まもの絵本「おおきなマンドラゴラ」
ある日おじいさんが森を歩いていますと、足元から声が聞こえてきました。
『おねがいです、そこの方。どうかわたしを引きぬいてください』
おじいさんがあたりを見回しますと、地面にとてもおおきな花が咲いていました。
どうやら声はその花から聞こえてくるようです。
おじいさんがどうしたのかとたずねますと、その花は実はマンドラゴラで、
もうずっと長い事この森にいるが、だれ一人としてわたしを引きぬいてくれない。
このままでは地面の下でひとり年老いていくかと思うと、とてもおそろしい。
だから助けると思ってどうかわたしをぬいてほしい。
と、こう言うのでした。
しかしうちのばあさん(※バフォメット・Lv87 得意技:ギガフレア)はやきもちやきだからなあ、
とおじいさんが言うと花は、
『この際2号でもかまいません。もしそれでもだめなら、抜いてさえもらえば夫は自分で探します。もちろんお礼はいたしますので・・・』
と答えました。おじいさんはそこまで言うならばと、
「わしに心あたりがあるから、明日まで待っていなさい。きっと君にふさわしい人を連れてくるから」
そう言っておじいさんとマンドラゴラは別れました。
* * *
次の日の朝、おじいさんは一人の男の人といっしょに昨日の場所までやってきました。
「約束どうり、結婚相手をつれてきましたよ」
そう言っておじいさんはとなりの男をマンドラゴラに紹介しました。
『まあ、お医者さまですのね。わたし、あなたのためにたくさん、薬を作ってさしあげられますわ。なにせこんなにおおきいんですもの』
それを聞いた男は笑って、よろしくたのむよと答えました。
その時遠くでなにか爆発するような音が聞こえました。
「むむっいかん、もうばあさんが目を覚ましおった。わしは家にもどるから、あとは二人でよろしくやってくれ」
言うなりおじいさんはホーキに乗って飛んでいってしまいました。
残った男はさっそくマンドラゴラを引きぬくことにしました。
男の腰まである花びらをしっかりとにぎると、花のほうも男の手をつつむようににぎり返しました。
「ようし、引っぱるぞ。うんとこしょ、どっこいしょ」
しかし男がいくら引っぱっても、マンドラゴラはぬけません。
その後もなんども休みながら引っ張ってみたのですが、いっこうにぬける様子はありませんでした。
「まいったな、まさかこんなに大変だなんて。しかたがない、だれか人をよんでこよう」
それを聞いたマンドラゴラはあわてて言いました。
『いえいえそれはいけません。ここは魔界のまっただなか。あなたが一人で歩いていたら、すぐに魔物につかまりますよ』
しかたなく男はすこし休んで、また引っぱりはじめるのでした。
* * *
男が大きな花と格闘していると、そこへ散歩中のミノタウロスが通りかかりました。
「おや、魔界で人間の男とはめずらしい。ようし、おれのオスにしてやろう」
言うが早いかミノタウロスは男に飛びかかりました。
「うわっ何をするんだ、やめないかくわせふじこ」
『この人はわたしの夫になる人です。えぬてぃーあーるダメぜったい』
男とマンドラゴラは手と花びらをしっかりとむすびあって抵抗します。
「魔界で男は早いものがちだ。こいつはおれのオスにするぜ」
ミノタウロスは男の腰に手をまわし、マンドラゴラから引きはなそうと力を入れました。
「そうれ引っぱるぞ。ふんぬらば、どっこいしょ」
しかしミノタウロスがいくら引っぱっても、二人は手をはなしません。
そしてマンドラゴラもぬけません。
「ち、ちぎれる」
「おい、早くこいつをはなしやがれ。でないとこいつの腕が、ちぎれちまうぞ」
『いやですあなたこそはなしなさい。かれの体が、さけてしまう』
* * *
「まったくばあさんときたら、寝起きにわしがいないからといって、部屋をこわさないでほしいわい。さて、あの二人はうまいことやっているかのう」
マンドラゴラたちのもとへ戻ったおじいさんが目にしたのは、二人を引きはなそうとするミノタウロスの姿でした。
「これ、お主はなにをしているか。ひとの恋路をじゃまするやつは、ケンタウロスにふまれてつぶされるぞ」
「ふん、じいさんなんかおよびじゃないぜ。それになんだ、ヤギくさい。おまえこそバイコーンにほられないうちに、とっとと行っちまえ」
叱り付けるおじいさんにかまわず、ミノタウロスは男を羽交い絞めにしました。
