Bossbattle:05 未知なる強者達
〜序章 演説 前編〜
魔王の魔力にですら完全に侵されず、「王者」の名を冠して地上に君臨するドラゴン。
幼い姿に似合わず、永い時を生きることで得た多種多様な知恵と魔力で相手を圧倒するバフォメット。
海域一帯を根城とし、触手を振るうだけでどんなに巨大な船ですら沈めてしまうクラーケン。
王者に相応しい気品と実力でアンデッドの頂点に君臨するワイト。
強力な魔物の一体であるファラオですら毒牙に掛け、国まで乗っ取ってしまうアポピス。
図鑑世界に限らず、強大な力を持つ連中はどこの世界に居るもんだ。
それが人間だろーが、動物だろーが、魔物だろーが、他とは違う雰囲気を醸し出していることから、恐れ敬われ、その存在を認められている。
そいつ等に対抗するべく、人々や他の魔物達は日々力を付けていて、その甲斐もあり、時代が進むにつれて何とか彼らと対等に渡り合えるようになっていた。
各地のギルドじゃ続々と、「強者達」を撃退することをターゲットとした依頼は増え続けていやがる。
かつての「弱者達」が「強者達」に匹敵する力を身に着けていることの証と言って良いな。
だが……まだまだ甘い。
フツーによく知られている「強者達」なんざぁ、この広大な世界ではちっぽけな存在だ!
奴等は確かに強い!限りなく、「限界」に近い程…
しかぁーし!「限界」そのものは突破していない!
この「限界」を突破してブチ抜いてこそ、広大な世界に名を轟かせる「真の強者」と言えるんだ!
人よ、魔物よ!強くなれ!
無限の可能性を秘めたお前達に、不可能なんてもんはねぇ!
ごちゃごちゃ考えて勝手に不安になるんじゃねぇ!
くだらねぇ屁理屈をこねて自分自身を否定するんじゃねぇ!
今のてめぇ自身の力を全力でぶつけてこい!
てめぇを縛りつけている鎖を引き千切り、てめぇを閉じ込めている殻を粉々に砕け!
その暁には、一生大切にできるかけがえのないモンを得ることができるだろう!
さぁ行け!希望に満ちた勇士達よ!
てめぇらと同じくらいに、可能性と魅力が溢れる魔物の謎を解き明かしてやろうぜ!
「真の強者」にも負けねぇガッツを持って、調査へ出発だ!
〜魔物調査機構 最高責任者 ファフ・フラムベルジュの新規加入調査員に対する演説〜
〜第一章 骨峰(コツホウ)〜
イメージBGM モンスターハンターワールド
陸珊瑚の台地戦闘BGM
陸珊瑚に舞う脅威の翼
https://www.youtube.com/watch?v=0zILCrfz364
牙の様な骨がうず高く積み上げられて構成されている奇界、「グンファ牙城」。
ここは10層からなる階層で構成されており、上に行けば行くほど強い魔物や危険な野生動物が住んでいる。
最近、新たな階層、最上層の「骨峰」と最下層の「奈落」の存在が、そこに棲む魔物の口から明らかになった。
そこには、魔物や野生動物は一切生息しておらず、「主」と呼ばれる強大な存在の魔物がただ一体存在しているだけである。
この二つの環境は、先述の通り脅威となる魔物や野生動物が侵入してくることがない為、他の階層よりも安全に調査が進められているが、未だに「主」の姿を発見した者はいない。
ここで話を変えるが、最初のこの話の舞台となるのは骨峰だ。
グンファ牙城に住む魔物達からは「天の口」と呼ばれている。
ここはその最上階…というよりは屋上に位置し、湿っぽい牙城の内部とは違ってカラリと乾いた気候である。
高地にあることもあり、年中涼しい環境で過ごしやすい。
もう一つ、この骨峰の特徴的なものとして、大地の縁に生えた六本の巨大な牙の様な骨の柱だ。
雄大にそそり立つそれは、そのまま伸びていって天を貫いてしまいそうな迫力がある。
そして、この台地をよく見てみると、縁に生えている巨大な六本だけではなく、様々な所に大小様々な骨柱が点在している。
これらの骨柱は自然に形成されたものではない。
「生やされた」のだ。
軽快な足音を立て、この光景を作り上げた者…骨峰の「主」が、六本の骨柱の内の一本から飛び降りた。
五,六階建てのビルに相当する高さから、難なく着地して見せたそれのシルエットは、ケンタウロス族そのものだ。
しかし、体色は全体的に黄味がかった白で、額にはユニコーンよりも長く鋭い一本角が生え、眼には不気味に燃える紫色のオーラが宿り、人間の部分の腕と馬の胴体全体は骨の様な甲殻で覆われている。
「……。」
骨峰の主は、点々と生えている細い骨の柱の内の一つを軽く折り取り、ゴリゴリと音を立てて食べた。
そして、数十本ほど食べ終えると、満足そうな表情で足を畳み、そこで惰眠を貪ろうとする。
「ギャイン!ギャイン!ギャイン!」
そこへ、ハイエナに似た肉食動物、ヒエヴェンが現れた。
どうやら下の層から迷い込んできたらしい。
普通のヒエヴェンはシロクマ程の大きさだが、この個体はアフリカ象ほどの大きさがある。
空腹に加え、他の個体との闘争を終えてきたばかりのコイツはかなり気が立っており、その憤りをぶつけるかのように目の前の得体の知れない生物に激しく威嚇している。
ヒエヴェン(の心の中のセリフ)「てめぇ!スカしたツラしてんじゃねぇ!ブチ殺すぞコラァ!」
グンファの生態系の頂点に立つヒエヴェン、それもとてつもなく屈強な個体に吠えられようものなら、並大抵の生物や魔物は恐れおののいて逃げ出してしまうだろう。
しかし、骨峰の主はまったく意に介さず、立ち上がって鬱陶しそうにヒエヴェンを逆に睨む。
「……。」
骨峰の主の角が、目に宿るオーラと同じ色の閃光を放った次の瞬間!
