魔界国家レスカティエの最高権力者の一人にして、主な仕事が
嫁達とのセックス三昧という立場にいる俺。
魔物に対して好意的な考えを持つ男なら「こんな生活してたら馬鹿になっちゃうよ」と
嬉しい悲鳴をあげるのだろうが、教団に最優先で命を狙われるという
嫌すぎる事実に仰け反り言葉にならない絶望の呻きが喉から出てくるのは確実である。

何を言いたいのかというと、平和が一番ということだ。
つまり、女性のピンチをどこからともなく嗅ぎつけては
性的すぎる解決策を一方的に押し付ける魔界仲人ことデルエラの暴走を
あの手この手で止めなければならない。レスカティエの場合は、本来ならば魔物の誘惑に対し
もっとも抵抗すべき勇者達が揃いも揃って現状不満と欲求不満を持ち合わせていたせいで
むしろ率先して堕ちていったという稀なケースであり、どのみち結果は同じとはいえ
普通なら騒動が終結する前に血の雨が降るのが常である。
男を捕らえてその場でヤってた魔物を背中からバッサリという話も珍しくないのだ。

ここまではよろしいか？

では、どうやって止めるかだが、表立って争えない状況なので
原則として消極的な『待ち』の姿勢を取り、いい頃合いを見計らって
アキレス腱となる要所に横槍を入れて流れをグダグダにするというのが基本だ。
そうなると、情報戦で優位に立たねばならない。デルエラや教団に先んじて
最新のネタを掴んでおけば今後の予測が容易になり、先手を打つのも後の先を取るのも
ある程度は自在となる。まだ知られていないことを既に知っているというのは
地域や時代を問わず強力なアドバンテージなのだ。
石の武器しか知らない民は鉄の武器を知る民に破れ、弓矢を知らない軍は
ただの動く的の集まりになる。そのような悲惨な実例が歴史を紐解けば
数多く見つかることからもわかるように、知識は目に見えぬ強大なパワーといえよう。
知識を正しく用いる知恵があれば、の話だが。


………………


「――だからスパイが必要なのだよ。わかるだろ？」
「へえ」
「そうですか」
俺の力説を軽く流すミリュスとウィット。
言わなくても顔を見ればわかる。『また始まったか』と言いたいのだろう。
しかし俺にとってこれは切実な問題である。
他にやることがなくて手持ち無沙汰だから暇つぶしもかねて
本腰を入れているのは否定しないが、とはいえサラッと流せるような事でもない。
おせっかいリリムの放つエロ火種が俺やマリナ達にまで飛び火する前に
手早く消化するなり事前に水をまくなりしておきたいのだ。
「レスカティエの平穏のために我々が一肌脱ぐのは当然じゃないか」
「あのですね、なし崩しに一蓮托生にしようとするの
やめてくれませんか。見え見えですよ」
「そこは目をつぶってもらいたい」
「ハハッワロス」
などと言っているがウィットの目は笑っていない。
過激派の出足をすっ転ばせるためにロープを張っておくような真似はできないと
その目が言っている。
「ウィットさんはともかく、僕はもう面が割れているんで
スパイとか不可能ですよ」
「教団の連中はお前がこちらに寝返ったことを確信してないはずだが」
「確信はしてなくても怪しんではいるでしょ。
兄さん……まあ今は姉さんですけど、僕が勝手に連れてきちゃったわけだし。
その点、ウィットさんは知名度ないですから大丈夫だと思います」
年少ショタが畳み掛けるように年長ショタにジョーカーを引かせようとする。
「いやいやお嬢様たちのお世話があるんで」
「お暇をもらえばいいじゃないですか」
「そうは言うけど、ミリュス君だってそこまで知名度があるわけじゃないし、
第一、この国にいる分には顔が知られていても関係ないんだから
デルエラ様のそばにいて何かあれば逐一報告するとかできるでしょ」
今度は向こうにジョーカーが移った。ひどいババ抜きだなこれ。
「あははは、麗しいなすりつけ合いだね〜〜」
楽しそうだなミミル。
「笑い事じゃないですよ。ミミルさんはいいんですか？」
「別に〜〜、こんなの昔から慣れっこだし〜〜〜。
もっとえげつない大人同士の会話とか聞き飽きてるもん〜〜〜」
「そ、そうですか」
貫禄の違いにミリュスが動揺している。
そう、こう見えてミミルは勇者をやっていた頃、金と権威にまみれた
無能な連中が跳梁跋扈する生臭いレスカティエの裏側をさんざん見ているのだ。
俺がそれらについての愚痴を聞かされたことも一度や二度ではない。
「…あなたにそんな嫌な思いをさせていたことを、わたくしは
王族の代表として謝罪しなければなりませんね」
先程まで黙って様子を見ていたフランツィスカ様が申し訳なさそうに言った。
「い〜よい〜よ、そんな辛気臭いことしなくても。
もう過ぎたことだし、フランツィスカ様が悪いわけじゃないからね〜〜」
まあ寝たきりだったからな。
「そうですね。わたくしに落ち度はありませんし」
「そ、そうだね」
変わり身の速さに今度はミミルが動揺した。

