魔物娘の愛ってどうよ?
自室。ベッド、本棚、勉強机にパソコン、テレビと学生のザ・部屋と言わんばかりの自室。本棚は虫食いだらけで、穴を埋めるための本は床やらベッドやらに蟲の如く散らばっている。散らかしたのは俺と、俺が背もたれ代わりにしているベッドに俯せに寝転がって本を読む幼馴染。どうせまた読み直すし片付けなくていいやと常に俺の部屋はこんな感じで散らかっている。
俺はいつ買ったかも覚えていない、何十年も前に描かれたラブロマンス要素の入った少年漫画を読んでいる。ちょうどそのラブロマンス要素の濃い部分である、主人公がヒロインに対して声高らかに愛を叫ぶシーンだ。その愛の告白に、読者視点からは鈍感な主人公に対して好意を抱いていると丸分かりのヒロインが歓喜とともに応じている。決まり文句のように、予定調和のように二人は結ばれる。手垢のついた、よく言えば王道な展開。口から涎の代わりにガムシロップを吐きそうなくらい甘甘で、歯の浮きそうな台詞が飛び交う展開だった。
悪く言えば、展開が軽いというか。
「好きだ」「大好き」「愛している」とか言うけど。お前らの愛って、なんなんだ?
展開に冷めた俺は、漫画を捨てて窓から外を見る。人が飛んでる。人というか鳥みたいな人。手が鳥の翼みたいになった人。お向かいのハーピーの奥さんが帰ってきたようだ。
この世界が魔物娘という存在に侵略されておおよそ十数年。俺が生まれた歳に彼女たちはやってきたらしい。侵略、と聞けば宇宙船がやってきてタコ型骸骨エイリアンが人間をレーザーで殺して回るなんてB級映画の展開を思い浮かべてしまうが、なんてことはない。よき隣人となって、人間世界の観念をちょっとばかし根本から入れ替えただけだ。魔物娘を違和感なく受け入れるように、意識を変える。そんな侵略だ(ったらしい。当時生まれたばかりなので話でしか知らない)。
個人的には魔物娘がいて困る要素は特に見当たらないのでなんとも思っていない。たまに有識者が魔物娘は風俗をうんぬんかんぬんとテレビで言って数秒後テレビから姿を消したりするけど気にはならない。裏できっと説得(性的な意味で)されているだけだろうし。
が、魔物娘の存在自体は全くもって気にならないが、魔物娘が好みそうなさっきの漫画を読んでいてふと思った。
魔物娘の『愛』って何なんだ?
「そういうわけで今日の議題は魔物娘の愛について語ろうと思いました、まる」
「まるじゃないんだけど、いきなりなに」
後ろで寝転がりながら漫画を読んでいる幼馴染が俺に全く視線を寄越さず言う。邪魔するなと言わんばかりだ。
白パーカーとデニムショートパンツというオシャレ気のない服装。腰まである長い黒髪が放射状にベッドに広がり、パンツから伸びる太腿からつま先までの艶かしい生足が、白と黒のコントラストを描いている。
名前は世良弓香(せらゆみか)。
剣呑とした目つきでひたすら漫画を読んでいるが、特に機嫌が悪いというわけではなくいつもこんななのだ。おおよそ0歳児からの付き合い。お隣さんの一人娘。物心ついたときからこんなんだったものだから、こういう関係なのが当然となっている。いまさら脚一本でどうこう思うわけないのだ。
「魔物娘の愛ってどうなん? ってふと思ったわけだよ俺は」
一度は置いたさっきの甘党御用達漫画を手に取る。「愛してる」を連呼しまくる漫画だ。
「魔物娘って無条件に男を愛してくれるわけだろ。浮気はしないし、裏切らないし、冷めないし、そのうえ床上手とまさに世の男性の理想なわけだけども。よくよく考えてみれば一方的な好意で実際こっちの意思とは無関係に好き好きラブラブ光線(物理)をぶつけてくるわけでしてともすればそれは愛の押し売りなんじゃないか、と俺は思ったのね」
「へー」
気の入らない返事にも構わず俺は続ける。
「魔物娘はちょっとしたことで惚れちゃって一生その相手を愛し続けるわけだけどさ、でも相手の感情考えないそれって本当は相手のためじゃなくて自分のためで、要するに自己満なんじゃないのかと。愛ってのは広辞苑曰く慈しみ合う心なんだから、自己満の愛ってそれもうただの自己愛じゃねと思ったわけだ」
ナルシストだ。
「ふーん」
つまり魔物娘の「愛してる」連呼は目の前の男性にではなく自分に言っていたんだよ!
