魔将たちの弟子「闘争ハジマタ」
・レベル0
――見慣れた夜景は赤く染まっていた。
街のいたるところで吹き上がってる炎によって。
親魔物派としての姿勢を頑として崩さなかったこの街へ、業を煮やした
教団の過激派が、焼き討ちをしかけてきたのだ。
魔物に対して別にどうとも思ってなかった、雑貨屋の下働きにすぎない
天涯孤独の14歳少年だった俺も、当然、その災禍を免れることはできずに
激しい炎にまかれて炭になるしか道は残されていないように思えた。
「………おい、大丈夫か!?」
まがまがしい鎧に身を包んだ、救いの道が現れなければ。
・レベル1
それから一週間がたった。街はまだ、復興の兆しすら見せていない。
「……ふん、よかろう。だが、私のしごきは厳しいぞ。
ただの少年にすぎないお前では、三日とたたずに根を上げるのが
オチだと思うがな」
灰にまみれていた俺を助けてくれた救いの道――首が外れる以外は
人間とさほど変わらない見た目の、デュラハンという魔物――は
「自分を鍛えてほしい」という俺の頼みを聞き入れてくれた。
今後もこんな目にあうかもしれないのに、何も対策を練らないのは
馬鹿げている。少なくとも己の身を守れるくらいの力は必要だ。
彼女――アレクシアは、デュラハンの中でも
将軍職を務めているほどのエリートだという話だった。
確かに、ただのガキにすぎない俺にさえ、その静かな迫力と
内に秘めた強さがビシビシ感じられる。凄いな。
…凄いのはわかったから、少しは手加減してくれないものか。
「どうした、もうダウンか?
情けないやつめ。まだ序の口だぞ?」
そんな酷い言葉をかけられながら俺は意識を失った。
・レベル4
「へえ、お前がアレクシアの弟子か。なんかひ弱そうなガキだなぁ。
なんでアイツもこんなのを鍛えてるんだか…」
汗だくで素振りをやってた俺のところにいきなり現れたリザードマンが
いきなり暴言を吐いていきなり木刀を向けてきた。
「あたしはクレーネ。
あんたは………そうか、ディオスっていうのか。よし覚えた」
この唐突な女性はどうやらアレクシアの同期で、同じく将軍らしい。
「将軍になったのはあいつのほうが先だったけどな」
やっぱりこの人も凄まじかった。
「おい、起きろって。この程度でへばってるようじゃ
あいつの修行メニューはとうてい消化できないぞ」
明らかにあんたのしごきのほうがきついと思いながら俺は失神した。
・レベル6
「あのアレクシアが弟子をとったと聞いたが、お主がそうか。
……なんか弱そうじゃのう」
今度はロリに悪態つかれた。
エニュと名乗ったこの幼女はバフォメットという強大な魔物で、
アレクシアやクレーネも、その魔術の腕前には一目置いているそうだ。
こんな見た目でも、一応は将軍らしい。
ところで、なんで喋り方が年寄りくさいんだろう。魔物の思考はわからん。
もっとわからないのは彼女からのしごきというか講義だった。
「……つまり、魔術の行使に必要不可欠な、魔力とは、魔物においては
文字通りのものじゃが、人間やエルフ、天使などにとっては精と……」
知恵熱で俺の視界は真っ暗になっていった。
・レベル12
三人の多種多様なしごきも、それほど辛くはなくなってきた。
いや、むしろちょっと物足りなさも感じる。
こっそり自主トレしておこう。
・レベル18
街は、焼け落ちる前と同じ……いや、以前にも増して
活気に溢れていた。その中には俺が働いていた店はなかったが。
「よくここまで頑張って私たちのしごきに耐えてきたな。
正直、お前をみくびっていたぞ」
「多少は肉がついてきちゃいるが、まだ見た目はひ弱そうだけどな。
けど、実力はあたしたちが保障するぜ」
「うむ、魔術の腕前も一人前のレベルじゃ」
実感ないなあ。
だが、これで三人のお墨付きも得たし、自分くらいは守れそうだ。
………………あれ?
