第2話 森林地区の騒動戦
森の中を進んでいくうちに、輝幸は妙な感覚に気づいた。
「(誰か追けてきてるな。それも一人二人じゃなく、少なくても4,5人はいる・・・)」
向こうにいた頃は呼び出した後や、帰宅途中に後ろから闇討ちを仕掛けられることも多く、背後への気配には人一倍敏感になった輝幸。相手も相手で上手く気配を隠せておらず、時折カサカサと木の葉の擦れる音や、枝の折れる音が聞こえてくる。
「(大方物剥ぎの類、野盗かなんかだろうな。隙を伺ってる様だから、このまま気を張ってればそう易々とは手も出してこないだろ。)」
互いに相手の様子を探りあいながら進むこと数分、どちらも一切折れる様子は無く、緊迫した空気が続いた。
あまり気の長い方ではない輝幸にとってその緊迫は苦痛以外のなんでもなく、限界が訪れかけていたのだが、それは相手の方も同じだったらしい。とうとう一人が遂に我慢できなくなったようで、背後から飛び掛ってきた。
「たあああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
雄叫びを上げ機敏に距離を縮めるが、当然輝幸がそれに気づかないことなどなく、スーツケースごと腕を勢いよく振り被るとそのまま遠心力を利用して、飛び掛った相手にスーツケースでスイングを叩き込む!
「でぇりゃあああああああああぁぁぁぁっ!!」
「おぼみなぁっ!?」
殴り飛ばされた相手は進行方向を正面から横へと変え、そのまましばらく飛ばされた後、木にぶつかり轟音とともに土煙を上げて止まった。
そしてその場には、恐らく今さっき持ち主が飛んでいった際に置き去りにされたであろう、大きな棍棒が1つ。
「(・・・妙にデカイ棍棒だな。大体少学校の低学年児童の背丈くらいはありそうだが、感触や飛んだ距離を考査すると持ってた奴はそこまで大きな奴には思えなかったし・・・まさか見掛け倒しのハリボテなんてオチかぁ?)」
一人か二人は飛んでいった仲間のほうに向かったが、まだ残っている敵に警戒しながらも、残された棍棒への興味は尽きず、ついつい考え込んでしまう輝幸。だがゆっくりと姿を現した相手を見ると、怪訝な顔をしながら一気に気を緩めてしまった。
「あぁ!?ガキばっかじゃねぇかよ!変に気ぃ張って損した気分だ・・・」
そう、彼の前に現れたのは見た所まだ10代前半、下手をすればそこまでも達していないような容姿をした少女ばかりが4人。髪形や僅かながら体格に差はあれども、その服装は袖も襟も無い腹巻のようなもので胸を覆い、履いているのも薄緑で少々透けている、それを身につける意味を疑うようなショートパンツと、妙に露出の高いデザインで統一されていたのだが、それ以上に輝幸の目を引いたのは、全員が先程飛ばずに残されたものと同じような棍棒を持っていたこと。どうやらあれは、彼女たちの標準装備らしい。
と、「ガキ」と言われて腹を立てたのか、一人がまくし立ててきた。
「貴様ぁ・・・あたし等ゴブリンを馬鹿にしているのかっ!見た目で判断するんじゃなぁい!」
だがそれを聞いた輝幸は更に馬鹿にするような表情を浮かべ、呆れた様に大きくため息を吐いてからさも相手にするのが億劫そうに答える。
「ゴブリンだ?寝言は家の布団か、さっきの奴みたく伸されてから言いな。とにかく俺は、こんなうっとおしい森の中でいつまでもガキと遊ぶ気なんてさらさらねぇんだよ。とっとと帰れ!」
そのまま野良犬でも追い払うかのように手を払い、もう飽きたと言わんばかりに背を向けて歩き出す。これには自称ゴブリンらもプライドを傷つけられたようで、恐らくリーダー格らしい先程の少女は苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
「とことんあたし等を馬鹿にしやがってぇ・・・。バランガ盗賊団の底力見せてやる!」