地面から骨柱が次々とヒエヴェンに向かって一直線に生えてゆき、目の前に来ると、ヒエヴェンの体高よりも高くて太い柱の塊が、骨峰を揺るがす轟音を立てて地面を突き破って現れた!
「キャインキャイーンッ!」
ヒエヴェン(の心の中)「ひぃぃぃぃーーーっ!すんませんでした−−−−っ!」
超常現象を見せつけられたヒエヴェンは、たまらずに悲鳴を上げて逃げ出した。
この骨峰の主は、住処を構築したり外敵を追い払ったり攻撃したりするために、魔力で地面から骨柱を生やす習性がある。
この骨柱は大型の野生動物でも一撃で串刺しに、魔物や人間なら当たった時の衝撃で気絶する程の威力を持つ。
厄介なことに、骨柱が生える予兆こそは振動で感じ取れるものの、どこから現れるか全く分からない。
一つ幸いなのは、技の使い手である骨峰の主は温厚で争いを好まない為、怒らせるような真似さえしなければ、何もしてこないことだ。
ちなみに、あの骨柱には、ホルスタウロスのミルクと同等かそれ以上の栄養素が含まれ、先程の様に骨峰の主がおやつ代わりに食べていることがよくある。
古くなって食べられなくなったものは捨てられ、グンファ牙城の土壌の栄養源となっている。
「……。」
やれやれ、こんどこそ眠れるわい。
骨峰の主は、気怠そうに大欠伸を上げ、体の力を抜いて再び地に伏し、瞼を閉じて眠りについた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜第二章 奈落〜
イメージBGM:モンスターハンターワールド
瘴気の谷戦闘BGM
禁断の地へと誘う獣らの囁き
https://www.youtube.com/watch?v=dYJUe-Iwb6Q
グンファ牙城の最下層よりも下…地下にある中規模の空間、奈落。
その上に住まう魔物達からは「地の口」と呼ばれており、地上よりも多くの骨が転がっている。
長い年月が経っている痕跡は見て感じ取れるものの、まったく風化は進んでいる気配はない。
それもそのはず。その転がっている骨は全て七色に輝く「宝石」と化しているのだから。
「兄貴ー!大漁でヤンスー!」
「これだけあるとやる気が出るでガス!」
「な?オレの言ったとおりだろ?」
三人組の男が、宝石になった骨の欠片をしきりに袋に詰めていた。
兄貴と呼ばれた右手をフックの義手にしている男、マジカは二人の子分が目を輝かせている姿を見て得意げになる。
「本当ガス!こんなところにお宝が眠っていたとは!」
「こんなの人生で初めてでヤンスー!」
細マッチョの細マッチョのタンクトップを着た男、ソウカイと頭に紫色のバンダナを付けた眼帯の男、デスッテは狂喜していた。
「生れてはじめて、兄貴が兄貴らしいところを披露したでヤンスー!」
「るせぇっ!やかましい!……とまぁともかくこれで、お前らに借りた飲み代も返せるって訳だ!しかも!おつり付きでな!」
「ウホホー!これでオラも故郷の妹に錦を送れるでガス〜!」
「アッシはついに…カノジョにあげる指輪が買えるでヤンスー!」
三人がそれぞれの目的を達成できると、ウハウハになっている所へ、一つの影が現れる。
「オイ、そこの雑魚共。そいつを俺に寄越しな。」
「あん?」
髪を逆立てたガラの悪い若者が、三人の前にふてぶてしく現れた。
剣、鎧、盾…装備全てが上等なもので、三人組の粗末なものとは比べ物にならない。
「なんだ?コノヤロウ?ふざけた格好しやがって…」
「兄貴!不味いでヤンス!コイツ、Aランク冒険者でヤンスよ!」
「何ィ?」
デスッテの言う通り、この若者はAランクの冒険者…つまり上位のランクに位置する冒険者だ。
こんなナリの三人組も皆一人前と言えるCランクだが、やはり格の差がある。
下手に逆らおうものなら、最悪命が無い。
「俺とやろうってのか?オッサン共。」
「…わかった。俺は強いヤツとは戦わねぇ主義なんだ。好きにしな。おい、お前ら。袋を出せ。」
「分かったでガス、兄貴…」
「了解でヤンス…」
せっかく手に入れたお宝をむざむざと手放してしまうことに、ソウカイとデスッテは悔しさを堪え、若者に革袋を差し出した。
「Cランクの雑魚にしては、ずいぶんと物分かりが言いな。ありがたく、残りのもんは頂戴しよう。」
露骨に馬鹿にする様に、両手に革袋を受け取った若者はほくそ微笑み、奥へと歩いて行った。
「無くなっちゃったでガスね…」
「そうでヤンスな…」
「こんなもん、命に代えりゃ安い。それに、あいつは欲の皮がかなり突っ張ってたようだ。この調子だとどんどん奥へ行ってしまうな。」
「それって…どういうことでヤンスか?」
「つまり…アイツの目を気にしないで、またブツが採れるって事だ!ほらよ!」
マジカはズボンの中から畳まれた革袋を取り出す。
普段はドジでマヌケな兄貴の見せた周到さに、二人の子分は思わず感激せざるを得なかった。
「流石でヤンスー!兄貴ー!」