守るって、そういえば、俺は自分を守ってどうするんだ?
俺の人生には何もないのに……はて?
・レベル19
再び街を襲ってきた過激派の連中をアレクシア達と共に撃退した。
高位の魔物なら返り討ちにしてインキュバスや魔物に変えるのだろうが
俺にはそこまでの力はなく、結果、片っ端から
なで斬りにしていくしかなかった。
で、初めて人を殺したのだが、思っていたほどショックはなく、
逆に、生きるか死ぬかの博打に勝ったという高揚感に俺は浸っていた。
……戦いって面白いな。
・レベル25
俺は故郷の街を離れ、魔王軍の一員として、ある反魔物国家の軍と
激戦を繰り広げている。
今では俺もそれなりに名が知れ渡り、反魔物派や教団の連中からも
『あざ笑うディオス』の二つ名でそれなりに恐れられるようになっていた。
何でも、俺に中部隊を任せてもいいのではないかという声も
チラホラあるようだが、それは迷惑なのでやめてほしい。
部下の指揮などよりもただ前線で戦いを楽しんでいたいのだから。
「ずいぶんと手柄を立てているようだな。
お前の師匠として、私も鼻が高いぞ」
アレクシアが珍しく微笑んでそんなことを言ってきた。
だが、俺が「手柄なんてどうでもいいんだけどさ。戦いたいだけだし」と言うと
急に苦い顔をしたのはなぜなのか。
まあいいさ。見間違いかもしれないし。
さあ、明日もまた闘争を始めよう。
俺の生きがいを。
・レベル34
今日は実に満足のいく戦いができた。
群がる敵兵をちぎっては投げちぎっては投げていた俺の前に
悠然と立ちはだかったのは、ひとりの女勇者だった。
「魔に堕ちた狂犬め!!」
堕ちるもなにも、魔界の影響でインキュバスになっただけで
別に魔物の誘惑にも乗ってないのだが、向こうは勝手にそう決めつけて
滑るような足取りで斬りかかってきた。
まさしく死闘だった。
俺達は、共にいくつもの深手を負い、全身を血で染め、それでもなお
膝をつかずに己の武器を杖代わりにして立っていた。
そして、決着の鍵を握っていたのは、ただの偶然だった。
最後の力を振り絞り、お互い相打ち覚悟で
終わりの一撃を繰り出そうとしたとき、女勇者の目に
額の傷から一滴の血が流れ落ち、彼女の視界をさえぎったのだ。
そのわずかな不運によって、俺の剣は彼女への致命傷となり、彼女の剣は
俺の脇腹を切り裂く程度にとどまった。
「あれだけムチャするなって言ってただろ!」
クレーネの拳骨が頭上に落ちてきた。
おい、ここは弟子の勝利を喜ぶシーンじゃないのか?
