第十章 蒼い炎に浸って:竜泉窟
―1―
番いの儀を終えてから四年。ぼくたちの周りも色々と変わった。
何から話したらいいかな。うーん、とりあえず、クイーンスライムのリゼラさんから。
リゼラさんはぼくたちが番いの儀を行って数か月の後に、番いの儀を行った。ぼくももちろん参加して祝わせてもらったよ。
クイーンスライムさんだからかドラゴニア城がリゼラさんの妹? 姉? お母さん? でいっぱいになって大変だったけど無事、リゼラさんたちが見染めた男の人と永遠の愛を誓い合った。
ぎゅーぎゅーで皆スライムさんに溺れそうになったけどね、ふふ。
「いまになってわかったが、我らが夫を襲うことを決められたのは呈の魔力のおかげだろうな。感謝するぞ、呈」
あのときは全然龍の魔力は持っていなかったけど、リゼラさんはぼくの魔力が夫さんにアタックするきっかけを作ってくれたと思ってるみたい。本当のところどうかわからないけど、そうだったら嬉しいな。
モエニアさんは番いの儀以降色々と大変だったみたいだよ。ドラグリンデ城の自室に一週間以上も引きこもっちゃったみたい。天の柱を思い切り壊したこと、ぼくたちに容赦なく襲い掛かったこと、それがドラゴニア中に放送されたこと、そして、最後にあんな醜態(本人曰く)を晒してしまったことで部屋から出られなくなったみたい。
ぼく的には最後のあの可愛らしいモエニアさんで許されたと思うけどなぁ。
そして引きこもりから脱したモエニアさんにぼくたちが会いに行ったら、思い切り逃げられた。追いかけまくった。隠れられてしまったので夫のランパートさんに頼んでみたら一発で見つけてもらった。さすが夫さんです。
モエニアさん曰く、ぼくたちの番いの儀にも参列できずに行為に浸っていたことがとてもショックで合わせる顔がなかったんだって。あれはしょうがないと思うけどな。
一応、ぼくの手元にあのときの番いの儀の記録映像がある。だからせめて見せてあげようと思ったのだけど。
「くぅ! 生で呈とスワローのちゅーが見れるはずだったのに! 私としたことがっ!!」
悔しそうに泣くモエニアさんの言葉にぼくは冷笑を浮かべて、記録映像は心の内側で握りつぶすことにしたよ。まぁ何年かしたら見せてあげないこともない。
まぁ、それ以来、モエニアさんとは頻繁に会っている。ドラゲイ時代から生きているモエニアさん。竜と人の両側面からドラゲイとドラゴニアを知っているのが彼女なので、ぼくたちは時間があるときはモエニアさんにドラゴニアの深い場所まで案内してもらった。
気高いモエニアさんも気弱なモエニアさんも、なんだかんだ面倒見が良いのだとそのときに再確認できた。
いつかお二人の子供が見たいな、と言うと顔を真っ赤にして怒られた。やっぱり可愛い。
それからモエニアさんに紹介されてぼくたちはドラグリンデ様ともお会いした。デオノーラ様の妹様という噂は本当みたいで、デオノーラ様にそっくり。でもモエニアさんに聞いていたよりもずっと気さくで、お話しやすい方だった。
夫のユリウス様も圧政を敷いていたなんて信じられないくらい優しいお方だった。きっとこっちが本当のユリウス様なのだろう。身分とは良くも悪くもその個の在り方をおかしくしてしまうものだと思う。ぼくとスワローがそうだったように。
そして、ドラグリンデ様からはあの可愛らしいデフォルメ竜の絵を頂いた! やった! これは一生の宝物にしないと!
ふふふ、この子に見られながらのセックスも悪くないかもしれない。スワローがすごく嫌そうな顔をしていたけれどきっと気のせい気のせい。
そして、メッダーさん。
ブーケを受け取ってくれたメッダーさんだったけど、残念ながら番いの儀をすぐに行えるような相手を見つけることは叶わなかった。
すぐには、だけどね。うん。あの日から四年経ったいま、メッダーさんはついにお相手を見つけることができていた。その相手というのが実は……。ふふ、これはスワローから話してもらおうかな。
その彼とメッダーさんはもうすぐ番いの儀を執り行うことが決まっている。四年に一度の天の柱の大規模修繕、その直後の第一号番いの儀がメッダーさんの式だ。
その緋色の鱗よりも紅く顔を染めて、うっとりと夫となる男性に寄りかかるメッダーさんは、とても可愛らしかった。ぼくらに見られていることに気づいてすごく慌ててたけどそこがまたね、可愛いんだ。
その男性もメッダーさんみたいに酒豪で、飲み比べの席で知り合い、酔った勢いのままベッドに同伴したらしい。
そして、目が覚めた直後、ベッドの上で正座した男性から「責任を取らせて欲しい。自分と結婚してくれ」と突然プロポーズされたとか。
寝ぼけ眼だったメッダーさんは一瞬で目が覚めて、同じように正座(?)になって「不束者ですが」と答えたんだって。
そのあとどうなったかは教えてもらえなかったけど、きっとそのまま夜までしっぽりとセックスをしたんだろうな。
なんにせよ、メッダーさんの番いの儀が控えている。ぼくとスワローの責任は重大だった。
頑張らないとね! スワロー!
だな、この四年で色々変わったし。
まず妹が産まれる報告を受けたすぐあと、エリューさんとヴェルメリオさんがおれたちを尋ねに来た。
サーナさんとルーナさんのバーで歌った物語の後半。その答えが歌で披露された。ドラグリンデ様とユリウス・レグライド・ドラゲイ王が紆余曲折を経て、雌竜と雄竜、番いとして結ばれた物語の顛末を。数多もぶつかり、弾かれあった彼女たちは竜となることでついに固く結ばれたのだ。おれたちがそうなったように。
おれたちの回答は言葉ではなくその姿で示されたと、エリューさんはおれたちを祝福して去っていった。今日も地下のグランドワームの巣で、時に魔界バー「月明り」で物語の歌を奏でていることだろう。
おれたちの番いの儀で男泣きしてたセルヴィスには当然、赤竜の外套を返した。一週間越しになってしまったけど。
デオノーラ様からお叱りなどはなかったらしい。弟思いだとむしろ褒められたそうだ。一安心である。セルヴィスからあれを預かっていなかったらモエニアには勝てなかっただろうし、感謝してもし切れない。
「俺たちもそろそろ子どもが欲しいからな」
「セルの子供! 欲しい欲しい! 呈ちゃんのアレやろっ!」
そんな二人も、母さんたちに子供ができたことに触発されて一心不乱に交わっているらしい。おれたちの番いの儀のあとにした一週間耐久セックスの真似をして絡み合いながらヤッているだとか。
まぁ別に真似してもいいけどさ。頼む、恥ずかしいから口にはしないで欲しい。ただでさえ巷であのセックスが流行っているとか言われて、町を歩けばニマニマと生暖かい笑みを投げかけられるんだから。
とある店では妻の下半身をラミア化する薬も販売され始めたそうだ。キサラギの仕業かと最初は思ったけどそうではない。
キサラギはドラゴニアから出て行った。
おれたちが番いの儀を行い、一週間の交わりを開始した直後のことらしい。店の中身は綺麗さっぱりに片づけられ、別の魔物娘の商売が始まっていた。まるで夜逃げのようだとおれと呈は思ったけど、ミクスに預けられた言伝でそうじゃないとわかった。
『二人を見てたら、うちも夫が欲しくなったっす。あっちの世界に探しに行くんでお二人ともお達者で』
ミクスの話だと、未婚者の中で一番呈の蒼い魔力を浴びていたのがキサラギだったそうだ。呈とキサラギが会っていた数は少なくなく、龍に覚醒する前にキサラギの中で内在していた呈の魔力が、呈が覚醒すると同時に濃密な蒼い龍と白蛇の魔力へと変容したらしい。
その自覚症状もなく、キサラギは夫を渇望する心が触発され、ファリアさんに手伝ってもらい向こうの世界へ渡ったようだ。
おれと呈が結ばれるきっかけを幾度となくアシストしてくれたのがキサラギだ。呈と会う前からもおれのことをサポートしてくれていた。だから直接お礼を言いたかったんだけど、向こうの世界に行ってしまっては易々とお礼を言えない。
でも夫を見つけたらまたこっちに帰ってくるらしい。そのときは盛大に祝って、お礼の言葉を贈るとしよう。
おれを幾度となく天の柱から放り投げてくれていたヴィータとはいまでも親交がある。というか、しょっちゅう会っている。キサラギやミクスと違って、唯一ドラゴニアに残ったヴィータは夫とともにドラゴニアの観光巡りをいまさらながらしているそうだ。思考回路が似ているのか、ドラゴニアの僻地で結構遭遇するのである。
ヴィータがおれを目の敵(とおれは思っていた)にしていた理由も全部わかったので、その辺りのわだかまりは解消された。まぁそれでも苦手意識はある。ミクスと似ているからというのが大きい。
それに遭遇したら「見せ合いックスしよう!」って夫とセックスし始めるし。おれたちがシているところに乱入してくることもままある。完全に故意犯だ。
おれを守るため、魅力的なドラゴニアをほとんど回れなかったという後ろめたさも若干、多少、ほんの少し、ちょびっとだけ、ないこともないので付き合ってはいるけど。
ヴィータに夫がいる以上おれに手を出さない確実だし。呈が拒否しないのならおれも構わない。
でもさ、会う度に夫の惚気話を日が暮れるまで聞かせるのはやめてくれ。そして呈も張り合って惚気話を繰り広げるのはやめてくれ。とてもむず痒いし、ヴィータの夫さんも困ってるからさ。
そして、ミクス。
ミクスは番いの儀を終えてしばらくして、家でゆっくりしているおれと呈に別れの挨拶を告げに来た。
「明日、僕はドラゴニアを出国するよ。向こうの世界に戻るとする。色々と忙しくなってね」
「随分急じゃん」
「いやいや、そうでもないよ。それどころかゆっくりしすぎたくらいさ。食べ収めに逆鱗亭とかラブライドとか回ってたからね。元々は呈とスワローの番いの儀が終わったらすぐにあっちの世界に戻るつもりだったんだよ」
「その、ミクスさん、一つお尋ねしてもいいですか?」
「うん。なんだい? 呈の頼みだ、僕は何でも話すよ」
ミクスから許可をもらっても、しかし呈は尋ねるか尋ねまいか悩んでいるようだった。ミクスの笑みが胡散臭いから、というわけではないだろう。ミクスが胡散臭いのは笑みだけでもないし、いつものことだ。
たっぷり十秒ほど悩んで、意を決したように呈は顔を上げる。その紅い瞳に迷いはなかった。
「スワローの元になった魂さんたちは、向こうに還っていったんですか?」
驚いたのはミクスだけでなく、おれもだった。
天の柱最上階でおれの身体に入り込もうとした、おれの元となったまつろわぬ魂たち。その無数の魂はここドラゴニアで世界中へ散った。この魔物娘が住まう世界、魔物娘の存在しない向こうの世界両方へと。
呈も向こう側の世界へ魂の一部が去っていっていたのを感じ取っていたらしい。
「ああ、そうだね。還っていったよ」
そしてミクスも。ヴィータの話ではおれが天の柱に関わる全容を知っているのはミクスとファリアのみだという。
天の柱に登るのを表では協力しつつ裏で妨害していた。それがおれと呈の成長を促すため、というのであれば一応納得できる。だけど、それ以外の理由もおれにはあるように思えた。
だって、ミクスは胡散臭い。
「……これは質問攻めに遭う前に自分で吐いたほうがいいかな」
お手上げというように両手をあげるミクス。どうやらわかりやすい表情になってしまっていたようだ。
「まぁ詳細は省いて要所だけ話すけど。向こうの世界の怨念の魂集積体、まつろわぬ魂は僕たちの世界の魔力に導かれてここドラゴニアの天の柱上空に出現したんだ。それが魔力のおかげか僅かな善性を抽出してスワローを受肉させた。残った悪性の魂は魔力の影響を受けて魔物娘として転生を果たすはずだったんだけど、どういうわけか影響を受けずに天の柱上空に滞留し続けていたんだよね」
「それは、なんで?」
しかし、ミクスは肩を竦める。
「僕も正直、何故かはわからないよ。ただ、呈には言ったと思うけど魔力には意思が宿る。もしかしたら、その魂を通して向こう側に未だあるまつろわぬ魂を感じ取ったのかもしれない」
感じ取ったらなんで、そのまま放置するんだ?
「僕の勝手な推測だけどね、意思の宿る魔力は向こう側へ魔物娘が自由に行き来することのできる可能性を残したんだと思うよ。そこで僕の出番さ。スワローに天の柱に登ってもらうよう仕向けてね。スワローとまつろわぬ魂が合わさったその刹那、善性と悪性が混じり合うことで生まれる混沌のエネルギー、それを伴うまつろわぬ魂たちが向こうの世界へと還る瞬間を観測したのさ。再現性はばっちり。もうじきどの魔物娘もそれどころか人間だって向こうの世界へ行けるようになる。逆もまた然り」
悪びれもせずおれを思い切り利用していたことをぶっちゃけるミクス。怒りよりも呆れの方が先んじた。
「まぁ、そうなるためにはスワローには想い人を見つけてもらわなくちゃいけなかった。ヴィータがそうなるかと思ったけど、彼女はそうはならなかった。呈がスワローを見初めて愛してくれた。スワローも呈を愛してくれた。だから怨念を払えた。それどころか、怨念を救いもしたんだ。驚きだったよ、君の答えは。うん、ドラゴニアは良いところだ」
見てのかよ。見られたのか? おれとまつろわぬ魂しかいなかったはずなのに。
「だから呈。向こうに還った魂は無事だよ。無事、転生する。人としてか魔物娘としてかはわからないけど、スワローの元だった魂たちは消滅したりはしない。安心するといい」
「……良かった」
呈がほっと息をつく。ああ、だから気にしてくれていたのか。本当に、呈は。
「本当優しいね、君は」
心の中で思ったことをミクスが代弁してくれた。
「嫉妬の炎で他を排斥しながらも、そこに幸せがあるよう導く。僕よりもずっとずっと魔王様の意思を汲んでる。尊敬に値するよ、呈」
ミクスには珍しい惜しみない称賛の言葉。頬を朱に染めて照れる呈のことが誇らしい。
「そんなぼくは。それよりもミクスさん。最後までありがとうございました。ぼくとスワローをここまで導いてくれて」
目を丸くするミクス。しかし、苦笑いをして頭を横に振った。
「僕にお礼を言うのはお門違いだよ、呈。利用していたんだしね。それに正直に言うとね、まつろわぬ魂たちを観測しつつ、スワローと呈を無事結ばせるためだけなら、妨害は必要なかったんだ。君たち二人はもう十分に魔力で結びついていた。分かたれることはなかったんだ」
妨害。ヴィータやワイバーンたち、そしてモエニアのことか。
「それでも僕が君たちに表で協力しつつ裏で妨害していたのは、呈、君が龍へと昇華する瞬間を見たいというエゴがあったからだろうね」
「エゴ?」
「うん。呈が龍へと成る素養をキサラギを通して知った瞬間から、色々と根回ししてたんだ。だからね、恨みこそすれ感謝する必要はないのさ。もっと上手く、傷つけることなく君たちを導く方法はあったんだからね」
微笑んだまま、しかし眦は泣いているように下がっていた。
それはある種、罪の告白でもあるように思えた。でもそうか? 罪か? おれたちが成長するよう導いてくれたミクスの行いは本当に罪か?