「オラ、やっぱし兄貴の子分で良かったでガス!」
「ガハハハハ!言ってくれんじゃねぇか!うし!今度こそ稼ぐぜぇ!」
「合点でヤンス(ガス)!」
子分に対する貸しを返す為、故郷の妹に錦を送る為、長年付き合った彼女に婚約指輪を買う為…三人はそれぞれの思いを胸に、せっせとブツを袋に詰めていくのであった。
一方、その頃…
「クソ!一体何なんだあのバケモノは!」
若者は奈落の奥深くで逃げ惑っていた。
大切な宝石の荷物を抱えて。
そして、その大切な「宝石」の荷物で自分が痛い目を見るとも、つゆ知らずに。
「うわっ!」
逃げ惑う若者に、太い触手が振り下ろされた。
それは一見するとクラーケンのものだが、普通のクラーケンの物より太く、宝石と同じ色の甲殻が表側に張り付き、甲殻の無い皮膚の部分は、鈍い銀色の光を放っている。
その触手の主…もとい奈落の「主」の見た目は、ほぼクラーケンそのものだが、クラーケンとは違い、顔つきは険しく、触手だけではなく、胸と腕にも甲殻が貼りついている。
「私の住処を荒らす不届き者め…」
奈落の主は、住処を荒らす侵入者にかなりご立腹していた。
彼女は奈落の環境に適応したクラーケンの変種で、まだ一度も存在が確認されたこともなく、仮名すら付いていない。
そのような非常にレアな存在をお目にかかれた若者は、果たして運が良いのか悪いのか…どちらかと言えば悪いと言って良いだろう。
「……!」
奈落の主が、二本の長い触腕を振り上げ激しく震わせ出した。
すると、とてつもなく激しい音が鳴り、辺り一面をビリビリと振動させる。
特に、虹色の宝石はかなり激しく震えだし、激しい反響音を放つ。
実は、この宝石…七色の骨は奈落の主の分泌する体液によって変質したもので、どんなに長い時が経っても風化しなくなるだけではなく、性質も骨から石
……特に水晶の物に近くなり、振動をよく伝えるのだ。
そんなシロモノを多く抱え込んでいる若者は……
「ぎゃああああああああ〜〜〜〜〜っ!」
音の衝撃で遠くへ吹き飛ばされていった。
ご丁寧にも、破れた革袋から零れ落ちた宝石が、キラキラとしたエフェクトとなり、吹き飛ばされる軌跡を鮮やかに彩る。
ドボォンッ。
哀れな名も無き不届き者は、頭から真っ逆さまに近くの地底湖に落ちた。
気絶して動かなくなっている彼の元へ、続々と地底湖に棲んでいる魔物娘達が群がり、あっという間にハーレム団子と化す。
「…運の良いヤツだ。末永く…お幸せにな。」
奈落の主は、皮肉のこもった微笑を若者に向けた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜第三章 灼炎の金翼〜
イメージBGM:モンスターハンター
テオ・テスカトル戦闘BGM
https://www.youtube.com/watch?v=9y-Nn_f2dX4
「クッ!皆!持ちこたえろ!」
「フフフフ……」
明緑魔界のとある国の一角。
あるファラオの国に侵攻してきたアポピスを迎え撃つべく、王国の軍が奮闘していた。
しかし、実力の差は歴然で、半数以上の者が毒牙に倒れ、残る部隊も苦戦を強いられている。
「貴様などにこの国は渡さん!」
いきり立ったアヌビスの将校がアポピスの背後に剣を振りかぶるが、尻尾で弾き飛ばされた。
「無駄な抵抗はよして、大人しく降伏しなさい。もう、実力の差は見えているのだから。」
弾き飛ばしたアヌビスの将校を尻尾で絡めとり、わざとらしく軍隊の前で締め上げるアポピス。
彼女と相対する兵士達の間に緊迫した空気が流れる。
「あらあら。怖気ついちゃったのかしら?まぁ良いわ。すぐに皆倒してあげ……」
「おい、俺も混ぜろよ。」
「……!?」
「……!?」
軍隊の者でも、アポピスのものでもない低い声がこの場に発せられた。
声の主は、突然の事態に驚いている一同の想いも意に介さず、対立している両者の中に割って入った。
「な、なんなの……?あんたは……?」
王国軍と、アポピスが驚くのも無理は無い。
声の主は今まで見たことが無いような魔物だったからだ。
それは髪、皮膚、眼、翼、脚…全てが金色に光り輝いているハーピーで、背はこの軍の中でも体格の良い将軍と同じくらいある。
頭にはトサカの様に発達した冠羽が、尾羽はクジャクの様に長いものが三本あり、翼には鋭い爪を持った四本の指が生えていた。
さらに、彼女の特異な点はそれだけではない。
「うっ…なんて熱さなんだ…」
その場にいた全員が感じ取れるほど、凄まじい熱気を発しているのだ。
この地に生息しているイグニスやサラマンダーも熱を放ち、その場の空気の温めることはあるが、このハーピーのように周囲を焼き尽くさん勢いの物を放つことは到底できない。
「最高だよなぁ?戦いってヤツはよぉ?なんせ、死ぬ気で命のやり取りをするもんだから、生きてるって実感が持てるからな!おい、そこのお前!俺と勝負しろ!」
ハーピーが声を張り上げ、アポピスを指差した。
