そんな彼女が
またゆっくりと近づいてくる
私も ゆっくりと彼女に近づいていた
「んっ…」
今度は、少し先ほどよりも激しく
舌を絡ませあい
お互いの唾液を味わう
彼女の甘い唾液の味が私に広がる
彼女の誘惑に満ちた雫が喉を伝って落ちていく
――ドクン…ドクン
響き渡るような鼓動
――トクトクトク
触れ合う彼女から感じる興奮
――くちゅ
「ん？…」
彼女の手が私の手を彼女の濡れそぼったそこへと導いた
「……」
彼女の瞳が真剣なまなざしで私を見つめていた
しかし、その陰には物欲しい欲情が映りこんでいる
――こくん
私は小さく頷き、彼女のそこへ指を這わす
――くちゅ…くちっ
――にゅる にゅぷ
まるで私の指を飲み込むように彼女が蠢く
そんな底とは対照的な彼女の瞳はそれでも続けてほしいと訴える
「んっ…んむ…んんっ…」
唇の端から彼女の喘ぎが漏れる
私の指で感じている
それが、たまらなく愛おしく思える
私は彼女の中に何かを探すようにそこを弄った
「んむぅ…んん〜……」
彼女の声が私の口の中を震わせる
その声が徐々に切羽詰ったものへと変わっていく
そして
「んんんっ〜〜〜！」
――ぷしゅ
――ビクンッ
彼女の体が大きく跳ねた
――ちゅ…
彼女と唇が離れ
お互いの唇の間に密色の糸が伸びて
千切れた
「んはぁ〜。だんなぁ…。好き…。あっし…旦那の事…」
見たことのない
切なそうな彼女の表情
まるで幼い少女のようで
揺れて
「旦那ぁ…あっし、実はずっと前から…お慕いしておりやした…。もう我慢できないんですぁ！あっしを、あっしを…もらってくだせぇ……」
そう言って、細い身体で私に抱きよった
――トクントクントクン
熱い鼓動が
彼女の胸から伝播する
私はそっと、彼女を抱きしめた
その身体は細くて
柔らかく
力を入れれば折れてしまいそうだ
しかし、とても熱く
その中では力強く心が脈打っているのがわかった
「私で…いいんですか？」
いろいろなものが回りすぎた頭が考えた言葉はそれだった
しかし
彼女はそんな陳腐な言葉にさえ、まるで幼い少女のように微笑むと
「はい…はいっ！旦那しか…旦那しかいねぇんです。あっしは…旦那の事が…」
恋しかった
私は
もう一度彼女を抱き寄せ
背を屈めると
――ちゅ
その小さな唇に口づけた
「ん…だんなぁ……」
すぐに離れた唇に、彼女は寂しそうな表情を浮かべると
ゆっくりと立ちあがって
――ギィ…
揺り椅子に手を着いた
「だんなぁ、来てくだせぇ……」
頬をリンゴ色に染めながら、彼女は大きな尻尾を立てると、左手で自らの一番大事なところを広げて見せた
――くちゅ
薄紅色に色づき
ぷっくりと充血した美しいそこ
私は彼女の腰を抱き寄せると、ゆっくりと自分のものをあてがった
「いきますよ…」
「うん…だんなぁ……あのぉ…」
彼女は少しためらうように言う
「どうしました？」
「あのぉ……コクリって…呼んでくだせぇ…」
「……はい。コクリ」
――ちゅく…
柔らかな肉の感触
まるで沼に沈んでいくように飲み込まれていく
「んあぁ…」
――っち
たらりと
紅が垂れる
「痛くはないですか？コクリ」
「だいじょ…ぶ……。気持ちいいです…」
ふるふると震えながら
自分の唇に左手の甲をあてがい答えた
「入れます」
「はい…」
――じゅぶ
沈む
彼女の奥底へと
「んん〜！」
彼女がその細い背を反らす
肩にかかっていた着物がはらりと肌蹴る
目の前で大きな尻尾がピンと立ち上がって
――ちゅ
奥まで到達し
ふにゃりと尻尾から力が抜けた
「動きますね」
――こくん
彼女は小さく頷いて
私は腰を動かし始める
ゆっくりと
大きく
「ん…んむっ……」
その度に彼女の口から声が漏れる
いつもの明瞭な声ではない
可愛い、愛らしい声
――じゅ
――じゅむ
動きを速める
彼女の中が私を締め付ける
まるで私にせがむ様に
私を欲するように
「んはぁ…あぁ……あっ…」
彼女の声も大きくなっていく
お互いにお互いを感じあう
愛し合う
――じゅ ジュッ ずじゅ
