Lonely snow
Lonely snow
「なんでこんなことに・・・」
いま、俺は山の谷間にいる。季節は冬。しかも雪山。
自分の状態はといえば、崖から落ちて足を、まぁ何とか歩ける程度に怪我をした。
何でこんな状況下というと、俺(本名:里田 圭)は登山家というほどでもないが山登りが好きで、月に一回は山を登る。もう山を本格的に登り始めてから3年は経つので、雪山にでも登ろうかと思った。さすがにいきなり北アルプスなんかに登るのは無理だろうと思い、比較的天候が落ち着いていて、安全に登れそうな山を選んだ。
確かにその日は、若干の雲が出ていたものの、良い登山日和だった。だが、それも長くは続かず、登山してから1時間したらあっという間に雲が立ち込み、気温が下がり始め、とうとう雪が降り始めた。
さすがにやばくなってきたかと思い、山を下り始めたら、雪山になれていなかったせいか、足を滑らせ転倒、そして崖から転落し今に至る。
「しかし参ったなぁ。足は痛いし雪も強くなってきてるし・・・。」
(・・・お。あそこにちょうどいい具合の洞穴があるな。あそこで一休みしよっと。)
俺はちょうどあった洞穴に入り、バッグから、マッチと適当な紙を取り出し火をつけて暖を取ろうとした。そのとき、火をつけて間も無く洞穴の奥から、低く響く声が聞こえてきた。
「グルルルル・・・」
(この声は・・・)
俺は一気に背筋が凍った。
(ふうっ。今日もまたすごい吹雪ね・・・)
私(本名:山那 有希)は、いつもどおり雪山を歩いていた。実家がこの山のすぐ近くということで、幼い頃から山には慣れていて、この程度の雪ならよくあることなので、普通に歩いている(始めて来た人はそうはいかないが)。よく遭難者が出るので、こういう天気の日は、自分の欲求を満たすことと人命救助(そんな大それたことをやっている気はないが)を兼ねて山を歩いている。初めはただの気分転換だったが、やってみると意外と遭難者が多いので、いつの間にか山岳救助隊みたいなことをはじめていた。
(さて、今日も困ってる人は要るかな〜?)
そんなことを思いつつ、ふと高さ3〜4mぐらいの崖の下を見ると・・・
「グルルルルル・・・」
(やばい・・・。なんでこんなところに熊がいるんだよ・・・!今、熊は冬眠中のはずだろ・・・!)
そう、俺も目の前には熊がいる。今は冬。普通に考えたら熊は冬眠中のはずだ。しかし、現実に目の前に熊がいる。
俺と熊の間にはさっき焚いた焚き火が一つ。熊はそれ以上近づいては来ないが、それも時間の問題だろう。
(くそ、どうする。今、俺の手元には武器になるようなものは一つも・・・)
若干の諦めが心に出てきたその瞬間、
「おーい!こっちだよっ!」
その声に気付き振り向くと、崖の上に登山家らしい格好をした女性が。格好からして登山家だろう。
「今、ロープを下ろすからそれで伝って登っておいで!」
そう女性が言う。ありがたい。俺は痛い足に鞭を打って、そのロープまで出せるだけのスピードで走った。
後ろの熊は、ついに焚き火を飛び越えようとしていた。だが、こちらのほうが熊に捕まるよりも先にロープに摑まり、歯を食いしばって崖を上った。彼女も力を貸してくれたので、案外あっさりと上れた。下を見れば、熊が悔しそうに崖を引っかいている。
「有り難う。おかげで助かりました。」俺はそう言った。ほんとに、彼女がいなければ危なかった。
「いえいえ。しかし、熊に襲われるなんて災難ね〜」
彼女は笑って言った。
「ええ。本当にびっくりしましたよ。」俺は苦笑いしながら言った。
「さて、あなた怪我してるでしょ。家、近くなの。そこで治療してあげる。あ、名前名乗ってなかったね。あたし有希。山那 有希。よろしく。」
「俺は里田 圭。よろしく。」
俺は、有希と名乗る女性が怪我を治療してくれるというので、ありがたくその提案を受け、彼女の家に向かうことにした。
「ん〜〜と、よしっ!できた!」
俺は彼女の家で怪我の応急手当をしてもらい、おまけに食事まで出してくれた。
「本当に有り難うございました。」
食事が終わり、二人で一緒にお茶を飲んでいた。俺たちのほかには誰も居ず、彼女の家族はもう少しふもとのほうの実家に居るという。