指名された彼女は一瞬困惑するものの、持ち前の強者のガッツで冷静に立て直した。
「…ふーん、言ってくれるじゃない。この弱い王国軍の奴等にも飽き飽きしていた所よ!たっぷり可愛がってあげるわッ!」
アポピスは体に力を込め、風を切る音を立てる程素早い動きでハーピーに襲い掛かる。
自分にすら見せなかった圧倒的なスピードに、将軍と王国軍の軍人達は口を大きく開けて驚くが、この後、彼らの口をさらに大きく広げる出来事が起こった。
「ぐぶうっ!?」
カギヅメの生えた翼から繰り出されるパンチが、アポピスを上回る速さで繰り出された。
それを腹にモロに喰らったアポピスは地面に仰向けに倒れる。
「なっ!?ア、アポピスを一撃で……!?」
将軍と軍人達は、目の前で起きている出来事が信じられなかった。
自分達が束になってかかり、渾身の一撃を何発もぶつけても全く平然としているアポピスが、たった一発の拳で地面に叩き伏せられてしまったのだから。
「な、中々やるじゃない……だけど本番はまだまだこれか…」
なんとか立ち上がったアポピスは、ハーピーに攻撃を加えようとするが、自分の腹にある違和感を覚えた。
「なんか…腹が…焼け付くように熱い……」
ふと腹を見てみると、そこには煙を上げる赤い痣が浮かび、付けていた装飾品は焼け落ちて無くなってしまっていた。
「面白いわねぇ!こんどこそ、一撃をお見舞いしてやるからッ!」
続いてアポピスは、シュルリとハーピーの背後に回り込み、彼女を締め付け、動けなくなったところに毒の牙で噛みつくという戦法に出た。
ハーピーは一瞬振り向くが、アポピスは彼女が体を動かす前に蛇体を巻きつけ、完全に拘束する。
「これで、今度こそ貴方もお終いねぇ。たっぷり、毒を注ぎんであげるから!シャアッ!」
アポピスは大きく口を開け、ハーピーの喉に喰らいついた!
「……!」
噛みつきが決まったのを見て、王国軍の誰しもがアポピスの勝利を確信した。
アポピスの毒はとても強力な物で、注ぎ込まれてしまえば最後。
ファラオのような強大な力を持つ魔物でさえ侵され、アポピスの忠実な僕と化してしまう。
さらに、毒が消えることはなく一生体内に残り続けるという恐ろしいものだ。
「…………。」
噛みついているアポピスだったが、何やら様子がおかしい。
体中が震えだし、全身から汗が滝のように噴き出し始めた。
そして、体から白い煙が立ち上り始め、ついに力なくその場に崩れ落ちてしまった。
ハーピーの体の部分に触れていた部分は、真っ赤な跡ができ、当のアポピスは体を痙攣させ、全身に流れる熱い快楽に悶えている。
「そ、そんな馬鹿な……!?」
アポピスとその毒の恐ろしさをよく知る王国軍は驚愕した。
毒が効かないことも驚きだが、それどころか一つも攻撃することなく返り討ちにしたこのハーピーの強さには、もはや脱帽するしかない。
「覇気の割には呆気なかったなぁー…こいつらはこんなのに手こずってたのか…」
つまらなそうに、ハーピーはその場でイっているアポピスを見下ろし、王国軍を見た。
「お前ら、こんな奴に手こずってるようじゃまだまだだぜ。」
ハーピーが将軍の前に来て、尾羽の一本をむしり取り、彼に握らせた。
彼女が放っていた暴力的な熱さはなく、優しい温かさが将軍の手に伝わる。
「俺の尾を粉にすると、どんな毒でも治す薬になる。だから、それを毒にやられたお前の部下達に飲ませてやれ。そして、一から鍛え直してやりな。」
言動こそは粗暴であるものの、堂々とした彼女の立ち振る舞いに将軍はただただ圧倒されていた。
自分の人生史上、ファラオ以外にこんなに神々しい魔物など見たことが無い。
「俺はまたいつか、ここに来る。その時は、お前らがどれだけ強くなったか見極めさせてもらうぜ。それじゃ、あばよ。」
そう告げると、ハーピーは翼を広げ、雲一つない青空に向かって飛び去って行った。
この後、将軍はハーピーに言われたとおりに彼女の尾羽を粉にして、毒に侵された兵士達に飲ませたところ、たちまち毒が消え失せ、前よりも更に闘気に溢れる優秀な戦士となった。
その後、彼が主のファラオにこの事を報告したところ、ファラオは大変感激し、以降あの金色のハーピーを戦いの神として崇めるようになり、国ではあのハーピーを祭る神殿が幾つも建てられた。
あのハーピーを祭るようになったこの国は、以前よりも大変栄え、砂漠の国の中でも有数の軍国として繁栄を遂げたという…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜終章 演説 後編〜
はー……疲れたー……こういう時は帰って一杯やりてぇー…
その後はクラブにでも行って良い姉ちゃんひっかけてくるか、カジノに行ってバクチでもするか…いや、ソープに行って〇〇〇して×××して△△△もすんのも良いな。
うし!決めた!今日は帰ったら、クラブもカジノもソープも行くぞ!
