そのにじゅうきゅう
臆病な者は命を残し、勇敢な者は名を残す――という言葉がある。
勇気の素晴らしさと危険さを簡潔に表した名言だ。
だからといって勇敢な者が例外なく人々の記憶や書物の中に残るのかというと
一部を除いてほとんどの者は忘却のかなたに消え去っている。
知名度の多寡はさておき、歴史に刻まれるような
インパクトをこの世に与えた英雄や勇者は、ごく一握りだけなのだ。
マリナも本来ならその一握りに選ばれてしかるべき勇者だったのだが
サキュバスとして第二の生を謳歌していることが周知となって、落選した。
もはや教団からの認識は悲劇の勇者ではなく卑猥な勇者だ。
当の本人は毛ほども気にしていないが、生きている偶像を見るように
マリナを見ていた熱烈なファンに与えた衝撃はでかすぎたらしく、
『あれは勇者ウィルマリナの残骸にすぎない』
などと健気に思い込もうとしても、やはり実際に目の当たりにすると、淫らに
おとしめられた聖なる乙女というのは教団の倫理に凝り固まった者たちには
おぞましくも魅力的で仕方がないのか、ほとんどの者が
積極的なアクションを放棄してその場で脱力してしまうみたいである。
長々と語ったが、要するに、あんな風になるということだ。
「やめて、やめて下さい、こんな……あぁ!」
「あら、嫌がる割には乳首がこんなになってますよ。うふふ……」
カプッ
「ひぃ!?」
「敏感ですね。嬲りがいがあるというものです」
「だめ、やめ、やめて、勇者さまぁ…。なんで、どうしてですかっ……」
「まだまだですよ。じっくりと快楽の味を教え込んで
男の人のたくましいチンポを、心の底から渇望させてあげます」
「そ、そのような、下品な言葉を、ウィルマリナ様の声で、い、言わないで…」
「ふふっ、いずれは貴女も連呼するようになりますよ。
『もっと後ろから激しく突いて』『おっぱいにもぶっかけて』
『朝も夜もオチンポを食べさせて』『精液をたっぷりちょうだい』ってね。
うふふ、あははは、あははははははっ……」
楽しげですな。
そして隣の部屋ではデルエラが立ったまま自分の股間をいじくって
艶っぽい吐息をもらし、素っ裸で拘束されて座り込む全裸の敗残兵の
そそり立つ肉棒にポタポタと蜜をこぼしては射精させている。
身動きが取れない者に水滴が一定のリズムで落ちるようにしておくという
拷問があると聞いたのを思い起こさせる光景だった。
「…んふ、魔王の娘のオナニーなんて、滅多に見れるものじゃないわよ…。
しかもこんな……特等席で、見物できるのだから、んくっ、光栄に思いなさい」
「…や、やめぇ…やめへふれぇ…………」
朦朧としながらもまだ拒絶の言葉を吐ける気力が残っているようだが
救いのないこの状況では苦しみが続くだけでしかない。
俺は扉の隙間から顔を離し、覗き見をさっさと切り上げて
マリナ達の元へと戻ることにした。
「……覗きなんて、あんまりいい趣味じゃないと思うけど?」
前方の曲がり角から、俺に痴態を覗かれていたリリムが軽い口調で咎めてきた。
「なん…だと……」
ついさっきまでデルエラがあの部屋にいたはずなのにいた、という
歴戦の騎士でも困惑するであろう奇怪な事態が発生している。
「…ああ、あっちは俺が作ったコピーか」
しかし頭の回転がすごぶる速い俺はすぐさま正答を導き出したのだった。
「あの子達にはフェイクで十分よ」
「確かに本物ほどじゃないとしても十分な致死量はありそうだな」
「どういう意味かしら」
デルエラのこめかみに青筋が浮かんだ。
「はぁー……演舞じゃあらへん、ほんまの真剣白刃取りや。
実戦で使こうてるの初めて見たわ……」
ギギギギギギギ……
「見てないで止めてくれ」
「今宵ちゃん、おとなしくそこで見ていなさい。このまま押し切るから」
「こないだ俺を上下に分割しといて今度は左右か?
