傷だらけのファミリア
「誰か回復魔法を使える者はおらんか!?」
扉を開けると同時に城全体に聴こえる様に叫んだ。
魔物娘達は何事かと一斉にこちらを振り向いたが、わしの背中に背負われているファミリアを見て、すぐに魔女の医者を連れて来てくれた。
「バフォ様!その娘をこちらの部屋に!」
「頼むぞ!」
彼の腕を切り落とした凶器は、神か天使の加護があるせいで傷の再生を妨げ、それどころか徐々にその命を蝕んでいる。
あとはもう医者達に任せるしかない。
アレックス視点
ここは......?
再び目を覚まして見えたのは、先程の月明かりの照らす森ではなく見覚えの無い部屋の天井だった。
「バフォ様!目覚めましたよ!」
「本当か!?」
側に居たらしい女の子が誰かを読んだ。どちらも声は幼い。
どうやら彼女達に助けられたらしい。礼をしようと二人がいる場所を向くと、其処には全く予想してない人物が立っていた。
バフォメットと魔女。どちらも人間の中ではかなり有名な魔物だ。
「気分はどうじゃ?何処か、痛い所はないか?」
「の......ど」
「喉!?喉が痛いのか!?」
「ちが......水を」
色々と聞きたい事はあるが、こうも喉が渇いてはまともに話す事が出来ない。魔女が持ってきてくれた水をゆっくり飲み干した。
「えっと、助けてくれてありがとう。それと何で魔物の君達が俺を?」
魔物と人間は敵対している。彼等は俺達人間を襲い、その肉を喰う恐ろしい連中の筈だ。そんな魔物が人間である俺を助けるなんて......。
「警戒しているようじゃが、わしらはお主をとって食ったりはせんよ」
「信用出来ると思うか?」
「少なくとも、食事的な意味ではお前は襲わない」
「どういう意味だ?」
「いや、そのまんまの意味なんじゃがのう」と言うバフォメット。隙を見せた彼女にチャンスと思って咄嗟に剣を抜こうとした。
___そこで、俺は森であった出来事を思い出した。
「あ、あ......あ」
「ちょ、どうした!大丈夫か!?」
そうだ、エヴェルが俺を裏切った。王様が、国の皆が俺の事を......。
いや、違う。裏切ったのは俺だ。魔物達に味方した俺だオレだおれだおれだおれだおれだおれだ、あ、ああ......!
「落ち着け!傷が開くぞ!」
「ウアアアアッ!!!」
こいつも!こいつらも!俺を、俺の事を!だったらお前らの腕も切り落としてやる!足も腹も首も全てバラバラに切り刻んでやる!
「くっ、すまん!」
「!?......あっ」
首に走った衝撃で、目の前の景色は再び暗転した。
___俺はもう、誰も守れないのか?最後に心の中で誰かに問いかけたが、答えは帰って来なかった。
バフォメット視点
気を失わせたのはいいが、酷くうなされており、顔色も悪い。
わしらが着く迄にいったい何があったのだろうか?ただ事ではないのは確かなのじゃが。
それに、あの様子じゃと恐らく自分の姿が変わっている事にも気付いていないじゃろう。起きたらまたパニックになるかもしれない。
「いったい何があったんでしょうかね?」
魔女が心配そうに彼女の顔を覗く。黒い髪に獣の耳と尻尾。とても愛らしいファミリアだが、肩から先が無い右腕の痛々しい傷が、それを妨げてしまう。
「起きたらどうします?とりあえず気持ち良くしてみますか?」
それも良いかもしれないが、恐らくそれだけでは彼女の心の傷を癒すのは難しいだろう。まずは何があったのか聞いてみないと、どう対処すれば良いか解らない。
しかし、どう聞けば良い?不用意に尋ねたら彼女を傷付けてしまう可能性がある。
「何故、殺さないんだ?」
「む?」
いつの間にか目が覚めていたらしい。彼女は変わり果てた自分の体を見ていた。
「すまんな、お主を助けるにはその姿にするしかなかったんじゃよ」
「俺が......魔物に?」
「やはり怖いか?自分が人外の存在になってしまったのは」
「いや、それよりも色々ありすぎて少し衝撃が薄れてしまっているんだがな」
苦笑いをしながら自分の体をみる彼女はいまだにわしらの事を警戒している様で、時々睨んで来る。
「とりあえず自己紹介じゃな。わしは見ての通りバフォメットじゃ。親しい者からはバフォ様と呼ばれておる」
「......アレックス」
名前は教えてくれたが、素性や森で何があったとかは話してくれなかった。