「こんなに傷だらけになりおって、このたわけが!」
「たまたま勝ったからよかったものの、本来なら倒れていたのは
お前だったのかもしれんのだぞ!反省しろ!」
鱗に覆われた拳に続いてモフモフの拳が、さらに
鉄の篭手をつけた拳が振ってきた。どういうことなんだ。
……後で聞いたところによると、女勇者は一命をとりとめ、今では
立派なサキュバスとなって、別の戦場で戦っているそうだ。
彼女もまた、俺のように戦いをやめられないのだろう。
・レベル56
囲まれたか。
百や二百、千や二千の兵ならどうにでもできるが
流石に一万というのは厳しいな。
しかし、楽しくもある。戦というのはこうでなくてはいけない。
久しく味わっていなかった死地、まさに今、そこに俺はいる。
逃げることも不可能ではないのだが、ここはひとつ、
俺が奴らのおしまいなのか、それとも、奴らが俺のおしまいなのか、是非とも
確かめてみなくてはなるまい。
「うおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」
俺は恐慌の魔力を込めた咆哮を放つと、続けて魔力の雷を
めったやたらに落としまくってから、最も敵兵の密集している場所へと
満面の笑みを浮かべて突っ込んでいった。
・レベル57
アレクシアたちが救援に駆けつけてきた。
「こ、これはっ………」
絶句しているようだ。無理もない。
一万の敵兵のほとんどが、無力化して大地に横たわっているか、
あるいは魔物やインキュバスとなってひたすら交わりあっているのだから。
…多少は死人を出したが、そいつらには
運が悪かったと諦めてもらおう。
にしても、もっと苦戦するものかと思ったが烏合の衆ではこんなものか。
やはり剣を交えるのは強者相手でなければ面白くない。
強くなりすぎるのも困りものだな。
・レベル57
俺は魔王さまとその旦那さんの前にいた。
魔界のお偉いさんたちが、俺のこないだの奮闘を称え、どうしても
勲章を授与したいということで、やむなく俺は
魔王城まで来たのだ。さんざん断ったのに。
『…何か、他に望むものはあるか?』
耳から入って脳みそを嘗め回すような魅惑溢れる魔性の声で
魔王さまが聞いてきた。中々ぞくぞくする。
「いや……別に何もないですね。俺が望むのは、闘争あるのみです」
『何もない、と?』
あらゆる魔の頂点にいる者にはおよそ似つかわしくない、嘆きを含めた声で
魔王さまが聞き返してきた。
「ええ、何もないですね。
欲しいものも守りたいものもないです。というより、いらないですね。
生き死にのかかった戦いを楽しむにはそんなもの不要ですから」
奇妙な沈黙が謁見の間に広がった。そんな変な話してないのにな。
「できることなら、戦って戦って戦い続けて、それで最後は、
もうこれ以上の相手はいないだろうという強敵との一対一か、あるいは
絶体絶命の窮地での孤軍奮闘で、力を出し切って満足して死にたいですね。
死ぬ機会を失って、老いさらばえて戦場から退くとか嫌ですし。
闘争こそ俺のライフワークですから」
「………こ、この馬鹿者おおおおっ!!」
「ぐほっ!?」
いきなりアレクシアが猛ダッシュで近づいてきて
俺の顔面に右ストレートをぶちかましてきた!?
「あれだけ血の滲むような修行をこなして、私よりも強くなって、
その結論が、死ぬために戦い続けるだと!?
馬鹿だっ、お前は馬鹿者だっ!どうしようもない大馬鹿だあっ!!」
よろめいた俺の襟元をつかみ、アレクシアが
なぜか号泣しながらすがりついてきた。なんで?
・レベル57
なぜ殴られたのかわからず、俺のためにわざわざ用意された寝室で
納得いかず悶々としているとアレクシアたちが来た。
来たのだが………………なんだその、スケスケヒラヒラの寝巻き姿は。
「単刀直入に言おう。
魔王さまが、どうしてもお前に褒美をとらせたいと言われたので、
わ、私たちが、来たのだ」
なにそれこわい。
「そういう建前はともかく、お前を死なせるわけにはいかないからな。