「違う。違うよ。ミクス」
「スワロー?」
「やっぱり感謝しかないよ。だってあの天の柱の経験がなかったら、いまのおれはなかったんだから。例え、呈と無事結ばれていたのだとしても、いまのおれは絶対にここにはいなかった」
おれの言葉に呈も頷いて同意してくれる。
「……そうです。あれがなかったら龍と成れたぼくはここにいなかった。スワローをもっと気持ちよくしてあげられる手段は得られなかった。ミクスさんがエゴだというそれは、絶対に意味があるものでした。それに、ミクスさんは一つ忘れてます」
「え?」
「ぼくが龍に成れていなかったら、ヴィータさんやあのワイバーンさんたちに男性を見つけてあげられなかったかもしれないじゃないですか」
「あ。ああ…………あははっ!」
放心したように頷いて、しばらくぼうっとしたあと、ミクスは突然吹き出した。
黒真珠の艶やかな髪を大きく揺らす笑いは、数秒前の自分を笑い飛ばすような、気持ちのいいものだった。
そして、ひとしきり笑った後、ふぅとミクスは息をつく。
「君たち二人は本当に幸せに導いてくれるよね。ありがとう、二人とも。おかげで心残りがなくなったよ。安心して向こうに行ける」
「次はいつドラゴニアに来るの?」
「デオノーラ様から請けた依頼をこなさないと行けないし、まだ色々実験しないといけないこともあるからね。早くても三年かなぁ」
「デオノーラ様の依頼?」
ミクスはきらんと目を輝かせた。
「ふふん、聞いて驚くなかれ! 近いうち、ドラゴニアは世界でも屈指の観光大国へと発展する!」
「もう観光大国だと思うけど」
チッチッチとミクスは舌を鳴らして人差し指をフリフリする。
「ドラゴニアはね。未だどこの国も成し得ていない、世界初! 異世界人を観光客として呼び込む唯一の国となるのさ!」
「「…………」」
えーと。
「あれ、反応が薄いね」
「あー、実感が湧かなくて」
「すごい、んですよね?」
「つまんないの。君らが一番の立役者なんだぜ?」
「あ、さっきの魂の観測がどうとかって」
「うん。二人の番いの儀を無理矢理セッティングしたのと天の柱を私的利用したことへの対価でね。ドラゴニアに優先的に向こうの人間を案内することを約束したのさ。幸いにも向こうの人間は竜に憧れを抱いている人が多いからね。多分楽勝で話に乗ってくれる」
おーおーあくどい顔してる。
「そういうわけだから、多分また会えるのは結構時間かかるよ。それとも二人とも僕とはもう会いたくないかな?」
「面倒ごとに巻き込まないんだったらいつでもいいよ」
「そいつは無理な相談だ。僕が誰かに会うとき、それは企みを抱いて近づいているってことだからね」
「質悪い」
そうやって笑い合い、世間話に花を咲かせた後、ミクスは席を立った。
「じゃあね。二人とも元気で。キサラギへの伝言は確かに受け取ったよ」
「そういえば、ミクスさん。ぼくのこと、呈って呼び捨てしてくれるようになりましたよね?」
そういえば確かに。いつの間にか呼び捨てだった。前まで「呈ちゃん」って呼んでいたのに。
ミクスは、いつものような胡散臭い笑みとはまるで違う、対等な存在へと向ける真摯な笑みを浮かべる。
そして、呈に右手を差し出した。
「握手」
「え、あ、はい」
握る。そして、ミクスは握手したまま呈を抱き締めた。
「尊敬に値するって言っただろう? 君はもう立派な大人だ。僕と対等なんだ。僕は、僕が対等だと思う相手を呼び捨てにしたいと思ってる。スワローと同じようにね」
「……はい。ありがとうございます」
呈は嬉しそうだった。なんとなく理由はわかる。多分おれと同じ。他人から認められるのは嬉しいものだ。
「えっと、ぼくもミクスさんを呼び捨てにした方がいいんでしょうか?」
「……ぷっ、あははははっ! 別に無理にしなくていいよ。互いに臆面なく接する。図々しいくらいにね。それが対等ってことさ。呼び捨てするしないは自由だよ」
背中をぽんぽんと叩き、ミクスは呈から離れた。その顔は随分と晴れやかに見える。少なくとも、今日おれたちを尋ねてきたときよりは。
「君たちの歩む道と僕が歩む道、それらが再び交わるときを楽しみにしてるよ」
そうして、ミクスはドラゴニアを旅立った。
そして忘れないうちに話しておこう。
ミクスがデオノーラ様から請けた依頼。
それが思わぬきっかけとなって、あの緋色のワーム、メッダーさんに春をもたらす。
そう、おれが元いた世界。向こうの世界より来訪した観光客。
メッダーさんが結ばれたのはその観光客の一人だったのだ。
―2―
そして、おれたちはというと。
「スワロー、高さは大丈夫?」
「ちょうどいいよ。いい感じ……もう少しで終わる」
真っ白な作業着を着たおれと呈は竜翼通り近くのとある一軒家にいた。周囲は閑散としているけど、遠くから竜翼通りの喧騒が僅かに届いている。
おれたちの着る薄地の作業着の胸には剣と竜翼、そして竜の顎が合わさった形のドラゴニアの紋章が胸にワンポイントだけある。ドラゴニアの竜騎士、そして竜工師の証。
おれは手に持つワーシープウールのローラーで、特殊な白の塗料を訪れていた家の外壁にまんべんなく塗っていった。呈もおれと同じ作業をこなしている。
ここの外壁はちょうど二階部分に当たる場所。
おれは龍の姿となって浮遊する呈の尾に乗って作業を行っていた。もう慣れたもので、呈の尾に乗って逆立ちなり曲芸なりできるくらいバランスを掴めている。ローラー作業を二人同時に行うのもお茶の子さいさいというやつだ。
呈の尾先に巻き付けた金輪には幾つかの缶が引っ掛けられており、それぞれ色の異なる塗料と刷毛がある。外壁の塗装を終えたおれはローラーを直し、灰色の刷毛を手に取った。
「よしよし、あとはあそこだな。呈よろしく」
「任されたよ」
屋根部分へと行き、四つ角の一角へと呈に連れられる。石屋根と一体になり、この家屋を守るように鎮座する雄々しいドラゴンの彫像。日に焼け、風雨に晒されていたドラゴンは少し薄汚れていたが、それがこの家を今日まで守っていた勲章だと言わんばかりに威風堂々としていた。
このドラゴンを生まれ変わらせるため、おれは刷毛を伸ばし、薄汚れてしまった彼女を綺麗に塗り替える。
「これで……よしっと」
最後に黒の瞳を入れて終わり。翼を畳んで鎮座するドラゴンはその力強さを取り戻した。これで今日からもこの家を守ってくれることだろう。
「スワローもだいぶ手馴れてきたね」
「いやいや、正直これを塗るときはまだ緊張しっぱなしだからな?」
手に汗握ってるからな。
呈は蒼い炎を迸らせ、屋根よりも高い位置へと行く。上から外壁と屋根を見下ろしていき、周囲を回って抜け落ちた部分がないかつぶさに確認した。
とりあえず塗り忘れはなさそうだ。ほっと息をつく。
「おう、新入り。終わったか?」
突然声をかけられておれは肩がびくっと上がる。下から声をかけてきたのは新緑の竜形態のワイバーンに乗る髭もじゃ親父。皆からはビッグベアと呼ばれている壮年の男性。おれの師匠にして、おれが所属している竜工師のチームのリーダーである竜頭長を務めている人だ。
そう、デオノーラ様から紹介してもらった人である。おれは親方と呼んでいる。
「お疲れ様ですビッグベアさん」
呈は皆と同じように呼んでいた。
「どら、確認してやるよ」
熊よりも、それこそ逆鱗に触れた竜みたいに鋭い目つきの親方は、険しい表情で家の周囲を見て行った。
正直、塗っていたときよりも緊張する。この瞬間はどうも慣れない。
「……ふん。まぁちったぁマシになったな。彫像の塗りも悪くない。ただちょっと瞳の入りが弱いな。もう少し魂込めろ。俺たちの仕事はドラゲイ時代の意匠を崩すことなく修復、補強することだがな。ただ維持すれば良いってもんじゃねぇ。直す者の魂を込めて、命を吹き込むんだ」
「うっす!」
背筋伸ばして答える。親方の言葉をきっちりと頭に刻み込む。
「まぁ順調に腕も伸びてる。全体を俯瞰しても手直しするとこは全くねぇ。そこは褒めといてやる」
「もう素直じゃないのねぇ。もっとちゃんと褒めてやりなさいよ」
くすくすと笑うのは親方を乗せるワイバーン。もちろん彼の奥さんであり、もう一人の竜頭長とも呼ぶべき竜である。
「ふん。まぁもうほぼ全行程任せても心配はないがな。それくらいの腕は……もうある」
気恥ずかしそうに言う親方。
「じゃあ、そろそろ新入り呼びやめてくださいよ。もう四年っすよ、親方の下で修行して」
「はっ! 天の柱の大規模修繕を経験するまではどんな奴も新入りだっての。うぬぼれんな!」
「呈のことは普通に名前呼びじゃないっすか」
「呈ちゃんはいいんだよ!」
「ごめんね、スワロー?」
どこかこのやり取りを楽しんでいる呈。全く酷い差別である。取り付く島もない。
まぁ、わかりきっていたことだけど。それにもういまさらであるのだけれど。
「うっし。あとの処理は俺たちがやっとく。お前たちはもう帰れ。三日後から大変になるからな。それまできっちり気合入れて“休め”よ」
「うっす!」
「はい! お疲れさまでした!」
事後処理は親方に任せ、帰路へ着くこととなった。
最後に帰るのが自分。それが親方のポリシーだった。
おれたちは無事、竜工師となっていた。正確には竜工師兼竜騎士だけど。
ただ最初の一年はもっぱら竜騎士としてドラゴニア中を駆け回っていた。ヴィータと幾度となく遭遇していたのもこの頃だ。
いま思うとデオノーラ様の言っていた通り、竜騎士として国中を回るのはいい経験だったと思う。場所だけでなく、そこに住む人や竜と関わることも多かったからだ。
話を聞く機会があるというのはとても貴重だと学んだ。当時のドラゲイ、ドラゴニア初期の話。地方の隠されたダンジョンや遺跡に存在する竜の意匠やドラゲイに関することを知るきっかけともなった。
ここに住んでいた竜と人、彼らの思いを知ることは、彼らが住んでいた家の修繕に勤める竜工師として欠かせないことだったのだ。
まだまだ魂を込めるだとかは難しいが、それでもこの四年で親方にも認められる程度には腕を磨くことができた。何気に塗装は難しい部類である。特に竜の彫像など、ドラゲイ時代の意匠が関わる部分に関しては。竜騎士団での経験がなければ、こう早くはいかなかっただろう。
何より、呈という唯一の雌竜が共に学んでいってくれたからこそだ。一人で学んでいけることはとても限られている。
これからも、呈という竜を知っていくことで、彼女を通すことでおれはドラゴニアのことを学んでいこうと思う。
おれをここへ呼び寄せてくれたドラゴニアのために、おれたちに幸せをくれた竜たち皆のために。
何より、呈のために。
「にぃにー!」
帰り道。日も傾き始め、赤らんできた空の下、竜翼通りの坂道でおれを呼ぶ、舌足らずな声が上ってきた。
坂道を駆けあがってきたのは、赤栗色のセミロングの髪を揺らすワイバーンの幼竜。
「おー、リアラ」
リアラ。三年ほど前に産まれた母さんの娘で、おれの妹。
大きく翼を広げて全速力でタックルしてくるリアラをおれは受け止める。目元の優しいところは父さん似だけど、こういうところは母さんそっくりだ。なかなかやんちゃな娘に育った。元気いっぱいでおれは嬉しいけど。
「にぃに、ねぇね、おしごとおつかれさまでしたっ」
おれの胸下辺りで抱きつきながら顔だけ上げて、おれと呈を労ってくれる。
あぁ、やんちゃだけど根っこはとても優しい。舌足らずなところがとてもキュートでほわほわする。きっと目に入れても痛くないとはこのことなのだろう。
「ありがとう。リアラちゃん、今度はねぇねと抱っこしよう?」
「うんっ」
「あ」
呈に呼ばれてすっとリアラは離れて行ってしまった。ほわほわが雲散霧消する。
リアラに真正面から抱き付かれてご満悦の呈が、リアラに見えないところで少し頬を膨らませておれからぷいっと顔を逸らした。
こんな小さい妹に嫉妬しないでくれよ……。
「近しいから駄目なの」
心読まれた。
「リアラちゃん。尾に乗る?」
「! うん、のるのるー!」
呈の尾の中腹あたりにリアラが馬に跨るみたいに乗ると、呈は大きくそれを持ち上げて彼女を高く舞い上がらせた。
「そぉれー」
上下にゆらゆらと揺らしてくる尾に、リアラは嬉しそうにきゃっきゃっと笑う。
ワイバーンだしもう三歳だから自前で飛べるけど、首がすわってからこうやってあやしてたものだから、いまでもこれがお気に入りらしい。おれにも尻尾があればと歯噛みしたことは一度や二度では済まない。羨ましい。……ラミア化の薬って男にも効くのだろうか。
「もう、しょうがないなぁ。はい、スワローも」
おれが乗りやすいところに呈が尾を下ろしてくれる。ちょうどリアラの後ろ。
いつもはこのまま帰るけど、どうしてか今日は優しい。ただ、気持ちが変わってしまったら困るのでおれはさっさと呈の尾に乗る。
直後、呈は蒼い炎に噴出させた。龍モードに移行したのだ。そして、ふわりと浮力を得たようにゆっくりと大空を高く飛ぶ。
「たまには飛んで帰ろう?」
「わーい、たかいたかいー!」
竜翼通りを歩く人の姿が豆粒くらいの大きさになるまで高く上昇し、おれたちは家路につく。方角は母さんたちの家。ただし竜口山方面ではなく、ドラゴニアヒルズ方面。小高い丘に白い家々が立ち並ぶ雲上都市だ。
リアラが産まれて間もなくして、母さんたちはドラゴニアヒルズに引っ越したのである。産まれたばかりのワイバーンには何より大きな空、高い場所を、風を感じられる場所で育てた方がいいらしい。その方が伸び伸びと成長する。おれのために引っ越ししてくれたときと同じだ。理由はほとんど逆だけど。
おれはリアラが落ちないように腰に手を回して、夕暮れのほどよく涼しい風を感じる。呈の炎に守られていて、本当なら凍えるような寒さもちょうどいい。
「今日はどこで遊んでたんだ?」
「えっとねー、ミリアちゃんとヴィーねぇとのとこー!」
「天の柱ね」
「うんそれー。てんのはしらー」
ヴィータ。ヴィータか。あの高笑い黒ワイバーンか。
ミリアちゃんは確かあの名前も知らないハーピィの数いるハーピィの一人だったはず。リアラよりはちょっとだけ年上だけど、近い年齢ということもあって仲良くしてくれているようで感謝している。
ミリアちゃんは心配ない。何度か会ったけどいい娘だ。問題は。
「ヴィータに……へ、変なことされなかったか?」
「? されてないよー」
いや何度も遊んでもらってるのは知ってるし、一応の信用はできる奴だとわかってはいるんだけど心配だ。
「きょうはね。ミリアちゃんとおそらをびゅんびゅんとんでー。おにごっことかかくれんぼしたりしてあそんで、それからそれから、ヴィーねぇにパムムのたべかたをおしえてもらったのっ」
「ラブライドで売ってるのだね」
薄いパン生地で焼いた魔界蜥蜴の肉と竜火草とまかいもを挟んだハンバーガーのような食べ物がパムム。ドラゴニア皇国中にかなりの数のチェーン店を構えているラブライドが販売している軽食だ。
おれと呈も一緒に食べたことがある。もちろん減点一切なく美味しさ満天だった。魔界ハーブの味わい深いソースが引き出す素材の旨味は何度食べても飽きが来ない。
「けど、あれ食べ方とかあったっけ?」
「えっと、食べ方というかとある変わった食べられ方があるというか。ちなみにリアラちゃん。ヴィータお姉ちゃんはどんな食べ方を教えてくれたの?」
「うーんとねー、おそらからびゅーんっておちて、ばくっ! ってするのがおいしいたべかたなんだってー」
「ええと?」
つまり?
「お空からパムム目掛けて飛んで食べるのが美味しいってこと?」
「そー! ヴィーねぇがいってた!」
「全くヴィータは。行儀が悪い食べ方は駄目だぞ、リアラ」
全身で食べ方を表現しようと暴れるリアラが落ちないよう腰を支えながら、釘を刺しておく。間違っても変な育ち方はして欲しくない。
「えー。でもでも。ヴィーねぇはこれでおとこのひととけっこんできたっていってたよっ。ゆいしょただしーたべかただって! わたしもこれでにぃにのパムムたべられるねー」
「「ッ!」」
轟雷に打たれた衝撃だった。これは、まずい!
