非日常の恋は突然に
「お疲れ様でーす!」
「おう、お疲れ」
ウキウキした気分を隠しもせずに退勤していく部下達に定型句の労いをかけた俺は、ため息をつきながらシフト管理表と睨み合う。
━━全てのサラリーマンにとって、最もテンションが上がる時間が“給料日の退勤時”である事に、異論を唱える人間はほぼ居ないだろう。
もちろん自分も例外ではないが、しがない中間管理職である立場としては、早々にタイムカード押して夜の街に繰り出す若い衆と一緒に居酒屋で乾杯! とはいかないのが世の常でもある。
持って回った言い方になったが、ざっくり言うと「給料日だろうと管理職はすぐに帰れねぇし、面倒くさい仕事なんて放っぽってさっさと一杯やりてぇ!」という事だ。
まぁ、こんな不満感じるのはいつもの事だし、それを口に出しても、「じゃあ私がやっときますよ」なんて言ってくれる、気の利いた優しい上司が出てくる訳でもない。
くだらない事考えてる暇あるなら、さっさと仕事終わらせるべきだよな……
凝った肩を解すために、軽い首ストレッチをしながら、俺は残務が積み上がったデスクと向き合うのだった。
◇
「ご馳走さま、美味かったよ」
「ありがとうございましたー、またどうぞ!」
ようやく退勤した時には、既に夜も更けていた。
給料日だしちょっとリッチなバーとかに行っても良かったが、夕飯も食べずに作業していた為か、腹の虫が鳴って仕方なかった俺は、空腹を満たすことを優先しラーメン屋に直行。
そこでビールと餃子を楽しんだあと、ガッツリと大盛りチャーシュー麺を平らげて大満足な気分で、店員に見送られ退店。
たらふく食って温まった身体に、夜風が心地いい。
気のせいか、酒もかなり回ってる気がする。
空きっ腹にビールが良くなかったか。
足元が結構ふらつく気がするが、まぁ良いだろう。
ほろ酔い気分を楽しむ為、普段は通らない道を通って帰るのも悪くない……
幸か不幸か俺は独り身なので、多少帰るのが遅くなっても問題はない。
ゆっくりと、夜の街の喧騒を堪能しよう。
そんな気まぐれでしばらく繁華街を歩き回ったあと、駅に繋がっているであろう狭い路地に歩を進める。
ふらつく足取りで、L字になっている曲がり角を折れたその時━━路地の中央に、誰かが居た。
女、だ。
女が、立っていた。
暗い上に駅のネオンが逆光になっていて、顔は見えないが……一目見てわかる。
その女は、異様だった。
半裸……いや、ほぼ全裸に等しい姿だ。
暗闇でも視認できるほどに眩しい白肌を惜しげもなく晒し、胸などの局部だけは甲殻類を彷彿とさせる黒い装甲のような物で覆っている。
……いや、ただ一点だけは特に念入りに鎧われていた。
それは、右腕。
右腕全体を装甲が覆い尽くし、手の甲に当たる部分には真紅の「目」のようなモノが━━
ソレがギョロリと、こちらを見た瞬間。
全身が総毛立つ……!
身体が、震える。
歯が、ガチガチと重なり音を鳴らす。
なんだ、コレは。
俺は、何に出くわしたのだ?
ほろ酔い気分など、一瞬で吹っ飛んだ。
逃げろ、逃げろ逃げろにげろニゲロ……!
脳内にぐわんぐわんと鳴り響く警告音と悲鳴。俺の身体中の全細胞が、目の前の存在から少しでも遠ざかれと叫んでいる。
だというのに、両の足はただ震えるだけで、全く動かせなかった。
だんだんと、ネオンの逆光に目が慣れて。
女の表情が、ぼんやりと浮かび上がってくる。
その女は、笑っていた。
口角を吊り上げ、三日月状になった唇が開き━━
「見ぃつけた……❤️」
と、呟いた瞬間。
ゴキィッ!
メリメリッ、ギチギチィッ……!
