そのに
〜〜〜〜〜〜
『まるで黒い大輪の花が天空に舞っているようだ』
これが、魔力塊を使って飛行している俺を地上から見た
レスカティエの住人達の印象らしい。
なんか嬉しいものがある。
『天においては、見目麗しいメスの蝶を捕らえ、貪り嬲る闇の花であり、
ひとたび地に降りれば、恐怖と絶望の花園を咲き乱れさせる』
で、こっちが教団サイドの意見。
あながち間違ってはいないのが悲しい。
〜〜〜〜〜〜
風を切って飛ぶのは実に気持ちがいいものだ。
セックスや飲酒には及びはしないが、爽快感という点においては追随を許さない。
「本当に一人で行く気だったの?
護衛もなしとか、自分の力を過信しすぎよ。まったくもう」
ボンテージ姿のチョウチョが頬を膨らませ説教してきた。爽快感台無し。
「話し合いなんだし、下手に大勢連れて刺激したらいかんと思ってな。
それに俺一人で飛んだほうが護衛を連れてくより、はるかに速い」
俺の魔力塊の飛行スピードについてこれるのは、レスカティエ広しといえど
デルエラくらいしかいないからな。
「護衛はともかく交渉がねえ…」
「おにいちゃんは誰でもイラつかせる天才だけど、話をまとめるのは
苦手だもんね〜〜〜あはは」
尻尾の長いチョウチョと幼いチョウチョうるさい。
「だからこうして細かい決め事の書かれた文書を何枚も持ってきてるんじゃないか。
あとは適当に相手の話に合わせておけば問題ないはずだろ」
「嫌な予感しかしませんね」
最後におっとりしたチョウチョにまで言われた。
「まあ、苦手なのは否定しない。
正直来てくれて助かったとも思っている。すまんな」
俺は少し折れてみた。
「い、いいわよ。そんな。夫を助けるのは妻の務めでしょ?」
「ウィルマリナさんの言うとおりですよ。
そんな水臭いこと言わないで、ね?」
「そうか、やっぱり持つべきものは愛する嫁達だな、うん」
もうちょい折れてみる。
「お、おにいちゃんったらもう………」
「コラ、やめろって……我慢できなくなっちゃうだろ、バカっ」
面白いくらいデレるなこいつら。
「まだ着かないの〜〜?」
「レスカティエは広いからなぁ。そんな簡単には国境まで着かないさ。
…ところで、わかってると思うが、その触手をまともな衣服に変えておけよ」
「これじゃダメ?」
可愛く首をかしげ、ミミルがこっちを見つめてきた。
「交渉でマイナスにはなってもプラスにはならないだろうな」
「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
むーじゃねえよ。
「そういえば……」
俺はミミルをじっと見た。
よく考えたら、コイツが一番の問題じゃねえか。
頭が切れるから交渉にはうってつけだが毒舌振るわれたら全部パーだぞ。
誰かにお守りを頼むか?
「お願いしますね」
サーシャ姉に先手を打たれた。
ゴネる露出ロリをなだめすかして丸め込み、なんとか
ヘソだしミニスカ(ノーパン)で合意したり
俺がこっそり隠し持って飲んでた酒をマリナに見つかり没収されたりと
色々と揉めたりはしたが、特に遅れもなく、目的地である
レスカティエの国境沿いが見えてきた。
「時間にはまだ余裕あったな」
ポケットから懐中時計を取り出し、現在の時間をチェックする。
「どれ…」
俺は魔法で視力を拡大し、教団軍の様子を探ることにした。
「向こうは交渉を外でやるつもりらしいな。
地面に絨毯を敷いて、その上にテーブルと椅子が用意されてる。
…教団側の椅子にどっしり座っているのが、たぶん将軍だろ」
雲ひとつない晴れ晴れとした空の下で、これから冷めたやり取りを
嫌々しなきゃならんとか、やはりこの世はしょっぱい。
「罠の可能性あるんじゃない?」
「普段ならそうかもしれんが、今回はありえない」
なにせ、捕虜になってる兵の中には、教団内で
それなりの地位にいる司祭の一人息子がいる。
父の威光を笠に勝手なことばかりして、その結果、なんと
周りを巻き添えに囚われの身になるという快挙を成し遂げた高度なアホだ。
デルエラはそいつに勲章を贈るべきだと思う。
「元々この人質交換も、そのエリート一人を助けるために
そいつの親父であるお偉い司祭さまがゴリ押しして決まったそうだからな」
まともな兵士たちが能無しボンボンのオマケというのも不憫なことだ。
「おいしいリンゴいっぱいより
腐ったリンゴひとつのほうが大事なんだね。なんだか蛆虫みたい〜〜」
それ交渉の場で言うなよ。絶対言うなよ。
「…む?」
椅子に腰かける将軍や、その後ろに立っている騎士達、
さらにその後方に控えている大勢の下級兵士達をまじまじと観察してみる。
なんか、見たことある顔が…………
「…………うわ」
「しかめっ面してどうしたんだい?」
「熊さんいるんですけど」
エキドナになる前の嫁さんにビシビシしごかれる前に、短い期間ながらも
剣の扱いなどを教えてくれたある男性教官が騎士の中にいた。