「ええい、はなれんか。しかたない、こうなっては力づくでやるしかないわい」
おじいさんは腕まくりして、ミノタウロスの腰にしがみつきました。
「さあ、引っぱるぞ。あぶどるだむらる、どっこいしょ」
ひと声呪文をとなえると、おじいさんは老人とは思えないものすごい力でミノタウロスを引っぱりはじめました。
しかしおじいさんがいくら引っぱっても、ミノタウロスは渾身の力で男にしがみつき、まったくはなれようとはしません。
そしてマンドラゴラもぬけません。
「これ、はなれんかい」
「このえろじじい、おれのケツからはなれやがれ」
「うぎぎぎぎ」
『この手をはなしません。わたしの心ごとはなしてしまいそうだから』
* * *
「薬草はこれでいいかしら」
「もうちょっと集めたほうがいいんじゃない」
「カゴ、まだはいる」
そこに三人の魔女が通りがかりました。
「あら、あそこにいるのはバフォメット様の・・・」
なんということでしょう。彼女たちの敬愛するバフォメットのお兄様が、豊満な体つきの魔物に抱きついているではありませんか。
魔女たちは急いで老人にとび付くと、一生懸命引っぱりました。
「おやめください、どっこいしょ」
「おしたいしてます、どっこいしょ」
「くんかくんかすーはーすーはー、どっこいしょ」
三人の魔女は老人の腰と、右足と、左足にしがみつきましたが、老人は豊満な魔物からはなれようとしません。
そしてやっぱりマンドラゴラはぬけません。
「いいかげんにしてください、バフォメット様が悲しみます」
「覚えていらっしゃいますか。サバトに来たあなたに最初にいどんだのはわたしなんですよ」
「ちゅぱちゅぱ、ぺろぺろ、すりすりすり」
「こら、お前たちなにをする。どさくさまぎれに変なとこさわるでない。お主もいいかげんにあきらめたらどうだ」
「魔界で男をみつけたんだ。あきらめるなんてむりな相談だぜ」
「※%+*#@」
『いけない、このままでは。でも手をはなすなんてわたしには・・・』
* * *
「あにうえー、どこいったのじゃー?」
森の中を一人のバフォメットがトボトボと歩いていました。
「あにうえは目をはなすとすぐにいなくなる。わしのことがきらいなのかのう・・・」
バフォメットが一人落ち込んでいると、森のなかからたくさんの人の声が聞こえてきました。
「なんじゃろう、こんな森のふかくでおまつりでもやっておるのか?」
にぎやかな物音にそちらのほうへ近づいていきますと、バフォメットの目に、
豊満な魔物に抱きつき、魔女たちに股間をまさぐられている、
兄の姿が飛びこんできました。
その日、魔界の森に星が落ちました。
けれどもマンドラゴラはぬけませんでした。
* * *
「はなしはわかった」
腕組みをして仁王立ちするバフォメットの前には、
三人ひとまとめに縛られた魔女たちと、
髪もヒゲもチリチリに焦げたおじいさんと、
黒く焦げたひと房のミノタウロスの毛と、
つかれきった男と、
おおきなマンドラゴラの花がありました。
「つまりそのマンドラゴラがぬければよいのじゃろ」
「しかし、わしらがいくら引っぱってもぬけなかったのじゃぞ?」
事も無げに言うバフォメットに対して、おじいさんは疑問を投げかけました。
「それぐらいなんでもないわい。わしはサバトの主、バフォメットじゃぞ」
言うなりバフォメットはマントをひるがえして、おおきな花の前に立ちました。
月光よりも白きもの
血の流れよりも紅きもの
時の流れに嘆きし
可憐な汝の名において
我ここに闇に誓わん
我らが前に立ち塞がりし
全ての愚かなるもの共に
我と汝が魅力もて
等しく悦びを与えんことを
バフォメットが呪文をとなえると、まばゆい光があたりをつつみ、皆はたまらず目を閉じました。
光がおさまると皆の目の前にはおおきなおおきな穴があり、底にはちいさなマンドラゴラがぺたりと座りこんでいました。
老人はすぐさま魔女たちを縛っていたロープをほどくと、男の体に巻きつけてゆっくりと穴へ下ろしました。
そして男がちいさなマンドラゴラを抱き上げると、皆でロープを引っぱりました。
「それひっぱるぞ。うんとこしょ、どっこいしょ」
やっと、マンドラゴラはぬけました。
* * *
次の日、男とマンドラゴラはみんなに見送られながら帰ってゆきました。
道すがらマンドラゴラは男を見上げて、
「ちいさいわたしでもいいですか?」
と、ちょっと不安そうにききました。
男は、
「これから、よろしくたのむよ」
