連載小説
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第十一話 戦いの勝者

………………

…………




私の足元で痙攣を続ける少女
その顔は幸せに包まれている
私の胸の中も幸せそのものだ
愛しい人を悦ばせる
共に果てる
全てが全て心地いい

しかし

私の心の深いところからそいつが顔を出す

「わかってるよ…」

私は
どこまで行っても私なのだ

――しゅる

私は髪ひもを解き、呪を唱える
そして、それを姫の首に括りつけた



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



儂はエントランスから携帯式の魔導通信機を使って城の外の魔女たちと連絡を取っておった
援軍に駆け付けた兵はおよそ5000
最早完全にこちらに利は無かった

「『ルリアか!? 城門前の兵たちはどうしておる!?』」
『はい。九尾の妖狐、ユイファ様が広範囲の幻術で敵軍の多数を無力化してくださってます。ですが、数が多くて長くは持ちそうにありません!』
「『分かったのじゃ!今すぐにそちらへ向かうのじゃ!お主らは何とか退路を開けよ!』」

儂は急ぎ室内へ戻ろうとした

『は、はい!どぉかご無事で…     
 …………おらぁ!てめぇら!バフォメット様が帰ってくるぞぉ!意地でも道を開きやがれ!オラオラオラァ!!男ども退きやがれぇ!尻に風穴開けられてぇのか?あぁん!?』

………………
………

え?
What?
い、いや
儂は何も聞いておらんのじゃ
なんかかわいいロリ魔女が突然ロア○プラの歩く死人みたくなった気がするが、きっと気のせいなのじゃ
だってそんな…
ロリっ子魔女が『尻に風穴』って…

『おらぁ!ぼぉっと突っ立ってんじゃねぇぞ!あの男がタイプ?ファァァァァック!!知るかボケビッチ!てめぇの脳みそはミルクでたぷんたぷんか?あぁん?いいからさっさと男どもをぶっ殺してこいや!オラァ!邪魔だファッキンデブ!男は嫌いなんだよ!吐き気がするぜ。あたしのバフォメット様に傷の一つでも付けてみやがれ!貴様らの空っぽのドタマに鉛玉ぶち込んでカラカラ音鳴らしてやんよ!』

……………………

あ、あ…
あわわわわわ〜
聞こえな〜い なのじゃ
いや、だってこれ…
え、嘘?…
そ、そうじゃ
きっと人違いなのじゃ
誰か別の、そう。ちょっとロリ声のミノタウロスとかの声が偶然入っておるだけなのじゃ

「『あ、あのぉ〜…ルリア…様? じゃ…ないですよね? あの…大変申し上げにくいのじゃが…まだこれ、マイク入ってますよ?』」
『あぁん?あ………………きゃ、きゃる〜ん♪てへっ☆何か聞こえましたぁ?』
「『あ、いえ、ごめんなさい』」
『…………ちっくしょぉぉぉぉぉおお!!こうなりゃヤケだ!てめぇらまとめてぶっ殺してやるぁぁぁぁぁぁぁ!!』

――ぶち
――ツーツーツー

………
ど、どうしよう…これ…
い、いや
儂は何も聞いていないのじゃ
百合っ子妹系魔女と思ってたルリアが実は酒と金と暴力で成り立ってる街の住人だったなんて全然知らないのじゃ
知ってたとしてもたった今忘れたのじゃ
いかんのう
歳は取りたくないものじゃな ふぉ…ふぉ……
……………
って、
あんなインパクトでかい記憶流石に忘れられないのじゃ!
交通事故で頭打っても
頭の中の消しゴム使っても絶対に落ちないのじゃ…
ちょ、誰か、MIBのあのピカって光る奴貸して!
きっとあれでピカってやれば消えるのじゃ!
って、この世界には宇宙人も渋いおっさんとイケメン黒人のコンビもいないのじゃったぁぁぁ!
あぁ…もう…
次からあやつにどう接していいのか全く分からんのじゃ…
ああ。もうなにこれ?
ピンチとか撤退とかもうどうでもよくなるくらいショックがでかいんじゃが?