髪に少しだけ白いものが混じってはいたが、ごつい体格といい、
『熊さん』『熊教官』の愛称がついた理由である
髭もじゃの顔といい、間違いない。
稽古の時によく『間合いのとり方がなっとらん』と、叱られたなあ。
すいません熊さん、間合いのとり方はいまだに苦手なままです。
そのせいで先月はついに刺されました。
「まさか、他にも…」
よく見ると熊教官のそばには、マリナには及ばないにせよ
剣や魔術の腕前には目を見張るものがあった、あのイケメン君もいた。
いつも、女性兵士や女性神官、貴族の娘などに囲まれては、
彼女らから『王子様』と呼ばれ、数多くの男性兵士から
影で『もげろ』と言われまくっていたのを思い出す。
「やっぱり王子もいたか」
あいつが実戦で数多くの成果を上げて、異例の出世で
騎士にまでなったのには驚かされたものだった。
けど、それだけの実力があったのは確かだし、妥当な出世というやつだ。
なんでも、マリナとの縁談の話すら上がってたというしな。
…その噂話を振られるたび、マリナが、かぶっていた勇者の仮面を
微妙に歪めて返答に困ってたのは笑えたが。
「ってことは、もしかしてあいつら、白の鷲なんじゃないのか?」
教官が、かつてレスカティエに存在していた
三大騎士団のひとつの名前をあげた。
緑の狼。黒の獅子。白の鷲。
そのうち二つはレスカティエ陥落とともに大打撃を受けた。
緑の狼はその半数を失いつつも、撤退することに成功したが、
黒の獅子は、わずかな手勢が落ち延びただけという有様だったとか。
そして、熊さんや王子が所属してた、白の鷲はというと……
「……レスカティエの西にある反魔物国家からの援助要請を受けて
長期遠征に出ていたせいで助かったんだっけ」
俺はサーシャ姉に尋ねた。
「そうですよ。本来なら、私もその遠征に同行する予定でしたが
火急の要請ということもあり、彼らだけ即座に向かったのです。
……結果的に、そのおかげで私は王都に残り、堕落神様の使徒になることが
できたのですから、まさに幸運としか言い様がありません。
けれど、あの方々は不運でしたね。
私達のように、愛と快楽に溺れることの幸せと素晴らしさを知る
絶好の機会を逃してしまったのですから……」
あの連中は自分達が幸運だったと思ってるだろうけどね。
「まだまだ知った顔がいるな」
マリナに一方的にライバル意識を燃やしていた、槍を手足のように使いこなす
貴族のお嬢様が将軍の傍らに立ち、サーシャ姉と主神の教えについて
深く語り合う間柄だった小柄な眼鏡の女性神官が、騎士の中に混じっていた。
……それらを含めた知人の数は、合計で三十人くらいになった。
なんだこの同窓会。
「あのお嬢ちゃん、どうやら一人前の勇者になったようだな。
炎のように熱い力がみなぎってやがるぜ」
かつて彼女に槍の使い方を教えていた教官が、楽しげにニヤリと笑った。
もしかしたら、一戦交えたいと思ってるのかもしれない。
思うだけで止めといてくれ。
「彼女だけじゃない、王子様やあの眼鏡の人からも
主神の加護が強く感じられるよ。
こないだ攻めてきた教団兵たちがやけに手強かったのも、きっとあの二人が
兵士達に強力な守護魔法をかけてたんじゃないかな」
「なるほど、強敵ぞろいだね〜」
そうかもしれんが、今回の目的は勝利ではなくあくまで和解だ。
しょせん一時的なものではあるが。
「さあ、そろそろ着陸だね。なんだかワクワクしちゃうな」
遠足じゃないんだぞ。
………………いやはや、それにしてもどうしよう。
どういう風に威厳のある態度を取ったらいいものか
考えてると、むず痒い感情が体の奥からふつふつと湧いてくる。
道化が、身内や友人の前で普段通りに
おどけなきゃならない時の心境というのが、わかりやすいか。
険悪な関係でもなかった相手に高圧的に出るのは難しいというか無理。
たぶん吹いてしまう。
だからといって、昔のように気軽に世間話を交わすのも
それはそれでできそうにない。立場が立場だし。
「困ったな」
「いつもみたく無気力にやってればいいでしょ」
初対面の相手ならそれもできるが、なまじ知ってるだけになー。
「とにかく地上に降りるから、みんな、後のことは頼む。
サーシャ姉、これパス」
デルエラから渡された書状をすべて譲り、俺は魔力塊の奥へと
潜り込んで引きこもることにした。これぞ現実逃避の術。
「……おい、どうする?」
「まあ、まずは降りてから考えましょう。いざとなれば私がどうにかします。
メルセ教官は警戒しながらミミルちゃんの相手をしててください。
交渉は、私とサーシャさんでやりますから」
やがて、向こうとこちらがお互いに肉眼で
はっきりと見れる距離まで、俺達は近づいていった。
「――っ!」
教団兵たちが息を呑み、恐怖で緊張するのが感じられる。
どんだけビビッてんだこいつら。
「先に行きますね」
ひゅうううううううぅーーーーーーーー!