激しくなっていく水音
私も掻き立てられるように腰を動かす
――ばさっ
――ばさ
目の前で大きく揺れ動く尻尾
「あぁん…んっ………んあぁ……」
彼女の愛しい声
私は恋しい彼女の尻尾を
――ぎゅ
掴んだ
――ビクン！
「んひゃぁぁ！！？」
――ビクビクっ
その瞬間私を彼女が猛烈に締め上げた
「うっ」
私は耐えられずに
――ごぷっ
吐き出した
――ドクドク
彼女の中に吐き出した想い
彼女は身体全体でそれを感じるようにビクビクと震えた
――ビクンビクン
未だに入ったままの私を彼女が小刻みに締め付ける
「はぁ…くっ……」
私は自分を引き抜く
とたん、彼女は力が抜けたように椅子へともたれかかった
「あぁ〜…あっひ……しあわせれふ〜……」
彼女のつぶやきのような声が聞こえた
その後、
私は何度か彼女に迫られるままに彼女を愛し
そして愛された
とても幸せな時間だった
気が付けば、とっぷりと夜は更け
私と彼女は調合房の脇に置かれたベッドに腰掛け、天窓から見える星空を眺めた
お互いにもう服は着ていない
ただ一枚の布を二人で羽織り
お互いの肩を寄せて眺めた
「旦那様ぁ…あっし。幸せです…」
「私もです…。コクリ」
私が微笑みかけると
彼女は一度微笑んで
そして少しうつむくと
「旦那様…あの…あっしと…あっしと一緒に暮らしちゃあ…もらえやせんか？」
そう言ってきた
「ほんとは…旦那様を脅して無理やりにでもあっしの所に来てもらおうと思ってやした…。でも、旦那様が悲しむ顔……。あっしは見たくなくて…」
「……そうですか…」
一度
店の中を見渡す
どれもが思い出深いものばかり
どれも手放すには惜しいものばかり
しかし…
「そうですねぇ……」
私は彼女を見て
そして決めた
「いいですよ」
「ホントでやすかっ！？」
ぱあっと
彼女が明るい笑顔を浮かべた
「でも、２つ、条件があります」
「条件？………」
「いらっしゃいませ」
私は客を迎え入れる
ここに店を移して以来、見違えるように客足は増えた
私の薬はよく効くと評判になり
街の外からも人が訪ねてくるようになった
これもすべては彼女のおかげだ
「ありがとうございました」
客を見送ると、私は二階に上がり
その古い揺り椅子に腰かけた
見渡す店内
かつてかぶっていた埃は取り払われ
見た目には明らかにきれいになった
しかし、置かれている物は
古い調合台
擦り切れた手すり
古ぼけた薬棚
どれもが思い出の品ばかり
そう
私は彼女に頼んで、店を丸ごと移動してもらった
大勢の大工が家財を運びだし
店を一度解体すると、商店街の中にまったく同じように組み立て直したのだ
私は改めて彼女の力の大きさに驚いた
正直、不可能なことだと思っていたからだ
そう
私はあの時、条件を出した
一つは「私はこの店でしか商売はしない」
つまり、私は暮らすのは彼女と共にするが、昼間はあの場所で店を構えるつもりでいたのだ
それが、まさかこんな方法で店ごと持って行かれてしまうとは…
彼女の頭の回転には未だに舌を巻くことばかりだ
さて、
もう一つの条件は
「いらっしゃいませぇ〜。腕は一流、店は二流。看板娘は超一流！頭痛腰痛、風邪脚気、体の悩みに恋の病。なんでもござれの万能薬！お悩みあるなら誰でも来ませい。さぁ、よってらっしゃい見てらっしゃい！」
店の外から明瞭で快活、呑気で陽気な声が聞こえる
最愛の妻、コクリの声が
「ふぅ…。旦那様ぁ。もうじきお昼でやすぜぇ。ちょいとここらで一休みといきやしょうかい」
「ええ。そうですね」
トコトコと
彼女が飛び跳ねるように階段を上がってくる
そして
――ぽす
揺り椅子に座った私の上に彼女が腰かけ、もたれかかる
「はぁ〜。旦那様の匂い…」
「ふふ。なんですか。突然」
「いいや。あっしには、これが一番の薬だと思いやしてね」
そう言って、くるりと振り向くと
彼女は私に口づけた
「お慕いしてやす…旦那様ぁ…」
その笑顔が
それが私の疲れを癒す、何よりの薬だった
サナギとコクリ
12/07/16 09:30更新 / ひつじ