読切小説
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鐘とともに突いて
―1―

 うちの大晦日は騒がしい。親戚連中が集まって酒飲みにやってくるからだ。
 普通正月からだろうに年越しフライングして来て、父さんたちも騒がしいのが大好きだから快く出迎えて酔っぱらって歳を越す。
 別に騒いでくれるのは構わない。年に一度しかない大晦日だ。俺に変に絡んでこなければ好きにしてくれと思う。あわよくばさっさと酔いが回って夢の中で歳を越せと思うものだ。
 だけど、そんな思いは届かず、俺は親戚連中に色々弄られる。やれ勉強はどうだの、彼女はどうだの、趣味はどうだの根掘り葉掘り聞いて来ようとする。今年は受験のことも入っていたな。
 昔は律儀に答えていたけれど、もう高三にもなればあしらいかたなんてわかる。お年玉も欲しいっちゃ欲しいけどそこまで期待しちゃいない。
 スルーが一番。部屋に戻っても良かったけど、父さんたちの浮かれた熱気のせいで家の中は熱すぎる。俺は財布をポケットに突っ込んで家から出ることにした。
 暗い夜空。それでも昔住んでた田舎よりもずっと明るい。一年を締めくくる大晦日に眠らない町の灯りが闇夜を少しばかり和らげている。
 吐く息は白く。闇夜と俺の間をわずかばかり白く染めた。風はほとんどないけど空気は冷たく、身体の熱が収まっていく。
「あっ、弓弦じゃん」
 俺こと平家弓弦(へいけ・ゆみはる)を呼ぶ声に、右方向へと顔だけ向けた。
 俺と同じ白い息を吐く的場時子(まとば・ときこ)が、隣の家、的場家の玄関前でドアを背に三角座りしていた。
「なんでこんなとこで座ってんの、時子。お前も親戚から逃げてきた口?」
「そんなとこ。お前もってことは弓弦も?」
 ちょいちょいと手招きされて、時子の傍まで行く。座る場所を開けられたので遠慮なく座った。座ってた場所が暖かい。いつからいたんだこいつ。
「色々と絡んできてさーもう疲れちゃったよ私は」
 だらしなく大口を開けて欠伸をする時子。背の翼と尻尾が、まるで背を伸ばすようにピンと伸びた。いきなり伸ばすな、当たると痛いから。
 時子は普通の人間じゃなくてサキュバスと呼ばれる魔物だ。頭には堅殻が幾重にも重なったような紺色の双角が生えている。
 他の魔物たちの例に漏れず、お世辞抜きにしても整った顔立ちだ。短く切りそろえられた髪が風にたなびけば、無意識に視線を向けてしまうくらいには。
 ただまぁ、もう見慣れたけども。赤ちゃんの頃からの幼馴染だし。
 俺との関係としては普通のお隣さん。うん、幼馴染でお隣さんだ。幼稚園から高校生までずっと同じ学校で、もはや腐れ縁とも呼べるかもしれない。
 ただ、時子はサキュバスだけど淫魔のように俺を性的に襲い掛かってくることはなかった。多分そういう目で見られてはいないんだろう。あくまで幼馴染な関係だ。残念ながら。
「弓弦のとこはどんな感じ?」
「俺のとこもだいたいそんな感じ。時期が時期だから受験のことも聞かれたけど」
「ほほう〜、勉強は順調かねぇ、弓弦くん」
 にやにやとする時子に鼻を鳴らして返す。
「自分の心配しろよ。おれは志望校A判定だ。C判定さん」
「むぐっ」
 苦虫を噛み潰した顔になったかと思うと、自身の膝にうな垂れる時子。からかうなら自分の立場を理解してからじゃないとな。
「なんで知ってんのさ〜」
「おばさんから聞いた」
「くぅ、うちにプライバシーはないのか……!」
「家が隣なあげく、部屋も真向かいでプライバシーもくそもないだろ」
 上を仰ぐ。角度的に見えないけれど、二階にある俺たちの部屋は真向かいに位置していて飛び移ることもできる。小さい頃はよく飛び移って親に叱られたものだ。
「ちぇー、エロゲー大好きマンめ」
「うるせぇBL大好きマン」
「マンじゃないし」
「マンには人って意味もあるから」
「淫魔だしぃ!」
「はいはい」
 お互い一緒に白い息を吐く。湯気のような霧のようなそれは、すぐに闇に溶けて消えた。
 話がそこで一旦途切れて、沈黙が場を支配する。後ろの俺と時子の家から、それにお向かいさんからも団欒の声とテレビの音が響いてくる。
 すぐ傍だけど、ずっと遠くに感じて、まるで俺たちだけ世界から切り離されたように感じた。
 ここはとても寒い。指はかじかんで、身体は震えて無意識に全身に力が入る。けれどどこか落ち着くのは、隣に時子がいるからかもしれない。
 赤ちゃんの頃からの付き合いで腐れ縁な時子。ずっと近くにいるのが日常だった。愚痴を零し合ったり、流行に物申したり、罵り合いも日常茶飯事だった。
「ねぇ、弓弦。神城の方に行っちゃうんだよね」
「……うん」
「やっぱり家出るの?」
「そりゃな。電車で行ける距離じゃないし、下宿するよ」
「そう、だよね」
 一層後ろの世界から遠ざかった気がする。重い沈黙で、俺たちに似つかわしくない空気だ。
 多分、俺は時子が残るこの場所から離れたくないんだろうな。
 でも、俺にはやりたいことがあるし、やるにはあっちに行くのが一番だから。
 仕方ない。
「…………」
 視線だけを時子へ向ける。黒い前髪から覗く切れ長な目は俯いている。膝の前で絡めている指は震えていて、それを見つめる黒曜の瞳は潤んでいるようだった。
「……時子」
「ん、なぁに?」
「何か飲み物奢るから来いよ」
 俺は立ち上がって、先んじて歩き出す。奢るといっても時子の家の隣にある自販機だ。もうホットばかり並んでいる。
「ダッツ食べたーい。コンビニいこー」
「んなに指震わせてよくそんなことぬかせるな、お前」
 俺の後ろにぴったりとくっついてきて、自販機の前で一緒に横並びになる。
「こたつで食べるダッツは至高」
「全力で肯定するけど、こたつは父さんたちが占拠してるから」
「まぁ私のとこもだけどね。大晦日に子供はこたつから追い出される。テレビのリモコンも触らせてくれさえしない。なんと世知辛い」
 この世の絶望みたいな顔しやがる時子の頭をポンポンと叩く。
「なにすんの」
「ブラックコーヒーで」
「女の癖に苦いの好きだよな、お前」