…………ふわっ
「……お久しぶりですね、皆さん。
私のことを、まだ覚えてらっしゃいますか?」
魔力塊が地につく前にマリナは飛び立ち、そのまま、テーブルの前に座る
敵将の側へと滑空すると、今度はさながら綿毛のように
音も風もなく優雅に降臨し、ゆっくりと一礼してから挨拶した。
「ほ、本物だ…」「やっぱりウィルマリナ様なのか…!」
「嘘よ!こんな、こんなのって嘘よ!」
絶望と嘆きのどよめきが、兵士達や、騎士の間にまで広がっていく。
悠然と構えていた将軍でさえ、その顔を歪めていた。
「皆様、申し訳ありませんが、これが現実です」
「そーいうことだ」
「えへへ〜〜〜〜〜」
マリナに遅れて降りてきた三人がどよめきの声に応えると、場の雰囲気は
さらに重苦しいものになっていった。
「ミミルちゃん…!?」「あ、あのメルセ・ダスカロスや、
サーシャ・フォルムーンまで!」「おお、神よ……!」
うわあ…………膝ついて泣いてる奴までいるよオイ。悲惨だな。
王子のやつが眩暈おこしてるのは笑えるけどさ。
……って、これもう、俺が出れる空気じゃなくね?
「そ、それでも、わたくしのライバルですの!?
そのような淫らな魔物に、なっ……な、成り果てるなんて、うっく、
は、恥っ、ううぅ、恥を知りなさい……!」
「あいにく、今の私はそんな言葉を聞いたところで、心になんの痛痒も
感じませんよ。それより、まずは涙をふいたらどうですか?」
「おっ…おだまりっ、うえぇっ、なさ、なさいっ……ひぐっ!」
「情けないねえ。敵を目の前にして泣くなんざ
戦士として失格もいいとこだぞ」
「その口ぶり……相変わらずのようだな、メルセ。
下半身はずいぶんと変わったようだが」
「あんたも変わらないね。その白髪以外は」
あっちは感動のご対面で忙しいようだから、こっちはこっちで
一杯やることにしよう。
俺は違うところに隠していた小型のヒョウタンを取り出すと
魔力塊からこっそり姿を出し、真っ青な空を肴に、その中身を口に含んだ。
「ふぅ………うまいなぁ…」
「…堕落神様の教えこそ、真理であり、真実なのですよ。
さあ、貴女も共に、底なしの肉欲へと堕ちましょう…」
「目を覚まして!それは真理なんかじゃない、ただの悪夢よ!」
「そんなのどっちでもいいじゃない。
みぃ〜んなで、えっちなことしてぇ……みぃ〜んなで、い〜〜〜っぱい
気持ちよくなろうよぉ。
せっくすってぇ、すごい気持ちいいんだよぉ〜〜」
「っ……!!
こんな、こんな幼い子に、なんてことを…!」
「おにいちゃんったら、ミミルのあそこは
きつくてたまらない味わいだって、言ってくれるんだよ。
それで、たっくさんミミルのお腹の中に、どろどろセーエキ出して
くれるの。ふふ〜〜〜〜〜ん」
「やめて、聞きたくない!」
「そ〜だよね、おにいちゃ〜〜ん?」
聞きたくないなあ俺も。
「別にミミルちゃんに限った話でもないですけどね。
私たちも彼女らも、彼に毎日たっぷりと愛されていますから」
「彼が我々を分け隔てなく愛し、そして我々もまた
彼だけを愛し、お互いの欲望を満たし合う……そのような淫らな運命を
与えてくださった神に、私は感謝し、堕ちていくのです……」
「彼女らって……ひっく、他に、ま、まだ、いますの?」
「ああそうさ。アタシ達四人に、プリメーラ、ロリーサにロリシャ、
それに今宵とフランツィスカ様の、合計九人だ。
あいつは桁外れにタフだから、むしろアタシ達のほうが
まとめてダウンしちまうこともよくあるんだぜ」
「王女様まで加わってるんですか…!?」
おい、のろけ話はそのくらいにしていいかげん交渉に入れ。
俺を話題にあげるのやめろ。
「その『彼』とやらが、そこにいる
真っ黒いものということか。にわかには信じがたい話だが」
おっ、王子が立ち直った。
「あれは彼が実体化させている、ただの魔力の塊にすぎませんよ。
本人は、あの中にいるはずですが、やけに大人しいですね………
………って、こらああぁ!
なんでまた飲んでるの!?どこから出したのそれ!?」
うっ!?
「なっ、なんでこっちにわざわざ来たんだよ!?
さっさと交渉やりゃいいだろ!」
「交渉より先にまずそれをよこしなさい。ほら、早くっ!
そんなに頻繁に飲んでたらお酒くさくて仕方がないでしょ!」
ひどい。
「それと、もう目の届かないところにいるの禁止っ!
