あなたをずっとずっとあいしている
むかし むかし。おおむかし。
まおうさまが まものを みんな かわいいおんなのこに するまえの おおむかし。
ある もりの なかで、 コボルドの おかあさんが、 あかちゃんを みつけました。
「かわいそうに、 もし あの ヘルハウンドに みつかったら たべられてしまう。」
おかあさんは、 まっくろな けなみの あかちゃんを だきかかえて じぶんの いえに かえりました。
そして、 じぶんの あかちゃんと ひろってきた あかちゃんに、 おなじように おっぱいを すわせながら いいました。
「ふたりとも、ぶじに げんきに そだってね。」
おかあさんは まいにちまいにち ふたりに ごはんを あげたり だっこして あげたりして たいせつに そだてました。
そして、 あるひ。
おかあさんが、 ごはんをもって いえに かえると ふたりが おおきくなっている ことに きがつきました。
おかあさんは おおよろこび。
にひきは げんきに じゃれあって います。
しかし、 もりの なかで ひろった あかちゃんは あの らんぼうものの ヘルハウンドの あかちゃんだと おかあさんは きがついて しまいました。
そして よる、 おかあさんは もりまで くると、 すやすや ねむっている ヘルハウンドの あかちゃんを そこに おきました。
「ごめんね…」
そういって おかあさんは とぼとぼと かえろうと しました。
あかちゃんから とおざかれば とおざかるほど むねが くるしく なっていきます。
そのときでした。
「うぇーん!」
あかちゃんの なきごえを きいた おかあさんは、
「ごめんね…ごめんね…」
と なきながら あかちゃんを だっこしました。
「だいじな わたしの あかちゃん。 こんなことをして ごめんね…」
おかあさんは あかちゃんを だっこしたまま いえに かえりました。
そんなふたりを つきと ほしの ひかりが やさしく てらして いました。
それから、 おかあさんは ふたりを おなじように かわいがり なまえを つけました。
コボルドの こには、
「おひさまみたいに げんきで あかるい、 このこは サニー。」
そして ヘルハウンドの こには、
「とっても あまえんぼう。 だけど とっても やさしい。 このこは ラブ。」
と。
それから、 ふたりは コボルドの おかあさんが もってくる くだものや おさかなの ごはんを たべて おおきく なりました。
コボルドの サニーと ヘルハウンドの ラブの ふたりは、 なかよしです。
まるで、 ほんとうの しまいのように。
またあるひ、 サニーが ともだちの グリズリーと あったときの ことです。
「サニー、 こんなところで あそんでいたら あぶないよ。」
「どうして?」
「このちかくには ヘルハウンドが すんでいるからさ。」
「ヘルハウンドって だれ?」
サニーが きくと グリズリーは こたえました。
「ヘルハウンドは ずるくて らんぼうで よくばりな きらわれものだ。からだはゴツゴツしていて、 キバはするどくて めはギラリとひかってる。おそろしい まものさ。」
そのことを きいた サニーは こわくなって いえに かえりました。
「おかあさん… グリズリーさんが こわい ヘルハウンドのことを おしえて くれたんだけど… からだはゴツゴツ、 キバはするどくて めはギラリとひかってる。 まるで ラブのことみたい。 だけど わたしは ラブが ヘルハウンドだなんて おもわないな。」
しょんぼりとして サニーが いうと おかあさんは やさしく ふたりを だきしめまして いいました。
「ちがうよ。 ラブは サニーのいもうと。 どっちも わたしの こども。 おかあさんは ふたりとも だいすきだからね。」
ふたりの あたまを なでながら おかあさんは なみだを こらえて わらっています。
「うん! ぼくも、 おかあさんのこと だいすきだよ!」
ラブが、 むじゃきな えがおで いいました。
それから つきひは ながれて ふたりは もっと おおきくなりました。
サニーは おかあさんとおなじくらい、 ラブは おかあさんと サニーより すこし おおきな からだに なっています。
「きょうも ごはんを とってきて おねえちゃんと おかあさんを よろこばせて あげよう!」