てっきり前回で懲りたものだと思っていたがな」
「貴方も耳障りな失言を吐くのを懲りてないようだし、おあいこよ、おあいこ」
「喉元過ぎれば――ちゅうことやな」
ギギギギギギギ……
「だから止めろと」
「止めたいのなら、せめて私の剣が床についてからにしなさい」
「それだと後のカーニバルだろうが。だいたいだな、いつも思うが
お前の攻撃は非道すぎる。リリムなんだから、痛みや外傷はともかく、
命に関わる怪我を負わせないような魔力を武器や魔法に帯びさせられるはずだぞ」
「魔力がもったいないわね」
「その無駄にでかいケツを置いてるだけの魔力がか?」
「瑞々しさがありながら同時に熟れてもいるケツといいなさい」
ギギギギギギギ……
「ケツって物言いは訂正しないんやな………………あ、マリナや。
血相変えてこっちにダッシュしてきよるわ」
「ちょっと何やってるんですかああああぁぁぁ!!?」
やっと水入りとなった。
「あやうく、死にはしないにせよ、面倒なことになるところだったぜ」
「人間は元より、たいていの魔物でも普通は死ぬんやけど……」
首をかしげる今宵。
「魔物ならそうかもしれないが俺は魔物じゃないから。
インキュバスという類の人間だから」キリッ
「いや、人間ならなおさら一刀両断されたら死ぬでしょ。
そんな凛々しい表情で言われても肯定できないよ」
デルエラが不可解そうな顔でつぶやくマリナの肩に手を置き、かぶりを振る。
「ツッコミを入れるだけ無駄よ。この子はもう
我々の属する常識の枠外にどっしり居座ってしまってるんだから」
「…どうしてこうなったのかな…」
どうしてもこうしてもない。元をただせば教団とお前らのせいである。
そしてこっちはというと案の定だった。
「んぅ、いいわ……。もっと突きなさい、そう、そうやってがむしゃらに、ああっ。
神の僕なら、せめて、オチンポで魔王の娘を鳴かせてみせなさい、んあぁ……」
特にやることがないのでデルエラ(偽)の様子をこっそり見るために戻ると
やっぱり乱交していた。それはやめとけと釘を刺されていたはずだが
ついつまみ食いがエスカレートしてしまったのだろう。
さて、本物にこのことを教えるべきか否か。
ニア はい
いいえ
面白いので教えない
むろん面白いので三番目を選ぶ。さっき二つにされそうになった仕返しもこめて。
「か、神様ぁああぁぁぁ…!」「うぐぐっ、腰の動きが止まらないっ!」
「んうぅああぁ……ボ、ボクのおちんちん、も、もう、舐めないれぇぇぇ……」
この状況におかれて口々にそう言いたくなる気持ちはわかるが火に油である。
「だぁめ。貴方達にはとことん堕落の味を教えてあげるんだから。
はむっ、んむっむぐっぴちゅぷちゅぷっ……。んっぷ……ほら、お尻にも入れなさい……」
欲張ってペニスを二本同時にしゃぶりながら
指で自分のアナルを『くぱぁ』しているフェイクデルエラの姿はまさに淫魔そのものだ。
……と、彼女の創造者である自分が思うのは盛大な自画自賛かもしれない。
「あのー、デルエラ様はこちらにいらっしゃいますか?」
メイド姿が様になっている魔物に声をかけられた。
キキーモラという種族で、名前はミネ。ヘリィの従者だと簡潔に自己紹介してくれた。
あのポローヴェでの大事件についてデルエラから聞きたいことが
いくつかあるのだという。まあ、穏健派にとって余計な行動をしてないかどうか
その辺の探りも含められているのだろう。
ヘリィから直々にそれを任されているということは、このメイド、なかなか
有能なのかもしれない。人手不足でメイドの手も借りたいだけという可能性もあるが。
「えーと、いるというか、その、違うというか」
「……どう……これがいいんでしょう……?
これがリリムの……誰しもが夢中に……」
間の悪いことに、扉の隙間から漏れる声がこちらに届いてきた。
「あー、そちらのお部屋でお楽しみの最中なんですね。ちょっと失礼」
コンコン
「……お入りなさい…………ああっ、そう、そうよ、いいわぁ……」
俺はその場を離れることにした。
「失礼しま………………ふぇえ!?
り、輪姦パーティ真っ最中ぅぅうううう!!???」
メイドの絶叫がこだました。
グギギギギギギ…!
「どうして私のところにさっさと連れてこなかったの…!」
グギギギギギギ…!
「あっちが本物かと思ってな…!」
「よくもまあそんな見え透いたウソをつけるものね…!」
「日に二度も真剣白刃取りを見るっちゅうのも、けったいな話やなぁ」
「んふふふふ、童貞まっすぐ君たちの精は最高だったわ。
若々しい青臭さと濃厚なオトコノコ臭さが混濁してるのがまたいいのよね〜」
グギギギギギギ…!