耳障りな異音を立てて、右腕が変形していく。
アレが何かは、俺にはわからない。
ただ、恐ろしい存在だという事だけはわかる。
それなのに。
何で、俺の股座はこんなに熱くなってるんだよっ……!
不思議だった。
右腕を凶器的な存在に形取り、狂気的な笑みを浮かべるその女が、俺の目にはどうしようもなく魅力的に映っていた。
下世話な言い方だが、めちゃくちゃエロい格好した女だ。
引き締まったウェストなのに乳がデカいし、ムチムチ太ももがセクシーすぎる。
見えないけど、尻も大きいに違いない。
いつのまにか彼女の周りに渦巻いている謎の風が、黒くて長くてツヤツヤしたロングヘアーを吹き上げる。
そうしてはっきりと見えたお顔も、とびっきりの別嬪さんときた。
こんな状況だというのに、俺は目の前の異形の存在に見惚れてしまっていた。
女は、俺のその視線に気づいたのか、頬を染めて身を捩る。
透明な液体が太ももを伝って滴り落ちるのが見えた俺は、思わず生唾を飲み込む。
恐怖と興奮と胸の高鳴りと股座の疼きとが同時に押し寄せてきて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
立ち尽くす俺をギラギラとした欲望に満ちた視線で捉えながら、女はその場で身を屈める。
その様は、まるで肉食獣が今から獲物に飛び掛かる為に力を溜めているみたいで。
━━何か熱いモノが、俺の身体を通り抜けた。
それが、女の振るった「剣」の一閃だと悟ったと同時に。
身も心も蕩けるような快感と幸福が、押し寄せてきて、俺の「ヒト」としての人生は幕を閉じた。
気がつくと、俺の上で女が喘ぎ、汗に塗れ、剛直を女陰で咥え込み、幾度も、幾度も、一緒に、イッて、イッて、幸せで、気持ちよくて、本当に、本当に、こんなに満たされるなんて、ああなんて事だ、俺は、彼女に出会った時から、恋に堕ちていたのだ、と。
薄れゆく意識の中で、愛してる、と叫んだ、視界に映ったのは、涙を浮かべて喜ぶ、その娘の笑顔、だった……
「おう、お疲れ」
ウキウキした気分を隠しもせずに退勤していく部下達に定型句の労いをかけた俺は、ため息をつきながらシフト管理表と睨み合う。
━━全てのサラリーマンにとって、最もテンションが上がる時間が“給料日の退勤時”である事に、異論を唱える人間はほぼ居ないだろう。
もちろん自分も例外ではないが、しがない中間管理職である立場としては、早々にタイムカード押して夜の街に繰り出す若い衆と一緒に居酒屋で乾杯! とはいかないのが世の常でもある。
持って回った言い方になったが、ざっくり言うと「給料日だろうと管理職はすぐに帰れねぇし、面倒くさい仕事なんて放っぽってさっさと一杯やりてぇ!」という事だ。
まぁ、こんな不満感じるのはいつもの事だし、それを口に出しても、「じゃあ私がやっときますよ」なんて言ってくれる、気の利いた優しい上司が出てくる訳でもない。
くだらない事考えてる暇あるなら、さっさと仕事終わらせるべきだよな……
凝った肩を解すために、軽い首ストレッチをしながら、俺は残務が積み上がったデスクと向き合うのだった。
◇
「ご馳走さま、美味かったよ」
「ありがとうございましたー、またどうぞ!」
ようやく退勤した時には、既に夜も更けていた。
給料日だしちょっとリッチなバーとかに行っても良かったが、夕飯も食べずに作業していた為か、腹の虫が鳴って仕方なかった俺は、空腹を満たすことを優先しラーメン屋に直行。
そこでビールと餃子を楽しんだあと、ガッツリと大盛りチャーシュー麺を平らげて大満足な気分で、店員に見送られ退店。
たらふく食って温まった身体に、夜風が心地いい。
気のせいか、酒もかなり回ってる気がする。
空きっ腹にビールが良くなかったか。
足元が結構ふらつく気がするが、まぁ良いだろう。
ほろ酔い気分を楽しむ為、普段は通らない道を通って帰るのも悪くない……
幸か不幸か俺は独り身なので、多少帰るのが遅くなっても問題はない。
ゆっくりと、夜の街の喧騒を堪能しよう。
そんな気まぐれでしばらく繁華街を歩き回ったあと、駅に繋がっているであろう狭い路地に歩を進める。
ふらつく足取りで、L字になっている曲がり角を折れたその時━━路地の中央に、誰かが居た。
女、だ。
女が、立っていた。
暗い上に駅のネオンが逆光になっていて、顔は見えないが……一目見てわかる。
その女は、異様だった。
半裸……いや、ほぼ全裸に等しい姿だ。
暗闇でも視認できるほどに眩しい白肌を惜しげもなく晒し、胸などの局部だけは甲殻類を彷彿とさせる黒い装甲のような物で覆っている。
……いや、ただ一点だけは特に念入りに鎧われていた。
それは、右腕。
右腕全体を装甲が覆い尽くし、手の甲に当たる部分には真紅の「目」のようなモノが━━
ソレがギョロリと、こちらを見た瞬間。
全身が総毛立つ……!