思い切り豪遊してやるとすっか!人生一度きりなんだから、思いっきり遊ばねぇと損だしよ!
んあ?どうしたんだ?そこのスタッフ君。
何?マイクの電源切り忘れてたから、今喋ったことが筒抜けだぁ?
んな小さい事なんて気にすんなってー!
人間、ちょっとやそっとのことでビビらない肝っ玉を持ってた方が良いんだ!
そう!「真の強者達」みてぇによ!
魔王の魔力にですら完全に侵されず、「王者」の名を冠して地上に君臨するドラゴン。
幼い姿に似合わず、永い時を生きることで得た多種多様な知恵と魔力で相手を圧倒するバフォメット。
海域一帯を根城とし、触手を振るうだけでどんなに巨大な船ですら沈めてしまうクラーケン。
王者に相応しい気品と実力でアンデッドの頂点に君臨するワイト。
強力な魔物の一体であるファラオですら毒牙に掛け、国まで乗っ取ってしまうアポピス。
図鑑世界に限らず、強大な力を持つ連中はどこの世界に居るもんだ。
それが人間だろーが、動物だろーが、魔物だろーが、他とは違う雰囲気を醸し出していることから、恐れ敬われ、その存在を認められている。
そいつ等に対抗するべく、人々や他の魔物達は日々力を付けていて、その甲斐もあり、時代が進むにつれて何とか彼らと対等に渡り合えるようになっていた。
各地のギルドじゃ続々と、「強者達」を撃退することをターゲットとした依頼は増え続けていやがる。
かつての「弱者達」が「強者達」に匹敵する力を身に着けていることの証と言って良いな。
だが……まだまだ甘い。
フツーによく知られている「強者達」なんざぁ、この広大な世界ではちっぽけな存在だ!
奴等は確かに強い!限りなく、「限界」に近い程…
しかぁーし!「限界」そのものは突破していない!
この「限界」を突破してブチ抜いてこそ、広大な世界に名を轟かせる「真の強者」と言えるんだ!
人よ、魔物よ!強くなれ!
無限の可能性を秘めたお前達に、不可能なんてもんはねぇ!
ごちゃごちゃ考えて勝手に不安になるんじゃねぇ!
くだらねぇ屁理屈をこねて自分自身を否定するんじゃねぇ!
今のてめぇ自身の力を全力でぶつけてこい!
てめぇを縛りつけている鎖を引き千切り、てめぇを閉じ込めている殻を粉々に砕け!
その暁には、一生大切にできるかけがえのないモンを得ることができるだろう!
さぁ行け!希望に満ちた勇士達よ!
てめぇらと同じくらいに、可能性と魅力が溢れる魔物の謎を解き明かしてやろうぜ!
「真の強者」にも負けねぇガッツを持って、調査へ出発だ!