「それ偏けーん。弓弦だって男の癖に甘党じゃん。マックスコーヒーとかやばすぎでしょ」
「あれは俺のソウルドリンクだから馬鹿にすんな」
「一人でスイパラいけるとかおかしすぎない?」
 それこそ偏見だ。男一人スイーツパラダイス。何もおかしくない。むしろ行けない方がおかしい。あっちにもスイパラあったらいいなぁ。
「で、ブラックだったよな。マックスないから俺は……あ、しまった」
 とりあえずブラック一本分お金入れて、自分の分のお金も出しておこうと財布を除いたのだけど。
「どしたの?」
「金がなかった。一本分しか」
「ごちになりまーす!」
「あ、時子てめっ!」
 ガゴンとブラックコーヒーが排出されてしまう。時子が俺の制止を無視して押しやがった。
「うへへ、元々奢るつもりだったんだし、いいでしょ?」
 取口からブラックの缶コーヒーを取り出して両手で握る時子。目尻垂らしてご満悦である。
「ったく、一人だけ温まりやがって。しゃーない。戻って金取りに行くか」
「ふふーん。いいじゃん、取りに行かなくて」
「なんで、ッ!」
 いきなりだった。
 時子が突然、俺の手を握ってきた。普通のじゃない。指を絡めて、指の間に深くまで。
 缶コーヒーで温められた熱なのか、それとも時子の元々の体温なのか。時子の手はとても温かくて、体温がじかに伝わって来て、俺は一瞬戸惑い言葉に詰まる。
「こーしてると温かいでしょ?」
「あっ、う、あ、お、おう」
 完全に不意打ちでまともに答えられない。というか、時子を直視できなかった。
 ああもう、くそ。こんなことされたら、勘違いするだろうが。俺だって健全な男なんだから。相手が腐れ縁の幼馴染でも……いや、時子だから勘違いしちまうに決まってるだろ。
「ふふん。ブラックブラックおいしそーなー。ほれぷしゅっとな」
 また時子の家の玄関前に座り込む。時子は片手に持った缶コーヒーのプルタブを、逆ハート型の尻尾の先を使って開けた。本当、器用な奴だ。尻尾がついてるのってどんな感覚なんだろう。
「ふーふーあちち、んくっ、ふぁ〜」
 本当幸せそうな顔するよなぁ。あんなに苦いのに。
 それにしてもいつまで握っているんだろう、この手。離していいのだろうか。あ、駄目だ、時子離す気ない。もがいたらより深く絡めとられてしまった。
 時子と目が合った。切れ長な黒曜の瞳が、より薄まる。笑っているのか、怒っているのかよくわからない。
「飲む?」
「あ?」
 一瞬意味をが理解できなかったけど、差し出された缶コーヒーのことだとわかった。
「いや、ブラックだし、いいよ。苦いの無理。泥水じゃん」
「ひどっ、私が泥水飲んでるっていうのっ!?」
「実際まずい。自明の理」
「なによー、私のコーヒーが飲めないっていうの〜」
 しなだれかかってきて、ぐりぐりと肩に頭をこすりつけてくる。というか角で刺してくる。痛い痛い痛い!
「痛いって! ったく、それにか、間接キスになっちまうだろ……っ!」
 しまった。
 思わず口走ってしまって、俺は慌てて口を空いた左手で押さえるけどもう遅い。
 思いは言葉に、言葉は音に、音は時子の耳に、すでに届いてしまっていた。
 そして、こんな風に慌ててしまった。
 これじゃあ、まるで俺が時子のことを意識してるのがバレバレだ。時子のことが好きだって。
 やばい、からかわれる。いや、からかわれるだけならまだいい。もしも、嫌そうな表情をされたら俺は。
「え?」
 時子は、頬を紅色に染めて、柔らかく微笑んでいた。あまり見たことのない、時子の柔和な笑みがただ一人、俺だけに向けられていた。
「じゃあさ、このブラックコーヒー、甘くしてあげるね」
 時子がコーヒーを口に含んだかと思うと、俺の視界は時子の顔だけになった。
 閉じられた時子の目が目の前に。その直後、唇に産まれてこの方感じたことのないほど柔らかな感触が押し付けられた。
 ぎゅうっと、俺の手を握る時子の手の力が強くなる。熱が手と口に広がる。
 俺の唇の隙間を、細くてにゅるりとしたものがこじ開けたかと思うと、熱い液体が流れ込んできて俺の口内を満たした。満たして、それに紛れて、俺の唇をこじ開けた蛇のような熱くて肉厚な何かが、俺の舌を絡めとる。
「んっ、ちゅっちゅるっ」
 にゅるりともざらりともした感触に舐られ、俺はそれが時子の舌なのだとようやく理解した。
「ぅっむ、はぁあ……」
 流し込まれたコーヒーが全て俺の喉の奥へと落ちて行ったところで、舌と唇は俺の元から離れて行った。透明の雫の橋が俺と時子を少しばかりの間だけ繋いでいた。
 コーヒーの味なんて全然しなかった。
「…………」
 いまの、いまのって。
 鼓動が聞こえる。やばいぐらい早い自分の心臓の鼓動が耳元で鳴っているくらいにうるさく聞こえる。
 キス。キスした。時子と俺、いまキスした。え、なんで。どうして。俺、なんで、時子、なんで俺なんかとキス。え。
 混迷極める俺の胸中を察してか否か、時子はとんっと俺の胸に顔を埋めてくる。
「親戚が面倒だから家を出てたって言ったけどね、実はアレ半分嘘」
「嘘……?」
「玄関で座ってたら弓弦に会えるかなーって思ってね、待ってたんだ」
 待ってた。いつから? 少なくとも、俺が時子の元いた場所に座った時、そこが冷たくないくらいには。
「弓弦と私って似てるもん。だからきっと家から出てくるって思ってた」
 強く、強く手を握られる。その手から時子の鼓動が伝わってくる気がする。俺と同じくらい速くて激しい血潮の鼓動が。
「本当は言うつもりなんてなかった。でもね、駄目。無理だよ、もう我慢なんてできない」
 俺に身体を預けたままの時子が、胸元で顔だけ見上げてくる。その瞳は熱を帯びていて、同時に潤んでいた。
「もうこのままの関係で年を越したくない。卒業して、離れ離れになるのもいや。来年は私たちの関係を違うものにしたいの」
 だから言うね、と。時子は幼馴染の顔じゃなくなった。
「私、弓弦のことが好き。大好き。あなたのことを想うと胸が張り裂けそうなくらい、狂おしいくらいに好きなの」
 そこには、思いの丈を吐き出して焦がれる想いに顔を赤く染める時子がいた。
「俺……」
 好き。時子も、俺のこと、好き?