で、なぜこの二人もここにいるかというと、やはり嫁達にも
少しは協力してほしいからである。
（マリナや教官は力技に走りそうなので却下。プリメーラは単純なので論外。
サーシャ姉やロリ二人は腹の探り合いや化かし合いには向いてない。
今宵にも手伝って欲しかったが、いざという時に
ヘタレる可能性があるので声をかけるのはやめといた）
なので、頭脳戦に秀でたミミルと、城のあちこちに擬態している触手や
ローパーと化したメイドに貴族の娘といった便利な下僕を数多く持つ女王に
俺は白羽の矢を立てたのだ。
無論、この二人が慎重な性格だというのも理由である。
やってみなきゃわからない、などという根拠の無いアクティブさは危険なのだ。

「……それでは、私のかわいい下僕たちの中から
有能な子を何人か見繕ってみましょう」
「なら僕もルネさんに裏世界の知人をあたってもらいますよ。もしかしたら
その中に密偵役をこなしてくれる方がいるかもしれませんから。仕方ないですしね」
「あ、そっちの業界なら、アニーさんにもいくつかツテがありそうなんで
後でちょっと聞いてみます。もう仕方ないし」
長話の甲斐あって、渋々という様子ではあったが
こいつらと厄介事を分かち合うことに俺は見事成功した。
「ああ頼む」
その中に優秀な人材がいてくれるとありがたいのだが、こればかりは運次第だな。
「ちょっと気分転換に散歩してくる。
なんかいい案が出たらメモしといてくれ」


「ふー」
酒を飲む気にもならんな。
王城の廊下を歩く足取りも、なんとなく重さを感じる。
「なんだい、しけたツラしちゃってまあ。
ベッドの上以外でも運動しないから、そんなだらしないことになるんだよ」
廊下に面した庭で鍛錬でもしていたのか、教官が、足元というか尾元に
愛用の斧槍――ハルバードを置き、タオルで汗をぬぐっていた。
魔物になった者や元から魔物だった者は己の力を高めるための行為を
一切しないものかと思ったが、魔力よりも腕力を重視する種族や
人間だった頃から肉体労働を好んでいた者だと、どうやらそうでもないらしい。
「俺は頭脳派なんですよ」
「そーいうのも悪くないけどよ、あんまり頭ばっかり使ってると
自分の考えにがんじがらめにされて身動き取れなくなるぜ？」