「おわっ!」
呈の尾がうねり狂うようにぐわんぐわんと揺れる。
ひっくり返らないよう脚で呈の尾を挟み、リアラを落とさないようにしっかりと抱き留めておく。
「て、呈! 落ち着け!」
「べ、べべべつに取り乱してなんかいいいいないよっ!」
わかりやすいくらい尾を揺らしまくってどの口が言うんだ。
「まだ小さいんだし、真に受けるなって」
おれがそう言うと、呈はおれとリアラを落とさないよう器用に尾をくるりと反転した。蛇腹におれとリアラは跨り、呈と真正面に向き合う形となる。進行方向に背を向けて飛んでいるが空なので心配はいらない。
「小さくても女の子だよ。それも魔物の」
ちょっとだけ声を低く、不機嫌な感じで呈は言う。
「おれが呈以外を好きになるって言いたいの?」
そんなことはあり得ないと言うようにおれは尋ねた。呈は「そうじゃないけど」と唇を尖らせながらそっぽ向く。ああ、そんなちょっぴりいじけた様子の呈が本当に愛おしい。
おれを愛していてくれている。おれに愛されたいと想ってくれている。この四年でより顕著に、爛れた感情を示してくれる呈がとても愛おしい。
その爛れて、ドロドロに澱んだ情愛の赴くまま、おれをめちゃくちゃに犯して欲しいと思うほどに。
「ッ……!」
おれの気持ちは伝わったみたいだ。熱のこもった息を一息吐いて、闇色を灯した紅い瞳を情欲に蕩けさせる。
「さすがにここじゃできないからな、呈」
「わ、わかってるよ」
本当にわかっているか甚だ疑問なほどに情欲のこもった笑みを浮かべる呈。このあとすることを思い浮かべて待ちきれないのだろう。空を駆けるスピードがやや加速したのを風で感じた。
「で、でもスワローはそう思ってくれててもリアラちゃんがどう思うかは別問題だから! き、気を付けてねっ!」
「はいはい」
愛しい嫁のお小言に心地よさを感じながら、さっきから一言も発さない件のリアラはというと。
「すーすー」
「寝てるし」
「あ、あの状況から寝たの……?」
さすが子供というべきか、それともさすがリアラというべきか。自由気ままだ。
絶対この娘は大物になる、とおれは確信する。シスコンと言われるかもしれないけど、絶対に。
おれと呈の妹だからな。
穏やかな寝息を立てて眠るリアラを、おれたちはドラゴニアヒルズにある母さんたちの家に連れ帰った。
緑豊かな山々の景観と調和する白い家々が並ぶ街並みの一角。そこが母さんたちの家で、真白さんと聖さんの別荘と隣り合わせにある。
ちなみに真白さんたちは巫女のお仕事もあるので番いの儀からしばらくしてジパングへと帰った。それでも一年に五・六回は遊びに来るし、おれたちもジパングに何度か遊びに行かせてもらった。呈にとっては里帰り。とてものどかで、時間がゆっくり流れている感じもするいい場所だった。
「今日はあっちで寝るの?」
「うん。もう三日後には大規模修繕に入るしね」
「そう。ご飯くらい食べてから行けばいいのに」
夢の中を泳ぐリアラを母さんに預けて、おれたちは家には入らない。
「いやもう呈も我慢できそうにないし」
「ぼ、ぼくだけじゃなくてスワローもでしょ!」
「うふふ、まっ、頑張ってね。たっぷり愉しんでちょうだい」
おれたちがこれから致すことを一から十まで知っている母さんは、意味深な笑みを浮かべて送り出してくれた。
未だに突かれると恥ずかしいことだけど、多少は慣れた。第一もうドラゴニア中に中継されたこともあるのだ。いまさらである。
「さぁ、リアラ。にぃにとねぇねにバイバイね」
「ふぇぇ? あ、ふ、うみゅ……にぃに、ねぇね、バイバイー」
「ああ、またな、リアラ」
「またねリアラちゃん」
母さんに抱きかかえられたリアラの頭をおれと呈が撫でると、安堵したように微笑んでそのまままた夢の中へと羽ばたいていった。
なんだかんだ言いつつも、呈はリアラの可愛さにメロメロである。当然おれも。
そしておれたちは、もう一つの家へと帰った。
―3―
竜泉窟。竜口山よりも竜泉郷に近い位置にある洞窟型住居。
竜泉と名のあるように、竜泉郷ととても密接な関係がある。その最たるものが竜泉郷の湯が住居内に湧いていることだろう。
竜泉窟はどの物件も竜泉完備。温泉の広さもそこそこ幅がある。おまけに魔界ハーブの焚けるサウナ。日によって魔界ハーブの「メルティ・ラブ」や「ストイック・ラブ」などに変えて色々なセックスを楽しめることから、温泉自体にあまり興味がなくてもここに入居する者は多い。
竜泉窟は設備だけじゃなく、適度な湿度と年中暖かい室温保たれていて暮らしやすさ抜群。魔界翡翠が使われた暖かな照明の灯りやインテリアが、よりムードを高めてくれる。
何より洞窟の中。放散された魔力が室内から出にくく籠りやすい。洞窟内の魔界鉱石がそれらの魔力を吸い、住めば住むほどその魔物夫婦に合った住まいとなる。
そして呈は龍泉様に連なる龍の魔力をその身に宿している。竜泉窟と相性はばっちり。
蒼い炎の魔力で室内を満たすのに、これ以上の場所はなかった。
おれと呈が選んだ物件は、温泉の広さに重きを置いたもの。リビングや普通の部屋は小さいが、代わりに竜泉の温泉は呈が尾を伸ばせるほど広く、その隣に併設されている交わり用のマットも広く場所を取っている。
おれたちにとってリビングやらその他の部屋は完全におまけ。
この魔力が一切漏れ出ない温泉部屋こそが最大最高の目的。魔物娘夫婦にとって一番不可欠な寝室なのである。
「スワロー、ご飯にする? お風呂にする? それとも……」
そして温泉部屋に着いた直後、呈は振り返ってそんなことを尋ねてくる。もうその表情は悦楽に期待を膨らませる雌竜の顔。
おれは呈を抱き寄せ、服の上から呈の尻を揉みしだきながら、言った。
「全部」
呈を食べて、呈と風呂に入って、そして呈と交わる。夫婦の営みを今日もする。
「ん、スワロー、ちゅっ、ちゅちゅっ、あふ、んっちゅ」
濡れた唇を啄み合いながら、お互いの服を脱がせていく。服を放り投げて丸裸になったおれたちは、肌を絡め合うように抱き合いながら温泉へと腰かける。
「もうしちゃうね、スワロー」
我慢できないといったように声を上擦らせる呈が、その力を解放した。
おれの精を通したときのみ発現できる膨大な蒼い炎の魔力。龍の炎を部屋全体に撒き散らす。一瞬で部屋は蒼い炎で満たされ、しかもその炎は消えることなくどんどんと火力を増していく。
ここは魔力を籠らせる性質のある部屋。消えやすい呈の蒼い炎ですら消失せずに溜まっていく。流れることなく澱んでいく。暗く昏く。
ギリギリお互いの身体を視認できるほどまで炎の密度が上がると、透明だった温泉は炎と同じ蒼に染まった。
蒼い炎の呈の魔力に侵された部屋で、おれの身体は全身、足先から髪の毛の先まで呈の炎に犯される。口から鼻から耳から毛穴から呈の魔力が染み入り、細胞一つ一つ、体内の至る所まで呈の魔力で満たされる。
「ぅう、はぁあ……」
「うふふ、スワローの身体にいーっぱい他の雌の魔力がこべりついてるねぇ」
嗜虐的な口調で、しかしおれに他の女性の魔力がついていることに悦びの声をあげる呈。
白蛇であれば浮気でなくとも、他の女性と接することを好ましく思わないそうだが呈は違った。おれが他の女性と接することをあまり嫌がらなかった。
むしろ呈以外の魔物の魔力が付くことを悦んでいた。
理由は単純明快。
「いますぐ塗り替えてあげるからね」
舌なめずりした呈の身体から放出されたより濃密な蒼い炎。それがおれの全身を舐めまわすように燃やす。
「くぁっ、あっ、ああっ、ぅはっああがっ!」
それだけで精を迸らせてしまいそうなほど気持ちいい快楽がおれの頭の中を塗りつぶしていく。快楽神経に直接魔力を注がれているような、脳内を直接犯されているような感覚だった。
温泉の中で抱き合った状態だが、自身の身体を支えられずおれは呈になすがまま。
呈がいましている行為は単純だ。
おれの身体にこべりついた他の魔物娘の魔力を、蒼い魔力で取り込んで塗りつぶし、呈自身の魔力へと一気に塗り替えている。
結ばれていない他の雌の魔力では感じないのがインキュバスであるが、それらがもし一瞬で感じることのできる嫁の魔力に変わったとしたら。
普通なら一度では注げない量の気持ちのいい魔力を一度に浴びることとなる。それは全身を嫁の魔力で愛撫される感覚、と表現するのも生温い。
もはや嫁との同化。
自身の存在全てが呈という蛇に丸呑みにされ、溶かされ、吸収され、血肉の一部になれる快楽を味わうのと同義だった。
「ッッッ!?」
全身を貫く雷のような快感に、おれは白濁の精を迸らせた。
湯の中、呈のお腹にぶちまける。尾に座り身体を密着させて、おれは呈に正面からしがみついていることしかできない。
呈に搾られている。触られもせずに塗り替えられた魔力で身体を愛撫されただけでイカされている。
屈辱? どこがだ。最高だろう。
嫁色に染まり切ったこの身体。呈の思いがままにイクことのできるこの身体は最高だ。
「気持ちいい?」
「気持ち、いい」
「じゃあこれは?」
「くぅッ!?」
腰をずらしたかと思うと、おれのガチガチになったペニスがドロドロに熱く滾った蜜壺に包まれた。
「あふっ、んん、どうかな? 一日我慢してぼくのエッチなお汁でいっぱいのぐちょぐちょオマンコは」
「くぁっ、はっ、はぁっ、すげっ肉が蠢いて」
「カリ裏までヒダヒダお肉できゅうってしてあげるね。膨らんだ亀頭はこうやってヒダでこしこし擦ってあげる。竿は上下にぐっちゅぐっちゅ。根本はきゅうきゅう」
耳元で囁かれる淫語がおれの頭を蕩けさせていく。舌で耳を嬲られ上擦った声が漏れてしまう。頭が桃色に満たされ、思考しないまま快楽を貪ろうと腰をゆっくりと上下に振った。
一度すでに射精しているのにもう次弾が装填されている。身体を犯す蒼い炎が精巣の稼働率を最大に、オーバーヒートを起こすほどに精を増産させる。一瞬で陰嚢はパンパンに膨らみ容量過多となるが、これが一回分。これを全部呈にぶちまけるのだ。
だけど、出すならもっと濃くしたい。呈には極上の精を捧げたい。だから、これをより濃度の高い白濁へ高めるため、呈のおっぱいを口いっぱいに頬張った。
「んっ、ちゅーちゅーして、そう赤ちゃんみたいにちゅーちゅーって!」
舌で固くなったさくらんぼを転がして、口をすぼめて千切れんばかりに吸う。呈のおっぱいから溢れた濃厚な蒼い炎で胃も肺も満たし、内側から快楽を感じる。興奮を高めていく。
「あんっ! そうっ、いっぱい揉んでぼくのお尻! スワローのエッチなお手々で揉んで!」
呈の桃尻は指が沈み込むくらいふわふわむちむち。控えめなおっぱいに対してお尻は大きい。完全におれ好みの体形に呈の身体はなっていた。
いっぱい桃尻を堪能しながらペニスをオマンコで扱かれる。上下左右、腰の動きを加えて膣肉でおれのペニスを咀嚼する。粒ヒダがペニスに吸い付いて凌辱してくる。
「いいよっ感じる! スワローのがビクンビクンってして、出るんだね!? 出して出して! ぼくの膣内に! たっぷりどぴゅどぴゅしてぇ……!」
ぐちゅぐちゅぬちゅぬちゅと卑猥な音が身体を通して響き、おれを限界へと昇らせる。
そして、お湯よりも熱い呈の膣内におれのペニスは完全屈服した。
「ッ、ぅぁッ!」
「あはっ! んんんっ、ふわぁぁぁ、スワローのドロッドロの精液がぼくのお腹にいっぱい注がれてるぅ……あはぁ〜」
蕩けた顔で呈も緩やかな絶頂を感じているらしく、おれの精液を一滴残らず吸い取るようにオマンコが収縮した。それに応えるように陰嚢の中身全てをドビュ、ドビュとえぐい音を立てて吐き出していく。
あまりに濃く煮詰めたせいで半固形状の精液は勢いがなかった。それでも尿道をこじ開けられる感覚はおれを忘我の境地へと容易く追いやり、おれは呈にしがみつくことしかできなくなる。
「あひっ、くふぅ、はぁ……すごぉい、スワローのドロッドロの精液、ぼくの子宮とオマンコにこべりついて落ちないや。うふっ、ずっと流れ落ちないでぼくのオマンコを犯してくれるんだね……嬉しいなぁ」
おれの頭を両手でがっちり掴んで、呈がおれの目を覗き込んでくる。紅い瞳が淫靡に揺れ細まり、長い舌の卑猥な赤が色白な肌を這う。
「ふ、ふふっ、どう、だったかな? ぼくの膣内」
「ふぅふぅ、さい、っこう」
もう幾度となく交わり、呈のオマンコを味わっているが慣れもしなければ飽きも来ない。
全身を蒼い炎で犯されながら、呈のキツキツなオマンコに搾られる快楽は筆舌にし難いほど気持ちいい。
だけど言わずにいられない。呈に気持ちを伝えずにいられない。
腰に腕を回し、身体をより密着させて呈の耳元に口を寄せる。
「好きだ、呈好き、愛してる。気持ちよかった。オマンコの締め付けも吸い付いてくるのもやばいくらい気持ちいい。最高だ、好きだ、呈。エッチでスケベで淫乱で、頭の中おれをどう食べるかしか考えてないお前が好きだ、呈」
うわごとのように呈の耳を舐めしゃぶりながら、言葉を紡ぐ。呈を好きだと思う気持ちが抑えられない。抑えたくない。愛おしい、好きだ。もっと呈を感じたい。呈、呈……呈テイてい!