「俺、お前が他に好きな人がいるって思ってて」
「…………」
「だって、サキュバスだし、もし好きだったら襲ってくるだろうって、学校のダチもそうだったし」
「奥手な娘だっているもん」
「だから、いま告白されて、面と向かって言われて、すごい混乱してる」
「弓弦……」
「だけど、それ以上に俺は」
 時子の背に空いた左腕を回し、抱きしめた。心臓の近くにいる時子に、俺の鼓動がより伝わるように。
 そして、言葉で伝える。
「嬉しいんだ。両想いだったって知れて。時子も俺のことを好きだって知ることができて」
「っ!」
 時子の息が詰まるのを感じる。
「だらしないよな。時子に告白されて言えるようになるなんてさ。でも、遅いけど、言わせてくれ」
「うん……私、弓弦の口から聞きたい」
 全身の力を抜いて、時子は俺に身体を預けてくれる。
「時子、お前のことが好きだ。言葉じゃ伝えきれないくらい、ずっとずっと前からお前のことが大好きだった」
「……うん、伝わったよ。弓弦の気持ち。すごく、嬉しい。嬉しいよ、弓弦」
 俺の背に時子の腕が回る。俺たち二人に隙間がなくなるように、強く抱きしめ合った。
 もうそれ以上の言葉なく、俺たちはただじっとお互いの熱を分け合った。
 思いがけず年の終わりに起きた、俺にとっては奇跡の出来事。寒空の下でも時子と一緒なら温かく、周囲の家々の団欒の内側よりも楽しかった。
 ずっとこのままの時間が続けばいいとさえ思う。年越しなんてなくなっちまって、時が止まればいい。きっと時子もそう思って――。
「はっ、くしゅん!」
 豪快なくしゃみが俺の胸にぶつけられた。
「……えー」
「うー、さむさむ、ねぇそろそろ家戻ろうよ、弓弦」
「えー、えー」
 ムードぇ……。
「やっぱり寒い外よりも温かいこたつかぁ、それか、好きな人がいるベッドかなぁ」
 にんまりといつもの調子な時子に戻っている。ただ、ちょっとばかり淫魔チックないやらしい笑みだった。
「ねぇ、私が弓弦のことわかるんだからさ。弓弦もわかる、よね? 私のこと。何考えてるとかさ」
「……う、ん、まぁわかる」
 親と同じくらいの長い付き合いだ。実を言うと、俺が外に出たのも時子がいないかなと思ったからでもある。
「じゃあさ、私がいまどうして欲しいか、わかる?」
 期待と悪戯心に満ちた表情で俺のことを見上げてくる。尻尾はくねくねと輪っかを作るように忙しなく動いて、俺の言葉を急かしているようだった。
 互いの好意だけは気づけていなかった俺たちだけど、好き合った二人がこのあと何をしたいかなんて、サキュバスに好きな物は何かと聞いて「夫」と答えられるくらい自明の理だ。
「時子」
「うん」
「俺の部屋、来る?」
「うん!」
 年の瀬の末、大晦日。今日俺は、初めて彼女ができた。
 相手は物心つく頃からずっと好きだった幼馴染。的場時子だ。

―2―

「とうっ!」
「うわっ!」
 時子が窓をジャンプして突然俺に向かってダイブしてくる。手を貸そうと身を乗り出していた俺に躱す術などなく、窓際のベッドに押し倒されてしまった。
「えへへ、ナイスキャッチ、弓弦ぅ〜」
「ナイスキャッチじゃねぇよ、ったく」
 ネコみたいに顔をこすりつけてくる時子。いつもと変わらないけど、でもいままでと違う。
 これまでは男女としての一線があってほとんど触れることはなかったのに、いまは遠慮なく俺に身体を預けて、それどころか絡めてくる。
 男の部屋に好き合っている関係の男女が二人。しかもベッドの上ですでに俺は腰の辺りで馬乗りにされている状態。そういう気持ちにならないわけがなく、そして時子がそういう気持ちになっていることに気づかないわけもなく。
「うしし……」
 俺を見下ろす時子の目は情欲に支配された獣のようにギラギラとしていた。釣り上がった唇の端から舌をれろりと覗かせる。
「……っ!」
 上半身を倒して時子の顔が、鼻先が触れるほど近く寄ってくる。ここまで近づくと鼻息が荒いのもわかる。食べられそうに思えて顔を背けようとしたらがっちりと両手で頭を掴まれて、時子の視線から逃れられない。
 時子の目が桃色に妖しく光る。血潮が湧き踊り、股間に集中するのがわかった。痛いくらいに張り詰めて、目の前の時子がたまらなく淫靡なメスに思えてくる。
「するんだよな、時子」
「したくない?」
「いやしたい」
 即答する。くすりと時子が笑い、俺の首筋に舌を這わせた。
「あ、ふっ」
 ぞくぞくと言葉にし難い快感が舐られた部位に走る。性器でも何でもないのに、まるで敏感な部位のように感じてしまった。
「ちょ、待て待て、先に窓閉めてから」
「閉めたよ、ドアの鍵も締めた」
 尻尾が伸びてた。
「は、早いな」
「もうねぇ、待てないの。だってさ、物心ついたときからずっとさ、好きだったんだよ? 好きで好きで堪らなくて、私の頭の中は弓弦のことだけで染まってるんだよ」
 それはそれで大丈夫かと思わなくもない。
「でも弓弦は別の学校行っちゃうから。だから、マーキングするの。弓弦は私のだって。絶対に誰にも渡さないんだから」
「ったく。そんな心配いらないって。こっちだって物心ついたときからお前のこと、好きだったんだからよ」
「いまは?」
「超好き」
「えへへ」
「ちょ、こら、首舐めるなというか吸うな。吸うなら」
「吸うならこっち? ちゅっ」
「っつ!」
 く、くそっ、不意打ちすぎんだろ。ああもう、にまにましやがって。このエロサキュバスめ。
 こうなったら仕返しだ。
「え? わっんんっ」
「んっ、ちゅっ」
 時子の後頭部に手を回して無理矢理、キスをする。無理矢理なんて普通だったら嫌われるだろうけど、時子の瞳が大きく見開かれたと思うと、瞼の中に蕩けて沈んだ。
 時子の体重がゆっくりと圧し掛かって来て、その重さがひどく心地いい。
 唇は柔らかくて、花のような甘い香りがして、それに俺に絡みつけてくる手足もなんだか心地いい。
 女の子ってこんなに良い匂いとかしたんだな。身体も自分とは全然違って柔らかくて細くて、でも肉付きはよくて、服越しなのに触れ合っているだけで充足感がある。
 キスしてただ抱き合う。これだけでもう、いままでで味わったことのないほどの多幸感が俺の全身を支配する。頭の中がピンク一色に、時子色に染め上げられていく。
 どうやら俺も大丈夫じゃないらしい。
 もう一分以上キスしているのに、それでもまだ足りない。息がもたないってわかってるのに離したくない。ずっと繋がっていたい。好きだ、時子。好きだ好きだ。俺も狂おしいくらいお前のことが好きだ。