いまでは ごはんを とりにいく しごとは ラブに まかされていました。
からだも おおきくて ちからの つよい ラブは おかあさんよりも おおく ごはんを もってかえれる からです。
「グォーッ!」
とつぜん めを らんらんと ひからせた ヘルハウンドが ラブに とびかかって きました。
でも、 ラブをみると…
「なんだ、 うまそうな においが したのにな。」
おいしそうな コボルドの においが したのに、 でてきたのは じぶんと おんなじ なかま。
ヘルハウンドは がっかりして かえろうと しました。
あまりに おそろしい ヘルハウンドの すがたに ラブは ビクビクしながら たずねます。
「おばさん、 だあれ?」
「フン、 なにを いっているんだ。 おれは おまえと おなじだろ。」
それを きいた ラブは ほっとしました。
めのまえに いる ヘルハウンドを コボルドだと おもったからです。
「おい、 おまえ こんなところで なにを しているんだ?」
ヘルハウンドに きかれると、ラブは うれしそうに いいました。
「ぼく、 これから おいしいごはんを とりに いくんだ。」
くだもの、 きのこ、 やさい、 おさかな… ラブは もりの ごちそうを おもいうかべながら いいました。
「そうか。 おれも おいしいものを とりに いこうと してたんだ。」
ヘルハウンドは、 グリズリー、 ゴブリン、 ケンタウロス、 そして コボルドたち もりの まものを おもいうかべて ニヤリと わらいました。
それを きいた ラブは ヘルハウンドも もりの ごちそうを とりに いくのだと おもいました。
「よし、 わかった。 おれに ついてこい!」
じぶんと おなじように、 ごちそうを とりにいこうと していた なかまに あって、 うれしく なった ヘルハウンドは ラブを つれていく ことに しました。
ふたりは のを こえ やまを こえ、 あるきまわりました。
それから、 くだものが いっぱいある もりを あるいている とき ヘルハウンドが たちどまり かなしそうに いいました。
「おれは ここで うまれたばかりの むすめと いっしょに くらしていた。 だけど、 いっしょに あらしから にげている ときに むすめを おいてきて しまった…」
ヘルハウンドが、 うなだれつつ くだもののもりを とおりすぎようと すると ラブが いいました。
「おばさん、 どうしたの? くだものが いっぱいあるよ。 とっていこうよ。」
「そんなもの たべなくても いいだろ。 それより、 ここを ぬけた さきには おいしい コボルドが たくさん いるんだ。」
おいしい コボルドと きいて、 ラブは こわくなり、 ヘルハウンドに たずねました。
「お、おばさん… コボルドじゃなかったの…? もしかして、 ヘルハウンドなの?」
「おいおい、おれは おまえと おなじ ヘルハウンドだろうが。」
「えっ! ぼ、ぼ、ぼくは コボルドだよね……………!?」
すると、 ヘルハウンドは ラブに とびかかった ときよりも おそろしい かおに なりました。
「なに ばかな ことを いうんだ! ゴツゴツしたからだ、 するどいキバ、 ギラリとひかるめ! おまえは りっぱな ヘルハウンドだ!」
「そ、そんな…! うそだ! ぼくが ヘルハウンドだなんて うそだ!」
「うるさい! じぶんの からだを みろ! おれと おなじ すがた だろうが! まるで、 おやこ みたいにな。」
ヘルハウンドに おどされて、 ラブは ちかくの いけに うつった じぶんの すがたを みてみる ことにしました。
いけに うつった ラブの すがたは おかあさん、 サニーと おなじ コボルドではなく、 ヘルハウンドと おなじ すがた でした。
「…ぼくは、ヘルハウンドなんか じゃない! コボルドの こだ!」
ラブは いかりまかせに つよく ほえました。
なきごえに ふるえあがった まものや どうぶつが いちもくさんに にげて いきます。
しかし、 ラブが いくら おこっても すがたは ヘルハウンドのままでした。
「ゴツゴツしたからだ、 するどいキバ、 ギラリとひかるめ。 おまえは だれが みても ヘルハウンドだ! じぶんでも わかった だろう!」
ヘルハウンドが ラブの となりに たって みせました。
ふたりの からだは ゴツゴツしていて、 くちのなかには するどいキバが ならび、 めも ギラリと あかく ひかっていて、 そっくりでした。