「あんっ、そんな腋まで舐めて……ふふ。全然萎えないね」
「萎えるわけない、だろっ」
「きゃんっ!」
腰をずんっと振るい精液を子宮に押し付けた。
こんな極上な雌竜を前にして、萎えるものか。体力が尽きて意識を失ってもきっとおれのペニスは呈を求めて大きく膨らんだままだ。もっともっと蒼い炎を注いでほしい。呈の中に欲望の塊を吐き出したい。
「ああぁ、あはぁ、嬉しい。まだ最初だし一日目だし、今日はじっくりしっとりしたいから。こんなのはどう、かな?」
呈がおれのペニスを引き抜くと、上半身だけ温泉の脇に併設されているマットに寝転んだ。
緩やかな傾斜を作っている双丘を両手で寄せ、狭く深い谷底を間に作る。さらにそのまま上下左右に揺り動かして、おれを誘うように淫らに蒼い炎を漂わせた。
「ふふ、今度はファリアさん直伝のちっぱい擦り。スワロー、ぼくのちっぱいでまだまだ萎えないペニスをシコシコしない?」
「するっ!」
即答しておれは温泉から上がり、呈のお腹に跨った。もちろん体重はかけすぎないようにするが、呈のお腹にむにゅぅと沈み込む感覚がお尻から伝わって気持ちいい。でもこれからすることはもっと気持ちいいのだ。おれは、息を荒くしながらペニスを呈の双丘の間に乗せる。
寄せて出来た谷底でもペニスの竿の半分も沈まないが、ちっぱいの確かにあるふくよかな感触が蒼い炎と一緒におれのペニスを刺激して、オマンコとは違う気持ちよさにある種の感動を覚えてしまう。
おれは我慢できずに腰を前後に振り始めてしまった。
「あっ、んんっ、スワローの熱い肉の棒がぼくのちっぱいを擦って……んんっ!」
「柔らかいっ、くぅ、亀頭に擦れて」
蜜肉に柔らかく包まれるオマンコの感触とは全然違う。潤滑油が汗しかなくて引っ掛かりのある柔いおっぱいにカリ裏が擦られて、亀頭は呈の鎖骨を突く。奥まで突けば陰嚢が下乳に触れて興奮する。精がますます増産される。
柔さと固さの同時責め。腰を動かしているのはおれなのに、呈に動かされているのかと錯覚してしまう。
「はぁはぁ、呈のおっぱい、乳首」
腰を上げておっぱいに斜めから突き刺すようにペニスを擦る。
「あんっ、スワローのペニスがぼくの乳首を擦ってるっもっと! もっと激しく擦って! スワローのペニスでぼくの乳首犯してっ! あぁん、れろっ」
さらにおっぱいを寄せ、両方の乳首でおれのペニスを亀頭から竿にかけてまで擦る。乳首の硬い感触がペニスを擦ってくる感触におれの興奮はどんどん高められていった。
その上で呈の長い舌がペニスの鈴口をチロチロと舐めしゃぶる。尿道の中まで侵入してきた舌は腰を振るう度に内側からおれのペニスを扱いてきた。
「はぁはぁはぁ! くっ、もう出る、出すぞっ出すからなッ!」
こんな同時責めに耐えられるはずもなく、おれは盛大に固形ゼリーのような白濁の汁を鈴口から吐き出す。
呈のおっぱいに興奮した証である精液を顔とおっぱいにかけられた呈は、舌を垂らして愉悦の表情のまま身体をビクンビクンと震わせた。
「あひっ、イッちゃったぁ……スワローのエッチなお汁ぶっかけられてぼくイッちゃったぁ。はあぁんん」
半固形状の精液は呈の顔にこべりついて落ちない。おれ色に染められた呈の顔とおっぱい。蒼い炎に映える白濁の液体は呈の白肌を汚していて、ますます興奮する。おれ好みの最高のヤマトナデシコになっている。
「はぁはぁ、呈ッ!」
「うむっ!?」
おれは我慢できずに呈の口の中へ、ペニスを突っ込んだ。
最初こそ驚いた呈だったが、すぐさま嬉しそうに目元を垂らし、喉を鳴らしながらおれのペニスに舌を絡めてくる。
「ぐちゅぐちゅるるるっるちゅぶちゅれれろちゅぶっちゅるっ、んぐっちゅっれろれろっ」
卑猥な水音を立てて呈が舌を触手のように蠢かせる。そんなオマンコとは別の蜜壺におれは腰を振るって突き入れた。
「うぐぅぅっ! うふぅぐごっ! うぶっ!」
喉奥を貫く感触。それでも呈は愉悦に表情を彩り、舌だけでなく喉すらもきゅうっと締め付けておれのペニスから新たな汁を搾ろうと責めてくる。さらに手で陰嚢を愛撫し、揉み解してきた。蒼い炎を宿した手でだ。
「ふぅふぅ、あっ、くぅ」
もっと激しくしたい。そんな欲望に駆られたおれは呈の頭を掴み、情欲の赴くままに呈に頭を動かして腰を振るった。
「むぐぅっ!?」
根本まで入ったペニス。亀頭は喉を通過して食道にまで及んでいる。抜き差しする。唇ギリギリまで引き抜き、亀頭の先、鈴口が空気に触れる寸前で。だけどそれ以上は呈が唇できつく吸い付いて放してくれない。
おれは直後、大きく腰を振るって呈の喉奥を剛直で突いた。
「んごぉおっ!」
まるで子宮を突かれたときのように絶頂した呈は口の中を真空状態にしてきつく亀頭を締め付ける。その状態のまま喉奥へと誘われ、ペニスをきつく擦られたおれも、呈と同じ場所へと昇らされた。
「喉奥に直接っ、呈っ!」
根本までペニスを差し込んだ状態での射精。頭をおれに掴まれている呈に逃げ場などなく、大量の精液を食道に直接流し込まれる。
涙目になっている呈だが、それは苦しいからではない。あまりにも気持ちいいからだ。おれの精液を直接喉奥に注がれている感触に快楽を感じてくれている。
それはおれも同じ。呈の狭い口の中、それも喉奥に直接精を注ぎ込む感覚は癖になりそうなほど気持ちいい。プルプル震える喉肉は膣肉にも勝るとも劣らない素晴らしい媚肉。
その上、手で陰嚢に直接蒼い炎を注ぎ込まれ、精を増産した直後にもう吐き出している。連続射精に堪らず、もう奥まで行っているのにどんどんと腰を押し付けてしまう。呈の口に沈み込んでいってしまう。呈の胃をおれの精液で満たしていってしまう。
それが堪らなく嬉しい。
ずるっと卑猥な水音を立てながらペニスを引き抜く。
「ごぷっ、けぷっ、あ、あふぅ」
呈は精液のこべりついた舌を垂らして、口の中は白濁の泡を作っていた。鼻提灯を膨らませ、目は空虚な場所を見つめていて、忘我の境地に浸っているのがわかる。
エロすぎる。呈のこの顔だけで三度イケるくらい。でもただイクなんて勿体ない。色々なところでイキたい。呈に精を捧げたい。
「呈、ずっと前からやってみたいと思ってたとこでやりたい」
「ふぇえ?」
「おれ、呈のお尻の穴に犯されたい」
「…………」
呈が唇を閉じる。そして、精液を垂らす口の端をゆっくりと大きく引いた。
淫蕩が象られた娼婦の笑み。おれだけの娼婦、ヤマトナデシコの淫乱な笑みに呈の表情は染め上げられる。
呈はおれの股下から抜け出すと、おれの前でうつ伏せになってお尻を大きく突き上げた。大きな真っ白な桃尻がふりふりと誘うように振られる。蛇体と女体の境目の尻の割れ目が、いやらしくおれを誘惑していた。
おれは呈の揺れるお尻を掴むと、顔をその割れ目に突っ込んだ。鼻と口が割れ目に挟まれ、目と頬が肉厚なお尻布団に包まれる。
「すぅー」
「んんっ!」
呈のお尻に顔を埋めたまま息を深く吸い込む。甘いような酸っぱいような、思考をぼやけさせる陶酔の香りが鼻腔を満たす。
この匂いの元はどこだろうか。さらに押し付けてくる呈の桃尻に顔をぐりぐりと押し付けて、匂いの元を探る。すぐに一際きつい匂いの元を嗅ぎ取ることができた。
顔を上げて、お尻掴み、割れ目を大きく広げる。
境目の中心。クレバスの底。肌の色と変わらない綺麗な色をした、一点の穴を中心に幾つもの皺が広がる秘穴があった。
「これが呈の、お尻の穴」
「あぅ、あんまりジロジロ見られると恥ずかしいよ……」
「何気にちゃんと見るの初めてだし、しっかりと目に焼き付けとこう」
「意地悪ぅ…………ねぇ、もう我慢できないよ、ぼく。早く、弄ってぇ」
フリフリお尻を振りながら、呈はアナルをきゅっきゅっとすぼめたり広げたりを繰り返しておれを誘う。
オマンコとはまた別種の、排泄の穴を弄って欲しいと懇願する呈のエロさにおれは興奮が収まらなかった。
呈の肉厚なお尻に吸い付きながら、焦らすようにしてゆっくりと呈のアナルへと進む。
「んん、あはぁ、早くぅ」
呈のしっとり濡れた尻肉を味わい、アナルに辿り着くとおれはその皺に舌を這わせた。
一本一本丁寧に。味わい尽くすように呈の綺麗なアナルの皺をなぞっていく。
「あ、ん、ふっ、んんぅっ、お尻の穴、チロチロって舐められてるっ! いいっ、気持ちいいよぉスワロー……もっとぺろぺろってぼくのお尻の穴舐めてぇ……んひっ! あ……あっ、ん、舌ぁぼくのお尻の中にぃズブッてぇ……!」
呈の淫乱なおねだりに我慢できず、おれは呈の尻穴に舌を突き刺した。
瞬間、甘い痺れが舌を駆け抜ける。まるで舌が溶けてしまったかのように感覚が広がって、呈のお尻の中へとどんどん引きずり込まれていく。そして、ついには根本まで引きずり込まれた。
呈のお尻の匂いがきつくなる。臭いものではない。むしろもっと嗅いでいたくなるようなおれを中毒にさせる匂い。中毒。毒だ。この匂いはおれを惑わし、虜にする媚毒の芳香だ。
これ以上嗅がせられたらおれはどうなるのか。もうずっと呈のお尻に顔を埋めて、アナルに舌を蕩けさせて暮らすしかなくなるんじゃないか。
興奮と恐怖が同時に襲い掛かって来て、おれのペニスは痛くなるほどに大きくそそり立つのがわかる。
引き抜かないとおれがおれじゃなくなる。
「あはぁ」
呈はおれの行動を先読みしたのか、離れようとした顔を、自身の尻と一緒に尾で巻きつけた。
「んぐっぐむむっ」
おれの吸う空気が呈の匂いに侵されたものだけになる。
これはまずい。おかしくなる。呈のこの匂い。おれの鼻腔を通して脳髄を犯しにかかってる。
覚え込まされる。脳の奥底に呈の匂いを染み付けさせられる。
「くぐぅ!?」
ペニスが……! 尾に巻き付かれて……!
こんな状態で、扱かれたら、おれは本当におかしくなる。
呈のお尻の匂いを嗅いだだけで射精してしまうような、そんな変態に調教される。
イッたら駄目だ。駄目。駄目……だめ?
「ぼくのお尻の匂いでいーっぱい、イッて、スワロー」
「ッッッ!!」
まるでアナルと連動するかのようにペニスと舌がキュッと締め付けられ、次の瞬間にはおれは白濁を吐き漏らしていた。
ゆっくりと呈のお尻が離れていく。にちゃぁとねばついたもの透明の橋が舌とアナルに掛かり、そして千切れた。
「うふふ。スワローの顔すっごく蕩けてるよ。ぼく好みのエッチな顔。もうぼくのことしか考えられないって顔だ」
呈のお尻の残り香がまだ鼻腔をくすぐっていた。脳髄に刻み込まれた快楽におれのペニスはどぴゅっと精を噴き出しながら敏感に反応してしまう。
「あはっ、びゅっびゅってまだ精液漏れ出してるよ、スワロー……れろっ、もったいない、あむっじゅずずずずっぷはぁっ」
尾に浴びせられた精液を漏れなく舐めとり、飲み下していく呈。ペニスの近くだったためから、未だ漏れ出る精液を顔に浴びて、呈は妖艶に笑んだ。
完全におれは呈に身体を作り替えられた。呈の匂いを嗅いだだけで射精してしまう変態に。
そんな取り返しのつかない状態に陥ったことが、より一層おれを興奮させる。
呈のモノに成れたことを暗闇の笑みをたたえて悦ぶおれがいる。
もっと。もっともっとおかしくなりたい。さらに呈の深みに沈みたい。
この密室を満たし、いまなおおれの身体を包んで犯し続け、身体を呈の好みのモノへと作り替えてくれている蒼い炎に浸りながら。
呈という蛇龍の住まう蒼い底なし沼に沈むのだ。
「さぁ、スワロー、いらっしゃい、ぼくの中に」
呈がお尻を広げて、アナルの匂いをおれの鼻へと届けさせる。快楽に調教されたおれはもはや呈を悦ばせることしか考えられない。それがおれ自身の悦びでもあるのだから。
おれの腰に絡まった尾に連れられ、アナルへと亀頭が触れる。皺一本一本を敏感に亀頭で感じながら、熱い底なし沼へとペニスの頭は沈んだ。
「っぅ!?」
きつい。締め付けが半端じゃない。だけど、これはなんだ。締め付けがきついのは最初だけだ。リングのような締め付けのアナルの門を抜けると、すごいっこれっ!
オマンコみたいにきつくない。それどころか物足りないくらいだ。だけど、ねちゃりとした腸壁が柔らかくペニスに絡みついてきて甘い感触をもたらしてくれる。それらはぬるま湯のような温かさでじんわりとペニスを蕩けさせてくる。怒張したペニスの強張りをほぐしてくる。
萎えるとはまた別の感覚だった。これはそう、枷を外されている感覚。射精のための我慢、快楽に耐える我慢、それらが外されていっている。
「うぁ……」
おれは力が抜けきり、呈の背へともたれかかった。身体を支えておけない。
優しく、甘く、ペニスを蕩けさせる快楽に全身が服従してしまった。
唯一ペニスの根本だけアナルで締め付けられ、もう逃れられない。逃れたくない。
このままずっと呈がもたらしてくれる甘い快楽に浸っていたい。
「あぁ、あはは、いいぃ、呈ぃ、これぇいい」
媚びるような声を呈の耳元で漏らす。顔だけ振り返った呈の表情はまさしく蛇のように、獲物を絡めとったような狡猾かつ淫靡な笑みを浮かべていた。
「いいんだよ、ずぅっとこのままで……ほらぁ、好きなだけ、ね。漏らしていいんだよ。ぼくのお尻の穴の中にたぁっぷりと、ほぉら、とぷとぷどぷどぷ」
「はれ……?」
その言葉を聞いて、おれはいつの間にかペニスが精液を漏らしていたことに気づいた。
出ている。止まらない。勢いはそんなにない。でも止まらない。
快楽も終わらない。普段の射精のように一気に駆け上るような快楽じゃない。じっくりゆっくり優しく引き上げられていくような、そんな甘い快楽。
だから終わらない。終わりがない。
ひたすら高められていく快楽におれの全身は脳はペニスは溶かされていく。呈の底なし沼に沈んでいく。
ひたすら蒼い炎で精液を作らされ、吐き出させられている。どぷどぷと、そうあるのが普通であるかのように精液が漏れ出ている。おれの全部がペニスから呈に流れ込んでいっている。
捕食されている。
それを怖いとも嫌だとも感じる思考はおれにはない。
おれの全ては、呈がもたらす快楽に餌付けされ、飼いならされ、調教されきっている。
「全部、呈にぃあぁ呈、呈……呈に全部」
「あっ、んふぅ、はぁぁ、すごいよぉ、スワローのペニスからいっぱい精液漏れ出てぇ気持ちいいぃ……あはぁぁ、満たされるぅ。満たされるのぉ。スワローのドロドロの子種汁でぼくのお腹いっぱい。スワローだけにされてるぅ。幸せなのぉぉぉお」
互いを満たし合うこの状況におれたちは浸り続けた。終わりのない快楽に身も世もないほどイキ狂いながら。
そうしてどれほど経っただろうか。この密室では時間経過もわからない。でもかなりの時間、おれたちはイキ続けた。
呈の腹はもはや妊婦のように膨れ上がり、おれの精液で胃も腸も満たされている。それでも止まらない。終わりの来ない絶頂にお互い歯止めが掛からずに、互いを貪り合い、与え合うことしかできなくなっていた。
最高のひとときだった。
そして。
「おぶっ、ごぼぉっ」
呈の口から白濁液が溢れ出た。顔だけこちらに向けている呈は目をぐるんと上に向け、もはや意識があるのかないのかもわからないほどおかしくなっている。
精液で口も鼻も満たされても、それでも苦しい表情を一切浮かべていない。それどころか喜悦に染まっている。
淫乱ヤマトナデシコそのものの貌だ。
狂おしいほど愛おしいおれの嫁だ。
おれの精液でこれほど乱れ、そして甘い快楽をもたらしてくれる最高の雌竜だ。
「呈、好き」
「ごぷぉ……ぼょくもぉ」
きっちり返してくれる呈を悦ばせるため、おれは再び淫蕩へと沈んだ。
底なしの精液を全て呈に捧げ続けたのだった。
「にぃに……? ……ねぇね?」
多分、三日後の早朝。大規模修繕当日。
おれたちの家にやってきたリアラによって、おれたちの営みは終わりを告げた。
もはや精液風呂と化した室内の入り口に、リアラは青ざめたとも赤らめたともつかない表情で立っていたのだった。
「ちょっとお話してくるから。スワローはここで待っててね」
「おれは行かなくて」
「駄目です。いまのスワローが行っちゃ、駄目です」
「あっはい」
あの陶酔はどこへやら。一瞬で素面へと戻った呈がリアラを連れて別室へ消えた。お腹も膨らみ、精液塗れになっているのにすごく器用だ。
何を話していたかわからないが、多分悪いことじゃない。どこか呈もすっきりとした顔をしていたし。吹っ切れたというべきか? いや諦めか? やっぱりわからん。
生憎、未だにおれは女性の感情の機微というものを理解しきれていないようだった。
「どうなってもぼくがスワローを愛しているのは変わらないし、逆もそうだから。だから大丈夫」
おれに呈が話してくれたのはそれだけだった。
そして。
リアラが起こしてくれたおかげでおれたちは無事、遅刻することなく天の柱に集うことができた。
母さんが呼びに行かせたらしいが、まぁありがとうと言っておこう。
天の柱前。竜工師のみならず多くの竜騎士団の騎士と騎竜も隊列を組んで並び、先陣に立つデオノーラ様の激励の言葉におれたちは高揚していた。
特におれはそうだった。
ついにこの日が来たのだから。
おれが初めて訪れることとなった場所。呈と出会った場所。
そして、呈と夫婦となった場所。
ここでついに竜工師として認められるのだから。
今日も天高くそびえる塔を、呈と一緒に仰ぐ。
「……」
「……」
言葉なく指を絡め、呈が蒼い龍と成る。その尾に跨りおれたちは空を駆った。
ドラゴニアの大空を多くの竜と騎士が舞う。
その中におれたちの姿もあった。
[了]
番いの儀を終えてから四年。ぼくたちの周りも色々と変わった。
何から話したらいいかな。うーん、とりあえず、クイーンスライムのリゼラさんから。
リゼラさんはぼくたちが番いの儀を行って数か月の後に、番いの儀を行った。ぼくももちろん参加して祝わせてもらったよ。
クイーンスライムさんだからかドラゴニア城がリゼラさんの妹? 姉? お母さん? でいっぱいになって大変だったけど無事、リゼラさんたちが見染めた男の人と永遠の愛を誓い合った。
ぎゅーぎゅーで皆スライムさんに溺れそうになったけどね、ふふ。
「いまになってわかったが、我らが夫を襲うことを決められたのは呈の魔力のおかげだろうな。感謝するぞ、呈」
あのときは全然龍の魔力は持っていなかったけど、リゼラさんはぼくの魔力が夫さんにアタックするきっかけを作ってくれたと思ってるみたい。本当のところどうかわからないけど、そうだったら嬉しいな。
モエニアさんは番いの儀以降色々と大変だったみたいだよ。ドラグリンデ城の自室に一週間以上も引きこもっちゃったみたい。天の柱を思い切り壊したこと、ぼくたちに容赦なく襲い掛かったこと、それがドラゴニア中に放送されたこと、そして、最後にあんな醜態(本人曰く)を晒してしまったことで部屋から出られなくなったみたい。
ぼく的には最後のあの可愛らしいモエニアさんで許されたと思うけどなぁ。
そして引きこもりから脱したモエニアさんにぼくたちが会いに行ったら、思い切り逃げられた。追いかけまくった。隠れられてしまったので夫のランパートさんに頼んでみたら一発で見つけてもらった。さすが夫さんです。
モエニアさん曰く、ぼくたちの番いの儀にも参列できずに行為に浸っていたことがとてもショックで合わせる顔がなかったんだって。あれはしょうがないと思うけどな。
一応、ぼくの手元にあのときの番いの儀の記録映像がある。だからせめて見せてあげようと思ったのだけど。
「くぅ! 生で呈とスワローのちゅーが見れるはずだったのに! 私としたことがっ!!」
悔しそうに泣くモエニアさんの言葉にぼくは冷笑を浮かべて、記録映像は心の内側で握りつぶすことにしたよ。まぁ何年かしたら見せてあげないこともない。
まぁ、それ以来、モエニアさんとは頻繁に会っている。ドラゲイ時代から生きているモエニアさん。竜と人の両側面からドラゲイとドラゴニアを知っているのが彼女なので、ぼくたちは時間があるときはモエニアさんにドラゴニアの深い場所まで案内してもらった。
気高いモエニアさんも気弱なモエニアさんも、なんだかんだ面倒見が良いのだとそのときに再確認できた。
いつかお二人の子供が見たいな、と言うと顔を真っ赤にして怒られた。やっぱり可愛い。
それからモエニアさんに紹介されてぼくたちはドラグリンデ様ともお会いした。デオノーラ様の妹様という噂は本当みたいで、デオノーラ様にそっくり。でもモエニアさんに聞いていたよりもずっと気さくで、お話しやすい方だった。
夫のユリウス様も圧政を敷いていたなんて信じられないくらい優しいお方だった。きっとこっちが本当のユリウス様なのだろう。身分とは良くも悪くもその個の在り方をおかしくしてしまうものだと思う。ぼくとスワローがそうだったように。
そして、ドラグリンデ様からはあの可愛らしいデフォルメ竜の絵を頂いた! やった! これは一生の宝物にしないと!