と笑って彼女のちいさな手をとりました。
『おねがいです、そこの方。どうかわたしを引きぬいてください』
おじいさんがあたりを見回しますと、地面にとてもおおきな花が咲いていました。
どうやら声はその花から聞こえてくるようです。
おじいさんがどうしたのかとたずねますと、その花は実はマンドラゴラで、
もうずっと長い事この森にいるが、だれ一人としてわたしを引きぬいてくれない。
このままでは地面の下でひとり年老いていくかと思うと、とてもおそろしい。
だから助けると思ってどうかわたしをぬいてほしい。
と、こう言うのでした。
しかしうちのばあさん(※バフォメット・Lv87 得意技:ギガフレア)はやきもちやきだからなあ、
とおじいさんが言うと花は、
『この際2号でもかまいません。もしそれでもだめなら、抜いてさえもらえば夫は自分で探します。もちろんお礼はいたしますので・・・』
と答えました。おじいさんはそこまで言うならばと、
「わしに心あたりがあるから、明日まで待っていなさい。きっと君にふさわしい人を連れてくるから」
そう言っておじいさんとマンドラゴラは別れました。
* * *
次の日の朝、おじいさんは一人の男の人といっしょに昨日の場所までやってきました。
「約束どうり、結婚相手をつれてきましたよ」
そう言っておじいさんはとなりの男をマンドラゴラに紹介しました。
『まあ、お医者さまですのね。わたし、あなたのためにたくさん、薬を作ってさしあげられますわ。なにせこんなにおおきいんですもの』
それを聞いた男は笑って、よろしくたのむよと答えました。
その時遠くでなにか爆発するような音が聞こえました。
「むむっいかん、もうばあさんが目を覚ましおった。わしは家にもどるから、あとは二人でよろしくやってくれ」
言うなりおじいさんはホーキに乗って飛んでいってしまいました。
残った男はさっそくマンドラゴラを引きぬくことにしました。
男の腰まである花びらをしっかりとにぎると、花のほうも男の手をつつむようににぎり返しました。
「ようし、引っぱるぞ。うんとこしょ、どっこいしょ」
しかし男がいくら引っぱっても、マンドラゴラはぬけません。
その後もなんども休みながら引っ張ってみたのですが、いっこうにぬける様子はありませんでした。
「まいったな、まさかこんなに大変だなんて。しかたがない、だれか人をよんでこよう」
それを聞いたマンドラゴラはあわてて言いました。
『いえいえそれはいけません。ここは魔界のまっただなか。あなたが一人で歩いていたら、すぐに魔物につかまりますよ』
しかたなく男はすこし休んで、また引っぱりはじめるのでした。
* * *
男が大きな花と格闘していると、そこへ散歩中のミノタウロスが通りかかりました。
「おや、魔界で人間の男とはめずらしい。ようし、おれのオスにしてやろう」
言うが早いかミノタウロスは男に飛びかかりました。
「うわっ何をするんだ、やめないかくわせふじこ」
『この人はわたしの夫になる人です。えぬてぃーあーるダメぜったい』
男とマンドラゴラは手と花びらをしっかりとむすびあって抵抗します。
「魔界で男は早いものがちだ。こいつはおれのオスにするぜ」
ミノタウロスは男の腰に手をまわし、マンドラゴラから引きはなそうと力を入れました。
「そうれ引っぱるぞ。ふんぬらば、どっこいしょ」
しかしミノタウロスがいくら引っぱっても、二人は手をはなしません。
そしてマンドラゴラもぬけません。
「ち、ちぎれる」
「おい、早くこいつをはなしやがれ。でないとこいつの腕が、ちぎれちまうぞ」
『いやですあなたこそはなしなさい。かれの体が、さけてしまう』
* * *
「まったくばあさんときたら、寝起きにわしがいないからといって、部屋をこわさないでほしいわい。さて、あの二人はうまいことやっているかのう」
マンドラゴラたちのもとへ戻ったおじいさんが目にしたのは、二人を引きはなそうとするミノタウロスの姿でした。
「これ、お主はなにをしているか。ひとの恋路をじゃまするやつは、ケンタウロスにふまれてつぶされるぞ」
「ふん、じいさんなんかおよびじゃないぜ。それになんだ、ヤギくさい。おまえこそバイコーンにほられないうちに、とっとと行っちまえ」
叱り付けるおじいさんにかまわず、ミノタウロスは男を羽交い絞めにしました。
「ええい、はなれんか。しかたない、こうなっては力づくでやるしかないわい」
おじいさんは腕まくりして、ミノタウロスの腰にしがみつきました。