「グアォーッ!」
かなしくなった ラブは ヘルハウンドを はねとばして、 なきながら おかあさんの ところへ はしって いきました。
「グアォーッ!」
おおきな ほえごえに おかあさんと サニーが きづきました。
「おかあさん、 ラブが かえってきたよ。」
「でも、 なんだか おかしいね。」
ラブが なきながら いいました。
「ぼく… ほんとうに おかあさんのこなの? おねえちゃんの いもうとなの? ヘルハウンドのこ じゃないよね?」
おかあさんと サニーが ラブを つよく だきしめて いいました。
「だいじょうぶ。 ラブは おかあさんのこ。 あいしているよ。」
「わたしも、 ラブの おねえちゃんだからね。 なかないで。」
なくのをやめ、 ラブが ふりかえると ヘルハウンドが めを ギラギラ させて ちかづいて きています。
「ありがとう。 おかあさん。 おねえちゃん。 ぼくは…ラブだよね!」
「まって! ラブ! どこへ いくの!」
サニーが さけんでも ラブは ふりむきもせず ヘルハウンドに むかって いきました。
そして、 ガブリと ヘルハウンドの おなかに かみつきました。
するどいキバが ヘルハウンドに ささっていく ごとに ラブの めから あふれる なみだは おおくなって いきます。
「ど、どうして… おまえは おれと おなじ…」
「ぼくは… ラブだ。 コボルドの ラブなんだ…。」
ふと、 ヘルハウンドの かおを みると ヘルハウンドの ほうも ポロポロと ないていました。
ラブは、 かむのを やめ、 ヘルハウンドから はなれました。
「このおばさん、 もしかして ぼくの…」
そのばから にげだした ラブは あの ヘルハウンドの しょうたいを あたまの なかで さとり おおごえで なきました。
おかあさんと サニー、 そして ヘルハウンドに きこえる ほどに。
こうして そのひから、 ラブは おかあさんと サニーの いるところに もどることは ありませんでした。
それから またまた あるひ。
おかあさんは ごはんを とりに もりへ いきました。
おかあさんと ラブが であった あの もりです。
もりの ひらけた ばしょに いくと くだもの、 きのこ、 やさい、 おさかなが やまもりに つまれて いました。
「ラブ… もう おかあさんは あなたに あえないんだね。 だけど、 おかあさんは あなたを あいしている。 どこにいても いつまでも ずっとずっと あいしているからね。」
そういうと おかあさんは ラブが さいごに のこして くれた たべものの やまから くだものを ひとつ とって たべました。
「あれっ… からだが… あつい…」
おかあさんは、 とつぜん からだが あつくなるのを かんじました。
そのまま、 おかあさんは たおれて きを うしなって しまいます。
「…………おきて、 おかあさん。」
「ん…?」
しばらくして、 きがついた おかあさんが たとうとすると、 なんだか からだが へんな かんじがします。
「あっ! おかあさん! おきたんだ!」
「おじゃま してまーす。」
めを さました さきに いたのは にんげんの おんなのこ…の ような かっこうに なった サニーと ともだちの グリズリーでした。
「あなたたち いったい どうしたの?」
「んーとね! わかんない!」
「ごはんを たべていたら にんげんの おんなのこ みたいに なっちゃったんだな〜 おばさんも そうなってるよ?」
「えっ?」
おかあさんが、 ついこのあいだ、 にんげんの まちから ひろってきた かがみで じぶんを みると おなじように にんげんの おんなのこ みたいに なっています。
「あらあら… いったいどうして…」
おかあさんが とまどっていると、 なつかしい あのこえが してきました。
「おかあさん! おかあさんも おんなのこに なったんだね!」
しんじられないようすで、 おかあさんが ふりむくと、 そこには ラブが たっていました。
よこには じつは ラブの ほんとうの おかあさんだった ヘルハウンドが ニッコリわらって おおきな シャケを かついでいます。
なんだかんだで ふたりは なかなおり したようで、 かたをくんで いました。
もちろん ふたりとも おんなのこの すがたです。