号令代わりに発された怒声を合図に、リーダーの後ろに1人、左右に1人ずつの陣形から4人同時に地を蹴って飛び掛ってくるが、輝幸の対応は瞬時に済んでいた。
その場でUターンを決めるとスーツケースをその場に残し、身長によるリーチの差と脚力を活かし一気に跳躍。置きっぱなしの棍棒を即座に掴むと、その持ち主に先程スーツケースで決めたようにスイングして左右の二人を一蹴。更に勢い収まらない棍棒を蹴り上げてアッパーカットの様にリーダーを撃破し、それが重力に曳かれ落ちる勢いで後ろにいた者も倒された。
「ぷれだぁっ!?」
「めなぞぉっ!」
「でばす!」
「ぶるってぃか!」
命まで奪われてはいないが、断末魔の奇声を上げる4人。それを見事に流れるような動きで倒して見せた輝幸は、棍棒をその下敷きにされた少女からどかすと、適当なところに投げ捨て自身のスーツケースを手にして去ろうとの元に向かい、する。
「(試しに使ってみたが、かなりズッシリとした質感だったな。俺も遠心力使って何とか振る事はできたが、普通あんなガキには振るどころか自力じゃ引き摺るのがやっとだろ。まさかたぁ思うが、奴らの話は本当か・・・?)」
スーツケースを回収する途中ついつい考え込む輝幸だったが、そこに倒れていたリーダーの問いが聞こえた。
「アンタ、妙な格好で魔物に否定的なこと言ってたけど・・・教団の人間じゃないのか?」
どうやら彼のことを「教団」なる組織から送られた刺客と勘違いしていたらしい。当然無関係な輝幸だが、今はこの世界について1つでも多くの情報がほしい彼にとって、その発言はこの世界について新たな情報を得る、いいきっかけだった。奪われないよう荷物は手にしたまま彼女の方に向かうと、周りで倒れていた仲間たちごと手近な木に寄り掛けてやる。
「生憎俺は行く当ても無いただのならず者さ。アンタの言う教団って連中がアンタ等に何するかなんてサッパリだし、今んところは興味も無い。俺は自分の思うままに動いて、いいって思ったことをするまでだ。さっきの戦闘もアンタ等に狙われたから反撃しただけで、わざわざ止めまで指そうなんざ考えてもいねぇさ。まぁ精々これに懲りて、山賊ごっこは止めとくことだな」
やはり外見のせいか彼女らを子ども扱いし続けるが、反論がくる前にスーツケースを地に置きその上に座った輝幸は話を続けた。
「ただ興味が無いからって何も知らないままなのは、後手に回って対策も難しいし、知らない間にそいつ等からいいように扱われる可能性もあるからな。折角だし、その教団とやらのこととか、この辺りについて少し教えてくれないか?もちろんタダでとは言わない」
そう言った輝幸はスーツケースの中からせんべいの袋を取り出し開けると、中身を1枚差し出す。初めて見るそれにゴブリンも最初は警戒してたが、やがてそれが僅かに放つ醤油の香ばしい匂いに負け噛り付くと、その未知なる味に警戒を緩めた。
「・・・おぉ!これ美味いな。こんなもの初めて食べたよ」
「そいつはよかった。これは俺の故郷で作られてるせんべいって菓子だが、どうもこの世界じゃ作られてるのかよく分からない品だ。俺の手持ちは全部やるから、代わりにこの世界について色々と教えてくれ」
「ん、その交渉には乗るけど、アンタやっぱりこの辺の人間じゃないんだね」
リーダーと共に伸された3人と最初に飛ばされた者、その救出から帰ってきた者にも1枚ずつせんべいを与えると説明を促す輝幸。リーダーもその取引に納得はしたようだが、やはり彼の言い方は気になったようだ。
それに対し輝幸は、自分がおそらくこことは異なる世界で暮らしていたこと、そこで災害に巻き込まれ気づけばこの世界に来たこと、一緒にいた同級生たちも同様におそらくこちらに飛ばされたであろうことを伝える。
「なぁるほど、アンタも大変なことに巻き込まれてたんだねぇ。分かったよ、あたしもアンタの知りたいこと全部とはいかないけど、こいつのお礼に分かる限りのことは答えてやるよ」