「……ぷはぁっ! はぁはぁ、はぁ、はぁはぁ」
「はぁはぁ、ん、はぁ」
 ついに限界を迎えて唇が離れる。息を吸って吐く。いま吸っているのが、時子の吐き出した息だと思うと、無性に昂ってしまう。酸欠のせいだけじゃない。時子からもたらされる淫気のようなものが、確実に俺を蝕んで、時子の虜にしている。
「はぁあ、服、邪魔」
 空中に文字を描いたかと思うと、時子も俺もまるですり抜けるようにして服が脱げた。触れ合う肌の感触が一変する。熱さと柔らかさがもはや異次元だ。雌の香りがいやらしく俺の鼻腔を嫐ってくる。
「どこでこんなの覚えたんだよ」
 ギリギリ出せた言葉がこれ。もう頭がくらくらして、理性を抑えるのがやばい。
「ずっとシミュレーションしてたんだもん。服脱ぐのに手間取って萎えるのとか嫌だし」
「いやいや、相手の服を脱がしてやるのにも男ってのは興奮するもんなんだって」
「それはまた今度。いまはもう、ね。余裕ないの、ほら、ここ、触って?」
 手をある場所へ誘われると、指が熱くドロドロに濡れた部分に触れた。触り心地は柔らかな肉で裂け目がある。
「っ」
 もしかしなくても、時子の一番大事なところ。股の間、オマンコの入り口だった。
「ね、すごいでしょ? 実はね、もうね、部屋に行くってわかったときからこれだったんだ。ね、直接見てよ」
 いままで俺に乗りかかっていた時子がベッドに仰向けで寝転がる。膝立ちに起き上がった俺は、白磁の輝きを放つ時子へと目を向ける。
 俺の真横に寝転がる、生まれたままの姿の時子がいた。
 恥ずかし気に顔を赤らめて背けて、胸の部分を片手で隠して恥じらう時子。
 その肢体は雪のように白く繊細で、手に触れれば滑りそうなほどの玉の艶の輝きを放っている。
 隠された胸から降っていく腰の曲線美に、おへそのクレバスを越えて薄く生えた陰毛が秘部を隠している。だけど、その陰毛は湿り気を帯び、蛍光灯の灯りを反射していた。
 いやらしいなんてものじゃない。触れることが憚られるほど、美しい。その綺麗さは目を背けることを許しちゃくれない。俺の視線を縫い留めて、視覚で俺のことを犯している。
「サキュバスってさ、皆こんなにも綺麗なのかよ」
「わかんない……でも、弓弦、私の裸、綺麗って思ってくれてるんだ」
「当たり前だろ、こんなの、誰が見たって同じことを言うよ。絶対に見せてやらねぇけど」
「ふふっ、嬉しいな。弓弦の裸も格好良いよ。特にここ」
「っ、いき、なりっ」
 時子の尻尾が俺のペニスにくるりと巻き付いた。尻尾の先っぽでつんつんと剥き出しになった亀頭を突かれて、俺はたまらず時子の身体を越えて腕をベッドにつく。
「あはっ、びくんって跳ねた。すごい、もうこんなに大きくなってる。どくんどくんって脈打ってる。弓弦の大事なところ。オ・チ・ン・ポ」
 視覚の次は聴覚で、俺のことを犯しに来る時子。その濡れた桃色の唇で淫乱な言葉が紡がれる度に俺のペニスは痛いほど張り詰めていく。
「はぁ、はぁっ、時子っ」
「ここ触って、私のおっぱい」
「っ、柔らかい」
 手を掴まれてオマンコにされたときと同じように、今度は時子のおっぱいへと腕が誘われる。体重がかかった手が、ふにゅりと時子の胸に沈んでいった。掌で感じる硬い感触はきっと乳首。俺が掴んでいる方のもう片方おっぱいでぷるんと震えている桃色のサクランボだ。
「揉んで、そう、んっ、いいよっ」
「はぁはぁ、俺、時子のおっぱい揉んで」
 綺麗なのに、触り難いのに、なのに壊してしまいたいくらいもっと強く揉んでいたい。
「ああ、時子っ!」
「うん、もっと触ってっ」
 腕を引っ張られて、時子の隣に横倒れになる。
「あっ、おへそに手を這わせちゃ、感じちゃっんんっ!」
 我慢できずベッドについていた手も時子の身体に這わせる。すべすべで吸い付くような触り心地。いつまで触っていても飽きないむっちりと感触。
「っ!」
「ふふっ、されてばかりじゃサキュバスの面目丸つぶれだもの、ねっ!」
「くぁっ、尻尾で締め付けながら手で扱くの、反則っ」
「カウパー汁いーっぱい漏れてるよ。私の尻尾、弓弦のエッチなお汁でドロドロ……白くていやらしい子種汁で、私の尻尾真っ白に染めたいのかな? ねぇ、染めたい?」
 まるで耳元で囁かれているようだ。紡がれる淫語に沿ってその手と尻尾の動きが早くなる。自分でするのと比べ物にならないくらい、気持ちいい。
「染め、たい」
「じゃあ、こっち触って。私の大洪水になってるオマンコ、触ってもっとぐちょぐちょにしてよ」
 伸ばした手の指先が陰毛に覆われたクレバスに触れた。すべすべの肌とはまるで違う、吸い付くようなぬめりを帯びた肉の感触。触っているのか、それとも指をしゃぶられているんじゃないかと錯覚するほど、濡れた肉は指に絡みついてくる。
「んんっ、イイっ弓弦の指、気持ちいいよぉ」
「っあ、時子、尻尾激しっ、先っぽ突いたらっ」
「あはっ、昇ってきた? 私の大好きな弓弦のドロドロの精液、たっぷり作られてもう発射準備整った?」
「っ」
「もう我慢できないって顔。でも、私も、もう、だめっ。弓弦に触られてると思うと気持ちよすぎて、もう、ああっ」
 淫乱なメスの顔を晒す時子の顔を見ながら、絶頂がすぐ傍まで迫る。白濁の欲望を、時子の手と尻尾に吐き出して汚く染める。
 その気持ちよさを予想して、きっとその予想を遥かに飛び越えることを想像して、俺は人生最大の射精を行おうと力を込めた。
 そして放たれるその刹那。
「おおーい、弓弦。全員で除夜の鐘聞きに行くけど、お前はどうだ?」
 ドアがノックされて、父さんの声が響いた。
 全身が総毛だった。出かかった欲望はすんでのところで引き返し、とても最悪な感覚が襲い掛かる。それはもう出かかった小便を無理矢理止めるが如き感覚。否それ以上に不愉快だった。
 それは時子も同じだったらしく、般若、悪鬼羅刹のごとき表情を浮かべていた。当たり前だ。来る甘い絶頂を全力で阻止されたのだから。
「い、行かないからっさっさと行ってこいっ入ってくんなよ!」
 俺はなるべく平静を装ってかつ、怒りを滲ませて叫ぶ。もしもドアを開けられたらいまシテいることが丸見えになる。一応鍵は閉めているけども。
「なんだよ。寂しいねぇ、大晦日だってのに構ってくれねぇなんてよ。まぁいいや。エロいゲームはほどほどにしておけよー、下まで聞こえてるからなー」
「ッ! ほ、ほっとけ!」
 ば、バレてる!?