聞くたびに顔を伏せてしまう。
しかし、それを知らない限りは彼女はずっとこのままだろう。わしの偽善による勝手な判断だが......。
「とりあえず、立てるか?」
「え?まぁ、大丈夫だ」
ゆっくりと立ち上がるアレックス。足はもう大丈夫らしい。
「腹は減ってるか?」
「......そこそこ」
「よし、それではまず腹拵えじゃな。食堂はこっちじゃ」
魔物娘の主な食事は人間の精だが、まだ慣れてない彼女には普通の食事の方が良いだろう。
「毒は......無いみたいだな」
サンドイッチを持ってその中身をまじまじと見るアレックス。中々警戒は解けない。
「ん、美味しい」
「そうじゃろ?元コックのインキュバスが作ったんじゃが、流石にプロの料理人の腕は格別じゃな」
少し前に勧誘した彼はかなり有名な料理人であり、精液が主食の魔物娘達ですら、たまに食べる程好評じゃ。
アレックスも美味しそうに食べている。
しかし、途中でまた表情を曇らせてしまった。
「俺、こんな事してても良いのかな?俺なんかがこんな美味しいものを食べても」
「......お主に何があったのかは知らないが、食事をしてはならない理由は無い。今は落ち着くまでのんびりしてると良い」
「そうか......ありがとう」
静かに笑うアレックスだが、恐らくそれは作り笑いじゃろう。その表情を見ると、彼女自身の本当の笑顔が見たくなって来る。
「魔物も、こういう食事を食べるんだな」
「ん?まぁ、基本的には違うがな」
食べ掛けのサンドイッチを見詰める彼女を見て、わしは誓った。
絶対に、アレックスを笑顔にしてみせると。
「じゃあ、普段は何を食べているんだ?」
そんな事を考えていると、サンドイッチを見詰めていたアレックスが質問をしてきた。
「勿論、人間の精液じゃよ」
それを聞いた彼女は怪訝な顔になった。
まぁ、人間達の間では、わしら魔物は人間の肉を喰う恐ろしい存在と言われおるし、混乱するのも無理はないじゃろう。
しかし、アレックスの次の台詞はわしが全く持って予想していなかった言葉だった。
「......精液って、何だ?」
なん......じゃと......!?
扉を開けると同時に城全体に聴こえる様に叫んだ。
魔物娘達は何事かと一斉にこちらを振り向いたが、わしの背中に背負われているファミリアを見て、すぐに魔女の医者を連れて来てくれた。
「バフォ様!その娘をこちらの部屋に!」
「頼むぞ!」
彼の腕を切り落とした凶器は、神か天使の加護があるせいで傷の再生を妨げ、それどころか徐々にその命を蝕んでいる。
あとはもう医者達に任せるしかない。
アレックス視点
ここは......?
再び目を覚まして見えたのは、先程の月明かりの照らす森ではなく見覚えの無い部屋の天井だった。
「バフォ様!目覚めましたよ!」
「本当か!?」
側に居たらしい女の子が誰かを読んだ。どちらも声は幼い。
どうやら彼女達に助けられたらしい。礼をしようと二人がいる場所を向くと、其処には全く予想してない人物が立っていた。
バフォメットと魔女。どちらも人間の中ではかなり有名な魔物だ。
「気分はどうじゃ?何処か、痛い所はないか?」
「の......ど」
「喉!?喉が痛いのか!?」
「ちが......水を」
色々と聞きたい事はあるが、こうも喉が渇いてはまともに話す事が出来ない。魔女が持ってきてくれた水をゆっくり飲み干した。
「えっと、助けてくれてありがとう。それと何で魔物の君達が俺を?」
魔物と人間は敵対している。彼等は俺達人間を襲い、その肉を喰う恐ろしい連中の筈だ。そんな魔物が人間である俺を助けるなんて......。
「警戒しているようじゃが、わしらはお主をとって食ったりはせんよ」
「信用出来ると思うか?」
「少なくとも、食事的な意味ではお前は襲わない」
「どういう意味だ?」
「いや、そのまんまの意味なんじゃがのう」と言うバフォメット。隙を見せた彼女にチャンスと思って咄嗟に剣を抜こうとした。
___そこで、俺は森であった出来事を思い出した。
「あ、あ......あ」
「ちょ、どうした!大丈夫か!?」
そうだ、エヴェルが俺を裏切った。王様が、国の皆が俺の事を......。
いや、違う。裏切ったのは俺だ。魔物達に味方した俺だオレだおれだおれだおれだおれだおれだ、あ、ああ......!