ふふふ、この子に見られながらのセックスも悪くないかもしれない。スワローがすごく嫌そうな顔をしていたけれどきっと気のせい気のせい。
そして、メッダーさん。
ブーケを受け取ってくれたメッダーさんだったけど、残念ながら番いの儀をすぐに行えるような相手を見つけることは叶わなかった。
すぐには、だけどね。うん。あの日から四年経ったいま、メッダーさんはついにお相手を見つけることができていた。その相手というのが実は……。ふふ、これはスワローから話してもらおうかな。
その彼とメッダーさんはもうすぐ番いの儀を執り行うことが決まっている。四年に一度の天の柱の大規模修繕、その直後の第一号番いの儀がメッダーさんの式だ。
その緋色の鱗よりも紅く顔を染めて、うっとりと夫となる男性に寄りかかるメッダーさんは、とても可愛らしかった。ぼくらに見られていることに気づいてすごく慌ててたけどそこがまたね、可愛いんだ。
その男性もメッダーさんみたいに酒豪で、飲み比べの席で知り合い、酔った勢いのままベッドに同伴したらしい。
そして、目が覚めた直後、ベッドの上で正座した男性から「責任を取らせて欲しい。自分と結婚してくれ」と突然プロポーズされたとか。
寝ぼけ眼だったメッダーさんは一瞬で目が覚めて、同じように正座(?)になって「不束者ですが」と答えたんだって。
そのあとどうなったかは教えてもらえなかったけど、きっとそのまま夜までしっぽりとセックスをしたんだろうな。
なんにせよ、メッダーさんの番いの儀が控えている。ぼくとスワローの責任は重大だった。
頑張らないとね! スワロー!
だな、この四年で色々変わったし。
まず妹が産まれる報告を受けたすぐあと、エリューさんとヴェルメリオさんがおれたちを尋ねに来た。
サーナさんとルーナさんのバーで歌った物語の後半。その答えが歌で披露された。ドラグリンデ様とユリウス・レグライド・ドラゲイ王が紆余曲折を経て、雌竜と雄竜、番いとして結ばれた物語の顛末を。数多もぶつかり、弾かれあった彼女たちは竜となることでついに固く結ばれたのだ。おれたちがそうなったように。
おれたちの回答は言葉ではなくその姿で示されたと、エリューさんはおれたちを祝福して去っていった。今日も地下のグランドワームの巣で、時に魔界バー「月明り」で物語の歌を奏でていることだろう。
おれたちの番いの儀で男泣きしてたセルヴィスには当然、赤竜の外套を返した。一週間越しになってしまったけど。
デオノーラ様からお叱りなどはなかったらしい。弟思いだとむしろ褒められたそうだ。一安心である。セルヴィスからあれを預かっていなかったらモエニアには勝てなかっただろうし、感謝してもし切れない。
「俺たちもそろそろ子どもが欲しいからな」
「セルの子供! 欲しい欲しい! 呈ちゃんのアレやろっ!」
そんな二人も、母さんたちに子供ができたことに触発されて一心不乱に交わっているらしい。おれたちの番いの儀のあとにした一週間耐久セックスの真似をして絡み合いながらヤッているだとか。
まぁ別に真似してもいいけどさ。頼む、恥ずかしいから口にはしないで欲しい。ただでさえ巷であのセックスが流行っているとか言われて、町を歩けばニマニマと生暖かい笑みを投げかけられるんだから。
とある店では妻の下半身をラミア化する薬も販売され始めたそうだ。キサラギの仕業かと最初は思ったけどそうではない。
キサラギはドラゴニアから出て行った。
おれたちが番いの儀を行い、一週間の交わりを開始した直後のことらしい。店の中身は綺麗さっぱりに片づけられ、別の魔物娘の商売が始まっていた。まるで夜逃げのようだとおれと呈は思ったけど、ミクスに預けられた言伝でそうじゃないとわかった。
『二人を見てたら、うちも夫が欲しくなったっす。あっちの世界に探しに行くんでお二人ともお達者で』
ミクスの話だと、未婚者の中で一番呈の蒼い魔力を浴びていたのがキサラギだったそうだ。呈とキサラギが会っていた数は少なくなく、龍に覚醒する前にキサラギの中で内在していた呈の魔力が、呈が覚醒すると同時に濃密な蒼い龍と白蛇の魔力へと変容したらしい。
その自覚症状もなく、キサラギは夫を渇望する心が触発され、ファリアさんに手伝ってもらい向こうの世界へ渡ったようだ。
おれと呈が結ばれるきっかけを幾度となくアシストしてくれたのがキサラギだ。呈と会う前からもおれのことをサポートしてくれていた。だから直接お礼を言いたかったんだけど、向こうの世界に行ってしまっては易々とお礼を言えない。
でも夫を見つけたらまたこっちに帰ってくるらしい。そのときは盛大に祝って、お礼の言葉を贈るとしよう。
おれを幾度となく天の柱から放り投げてくれていたヴィータとはいまでも親交がある。というか、しょっちゅう会っている。キサラギやミクスと違って、唯一ドラゴニアに残ったヴィータは夫とともにドラゴニアの観光巡りをいまさらながらしているそうだ。思考回路が似ているのか、ドラゴニアの僻地で結構遭遇するのである。
ヴィータがおれを目の敵(とおれは思っていた)にしていた理由も全部わかったので、その辺りのわだかまりは解消された。まぁそれでも苦手意識はある。ミクスと似ているからというのが大きい。
それに遭遇したら「見せ合いックスしよう!」って夫とセックスし始めるし。おれたちがシているところに乱入してくることもままある。完全に故意犯だ。
おれを守るため、魅力的なドラゴニアをほとんど回れなかったという後ろめたさも若干、多少、ほんの少し、ちょびっとだけ、ないこともないので付き合ってはいるけど。
ヴィータに夫がいる以上おれに手を出さない確実だし。呈が拒否しないのならおれも構わない。
でもさ、会う度に夫の惚気話を日が暮れるまで聞かせるのはやめてくれ。そして呈も張り合って惚気話を繰り広げるのはやめてくれ。とてもむず痒いし、ヴィータの夫さんも困ってるからさ。
そして、ミクス。
ミクスは番いの儀を終えてしばらくして、家でゆっくりしているおれと呈に別れの挨拶を告げに来た。
「明日、僕はドラゴニアを出国するよ。向こうの世界に戻るとする。色々と忙しくなってね」
「随分急じゃん」
「いやいや、そうでもないよ。それどころかゆっくりしすぎたくらいさ。食べ収めに逆鱗亭とかラブライドとか回ってたからね。元々は呈とスワローの番いの儀が終わったらすぐにあっちの世界に戻るつもりだったんだよ」
「その、ミクスさん、一つお尋ねしてもいいですか?」
「うん。なんだい? 呈の頼みだ、僕は何でも話すよ」
ミクスから許可をもらっても、しかし呈は尋ねるか尋ねまいか悩んでいるようだった。ミクスの笑みが胡散臭いから、というわけではないだろう。ミクスが胡散臭いのは笑みだけでもないし、いつものことだ。
たっぷり十秒ほど悩んで、意を決したように呈は顔を上げる。その紅い瞳に迷いはなかった。
「スワローの元になった魂さんたちは、向こうに還っていったんですか?」
驚いたのはミクスだけでなく、おれもだった。
天の柱最上階でおれの身体に入り込もうとした、おれの元となったまつろわぬ魂たち。その無数の魂はここドラゴニアで世界中へ散った。この魔物娘が住まう世界、魔物娘の存在しない向こうの世界両方へと。
呈も向こう側の世界へ魂の一部が去っていっていたのを感じ取っていたらしい。
「ああ、そうだね。還っていったよ」
そしてミクスも。ヴィータの話ではおれが天の柱に関わる全容を知っているのはミクスとファリアのみだという。
天の柱に登るのを表では協力しつつ裏で妨害していた。それがおれと呈の成長を促すため、というのであれば一応納得できる。だけど、それ以外の理由もおれにはあるように思えた。
だって、ミクスは胡散臭い。
「……これは質問攻めに遭う前に自分で吐いたほうがいいかな」
お手上げというように両手をあげるミクス。どうやらわかりやすい表情になってしまっていたようだ。
「まぁ詳細は省いて要所だけ話すけど。向こうの世界の怨念の魂集積体、まつろわぬ魂は僕たちの世界の魔力に導かれてここドラゴニアの天の柱上空に出現したんだ。それが魔力のおかげか僅かな善性を抽出してスワローを受肉させた。残った悪性の魂は魔力の影響を受けて魔物娘として転生を果たすはずだったんだけど、どういうわけか影響を受けずに天の柱上空に滞留し続けていたんだよね」
「それは、なんで?」
しかし、ミクスは肩を竦める。
「僕も正直、何故かはわからないよ。ただ、呈には言ったと思うけど魔力には意思が宿る。もしかしたら、その魂を通して向こう側に未だあるまつろわぬ魂を感じ取ったのかもしれない」
感じ取ったらなんで、そのまま放置するんだ?
「僕の勝手な推測だけどね、意思の宿る魔力は向こう側へ魔物娘が自由に行き来することのできる可能性を残したんだと思うよ。そこで僕の出番さ。スワローに天の柱に登ってもらうよう仕向けてね。スワローとまつろわぬ魂が合わさったその刹那、善性と悪性が混じり合うことで生まれる混沌のエネルギー、それを伴うまつろわぬ魂たちが向こうの世界へと還る瞬間を観測したのさ。再現性はばっちり。もうじきどの魔物娘もそれどころか人間だって向こうの世界へ行けるようになる。逆もまた然り」
悪びれもせずおれを思い切り利用していたことをぶっちゃけるミクス。怒りよりも呆れの方が先んじた。
「まぁ、そうなるためにはスワローには想い人を見つけてもらわなくちゃいけなかった。ヴィータがそうなるかと思ったけど、彼女はそうはならなかった。呈がスワローを見初めて愛してくれた。スワローも呈を愛してくれた。だから怨念を払えた。それどころか、怨念を救いもしたんだ。驚きだったよ、君の答えは。うん、ドラゴニアは良いところだ」
見てのかよ。見られたのか? おれとまつろわぬ魂しかいなかったはずなのに。
「だから呈。向こうに還った魂は無事だよ。無事、転生する。人としてか魔物娘としてかはわからないけど、スワローの元だった魂たちは消滅したりはしない。安心するといい」
「……良かった」
呈がほっと息をつく。ああ、だから気にしてくれていたのか。本当に、呈は。
「本当優しいね、君は」
心の中で思ったことをミクスが代弁してくれた。
「嫉妬の炎で他を排斥しながらも、そこに幸せがあるよう導く。僕よりもずっとずっと魔王様の意思を汲んでる。尊敬に値するよ、呈」
ミクスには珍しい惜しみない称賛の言葉。頬を朱に染めて照れる呈のことが誇らしい。
「そんなぼくは。それよりもミクスさん。最後までありがとうございました。ぼくとスワローをここまで導いてくれて」
目を丸くするミクス。しかし、苦笑いをして頭を横に振った。
「僕にお礼を言うのはお門違いだよ、呈。利用していたんだしね。それに正直に言うとね、まつろわぬ魂たちを観測しつつ、スワローと呈を無事結ばせるためだけなら、妨害は必要なかったんだ。君たち二人はもう十分に魔力で結びついていた。分かたれることはなかったんだ」
妨害。ヴィータやワイバーンたち、そしてモエニアのことか。
「それでも僕が君たちに表で協力しつつ裏で妨害していたのは、呈、君が龍へと昇華する瞬間を見たいというエゴがあったからだろうね」
「エゴ?」
「うん。呈が龍へと成る素養をキサラギを通して知った瞬間から、色々と根回ししてたんだ。だからね、恨みこそすれ感謝する必要はないのさ。もっと上手く、傷つけることなく君たちを導く方法はあったんだからね」
微笑んだまま、しかし眦は泣いているように下がっていた。
それはある種、罪の告白でもあるように思えた。でもそうか? 罪か? おれたちが成長するよう導いてくれたミクスの行いは本当に罪か?