 どたどたと階段を降りて行く音に次いで玄関の開閉音も聞こえた。多分、親戚連中も全員家を出て行っただろう。
「あっぶねぇ……くっそ、あの糞親父……」
「イキそびれたちゃったね」
 ペニスをにぎにぎとされて俺は悶える。全くだ。
「せっかくいい感じだったのに」
「まっ、でも感謝かな」
 ん、感謝? 父さんに?
 疑問に思った刹那、時子が俺の腰に圧し掛かる。股を大きく開いて、上向きになったペニスにその洪水になったクレバスを添えた。
「んんっ、ふっ、ぅ……熱いよ、弓弦のオチンポ……オマンコでどくんどくんって、鼓動が伝わってくる」
「っ、そんな腰前後されたら」
「ふふ、素股でぐちゅぐちゅっていやらしい音立っちゃってるね。このまましちゃったら、やっぱり弓弦、エッチなお汁いっぱいびゅるびゅるってしちゃうのかな?」
「あ、たりまえだろ。お前のオマンコでこすられて、俺が興奮しないわけ、ないだろうがっ……!」
「嬉しい」
 柔和な笑みと、淫魔の笑みが混じる。なんというか、幸せが形をなしたかのような、そんな時子の笑みに俺は目が奪われた。
「でも、ここで出しちゃったら勿体ないよ……出すならね、膣内に、私の子宮に、ね?」
 時子の腰が浮いて、ペニスが尻尾で上向きに立たせられる。亀頭の先端が、ぴとっとクレバスを縦に着地した。
 照準が時子によって定められてしまった。
「弓弦の最初の濃厚な欲望色の子種汁は……やっぱり子宮に欲しいな」
 両手が時子の腰に誘われる。それがどういう意味か、すぐにわかった。
 最後は俺の手で、ということらしい。
 時子が笑う。淫靡に、俺だけに向ける極上のメスの笑みを。
 唇が言葉を紡ぐ。
「弓弦。私にあなたの子供、孕ませて」
 俺は腕を下方へ振り下ろし、腰を突き上げることで応えた。
「「あっ」」
 脳がショートしそうなほどの快感に、俺たちの言葉は重なった。
 視界が真っ白に染まる。感覚が完全に麻痺する。なんだこれ、知らない。俺はこんなの知らない。イッてない。絶頂じゃない。なのに、なんで。なんでこんなに。
「気持ちいい、んだ」
「あは、あははは、あは、何よこれお母さん……すごすぎだよ、あは、私、一突きであは、屈服しちゃった。弓弦のオチンポの形覚えちゃった」
「っぅう、はぁはぁ、これなんだ、本当に入ってるのか……もう熱の塊に突っ込んでるみたいな熱くてドロドロで隙間もないくらい絡みついてきて……あぐっ」
「はぁああああ、お母さんがお父さんのこと大好きな気持ちわかっちゃったぁ。こんな美味しいオチンポの味知っちゃったら駄目だよね……もう女はメスになるしかないもん、オチンポに尻尾振るメス犬になるしかないもん」
 恍惚に浸る時子の表情は完全に蕩けている。目もだらしなく垂れて、涎がこぼれ落ちるのもまるで気にしない。
「っ、ぁあ、時子、大丈夫なのか? 血、出てるけど……」
 結合部から白いどろりとした精液とは別の液体に混じって血も滲んでいた。多分処女膜が破れたせいだ。淫魔の処女喪失は痛くないって聞くけど、心配にはなる。
「うぅん、大丈夫ぅ……それどころかね、気持ちいいの、破けたこと、弓弦に破ってもらったことがね、すごく嬉しく、気持ちいいの……あはぁっ!」
 繋がったまま倒れてくる時子を抱き留める。時子の涎か涙かが飛び散って唇に付着する。舐めとると甘い味がしたような気がした。溶けそうなくらい甘い、時子の味。
「はぁはぁ、ゆみ、はるぅ……ごめんね、ごめんね、いいの、すごく良くてよすぎて、腰に力入らないのぉ……こうして繋がってるだけでねぇ、いいのぉ」
「俺もだ、時子……動いたらすぐにおかしくなっちまいそうなくらいイイ。だから、いまはこのまま繋がってよ……やっと、お前と結ばれたんだから、さ」
「うん。ね……ぎゅって、して?」
 時子のおねだりに応えて、背に腕を回し抱きしめる。蝙蝠の翼も一緒に腕の内へ閉じ込める。
「ああ、温かい。弓弦の身体、とっても温かいよ。安心する」
「俺も。時子の身体、柔らかくて、甘くてイイ匂いがして、飽きないていうかずっと抱いていたいっていうか。このままずっと繋がってたい……っ」
 きゅうっとペニス全体が熱い肉に締め上げられる。奥へと求めるように脈動した。
 余裕のない俺に対して、時子は欲望に塗れた淫らな笑みを浮かべている。
「そんなこと言われたらぁ、もう弓弦が好き好きだって感情止められないよぉ……もっとね、もっと味わってたいのにっ、弓弦の身体、オチンポ、ずっとずっと欲しかったものようやく迎えられてっ一つになれた余韻を味わってたかったのにぃ」
「時子っ!」
 そんなこと言われて我慢できるわけないだろ。
 俺はより強く時子を抱きしめて、その潤んだ瑞々しい唇に吸い付く。
 舌でその裂け目をこじ開けて、涎で洪水になっている口内に走らせる。
「んちゅっ、れろっ、ゆみ、はりゅう、しゅきぃ、んんれろっ、しゅきなのっゆみはるのこと、じゅっとじゅっとしゅきでぇ、こうしたかったのぉ」
「んん、ちゅっ、俺だって、お前と、お前とこうしたかった、んっ、はぁ、お前を抱きたかった」
「嬉しいぃよぉ、弓弦ぅ!」
 時子が腰を浮かす。絡みつく肉が俺のペニスを擦り上げ、特にカリ裏に甘美な快楽をもたらしてくる。身体が裏返りそうなほどの狂おしい快楽。全身の感覚をペニスに集中させて、それを味わうためだけに他の全てを捨て去ってしまいたくなるほど抗い難い。
 ぐちゅにゅちゅぶちゅ、と肉に満ちた水音を弾かせて、限界ギリギリまでオマンコが引き抜かれた。
「はぁ、あああ、いまね、すごいね、寂しいの。もうね、弓弦が入っていないのが耐えられないの」
「俺も、寂しい。寒くて寒くてたまらない」
「だからね、戻ってくれる? 私の膣内に」