「ナ、ナンダッテー」
心読まれた。
「つーわけで、魔物娘の愛なんて自己愛に違いない! という定義を俺は出してみた。弓香、反論ある?」
「じゃあ魔物娘と付き合って確かめてみたらいいじゃない」
「はいでましたーそうやって投げやりに言うー。これはあくまで議題だ、議論だ、定義付けだ。実践してどうする、というか実践したら戻れなくなるパターンじゃないか、どっぷり魔物娘にドハマりして、テレビの裏に消えた有識者みたく思考回路が180°転換させられる展開確定じゃないか」
「魔物娘の愛なんてただの自己愛ないんじゃないの?」
「愛がなくても巷で噂の快楽48手攻めされたら戻れなくなる自身があるぞ俺は」
「でも実際に確かめたほうが早い」
何故か珍しく押し押しな弓香。しかしですね、どこか近くで魔物娘を探して一発ヤったほうが早いのは確かだし、探さなくとも魔物娘専用車両に乗ったら一瞬で相手見つかるわけだけどもね、そこに俺の言う愛情は見当たらないわけですよ。
「それともあれか、俺の人徳で真の意味で魔物娘の愛を引き出せっていうんですか! 魔物娘専用車両なんていう明らか魔物娘の企みでできた電車の魔窟に飛び込んだりしないからな! あんなとこで男探してる奴らに愛なんてあるわけないだろいい加減にしろ!」
「別に専用車両行く必要ない。魔物娘なんてもっと近くにいるし」
「どこ」
「ここ」
「誰」
「私」
深呼吸。
心なしか空気が甘い。淫蕩な匂いがする。
弓香を見る。ベッドに寝転んだまま自分で腕枕をしてこっちを見ている。真顔。いつもの弓香の表情。真顔なのにどこか艶かしく見える、気がする。いやきっと気のせいだ。気持ちの持ちように違いない。それにほら、魔物娘ったっていまどう見ても普通の人間だし。
「ほい」
心読まれた。瞬間、捻れた双角、コウモリの翼に先がハート型の尻尾が生えてきましたよ。魔物娘でもっともメジャーな種族、サキュバスさん。服はどうやらすり抜けているらしい。魔物娘が普通になったこの世界ではよくある不思議なこと。
真顔でピースピースしてくる弓香に呆然とする俺。
「いつから」
「三日前」
「なんでまた……」
「なんでって」
言葉を区切って、タメを作る。
あ、なんか嫌な流れ。
「あんた、私のこと好きでしょ?」
ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!
ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!
バレてるぅううううううううううううううううううううううううう!!!!
「ちなみに私もあんたが好き」
「……へ?」
「好き」
大事なことなので二回言ったらしい。ただし真顔。
俺の顔も真顔。というか呆然。
「でもまぁ、このままだと進展しそうにないから手っ取り早く魔物娘になった」
「あぴゃあー!」
言葉にならない。言葉にできない。どうしろと。
「あんたが愛だのなんだのとのたまってくれてちょうど良かったわ」
こちら向きに寝転がり、パーカーのファスナーを下ろしていく。
「なにをしようとしているのでしょうかゆみかさん?」
俺の問に、真顔で弓香は淡々と告げる。
「実践。魔物娘の愛についてね」
ファスナーを下ろしきる。パーカーの下は、もうすでに肌色だった。なんでブラすら付けてないんですかね? 半脱ぎのパーカーからピンク色のナニカがチラチラしているんですが。
「相思相愛なら問題ないんでしょ? あんたの不安なとこもクリアして、魔物娘の愛が本当に自己愛かどうか確かめられるわ。それとも……逃げる?」
今度は弓香が問いてくる。同時に手も伸ばしてくる
俺は諦めにも似た笑みを浮かべて、伸ばしてくる弓香の手から逃げなかった。
こんな世の中だ。女性経験&交際経験0の俺でも知っている。
――魔物娘からは逃れられない。
俺の後頭部を掴んだ弓香の顔が俺の視界を埋め尽くし、勢いよく唇に柔らかいものが触れ――。
「「痛っ!?」」
カッ、と唇を越えて歯と歯のぶつかり合う音が俺たちを弾く。口を抑えて、見つめ合う。見つめ合うというより、にらみ合う。
なにやってんだてめぇ――そっちこそなに歯突き出してんのよ――勢いつけすぎなんだよ――ちゃんと受け止めなさいよ。みたいなやりとりを視線で交わす。しばらく視線で口喧嘩(?)してから、互いに唇と歯に怪我がなかったことを確認してから、休戦協定を結んだ。
床に座ったままだった俺は弓香に向かい合う形でベッドに座る。ベッドの上の邪魔なマンガは全て床に落とした。
「オーケー。一旦落ち着こう」
「落ち着いた」
「俺たち今からするわけだな?」
「日和るなら私が犯すけど?」
「ここまで来て日和るほど俺は臆病ではない。イチモツがお前を犯したくてそそり立ってるわ!」
「へー」
「はうんっ」
にぎにぎされた。残念ながら俺の息子はまだお子様状態であった。
だって仕方ないじゃないか、歯をぶつけて再スタートとか萎えるどころの話じゃないじゃないか。素人がセックスするときのベタベタ展開じゃないか。ていうか展開が急すぎて頭も下半身も追いついてないんだよ!