こっちでおとなしくしてなさい!!」
お互いの腕と腕を絡めて逃げられないようにしてから、マリナが俺を
豪快に引きずっていく。優雅さ全くなし。
「おっ、おいっ……」
説得は無理と判断し、抵抗を諦め、巨大化させた魔力塊を
マント形態へと戻して羽織った。
そして、そのままサーシャ姉達のいるところまで引っ張られた頃には、
多種多様な感情の込められた視線は、小雨から豪雨へと悪化して
俺へ降り注いできていた。
「…どーも、熊さん。俺が、彼女らの夫です」
「………手配書を実際に見ても、何かの間違いだと思っていたが
どうやら、本当にそうなんだな」
「間違いならよかったんですけどねっておいマリナ剣を突きつけんな」
ほんと暴力的になってきたな。デルエラ菌に感染したか?
「苦労してるようだな」
「ええ……」
「なにを和やかに会話してるんですか!
彼は、サーシャ達を辱め、忌まわしき魔物へと堕とした元凶なんですよ!」
キーキーやかましいなあこの姉ちゃん。
辱めるも何も、むしろ俺が辱められた側だぞ。
「あーー、うっせえなこのデコ眼鏡」
やばい。つい口が滑った。
「なっ…!?」
――もう言っちゃったんだし、いいや。好き勝手喋ってしまえ。
「そもそも、今からやるのは人質交換の交渉なんだから
多少は和やかなムードになってもおかしくはないだろ。違うか?
違わないなら黙ってろ」
「そうだデコ眼鏡〜〜。や〜〜〜い」
尻馬に乗るな。
「そ、そうだ、ふざけるなっ!」
震える声を搾り出し、一人の兵士が剣を抜きながら前へ出てきた。
いや、兵士というか…
「…子供?」
どう見ても子供だ。
もしかしてミミルとさほど変わらない年齢なんじゃないか。
まだ声変わりしてないのか、叫びもなんか女声みたいだったし。
にしても、そんな若さでこの場に居合わせてるってことは、もしかして
この少年は勇者の才があるのかもしれん。
「やめんか!」
思わず立ち上がった将軍の制止も耳に入っていないのか、その少年兵は
怒りと悔しさに燃える瞳でこちらを睨みつけ、走りよってくる。
「勇者さま達を惑わした悪魔めっ!!」
そして、教団から特別に支給されたのであろう、銀細工の装飾がついた
高価そうな剣が、聖なる力を伴った冷気をまといだした。
「ふぅむ……氷の属性の勇者か。
ちょっと離れてろマリナ」
しぶしぶ腕を離し、清楚さをそなえた淫魔が俺から数歩下がった。
少年はというとその間に上段に剣を構え、前に倒れこむように
俺へと斬りかかって――
「はいはい砕けろ砕けろ」
――その剣が、あっという間にひび割れ、砕け散った。
「えっ」
一瞬前まで己の持ちうる最強の力があったはずの両手を見つめ、
幼い挑戦者は、呆然となった。
「上官の命も聞けない生意気な小僧は、折れない程度に捩れてしまえ」
今度は、少年兵の身体が、巨大な何かにしぼられたかのように
ギシギシと骨のきしむ音を立てて、ひとりでに捩れていく。
俺の『呪詛』によって。
「あうう、があっ、うぐうぅぅ……!」
神々の『真なる言葉』や、魔王の『古き言葉』には流石に及ばないが
いずれは比肩しうるようになるだろう。ならなくてもいいけどさ。
「勇者というのは勇敢な者を指す。
お前のような無謀な者は、勇者とは言わん。愚か者というのだ」
痛みにもがく少年へ、手を近づけていく。
「ま、待ってくれ!
彼の……弟の非礼については、私からも詫びる!だから…!」
思いがけないところから懇願がきた。
「え、弟さんいたんですか?」
マリナが驚いて少年と王子を見比べた。確かに似てるといえば似てる。
「別に殺したりはしないよ。
ただ、小腹が空いたんで、少し恥をかいてもらおうかなと」
俺は少年の肩にポンと右手を置いて『つまみ食い』をした。
「んっんううううううううぅぅぅーーーーーーーーーーー!!」
魔力に侵食され、貪られる快楽に、少年が
性交を伴わずに絶頂する。歓喜と恐怖のない交ぜになった
辛く甘い絶叫が、この場にいる全員の耳に届いた。
王子の弟は、捩れた身体を反らせ、腰をガクガクと揺らしながら
下着の中に青臭そうなミルクをぶちまけていく。
「未熟とはいえ勇者だけはあるな。まあまあ美味い。
どれ、もう少し喰らうとするか」
「んああああぁ、あっあああっ、あぁーーーーーーっ!!
あひっ、ひいいぃ!ひいいいいいいいいいぃぃぃ!!」
少女のように淫らな嬌声を喉から搾り出し、二度、三度と、
また射精していく。
じょばああああああっ……
五度目の射精の後、ついに少年は意識を消し飛ばし、無様に失禁した。
黄色い液体が短パンからこぼれ、若々しくしなやかな腿を伝って
地面へとタラタラ流れていく。
「…ま、こんなところで勘弁してやろう」
少年への『呪詛』を解除し、俺はテーブルの前に置かれた交渉席についた。
「つまらんことに時間をかけてしまったし、さっさと
人質交換について話し合おうじゃないですか、将軍さん?」
どこからも文句は出なかった。
『まるで黒い大輪の花が天空に舞っているようだ』
これが、魔力塊を使って飛行している俺を地上から見た
レスカティエの住人達の印象らしい。
なんか嬉しいものがある。
『天においては、見目麗しいメスの蝶を捕らえ、貪り嬲る闇の花であり、
ひとたび地に降りれば、恐怖と絶望の花園を咲き乱れさせる』
で、こっちが教団サイドの意見。
あながち間違ってはいないのが悲しい。
〜〜〜〜〜〜
風を切って飛ぶのは実に気持ちがいいものだ。
セックスや飲酒には及びはしないが、爽快感という点においては追随を許さない。
「本当に一人で行く気だったの?