「いえいえ。困った人を助けるのは当たり前ですよ!それより、これからどうするんですか?」
外は未だに結構吹雪いている。この怪我で下りようとするとまた遭難しかねない。
「どうしましょう。」そういうと彼女は、
「そうだ、今夜家に泊まっていけば?」
などと言い出した。
「・・・え?」
「だから、家に泊まっていきなよ。」
「え、いや、あの、その・・・。ものすごくうれしいのですが、あの二人っきりってのは・・・」
「え・・・。あ、あはははははっ!何変なこと考えてるの!?もー。大丈夫!わたしはあっちの部屋。あなたはそっちの部屋。家の部屋の端っこ同士の部屋だから。あんまり変なこと考えてると外にほっぽり出すよ?」
「え、すみません、それは勘弁してください・・」
「うんよろしい!」
(軽く蒼色が掛かったセミロングの髪が特徴的な)彼女は明るく気さくで、話しているととても楽しかった。
「じゃあそろそろお風呂に入ろっと。あなた先入る?」
「じゃあそうさせてもらおうかな。」
俺が彼女の言葉に甘え、お風呂に入ろうと思った瞬間、
「グオオオオ!」
「「!!」」
俺たちはもう大丈夫だと思っていた。しかし、どうやってきたのか、家のすぐ近くで熊の鳴き声が。
「くそっ!なんで!?」
俺は今の状態が上手く飲み込めていなかった。しかし、彼女が
「突っ立ってないで速く逃げましょう!」と冷静な判断を下していた。俺はその言葉で我に返り、二人で裏口から逃げようとした。だが、遅すぎた。
ドォン・・・!
ついに扉が破られ、熊が入ってきた。こうして改めて見ると、思ったより大きかった。
「やばい・・・」
俺たちと熊との間は約5,6m。熊が走ったらあっという間だろう。
(くっ、どうしたら・・・。ん?)
ちょうど俺の近くにスキーで使うストックがあった。これなら・・・
「有希さん!俺が熊をひきつけるから、その隙に外へ!」
「え、でもあなた怪我してるんだよ!?」
「何とかなりますよ。」
そんなことを言っている間に、ついに熊がこちらへ向かってきた!
「さぁ、早く!」
俺はそういうと、熊に向かって走り出した。
(目をつぶせば時間稼ぎになる・・・)
俺は、どこかで熊に勝てるなどと甘い考えを持っていたのだろう。だから、次の熊の行動には目を疑った。
熊が、一気にこちらへジャンプしたのだ!
「うそ・・・だろ。」
そう思った瞬間、俺は熊の前足での攻撃を食らい、横へ吹っ飛んだ。ストックはその勢いで吹っ飛んだ。
「痛って〜。」
俺は、体の痛みをこらえ、起き上がろうとした瞬間、
ドッ!
「イッ・・・!」
熊の前足が俺を踏みつけて抑えつけている。熊は、牙を剥き、今にも噛み付いてこようかという状態だった。
(もうダメだ・・・)
心が絶望に染まり、熊の牙が目の前に来た瞬間、
・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・凍った。
まるで、絶対零度の冷気を浴びたように凍りついた。
俺は状況がまったく飲めず、呆然としてると、
「ふ〜。危なかったわね〜。まったく、危なっかしいんだから」
という有希の声が。まさか・・・
「有希さん、あなたまさか、雪・・・」
「そう、私は雪女一族の末裔よ。」
そういうと、彼女の明るかった表情に影が入った。
「いままで黙っていてごめんね。いままで、私のことが雪女だって分かった人たちは、みんな今のあなたの表情をするの。そしてこういうの・・・『この化け物っ!』てね。そりゃ、普通の人とは違う能力を持っているけど、それ以外は何も変わらないわ。昔の雪女は人間を襲ってたりしたけど、私はそんなことしないわ。でもね、みんな私のこと怖がって急いで外に逃げるの。私は、外は吹雪だから出ないほうが良いって言ってるのに、かまわず外に出ちゃう。その後はもう知らない。上手く帰れてる人もいれば凍死しちゃう人もいる。あなたはどう?怖くない?こんな『化け物』で。」
俺はただただ呆然としていた。今のこの状況から彼女が雪女であることには変わりない。あまりの衝撃に頭がついていかない。だが、次に発した言葉は俺が率直に思ったことだ。
「君は『化け物』なんかじゃない。」