「戻るよ。戻る。お前の膣内に。俺を、温めてくれ」
「うん、私を満たして」
 ぶちゅんっと肉が弾け合う音、それに続きばつんと腰がぶつかり合う音が響いた。
 無数の肉ヒダが群れを成して俺のペニスを食み、削ぎ、包み、飲み込んだ。
 視界がフラッシュした。
 本当にペニスを除く全ての身体の感覚が断絶した。脳の一切が快楽以外の感覚を拒絶する。
「あっ、はっ、ぐぅ」
「あっ、ひっ、あひっ」
 さっきから快感の最高記録を更新し続けている。ただの一突きで脳が焼ききれそうなほど気持ちいい。
 感覚が戻ってきたところで、耳に何かの音が届く。除夜の鐘、始まったのか。
「はっ、はっ、はっ、やばっ」
「らめぇ、刺激つよしゅぎぃ……腰動かせなっ、はぁはぁあ、ごめんねぇ、もっと弓弦のこと、気持ちよくしてあげたいのにぃ」
「いい、よ。俺も余裕ないし……それより、さ。一突きでいっぱいいっぱいならさ、これに合わせてみるのどうかな?」
 まだ残る余韻の音。
「除夜の鐘に?」
「ちょうど始まったみたいだし。いいんじゃない?」
「百八回、頑張るの? 一時間以上かかるよ?」
「そこはほら、愛の力で」
「ぷっ、それ弓弦らしくなーい」
 なんだよ、勇気出して言ったのに。らしくないのは自覚してるけどさ。
 ぶつくさ文句言おうと思ったら、首を腕に絡めとられて時子の顔と向き合わせられる。
 とても綺麗で、俺の好きになった時子のはにかむ笑顔。歯をのぞかせて笑う時子に、俺も自然と顔が綻んでしまった。
「次、来るよ、一緒に気持ちよく、なろうね」
「ああ」
「行くよ、んんっああっ、弓弦のオチンポ、すごい膨らんでてお肉に引っかかるぅ」
「いいよっ、時子、すごいオマンコ気持ちいいそのままっギリギリまで」
「んっ! そろそろ来るね…………いまぁ!」
 遠くで響く鐘の音。同時に振り下ろされる時子の腰。鐘の音すら掻き消すほどの腰のぶつかり合う音、そして。
「あああっんぃ!」
「くはっ、締め、付けすごっうあああっ」
 時子と俺の嬌声。絶頂はしてない。俺はまだイっていない。なのにやばいくらい気持ちいい。気持ちいいけど、発散されなくて溜まっていっている。苦しさと心地よさが同居している。
「はぁはぁ、弓弦ぅ、百八回やりきるっていったんだからぁ、ね? 最後までたぁっぷり溜めてね?」
「……え?」
「別にね、我慢させるのが好きってわけじゃないだけど、でもぉせっかくだしぃ。一番濃厚などろっどろのこってり子種ザーメン、子宮で受け止めたいじゃん?」
「マジ?」
「マジマジ大マジ。これまでの人生で無駄射ちしてきた分、濃い精液ミルク注いで孕ませてね?」
 これはなかなかきつい選択をしてしまったのかもしれない。
 時子はガチの顔だ。もう絶対にやりきるって顔をしている。
 ちょっと怖い。命の危険すら感じるくらい。でも、それくらい求められている。一番大好きな女の子に、男の全てを注いでほしいと求められている。
 そんなに想われて頑張らないオスはいない。最高唯一のメスを孕ませたいと思わないオスなんていない。
「いいぜ、百八回。残り百六回。煩悩たっぷりここに溜め込んで、お前に注いでやるよ」
「皆が煩悩払ってるのに、私たちは除夜の鐘に合わせて腰打ち、あはっ、最高ぉ……!」
「お前が淫魔で俺は幸せ者だ……よっ!」
「くひゅいっぃいっ!?」
 時間を見計らい鳴り響く鐘の音に合わせて、腰を下から打ち上げる。時子の表情は完全に崩れて、淫魔らしい締まりのない淫乱顔になった。涎も涙も、鼻水さえも垂れ流しだ。
 まぁ当然、俺も同様に快楽を味わったのでおあいこだが、備えていた分の差はあった。
「……ゆみはるぅ!」
「怒ってる?」
「怒ってないよぉ? あひっ、はぁ、で、でもいまのは宣戦布告ってことでいいんだよね? 淫魔である私に、セックスバトルしたい、ってことだよね?」
 確かに怒ってないな。というか悦んでいる。いいとこ突かれて悦んでいるんだ。
「そうだな、したい。お前を気持ちよくして、お前に気持ちよくさせられたい」
「! ふふっ、なら覚悟してよね、どれだけ喘いでも許してあげないんだから」
「望むところだ」
 そして、腰を振り上げ、振り下ろし、突き、突かれ、お互いを貪り合った。
 除夜の鐘に合わせ、幾度となく。何度も。何度も。
 最初は主導権を握ろうと責め合っていたけど、五十を越したくらいからお互い攻めるのをやめていた。というより、タイミングを合わせることに集中していた。
 ただペニスを突くよりも、オマンコに食べられるよりも、腰の振るタイミングを合わせて一緒に突き食べられた方が気持ちいいことがわかったのだ。
 色々試してわかったことだ。独りよがりになるよりも、相手をイカせてやるって意気込んでやるよりも、一緒に、共に上り詰めて気持ちよくなろうと思った方が、結果的に一番心地いい結果になった。
 しかもただ気持ちいいだけじゃない。何より幸せを感じられる。満たされているのがわかる。自分が欲しいもの、好きな相手の気持ちの全部が身体の中に流れ込んできているのがわかるのだ。
「ふぅふぅ、ふっ、ああっゆみはりゅう〜」
「ときこっ、あああっ」
 両手を恋人繋ぎして時子が上に跨っている。尻尾が俺の前でふりふりと揺れてたまに俺の口元に近づいては、舐めしゃぶってやると時子は喘ぎ声をあげて悦ぶ。俺も翼の柔らかな被膜で太ももあたりを撫でられると、女みたいに声を出してしまう。
 オマンコだけじゃない。その手、足、腰からおっぱいに花びらのような唇、さらには尻尾と翼に至るまで、時子の身体は俺を悦ばすためにできているようだった。
 時子の一挙手一投足が俺の興奮を誘って、ペニスをより固くしてくる。金玉はもうパンパンに膨らんで、早く出したいと頭に信号を送っている。