「違う。違うよ。ミクス」
「スワロー?」
「やっぱり感謝しかないよ。だってあの天の柱の経験がなかったら、いまのおれはなかったんだから。例え、呈と無事結ばれていたのだとしても、いまのおれは絶対にここにはいなかった」
おれの言葉に呈も頷いて同意してくれる。
「……そうです。あれがなかったら龍と成れたぼくはここにいなかった。スワローをもっと気持ちよくしてあげられる手段は得られなかった。ミクスさんがエゴだというそれは、絶対に意味があるものでした。それに、ミクスさんは一つ忘れてます」
「え?」
「ぼくが龍に成れていなかったら、ヴィータさんやあのワイバーンさんたちに男性を見つけてあげられなかったかもしれないじゃないですか」
「あ。ああ…………あははっ!」
放心したように頷いて、しばらくぼうっとしたあと、ミクスは突然吹き出した。
黒真珠の艶やかな髪を大きく揺らす笑いは、数秒前の自分を笑い飛ばすような、気持ちのいいものだった。
そして、ひとしきり笑った後、ふぅとミクスは息をつく。
「君たち二人は本当に幸せに導いてくれるよね。ありがとう、二人とも。おかげで心残りがなくなったよ。安心して向こうに行ける」
「次はいつドラゴニアに来るの?」
「デオノーラ様から請けた依頼をこなさないと行けないし、まだ色々実験しないといけないこともあるからね。早くても三年かなぁ」
「デオノーラ様の依頼?」
ミクスはきらんと目を輝かせた。
「ふふん、聞いて驚くなかれ! 近いうち、ドラゴニアは世界でも屈指の観光大国へと発展する!」
「もう観光大国だと思うけど」
チッチッチとミクスは舌を鳴らして人差し指をフリフリする。
「ドラゴニアはね。未だどこの国も成し得ていない、世界初! 異世界人を観光客として呼び込む唯一の国となるのさ!」
「「…………」」
えーと。
「あれ、反応が薄いね」
「あー、実感が湧かなくて」
「すごい、んですよね?」
「つまんないの。君らが一番の立役者なんだぜ?」
「あ、さっきの魂の観測がどうとかって」
「うん。二人の番いの儀を無理矢理セッティングしたのと天の柱を私的利用したことへの対価でね。ドラゴニアに優先的に向こうの人間を案内することを約束したのさ。幸いにも向こうの人間は竜に憧れを抱いている人が多いからね。多分楽勝で話に乗ってくれる」
おーおーあくどい顔してる。
「そういうわけだから、多分また会えるのは結構時間かかるよ。それとも二人とも僕とはもう会いたくないかな?」
「面倒ごとに巻き込まないんだったらいつでもいいよ」
「そいつは無理な相談だ。僕が誰かに会うとき、それは企みを抱いて近づいているってことだからね」
「質悪い」
そうやって笑い合い、世間話に花を咲かせた後、ミクスは席を立った。
「じゃあね。二人とも元気で。キサラギへの伝言は確かに受け取ったよ」
「そういえば、ミクスさん。ぼくのこと、呈って呼び捨てしてくれるようになりましたよね?」
そういえば確かに。いつの間にか呼び捨てだった。前まで「呈ちゃん」って呼んでいたのに。
ミクスは、いつものような胡散臭い笑みとはまるで違う、対等な存在へと向ける真摯な笑みを浮かべる。
そして、呈に右手を差し出した。
「握手」
「え、あ、はい」
握る。そして、ミクスは握手したまま呈を抱き締めた。
「尊敬に値するって言っただろう? 君はもう立派な大人だ。僕と対等なんだ。僕は、僕が対等だと思う相手を呼び捨てにしたいと思ってる。スワローと同じようにね」
「……はい。ありがとうございます」
呈は嬉しそうだった。なんとなく理由はわかる。多分おれと同じ。他人から認められるのは嬉しいものだ。
「えっと、ぼくもミクスさんを呼び捨てにした方がいいんでしょうか?」
「……ぷっ、あははははっ! 別に無理にしなくていいよ。互いに臆面なく接する。図々しいくらいにね。それが対等ってことさ。呼び捨てするしないは自由だよ」
背中をぽんぽんと叩き、ミクスは呈から離れた。その顔は随分と晴れやかに見える。少なくとも、今日おれたちを尋ねてきたときよりは。
「君たちの歩む道と僕が歩む道、それらが再び交わるときを楽しみにしてるよ」
そうして、ミクスはドラゴニアを旅立った。
そして忘れないうちに話しておこう。
ミクスがデオノーラ様から請けた依頼。
それが思わぬきっかけとなって、あの緋色のワーム、メッダーさんに春をもたらす。
そう、おれが元いた世界。向こうの世界より来訪した観光客。
メッダーさんが結ばれたのはその観光客の一人だったのだ。
―2―
そして、おれたちはというと。
「スワロー、高さは大丈夫?」
「ちょうどいいよ。いい感じ……もう少しで終わる」
真っ白な作業着を着たおれと呈は竜翼通り近くのとある一軒家にいた。周囲は閑散としているけど、遠くから竜翼通りの喧騒が僅かに届いている。
おれたちの着る薄地の作業着の胸には剣と竜翼、そして竜の顎が合わさった形のドラゴニアの紋章が胸にワンポイントだけある。ドラゴニアの竜騎士、そして竜工師の証。
おれは手に持つワーシープウールのローラーで、特殊な白の塗料を訪れていた家の外壁にまんべんなく塗っていった。呈もおれと同じ作業をこなしている。
ここの外壁はちょうど二階部分に当たる場所。
おれは龍の姿となって浮遊する呈の尾に乗って作業を行っていた。もう慣れたもので、呈の尾に乗って逆立ちなり曲芸なりできるくらいバランスを掴めている。ローラー作業を二人同時に行うのもお茶の子さいさいというやつだ。
呈の尾先に巻き付けた金輪には幾つかの缶が引っ掛けられており、それぞれ色の異なる塗料と刷毛がある。外壁の塗装を終えたおれはローラーを直し、灰色の刷毛を手に取った。
「よしよし、あとはあそこだな。呈よろしく」
「任されたよ」
屋根部分へと行き、四つ角の一角へと呈に連れられる。石屋根と一体になり、この家屋を守るように鎮座する雄々しいドラゴンの彫像。日に焼け、風雨に晒されていたドラゴンは少し薄汚れていたが、それがこの家を今日まで守っていた勲章だと言わんばかりに威風堂々としていた。
このドラゴンを生まれ変わらせるため、おれは刷毛を伸ばし、薄汚れてしまった彼女を綺麗に塗り替える。
「これで……よしっと」
最後に黒の瞳を入れて終わり。翼を畳んで鎮座するドラゴンはその力強さを取り戻した。これで今日からもこの家を守ってくれることだろう。
「スワローもだいぶ手馴れてきたね」
「いやいや、正直これを塗るときはまだ緊張しっぱなしだからな?」
手に汗握ってるからな。
呈は蒼い炎を迸らせ、屋根よりも高い位置へと行く。上から外壁と屋根を見下ろしていき、周囲を回って抜け落ちた部分がないかつぶさに確認した。
とりあえず塗り忘れはなさそうだ。ほっと息をつく。
「おう、新入り。終わったか?」
突然声をかけられておれは肩がびくっと上がる。下から声をかけてきたのは新緑の竜形態のワイバーンに乗る髭もじゃ親父。皆からはビッグベアと呼ばれている壮年の男性。おれの師匠にして、おれが所属している竜工師のチームのリーダーである竜頭長を務めている人だ。
そう、デオノーラ様から紹介してもらった人である。おれは親方と呼んでいる。
「お疲れ様ですビッグベアさん」
呈は皆と同じように呼んでいた。
「どら、確認してやるよ」
熊よりも、それこそ逆鱗に触れた竜みたいに鋭い目つきの親方は、険しい表情で家の周囲を見て行った。
正直、塗っていたときよりも緊張する。この瞬間はどうも慣れない。
「……ふん。まぁちったぁマシになったな。彫像の塗りも悪くない。ただちょっと瞳の入りが弱いな。もう少し魂込めろ。俺たちの仕事はドラゲイ時代の意匠を崩すことなく修復、補強することだがな。ただ維持すれば良いってもんじゃねぇ。直す者の魂を込めて、命を吹き込むんだ」
「うっす!」
背筋伸ばして答える。親方の言葉をきっちりと頭に刻み込む。
「まぁ順調に腕も伸びてる。全体を俯瞰しても手直しするとこは全くねぇ。そこは褒めといてやる」
「もう素直じゃないのねぇ。もっとちゃんと褒めてやりなさいよ」
くすくすと笑うのは親方を乗せるワイバーン。もちろん彼の奥さんであり、もう一人の竜頭長とも呼ぶべき竜である。
「ふん。まぁもうほぼ全行程任せても心配はないがな。それくらいの腕は……もうある」
気恥ずかしそうに言う親方。
「じゃあ、そろそろ新入り呼びやめてくださいよ。もう四年っすよ、親方の下で修行して」
「はっ! 天の柱の大規模修繕を経験するまではどんな奴も新入りだっての。うぬぼれんな!」
「呈のことは普通に名前呼びじゃないっすか」
「呈ちゃんはいいんだよ!」
「ごめんね、スワロー?」
どこかこのやり取りを楽しんでいる呈。全く酷い差別である。取り付く島もない。
まぁ、わかりきっていたことだけど。それにもういまさらであるのだけれど。
「うっし。あとの処理は俺たちがやっとく。お前たちはもう帰れ。三日後から大変になるからな。それまできっちり気合入れて“休め”よ」
「うっす!」
「はい! お疲れさまでした!」
事後処理は親方に任せ、帰路へ着くこととなった。
最後に帰るのが自分。それが親方のポリシーだった。
おれたちは無事、竜工師となっていた。正確には竜工師兼竜騎士だけど。
ただ最初の一年はもっぱら竜騎士としてドラゴニア中を駆け回っていた。ヴィータと幾度となく遭遇していたのもこの頃だ。
いま思うとデオノーラ様の言っていた通り、竜騎士として国中を回るのはいい経験だったと思う。場所だけでなく、そこに住む人や竜と関わることも多かったからだ。
話を聞く機会があるというのはとても貴重だと学んだ。当時のドラゲイ、ドラゴニア初期の話。地方の隠されたダンジョンや遺跡に存在する竜の意匠やドラゲイに関することを知るきっかけともなった。
ここに住んでいた竜と人、彼らの思いを知ることは、彼らが住んでいた家の修繕に勤める竜工師として欠かせないことだったのだ。
まだまだ魂を込めるだとかは難しいが、それでもこの四年で親方にも認められる程度には腕を磨くことができた。何気に塗装は難しい部類である。特に竜の彫像など、ドラゲイ時代の意匠が関わる部分に関しては。竜騎士団での経験がなければ、こう早くはいかなかっただろう。
何より、呈という唯一の雌竜が共に学んでいってくれたからこそだ。一人で学んでいけることはとても限られている。
これからも、呈という竜を知っていくことで、彼女を通すことでおれはドラゴニアのことを学んでいこうと思う。
おれをここへ呼び寄せてくれたドラゴニアのために、おれたちに幸せをくれた竜たち皆のために。
何より、呈のために。
「にぃにー!」
帰り道。日も傾き始め、赤らんできた空の下、竜翼通りの坂道でおれを呼ぶ、舌足らずな声が上ってきた。
坂道を駆けあがってきたのは、赤栗色のセミロングの髪を揺らすワイバーンの幼竜。
「おー、リアラ」
リアラ。三年ほど前に産まれた母さんの娘で、おれの妹。
大きく翼を広げて全速力でタックルしてくるリアラをおれは受け止める。目元の優しいところは父さん似だけど、こういうところは母さんそっくりだ。なかなかやんちゃな娘に育った。元気いっぱいでおれは嬉しいけど。
「にぃに、ねぇね、おしごとおつかれさまでしたっ」
おれの胸下辺りで抱きつきながら顔だけ上げて、おれと呈を労ってくれる。
あぁ、やんちゃだけど根っこはとても優しい。舌足らずなところがとてもキュートでほわほわする。きっと目に入れても痛くないとはこのことなのだろう。
「ありがとう。リアラちゃん、今度はねぇねと抱っこしよう?」
「うんっ」
「あ」
呈に呼ばれてすっとリアラは離れて行ってしまった。ほわほわが雲散霧消する。
リアラに真正面から抱き付かれてご満悦の呈が、リアラに見えないところで少し頬を膨らませておれからぷいっと顔を逸らした。
こんな小さい妹に嫉妬しないでくれよ……。
「近しいから駄目なの」
心読まれた。
「リアラちゃん。尾に乗る?」
「! うん、のるのるー!」
呈の尾の中腹あたりにリアラが馬に跨るみたいに乗ると、呈は大きくそれを持ち上げて彼女を高く舞い上がらせた。
「そぉれー」
上下にゆらゆらと揺らしてくる尾に、リアラは嬉しそうにきゃっきゃっと笑う。
ワイバーンだしもう三歳だから自前で飛べるけど、首がすわってからこうやってあやしてたものだから、いまでもこれがお気に入りらしい。おれにも尻尾があればと歯噛みしたことは一度や二度では済まない。羨ましい。……ラミア化の薬って男にも効くのだろうか。
「もう、しょうがないなぁ。はい、スワローも」
おれが乗りやすいところに呈が尾を下ろしてくれる。ちょうどリアラの後ろ。
いつもはこのまま帰るけど、どうしてか今日は優しい。ただ、気持ちが変わってしまったら困るのでおれはさっさと呈の尾に乗る。
直後、呈は蒼い炎に噴出させた。龍モードに移行したのだ。そして、ふわりと浮力を得たようにゆっくりと大空を高く飛ぶ。
「たまには飛んで帰ろう?」
「わーい、たかいたかいー!」
竜翼通りを歩く人の姿が豆粒くらいの大きさになるまで高く上昇し、おれたちは家路につく。方角は母さんたちの家。ただし竜口山方面ではなく、ドラゴニアヒルズ方面。小高い丘に白い家々が立ち並ぶ雲上都市だ。
リアラが産まれて間もなくして、母さんたちはドラゴニアヒルズに引っ越したのである。産まれたばかりのワイバーンには何より大きな空、高い場所を、風を感じられる場所で育てた方がいいらしい。その方が伸び伸びと成長する。おれのために引っ越ししてくれたときと同じだ。理由はほとんど逆だけど。
おれはリアラが落ちないように腰に手を回して、夕暮れのほどよく涼しい風を感じる。呈の炎に守られていて、本当なら凍えるような寒さもちょうどいい。
「今日はどこで遊んでたんだ?」
「えっとねー、ミリアちゃんとヴィーねぇとのとこー!」
「天の柱ね」
「うんそれー。てんのはしらー」
ヴィータ。ヴィータか。あの高笑い黒ワイバーンか。
ミリアちゃんは確かあの名前も知らないハーピィの数いるハーピィの一人だったはず。リアラよりはちょっとだけ年上だけど、近い年齢ということもあって仲良くしてくれているようで感謝している。
ミリアちゃんは心配ない。何度か会ったけどいい娘だ。問題は。
「ヴィータに……へ、変なことされなかったか?」
「? されてないよー」
いや何度も遊んでもらってるのは知ってるし、一応の信用はできる奴だとわかってはいるんだけど心配だ。
「きょうはね。ミリアちゃんとおそらをびゅんびゅんとんでー。おにごっことかかくれんぼしたりしてあそんで、それからそれから、ヴィーねぇにパムムのたべかたをおしえてもらったのっ」
「ラブライドで売ってるのだね」
薄いパン生地で焼いた魔界蜥蜴の肉と竜火草とまかいもを挟んだハンバーガーのような食べ物がパムム。ドラゴニア皇国中にかなりの数のチェーン店を構えているラブライドが販売している軽食だ。
おれと呈も一緒に食べたことがある。もちろん減点一切なく美味しさ満天だった。魔界ハーブの味わい深いソースが引き出す素材の旨味は何度食べても飽きが来ない。
「けど、あれ食べ方とかあったっけ?」
「えっと、食べ方というかとある変わった食べられ方があるというか。ちなみにリアラちゃん。ヴィータお姉ちゃんはどんな食べ方を教えてくれたの?」
「うーんとねー、おそらからびゅーんっておちて、ばくっ! ってするのがおいしいたべかたなんだってー」
「ええと?」
つまり?
「お空からパムム目掛けて飛んで食べるのが美味しいってこと?」
「そー! ヴィーねぇがいってた!」
「全くヴィータは。行儀が悪い食べ方は駄目だぞ、リアラ」
全身で食べ方を表現しようと暴れるリアラが落ちないよう腰を支えながら、釘を刺しておく。間違っても変な育ち方はして欲しくない。
「えー。でもでも。ヴィーねぇはこれでおとこのひととけっこんできたっていってたよっ。ゆいしょただしーたべかただって! わたしもこれでにぃにのパムムたべられるねー」
「「ッ!」」
轟雷に打たれた衝撃だった。これは、まずい!