「じゃあ、続きしようか」
「待て待て落ち着け。このあとの手順をおさらいしよう。またさっきみたいな事故が起きたら目も当てられん」
「手順……」
手順。セックスの手順。うん。うん? セックスの手順って何をしたらいいんだ?
弓香を見ると、彼女も長考した素振りを見せつつも、肩をすくめた。魔物娘のくせに知らないというのか。魔物娘のくせに。
なんて思ってたら頭を尻尾でペチペチされた。また心読まれた。
「とりあえず、ゴールから考えよう」
「ゴールは私の子宮に精液を注ぐことね」
うむ。うむ? あれ、それでいいのか? 子供できちゃわないか?
子供。まぁ大丈夫か。魔物娘の子供はできにくいそうだし、仮にできたとしても国からの手当は十二分にある。一昔前までは未成年の妊娠が問題になっていて、それを題材とした小説などもあったようだが、魔物娘が席巻するこの世界においては全く問題となっていない。
つまり気にしない方向でいこう。解決!
「じゃあ、オチンポ大きくしないと」
「……」
「なに?」
「もう一回言って、そのオチンポって」
やばい。真顔だけど、弓香がオチンポって言うとすごいグッときてしまう。
「……」
怒らせたか。しかし、弓香はそっと俺の耳元に口を寄せる。
「オチンポで私のオマンコかき回して、ドロドロのザーメンで子宮の中の卵子を犯して?」
「……」
普段の弓香から想像もつかない下品かつ変態的な誘い文句に俺はノックダウンである。
さすがは魔物娘だというべきなのか。いますぐ押し倒して弓香に言われたとおりにしたいけど、落ち着こう。急がば回れだ。そう。これはあくまで議題を実践するためでもあるのだ。魔物娘の愛とは何かを知るためでもある。獣みたく本能に流されてはいけない。
「あとは弓香のオマンコもきちんと濡らさないとだな」
「大丈夫。もうびしょびしょ」
弓香が指差すベッドには小さく、しかしびっしょりとなった箇所があった。よく見れば、弓香のショートパンツの股がシミを作っている。
「今日ここに来てベッドに寝転がって匂い嗅いだときから濡れ始めてたから。大丈夫」
気持ちよく親指を立てる。ただし真顔。
俺の匂いを嗅いだだけで濡らすとかどれだけ魔物娘というものは男のツボを抑えているというのか。それとも弓香限定なのか? いかんいかん、これは魔物娘の愛とはなんぞやという議題の下行うことなのだ。落ち着いて検証できる頭は残さねば。
「とりあえず、最初はね」
今度はゆっくりと弓香の顔が迫る。唇に柔らかいぷるんとした感触のものが触れた。目があった。こういうときって、なんていうんだろう。目を瞑ってキスするもんじゃないんですかね弓香さん?