「ラブ!? ラブなの!? となりのひとは…」
「うん。 ぼくの ほんとうの おかあさん。 ヘルハウンドだよ。」
「ええええええっ!?」
おかあさんは、 うれしくなると どうじに はげしく おどろきました。
あの おそろしい ヘルハウンドが うつくしくて えっちな おんなのこに なっていたのです。
「いやー みんな おんなのこに なってから というもの ごはんが たくさん ふえたし、 みんなで ころしあう ことが なくなって へいわになったよ。 あの ヘルハウンドも いいやつに なったし。」
「そうそう! ラブの ほんとうの おかあさん、 すごく つりが うまいんだから!」
ヘルハウンドの ことが だいきらいだった グリズリーも、 ヘルハウンドの ことを こわいと おもっていた サニーも すっかり ラブの ほんとうの おかあさんと なかよしに なっていました。
「はっはっは! そうだろう! おれは もりいちばんの りょうしだからな! おい おまえ、おれの むすめを そだててくれて ありがとうな! こいつは おれいだ!」
「あ、ありがとう…」
ラブの ほんとうの おかあさんは かついでいた シャケを おかあさんに わたしてきました。
おかあさんは、 いったい なにが どうなっているのか わからず、 ちょっとだけ ポカンと していましたが、 もうあえないはずの むすめが もどってきた うれしさが うわまわり、 ラブを だきしめます。
だきつかれた ラブも うれしそうに だきかえして きました。
「ラブ。 おかあさんは あなたを あいしている。いつまでも ずっとずっと あいしているからね。」
「ぼくもだよ おかあさん。」
こうして、 おかあさん、 サニー、 ラブ、 グリズリー、 ラブの ほんとうの おかあさん、そして もりの まものの みんなは ずっと なかよく くらすように なりました。
もりの たべものを たべた まものの みんなが おんなのこの ような すがたに なったのは あたらしく まおうさまに なった サキュバスの まほうの おかげ だったのですが、みんなは しるよしも ありませんでした。
めでたし。めでたし。
まおうさまが まものを みんな かわいいおんなのこに するまえの おおむかし。
ある もりの なかで、 コボルドの おかあさんが、 あかちゃんを みつけました。
「かわいそうに、 もし あの ヘルハウンドに みつかったら たべられてしまう。」
おかあさんは、 まっくろな けなみの あかちゃんを だきかかえて じぶんの いえに かえりました。
そして、 じぶんの あかちゃんと ひろってきた あかちゃんに、 おなじように おっぱいを すわせながら いいました。
「ふたりとも、ぶじに げんきに そだってね。」
おかあさんは まいにちまいにち ふたりに ごはんを あげたり だっこして あげたりして たいせつに そだてました。
そして、 あるひ。
おかあさんが、 ごはんをもって いえに かえると ふたりが おおきくなっている ことに きがつきました。
おかあさんは おおよろこび。
にひきは げんきに じゃれあって います。
しかし、 もりの なかで ひろった あかちゃんは あの らんぼうものの ヘルハウンドの あかちゃんだと おかあさんは きがついて しまいました。
そして よる、 おかあさんは もりまで くると、 すやすや ねむっている ヘルハウンドの あかちゃんを そこに おきました。
「ごめんね…」
そういって おかあさんは とぼとぼと かえろうと しました。
あかちゃんから とおざかれば とおざかるほど むねが くるしく なっていきます。
そのときでした。
「うぇーん!」
あかちゃんの なきごえを きいた おかあさんは、
「ごめんね…ごめんね…」
と なきながら あかちゃんを だっこしました。
「だいじな わたしの あかちゃん。 こんなことをして ごめんね…」
おかあさんは あかちゃんを だっこしたまま いえに かえりました。
そんなふたりを つきと ほしの ひかりが やさしく てらして いました。
それから、 おかあさんは ふたりを おなじように かわいがり なまえを つけました。
コボルドの こには、
「おひさまみたいに げんきで あかるい、 このこは サニー。」
そして ヘルハウンドの こには、