元々深く考えないであろう種族なのか、あっけなく話を受け入れたリーダー。やがて彼女が語り始めた情報は、輝幸にしてみれば驚きの連続だった。
まずこの世界には彼女達ゴブリンを始め、種族、個体数共に数多くの魔物が暮らしていること。魔物達はその全てが人間の女性に近い容姿をしたメスで、オスは存在しないこと。代わりについさっきまで彼女達と輝幸がやりあっていたように魔物達は気に入った人間の男性を襲い、伴侶にすること。その執着心はすさまじく、1度標的と選んだ男性から拒否されようとも決して諦める事は無く、強引な性交、誘惑、魔術、薬等様々な手段を用いて男性を手に入れようとする程に強引であること。
その説明を聞き、輝幸もついつい苦笑いを浮かべる。それと同時に、今さっきまで自分を襲おうとした彼女達は今後自分をどうするか気になった。
「俺の想像とは違う意味で恐ろしい存在だな。で、アンタ等は俺のことどうするつもりだ?」
それに対しゴブリンのリーダーからの返事は、意外なものだった。
「あぁいいよいいよ。あたし等も最初はそのつもりだったけど、ここまでコテンパンにされたらそんな気も失せちまったからさ。今じゃもう勝てる気がしないよ」
なんと彼女は自ら手を引くと宣言したのだ。さすがに今の戦いで、自分達には手に負えないと感じたのだろう。
尤も、輝幸の方もそれはそれでありがたかったので丁度よかった。
「それは意外だな。まぁ俺もアンタ等みたいな子供は趣味じゃなかったから、こちらとしてもありがたいよ」
それをわざとらしく輝幸が口にすると、「だから子供じゃないっての」と返すリーダー。異性としてはお互い好みに合わなかったが、そうでなければこの二人、案外気は合う様だ。
「で、アンタはこれからどうするつもりだい?」
もらった分のせんべいを食べ終え、新しくもう1枚取り出したリーダーは、それを口にする前に尋ねた。彼女の話によれば、先程輝幸が進んでいた方向に進んだ先は、反魔物領域だとのこと。丁度この森が領域の境界線となっている。
「一応さっきの方に進んでいって、向こうの領分も聞いてみるさ。その上でアンタ等魔物か、教団とやらのどちらに就くか決める。向こうに就いたからって、怨んでくれるなよ?」
結局輝幸は、教団の言い分も聞いてみることにしたようだ。そのまま別れを告げ、立ち去らんと歩いていく。
「おぅ、こっちに就いた際はまたよろしくな!そん時ゃあよかったら、男の一人でも紹介してくれや!」
ちゃっかり代わりの男性をくれと頼みながらも元気よく手を振り、別れに答えた。
目指すは反魔物領の都市、ベルガンテ。輝幸は遅くも早くも無い足取りで、そこへ向かっていく。
「(誰か追けてきてるな。それも一人二人じゃなく、少なくても4,5人はいる・・・)」
向こうにいた頃は呼び出した後や、帰宅途中に後ろから闇討ちを仕掛けられることも多く、背後への気配には人一倍敏感になった輝幸。相手も相手で上手く気配を隠せておらず、時折カサカサと木の葉の擦れる音や、枝の折れる音が聞こえてくる。
「(大方物剥ぎの類、野盗かなんかだろうな。隙を伺ってる様だから、このまま気を張ってればそう易々とは手も出してこないだろ。)」
互いに相手の様子を探りあいながら進むこと数分、どちらも一切折れる様子は無く、緊迫した空気が続いた。
あまり気の長い方ではない輝幸にとってその緊迫は苦痛以外のなんでもなく、限界が訪れかけていたのだが、それは相手の方も同じだったらしい。とうとう一人が遂に我慢できなくなったようで、背後から飛び掛ってきた。
「たあああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
雄叫びを上げ機敏に距離を縮めるが、当然輝幸がそれに気づかないことなどなく、スーツケースごと腕を勢いよく振り被るとそのまま遠心力を利用して、飛び掛った相手にスーツケースでスイングを叩き込む!