「さあ、引っぱるぞ。あぶどるだむらる、どっこいしょ」
ひと声呪文をとなえると、おじいさんは老人とは思えないものすごい力でミノタウロスを引っぱりはじめました。
しかしおじいさんがいくら引っぱっても、ミノタウロスは渾身の力で男にしがみつき、まったくはなれようとはしません。
そしてマンドラゴラもぬけません。
「これ、はなれんかい」
「このえろじじい、おれのケツからはなれやがれ」
「うぎぎぎぎ」
『この手をはなしません。わたしの心ごとはなしてしまいそうだから』
* * *
「薬草はこれでいいかしら」
「もうちょっと集めたほうがいいんじゃない」
「カゴ、まだはいる」
そこに三人の魔女が通りがかりました。
「あら、あそこにいるのはバフォメット様の・・・」
なんということでしょう。彼女たちの敬愛するバフォメットのお兄様が、豊満な体つきの魔物に抱きついているではありませんか。
魔女たちは急いで老人にとび付くと、一生懸命引っぱりました。
「おやめください、どっこいしょ」
「おしたいしてます、どっこいしょ」
「くんかくんかすーはーすーはー、どっこいしょ」
三人の魔女は老人の腰と、右足と、左足にしがみつきましたが、老人は豊満な魔物からはなれようとしません。
そしてやっぱりマンドラゴラはぬけません。
「いいかげんにしてください、バフォメット様が悲しみます」
「覚えていらっしゃいますか。サバトに来たあなたに最初にいどんだのはわたしなんですよ」
「ちゅぱちゅぱ、ぺろぺろ、すりすりすり」
「こら、お前たちなにをする。どさくさまぎれに変なとこさわるでない。お主もいいかげんにあきらめたらどうだ」
「魔界で男をみつけたんだ。あきらめるなんてむりな相談だぜ」
「※%+*#@」
『いけない、このままでは。でも手をはなすなんてわたしには・・・』
* * *
「あにうえー、どこいったのじゃー?」
森の中を一人のバフォメットがトボトボと歩いていました。
「あにうえは目をはなすとすぐにいなくなる。わしのことがきらいなのかのう・・・」
バフォメットが一人落ち込んでいると、森のなかからたくさんの人の声が聞こえてきました。
「なんじゃろう、こんな森のふかくでおまつりでもやっておるのか?」
にぎやかな物音にそちらのほうへ近づいていきますと、バフォメットの目に、
豊満な魔物に抱きつき、魔女たちに股間をまさぐられている、
兄の姿が飛びこんできました。
その日、魔界の森に星が落ちました。
けれどもマンドラゴラはぬけませんでした。
* * *
「はなしはわかった」
腕組みをして仁王立ちするバフォメットの前には、
三人ひとまとめに縛られた魔女たちと、
髪もヒゲもチリチリに焦げたおじいさんと、
黒く焦げたひと房のミノタウロスの毛と、
つかれきった男と、
おおきなマンドラゴラの花がありました。
「つまりそのマンドラゴラがぬければよいのじゃろ」
「しかし、わしらがいくら引っぱってもぬけなかったのじゃぞ?」
事も無げに言うバフォメットに対して、おじいさんは疑問を投げかけました。
「それぐらいなんでもないわい。わしはサバトの主、バフォメットじゃぞ」
言うなりバフォメットはマントをひるがえして、おおきな花の前に立ちました。
月光よりも白きもの
血の流れよりも紅きもの
時の流れに嘆きし
可憐な汝の名において
我ここに闇に誓わん
我らが前に立ち塞がりし
全ての愚かなるもの共に
我と汝が魅力もて
等しく悦びを与えんことを
バフォメットが呪文をとなえると、まばゆい光があたりをつつみ、皆はたまらず目を閉じました。
光がおさまると皆の目の前にはおおきなおおきな穴があり、底にはちいさなマンドラゴラがぺたりと座りこんでいました。
老人はすぐさま魔女たちを縛っていたロープをほどくと、男の体に巻きつけてゆっくりと穴へ下ろしました。
そして男がちいさなマンドラゴラを抱き上げると、皆でロープを引っぱりました。
「それひっぱるぞ。うんとこしょ、どっこいしょ」
やっと、マンドラゴラはぬけました。
* * *
次の日、男とマンドラゴラはみんなに見送られながら帰ってゆきました。
道すがらマンドラゴラは男を見上げて、
「ちいさいわたしでもいいですか?」
と、ちょっと不安そうにききました。
男は、
「これから、よろしくたのむよ」
と笑って彼女のちいさな手をとりました。
16/06/13 00:55更新 / なげっぱなしヘルマン