「とっても あまえんぼう。 だけど とっても やさしい。 このこは ラブ。」
と。
それから、 ふたりは コボルドの おかあさんが もってくる くだものや おさかなの ごはんを たべて おおきく なりました。
コボルドの サニーと ヘルハウンドの ラブの ふたりは、 なかよしです。
まるで、 ほんとうの しまいのように。
またあるひ、 サニーが ともだちの グリズリーと あったときの ことです。
「サニー、 こんなところで あそんでいたら あぶないよ。」
「どうして?」
「このちかくには ヘルハウンドが すんでいるからさ。」
「ヘルハウンドって だれ?」
サニーが きくと グリズリーは こたえました。
「ヘルハウンドは ずるくて らんぼうで よくばりな きらわれものだ。からだはゴツゴツしていて、 キバはするどくて めはギラリとひかってる。おそろしい まものさ。」
そのことを きいた サニーは こわくなって いえに かえりました。
「おかあさん… グリズリーさんが こわい ヘルハウンドのことを おしえて くれたんだけど… からだはゴツゴツ、 キバはするどくて めはギラリとひかってる。 まるで ラブのことみたい。 だけど わたしは ラブが ヘルハウンドだなんて おもわないな。」
しょんぼりとして サニーが いうと おかあさんは やさしく ふたりを だきしめまして いいました。
「ちがうよ。 ラブは サニーのいもうと。 どっちも わたしの こども。 おかあさんは ふたりとも だいすきだからね。」
ふたりの あたまを なでながら おかあさんは なみだを こらえて わらっています。
「うん! ぼくも、 おかあさんのこと だいすきだよ!」
ラブが、 むじゃきな えがおで いいました。
それから つきひは ながれて ふたりは もっと おおきくなりました。
サニーは おかあさんとおなじくらい、 ラブは おかあさんと サニーより すこし おおきな からだに なっています。
「きょうも ごはんを とってきて おねえちゃんと おかあさんを よろこばせて あげよう!」
いまでは ごはんを とりにいく しごとは ラブに まかされていました。
からだも おおきくて ちからの つよい ラブは おかあさんよりも おおく ごはんを もってかえれる からです。
「グォーッ!」
とつぜん めを らんらんと ひからせた ヘルハウンドが ラブに とびかかって きました。
でも、 ラブをみると…
「なんだ、 うまそうな においが したのにな。」
おいしそうな コボルドの においが したのに、 でてきたのは じぶんと おんなじ なかま。
ヘルハウンドは がっかりして かえろうと しました。
あまりに おそろしい ヘルハウンドの すがたに ラブは ビクビクしながら たずねます。
「おばさん、 だあれ?」
「フン、 なにを いっているんだ。 おれは おまえと おなじだろ。」
それを きいた ラブは ほっとしました。
めのまえに いる ヘルハウンドを コボルドだと おもったからです。
「おい、 おまえ こんなところで なにを しているんだ?」
ヘルハウンドに きかれると、ラブは うれしそうに いいました。
「ぼく、 これから おいしいごはんを とりに いくんだ。」
くだもの、 きのこ、 やさい、 おさかな… ラブは もりの ごちそうを おもいうかべながら いいました。
「そうか。 おれも おいしいものを とりに いこうと してたんだ。」
ヘルハウンドは、 グリズリー、 ゴブリン、 ケンタウロス、 そして コボルドたち もりの まものを おもいうかべて ニヤリと わらいました。
それを きいた ラブは ヘルハウンドも もりの ごちそうを とりに いくのだと おもいました。
「よし、 わかった。 おれに ついてこい!」
じぶんと おなじように、 ごちそうを とりにいこうと していた なかまに あって、 うれしく なった ヘルハウンドは ラブを つれていく ことに しました。
ふたりは のを こえ やまを こえ、 あるきまわりました。
それから、 くだものが いっぱいある もりを あるいている とき ヘルハウンドが たちどまり かなしそうに いいました。
「おれは ここで うまれたばかりの むすめと いっしょに くらしていた。 だけど、 いっしょに あらしから にげている ときに むすめを おいてきて しまった…」