「そうよね。怖いよね。・・・え?えぇ?」
「確かに君は雪女かもしれない。しかし、その前に山那 有希という名の人間。そうだろ?」
「た、確かにそうだけど。でもわたしこんなの出来ちゃうよ?」
そういうと、彼女は囲炉裏の火を一瞬のうちに凍らせてみせた。そしてそれは、瞬く光と共に砕け散った。
「ね、怖くない?」
「いや、すごいと思う。火事がおきても君が居ればあっという間に消せる。他にもいろいろ便利だと思うよ。」
「で、でも・・・。」
彼女はいきなりの展開で戸惑っていた。それもそうだろう、俺には想像できないが、彼女はきっとずっと迫害されてきたのだろう。『化け物』と。
「いいじゃないか。君は君。だろ?」
「う、うん・・・。」だいぶ落ち着いてきたようだ。さて、
「あのさ、有希さん。」
「な、何よ・・・。」
「俺の上に乗ってる熊、どかすの手伝ってくれないかな?」
「さてと・・・。」
やっとこさ落ちついて座ると、彼女もようやく落ち着いたようだ。
しかし、彼女は未だに視線を合わせようとしない。
そこで俺は、かねてから言おうと思っていたことを言うことにした。
「あの、有希さん。」
「な、なによ。」
「友達になってください。」
「・・・・・・へ?」
「いや、だから友達になってくださいと言ったんです。」
「え、えーーー!」
そう、俺は彼女に一目見たときから好意を持っていた。そして、彼女と話して、それは一気に大きくなった。
それに、彼女はこのまま行ったら一生孤独に生きていかなければならない。そうなることは、絶対にダメだ。
「だ、ダメかな・・・?」
そして、
「・・・う・・・。」
「う?」
「う、うれしいよ〜!!」
そういうと有希はいきなり抱きつき、泣き出した。
「わ、私・・・今まで・・・グス・・・一人も友達ができなかった・・・ヒク・・・なりかけても、私の・・・グス・・・正体知ると・・・ウッ・・・皆離れて行っちゃったから・・・。本当に・・・グス・・・本当に、うれしいよ〜!!」
うえ〜〜んと、彼女思いっきり泣いた。一晩中泣いた。
俺は、もう彼女を二度と悲しみで涙を流させはしないと、心に誓った。
fin.
「なんでこんなことに・・・」
いま、俺は山の谷間にいる。季節は冬。しかも雪山。
自分の状態はといえば、崖から落ちて足を、まぁ何とか歩ける程度に怪我をした。
何でこんな状況下というと、俺(本名:里田 圭)は登山家というほどでもないが山登りが好きで、月に一回は山を登る。もう山を本格的に登り始めてから3年は経つので、雪山にでも登ろうかと思った。さすがにいきなり北アルプスなんかに登るのは無理だろうと思い、比較的天候が落ち着いていて、安全に登れそうな山を選んだ。
確かにその日は、若干の雲が出ていたものの、良い登山日和だった。だが、それも長くは続かず、登山してから1時間したらあっという間に雲が立ち込み、気温が下がり始め、とうとう雪が降り始めた。
さすがにやばくなってきたかと思い、山を下り始めたら、雪山になれていなかったせいか、足を滑らせ転倒、そして崖から転落し今に至る。
「しかし参ったなぁ。足は痛いし雪も強くなってきてるし・・・。」
(・・・お。あそこにちょうどいい具合の洞穴があるな。あそこで一休みしよっと。)
俺はちょうどあった洞穴に入り、バッグから、マッチと適当な紙を取り出し火をつけて暖を取ろうとした。そのとき、火をつけて間も無く洞穴の奥から、低く響く声が聞こえてきた。
「グルルルル・・・」
(この声は・・・)
俺は一気に背筋が凍った。
(ふうっ。今日もまたすごい吹雪ね・・・)
私(本名:山那 有希)は、いつもどおり雪山を歩いていた。実家がこの山のすぐ近くということで、幼い頃から山には慣れていて、この程度の雪ならよくあることなので、普通に歩いている(始めて来た人はそうはいかないが)。よく遭難者が出るので、こういう天気の日は、自分の欲求を満たすことと人命救助(そんな大それたことをやっている気はないが)を兼ねて山を歩いている。初めはただの気分転換だったが、やってみると意外と遭難者が多いので、いつの間にか山岳救助隊みたいなことをはじめていた。
(さて、今日も困ってる人は要るかな〜?)