「一人で百面相とは、何とも楽しそうで安心したぞ、バフォメット殿」
「ん?」

背後から見知らぬ声の見知った口調が話しかけてきたのじゃ

「……あれ?もしかしてシェルクなのか?」
「いいや。私はバフォメットだ“なのじゃ”。ふぉふぉ」

バフォメットだと名乗る黒いバフォメットが意地の悪い笑みを浮かべてワザとらしく笑った
間違いなくシェルクらしいのう
っつか、

「これっ!儂の真似をするでないのじゃ!」
「マネなどしていないぞなのじゃ!」
「してるのじゃ!やめるのじゃ!」
「そっちこそ私の真似をするななのじゃ」
「マネなどしておらんのじゃ!」
「頭の先から尻尾の先まで真似をしているではないかなのじゃ」
「そっちは角の形も違うし毛皮も黒いのじゃ!どう見てもお主が偽物なのじゃ!」
「ならばそっちは変なところにあほ毛はあるし、毛皮も私と違って茶色いではないかなのじゃ。そっちが偽物ではないかなのじゃ」
「魔物図鑑に載っておるのは儂なのじゃ!そっちは載ってない上に後からバフォメットになったのじゃから真似しておるのはそっちなのじゃ!」
「どっちもバフォメットじゃ紛らわしいななのじゃ。私はシェルクだなのじゃ。そっちも名を名乗れなのじゃ」
「なっ!?い、いきなりじゃのう…。わ、儂は……」

突然のムチャ振りだったのじゃ
いくら“強敵”と書いて“とも”と呼ぶような相手だとしても、昨日今日出会ったものに儂の名を教えるなぞ…

「……そうじゃのう。またそのうち教えるのじゃ。儂の事は「バフォ様」とでも呼べばいいのじゃ」
「ほほぅ。それではバフォ様。どうだろうか?私の新しい姿は」
「うむ。申し分なくロリロリなのじゃ。しかし流石じゃのう」
「ん?そうだろう?私の方が貴様よりかわいいであろう?この黒髪に白い肌、そしてこの赤い瞳など、なかなか怪しげで愛らしいではないか。ふふふ。我ながらナイスロリ!
「何を言うか。儂の方がかわいいに決まっておるのじゃ!…って、そうじゃないのじゃ!」
「ん?」
「人間がバフォメットになるなぞ、ほとんど聞いたことがないのじゃ。まぁ、しかしお主のあの力、そしてあの統率力。そして何よりも…」

儂はこやつに初めてであった時の事を思い出した

『……(ジュルリ)。いや、すまない。貴女があまりにも愛らしいのでつい見蕩れてしまった』

………
何故じゃろう…
こやつからは同じにおいがしたのじゃ…
それにあのルティという魔女、もとい少年を気に入って傍に置いておるあたり…

「お主はなるべくしてバフォメットとなったのかもしれんのう」
「ふふ。私も驚きはしたが、同時に納得してしまった」
「ふぉふぉ。どうじゃ?儂らの仲間入りを果たした感想は?」
ほぼ、イキかけました!!(悦) サーセンww(ジュルリ)」
「ふぉふぉ。お主も好き者よのう…」
「いえいえ。バフォ様には敵いませんよ」

「「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっ…」」



「と、おお。そうじゃった。お主、クリステアはどうしておるのじゃ?」
「クリステア?」
「おお。そう言えばお主はまだ奴の名を知らんかったのじゃな。あやつじゃよ。あのわがままツンデレの…」
「ああ。あのお姫さまか。それならば、ほれ、そこで…」

シェルクが顔を向けた先では

「…えへへ…あはぁ……ろりろりぃ〜…あらひのろりぃ〜〜」

クリステアがぐったりと倒れておった

「お、お主…あれ、何をどうしたのじゃ?リリムがえっちしてぶっ倒れるなぞ聞いたことがないのじゃが…」
「ヒヅメでぐりぐりしてキバでかじかじしたら…ちょっとな…」
「ヒヅメでぐりぐり、キバでかじかじ…じゃと?…」

な、なんと…
それはまさかバフォメット族の48の奥義の一つ蹄踏咬牙(ていとうこうが)では…
なんというやつじゃ…
元人間の娘が、それもついさっき魔物化したばかりの娘がバフォ族の奥義を使いこなすとは…
シェルク、やはり恐ろしい娘っ!
っと…
そんな事をしている場合でもなかったのじゃ