「でぇりゃあああああああああぁぁぁぁっ!!」
「おぼみなぁっ!?」
殴り飛ばされた相手は進行方向を正面から横へと変え、そのまましばらく飛ばされた後、木にぶつかり轟音とともに土煙を上げて止まった。
そしてその場には、恐らく今さっき持ち主が飛んでいった際に置き去りにされたであろう、大きな棍棒が1つ。
「(・・・妙にデカイ棍棒だな。大体少学校の低学年児童の背丈くらいはありそうだが、感触や飛んだ距離を考査すると持ってた奴はそこまで大きな奴には思えなかったし・・・まさか見掛け倒しのハリボテなんてオチかぁ?)」
一人か二人は飛んでいった仲間のほうに向かったが、まだ残っている敵に警戒しながらも、残された棍棒への興味は尽きず、ついつい考え込んでしまう輝幸。だがゆっくりと姿を現した相手を見ると、怪訝な顔をしながら一気に気を緩めてしまった。
「あぁ!?ガキばっかじゃねぇかよ!変に気ぃ張って損した気分だ・・・」
そう、彼の前に現れたのは見た所まだ10代前半、下手をすればそこまでも達していないような容姿をした少女ばかりが4人。髪形や僅かながら体格に差はあれども、その服装は袖も襟も無い腹巻のようなもので胸を覆い、履いているのも薄緑で少々透けている、それを身につける意味を疑うようなショートパンツと、妙に露出の高いデザインで統一されていたのだが、それ以上に輝幸の目を引いたのは、全員が先程飛ばずに残されたものと同じような棍棒を持っていたこと。どうやらあれは、彼女たちの標準装備らしい。
と、「ガキ」と言われて腹を立てたのか、一人がまくし立ててきた。
「貴様ぁ・・・あたし等ゴブリンを馬鹿にしているのかっ!見た目で判断するんじゃなぁい!」
だがそれを聞いた輝幸は更に馬鹿にするような表情を浮かべ、呆れた様に大きくため息を吐いてからさも相手にするのが億劫そうに答える。
「ゴブリンだ?寝言は家の布団か、さっきの奴みたく伸されてから言いな。とにかく俺は、こんなうっとおしい森の中でいつまでもガキと遊ぶ気なんてさらさらねぇんだよ。とっとと帰れ!」
そのまま野良犬でも追い払うかのように手を払い、もう飽きたと言わんばかりに背を向けて歩き出す。これには自称ゴブリンらもプライドを傷つけられたようで、恐らくリーダー格らしい先程の少女は苦虫を噛み潰したような表情を見せた。
「とことんあたし等を馬鹿にしやがってぇ・・・。バランガ盗賊団の底力見せてやる!」
号令代わりに発された怒声を合図に、リーダーの後ろに1人、左右に1人ずつの陣形から4人同時に地を蹴って飛び掛ってくるが、輝幸の対応は瞬時に済んでいた。
その場でUターンを決めるとスーツケースをその場に残し、身長によるリーチの差と脚力を活かし一気に跳躍。置きっぱなしの棍棒を即座に掴むと、その持ち主に先程スーツケースで決めたようにスイングして左右の二人を一蹴。更に勢い収まらない棍棒を蹴り上げてアッパーカットの様にリーダーを撃破し、それが重力に曳かれ落ちる勢いで後ろにいた者も倒された。
「ぷれだぁっ!?」
「めなぞぉっ!」
「でばす!」
「ぶるってぃか!」
命まで奪われてはいないが、断末魔の奇声を上げる4人。それを見事に流れるような動きで倒して見せた輝幸は、棍棒をその下敷きにされた少女からどかすと、適当なところに投げ捨て自身のスーツケースを手にして去ろうとの元に向かい、する。
「(試しに使ってみたが、かなりズッシリとした質感だったな。俺も遠心力使って何とか振る事はできたが、普通あんなガキには振るどころか自力じゃ引き摺るのがやっとだろ。まさかたぁ思うが、奴らの話は本当か・・・?)」
スーツケースを回収する途中ついつい考え込む輝幸だったが、そこに倒れていたリーダーの問いが聞こえた。
「アンタ、妙な格好で魔物に否定的なこと言ってたけど・・・教団の人間じゃないのか?」
どうやら彼のことを「教団」なる組織から送られた刺客と勘違いしていたらしい。当然無関係な輝幸だが、今はこの世界について1つでも多くの情報がほしい彼にとって、その発言はこの世界について新たな情報を得る、いいきっかけだった。奪われないよう荷物は手にしたまま彼女の方に向かうと、周りで倒れていた仲間たちごと手近な木に寄り掛けてやる。
「生憎俺は行く当ても無いただのならず者さ。アンタの言う教団って連中がアンタ等に何するかなんてサッパリだし、今んところは興味も無い。俺は自分の思うままに動いて、いいって思ったことをするまでだ。さっきの戦闘もアンタ等に狙われたから反撃しただけで、わざわざ止めまで指そうなんざ考えてもいねぇさ。まぁ精々これに懲りて、山賊ごっこは止めとくことだな」