護衛もなしとか、自分の力を過信しすぎよ。まったくもう」
ボンテージ姿のチョウチョが頬を膨らませ説教してきた。爽快感台無し。
「話し合いなんだし、下手に大勢連れて刺激したらいかんと思ってな。
それに俺一人で飛んだほうが護衛を連れてくより、はるかに速い」
俺の魔力塊の飛行スピードについてこれるのは、レスカティエ広しといえど
デルエラくらいしかいないからな。
「護衛はともかく交渉がねえ…」
「おにいちゃんは誰でもイラつかせる天才だけど、話をまとめるのは
苦手だもんね〜〜〜あはは」
尻尾の長いチョウチョと幼いチョウチョうるさい。
「だからこうして細かい決め事の書かれた文書を何枚も持ってきてるんじゃないか。
あとは適当に相手の話に合わせておけば問題ないはずだろ」
「嫌な予感しかしませんね」
最後におっとりしたチョウチョにまで言われた。
「まあ、苦手なのは否定しない。
正直来てくれて助かったとも思っている。すまんな」
俺は少し折れてみた。
「い、いいわよ。そんな。夫を助けるのは妻の務めでしょ?」
「ウィルマリナさんの言うとおりですよ。
そんな水臭いこと言わないで、ね?」
「そうか、やっぱり持つべきものは愛する嫁達だな、うん」
もうちょい折れてみる。
「お、おにいちゃんったらもう………」
「コラ、やめろって……我慢できなくなっちゃうだろ、バカっ」
面白いくらいデレるなこいつら。
「まだ着かないの〜〜?」
「レスカティエは広いからなぁ。そんな簡単には国境まで着かないさ。
…ところで、わかってると思うが、その触手をまともな衣服に変えておけよ」
「これじゃダメ?」
可愛く首をかしげ、ミミルがこっちを見つめてきた。
「交渉でマイナスにはなってもプラスにはならないだろうな」
「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
むーじゃねえよ。
「そういえば……」
俺はミミルをじっと見た。
よく考えたら、コイツが一番の問題じゃねえか。
頭が切れるから交渉にはうってつけだが毒舌振るわれたら全部パーだぞ。
誰かにお守りを頼むか?
「お願いしますね」
サーシャ姉に先手を打たれた。
ゴネる露出ロリをなだめすかして丸め込み、なんとか
ヘソだしミニスカ(ノーパン)で合意したり
俺がこっそり隠し持って飲んでた酒をマリナに見つかり没収されたりと
色々と揉めたりはしたが、特に遅れもなく、目的地である
レスカティエの国境沿いが見えてきた。
「時間にはまだ余裕あったな」
ポケットから懐中時計を取り出し、現在の時間をチェックする。
「どれ…」
俺は魔法で視力を拡大し、教団軍の様子を探ることにした。
「向こうは交渉を外でやるつもりらしいな。
地面に絨毯を敷いて、その上にテーブルと椅子が用意されてる。
…教団側の椅子にどっしり座っているのが、たぶん将軍だろ」
雲ひとつない晴れ晴れとした空の下で、これから冷めたやり取りを
嫌々しなきゃならんとか、やはりこの世はしょっぱい。
「罠の可能性あるんじゃない?」
「普段ならそうかもしれんが、今回はありえない」
なにせ、捕虜になってる兵の中には、教団内で
それなりの地位にいる司祭の一人息子がいる。
父の威光を笠に勝手なことばかりして、その結果、なんと
周りを巻き添えに囚われの身になるという快挙を成し遂げた高度なアホだ。
デルエラはそいつに勲章を贈るべきだと思う。
「元々この人質交換も、そのエリート一人を助けるために
そいつの親父であるお偉い司祭さまがゴリ押しして決まったそうだからな」
まともな兵士たちが能無しボンボンのオマケというのも不憫なことだ。
「おいしいリンゴいっぱいより
腐ったリンゴひとつのほうが大事なんだね。なんだか蛆虫みたい〜〜」
それ交渉の場で言うなよ。絶対言うなよ。
「…む?」
椅子に腰かける将軍や、その後ろに立っている騎士達、
さらにその後方に控えている大勢の下級兵士達をまじまじと観察してみる。
なんか、見たことある顔が…………
「…………うわ」
「しかめっ面してどうしたんだい?」
「熊さんいるんですけど」
エキドナになる前の嫁さんにビシビシしごかれる前に、短い期間ながらも
剣の扱いなどを教えてくれたある男性教官が騎士の中にいた。
髪に少しだけ白いものが混じってはいたが、ごつい体格といい、
『熊さん』『熊教官』の愛称がついた理由である
髭もじゃの顔といい、間違いない。
稽古の時によく『間合いのとり方がなっとらん』と、叱られたなあ。
すいません熊さん、間合いのとり方はいまだに苦手なままです。