「あと、何回だっけ」
「二十くらい、いいいっああああっズンってぇえきたぁああ! ああ、あ、ああ、あひっ」
 もう腰はほぼ自動で動いている。俺たちの思考から完全に切り離されて、本能で繋がり合った俺たちの身体は互いに呼吸を合わせて腰を振るうのだ。その度に、思考は焼き切られ、どんどんと理性が蕩け落ちていっている。
 肉欲の本能は昇り、理性の思考は堕ちつつあるのだ。
 百八の煩悩を溜め終えたときどうなるのか、俺と時子は楽しみだった。
「あひっ、あはっしゅごいっ、しゅごいよっ、ゆみはるのオチンポ子宮のお口にちゅうちゅうってしてりゅっあはあはは」
 あらゆる体液を垂れ流して、もう俺たちの身体をべたつかせている液体がどちらのモノなのかわからない。でもいまのこの状態は堪らなく最高だ。お互いの境界が曖昧になって溶けあっている感覚。ペニスとオマンコだけじゃない全身が、思考までもが蕩けて混じり合い、共有している。百八回目の煩悩のゴール、絶頂に向けて一緒に目指している。
「はぁはぁ、もうすぐで、年越し……」
「あはっ、やったぁ、あとちょっとでご褒美ぃ、弓弦のぉご褒美精液もらえりゅう〜」
 我慢汁と本気汁でドロドロになったペニスとオマンコ。結合部から垂れる汁は腰をにゅるにゅるに汚し、腰をぶつけ合う度に、汁が弾け飛んだ。
 ばつん。ばつん。ぶちゅっ。ぐちゅっ。ばつん。
 約一分弱につき一発の腰の打ち付け合い。ペニスでオマンコの肉を掻き分け、オマンコの肉でペニスをみっちりと包む。
 長い感覚を開けてようやく一回の腰振りだ。なんとかここまで俺は精を吐き出さずに済んでいた。たっぷりと清算したものを溜め込むことができた。
 でももうそろそろ限界だ。ゆっくりとは言っても、快感は少しずつゆっくり、しかし確実に蓄積され、俺を絶頂へと誘おうとしている。
 時計の針が長針短針ともに0に重なろうとしている。
 秒針はゆっくりと時を刻み、その瞬間へと俺たちを運んでいた。
「あはぁ、すごいよ、弓弦のオチンポぉ、びくびくってしてて、根本に溜まってるのわかるよ、準備してるんだ、私のこと孕ませる準備してるんだ?」
「お前だって、子宮口パクパクさせて、吸い付いて、くっ、来てるじゃねぇかよ。うあっ、引き抜いて」
 時子の腰が上に引き上げられる。なのに、まだ子宮口は俺のペニスの先を咥えたまま離さない。
「あはぁあああ、私の子宮、弓弦のオチンポ離したくないってぇ、降りて来てるあはぁ、このまま引き抜いちゃったら、子宮がオマンコの外に出ちゃうかもぉ」
「はぁはぁ、くぁ、もうそろそろ……」
「うん、時間、だね……ねぇ、弓弦」
「うん?」
「好き」
「俺も好き」
「来年もよろしくね」
「来年と言わず、これからずっと墓の中までというか来世もずっと、よろしくな」
「うんっ!」
 一瞬の眩しい笑顔は、秒針が0を指した瞬間、もはや俺のペニスを味わうことしか頭にない、理性の蕩け切った一匹のメスと成り果てた。
 そして俺も。
 唯一のメスに己の精液を注いで孕ませることしか頭にないオスに成り果てた。
 鐘の音の始まりが一瞬だけ耳に届いたけど、それは腰の打ち付け合う音に掻き消されて、尿道を駆けのぼる生々しい精液の音だけが耳朶を支配した。
 奥まで一気に挿入されるペニス。それだけで止まらず、子宮口をぶち抜いて、子宮内の奥、天井をごつんと激しく突く。
 びっしりとしたヒダがまるで触手のように蠢きいままで以上に一部の隙間なく絡みつく。亀頭を包み込んだ子宮が決してオスを逃さないよう、これより放たれる己を孕ませてくれるオスの汁を一滴たりとも零さないよう締め付けてくる。
 これらの準備は一瞬だった。一瞬で時子のオマンコは、俺の欲望を貪り、取り込む準備を整えた。
 白濁した欲望が、鈴口から解き放たれるその刹那。
「ちょーだい、弓弦の全部。私の全部を、弓弦にあげるから」
 欲望に染まったその黒曜の瞳は、どろりと蕩けていた。
 そのおねだりに俺は全てを捧げた。全部を差し出した。
 どぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅどぴゅ。
「……! ……! ……!」
 もう俺の全部は精液となって、時子の中に放たれた。
 我慢して我慢して我慢して、ようやく訪れた忘我の境地に至る最高の快楽。
 それはまさに、時子と一つになる感覚。時子の中に俺が宿ることへの幸福感だった。
「あ、あ、ああああ、ああいいいぃぃっ、あははっ、あひぃ、ふふっ、はああああ」
 時子の嬌声がとても心地いい。まるで子守歌だ。俺が一つになったことに対する祝福の歌だ。
 何秒経っただろう。射精がようやく止まる。時子のお腹が少しだけ張っているのがわかった。
 俺の意識が自分の身体へと戻る。長距離を終えたときのような脱力感。でも苦しくない。むしろ気持ちいい。いや、どんどん体調がよくなって、もっとしたい欲望がふつふつと沸き起こってくる。
「はぁはぁ、はぁ、はぁ、すごい、良かったよ、弓弦……とっても幸せ」
「時子……俺も。時子の中とても気持ちよくて、全部出しちまった」
「うん、受け取ったよ、弓弦。弓弦の全部、私の中に」
 離した右手で時子は愛おしそうにお腹を撫でる。まさか、という考えが過ぎる。
「も、もしかしてできた?」
「あー、そういうわけじゃないよ。でも初めて弓弦を受け止めたからさ、感慨深くなっちゃって…………ねえ、弓弦はまだ、父親にはなりたくない? 学生だし」
 少し寂しそうに目を逸らしながら、時子は控えめに尋ねてくる。珍しい弱気な時子。
 俺は身体を起こし、ペニスは未だ繋がったまま今度は時子を下にする。正常位の体位だ。
