連載小説
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山羊娘とお巡りさん
──踏み切った。そして、呆気なく首筋に命中した。
人の急所である。もしオレが魔物でなく、ただの獣だったらこのおっさんは死んでいた。

「っ、」
「ま、人と魔物……所詮、んな、もんだろ……!」
「嘘つけ!!!」

明らかに舐められていた。『それなりの誘いをしてみろ』なんて挑発を受けたものだから自分の持ちうる全ての力を持って及んだのだ。さっきのからかい程度のジャブとは比にならない。これならこいつだって避けきれないだろう。そう確信していた、筈だ。
だって、だってオレが狙ったのは右肩だったのだ。それをおっさんは身を動かしてわざと首に当たるように仕向けたのである。ここまでの芸当が可能なら避けることだってできただろうに。
相当に、それこそムカつくくらいにオレが甘んじてはいけない態度を向けられていた。見た目が子供だからか? それとも本当にオレの技量がなってないだけか?

「侮辱すんなよ、おっさん」
「……何でェ。お前さんは相手が手に入って嬉しいだろうが」
「ふざけんな! こんな卑怯者得て誰が嬉しいもんか!」
「は、はっ、どうとでも罵ればいいさ」

皮肉らしい笑いとともに、男はオレを抱き上げた。不意のことで容易く身体が持ち上がる。
そういえば、首から叩きつけられた魔力。だいぶきついだろうにオレをだっこできるだけの力が何処に込められるんだろう。
小憎らしいほど愛おしさが増している。それは否めない事実だった。内心歯ぎしりしながら温い体温に仕方なくそれを紛らわせていると、すぐ近くで声がした。

『側で魔物の魔力反応があるぞ! くそっ自警団の連中、何をしているんだ!』
「……今、教団騎士の連中の声がしたな」
「ああ。西に二十歩、南に十歩」
「おい、かなり近いぞ。お望み通り俺の家へ連れてってやるか」
「ちょっ、まっ……!」

待て! と叫ぶ間もなく些か乱暴な担がれ方で(ミツが俵抱きと呼んでいた。ちなみにお米様抱っことも言うらしい)のっさのっさと揺られる。尻を触られた気がした時には既に建物の中に入っていた。

「うわわわっ! っ!」

どんっ、ぼすっ。感覚が落下の衝撃をキャッチする。
いってえ! と叫ぶ必要はなかった。ちょっと固いけど、おっさんは柔らかいベッドの上に落としてくれた。そう。ベッドの上。ヒトの番が交合う巣穴。
期待に胸が弾む。弾んではじけて、中の熱いものがぶしゃっと吹き出る。

「抱いてくれるのか? このまま寝かしつけるか?」

ふかふかの毛布の端を掴んで問いかけた。正直初夜はもっとロマンチックなのが良かったなあ、とは思う。
お互いに認めあって、賞賛してこの人こそがオレの兄貴になる人だと心の底から実感して……。

そこから先を思考することはなかった。
荒々しい吐息と同時におっさんがお目当てを取り出したからだ。
不意打ちも同然に鼻腔いっぱい吸い込んだ雄の匂いがどうしようもなくプライドを張り倒した挙句、雌の本能を揺すり起こして脳みそをスライムの如く蕩けさせる。
空腹の獣が餌を目の前に待てなんてできようか?

「はむっ♡んん……じゅる♡じゅるるっ♡ 」
「……ぐっ!」

堪らず身体を起こして食らいついて、口いっぱいに含んでそれでも入らないくらい大きいちんぽに自ずと湧き出る涎を絡めながら射精を促した。
男がバランスを崩してベッドに右手を着いた。
左手はイくことを堪えるように性器の根元を掴んでいる。ただ、掴む力が快楽によって上手く出ないらしい。
耐えなくていいんだぞ? すぐに出してくれよ、いっぱい。全部美味しいって言ってあげるから。

「はぁ……あ、んぐ……ううっ!」

びゅく。びゅく。
口いっぱいに精の味が広がった。
美味しい。生まれてから今まで食したどんな食べ物よりも。
口でこうなのだから、これをお腹の中に注がれたらいったいどんなに美味なのだろう。とろりと蕩けた意識の中で、文字通りの空腹に駆り立てられる。はやく、はやくと本能に急かされて名残惜しいけれど口を離した。
ふか、と逞しい体幹の上に手を置いた。首筋を伝い、おっさんの顔を見やるも腕に隠されて食いしばる口元しか見えない。
どこまで一筋縄で行かない野郎なんだ。死にかけのウサギがそれでも逃げようとするような。そんないじらしさを感じずにはいられない。

「おっさん、顔。なあ、見せて」

腕を掴んで退けようとすると弱々しい抵抗でもって返される。難なく動かしてやると、諦めたような伏せ目が現れた。厳ついながらもどこか悲しげで、厭世的なその顔つきは、人が短い生の中で一生懸命に積み上げた経験というものを感じさせる。
どれだけ舐められても、やっぱりオレは。
気づいたら目の下に軽いキスをしていた。

「──ベル」
「……?」
「ベル・ゴートソン。俺の名前だ。お前がおっさん呼ばわりするのは勝手だが名前を知らんというのも座りが悪いんでな」
「ふうん」

ベル、と聞こえないように口の中でその名を呼んだ。いいんじゃねえの。ありふれてこそいるけれど、呼びやすくて程よい重みがある。まあ、今の今で呼んでやる気はないけれど。
魔力を繰っておっさんの両腕を頭上に持っていく。そのままシーツに押し付けて固定してやった。物理でもやれるけど身長差的に不自由なので、自分が魔法に長けた種族であることに感謝する。