「おわっ!」
呈の尾がうねり狂うようにぐわんぐわんと揺れる。
ひっくり返らないよう脚で呈の尾を挟み、リアラを落とさないようにしっかりと抱き留めておく。
「て、呈! 落ち着け!」
「べ、べべべつに取り乱してなんかいいいいないよっ!」
わかりやすいくらい尾を揺らしまくってどの口が言うんだ。
「まだ小さいんだし、真に受けるなって」
おれがそう言うと、呈はおれとリアラを落とさないよう器用に尾をくるりと反転した。蛇腹におれとリアラは跨り、呈と真正面に向き合う形となる。進行方向に背を向けて飛んでいるが空なので心配はいらない。
「小さくても女の子だよ。それも魔物の」
ちょっとだけ声を低く、不機嫌な感じで呈は言う。
「おれが呈以外を好きになるって言いたいの?」
そんなことはあり得ないと言うようにおれは尋ねた。呈は「そうじゃないけど」と唇を尖らせながらそっぽ向く。ああ、そんなちょっぴりいじけた様子の呈が本当に愛おしい。
おれを愛していてくれている。おれに愛されたいと想ってくれている。この四年でより顕著に、爛れた感情を示してくれる呈がとても愛おしい。
その爛れて、ドロドロに澱んだ情愛の赴くまま、おれをめちゃくちゃに犯して欲しいと思うほどに。
「ッ……!」
おれの気持ちは伝わったみたいだ。熱のこもった息を一息吐いて、闇色を灯した紅い瞳を情欲に蕩けさせる。
「さすがにここじゃできないからな、呈」
「わ、わかってるよ」
本当にわかっているか甚だ疑問なほどに情欲のこもった笑みを浮かべる呈。このあとすることを思い浮かべて待ちきれないのだろう。空を駆けるスピードがやや加速したのを風で感じた。
「で、でもスワローはそう思ってくれててもリアラちゃんがどう思うかは別問題だから! き、気を付けてねっ!」
「はいはい」
愛しい嫁のお小言に心地よさを感じながら、さっきから一言も発さない件のリアラはというと。
「すーすー」
「寝てるし」
「あ、あの状況から寝たの……?」
さすが子供というべきか、それともさすがリアラというべきか。自由気ままだ。
絶対この娘は大物になる、とおれは確信する。シスコンと言われるかもしれないけど、絶対に。
おれと呈の妹だからな。
穏やかな寝息を立てて眠るリアラを、おれたちはドラゴニアヒルズにある母さんたちの家に連れ帰った。
緑豊かな山々の景観と調和する白い家々が並ぶ街並みの一角。そこが母さんたちの家で、真白さんと聖さんの別荘と隣り合わせにある。
ちなみに真白さんたちは巫女のお仕事もあるので番いの儀からしばらくしてジパングへと帰った。それでも一年に五・六回は遊びに来るし、おれたちもジパングに何度か遊びに行かせてもらった。呈にとっては里帰り。とてものどかで、時間がゆっくり流れている感じもするいい場所だった。
「今日はあっちで寝るの?」
「うん。もう三日後には大規模修繕に入るしね」
「そう。ご飯くらい食べてから行けばいいのに」
夢の中を泳ぐリアラを母さんに預けて、おれたちは家には入らない。
「いやもう呈も我慢できそうにないし」
「ぼ、ぼくだけじゃなくてスワローもでしょ!」
「うふふ、まっ、頑張ってね。たっぷり愉しんでちょうだい」
おれたちがこれから致すことを一から十まで知っている母さんは、意味深な笑みを浮かべて送り出してくれた。
未だに突かれると恥ずかしいことだけど、多少は慣れた。第一もうドラゴニア中に中継されたこともあるのだ。いまさらである。
「さぁ、リアラ。にぃにとねぇねにバイバイね」
「ふぇぇ? あ、ふ、うみゅ……にぃに、ねぇね、バイバイー」
「ああ、またな、リアラ」
「またねリアラちゃん」
母さんに抱きかかえられたリアラの頭をおれと呈が撫でると、安堵したように微笑んでそのまままた夢の中へと羽ばたいていった。
なんだかんだ言いつつも、呈はリアラの可愛さにメロメロである。当然おれも。
そしておれたちは、もう一つの家へと帰った。
―3―
竜泉窟。竜口山よりも竜泉郷に近い位置にある洞窟型住居。
竜泉と名のあるように、竜泉郷ととても密接な関係がある。その最たるものが竜泉郷の湯が住居内に湧いていることだろう。
竜泉窟はどの物件も竜泉完備。温泉の広さもそこそこ幅がある。おまけに魔界ハーブの焚けるサウナ。日によって魔界ハーブの「メルティ・ラブ」や「ストイック・ラブ」などに変えて色々なセックスを楽しめることから、温泉自体にあまり興味がなくてもここに入居する者は多い。
竜泉窟は設備だけじゃなく、適度な湿度と年中暖かい室温保たれていて暮らしやすさ抜群。魔界翡翠が使われた暖かな照明の灯りやインテリアが、よりムードを高めてくれる。
何より洞窟の中。放散された魔力が室内から出にくく籠りやすい。洞窟内の魔界鉱石がそれらの魔力を吸い、住めば住むほどその魔物夫婦に合った住まいとなる。
そして呈は龍泉様に連なる龍の魔力をその身に宿している。竜泉窟と相性はばっちり。
蒼い炎の魔力で室内を満たすのに、これ以上の場所はなかった。
おれと呈が選んだ物件は、温泉の広さに重きを置いたもの。リビングや普通の部屋は小さいが、代わりに竜泉の温泉は呈が尾を伸ばせるほど広く、その隣に併設されている交わり用のマットも広く場所を取っている。
おれたちにとってリビングやらその他の部屋は完全におまけ。
この魔力が一切漏れ出ない温泉部屋こそが最大最高の目的。魔物娘夫婦にとって一番不可欠な寝室なのである。
「スワロー、ご飯にする? お風呂にする? それとも……」
そして温泉部屋に着いた直後、呈は振り返ってそんなことを尋ねてくる。もうその表情は悦楽に期待を膨らませる雌竜の顔。
おれは呈を抱き寄せ、服の上から呈の尻を揉みしだきながら、言った。
「全部」
呈を食べて、呈と風呂に入って、そして呈と交わる。夫婦の営みを今日もする。
「ん、スワロー、ちゅっ、ちゅちゅっ、あふ、んっちゅ」
濡れた唇を啄み合いながら、お互いの服を脱がせていく。服を放り投げて丸裸になったおれたちは、肌を絡め合うように抱き合いながら温泉へと腰かける。
「もうしちゃうね、スワロー」
我慢できないといったように声を上擦らせる呈が、その力を解放した。
おれの精を通したときのみ発現できる膨大な蒼い炎の魔力。龍の炎を部屋全体に撒き散らす。一瞬で部屋は蒼い炎で満たされ、しかもその炎は消えることなくどんどんと火力を増していく。
ここは魔力を籠らせる性質のある部屋。消えやすい呈の蒼い炎ですら消失せずに溜まっていく。流れることなく澱んでいく。暗く昏く。
ギリギリお互いの身体を視認できるほどまで炎の密度が上がると、透明だった温泉は炎と同じ蒼に染まった。
蒼い炎の呈の魔力に侵された部屋で、おれの身体は全身、足先から髪の毛の先まで呈の炎に犯される。口から鼻から耳から毛穴から呈の魔力が染み入り、細胞一つ一つ、体内の至る所まで呈の魔力で満たされる。
「ぅう、はぁあ……」
「うふふ、スワローの身体にいーっぱい他の雌の魔力がこべりついてるねぇ」
嗜虐的な口調で、しかしおれに他の女性の魔力がついていることに悦びの声をあげる呈。
白蛇であれば浮気でなくとも、他の女性と接することを好ましく思わないそうだが呈は違った。おれが他の女性と接することをあまり嫌がらなかった。
むしろ呈以外の魔物の魔力が付くことを悦んでいた。
理由は単純明快。
「いますぐ塗り替えてあげるからね」
舌なめずりした呈の身体から放出されたより濃密な蒼い炎。それがおれの全身を舐めまわすように燃やす。
「くぁっ、あっ、ああっ、ぅはっああがっ!」
それだけで精を迸らせてしまいそうなほど気持ちいい快楽がおれの頭の中を塗りつぶしていく。快楽神経に直接魔力を注がれているような、脳内を直接犯されているような感覚だった。
温泉の中で抱き合った状態だが、自身の身体を支えられずおれは呈になすがまま。
呈がいましている行為は単純だ。
おれの身体にこべりついた他の魔物娘の魔力を、蒼い魔力で取り込んで塗りつぶし、呈自身の魔力へと一気に塗り替えている。
結ばれていない他の雌の魔力では感じないのがインキュバスであるが、それらがもし一瞬で感じることのできる嫁の魔力に変わったとしたら。
普通なら一度では注げない量の気持ちのいい魔力を一度に浴びることとなる。それは全身を嫁の魔力で愛撫される感覚、と表現するのも生温い。
もはや嫁との同化。
自身の存在全てが呈という蛇に丸呑みにされ、溶かされ、吸収され、血肉の一部になれる快楽を味わうのと同義だった。
「ッッッ!?」
全身を貫く雷のような快感に、おれは白濁の精を迸らせた。
湯の中、呈のお腹にぶちまける。尾に座り身体を密着させて、おれは呈に正面からしがみついていることしかできない。
呈に搾られている。触られもせずに塗り替えられた魔力で身体を愛撫されただけでイカされている。
屈辱? どこがだ。最高だろう。
嫁色に染まり切ったこの身体。呈の思いがままにイクことのできるこの身体は最高だ。
「気持ちいい?」
「気持ち、いい」
「じゃあこれは?」
「くぅッ!?」
腰をずらしたかと思うと、おれのガチガチになったペニスがドロドロに熱く滾った蜜壺に包まれた。
「あふっ、んん、どうかな? 一日我慢してぼくのエッチなお汁でいっぱいのぐちょぐちょオマンコは」
「くぁっ、はっ、はぁっ、すげっ肉が蠢いて」
「カリ裏までヒダヒダお肉できゅうってしてあげるね。膨らんだ亀頭はこうやってヒダでこしこし擦ってあげる。竿は上下にぐっちゅぐっちゅ。根本はきゅうきゅう」
耳元で囁かれる淫語がおれの頭を蕩けさせていく。舌で耳を嬲られ上擦った声が漏れてしまう。頭が桃色に満たされ、思考しないまま快楽を貪ろうと腰をゆっくりと上下に振った。
一度すでに射精しているのにもう次弾が装填されている。身体を犯す蒼い炎が精巣の稼働率を最大に、オーバーヒートを起こすほどに精を増産させる。一瞬で陰嚢はパンパンに膨らみ容量過多となるが、これが一回分。これを全部呈にぶちまけるのだ。
だけど、出すならもっと濃くしたい。呈には極上の精を捧げたい。だから、これをより濃度の高い白濁へ高めるため、呈のおっぱいを口いっぱいに頬張った。
「んっ、ちゅーちゅーして、そう赤ちゃんみたいにちゅーちゅーって!」
舌で固くなったさくらんぼを転がして、口をすぼめて千切れんばかりに吸う。呈のおっぱいから溢れた濃厚な蒼い炎で胃も肺も満たし、内側から快楽を感じる。興奮を高めていく。
「あんっ! そうっ、いっぱい揉んでぼくのお尻! スワローのエッチなお手々で揉んで!」
呈の桃尻は指が沈み込むくらいふわふわむちむち。控えめなおっぱいに対してお尻は大きい。完全におれ好みの体形に呈の身体はなっていた。
いっぱい桃尻を堪能しながらペニスをオマンコで扱かれる。上下左右、腰の動きを加えて膣肉でおれのペニスを咀嚼する。粒ヒダがペニスに吸い付いて凌辱してくる。
「いいよっ感じる! スワローのがビクンビクンってして、出るんだね!? 出して出して! ぼくの膣内に! たっぷりどぴゅどぴゅしてぇ……!」
ぐちゅぐちゅぬちゅぬちゅと卑猥な音が身体を通して響き、おれを限界へと昇らせる。
そして、お湯よりも熱い呈の膣内におれのペニスは完全屈服した。
「ッ、ぅぁッ!」
「あはっ! んんんっ、ふわぁぁぁ、スワローのドロッドロの精液がぼくのお腹にいっぱい注がれてるぅ……あはぁ〜」
蕩けた顔で呈も緩やかな絶頂を感じているらしく、おれの精液を一滴残らず吸い取るようにオマンコが収縮した。それに応えるように陰嚢の中身全てをドビュ、ドビュとえぐい音を立てて吐き出していく。
あまりに濃く煮詰めたせいで半固形状の精液は勢いがなかった。それでも尿道をこじ開けられる感覚はおれを忘我の境地へと容易く追いやり、おれは呈にしがみつくことしかできなくなる。
「あひっ、くふぅ、はぁ……すごぉい、スワローのドロッドロの精液、ぼくの子宮とオマンコにこべりついて落ちないや。うふっ、ずっと流れ落ちないでぼくのオマンコを犯してくれるんだね……嬉しいなぁ」
おれの頭を両手でがっちり掴んで、呈がおれの目を覗き込んでくる。紅い瞳が淫靡に揺れ細まり、長い舌の卑猥な赤が色白な肌を這う。
「ふ、ふふっ、どう、だったかな? ぼくの膣内」
「ふぅふぅ、さい、っこう」
もう幾度となく交わり、呈のオマンコを味わっているが慣れもしなければ飽きも来ない。
全身を蒼い炎で犯されながら、呈のキツキツなオマンコに搾られる快楽は筆舌にし難いほど気持ちいい。
だけど言わずにいられない。呈に気持ちを伝えずにいられない。
腰に腕を回し、身体をより密着させて呈の耳元に口を寄せる。
「好きだ、呈好き、愛してる。気持ちよかった。オマンコの締め付けも吸い付いてくるのもやばいくらい気持ちいい。最高だ、好きだ、呈。エッチでスケベで淫乱で、頭の中おれをどう食べるかしか考えてないお前が好きだ、呈」
うわごとのように呈の耳を舐めしゃぶりながら、言葉を紡ぐ。呈を好きだと思う気持ちが抑えられない。抑えたくない。愛おしい、好きだ。もっと呈を感じたい。呈、呈……呈テイてい!