やはり外見のせいか彼女らを子ども扱いし続けるが、反論がくる前にスーツケースを地に置きその上に座った輝幸は話を続けた。
「ただ興味が無いからって何も知らないままなのは、後手に回って対策も難しいし、知らない間にそいつ等からいいように扱われる可能性もあるからな。折角だし、その教団とやらのこととか、この辺りについて少し教えてくれないか?もちろんタダでとは言わない」
そう言った輝幸はスーツケースの中からせんべいの袋を取り出し開けると、中身を1枚差し出す。初めて見るそれにゴブリンも最初は警戒してたが、やがてそれが僅かに放つ醤油の香ばしい匂いに負け噛り付くと、その未知なる味に警戒を緩めた。
「・・・おぉ!これ美味いな。こんなもの初めて食べたよ」
「そいつはよかった。これは俺の故郷で作られてるせんべいって菓子だが、どうもこの世界じゃ作られてるのかよく分からない品だ。俺の手持ちは全部やるから、代わりにこの世界について色々と教えてくれ」
「ん、その交渉には乗るけど、アンタやっぱりこの辺の人間じゃないんだね」
リーダーと共に伸された3人と最初に飛ばされた者、その救出から帰ってきた者にも1枚ずつせんべいを与えると説明を促す輝幸。リーダーもその取引に納得はしたようだが、やはり彼の言い方は気になったようだ。
それに対し輝幸は、自分がおそらくこことは異なる世界で暮らしていたこと、そこで災害に巻き込まれ気づけばこの世界に来たこと、一緒にいた同級生たちも同様におそらくこちらに飛ばされたであろうことを伝える。
「なぁるほど、アンタも大変なことに巻き込まれてたんだねぇ。分かったよ、あたしもアンタの知りたいこと全部とはいかないけど、こいつのお礼に分かる限りのことは答えてやるよ」
元々深く考えないであろう種族なのか、あっけなく話を受け入れたリーダー。やがて彼女が語り始めた情報は、輝幸にしてみれば驚きの連続だった。
まずこの世界には彼女達ゴブリンを始め、種族、個体数共に数多くの魔物が暮らしていること。魔物達はその全てが人間の女性に近い容姿をしたメスで、オスは存在しないこと。代わりについさっきまで彼女達と輝幸がやりあっていたように魔物達は気に入った人間の男性を襲い、伴侶にすること。その執着心はすさまじく、1度標的と選んだ男性から拒否されようとも決して諦める事は無く、強引な性交、誘惑、魔術、薬等様々な手段を用いて男性を手に入れようとする程に強引であること。
その説明を聞き、輝幸もついつい苦笑いを浮かべる。それと同時に、今さっきまで自分を襲おうとした彼女達は今後自分をどうするか気になった。
「俺の想像とは違う意味で恐ろしい存在だな。で、アンタ等は俺のことどうするつもりだ?」
それに対しゴブリンのリーダーからの返事は、意外なものだった。
「あぁいいよいいよ。あたし等も最初はそのつもりだったけど、ここまでコテンパンにされたらそんな気も失せちまったからさ。今じゃもう勝てる気がしないよ」
なんと彼女は自ら手を引くと宣言したのだ。さすがに今の戦いで、自分達には手に負えないと感じたのだろう。
尤も、輝幸の方もそれはそれでありがたかったので丁度よかった。
「それは意外だな。まぁ俺もアンタ等みたいな子供は趣味じゃなかったから、こちらとしてもありがたいよ」
それをわざとらしく輝幸が口にすると、「だから子供じゃないっての」と返すリーダー。異性としてはお互い好みに合わなかったが、そうでなければこの二人、案外気は合う様だ。
「で、アンタはこれからどうするつもりだい?」
もらった分のせんべいを食べ終え、新しくもう1枚取り出したリーダーは、それを口にする前に尋ねた。彼女の話によれば、先程輝幸が進んでいた方向に進んだ先は、反魔物領域だとのこと。丁度この森が領域の境界線となっている。
「一応さっきの方に進んでいって、向こうの領分も聞いてみるさ。その上でアンタ等魔物か、教団とやらのどちらに就くか決める。向こうに就いたからって、怨んでくれるなよ?」
結局輝幸は、教団の言い分も聞いてみることにしたようだ。そのまま別れを告げ、立ち去らんと歩いていく。
「おぅ、こっちに就いた際はまたよろしくな!そん時ゃあよかったら、男の一人でも紹介してくれや!」
ちゃっかり代わりの男性をくれと頼みながらも元気よく手を振り、別れに答えた。
目指すは反魔物領の都市、ベルガンテ。輝幸は遅くも早くも無い足取りで、そこへ向かっていく。
12/01/08 21:47更新 / ゲオザーグ
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