そのせいで先月はついに刺されました。
「まさか、他にも…」
よく見ると熊教官のそばには、マリナには及ばないにせよ
剣や魔術の腕前には目を見張るものがあった、あのイケメン君もいた。
いつも、女性兵士や女性神官、貴族の娘などに囲まれては、
彼女らから『王子様』と呼ばれ、数多くの男性兵士から
影で『もげろ』と言われまくっていたのを思い出す。
「やっぱり王子もいたか」
あいつが実戦で数多くの成果を上げて、異例の出世で
騎士にまでなったのには驚かされたものだった。
けど、それだけの実力があったのは確かだし、妥当な出世というやつだ。
なんでも、マリナとの縁談の話すら上がってたというしな。
…その噂話を振られるたび、マリナが、かぶっていた勇者の仮面を
微妙に歪めて返答に困ってたのは笑えたが。
「ってことは、もしかしてあいつら、白の鷲なんじゃないのか?」
教官が、かつてレスカティエに存在していた
三大騎士団のひとつの名前をあげた。
緑の狼。黒の獅子。白の鷲。
そのうち二つはレスカティエ陥落とともに大打撃を受けた。
緑の狼はその半数を失いつつも、撤退することに成功したが、
黒の獅子は、わずかな手勢が落ち延びただけという有様だったとか。
そして、熊さんや王子が所属してた、白の鷲はというと……
「……レスカティエの西にある反魔物国家からの援助要請を受けて
長期遠征に出ていたせいで助かったんだっけ」
俺はサーシャ姉に尋ねた。
「そうですよ。本来なら、私もその遠征に同行する予定でしたが
火急の要請ということもあり、彼らだけ即座に向かったのです。
……結果的に、そのおかげで私は王都に残り、堕落神様の使徒になることが
できたのですから、まさに幸運としか言い様がありません。
けれど、あの方々は不運でしたね。
私達のように、愛と快楽に溺れることの幸せと素晴らしさを知る
絶好の機会を逃してしまったのですから……」
あの連中は自分達が幸運だったと思ってるだろうけどね。
「まだまだ知った顔がいるな」
マリナに一方的にライバル意識を燃やしていた、槍を手足のように使いこなす
貴族のお嬢様が将軍の傍らに立ち、サーシャ姉と主神の教えについて
深く語り合う間柄だった小柄な眼鏡の女性神官が、騎士の中に混じっていた。
……それらを含めた知人の数は、合計で三十人くらいになった。
なんだこの同窓会。
「あのお嬢ちゃん、どうやら一人前の勇者になったようだな。
炎のように熱い力がみなぎってやがるぜ」
かつて彼女に槍の使い方を教えていた教官が、楽しげにニヤリと笑った。
もしかしたら、一戦交えたいと思ってるのかもしれない。
思うだけで止めといてくれ。
「彼女だけじゃない、王子様やあの眼鏡の人からも
主神の加護が強く感じられるよ。
こないだ攻めてきた教団兵たちがやけに手強かったのも、きっとあの二人が
兵士達に強力な守護魔法をかけてたんじゃないかな」
「なるほど、強敵ぞろいだね〜」
そうかもしれんが、今回の目的は勝利ではなくあくまで和解だ。
しょせん一時的なものではあるが。
「さあ、そろそろ着陸だね。なんだかワクワクしちゃうな」
遠足じゃないんだぞ。
………………いやはや、それにしてもどうしよう。
どういう風に威厳のある態度を取ったらいいものか
考えてると、むず痒い感情が体の奥からふつふつと湧いてくる。
道化が、身内や友人の前で普段通りに
おどけなきゃならない時の心境というのが、わかりやすいか。
険悪な関係でもなかった相手に高圧的に出るのは難しいというか無理。
たぶん吹いてしまう。
だからといって、昔のように気軽に世間話を交わすのも
それはそれでできそうにない。立場が立場だし。
「困ったな」
「いつもみたく無気力にやってればいいでしょ」
初対面の相手ならそれもできるが、なまじ知ってるだけになー。
「とにかく地上に降りるから、みんな、後のことは頼む。
サーシャ姉、これパス」
デルエラから渡された書状をすべて譲り、俺は魔力塊の奥へと
潜り込んで引きこもることにした。これぞ現実逃避の術。
「……おい、どうする?」
「まあ、まずは降りてから考えましょう。いざとなれば私がどうにかします。
メルセ教官は警戒しながらミミルちゃんの相手をしててください。
交渉は、私とサーシャさんでやりますから」
やがて、向こうとこちらがお互いに肉眼で
はっきりと見れる距離まで、俺達は近づいていった。
「――っ!」
教団兵たちが息を呑み、恐怖で緊張するのが感じられる。
どんだけビビッてんだこいつら。
「先に行きますね」
ひゅうううううううぅーーーーーーーー!