「お主、済まぬが儂らはもう行かねばならぬ。お主は倒せたが、未だ戦争は終わっておらぬからのう。娘子を起こすのじゃ」
「…………」

儂がクリステアの方に歩き出す
しかし、奴は俯いたまま、突然黙り込んだ

「すまぬな、バフォ様」
「ん?何がじゃ?」

トーンの低い奴の声
そして

――ピリピリ

飛んでくる殺気

「……なんじゃお主?もう勝負はついたはずじゃろう?魔物となったお主にはもう勇者の力はない。結界が解けたのならば儂らが大人しくここにとどまる理由もないのじゃ」
「ふふ。そのようだな。残念だ。しかしバフォ様よ。勇者の力がなくとも聖剣は持ち主の魔力に応じて発動される。いくら魔物となった私でも、大元の魔力そのものが変質したわけではない」
「……その距離からではお主の神速の抜刀術も届きはしない。お主が走り出せばそれよりも先に儂はテレポートでこの娘を抱えて兵たちの元へ帰ることなど容易いことじゃ。諦めよ。お主の負けじゃ」

拾い上げた聖剣を腰に携え
人間などではその視線だけで気を失うほどの闘気を放つ魔物
魔物となってもまだ、これほどの“人間”を残していようとは
なんという信念、いや、なんとういう未練じゃ…

「バフォ様」
「なんじゃ?つか、ずいぶん律儀にそう呼んでくれるのじゃな」
「ああ。貴女がそう呼んでも良いと言ってくれたのでな」
「ふぉふぉ。かわいい奴じゃのう」
「そんな可愛い私から質問なのだが」
「なんじゃ?」
「魔物と人間の違いとはなんだと思う?」
「ふん。そんな事を尋ねてどうするのじゃ?」
「いや。これは重要なことだ」
「ふむ。そうじゃのう。儂が思うに、“何も変わりはしない”じゃな」
「ほぉ…」
「人間と言えど、ひとたびその殻を破れば魔物とは何も変わらぬ。人を想い、大切なもののために生きる。それは何も変わらんのじゃ」
「そうか。それを聞いて安心した」

ふっと
奴の殺気が消える
儂も張っていた気を緩める


――パリ…

「しかしな。私の考えは違う」


「なっ!?」
「朔夜紫電流、聖剣紫電限定奥義!―剣聖雷鳥

――バチィ!

すさまじい電音が聞こえ
奴の腰の聖剣の刀身が消えておった

――ドッ!

鈍い音がした
まるで見えなかったのじゃ

――カラン

足元に青白い透き通った刀身の聖剣が転がる

「がは……」

腹部に強烈な衝撃を受ける
儂の口から体中の空気が抜けたように感じた
そして、一気に視界がぼやけ、意識が遠のいていく

「人間と魔物の違い。それは『“自分”を殺し、生きられるかどうか』だ…。おやすみ、小さな主様…」

――カツン、カツン

奴のヒヅメの足音が近づいてくる
しかし、儂はそこで意識を失った…




12/07/09 00:26更新 / ひつじ
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■作者メッセージ
ギャグからの急転直下
不意打ちに定評のあるシェルクさんです
おかげでせっかくのバフォ様の回もこの後しばらく…もしかしたら最後かもしれませんw

限定奥義、剣聖雷鳥
はい、ネーミングは刀語の変態刀をオマージュしました
以前聖剣紫電を「聖剣と言う名のレールガン」と言いましたが、まさにこの技はレールガンです
紫電に極大量の魔力を流すことで巨大なローレンツ力で刀身を打ち出します。
え?反りのある日本刀がまっすぐ飛ぶわけない?……
曲げて当てればいいじゃない!!
さて、初めて描写された紫電の刀身ですが、純粋な金属ではなく、特殊な鉱石とレアメタルの合金です。しかも多層構造になっていて、柄から送られた魔力を電流に変換し、刀身の超伝導コイルで強力な磁気を発するしくみです。
見た目は青白いクリスタル状で、すぐ折れそうですが、その多層の構造と、表面の超高硬度素材により、非常に折れにくく曲がりにくいです。
鞘の方は白地に洋装の装飾が施されていて、内部は刀身と同じような感じです。この鞘と刀身を反発、誘引させることで、神速の抜刀と納刀が行えるわけですね。
はい。中ニも真っ青な黒歴史設定集でした。

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