あたしらがお前の大事なものになれば、戦バカの頭も少しは静まるだろ」
「そういうことじゃ。
戦いの知識ばかり教え、それ以外を何一つ教えなかった
駄目師匠たちの、いわば罪滅ぼしというやつじゃよ」
いらねえええええええええええ。
「遠慮しとく。色恋沙汰には興味ないし。
あんたらも他にいい男でも見つけなよ。
つーかさ、俺はもう一人立ちしたんだし、そこまで体を張ることないって」
『駄目だっ(じゃっ)!!』
ベッドに押し倒された。
そして逆レイプ輪姦された。あと三人とも処女だった。
交わり自体はなんとも気持ちよかったが、途中から
「許せ」だの「すまない」だの言われまくったのにはどうしていいか困った。
なんでも、俺を手塩にかけて大事に育てたつもりが、旧魔王時代の魔物じみた
戦闘狂にしてしまったことへの負い目があったのだという。
負い目を感じるような人達だったんだと心底驚いた。
・レベル57
あの童貞喪失記念日から三日がたつ。
師匠たち――いや、嫁さんたちは、いまだに俺を解放してくれない。
謝罪の言葉こそなくなってホッとしたが、三人は代わる代わる
俺の精を貪っては嬌声をあげている。
あの狂おしいほどの闘争への渇望は静まっていた。
とはいえ、完全に消えた訳でもなく、いまだ胸の内でくすぶってはいる。
もしかすると、あの焼き討ちを受けた時から
その火は俺の中で燃え続けていたのかもしれない。
「こら、考え事などするなっ、ひぅんっ。
今はただ、わ、わっ、私たちを、じっくり味わえ……んんっ…」
「…お、お前が、戦いを忘れるまで、あっ、あたしらの蜜で……
とろけさせて、んぅっ、やるからなっ」
「だからぁ、あぁん、兄上も、わし達に
ドロドロのおぉ……ミ、ミルクを…与えるのじゃっ…きゅうぅんっ」
その代わり、俺たち四人の中で今度は情欲の炎が発火してしまったのだが。
「あのさ」
「「「?」」」
「皆が俺にとって大事なものかどうかまだわからないから、とりあえずは
大事にしてみようと思うんだが、それでいいかな」
戦い漬けの生活をやめるつもりは毛頭ないが、それ以外の事柄にも
目を向けてみてもいいかもしれない。例えばこの三人に。
「だったら、わかるまで私たちがずっと責めてやるとしよう」
「ああ、嫌でも無理やりわからせてやるさ」
「どうせなら、わし達なしでは生きられなくするのもよいのう」
そんな言葉とは裏腹に、三人の表情はとろけ、息は荒く、逆に
俺から嬲られるのを待ち望んでいるように見えた。
どうやら俺はまだまだ解放されないらしい。
が、それも悪くない。
――見慣れた夜景は赤く染まっていた。
街のいたるところで吹き上がってる炎によって。
親魔物派としての姿勢を頑として崩さなかったこの街へ、業を煮やした
教団の過激派が、焼き討ちをしかけてきたのだ。
魔物に対して別にどうとも思ってなかった、雑貨屋の下働きにすぎない
天涯孤独の14歳少年だった俺も、当然、その災禍を免れることはできずに
激しい炎にまかれて炭になるしか道は残されていないように思えた。
「………おい、大丈夫か!?」
まがまがしい鎧に身を包んだ、救いの道が現れなければ。
・レベル1
それから一週間がたった。街はまだ、復興の兆しすら見せていない。
「……ふん、よかろう。だが、私のしごきは厳しいぞ。
ただの少年にすぎないお前では、三日とたたずに根を上げるのが
オチだと思うがな」
灰にまみれていた俺を助けてくれた救いの道――首が外れる以外は
人間とさほど変わらない見た目の、デュラハンという魔物――は
「自分を鍛えてほしい」という俺の頼みを聞き入れてくれた。
今後もこんな目にあうかもしれないのに、何も対策を練らないのは
馬鹿げている。少なくとも己の身を守れるくらいの力は必要だ。
彼女――アレクシアは、デュラハンの中でも
将軍職を務めているほどのエリートだという話だった。
確かに、ただのガキにすぎない俺にさえ、その静かな迫力と
内に秘めた強さがビシビシ感じられる。凄いな。
…凄いのはわかったから、少しは手加減してくれないものか。
「どうした、もうダウンか?