だけど。俺の口内に舌が入ってきた瞬間、その考えは改めさせられる。
「んんっ!?」
目が合う。ジトっとした目が俺の視線を掴んで離さない。拘束する。同時に、俺の口内を弓香の舌が唾液を擦りつけるように、こべりつかせるように這う。前歯から上歯茎へ、横へスライドし奥歯から喉奥そして俺の舌へ到達する。舌がぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てて絡み合う。俺の口の中は弓香の唾液でドロドロで自分の唾液などないかのように弓香のモノで浸されている。息苦しいけど、弓香に背中と頭を両腕でホールドされて逃れることも叶わない。息苦しさは次第に弓香だけを感じることへの快楽へと変換されていき、目の前の幼馴染のこと以外考えられなくなった俺の思考は真っ白に染まっていく。
目。弓香の俺を身体から心の奥底まで見通す目に、俺は全てを支配された。弓香の目に俺は屈し、なすがままに口内陵辱を受け入れた。
「ぷはぁっ……」
「んっ、はぁはぁ……弓香?」
弓香が信じられない力で俺をベッド上の壁に押し付ける。
「立って」
断ることなどできなくて、俺は立ち上がる。
「んっ……はぁ、これがあんたのオチンポなのね。思ってたほど黒くない」
「っ! ず、ズボン下ろすならそう言って欲しいんだけど」
「キスまでしたのにまだ半勃ち……不感症?」
「んなわけあるか! お前がいきなりすぎるから頭がついて行かないって……」
言葉が詰まる。弓香がこちら見上げていた。俺のペニスの前で、だらしのない犬のように舌をだらりとぶら下げて、喉奥が見えるほど口を大きく開いた。赤黒い粘液まみれの太い触手がぶら下がった穴。誘うように触手のような舌が揺れる魔性の口穴。
それが、俺のペニスの目の前にある。
「っ……」
俺が見下ろして、弓香が見上げる構図。なのに、弓香の目は口ほどにものを言っていた。
――挿れなさい。
「うあっ……」
「んっ」
舌の上にペニスを乗せる。上半分乗っかって、裏筋に舌の生暖かい粘液の感触が伝わる。背筋が震えた。これまで感じたことのない、しかし自分しては到底感じることのできない未知の快感に、さらなる欲求が湧き起る。
まだ乗せただけなのだ。これをさらに挿れたら、全部が弓香の口で包まれたらどうなるというのか。
試したい。挿れたい。弓香の口で、舌で舐めしゃぶってもらいたい。
もう俺のペニスははちきれんばかりの剛直となっている。完全にスイッチが入ってしまっている。
我慢できな、いっ!?
「ゆみ、かっ……!?」
俺の視界からペニスが消えた。根元まで全部が弓香の口内に消えた。
ちょっと弓香さん、不意打ちすぎやしないですかね? 完全に俺に“させる”気まんまんだったじゃないですか。くそう。
「やばっ、ちょっ、弓香、落ち着け、ッッ!」
弓香の目の色が変わった。豹変したと言ったほうがいい。さっきまでの支配する余裕じみた目が、瞳孔が縦に割れて獣欲に満ちたものメスの目になっている。
正気じゃない。
舌が竿に絡み、肉の触手がごとく巻きついた状態で弓香は全力のピストン運動。ペニスが奥へと誘われる度に、亀頭がすぼまった喉奥に締め付けられ、裏筋を舌の根で擦られると、情欲の熱液がふつふつと沸き上ってくる。ジュップジュップと粘り気の多い水音がまるで俺の耳を犯すかのように部屋へと響いている。
あまりの快楽に腰を引かそうとしても後ろは壁。壁に押さえつけるかのようにフェラで責め立てる弓香から俺は逃げられない。
搾り取ること、そして男を快楽のどん底へと叩き落とし、一切の抵抗を封じてしまうことに特化したサキュバスの淫技。それを弓香が使っている。俺に使っている。
そんなの考えたら、男として興奮しないはずがないだろ。
「はぁはぁ、でる、弓香ッ!」
「……!」
そして、弾けた。熱液が俺の怒張から決壊し、弓香の喉奥へ叩きつけた。
「……! ……! ……!」
あまりの快感に腰が砕けそうになって俺は弓香の頭にもたれかかった。格好としたら俺が弓香を射精から逃さないよう押さえつけているように見えたかもしれない。だが、捕まっているのは俺だ。射精中も喉を収縮させて最後の一滴まで、いや射精中にも次の射精をさせて精液を搾り取ろうという貪欲な淫魔の口に、俺が囚われているのだ。
ようやく射精が止まると、尿道に残った最後の一滴の精液まで吸い取り、ちゅぽんっと小気味よい音を立てて、弓香の口からペニスが解放された。
もう立っていられない。たった一度の射精で完全に腰砕けである。
「はぁはぁ……頭おかしくなりそうだ」
本当に。頭が真っ白になるというのはまさにこのことなのかもしれない。だけども、全然俺のペニスは萎えちゃいない。それどころか、なおのこと興奮冷め切らぬほどに怒張していた。
もっと、もっと、頭をおかしくしたい。思考を可笑しく、弓香を犯したい。
「んあ……」
「うっわ、えっろ……」
同じ目線に座る弓香は大きく口を開く。そこには俺が射精した白濁の精液。いつも自分でしたときよりも多く、粘性が高くて濃さそうだった。それが、弓香の赤黒い口内や舌、真っ白な歯に絡まっている。
「飲むの?」
頷いて、弓香は大きく喉を鳴らした。あれだけの粘性のものを、何の苦もなく、それどころかうっとりととろけるように頬を赤く染めて(ただし真顔)、俺の精液を一滴も残さず飲み干した。
フェラのあとのごっくんとか、男としてかなり嬉しいことなんじゃないですかね? 弓香さんは本当に、俺のツボ抑えすぎじゃないですか?