グサリときた。

教官はたまにこういうことを言うからあなどれない。いや別に普段は軽んじていないが。
「ま、そうはいってもお前は根が心配性だからな。
これまでの人生で心に刻まれた性分ってのは余程のことがなけりゃ
そうそう変わるもんじゃないか…って、アタシが言えたガラじゃないけどさ」
はにかみながら教官が笑った。まあ、あんた人間だった頃は
過去のトラウマにがっちがちに固められてたそうだしな。今はぐるっと真逆だが。
「……今回だけは教官の言うとおりかもしれませんね。
もう少しこう、豪快というか、アグレッシブにいかないと駄目かぁ」
深く息を吐いてから、俺は自分に言い聞かせるように言った。
脳筋の意見にもたまには含蓄があるものだ。
「そうそう。その意気だぜ」
「よし、そうと決まれば、もっと大胆にデルエラの活動を妨害しよう」
善は急げである。
「おいちょっと待て！」
綺麗に刈られた芝生の上を滑るように素早く近づいてきた教官に肩を掴まれた。
「なんすか」
「とりあえず全て話せ」
「世の中には聞かなかったほうがいい類の話もありますが」

物理的に絞めあげられたので、『スパイを各地に派遣して
デルエラとその支持者や反魔物系国家と教団などのきな臭い情報を探りつつ
両者の激突を積極的に妨害する』と、嘘偽りなく話してみた。


………………


「…………お前、いつかデルエラ様と戦争することになるぞ」
もうすでに数回してるわけだが、この場合の『戦争』とは
そういったガチンコ大喧嘩という意味ではなく、魔界を穏健派と過激派に割って
大規模な内紛を引き起こしかねないという意味だろう。
「人生設計をオジャンにされた件がまだ心のしこりとして残ってるんで」
「もういいだろそれ……。
…あれか、アタシ達の愛が足りないから、まだ根に持ってしまっているのか？」
「ちがうちがう違いますからってちょ」


「んっ、お前の太いのっ、奥までグリグリってしてるっ。
大事な子宮の入口ぃ、こつんこつんしてるよぉ！」
「どうだっ、俺の愛は、たまらないだろっ…？」
「き、聞かなくても、わかるくせに、な、なんでっ、あひいいいいいいぃ！」
蛇腹に巻きつかれた腰を動かせる範囲でグリッとひねると
そのたびに膣内のあちこちが俺のペニスにえぐられ、教官は――メルセは
美しくも凛々しく整った顔を歪め、悦びにむせび鳴いていた。
俺だけがメルセの顔をこんな風に崩せるという優越感と
普段の余裕に溢れた顔とアヘ顔とのギャップによる興奮は、嫁達の中でも断トツだ。
「あら、ここにいらしたのですか、教官……っ！？」
あ。
魔物になる前は女性の下級兵だった者たちが
こちらを見て仰天していた。いずれもよく知った顔だ。
メルセに用事かあるようなので交わりを中断すべきなのだろうがそんなの関係ねえ。
というか、見られながらやるのも乙だとすら思える。マリナの病気が移ったか？
「ほら、彼女らが、くっ、メルセに用があるみたいだぞ、んうっ」
俺は腰の動きをまったく止めずにメルセを攻めあげた。

ぬっぐ、ぬっぐ、ぬっぐ、ぐぬりゅううううっ

「なっ、なんだい、アタシは今いそがひいいい！いいっそれいいのおぉ！
夫のデカチンポがよくてよくてどうしようもないくらいいいのおっ！んんんんぅぅぅ！！」
いつものメルセの喋りが一瞬にして淫らなものになった。
「あ、あ、あ、あ、あのっ」「す、すごぉい……」
彼女らは尊敬するメルセの『牝の顔』を目の当たりにしたせいで
硬直していたが、そのうち股間を押さえたり切ない息を吐いたりしたかと思うと
「いえ、も、申し訳ありません」「ま、また後で伺いますので」「しっ失礼します…！」
内股じみた歩き方でそそくさとこの場から離れていった。
何処に向かったかは言うまでもあるまい。一件落着。


だが、この数十分後、俺を探していたマリナが『今度は私なの！』と言って
俺の右腕を引っ張ると、教官が『いつもは絡まってのセックスできないんだから
まだやらせろ！』と俺の左腕を引っ張り、なんだこの引き裂きの刑。

■作者メッセージ
今宵「最後まで離さなかったほうが本当の嫁や」