「ご丁寧に自己紹介ありがとな。それじゃあ──自分が魔物の餌食になるところ、しっかり目に焼き付けろ」

ぬる、とエラの張り出したちんぽを掴み、しゃがみ込んだ足の間に押し当てた。
目を合わせて、その視線の全てを捕らえて一気に腰を下ろす。少しの痛みと共に感じたことの無い多幸感が頭の中を塗りつぶした。
瞬間、びゅるるると精液が噴き出される。二度とは思えないほど長く量もあって、思わずバランスを崩しそうになった。

「んっ──ふぅ、はぁ♡ どうだおっさん♡ 魔物とはいえ、仮にも大の大人がチビにいいようにされて無様に精液ぶちまけた感想は♡ 最高だろ?」
「っぐ、ああ。流石、気ぐらいの高ぇ山羊なだけはあるな。最高だよ。男を見る目以外は」
「お前な……」

この期に及んでまだ、といういらつきが腰の動きを大胆にしていく。強いのか弱いのかもわからせないくせに己を卑下する才能は嫌に優れていると、そんな悲しいことだけをこれでもかと伝えてくる。
それは、オレが選んでやったんだって。オレがバフォメットだってこと、オレに選ばれた、素振りを見ていたらその意味をベルが知らないってわけはないだろう。それを抜きにしたって、誰かに愛を向けられたという事実さえこいつには届かなかったのだろうか。
ふらり、と倒れ込んで唇を重ねようとした。けれどどれだけ頑張っても繋がったままキスをすることは叶わなくて、案外に上手くいかないこの体格差がもどかしく感じられてしまう。
代わりに手を伸ばした。何時だったか、みつ達と戯れで触り合った感触より幾らか硬めな唇を指できゅっと摘んで、押して、口の中に侵入させる。

「んぐ、っ、ふぅ……」

指先で口蓋をくすぐり、そこから染み出した魔力を塗り付け含ませていった。
粘膜同士による柔らかい魔力交歓には及ばないけれど、代わりには十分なるだろう。証拠を突きつけるようにお腹の中の質量がぐんと増した。戯れはここまででいい。

「せめて、後悔しろよっ……♡」
「っで……勝手に、っぐぅ!!」

ずちゅずちゅと腰を上下させて、柔らかい膣肉とたっぷりの愛液でもって扱き抜く。過ぎるくらい大きな性器でも魔物の身をもってすれば容易く、少なくとも問題なく満足させられてしまう。狭い穴の中で、腹側の骨が肉越しにごりごりと擦れてしまう感覚さえたまらない快楽だった。
ぐちっ、とキツく締めて、張り出した筋や太い血管、細かな皺のひとつひとつに至るまでの感触を自分の中に覚え込ませる。忘れない為じゃない。これからもっと良くしてやる為だ。
そして、今のオレが気持ちよくなる為でもあった。
実際、気持ちよくなっているのかといえば……正直やばい。入れる時には勢いよく子宮を押し上げられる。抜く時はぞくぞくとした快楽が走る。何度も小さな気持ちいいを重ねていって、それが次第に大きな波になって襲ってくるのだ。

「はぁ、ああ、これすきっ、ん、んっ♡」
「っ──……ふ、うっ……」

やがて、くん、と甘い痺れが全身を弾いた。ほとんど同時にあの甘美な味を下腹部に感じた。無防備にも喉笛が仰け反る。口の端から含みきれなかった涎が溢れ落ちた。

「はぁ、はあっ、ん……ううぅ……♡」

頭のてっぺんまで幸せに浸かっていた時だった。
ベルが左脚を曲げた。身体を動かせるだけの気力があったのかと少しばかり驚く。
くぽ、と脚の間で液体の鳴る音がした。
何を思ったか、自分でも分からない。気づいたらオレは彼から身体を離していた。

「……今晩はこれだけで勘弁な」

そんなの、自分が一番嫌なはずだった。こんな素敵なことを、まだ続けられるのに一回でやめるなんて。普段のオレなら断固拒否することだろう。
ただ──なんだか、この男がオレのお相手になるのは確定事項だけれど、同時にこの一晩で何も進みはしないと思ったのかもしれない。
押してだめなら引いてみろ。これは武道にもいえる。ひたすら攻め続けるやり方もあるにはあるけれど、下手にやればやがてはどん詰まりに行きあたる。
今どれだけおっさんに全てを伝えようとしたとして、逆に全部こぼれ落ちてしまうような。そんな。
 だから──かはわからないけれど多分そんな理由で、オレは最後にひとつ深めのキスをした。好きなのは変わらないからな。せめて。
ベルは何も言わなかった。それでも普通の人間より遥かに体力が有り余っているように見受けられた。予想はつくけれど、経緯まではわからない。

「また来るよ。……オレのベルさん」

さて。こいつの家の場所でも頭に入れるか。ベッド脇の窓から飛び出したオレは、昼間の様相を思い浮かべながら歩き始めた。
20/10/12 18:13更新 / へびねおじむ
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■作者メッセージ
お久しぶりです。へびねおじむです。
武道サバトのお話を更新させていただきました。

本当はもっとケンカップル! という感じを出したかったのですが、レイリさんが結構べたぼれみたいな感じになってしまいましたね……。

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