「美味しいの?」
「まずいよ」
なんだと。
「でも、なんだか抑えられない。我慢できない。臭いも味も、ちょっと感じただけで意識が飛びそうになるくらいすごいキクの」
「もしかしてさっきのフェラ」
「完全にトんでた」
だよなぁ。完全にサキュバスのソレだったし。
「次は大丈夫。もう慣れた。だから、次は……ね」
そのままベッドに寝転がる弓香。すでにショートパンツもパンティも脱ぎ捨てられ、前が開かれたパーカー一枚のみ。健康そうな肌色が露になって、胸が手に収まるほどの良い塩梅で隆起している。その隆起した胸の頂点には桃色の乳首が俺を誘うようにピンっと勃っていた。俺はそこから、扇情的な曲線を描く腰のラインと小さなおへそへと視線を下ろす。贅肉とかではない、舐めしゃぶり、揉みしだきたくなるほど男の肉欲をそそる媚肉が腰まわりについている。
そして到着する。俺が求めるもの、開かれた股の先を隠すのは、尻尾の尾先。
自然と喉がなる。誰にも許されていなかった弓香の秘部が、俺にだけ許される。
「んっ」
「おおぅ……」
ゆっくりと尻尾が下り、弓香の秘部が露わになった。ぴっちりと閉じられ、一本の縦筋が入った弓香の秘部。オマンコ。だが、よく見るとあまり濡れていないような。
「開いて」
「お、おう」
両手を伸ばす。おずおず、恐る恐る、お尻の両端に手をかけ、指をオマンコの筋にかけた。開く。
途端、ダムが決壊したかのように、粘性のある液体が大量にピンク色をしたオマンコの中から溢れ出してきた。
「おおおっ」
まるでおしっこのような、しかしその粘性と白濁の色、そして甘ったるい匂いからそれではないと一瞬でわかる。いわゆるペニスで言うところの我慢汁。本気汁というやつだ。もう準備万端ということである。
「すっげぇ」
「飲む?」
「飲む」
即答。冗談のつもりで言ったのであろう弓香が「えっ」という表情になるが、問答無用でいまなお我慢汁の溢れている弓香のオマンコに顔を突っ込んで汁を啜った。
「ば、っかじゃないの」
「んくんく……味はあまりしないのな。だけどほんのりあまじょっぱい。悪くないぞ」
「ばか。ばかばかばか。最強のばかよあんたは」
真顔。ただし、赤面オブ赤面。さっきはやられたから、してやったりである。
「さて本番……やるんだよな?」
「やる。する。しないって言ったら逆レイプする」
「逆レイプって、いまのこの世の中だと男が女を犯すみたいに聞こえるよね……冗談ですはいマジメにします」
せっかく緊張してきたから和ませようと思ったのに。ってあれ、緊張しているのか俺。ペニスはこれまでにないくらい張り詰めているし、気分は興奮MAX状態。もう本能の赴くままに獣の如き交尾に移れるというのに、俺は何を緊張しているというのか。
何か。何か。何かし忘れているような。コンドーム……はいらない。むしろしたらいけない。
「…………」
手を広げて弓香が俺を誘う。彼女を押し倒すように俺は弓香の上へ。ペニスの照準は弓香のオマンコ。ペニスの先端がちょんとオマンコの入口に触れて、身体が震える。
「ッ……こ、ここだから……外さない、でね」
弓香にペニスを握られ、オマンコの穴へとあてがわれる。あとは腰を下ろすだけ。下ろすだけで、弓香と一つになれる。俺が、物心ついたときから、今日に至る日まで一度も揺れ動かなかった恋心の対象と一つになれるのだ。
「きて……私を犯して」
だから、何もためらう必要はない。俺の最愛の、もっとも好きな人なのだ。何もし忘れたことなど……。
あ……。
「弓香」
「……?」