…………ふわっ
「……お久しぶりですね、皆さん。
私のことを、まだ覚えてらっしゃいますか?」
魔力塊が地につく前にマリナは飛び立ち、そのまま、テーブルの前に座る
敵将の側へと滑空すると、今度はさながら綿毛のように
音も風もなく優雅に降臨し、ゆっくりと一礼してから挨拶した。
「ほ、本物だ…」「やっぱりウィルマリナ様なのか…!」
「嘘よ!こんな、こんなのって嘘よ!」
絶望と嘆きのどよめきが、兵士達や、騎士の間にまで広がっていく。
悠然と構えていた将軍でさえ、その顔を歪めていた。
「皆様、申し訳ありませんが、これが現実です」
「そーいうことだ」
「えへへ〜〜〜〜〜」
マリナに遅れて降りてきた三人がどよめきの声に応えると、場の雰囲気は
さらに重苦しいものになっていった。
「ミミルちゃん…!?」「あ、あのメルセ・ダスカロスや、
サーシャ・フォルムーンまで!」「おお、神よ……!」
うわあ…………膝ついて泣いてる奴までいるよオイ。悲惨だな。
王子のやつが眩暈おこしてるのは笑えるけどさ。
……って、これもう、俺が出れる空気じゃなくね?
「そ、それでも、わたくしのライバルですの!?
そのような淫らな魔物に、なっ……な、成り果てるなんて、うっく、
は、恥っ、ううぅ、恥を知りなさい……!」
「あいにく、今の私はそんな言葉を聞いたところで、心になんの痛痒も
感じませんよ。それより、まずは涙をふいたらどうですか?」
「おっ…おだまりっ、うえぇっ、なさ、なさいっ……ひぐっ!」
「情けないねえ。敵を目の前にして泣くなんざ
戦士として失格もいいとこだぞ」
「その口ぶり……相変わらずのようだな、メルセ。
下半身はずいぶんと変わったようだが」
「あんたも変わらないね。その白髪以外は」
あっちは感動のご対面で忙しいようだから、こっちはこっちで
一杯やることにしよう。
俺は違うところに隠していた小型のヒョウタンを取り出すと
魔力塊からこっそり姿を出し、真っ青な空を肴に、その中身を口に含んだ。
「ふぅ………うまいなぁ…」
「…堕落神様の教えこそ、真理であり、真実なのですよ。
さあ、貴女も共に、底なしの肉欲へと堕ちましょう…」
「目を覚まして!それは真理なんかじゃない、ただの悪夢よ!」
「そんなのどっちでもいいじゃない。
みぃ〜んなで、えっちなことしてぇ……みぃ〜んなで、い〜〜〜っぱい
気持ちよくなろうよぉ。
せっくすってぇ、すごい気持ちいいんだよぉ〜〜」
「っ……!!
こんな、こんな幼い子に、なんてことを…!」
「おにいちゃんったら、ミミルのあそこは
きつくてたまらない味わいだって、言ってくれるんだよ。
それで、たっくさんミミルのお腹の中に、どろどろセーエキ出して
くれるの。ふふ〜〜〜〜〜ん」
「やめて、聞きたくない!」
「そ〜だよね、おにいちゃ〜〜ん?」
聞きたくないなあ俺も。
「別にミミルちゃんに限った話でもないですけどね。
私たちも彼女らも、彼に毎日たっぷりと愛されていますから」
「彼が我々を分け隔てなく愛し、そして我々もまた
彼だけを愛し、お互いの欲望を満たし合う……そのような淫らな運命を
与えてくださった神に、私は感謝し、堕ちていくのです……」
「彼女らって……ひっく、他に、ま、まだ、いますの?」
「ああそうさ。アタシ達四人に、プリメーラ、ロリーサにロリシャ、
それに今宵とフランツィスカ様の、合計九人だ。
あいつは桁外れにタフだから、むしろアタシ達のほうが
まとめてダウンしちまうこともよくあるんだぜ」
「王女様まで加わってるんですか…!?」
おい、のろけ話はそのくらいにしていいかげん交渉に入れ。
俺を話題にあげるのやめろ。
「その『彼』とやらが、そこにいる
真っ黒いものということか。にわかには信じがたい話だが」
おっ、王子が立ち直った。
「あれは彼が実体化させている、ただの魔力の塊にすぎませんよ。
本人は、あの中にいるはずですが、やけに大人しいですね………
………って、こらああぁ!
なんでまた飲んでるの!?どこから出したのそれ!?」
うっ!?
「なっ、なんでこっちにわざわざ来たんだよ!?
さっさと交渉やりゃいいだろ!」
「交渉より先にまずそれをよこしなさい。ほら、早くっ!
そんなに頻繁に飲んでたらお酒くさくて仕方がないでしょ!」
ひどい。
「それと、もう目の届かないところにいるの禁止っ!