「あんっ、そんな腋まで舐めて……ふふ。全然萎えないね」
「萎えるわけない、だろっ」
「きゃんっ!」
腰をずんっと振るい精液を子宮に押し付けた。
こんな極上な雌竜を前にして、萎えるものか。体力が尽きて意識を失ってもきっとおれのペニスは呈を求めて大きく膨らんだままだ。もっともっと蒼い炎を注いでほしい。呈の中に欲望の塊を吐き出したい。
「ああぁ、あはぁ、嬉しい。まだ最初だし一日目だし、今日はじっくりしっとりしたいから。こんなのはどう、かな?」
呈がおれのペニスを引き抜くと、上半身だけ温泉の脇に併設されているマットに寝転んだ。
緩やかな傾斜を作っている双丘を両手で寄せ、狭く深い谷底を間に作る。さらにそのまま上下左右に揺り動かして、おれを誘うように淫らに蒼い炎を漂わせた。
「ふふ、今度はファリアさん直伝のちっぱい擦り。スワロー、ぼくのちっぱいでまだまだ萎えないペニスをシコシコしない?」
「するっ!」
即答しておれは温泉から上がり、呈のお腹に跨った。もちろん体重はかけすぎないようにするが、呈のお腹にむにゅぅと沈み込む感覚がお尻から伝わって気持ちいい。でもこれからすることはもっと気持ちいいのだ。おれは、息を荒くしながらペニスを呈の双丘の間に乗せる。
寄せて出来た谷底でもペニスの竿の半分も沈まないが、ちっぱいの確かにあるふくよかな感触が蒼い炎と一緒におれのペニスを刺激して、オマンコとは違う気持ちよさにある種の感動を覚えてしまう。
おれは我慢できずに腰を前後に振り始めてしまった。
「あっ、んんっ、スワローの熱い肉の棒がぼくのちっぱいを擦って……んんっ!」
「柔らかいっ、くぅ、亀頭に擦れて」
蜜肉に柔らかく包まれるオマンコの感触とは全然違う。潤滑油が汗しかなくて引っ掛かりのある柔いおっぱいにカリ裏が擦られて、亀頭は呈の鎖骨を突く。奥まで突けば陰嚢が下乳に触れて興奮する。精がますます増産される。
柔さと固さの同時責め。腰を動かしているのはおれなのに、呈に動かされているのかと錯覚してしまう。
「はぁはぁ、呈のおっぱい、乳首」
腰を上げておっぱいに斜めから突き刺すようにペニスを擦る。
「あんっ、スワローのペニスがぼくの乳首を擦ってるっもっと! もっと激しく擦って! スワローのペニスでぼくの乳首犯してっ! あぁん、れろっ」
さらにおっぱいを寄せ、両方の乳首でおれのペニスを亀頭から竿にかけてまで擦る。乳首の硬い感触がペニスを擦ってくる感触におれの興奮はどんどん高められていった。
その上で呈の長い舌がペニスの鈴口をチロチロと舐めしゃぶる。尿道の中まで侵入してきた舌は腰を振るう度に内側からおれのペニスを扱いてきた。
「はぁはぁはぁ! くっ、もう出る、出すぞっ出すからなッ!」
こんな同時責めに耐えられるはずもなく、おれは盛大に固形ゼリーのような白濁の汁を鈴口から吐き出す。
呈のおっぱいに興奮した証である精液を顔とおっぱいにかけられた呈は、舌を垂らして愉悦の表情のまま身体をビクンビクンと震わせた。
「あひっ、イッちゃったぁ……スワローのエッチなお汁ぶっかけられてぼくイッちゃったぁ。はあぁんん」
半固形状の精液は呈の顔にこべりついて落ちない。おれ色に染められた呈の顔とおっぱい。蒼い炎に映える白濁の液体は呈の白肌を汚していて、ますます興奮する。おれ好みの最高のヤマトナデシコになっている。
「はぁはぁ、呈ッ!」
「うむっ!?」
おれは我慢できずに呈の口の中へ、ペニスを突っ込んだ。
最初こそ驚いた呈だったが、すぐさま嬉しそうに目元を垂らし、喉を鳴らしながらおれのペニスに舌を絡めてくる。
「ぐちゅぐちゅるるるっるちゅぶちゅれれろちゅぶっちゅるっ、んぐっちゅっれろれろっ」
卑猥な水音を立てて呈が舌を触手のように蠢かせる。そんなオマンコとは別の蜜壺におれは腰を振るって突き入れた。
「うぐぅぅっ! うふぅぐごっ! うぶっ!」
喉奥を貫く感触。それでも呈は愉悦に表情を彩り、舌だけでなく喉すらもきゅうっと締め付けておれのペニスから新たな汁を搾ろうと責めてくる。さらに手で陰嚢を愛撫し、揉み解してきた。蒼い炎を宿した手でだ。
「ふぅふぅ、あっ、くぅ」
もっと激しくしたい。そんな欲望に駆られたおれは呈の頭を掴み、情欲の赴くままに呈に頭を動かして腰を振るった。
「むぐぅっ!?」
根本まで入ったペニス。亀頭は喉を通過して食道にまで及んでいる。抜き差しする。唇ギリギリまで引き抜き、亀頭の先、鈴口が空気に触れる寸前で。だけどそれ以上は呈が唇できつく吸い付いて放してくれない。
おれは直後、大きく腰を振るって呈の喉奥を剛直で突いた。
「んごぉおっ!」
まるで子宮を突かれたときのように絶頂した呈は口の中を真空状態にしてきつく亀頭を締め付ける。その状態のまま喉奥へと誘われ、ペニスをきつく擦られたおれも、呈と同じ場所へと昇らされた。
「喉奥に直接っ、呈っ!」
根本までペニスを差し込んだ状態での射精。頭をおれに掴まれている呈に逃げ場などなく、大量の精液を食道に直接流し込まれる。
涙目になっている呈だが、それは苦しいからではない。あまりにも気持ちいいからだ。おれの精液を直接喉奥に注がれている感触に快楽を感じてくれている。
それはおれも同じ。呈の狭い口の中、それも喉奥に直接精を注ぎ込む感覚は癖になりそうなほど気持ちいい。プルプル震える喉肉は膣肉にも勝るとも劣らない素晴らしい媚肉。
その上、手で陰嚢に直接蒼い炎を注ぎ込まれ、精を増産した直後にもう吐き出している。連続射精に堪らず、もう奥まで行っているのにどんどんと腰を押し付けてしまう。呈の口に沈み込んでいってしまう。呈の胃をおれの精液で満たしていってしまう。
それが堪らなく嬉しい。
ずるっと卑猥な水音を立てながらペニスを引き抜く。
「ごぷっ、けぷっ、あ、あふぅ」
呈は精液のこべりついた舌を垂らして、口の中は白濁の泡を作っていた。鼻提灯を膨らませ、目は空虚な場所を見つめていて、忘我の境地に浸っているのがわかる。
エロすぎる。呈のこの顔だけで三度イケるくらい。でもただイクなんて勿体ない。色々なところでイキたい。呈に精を捧げたい。
「呈、ずっと前からやってみたいと思ってたとこでやりたい」
「ふぇえ?」
「おれ、呈のお尻の穴に犯されたい」
「…………」
呈が唇を閉じる。そして、精液を垂らす口の端をゆっくりと大きく引いた。
淫蕩が象られた娼婦の笑み。おれだけの娼婦、ヤマトナデシコの淫乱な笑みに呈の表情は染め上げられる。
呈はおれの股下から抜け出すと、おれの前でうつ伏せになってお尻を大きく突き上げた。大きな真っ白な桃尻がふりふりと誘うように振られる。蛇体と女体の境目の尻の割れ目が、いやらしくおれを誘惑していた。
おれは呈の揺れるお尻を掴むと、顔をその割れ目に突っ込んだ。鼻と口が割れ目に挟まれ、目と頬が肉厚なお尻布団に包まれる。
「すぅー」
「んんっ!」
呈のお尻に顔を埋めたまま息を深く吸い込む。甘いような酸っぱいような、思考をぼやけさせる陶酔の香りが鼻腔を満たす。
この匂いの元はどこだろうか。さらに押し付けてくる呈の桃尻に顔をぐりぐりと押し付けて、匂いの元を探る。すぐに一際きつい匂いの元を嗅ぎ取ることができた。
顔を上げて、お尻掴み、割れ目を大きく広げる。
境目の中心。クレバスの底。肌の色と変わらない綺麗な色をした、一点の穴を中心に幾つもの皺が広がる秘穴があった。
「これが呈の、お尻の穴」
「あぅ、あんまりジロジロ見られると恥ずかしいよ……」
「何気にちゃんと見るの初めてだし、しっかりと目に焼き付けとこう」
「意地悪ぅ…………ねぇ、もう我慢できないよ、ぼく。早く、弄ってぇ」
フリフリお尻を振りながら、呈はアナルをきゅっきゅっとすぼめたり広げたりを繰り返しておれを誘う。
オマンコとはまた別種の、排泄の穴を弄って欲しいと懇願する呈のエロさにおれは興奮が収まらなかった。
呈の肉厚なお尻に吸い付きながら、焦らすようにしてゆっくりと呈のアナルへと進む。
「んん、あはぁ、早くぅ」
呈のしっとり濡れた尻肉を味わい、アナルに辿り着くとおれはその皺に舌を這わせた。
一本一本丁寧に。味わい尽くすように呈の綺麗なアナルの皺をなぞっていく。
「あ、ん、ふっ、んんぅっ、お尻の穴、チロチロって舐められてるっ! いいっ、気持ちいいよぉスワロー……もっとぺろぺろってぼくのお尻の穴舐めてぇ……んひっ! あ……あっ、ん、舌ぁぼくのお尻の中にぃズブッてぇ……!」
呈の淫乱なおねだりに我慢できず、おれは呈の尻穴に舌を突き刺した。
瞬間、甘い痺れが舌を駆け抜ける。まるで舌が溶けてしまったかのように感覚が広がって、呈のお尻の中へとどんどん引きずり込まれていく。そして、ついには根本まで引きずり込まれた。
呈のお尻の匂いがきつくなる。臭いものではない。むしろもっと嗅いでいたくなるようなおれを中毒にさせる匂い。中毒。毒だ。この匂いはおれを惑わし、虜にする媚毒の芳香だ。
これ以上嗅がせられたらおれはどうなるのか。もうずっと呈のお尻に顔を埋めて、アナルに舌を蕩けさせて暮らすしかなくなるんじゃないか。
興奮と恐怖が同時に襲い掛かって来て、おれのペニスは痛くなるほどに大きくそそり立つのがわかる。
引き抜かないとおれがおれじゃなくなる。
「あはぁ」
呈はおれの行動を先読みしたのか、離れようとした顔を、自身の尻と一緒に尾で巻きつけた。
「んぐっぐむむっ」
おれの吸う空気が呈の匂いに侵されたものだけになる。
これはまずい。おかしくなる。呈のこの匂い。おれの鼻腔を通して脳髄を犯しにかかってる。
覚え込まされる。脳の奥底に呈の匂いを染み付けさせられる。
「くぐぅ!?」
ペニスが……! 尾に巻き付かれて……!
こんな状態で、扱かれたら、おれは本当におかしくなる。
呈のお尻の匂いを嗅いだだけで射精してしまうような、そんな変態に調教される。
イッたら駄目だ。駄目。駄目……だめ?
「ぼくのお尻の匂いでいーっぱい、イッて、スワロー」
「ッッッ!!」
まるでアナルと連動するかのようにペニスと舌がキュッと締め付けられ、次の瞬間にはおれは白濁を吐き漏らしていた。
ゆっくりと呈のお尻が離れていく。にちゃぁとねばついたもの透明の橋が舌とアナルに掛かり、そして千切れた。
「うふふ。スワローの顔すっごく蕩けてるよ。ぼく好みのエッチな顔。もうぼくのことしか考えられないって顔だ」
呈のお尻の残り香がまだ鼻腔をくすぐっていた。脳髄に刻み込まれた快楽におれのペニスはどぴゅっと精を噴き出しながら敏感に反応してしまう。
「あはっ、びゅっびゅってまだ精液漏れ出してるよ、スワロー……れろっ、もったいない、あむっじゅずずずずっぷはぁっ」
尾に浴びせられた精液を漏れなく舐めとり、飲み下していく呈。ペニスの近くだったためから、未だ漏れ出る精液を顔に浴びて、呈は妖艶に笑んだ。
完全におれは呈に身体を作り替えられた。呈の匂いを嗅いだだけで射精してしまう変態に。
そんな取り返しのつかない状態に陥ったことが、より一層おれを興奮させる。
呈のモノに成れたことを暗闇の笑みをたたえて悦ぶおれがいる。
もっと。もっともっとおかしくなりたい。さらに呈の深みに沈みたい。
この密室を満たし、いまなおおれの身体を包んで犯し続け、身体を呈の好みのモノへと作り替えてくれている蒼い炎に浸りながら。
呈という蛇龍の住まう蒼い底なし沼に沈むのだ。
「さぁ、スワロー、いらっしゃい、ぼくの中に」
呈がお尻を広げて、アナルの匂いをおれの鼻へと届けさせる。快楽に調教されたおれはもはや呈を悦ばせることしか考えられない。それがおれ自身の悦びでもあるのだから。
おれの腰に絡まった尾に連れられ、アナルへと亀頭が触れる。皺一本一本を敏感に亀頭で感じながら、熱い底なし沼へとペニスの頭は沈んだ。
「っぅ!?」
きつい。締め付けが半端じゃない。だけど、これはなんだ。締め付けがきついのは最初だけだ。リングのような締め付けのアナルの門を抜けると、すごいっこれっ!
オマンコみたいにきつくない。それどころか物足りないくらいだ。だけど、ねちゃりとした腸壁が柔らかくペニスに絡みついてきて甘い感触をもたらしてくれる。それらはぬるま湯のような温かさでじんわりとペニスを蕩けさせてくる。怒張したペニスの強張りをほぐしてくる。
萎えるとはまた別の感覚だった。これはそう、枷を外されている感覚。射精のための我慢、快楽に耐える我慢、それらが外されていっている。
「うぁ……」
おれは力が抜けきり、呈の背へともたれかかった。身体を支えておけない。
優しく、甘く、ペニスを蕩けさせる快楽に全身が服従してしまった。
唯一ペニスの根本だけアナルで締め付けられ、もう逃れられない。逃れたくない。
このままずっと呈がもたらしてくれる甘い快楽に浸っていたい。
「あぁ、あはは、いいぃ、呈ぃ、これぇいい」
媚びるような声を呈の耳元で漏らす。顔だけ振り返った呈の表情はまさしく蛇のように、獲物を絡めとったような狡猾かつ淫靡な笑みを浮かべていた。
「いいんだよ、ずぅっとこのままで……ほらぁ、好きなだけ、ね。漏らしていいんだよ。ぼくのお尻の穴の中にたぁっぷりと、ほぉら、とぷとぷどぷどぷ」
「はれ……?」
その言葉を聞いて、おれはいつの間にかペニスが精液を漏らしていたことに気づいた。
出ている。止まらない。勢いはそんなにない。でも止まらない。
快楽も終わらない。普段の射精のように一気に駆け上るような快楽じゃない。じっくりゆっくり優しく引き上げられていくような、そんな甘い快楽。
だから終わらない。終わりがない。
ひたすら高められていく快楽におれの全身は脳はペニスは溶かされていく。呈の底なし沼に沈んでいく。
ひたすら蒼い炎で精液を作らされ、吐き出させられている。どぷどぷと、そうあるのが普通であるかのように精液が漏れ出ている。おれの全部がペニスから呈に流れ込んでいっている。
捕食されている。
それを怖いとも嫌だとも感じる思考はおれにはない。
おれの全ては、呈がもたらす快楽に餌付けされ、飼いならされ、調教されきっている。
「全部、呈にぃあぁ呈、呈……呈に全部」
「あっ、んふぅ、はぁぁ、すごいよぉ、スワローのペニスからいっぱい精液漏れ出てぇ気持ちいいぃ……あはぁぁ、満たされるぅ。満たされるのぉ。スワローのドロドロの子種汁でぼくのお腹いっぱい。スワローだけにされてるぅ。幸せなのぉぉぉお」
互いを満たし合うこの状況におれたちは浸り続けた。終わりのない快楽に身も世もないほどイキ狂いながら。
そうしてどれほど経っただろうか。この密室では時間経過もわからない。でもかなりの時間、おれたちはイキ続けた。
呈の腹はもはや妊婦のように膨れ上がり、おれの精液で胃も腸も満たされている。それでも止まらない。終わりの来ない絶頂にお互い歯止めが掛からずに、互いを貪り合い、与え合うことしかできなくなっていた。
最高のひとときだった。
そして。
「おぶっ、ごぼぉっ」
呈の口から白濁液が溢れ出た。顔だけこちらに向けている呈は目をぐるんと上に向け、もはや意識があるのかないのかもわからないほどおかしくなっている。
精液で口も鼻も満たされても、それでも苦しい表情を一切浮かべていない。それどころか喜悦に染まっている。
淫乱ヤマトナデシコそのものの貌だ。
狂おしいほど愛おしいおれの嫁だ。
おれの精液でこれほど乱れ、そして甘い快楽をもたらしてくれる最高の雌竜だ。
「呈、好き」
「ごぷぉ……ぼょくもぉ」
きっちり返してくれる呈を悦ばせるため、おれは再び淫蕩へと沈んだ。
底なしの精液を全て呈に捧げ続けたのだった。
「にぃに……? ……ねぇね?」
多分、三日後の早朝。大規模修繕当日。
おれたちの家にやってきたリアラによって、おれたちの営みは終わりを告げた。
もはや精液風呂と化した室内の入り口に、リアラは青ざめたとも赤らめたともつかない表情で立っていたのだった。
「ちょっとお話してくるから。スワローはここで待っててね」
「おれは行かなくて」
「駄目です。いまのスワローが行っちゃ、駄目です」
「あっはい」
あの陶酔はどこへやら。一瞬で素面へと戻った呈がリアラを連れて別室へ消えた。お腹も膨らみ、精液塗れになっているのにすごく器用だ。
何を話していたかわからないが、多分悪いことじゃない。どこか呈もすっきりとした顔をしていたし。吹っ切れたというべきか? いや諦めか? やっぱりわからん。
生憎、未だにおれは女性の感情の機微というものを理解しきれていないようだった。
「どうなってもぼくがスワローを愛しているのは変わらないし、逆もそうだから。だから大丈夫」
おれに呈が話してくれたのはそれだけだった。
そして。
リアラが起こしてくれたおかげでおれたちは無事、遅刻することなく天の柱に集うことができた。
母さんが呼びに行かせたらしいが、まぁありがとうと言っておこう。
天の柱前。竜工師のみならず多くの竜騎士団の騎士と騎竜も隊列を組んで並び、先陣に立つデオノーラ様の激励の言葉におれたちは高揚していた。
特におれはそうだった。
ついにこの日が来たのだから。
おれが初めて訪れることとなった場所。呈と出会った場所。
そして、呈と夫婦となった場所。
ここでついに竜工師として認められるのだから。
今日も天高くそびえる塔を、呈と一緒に仰ぐ。
「……」
「……」
言葉なく指を絡め、呈が蒼い龍と成る。その尾に跨りおれたちは空を駆った。
ドラゴニアの大空を多くの竜と騎士が舞う。
その中におれたちの姿もあった。
[了]
17/12/03 20:24更新 / ヤンデレラ
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