そんなことを思いつつ、ふと高さ3〜4mぐらいの崖の下を見ると・・・
「グルルルルル・・・」
(やばい・・・。なんでこんなところに熊がいるんだよ・・・!今、熊は冬眠中のはずだろ・・・!)
そう、俺も目の前には熊がいる。今は冬。普通に考えたら熊は冬眠中のはずだ。しかし、現実に目の前に熊がいる。
俺と熊の間にはさっき焚いた焚き火が一つ。熊はそれ以上近づいては来ないが、それも時間の問題だろう。
(くそ、どうする。今、俺の手元には武器になるようなものは一つも・・・)
若干の諦めが心に出てきたその瞬間、
「おーい!こっちだよっ!」
その声に気付き振り向くと、崖の上に登山家らしい格好をした女性が。格好からして登山家だろう。
「今、ロープを下ろすからそれで伝って登っておいで!」
そう女性が言う。ありがたい。俺は痛い足に鞭を打って、そのロープまで出せるだけのスピードで走った。
後ろの熊は、ついに焚き火を飛び越えようとしていた。だが、こちらのほうが熊に捕まるよりも先にロープに摑まり、歯を食いしばって崖を上った。彼女も力を貸してくれたので、案外あっさりと上れた。下を見れば、熊が悔しそうに崖を引っかいている。
「有り難う。おかげで助かりました。」俺はそう言った。ほんとに、彼女がいなければ危なかった。
「いえいえ。しかし、熊に襲われるなんて災難ね〜」
彼女は笑って言った。
「ええ。本当にびっくりしましたよ。」俺は苦笑いしながら言った。
「さて、あなた怪我してるでしょ。家、近くなの。そこで治療してあげる。あ、名前名乗ってなかったね。あたし有希。山那 有希。よろしく。」
「俺は里田 圭。よろしく。」
俺は、有希と名乗る女性が怪我を治療してくれるというので、ありがたくその提案を受け、彼女の家に向かうことにした。
「ん〜〜と、よしっ!できた!」
俺は彼女の家で怪我の応急手当をしてもらい、おまけに食事まで出してくれた。
「本当に有り難うございました。」
食事が終わり、二人で一緒にお茶を飲んでいた。俺たちのほかには誰も居ず、彼女の家族はもう少しふもとのほうの実家に居るという。
「いえいえ。困った人を助けるのは当たり前ですよ!それより、これからどうするんですか?」
外は未だに結構吹雪いている。この怪我で下りようとするとまた遭難しかねない。
「どうしましょう。」そういうと彼女は、
「そうだ、今夜家に泊まっていけば?」
などと言い出した。
「・・・え?」
「だから、家に泊まっていきなよ。」
「え、いや、あの、その・・・。ものすごくうれしいのですが、あの二人っきりってのは・・・」
「え・・・。あ、あはははははっ!何変なこと考えてるの!?もー。大丈夫!わたしはあっちの部屋。あなたはそっちの部屋。家の部屋の端っこ同士の部屋だから。あんまり変なこと考えてると外にほっぽり出すよ?」
「え、すみません、それは勘弁してください・・」
「うんよろしい!」
(軽く蒼色が掛かったセミロングの髪が特徴的な)彼女は明るく気さくで、話しているととても楽しかった。
「じゃあそろそろお風呂に入ろっと。あなた先入る?」
「じゃあそうさせてもらおうかな。」
俺が彼女の言葉に甘え、お風呂に入ろうと思った瞬間、
「グオオオオ!」
「「!!」」
俺たちはもう大丈夫だと思っていた。しかし、どうやってきたのか、家のすぐ近くで熊の鳴き声が。
「くそっ!なんで!?」
俺は今の状態が上手く飲み込めていなかった。しかし、彼女が
「突っ立ってないで速く逃げましょう!」と冷静な判断を下していた。俺はその言葉で我に返り、二人で裏口から逃げようとした。だが、遅すぎた。
ドォン・・・!
ついに扉が破られ、熊が入ってきた。こうして改めて見ると、思ったより大きかった。
「やばい・・・」
俺たちと熊との間は約5,6m。熊が走ったらあっという間だろう。
(くっ、どうしたら・・・。ん?)
ちょうど俺の近くにスキーで使うストックがあった。これなら・・・
「有希さん!俺が熊をひきつけるから、その隙に外へ!」
「え、でもあなた怪我してるんだよ!?」
「何とかなりますよ。」
そんなことを言っている間に、ついに熊がこちらへ向かってきた!