こっちでおとなしくしてなさい!!」
お互いの腕と腕を絡めて逃げられないようにしてから、マリナが俺を
豪快に引きずっていく。優雅さ全くなし。
「おっ、おいっ……」
説得は無理と判断し、抵抗を諦め、巨大化させた魔力塊を
マント形態へと戻して羽織った。
そして、そのままサーシャ姉達のいるところまで引っ張られた頃には、
多種多様な感情の込められた視線は、小雨から豪雨へと悪化して
俺へ降り注いできていた。
「…どーも、熊さん。俺が、彼女らの夫です」
「………手配書を実際に見ても、何かの間違いだと思っていたが
どうやら、本当にそうなんだな」
「間違いならよかったんですけどねっておいマリナ剣を突きつけんな」
ほんと暴力的になってきたな。デルエラ菌に感染したか?
「苦労してるようだな」
「ええ……」
「なにを和やかに会話してるんですか!
彼は、サーシャ達を辱め、忌まわしき魔物へと堕とした元凶なんですよ!」
キーキーやかましいなあこの姉ちゃん。
辱めるも何も、むしろ俺が辱められた側だぞ。
「あーー、うっせえなこのデコ眼鏡」
やばい。つい口が滑った。
「なっ…!?」
――もう言っちゃったんだし、いいや。好き勝手喋ってしまえ。
「そもそも、今からやるのは人質交換の交渉なんだから
多少は和やかなムードになってもおかしくはないだろ。違うか?
違わないなら黙ってろ」
「そうだデコ眼鏡〜〜。や〜〜〜い」
尻馬に乗るな。
「そ、そうだ、ふざけるなっ!」
震える声を搾り出し、一人の兵士が剣を抜きながら前へ出てきた。
いや、兵士というか…
「…子供?」
どう見ても子供だ。
もしかしてミミルとさほど変わらない年齢なんじゃないか。
まだ声変わりしてないのか、叫びもなんか女声みたいだったし。
にしても、そんな若さでこの場に居合わせてるってことは、もしかして
この少年は勇者の才があるのかもしれん。
「やめんか!」
思わず立ち上がった将軍の制止も耳に入っていないのか、その少年兵は
怒りと悔しさに燃える瞳でこちらを睨みつけ、走りよってくる。
「勇者さま達を惑わした悪魔めっ!!」
そして、教団から特別に支給されたのであろう、銀細工の装飾がついた
高価そうな剣が、聖なる力を伴った冷気をまといだした。
「ふぅむ……氷の属性の勇者か。
ちょっと離れてろマリナ」
しぶしぶ腕を離し、清楚さをそなえた淫魔が俺から数歩下がった。
少年はというとその間に上段に剣を構え、前に倒れこむように
俺へと斬りかかって――
「はいはい砕けろ砕けろ」
――その剣が、あっという間にひび割れ、砕け散った。
「えっ」
一瞬前まで己の持ちうる最強の力があったはずの両手を見つめ、
幼い挑戦者は、呆然となった。
「上官の命も聞けない生意気な小僧は、折れない程度に捩れてしまえ」
今度は、少年兵の身体が、巨大な何かにしぼられたかのように
ギシギシと骨のきしむ音を立てて、ひとりでに捩れていく。
俺の『呪詛』によって。
「あうう、があっ、うぐうぅぅ……!」
神々の『真なる言葉』や、魔王の『古き言葉』には流石に及ばないが
いずれは比肩しうるようになるだろう。ならなくてもいいけどさ。
「勇者というのは勇敢な者を指す。
お前のような無謀な者は、勇者とは言わん。愚か者というのだ」
痛みにもがく少年へ、手を近づけていく。
「ま、待ってくれ!
彼の……弟の非礼については、私からも詫びる!だから…!」
思いがけないところから懇願がきた。
「え、弟さんいたんですか?」
マリナが驚いて少年と王子を見比べた。確かに似てるといえば似てる。
「別に殺したりはしないよ。
ただ、小腹が空いたんで、少し恥をかいてもらおうかなと」
俺は少年の肩にポンと右手を置いて『つまみ食い』をした。
「んっんううううううううぅぅぅーーーーーーーーーーー!!」
魔力に侵食され、貪られる快楽に、少年が
性交を伴わずに絶頂する。歓喜と恐怖のない交ぜになった
辛く甘い絶叫が、この場にいる全員の耳に届いた。
王子の弟は、捩れた身体を反らせ、腰をガクガクと揺らしながら
下着の中に青臭そうなミルクをぶちまけていく。
「未熟とはいえ勇者だけはあるな。まあまあ美味い。
どれ、もう少し喰らうとするか」
「んああああぁ、あっあああっ、あぁーーーーーーっ!!
あひっ、ひいいぃ!ひいいいいいいいいいぃぃぃ!!」
少女のように淫らな嬌声を喉から搾り出し、二度、三度と、
また射精していく。
じょばああああああっ……
五度目の射精の後、ついに少年は意識を消し飛ばし、無様に失禁した。
黄色い液体が短パンからこぼれ、若々しくしなやかな腿を伝って
地面へとタラタラ流れていく。
「…ま、こんなところで勘弁してやろう」
少年への『呪詛』を解除し、俺はテーブルの前に置かれた交渉席についた。
「つまらんことに時間をかけてしまったし、さっさと
人質交換について話し合おうじゃないですか、将軍さん?」
どこからも文句は出なかった。
12/02/08 21:36更新 / だれか
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