弓香の顔を見る。いつも真顔の何を考えているかわからない顔。だけど喜んだときは口の端が緩むし、怒ったときは眉が釣り上がる。悲しいときは目尻が落ち込むし、楽しいときは頬が赤く染まる。真顔だけど、いや真顔だからこそ、その細かな違いがよく際立って、幼いときから一緒の俺にはそれが魅力的に移る。弓香の何を考えているかわからないように見える顔に、俺の目はずっと釘付けだった。わからないからこそ、もっと見たくなって、見続けているうちに、ただの幼馴染に思えなくなったのだ。
だから、幼馴染を越えるその前に、俺は言わなくちゃならない。言って、俺と弓香は最愛の二人にならなくちゃならない。
「ちゃんと俺の言葉で言ってなかったな」
言葉にする。
「弓香、俺もお前のことが好きだ。愛してる」
「ッッ!?」
その言葉と同時に、俺は、腰を深く下ろした。
ぷちゅり、という何かを破る音とともに粘液まみれの肉壁に、俺のペニスは根元まで一気に包まれた。
同時。
「あっ、あっ、あぁっ、は、はんそ、く……そんなのいま言うの、反則ゥゥッ!」
蕩けた声をした弓香が、真顔を崩した完全なトロ顔で言った。
イったとき特有の痙攣がオマンコを収縮。それがフェラの比じゃない快感を、ペニスの根元から亀頭の鈴口まで一気にぶつける。
早漏とかそういう問題じゃない。もう魔物娘だから、という理由の完全な瞬間絶頂。底辺から一瞬で絶頂まで昇りつかせる快楽の奔流に、俺はペニス以外の全身の力が全て抜け、全体重を弓香に乗せることになった。
「んぎぃ!?」
一瞬で登りつめた快楽によって精液を迸らせる鈴口が、ぶにっとした柔らかいものを押しつぶし、弓香が短く悲鳴をあげる。
これはまさか子宮口?
どぷどぷと吐き出されている精液がその口に注がれている。
「の、退いれぇ……! あひゃまおかひくなりゅう! いま子宮にせいえきらめぇええ!」
「ごめっ、むり、こんなの気持ちよすぎて! っあ!?」
尻尾が俺の臀部に巻き付く。羽が俺の背を覆う。脚が俺の背中に絡まる。全部弓香の方へ。俗語でいわゆるだいしゅきホールド。俺も弓香の背に腕を回し、抱きしめた。
「あああああああッッ! らめなのにっ! おかしくなるのにぃ! カラダが言うこときかないぃぃいいいいい!!」
奥へ、奥へ、奥へ、もっと奥へ。子宮に卵子に、ペニスを精液を飲ませるのだ、そう淫魔の本能が弓香を、そして俺までも支配する。
これが魔物娘と、淫魔と、サキュバスとセックスするということ。快楽を貪り、精を貪り、肉を貪るということ。二人で得られる全ての悦楽を享受したいと思ってしまう。
しかしそれでも、これがただ単なる本能から来ているのではないとわかる。
ただ気持ちよくなるから貪っているのではないとわかる。
目の前の相手が好きだから、本気で、本能で、理性で、肉体で、精神で好きだから、貪り合いたいと俺たちは思うのだ。
「弓香! 好きだ! この世界で誰よりもお前が好きだ!」
「ッッ! わらひも、私も、好きッ! あなたのことがこの世界で誰よりも好き!」
互いに快楽を貪り合いながら、愛の言葉を交わす。それがどんなことよりも幸せに思えた。わかるのだ。この瞬間、弓香のことが全部わかる。俺を愛してくれているということがわかる。俺が弓香を愛しているということが、弓香に伝わっていることもわかる。
全身が震える。いまなお続く射精に俺の頭は真っ白だが、それでも弓香を感じるということだけは一切消え落ちない。むしろイケばイクほど、弓香を感じる。弓香のオマンコが俺のペニスを締め付け、精液を搾り取ろうと前後に収縮しているのがはっきりと感じる。
「ッ!」
「あひっ!?」
ちゅるんと、俺のペニスの亀頭が奥へ進んだ。先は子宮しかなかった。つまりここは、弓香の子宮。すでに精液でドロドロになった赤ちゃんの部屋に、俺のペニスが入り込み、亀頭が子宮壁を擦る。直接子宮が精液をぶつけられる。