「落ち着け!傷が開くぞ!」
「ウアアアアッ!!!」
こいつも!こいつらも!俺を、俺の事を!だったらお前らの腕も切り落としてやる!足も腹も首も全てバラバラに切り刻んでやる!
「くっ、すまん!」
「!?......あっ」
首に走った衝撃で、目の前の景色は再び暗転した。
___俺はもう、誰も守れないのか?最後に心の中で誰かに問いかけたが、答えは帰って来なかった。
バフォメット視点
気を失わせたのはいいが、酷くうなされており、顔色も悪い。
わしらが着く迄にいったい何があったのだろうか?ただ事ではないのは確かなのじゃが。
それに、あの様子じゃと恐らく自分の姿が変わっている事にも気付いていないじゃろう。起きたらまたパニックになるかもしれない。
「いったい何があったんでしょうかね?」
魔女が心配そうに彼女の顔を覗く。黒い髪に獣の耳と尻尾。とても愛らしいファミリアだが、肩から先が無い右腕の痛々しい傷が、それを妨げてしまう。
「起きたらどうします?とりあえず気持ち良くしてみますか?」
それも良いかもしれないが、恐らくそれだけでは彼女の心の傷を癒すのは難しいだろう。まずは何があったのか聞いてみないと、どう対処すれば良いか解らない。
しかし、どう聞けば良い?不用意に尋ねたら彼女を傷付けてしまう可能性がある。
「何故、殺さないんだ?」
「む?」
いつの間にか目が覚めていたらしい。彼女は変わり果てた自分の体を見ていた。
「すまんな、お主を助けるにはその姿にするしかなかったんじゃよ」
「俺が......魔物に?」
「やはり怖いか?自分が人外の存在になってしまったのは」
「いや、それよりも色々ありすぎて少し衝撃が薄れてしまっているんだがな」
苦笑いをしながら自分の体をみる彼女はいまだにわしらの事を警戒している様で、時々睨んで来る。
「とりあえず自己紹介じゃな。わしは見ての通りバフォメットじゃ。親しい者からはバフォ様と呼ばれておる」
「......アレックス」
名前は教えてくれたが、素性や森で何があったとかは話してくれなかった。
聞くたびに顔を伏せてしまう。
しかし、それを知らない限りは彼女はずっとこのままだろう。わしの偽善による勝手な判断だが......。
「とりあえず、立てるか?」
「え?まぁ、大丈夫だ」
ゆっくりと立ち上がるアレックス。足はもう大丈夫らしい。
「腹は減ってるか?」
「......そこそこ」
「よし、それではまず腹拵えじゃな。食堂はこっちじゃ」
魔物娘の主な食事は人間の精だが、まだ慣れてない彼女には普通の食事の方が良いだろう。
「毒は......無いみたいだな」
サンドイッチを持ってその中身をまじまじと見るアレックス。中々警戒は解けない。
「ん、美味しい」
「そうじゃろ?元コックのインキュバスが作ったんじゃが、流石にプロの料理人の腕は格別じゃな」
少し前に勧誘した彼はかなり有名な料理人であり、精液が主食の魔物娘達ですら、たまに食べる程好評じゃ。
アレックスも美味しそうに食べている。
しかし、途中でまた表情を曇らせてしまった。
「俺、こんな事してても良いのかな?俺なんかがこんな美味しいものを食べても」
「......お主に何があったのかは知らないが、食事をしてはならない理由は無い。今は落ち着くまでのんびりしてると良い」
「そうか......ありがとう」
静かに笑うアレックスだが、恐らくそれは作り笑いじゃろう。その表情を見ると、彼女自身の本当の笑顔が見たくなって来る。
「魔物も、こういう食事を食べるんだな」
「ん?まぁ、基本的には違うがな」
食べ掛けのサンドイッチを見詰める彼女を見て、わしは誓った。
絶対に、アレックスを笑顔にしてみせると。
「じゃあ、普段は何を食べているんだ?」
そんな事を考えていると、サンドイッチを見詰めていたアレックスが質問をしてきた。
「勿論、人間の精液じゃよ」
それを聞いた彼女は怪訝な顔になった。
まぁ、人間達の間では、わしら魔物は人間の肉を喰う恐ろしい存在と言われおるし、混乱するのも無理はないじゃろう。
しかし、アレックスの次の台詞はわしが全く持って予想していなかった言葉だった。
「......精液って、何だ?」
なん......じゃと......!?
14/08/05 21:51更新 / 水まんじゅう
戻る
次へ