身体が、震える。
歯が、ガチガチと重なり音を鳴らす。
なんだ、コレは。
俺は、何に出くわしたのだ?
ほろ酔い気分など、一瞬で吹っ飛んだ。
逃げろ、逃げろ逃げろにげろニゲロ……!
脳内にぐわんぐわんと鳴り響く警告音と悲鳴。俺の身体中の全細胞が、目の前の存在から少しでも遠ざかれと叫んでいる。
だというのに、両の足はただ震えるだけで、全く動かせなかった。
だんだんと、ネオンの逆光に目が慣れて。
女の表情が、ぼんやりと浮かび上がってくる。
その女は、笑っていた。
口角を吊り上げ、三日月状になった唇が開き━━
「見ぃつけた……❤️」
と、呟いた瞬間。
ゴキィッ!
メリメリッ、ギチギチィッ……!
耳障りな異音を立てて、右腕が変形していく。
アレが何かは、俺にはわからない。
ただ、恐ろしい存在だという事だけはわかる。
それなのに。
何で、俺の股座はこんなに熱くなってるんだよっ……!
不思議だった。
右腕を凶器的な存在に形取り、狂気的な笑みを浮かべるその女が、俺の目にはどうしようもなく魅力的に映っていた。
下世話な言い方だが、めちゃくちゃエロい格好した女だ。
引き締まったウェストなのに乳がデカいし、ムチムチ太ももがセクシーすぎる。
見えないけど、尻も大きいに違いない。
いつのまにか彼女の周りに渦巻いている謎の風が、黒くて長くてツヤツヤしたロングヘアーを吹き上げる。
そうしてはっきりと見えたお顔も、とびっきりの別嬪さんときた。
こんな状況だというのに、俺は目の前の異形の存在に見惚れてしまっていた。
女は、俺のその視線に気づいたのか、頬を染めて身を捩る。
透明な液体が太ももを伝って滴り落ちるのが見えた俺は、思わず生唾を飲み込む。
恐怖と興奮と胸の高鳴りと股座の疼きとが同時に押し寄せてきて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
立ち尽くす俺をギラギラとした欲望に満ちた視線で捉えながら、女はその場で身を屈める。
その様は、まるで肉食獣が今から獲物に飛び掛かる為に力を溜めているみたいで。
━━何か熱いモノが、俺の身体を通り抜けた。
それが、女の振るった「剣」の一閃だと悟ったと同時に。
身も心も蕩けるような快感と幸福が、押し寄せてきて、俺の「ヒト」としての人生は幕を閉じた。
気がつくと、俺の上で女が喘ぎ、汗に塗れ、剛直を女陰で咥え込み、幾度も、幾度も、一緒に、イッて、イッて、幸せで、気持ちよくて、本当に、本当に、こんなに満たされるなんて、ああなんて事だ、俺は、彼女に出会った時から、恋に堕ちていたのだ、と。
薄れゆく意識の中で、愛してる、と叫んだ、視界に映ったのは、涙を浮かべて喜ぶ、その娘の笑顔、だった……
26/01/07 07:37更新 / doM