情けないやつめ。まだ序の口だぞ?」
そんな酷い言葉をかけられながら俺は意識を失った。
・レベル4
「へえ、お前がアレクシアの弟子か。なんかひ弱そうなガキだなぁ。
なんでアイツもこんなのを鍛えてるんだか…」
汗だくで素振りをやってた俺のところにいきなり現れたリザードマンが
いきなり暴言を吐いていきなり木刀を向けてきた。
「あたしはクレーネ。
あんたは………そうか、ディオスっていうのか。よし覚えた」
この唐突な女性はどうやらアレクシアの同期で、同じく将軍らしい。
「将軍になったのはあいつのほうが先だったけどな」
やっぱりこの人も凄まじかった。
「おい、起きろって。この程度でへばってるようじゃ
あいつの修行メニューはとうてい消化できないぞ」
明らかにあんたのしごきのほうがきついと思いながら俺は失神した。
・レベル6
「あのアレクシアが弟子をとったと聞いたが、お主がそうか。
……なんか弱そうじゃのう」
今度はロリに悪態つかれた。
エニュと名乗ったこの幼女はバフォメットという強大な魔物で、
アレクシアやクレーネも、その魔術の腕前には一目置いているそうだ。
こんな見た目でも、一応は将軍らしい。
ところで、なんで喋り方が年寄りくさいんだろう。魔物の思考はわからん。
もっとわからないのは彼女からのしごきというか講義だった。
「……つまり、魔術の行使に必要不可欠な、魔力とは、魔物においては
文字通りのものじゃが、人間やエルフ、天使などにとっては精と……」
知恵熱で俺の視界は真っ暗になっていった。
・レベル12
三人の多種多様なしごきも、それほど辛くはなくなってきた。
いや、むしろちょっと物足りなさも感じる。
こっそり自主トレしておこう。
・レベル18
街は、焼け落ちる前と同じ……いや、以前にも増して
活気に溢れていた。その中には俺が働いていた店はなかったが。
「よくここまで頑張って私たちのしごきに耐えてきたな。
正直、お前をみくびっていたぞ」
「多少は肉がついてきちゃいるが、まだ見た目はひ弱そうだけどな。
けど、実力はあたしたちが保障するぜ」
「うむ、魔術の腕前も一人前のレベルじゃ」
実感ないなあ。
だが、これで三人のお墨付きも得たし、自分くらいは守れそうだ。
………………あれ?
守るって、そういえば、俺は自分を守ってどうするんだ?
俺の人生には何もないのに……はて?
・レベル19
再び街を襲ってきた過激派の連中をアレクシア達と共に撃退した。
高位の魔物なら返り討ちにしてインキュバスや魔物に変えるのだろうが
俺にはそこまでの力はなく、結果、片っ端から
なで斬りにしていくしかなかった。
で、初めて人を殺したのだが、思っていたほどショックはなく、
逆に、生きるか死ぬかの博打に勝ったという高揚感に俺は浸っていた。
……戦いって面白いな。
・レベル25
俺は故郷の街を離れ、魔王軍の一員として、ある反魔物国家の軍と
激戦を繰り広げている。
今では俺もそれなりに名が知れ渡り、反魔物派や教団の連中からも
『あざ笑うディオス』の二つ名でそれなりに恐れられるようになっていた。
何でも、俺に中部隊を任せてもいいのではないかという声も
チラホラあるようだが、それは迷惑なのでやめてほしい。
部下の指揮などよりもただ前線で戦いを楽しんでいたいのだから。
「ずいぶんと手柄を立てているようだな。
お前の師匠として、私も鼻が高いぞ」
アレクシアが珍しく微笑んでそんなことを言ってきた。
だが、俺が「手柄なんてどうでもいいんだけどさ。戦いたいだけだし」と言うと
急に苦い顔をしたのはなぜなのか。
まあいいさ。見間違いかもしれないし。
さあ、明日もまた闘争を始めよう。
俺の生きがいを。
・レベル34
今日は実に満足のいく戦いができた。
群がる敵兵をちぎっては投げちぎっては投げていた俺の前に
悠然と立ちはだかったのは、ひとりの女勇者だった。
「魔に堕ちた狂犬め!!」
堕ちるもなにも、魔界の影響でインキュバスになっただけで
別に魔物の誘惑にも乗ってないのだが、向こうは勝手にそう決めつけて
滑るような足取りで斬りかかってきた。
まさしく死闘だった。
俺達は、共にいくつもの深手を負い、全身を血で染め、それでもなお
膝をつかずに己の武器を杖代わりにして立っていた。
そして、決着の鍵を握っていたのは、ただの偶然だった。
最後の力を振り絞り、お互い相打ち覚悟で
終わりの一撃を繰り出そうとしたとき、女勇者の目に
額の傷から一滴の血が流れ落ち、彼女の視界をさえぎったのだ。
そのわずかな不運によって、俺の剣は彼女への致命傷となり、彼女の剣は
俺の脇腹を切り裂く程度にとどまった。
「あれだけムチャするなって言ってただろ!」
クレーネの拳骨が頭上に落ちてきた。
おい、ここは弟子の勝利を喜ぶシーンじゃないのか?