「まだ俺の大きいし、時子のだってまだまだ入るよな? 俺のもっと気持ちよくしてくれよ。俺ももっと時子を気持ちよくして、いっぱいいっぱい注ぐからさ」
「え? それって……」
「俺、時子を孕ませたい。子供作りたい。できるまで何度だって、朝から晩までセックスし続けたい」
「……っ!」
「そんな泣きそうな顔するなよ。どうせするならもっと、淫乱で、俺を快楽漬けにしておかしくしてやりたいって考えてる卑猥な笑みになってくれ」
「なって、いいの?」
「いいよ」
「後悔しない?」
「しない」
「朝まで終わらないよ? 家族の人にバレちゃうよ?」
「バレていい。晴れて公認になって、もう家族がいようが構わずヤッて時子の喘ぎ声聞かせまくってやる」
「っ、へ、変態」
「おう、変態だ。時子のことが大好きなのを、孕ませたいと思ってるのを皆に知られたい変態だ」
「はぁ……でもま、そんなあんたのことが大好きな私も変態か」
「じゃあ変態同士、聞かせまくってやろう」
「うん。たっぷり喘ぎ声あげてあげる。弓弦がいっぱい興奮して、私をボテ腹妊婦さんになるくらいエッチなザーメンミルクを注いでくれるようにね」
「っ」
「あはっ、大きくなった。じゃあ、して、いっぱい弓弦のことで私の子宮も頭もいっぱいにして」
「ああ、いくぞ」
「うん! 弓弦! 好き!」
「俺も。好きだ、時子!」
 こうして俺たちは、煩悩を全部吐き出して年を越してもなおセックスに耽るのだった。
 俺の家族親戚全員、的場家にも関係がバレたけど、構わず俺たちはヤリ続けた。気絶するまで。
 翌日開かれた、的場家も交えた家族会議では、孫をいち早く見るためにはどうすればいいかという議論が年明け早々繰り広げられた。
 俺と時子は無視して初詣に行った。
「なんのお守り?」
「もちろん子供を授かるためのだよ」
「やっぱりか」
「うしし……ねぇ、せっかく振袖着て外出てるんだし、あっちの雑木林で、ね?」
「この淫乱サキュバスめ」
「うへへー、そんなこといって乗り気なんでしょー? わかるんだから」
 全く。その通りだけど。
「バレたらどうするんだ」
「いいじゃない。神様にも見せつけよ」
 着物をはためかせて前をぱたぱたと走る時子を、早歩きで追いかける。
 今年、自由奔放な最愛の女と俺は結ばれた。
 来年はどんな関係に進めるのだろう。
 俺にはわからない。でも悪くはならないはずだ。きっと良い方向に向かうに違いない。
「あ」
「捕まえた」
 俺は時子を林の中で抱きしめる。そして愛を貪り合う営みを開始した。
「今年もよろしくね、弓弦」
「ああ、よろしく、時子」
 長くも短い一年がまた、今日から始まる。
 俺の隣には時子がいる。

[了]
17/12/31 21:42更新 / ヤンデレラ

■作者メッセージ
 というわけで大晦日の除夜の鐘ックスSSでした。
 二日ちょいで書いたので誤字脱字&文章のおかしなところがおそらく満載。もしあったらコメントでご指摘いただけるとありがたいです。

以下オマケ。

「じゃあ、私もいるしもうエロゲーいらないよね?」
「いやいる」
「なんでよー。私という最高最強無欠のエロボディの彼女がいるんだからいらないでしょ。オナニーなら、私の口でも尻尾でも、手でも足でも腋でも翼でも、髪だってへそだって、お尻の穴だって、耳でだってヌいてあげるのに」
「いや、エロゲーはエロゲーで別腹だから」
「別腹ってすごいなんというかムカつくんだけど」
「よく考えてみろ。お前のBLと同じ感じだ。サキュバスのくせにBL好きなお前は、そのキャラに恋してるわけじゃないだろ? そういうシーンを楽しんでるわけだろ」
「……まぁ、確かに、うん」
「つまり俺もそういうシーンを楽しんでいるわけだ。それでもいやだってならお前のBL本全部焚書するけど」
「ぐっ、卑怯な…………はぁ、まぁしょうがないか。器の広いところを見せるのも彼女の仕事だしね」
「物分かりが良くて助かる」
「むっ。あ、でも勝手にプレイするの禁止だからね。絶対に私の前ですること。あと、ヌくのは私の手でだから」
「ふむ……じゃあ、そのゲームのプレイと同じようにやってくれないか?」
「同じ? ……なるほど、よし、任せなさい。むしろいい機会じゃない。そのゲームのプレイ内容全部覚えて、弓弦を骨抜きにしてあげる」
「もう骨抜きになってるけどな」
「……もう、弓弦の馬鹿、スケコマシ」
「それより受験勉強だろ。進んでんの?」
「頑張るわよ。命がけでね。やっぱり一緒がいいもの」
「……ん、一緒? おい、まさかもしかして、あれのC判定って」
「あれ、お母さんから聞いてなかったんだ? 弓弦と同じ大学よ。C判定だったから半ば諦めてたけど、こうなったら命がけで受かるから」
「今日からセックスは夜だけな」
「はい?」
「命がけで勉強するんだよ! エロゲーもBLも全部廃棄だ廃棄! 今日から徹夜でセックス除いて勉強漬けだからな!! 俺が全部教えるっ!!」
「えーと弓弦さん?」
「俺のことは先生と呼べ!」
「っ! サーイエッサー!」
「先生だ!」
「はいコーチ!」
「ちげぇっつってんだろ!」
 このあと滅茶苦茶勉強した。
 なんとか一緒の大学に受かった模様。
 そして同じ部屋に同棲した結果、セックス漬けで単位がやばくなる模様。

 はい、ちょっとしたオマケでした。
 本編でいれろよというツッコミが聞こえてくる気がする。

 それでは皆様良いお年を。来年もよろしくお願いします。
 多分次回はヘルハウンドさんになります故。
 それではまた。

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