ヘルハウンドが、 うなだれつつ くだもののもりを とおりすぎようと すると ラブが いいました。
「おばさん、 どうしたの? くだものが いっぱいあるよ。 とっていこうよ。」
「そんなもの たべなくても いいだろ。 それより、 ここを ぬけた さきには おいしい コボルドが たくさん いるんだ。」
おいしい コボルドと きいて、 ラブは こわくなり、 ヘルハウンドに たずねました。
「お、おばさん… コボルドじゃなかったの…? もしかして、 ヘルハウンドなの?」
「おいおい、おれは おまえと おなじ ヘルハウンドだろうが。」
「えっ! ぼ、ぼ、ぼくは コボルドだよね……………!?」
すると、 ヘルハウンドは ラブに とびかかった ときよりも おそろしい かおに なりました。
「なに ばかな ことを いうんだ! ゴツゴツしたからだ、 するどいキバ、 ギラリとひかるめ! おまえは りっぱな ヘルハウンドだ!」
「そ、そんな…! うそだ! ぼくが ヘルハウンドだなんて うそだ!」
「うるさい! じぶんの からだを みろ! おれと おなじ すがた だろうが! まるで、 おやこ みたいにな。」
ヘルハウンドに おどされて、 ラブは ちかくの いけに うつった じぶんの すがたを みてみる ことにしました。
いけに うつった ラブの すがたは おかあさん、 サニーと おなじ コボルドではなく、 ヘルハウンドと おなじ すがた でした。
「…ぼくは、ヘルハウンドなんか じゃない! コボルドの こだ!」
ラブは いかりまかせに つよく ほえました。
なきごえに ふるえあがった まものや どうぶつが いちもくさんに にげて いきます。
しかし、 ラブが いくら おこっても すがたは ヘルハウンドのままでした。
「ゴツゴツしたからだ、 するどいキバ、 ギラリとひかるめ。 おまえは だれが みても ヘルハウンドだ! じぶんでも わかった だろう!」
ヘルハウンドが ラブの となりに たって みせました。
ふたりの からだは ゴツゴツしていて、 くちのなかには するどいキバが ならび、 めも ギラリと あかく ひかっていて、 そっくりでした。
「グアォーッ!」
かなしくなった ラブは ヘルハウンドを はねとばして、 なきながら おかあさんの ところへ はしって いきました。
「グアォーッ!」
おおきな ほえごえに おかあさんと サニーが きづきました。
「おかあさん、 ラブが かえってきたよ。」
「でも、 なんだか おかしいね。」
ラブが なきながら いいました。
「ぼく… ほんとうに おかあさんのこなの? おねえちゃんの いもうとなの? ヘルハウンドのこ じゃないよね?」
おかあさんと サニーが ラブを つよく だきしめて いいました。
「だいじょうぶ。 ラブは おかあさんのこ。 あいしているよ。」
「わたしも、 ラブの おねえちゃんだからね。 なかないで。」
なくのをやめ、 ラブが ふりかえると ヘルハウンドが めを ギラギラ させて ちかづいて きています。
「ありがとう。 おかあさん。 おねえちゃん。 ぼくは…ラブだよね!」
「まって! ラブ! どこへ いくの!」
サニーが さけんでも ラブは ふりむきもせず ヘルハウンドに むかって いきました。
そして、 ガブリと ヘルハウンドの おなかに かみつきました。
するどいキバが ヘルハウンドに ささっていく ごとに ラブの めから あふれる なみだは おおくなって いきます。
「ど、どうして… おまえは おれと おなじ…」
「ぼくは… ラブだ。 コボルドの ラブなんだ…。」
ふと、 ヘルハウンドの かおを みると ヘルハウンドの ほうも ポロポロと ないていました。
ラブは、 かむのを やめ、 ヘルハウンドから はなれました。
「このおばさん、 もしかして ぼくの…」
そのばから にげだした ラブは あの ヘルハウンドの しょうたいを あたまの なかで さとり おおごえで なきました。
おかあさんと サニー、 そして ヘルハウンドに きこえる ほどに。
こうして そのひから、 ラブは おかあさんと サニーの いるところに もどることは ありませんでした。
それから またまた あるひ。
おかあさんは ごはんを とりに もりへ いきました。
おかあさんと ラブが であった あの もりです。