「二人ともぼさっとしてないで止めるの手伝ってってばぁ!!」
〜〜〜〜〜〜
そんなこともあったがそれ以上の問題は発生せず
馬車内の空気がギスギスしながらも無事にレスカティエ到着。
「はぁ、疲れたぜ」
「おかえりなさいー」「おみやげくださいー」
嫁達が笑顔で迎えてくれる中、おかしなものが視界に入ってきた。
「あの、どうしたの、アレ」
眉をひそめてマリナが指差したその先には、虚ろな両の目を
それぞれ別方向に向け、口をだらしなく半開きにしている教官の姿があった。
俺たちが帰ってきても微動だにせず、ぬけがらのように座り込んでいる。蛇だけに。
「何だか、ぬけがらみたいね。蛇だけに」
「そうですね。みなさま、出張ご苦労様でした」
フランツィスカ様がデルエラの言葉を軽く受け流した。
「……まかいも(魔界いもの愛称)の相場で、かなり溶かしたみたい」
肉球のついた指を器用に曲げ、人差し指と親指で
円を形作るサインを見せながらプリメーラが耳打ちしてきた。
「魔界銀でできたハルバードを購入するためのお金を
ほとんど突っ込んだようですよ。残りの金額ではハルバードの分どころか
スプーン一本分が関の山だとか」
「けっこう溶かした人がいるみたいでね〜〜。
こないださ〜〜、ここのサバト支部に顔を出したら、ミミルを魔女にしてくれた
バフォメットさんも、あんな顔してたよ〜〜」
サーシャ姉とミミルが補足説明してくれた。
相場はほとんど博打みたいなものだから基本的に素人判断でやれるものじゃないし
玄人ですら財産パーにすることが珍しくない。むしろその程度で住んで僥倖といえる。
「何はともあれ、ほら、なぐさめてあげなさい。魔物娘の夫らしくね」
デルエラが背中を押してせかしてきた。
「言われんでもわかってるよ」
と思っていたら、マリナが教官の元へとスイスイ近づいて、
「………………ガンバ☆」
両手を広げ、キラキラと光る小さなお星様を振りまくような笑みを見せた。
うん、逆効果だと思うな、それ。
数秒後、バネじかけのおもちゃのような動きで
教官がマリナに飛びかかっていった。今度はマリナが止めてくれと頼む側になるようである。
勇気の素晴らしさと危険さを簡潔に表した名言だ。
だからといって勇敢な者が例外なく人々の記憶や書物の中に残るのかというと
一部を除いてほとんどの者は忘却のかなたに消え去っている。
知名度の多寡はさておき、歴史に刻まれるような
インパクトをこの世に与えた英雄や勇者は、ごく一握りだけなのだ。
マリナも本来ならその一握りに選ばれてしかるべき勇者だったのだが
サキュバスとして第二の生を謳歌していることが周知となって、落選した。
もはや教団からの認識は悲劇の勇者ではなく卑猥な勇者だ。
当の本人は毛ほども気にしていないが、生きている偶像を見るように
マリナを見ていた熱烈なファンに与えた衝撃はでかすぎたらしく、
『あれは勇者ウィルマリナの残骸にすぎない』
などと健気に思い込もうとしても、やはり実際に目の当たりにすると、淫らに
おとしめられた聖なる乙女というのは教団の倫理に凝り固まった者たちには
おぞましくも魅力的で仕方がないのか、ほとんどの者が
積極的なアクションを放棄してその場で脱力してしまうみたいである。
長々と語ったが、要するに、あんな風になるということだ。
「やめて、やめて下さい、こんな……あぁ!」
「あら、嫌がる割には乳首がこんなになってますよ。うふふ……」
カプッ
「ひぃ!?」
「敏感ですね。嬲りがいがあるというものです」
「だめ、やめ、やめて、勇者さまぁ…。なんで、どうしてですかっ……」
「まだまだですよ。じっくりと快楽の味を教え込んで
男の人のたくましいチンポを、心の底から渇望させてあげます」
「そ、そのような、下品な言葉を、ウィルマリナ様の声で、い、言わないで…」
「ふふっ、いずれは貴女も連呼するようになりますよ。
『もっと後ろから激しく突いて』『おっぱいにもぶっかけて』
『朝も夜もオチンポを食べさせて』『精液をたっぷりちょうだい』ってね。
うふふ、あははは、あははははははっ……」
楽しげですな。
そして隣の部屋ではデルエラが立ったまま自分の股間をいじくって
艶っぽい吐息をもらし、素っ裸で拘束されて座り込む全裸の敗残兵の
そそり立つ肉棒にポタポタと蜜をこぼしては射精させている。
身動きが取れない者に水滴が一定のリズムで落ちるようにしておくという
拷問があると聞いたのを思い起こさせる光景だった。
「…んふ、魔王の娘のオナニーなんて、滅多に見れるものじゃないわよ…。
しかもこんな……特等席で、見物できるのだから、んくっ、光栄に思いなさい」
「…や、やめぇ…やめへふれぇ…………」
朦朧としながらもまだ拒絶の言葉を吐ける気力が残っているようだが
救いのないこの状況では苦しみが続くだけでしかない。