〜魔物調査機構 最高責任者 ファフ・フラムベルジュの新規加入調査員に対する演説〜
〜第一章 骨峰(コツホウ)〜
イメージBGM モンスターハンターワールド
陸珊瑚の台地戦闘BGM
陸珊瑚に舞う脅威の翼
https://www.youtube.com/watch?v=0zILCrfz364
牙の様な骨がうず高く積み上げられて構成されている奇界、「グンファ牙城」。
ここは10層からなる階層で構成されており、上に行けば行くほど強い魔物や危険な野生動物が住んでいる。
最近、新たな階層、最上層の「骨峰」と最下層の「奈落」の存在が、そこに棲む魔物の口から明らかになった。
そこには、魔物や野生動物は一切生息しておらず、「主」と呼ばれる強大な存在の魔物がただ一体存在しているだけである。
この二つの環境は、先述の通り脅威となる魔物や野生動物が侵入してくることがない為、他の階層よりも安全に調査が進められているが、未だに「主」の姿を発見した者はいない。
ここで話を変えるが、最初のこの話の舞台となるのは骨峰だ。
グンファ牙城に住む魔物達からは「天の口」と呼ばれている。
ここはその最上階…というよりは屋上に位置し、湿っぽい牙城の内部とは違ってカラリと乾いた気候である。
高地にあることもあり、年中涼しい環境で過ごしやすい。
もう一つ、この骨峰の特徴的なものとして、大地の縁に生えた六本の巨大な牙の様な骨の柱だ。
雄大にそそり立つそれは、そのまま伸びていって天を貫いてしまいそうな迫力がある。
そして、この台地をよく見てみると、縁に生えている巨大な六本だけではなく、様々な所に大小様々な骨柱が点在している。
これらの骨柱は自然に形成されたものではない。
「生やされた」のだ。
軽快な足音を立て、この光景を作り上げた者…骨峰の「主」が、六本の骨柱の内の一本から飛び降りた。
五,六階建てのビルに相当する高さから、難なく着地して見せたそれのシルエットは、ケンタウロス族そのものだ。
しかし、体色は全体的に黄味がかった白で、額にはユニコーンよりも長く鋭い一本角が生え、眼には不気味に燃える紫色のオーラが宿り、人間の部分の腕と馬の胴体全体は骨の様な甲殻で覆われている。
「……。」
骨峰の主は、点々と生えている細い骨の柱の内の一つを軽く折り取り、ゴリゴリと音を立てて食べた。
そして、数十本ほど食べ終えると、満足そうな表情で足を畳み、そこで惰眠を貪ろうとする。
「ギャイン!ギャイン!ギャイン!」
そこへ、ハイエナに似た肉食動物、ヒエヴェンが現れた。
どうやら下の層から迷い込んできたらしい。
普通のヒエヴェンはシロクマ程の大きさだが、この個体はアフリカ象ほどの大きさがある。
空腹に加え、他の個体との闘争を終えてきたばかりのコイツはかなり気が立っており、その憤りをぶつけるかのように目の前の得体の知れない生物に激しく威嚇している。
ヒエヴェン(の心の中のセリフ)「てめぇ!スカしたツラしてんじゃねぇ!ブチ殺すぞコラァ!」
グンファの生態系の頂点に立つヒエヴェン、それもとてつもなく屈強な個体に吠えられようものなら、並大抵の生物や魔物は恐れおののいて逃げ出してしまうだろう。
しかし、骨峰の主はまったく意に介さず、立ち上がって鬱陶しそうにヒエヴェンを逆に睨む。
「……。」
骨峰の主の角が、目に宿るオーラと同じ色の閃光を放った次の瞬間!
地面から骨柱が次々とヒエヴェンに向かって一直線に生えてゆき、目の前に来ると、ヒエヴェンの体高よりも高くて太い柱の塊が、骨峰を揺るがす轟音を立てて地面を突き破って現れた!
「キャインキャイーンッ!」
ヒエヴェン(の心の中)「ひぃぃぃぃーーーっ!すんませんでした−−−−っ!」
超常現象を見せつけられたヒエヴェンは、たまらずに悲鳴を上げて逃げ出した。
この骨峰の主は、住処を構築したり外敵を追い払ったり攻撃したりするために、魔力で地面から骨柱を生やす習性がある。
この骨柱は大型の野生動物でも一撃で串刺しに、魔物や人間なら当たった時の衝撃で気絶する程の威力を持つ。
厄介なことに、骨柱が生える予兆こそは振動で感じ取れるものの、どこから現れるか全く分からない。
一つ幸いなのは、技の使い手である骨峰の主は温厚で争いを好まない為、怒らせるような真似さえしなければ、何もしてこないことだ。
ちなみに、あの骨柱には、ホルスタウロスのミルクと同等かそれ以上の栄養素が含まれ、先程の様に骨峰の主がおやつ代わりに食べていることがよくある。
古くなって食べられなくなったものは捨てられ、グンファ牙城の土壌の栄養源となっている。
「……。」
やれやれ、こんどこそ眠れるわい。
骨峰の主は、気怠そうに大欠伸を上げ、体の力を抜いて再び地に伏し、瞼を閉じて眠りについた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜第二章 奈落〜
イメージBGM:モンスターハンターワールド