「こんなに傷だらけになりおって、このたわけが!」
「たまたま勝ったからよかったものの、本来なら倒れていたのは
お前だったのかもしれんのだぞ!反省しろ!」
鱗に覆われた拳に続いてモフモフの拳が、さらに
鉄の篭手をつけた拳が振ってきた。どういうことなんだ。
……後で聞いたところによると、女勇者は一命をとりとめ、今では
立派なサキュバスとなって、別の戦場で戦っているそうだ。
彼女もまた、俺のように戦いをやめられないのだろう。
・レベル56
囲まれたか。
百や二百、千や二千の兵ならどうにでもできるが
流石に一万というのは厳しいな。
しかし、楽しくもある。戦というのはこうでなくてはいけない。
久しく味わっていなかった死地、まさに今、そこに俺はいる。
逃げることも不可能ではないのだが、ここはひとつ、
俺が奴らのおしまいなのか、それとも、奴らが俺のおしまいなのか、是非とも
確かめてみなくてはなるまい。
「うおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」
俺は恐慌の魔力を込めた咆哮を放つと、続けて魔力の雷を
めったやたらに落としまくってから、最も敵兵の密集している場所へと
満面の笑みを浮かべて突っ込んでいった。
・レベル57
アレクシアたちが救援に駆けつけてきた。
「こ、これはっ………」
絶句しているようだ。無理もない。
一万の敵兵のほとんどが、無力化して大地に横たわっているか、
あるいは魔物やインキュバスとなってひたすら交わりあっているのだから。
…多少は死人を出したが、そいつらには
運が悪かったと諦めてもらおう。
にしても、もっと苦戦するものかと思ったが烏合の衆ではこんなものか。
やはり剣を交えるのは強者相手でなければ面白くない。
強くなりすぎるのも困りものだな。
・レベル57
俺は魔王さまとその旦那さんの前にいた。
魔界のお偉いさんたちが、俺のこないだの奮闘を称え、どうしても
勲章を授与したいということで、やむなく俺は
魔王城まで来たのだ。さんざん断ったのに。
『…何か、他に望むものはあるか?』
耳から入って脳みそを嘗め回すような魅惑溢れる魔性の声で
魔王さまが聞いてきた。中々ぞくぞくする。
「いや……別に何もないですね。俺が望むのは、闘争あるのみです」
『何もない、と?』
あらゆる魔の頂点にいる者にはおよそ似つかわしくない、嘆きを含めた声で
魔王さまが聞き返してきた。
「ええ、何もないですね。
欲しいものも守りたいものもないです。というより、いらないですね。
生き死にのかかった戦いを楽しむにはそんなもの不要ですから」
奇妙な沈黙が謁見の間に広がった。そんな変な話してないのにな。
「できることなら、戦って戦って戦い続けて、それで最後は、
もうこれ以上の相手はいないだろうという強敵との一対一か、あるいは
絶体絶命の窮地での孤軍奮闘で、力を出し切って満足して死にたいですね。
死ぬ機会を失って、老いさらばえて戦場から退くとか嫌ですし。
闘争こそ俺のライフワークですから」
「………こ、この馬鹿者おおおおっ!!」
「ぐほっ!?」
いきなりアレクシアが猛ダッシュで近づいてきて
俺の顔面に右ストレートをぶちかましてきた!?