俺は扉の隙間から顔を離し、覗き見をさっさと切り上げて
マリナ達の元へと戻ることにした。
「……覗きなんて、あんまりいい趣味じゃないと思うけど?」
前方の曲がり角から、俺に痴態を覗かれていたリリムが軽い口調で咎めてきた。
「なん…だと……」
ついさっきまでデルエラがあの部屋にいたはずなのにいた、という
歴戦の騎士でも困惑するであろう奇怪な事態が発生している。
「…ああ、あっちは俺が作ったコピーか」
しかし頭の回転がすごぶる速い俺はすぐさま正答を導き出したのだった。
「あの子達にはフェイクで十分よ」
「確かに本物ほどじゃないとしても十分な致死量はありそうだな」
「どういう意味かしら」
デルエラのこめかみに青筋が浮かんだ。
「はぁー……演舞じゃあらへん、ほんまの真剣白刃取りや。
実戦で使こうてるの初めて見たわ……」
ギギギギギギギ……
「見てないで止めてくれ」
「今宵ちゃん、おとなしくそこで見ていなさい。このまま押し切るから」
「こないだ俺を上下に分割しといて今度は左右か?
てっきり前回で懲りたものだと思っていたがな」
「貴方も耳障りな失言を吐くのを懲りてないようだし、おあいこよ、おあいこ」
「喉元過ぎれば――ちゅうことやな」
ギギギギギギギ……
「だから止めろと」
「止めたいのなら、せめて私の剣が床についてからにしなさい」
「それだと後のカーニバルだろうが。だいたいだな、いつも思うが
お前の攻撃は非道すぎる。リリムなんだから、痛みや外傷はともかく、
命に関わる怪我を負わせないような魔力を武器や魔法に帯びさせられるはずだぞ」
「魔力がもったいないわね」
「その無駄にでかいケツを置いてるだけの魔力がか?」
「瑞々しさがありながら同時に熟れてもいるケツといいなさい」
ギギギギギギギ……
「ケツって物言いは訂正しないんやな………………あ、マリナや。
血相変えてこっちにダッシュしてきよるわ」
「ちょっと何やってるんですかああああぁぁぁ!!?」
やっと水入りとなった。
「あやうく、死にはしないにせよ、面倒なことになるところだったぜ」
「人間は元より、たいていの魔物でも普通は死ぬんやけど……」
首をかしげる今宵。
「魔物ならそうかもしれないが俺は魔物じゃないから。
インキュバスという類の人間だから」キリッ
「いや、人間ならなおさら一刀両断されたら死ぬでしょ。
そんな凛々しい表情で言われても肯定できないよ」
デルエラが不可解そうな顔でつぶやくマリナの肩に手を置き、かぶりを振る。
「ツッコミを入れるだけ無駄よ。この子はもう
我々の属する常識の枠外にどっしり居座ってしまってるんだから」
「…どうしてこうなったのかな…」
どうしてもこうしてもない。元をただせば教団とお前らのせいである。
そしてこっちはというと案の定だった。
「んぅ、いいわ……。もっと突きなさい、そう、そうやってがむしゃらに、ああっ。
神の僕なら、せめて、オチンポで魔王の娘を鳴かせてみせなさい、んあぁ……」
特にやることがないのでデルエラ(偽)の様子をこっそり見るために戻ると
やっぱり乱交していた。それはやめとけと釘を刺されていたはずだが
ついつまみ食いがエスカレートしてしまったのだろう。
さて、本物にこのことを教えるべきか否か。
ニア はい
いいえ
面白いので教えない
むろん面白いので三番目を選ぶ。さっき二つにされそうになった仕返しもこめて。
「か、神様ぁああぁぁぁ…!」「うぐぐっ、腰の動きが止まらないっ!」
「んうぅああぁ……ボ、ボクのおちんちん、も、もう、舐めないれぇぇぇ……」
この状況におかれて口々にそう言いたくなる気持ちはわかるが火に油である。
「だぁめ。貴方達にはとことん堕落の味を教えてあげるんだから。
はむっ、んむっむぐっぴちゅぷちゅぷっ……。んっぷ……ほら、お尻にも入れなさい……」
欲張ってペニスを二本同時にしゃぶりながら
指で自分のアナルを『くぱぁ』しているフェイクデルエラの姿はまさに淫魔そのものだ。
……と、彼女の創造者である自分が思うのは盛大な自画自賛かもしれない。
「あのー、デルエラ様はこちらにいらっしゃいますか?」
メイド姿が様になっている魔物に声をかけられた。
キキーモラという種族で、名前はミネ。ヘリィの従者だと簡潔に自己紹介してくれた。
あのポローヴェでの大事件についてデルエラから聞きたいことが
いくつかあるのだという。まあ、穏健派にとって余計な行動をしてないかどうか
その辺の探りも含められているのだろう。
ヘリィから直々にそれを任されているということは、このメイド、なかなか
有能なのかもしれない。人手不足でメイドの手も借りたいだけという可能性もあるが。
「えーと、いるというか、その、違うというか」
「……どう……これがいいんでしょう……?