もりの ひらけた ばしょに いくと くだもの、 きのこ、 やさい、 おさかなが やまもりに つまれて いました。
「ラブ… もう おかあさんは あなたに あえないんだね。 だけど、 おかあさんは あなたを あいしている。 どこにいても いつまでも ずっとずっと あいしているからね。」
そういうと おかあさんは ラブが さいごに のこして くれた たべものの やまから くだものを ひとつ とって たべました。
「あれっ… からだが… あつい…」
おかあさんは、 とつぜん からだが あつくなるのを かんじました。
そのまま、 おかあさんは たおれて きを うしなって しまいます。
「…………おきて、 おかあさん。」
「ん…?」
しばらくして、 きがついた おかあさんが たとうとすると、 なんだか からだが へんな かんじがします。
「あっ! おかあさん! おきたんだ!」
「おじゃま してまーす。」
めを さました さきに いたのは にんげんの おんなのこ…の ような かっこうに なった サニーと ともだちの グリズリーでした。
「あなたたち いったい どうしたの?」
「んーとね! わかんない!」
「ごはんを たべていたら にんげんの おんなのこ みたいに なっちゃったんだな〜 おばさんも そうなってるよ?」
「えっ?」
おかあさんが、 ついこのあいだ、 にんげんの まちから ひろってきた かがみで じぶんを みると おなじように にんげんの おんなのこ みたいに なっています。
「あらあら… いったいどうして…」
おかあさんが とまどっていると、 なつかしい あのこえが してきました。
「おかあさん! おかあさんも おんなのこに なったんだね!」
しんじられないようすで、 おかあさんが ふりむくと、 そこには ラブが たっていました。
よこには じつは ラブの ほんとうの おかあさんだった ヘルハウンドが ニッコリわらって おおきな シャケを かついでいます。
なんだかんだで ふたりは なかなおり したようで、 かたをくんで いました。
もちろん ふたりとも おんなのこの すがたです。
「ラブ!? ラブなの!? となりのひとは…」
「うん。 ぼくの ほんとうの おかあさん。 ヘルハウンドだよ。」
「ええええええっ!?」
おかあさんは、 うれしくなると どうじに はげしく おどろきました。
あの おそろしい ヘルハウンドが うつくしくて えっちな おんなのこに なっていたのです。
「いやー みんな おんなのこに なってから というもの ごはんが たくさん ふえたし、 みんなで ころしあう ことが なくなって へいわになったよ。 あの ヘルハウンドも いいやつに なったし。」
「そうそう! ラブの ほんとうの おかあさん、 すごく つりが うまいんだから!」
ヘルハウンドの ことが だいきらいだった グリズリーも、 ヘルハウンドの ことを こわいと おもっていた サニーも すっかり ラブの ほんとうの おかあさんと なかよしに なっていました。
「はっはっは! そうだろう! おれは もりいちばんの りょうしだからな! おい おまえ、おれの むすめを そだててくれて ありがとうな! こいつは おれいだ!」
「あ、ありがとう…」
ラブの ほんとうの おかあさんは かついでいた シャケを おかあさんに わたしてきました。
おかあさんは、 いったい なにが どうなっているのか わからず、 ちょっとだけ ポカンと していましたが、 もうあえないはずの むすめが もどってきた うれしさが うわまわり、 ラブを だきしめます。
だきつかれた ラブも うれしそうに だきかえして きました。
「ラブ。 おかあさんは あなたを あいしている。いつまでも ずっとずっと あいしているからね。」
「ぼくもだよ おかあさん。」
こうして、 おかあさん、 サニー、 ラブ、 グリズリー、 ラブの ほんとうの おかあさん、そして もりの まものの みんなは ずっと なかよく くらすように なりました。
もりの たべものを たべた まものの みんなが おんなのこの ような すがたに なったのは あたらしく まおうさまに なった サキュバスの まほうの おかげ だったのですが、みんなは しるよしも ありませんでした。
めでたし。めでたし。
21/03/09 00:19更新 / 消毒マンドリル