「あれだけ血の滲むような修行をこなして、私よりも強くなって、
その結論が、死ぬために戦い続けるだと!?
馬鹿だっ、お前は馬鹿者だっ!どうしようもない大馬鹿だあっ!!」
よろめいた俺の襟元をつかみ、アレクシアが
なぜか号泣しながらすがりついてきた。なんで?
・レベル57
なぜ殴られたのかわからず、俺のためにわざわざ用意された寝室で
納得いかず悶々としているとアレクシアたちが来た。
来たのだが………………なんだその、スケスケヒラヒラの寝巻き姿は。
「単刀直入に言おう。
魔王さまが、どうしてもお前に褒美をとらせたいと言われたので、
わ、私たちが、来たのだ」
なにそれこわい。
「そういう建前はともかく、お前を死なせるわけにはいかないからな。
あたしらがお前の大事なものになれば、戦バカの頭も少しは静まるだろ」
「そういうことじゃ。
戦いの知識ばかり教え、それ以外を何一つ教えなかった
駄目師匠たちの、いわば罪滅ぼしというやつじゃよ」
いらねえええええええええええ。
「遠慮しとく。色恋沙汰には興味ないし。
あんたらも他にいい男でも見つけなよ。
つーかさ、俺はもう一人立ちしたんだし、そこまで体を張ることないって」
『駄目だっ(じゃっ)!!』
ベッドに押し倒された。
そして逆レイプ輪姦された。あと三人とも処女だった。
交わり自体はなんとも気持ちよかったが、途中から
「許せ」だの「すまない」だの言われまくったのにはどうしていいか困った。
なんでも、俺を手塩にかけて大事に育てたつもりが、旧魔王時代の魔物じみた
戦闘狂にしてしまったことへの負い目があったのだという。
負い目を感じるような人達だったんだと心底驚いた。
・レベル57
あの童貞喪失記念日から三日がたつ。
師匠たち――いや、嫁さんたちは、いまだに俺を解放してくれない。
謝罪の言葉こそなくなってホッとしたが、三人は代わる代わる
俺の精を貪っては嬌声をあげている。
あの狂おしいほどの闘争への渇望は静まっていた。
とはいえ、完全に消えた訳でもなく、いまだ胸の内でくすぶってはいる。
もしかすると、あの焼き討ちを受けた時から
その火は俺の中で燃え続けていたのかもしれない。
「こら、考え事などするなっ、ひぅんっ。
今はただ、わ、わっ、私たちを、じっくり味わえ……んんっ…」
「…お、お前が、戦いを忘れるまで、あっ、あたしらの蜜で……
とろけさせて、んぅっ、やるからなっ」
「だからぁ、あぁん、兄上も、わし達に
ドロドロのおぉ……ミ、ミルクを…与えるのじゃっ…きゅうぅんっ」
その代わり、俺たち四人の中で今度は情欲の炎が発火してしまったのだが。
「あのさ」
「「「?」」」
「皆が俺にとって大事なものかどうかまだわからないから、とりあえずは
大事にしてみようと思うんだが、それでいいかな」
戦い漬けの生活をやめるつもりは毛頭ないが、それ以外の事柄にも
目を向けてみてもいいかもしれない。例えばこの三人に。
「だったら、わかるまで私たちがずっと責めてやるとしよう」
「ああ、嫌でも無理やりわからせてやるさ」
「どうせなら、わし達なしでは生きられなくするのもよいのう」
そんな言葉とは裏腹に、三人の表情はとろけ、息は荒く、逆に
俺から嬲られるのを待ち望んでいるように見えた。
どうやら俺はまだまだ解放されないらしい。
が、それも悪くない。
12/02/11 14:38更新 / だれか