これがリリムの……誰しもが夢中に……」
間の悪いことに、扉の隙間から漏れる声がこちらに届いてきた。
「あー、そちらのお部屋でお楽しみの最中なんですね。ちょっと失礼」
コンコン
「……お入りなさい…………ああっ、そう、そうよ、いいわぁ……」
俺はその場を離れることにした。
「失礼しま………………ふぇえ!?
り、輪姦パーティ真っ最中ぅぅうううう!!???」
メイドの絶叫がこだました。
グギギギギギギ…!
「どうして私のところにさっさと連れてこなかったの…!」
グギギギギギギ…!
「あっちが本物かと思ってな…!」
「よくもまあそんな見え透いたウソをつけるものね…!」
「日に二度も真剣白刃取りを見るっちゅうのも、けったいな話やなぁ」
「んふふふふ、童貞まっすぐ君たちの精は最高だったわ。
若々しい青臭さと濃厚なオトコノコ臭さが混濁してるのがまたいいのよね〜」
グギギギギギギ…!
「二人ともぼさっとしてないで止めるの手伝ってってばぁ!!」
〜〜〜〜〜〜
そんなこともあったがそれ以上の問題は発生せず
馬車内の空気がギスギスしながらも無事にレスカティエ到着。
「はぁ、疲れたぜ」
「おかえりなさいー」「おみやげくださいー」
嫁達が笑顔で迎えてくれる中、おかしなものが視界に入ってきた。
「あの、どうしたの、アレ」
眉をひそめてマリナが指差したその先には、虚ろな両の目を
それぞれ別方向に向け、口をだらしなく半開きにしている教官の姿があった。
俺たちが帰ってきても微動だにせず、ぬけがらのように座り込んでいる。蛇だけに。
「何だか、ぬけがらみたいね。蛇だけに」
「そうですね。みなさま、出張ご苦労様でした」
フランツィスカ様がデルエラの言葉を軽く受け流した。
「……まかいも(魔界いもの愛称)の相場で、かなり溶かしたみたい」
肉球のついた指を器用に曲げ、人差し指と親指で
円を形作るサインを見せながらプリメーラが耳打ちしてきた。
「魔界銀でできたハルバードを購入するためのお金を
ほとんど突っ込んだようですよ。残りの金額ではハルバードの分どころか
スプーン一本分が関の山だとか」
「けっこう溶かした人がいるみたいでね〜〜。
こないださ〜〜、ここのサバト支部に顔を出したら、ミミルを魔女にしてくれた
バフォメットさんも、あんな顔してたよ〜〜」
サーシャ姉とミミルが補足説明してくれた。
相場はほとんど博打みたいなものだから基本的に素人判断でやれるものじゃないし
玄人ですら財産パーにすることが珍しくない。むしろその程度で住んで僥倖といえる。
「何はともあれ、ほら、なぐさめてあげなさい。魔物娘の夫らしくね」
デルエラが背中を押してせかしてきた。
「言われんでもわかってるよ」
と思っていたら、マリナが教官の元へとスイスイ近づいて、
「………………ガンバ☆」
両手を広げ、キラキラと光る小さなお星様を振りまくような笑みを見せた。
うん、逆効果だと思うな、それ。
数秒後、バネじかけのおもちゃのような動きで
教官がマリナに飛びかかっていった。今度はマリナが止めてくれと頼む側になるようである。
13/11/19 14:31更新 / だれか
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