「さぁ、早く!」
俺はそういうと、熊に向かって走り出した。
(目をつぶせば時間稼ぎになる・・・)
俺は、どこかで熊に勝てるなどと甘い考えを持っていたのだろう。だから、次の熊の行動には目を疑った。
熊が、一気にこちらへジャンプしたのだ!
「うそ・・・だろ。」
そう思った瞬間、俺は熊の前足での攻撃を食らい、横へ吹っ飛んだ。ストックはその勢いで吹っ飛んだ。
「痛って〜。」
俺は、体の痛みをこらえ、起き上がろうとした瞬間、
ドッ!
「イッ・・・!」
熊の前足が俺を踏みつけて抑えつけている。熊は、牙を剥き、今にも噛み付いてこようかという状態だった。
(もうダメだ・・・)
心が絶望に染まり、熊の牙が目の前に来た瞬間、
・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・凍った。
まるで、絶対零度の冷気を浴びたように凍りついた。
俺は状況がまったく飲めず、呆然としてると、
「ふ〜。危なかったわね〜。まったく、危なっかしいんだから」
という有希の声が。まさか・・・
「有希さん、あなたまさか、雪・・・」
「そう、私は雪女一族の末裔よ。」
そういうと、彼女の明るかった表情に影が入った。
「いままで黙っていてごめんね。いままで、私のことが雪女だって分かった人たちは、みんな今のあなたの表情をするの。そしてこういうの・・・『この化け物っ!』てね。そりゃ、普通の人とは違う能力を持っているけど、それ以外は何も変わらないわ。昔の雪女は人間を襲ってたりしたけど、私はそんなことしないわ。でもね、みんな私のこと怖がって急いで外に逃げるの。私は、外は吹雪だから出ないほうが良いって言ってるのに、かまわず外に出ちゃう。その後はもう知らない。上手く帰れてる人もいれば凍死しちゃう人もいる。あなたはどう?怖くない?こんな『化け物』で。」
俺はただただ呆然としていた。今のこの状況から彼女が雪女であることには変わりない。あまりの衝撃に頭がついていかない。だが、次に発した言葉は俺が率直に思ったことだ。
「君は『化け物』なんかじゃない。」
「そうよね。怖いよね。・・・え?えぇ?」
「確かに君は雪女かもしれない。しかし、その前に山那 有希という名の人間。そうだろ?」
「た、確かにそうだけど。でもわたしこんなの出来ちゃうよ?」
そういうと、彼女は囲炉裏の火を一瞬のうちに凍らせてみせた。そしてそれは、瞬く光と共に砕け散った。
「ね、怖くない?」
「いや、すごいと思う。火事がおきても君が居ればあっという間に消せる。他にもいろいろ便利だと思うよ。」
「で、でも・・・。」
彼女はいきなりの展開で戸惑っていた。それもそうだろう、俺には想像できないが、彼女はきっとずっと迫害されてきたのだろう。『化け物』と。
「いいじゃないか。君は君。だろ?」
「う、うん・・・。」だいぶ落ち着いてきたようだ。さて、
「あのさ、有希さん。」
「な、何よ・・・。」
「俺の上に乗ってる熊、どかすの手伝ってくれないかな?」
「さてと・・・。」
やっとこさ落ちついて座ると、彼女もようやく落ち着いたようだ。
しかし、彼女は未だに視線を合わせようとしない。
そこで俺は、かねてから言おうと思っていたことを言うことにした。
「あの、有希さん。」
「な、なによ。」
「友達になってください。」
「・・・・・・へ?」
「いや、だから友達になってくださいと言ったんです。」
「え、えーーー!」
そう、俺は彼女に一目見たときから好意を持っていた。そして、彼女と話して、それは一気に大きくなった。
それに、彼女はこのまま行ったら一生孤独に生きていかなければならない。そうなることは、絶対にダメだ。
「だ、ダメかな・・・?」
そして、
「・・・う・・・。」
「う?」
「う、うれしいよ〜!!」
そういうと有希はいきなり抱きつき、泣き出した。
「わ、私・・・今まで・・・グス・・・一人も友達ができなかった・・・ヒク・・・なりかけても、私の・・・グス・・・正体知ると・・・ウッ・・・皆離れて行っちゃったから・・・。本当に・・・グス・・・本当に、うれしいよ〜!!」
うえ〜〜んと、彼女思いっきり泣いた。一晩中泣いた。
俺は、もう彼女を二度と悲しみで涙を流させはしないと、心に誓った。
fin.
09/10/19 18:57更新 / SIN