瘴気の谷戦闘BGM
禁断の地へと誘う獣らの囁き
https://www.youtube.com/watch?v=dYJUe-Iwb6Q
グンファ牙城の最下層よりも下…地下にある中規模の空間、奈落。
その上に住まう魔物達からは「地の口」と呼ばれており、地上よりも多くの骨が転がっている。
長い年月が経っている痕跡は見て感じ取れるものの、まったく風化は進んでいる気配はない。
それもそのはず。その転がっている骨は全て七色に輝く「宝石」と化しているのだから。
「兄貴ー!大漁でヤンスー!」
「これだけあるとやる気が出るでガス!」
「な?オレの言ったとおりだろ?」
三人組の男が、宝石になった骨の欠片をしきりに袋に詰めていた。
兄貴と呼ばれた右手をフックの義手にしている男、マジカは二人の子分が目を輝かせている姿を見て得意げになる。
「本当ガス!こんなところにお宝が眠っていたとは!」
「こんなの人生で初めてでヤンスー!」
細マッチョの細マッチョのタンクトップを着た男、ソウカイと頭に紫色のバンダナを付けた眼帯の男、デスッテは狂喜していた。
「生れてはじめて、兄貴が兄貴らしいところを披露したでヤンスー!」
「るせぇっ!やかましい!……とまぁともかくこれで、お前らに借りた飲み代も返せるって訳だ!しかも!おつり付きでな!」
「ウホホー!これでオラも故郷の妹に錦を送れるでガス〜!」
「アッシはついに…カノジョにあげる指輪が買えるでヤンスー!」
三人がそれぞれの目的を達成できると、ウハウハになっている所へ、一つの影が現れる。
「オイ、そこの雑魚共。そいつを俺に寄越しな。」
「あん?」
髪を逆立てたガラの悪い若者が、三人の前にふてぶてしく現れた。
剣、鎧、盾…装備全てが上等なもので、三人組の粗末なものとは比べ物にならない。
「なんだ?コノヤロウ?ふざけた格好しやがって…」
「兄貴!不味いでヤンス!コイツ、Aランク冒険者でヤンスよ!」
「何ィ?」
デスッテの言う通り、この若者はAランクの冒険者…つまり上位のランクに位置する冒険者だ。
こんなナリの三人組も皆一人前と言えるCランクだが、やはり格の差がある。
下手に逆らおうものなら、最悪命が無い。
「俺とやろうってのか?オッサン共。」
「…わかった。俺は強いヤツとは戦わねぇ主義なんだ。好きにしな。おい、お前ら。袋を出せ。」
「分かったでガス、兄貴…」
「了解でヤンス…」
せっかく手に入れたお宝をむざむざと手放してしまうことに、ソウカイとデスッテは悔しさを堪え、若者に革袋を差し出した。
「Cランクの雑魚にしては、ずいぶんと物分かりが言いな。ありがたく、残りのもんは頂戴しよう。」
露骨に馬鹿にする様に、両手に革袋を受け取った若者はほくそ微笑み、奥へと歩いて行った。
「無くなっちゃったでガスね…」
「そうでヤンスな…」
「こんなもん、命に代えりゃ安い。それに、あいつは欲の皮がかなり突っ張ってたようだ。この調子だとどんどん奥へ行ってしまうな。」
「それって…どういうことでヤンスか?」
「つまり…アイツの目を気にしないで、またブツが採れるって事だ!ほらよ!」
マジカはズボンの中から畳まれた革袋を取り出す。
普段はドジでマヌケな兄貴の見せた周到さに、二人の子分は思わず感激せざるを得なかった。
「流石でヤンスー!兄貴ー!」
「オラ、やっぱし兄貴の子分で良かったでガス!」
「ガハハハハ!言ってくれんじゃねぇか!うし!今度こそ稼ぐぜぇ!」
「合点でヤンス(ガス)!」
子分に対する貸しを返す為、故郷の妹に錦を送る為、長年付き合った彼女に婚約指輪を買う為…三人はそれぞれの思いを胸に、せっせとブツを袋に詰めていくのであった。
一方、その頃…
「クソ!一体何なんだあのバケモノは!」
若者は奈落の奥深くで逃げ惑っていた。
大切な宝石の荷物を抱えて。
そして、その大切な「宝石」の荷物で自分が痛い目を見るとも、つゆ知らずに。
「うわっ!」
逃げ惑う若者に、太い触手が振り下ろされた。
それは一見するとクラーケンのものだが、普通のクラーケンの物より太く、宝石と同じ色の甲殻が表側に張り付き、甲殻の無い皮膚の部分は、鈍い銀色の光を放っている。
その触手の主…もとい奈落の「主」の見た目は、ほぼクラーケンそのものだが、クラーケンとは違い、顔つきは険しく、触手だけではなく、胸と腕にも甲殻が貼りついている。
「私の住処を荒らす不届き者め…」
奈落の主は、住処を荒らす侵入者にかなりご立腹していた。
彼女は奈落の環境に適応したクラーケンの変種で、まだ一度も存在が確認されたこともなく、仮名すら付いていない。
そのような非常にレアな存在をお目にかかれた若者は、果たして運が良いのか悪いのか…どちらかと言えば悪いと言って良いだろう。
「……!」
奈落の主が、二本の長い触腕を振り上げ激しく震わせ出した。
すると、とてつもなく激しい音が鳴り、辺り一面をビリビリと振動させる。
特に、虹色の宝石はかなり激しく震えだし、激しい反響音を放つ。