もう俺も弓香もわけがわからなかった。俺と弓香の境界というものが曖昧になっていた。まさしく一つになった感覚。ペニスとオマンコでつながったこの状態こそが、俺たちにとってもっとも自然で、常態なのではと思わせるほどに心地の良い気分だった。
「こんにゃの味わったら……もう戻れにゃいぃ……」
「ずっと、ずっとこのまま……」
俺が射精をし続ける限り、弓香は絶頂を続けオマンコを締め付け俺のペニスを快楽の頂点に昇らせる。そしてまた俺は精液を勢いよく弓香の膣内、子宮内へと注ぎこみ、またイキ続ける。
終わりのない快楽の袋小路にハマった俺と弓香は、あまりの快楽の連続に気絶して次に目覚めるまで、ずっとこのままであった。
目が覚めてもとりあえず繋がったまま、俺たちは抱き合っていた。汗でじっとりとした肌が触れ合うが不思議と不快ではない。べっとりとひっついて一層深く繋がっているようにも思えるからだ。
「まさかこれほどとは思ってなかった」
「病みつきになりそう……ううん、もうなってる」
「同じく。弓香と離れたいと思わない」
あの獣じみた感覚はなりを潜めたがペニスの怒張はいまなお収まらず、弓香の膣内に収まっている。当然動くと気持ちいい。まぁ動かなくても気持ちいいけど。
「しっかしなぁ。まさか俺が弓香を好きなことバレてたとは」
「バレてないと思ってたとは」
「いつバレた?」
「三日前」
「おっそ!? おっそ!? ていうかそれ魔物化した直後じゃ」
「直前。それに気づいたから魔物化してあんたと行くとこまで行っちゃおうと思ったの」
なんともまぁ、その思い切りの良さは感服する。
「誰に魔物化されたとか、聞かないの?」
「うんにゃ、それはどうでもいいかな。お前が魔物化したことは興味あるけど、お前を魔物化させたやつのことは興味ない」
「そう」
ニヤニヤ。口の端が緩んでますぞ、姫君。
とか思ってたら尻尾の先端で背中をなぞられた。「ひゃうんっ」と変な声が出たぞ。
「あんただって、私が好きなこと今日の今日まで気づいてなかったくせに」
「あれだよ、ラノベの主人公はたいてい鈍感だから」
「主人公、ね……」
主人公(笑)って思わなかったか、いま。全く失礼な。
仕返しとばかりに翼の付け根をニギニギしてやると「んっ」と色っぽい声を出してくる。頬が赤い。ううむ、2R目開始もそう遠くなさそう。
「んっ、あんたは私だけの主人公なんだから鈍感じゃなくていいの。鈍感主人公が許されるのはハーレム物のみ」
「お、おう」
なんだか納得いかないけど、確かに俺はハーレム物の主人公に相応しくないな。弓香だけの主人公であれば充分……いや、弓香だけの主人公でいることが俺の唯一最大の望みだ。
「ッ! ふふっ」
「なに?」
珍しい。弓香が声を出して笑うなんて。真顔だけど。
「ううん。ねぇ、続き、しよっか? 今度はまったりとね」
よしきた。俺のペニスももうHP・MP最大値まで回復済みだぜ。
「あ、そうだ。ねぇ。当初の目的、忘れてない? 魔物娘の愛云々って」
「ああ、あれね。いや、もう俺の中では解決した」
「そうなの?」
「ああ。これは他人には証明できないからな」
魔物娘の愛。そんなの他人が証明できるはずがない。
魔物娘の愛は、その二人にしかわからないのだから。
小首を傾げる弓香の唇に、そっとキスを落とす。
俺のことを感じられるのは弓香だけで、弓香を感じることができるのも俺だけ。
互いを分かり合っている。それが魔物娘とその夫たる人の愛なのだ。
[fin]
16/07/16 19:18更新 / ヤンデレラ