実は、この宝石…七色の骨は奈落の主の分泌する体液によって変質したもので、どんなに長い時が経っても風化しなくなるだけではなく、性質も骨から石
……特に水晶の物に近くなり、振動をよく伝えるのだ。
そんなシロモノを多く抱え込んでいる若者は……
「ぎゃああああああああ〜〜〜〜〜っ!」
音の衝撃で遠くへ吹き飛ばされていった。
ご丁寧にも、破れた革袋から零れ落ちた宝石が、キラキラとしたエフェクトとなり、吹き飛ばされる軌跡を鮮やかに彩る。
ドボォンッ。
哀れな名も無き不届き者は、頭から真っ逆さまに近くの地底湖に落ちた。
気絶して動かなくなっている彼の元へ、続々と地底湖に棲んでいる魔物娘達が群がり、あっという間にハーレム団子と化す。
「…運の良いヤツだ。末永く…お幸せにな。」
奈落の主は、皮肉のこもった微笑を若者に向けた。
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〜第三章 灼炎の金翼〜
イメージBGM:モンスターハンター
テオ・テスカトル戦闘BGM
https://www.youtube.com/watch?v=9y-Nn_f2dX4
「クッ!皆!持ちこたえろ!」
「フフフフ……」
明緑魔界のとある国の一角。
あるファラオの国に侵攻してきたアポピスを迎え撃つべく、王国の軍が奮闘していた。
しかし、実力の差は歴然で、半数以上の者が毒牙に倒れ、残る部隊も苦戦を強いられている。
「貴様などにこの国は渡さん!」
いきり立ったアヌビスの将校がアポピスの背後に剣を振りかぶるが、尻尾で弾き飛ばされた。
「無駄な抵抗はよして、大人しく降伏しなさい。もう、実力の差は見えているのだから。」
弾き飛ばしたアヌビスの将校を尻尾で絡めとり、わざとらしく軍隊の前で締め上げるアポピス。
彼女と相対する兵士達の間に緊迫した空気が流れる。
「あらあら。怖気ついちゃったのかしら?まぁ良いわ。すぐに皆倒してあげ……」
「おい、俺も混ぜろよ。」
「……!?」
「……!?」
軍隊の者でも、アポピスのものでもない低い声がこの場に発せられた。
声の主は、突然の事態に驚いている一同の想いも意に介さず、対立している両者の中に割って入った。
「な、なんなの……?あんたは……?」
王国軍と、アポピスが驚くのも無理は無い。
声の主は今まで見たことが無いような魔物だったからだ。
それは髪、皮膚、眼、翼、脚…全てが金色に光り輝いているハーピーで、背はこの軍の中でも体格の良い将軍と同じくらいある。
頭にはトサカの様に発達した冠羽が、尾羽はクジャクの様に長いものが三本あり、翼には鋭い爪を持った四本の指が生えていた。
さらに、彼女の特異な点はそれだけではない。
「うっ…なんて熱さなんだ…」
その場にいた全員が感じ取れるほど、凄まじい熱気を発しているのだ。
この地に生息しているイグニスやサラマンダーも熱を放ち、その場の空気の温めることはあるが、このハーピーのように周囲を焼き尽くさん勢いの物を放つことは到底できない。
「最高だよなぁ?戦いってヤツはよぉ?なんせ、死ぬ気で命のやり取りをするもんだから、生きてるって実感が持てるからな!おい、そこのお前!俺と勝負しろ!」
ハーピーが声を張り上げ、アポピスを指差した。
指名された彼女は一瞬困惑するものの、持ち前の強者のガッツで冷静に立て直した。
「…ふーん、言ってくれるじゃない。この弱い王国軍の奴等にも飽き飽きしていた所よ!たっぷり可愛がってあげるわッ!」
アポピスは体に力を込め、風を切る音を立てる程素早い動きでハーピーに襲い掛かる。
自分にすら見せなかった圧倒的なスピードに、将軍と王国軍の軍人達は口を大きく開けて驚くが、この後、彼らの口をさらに大きく広げる出来事が起こった。
「ぐぶうっ!?」
カギヅメの生えた翼から繰り出されるパンチが、アポピスを上回る速さで繰り出された。
それを腹にモロに喰らったアポピスは地面に仰向けに倒れる。
「なっ!?ア、アポピスを一撃で……!?」
将軍と軍人達は、目の前で起きている出来事が信じられなかった。
自分達が束になってかかり、渾身の一撃を何発もぶつけても全く平然としているアポピスが、たった一発の拳で地面に叩き伏せられてしまったのだから。
「な、中々やるじゃない……だけど本番はまだまだこれか…」
なんとか立ち上がったアポピスは、ハーピーに攻撃を加えようとするが、自分の腹にある違和感を覚えた。
「なんか…腹が…焼け付くように熱い……」
ふと腹を見てみると、そこには煙を上げる赤い痣が浮かび、付けていた装飾品は焼け落ちて無くなってしまっていた。
「面白いわねぇ!こんどこそ、一撃をお見舞いしてやるからッ!」
続いてアポピスは、シュルリとハーピーの背後に回り込み、彼女を締め付け、動けなくなったところに毒の牙で噛みつくという戦法に出た。
ハーピーは一瞬振り向くが、アポピスは彼女が体を動かす前に蛇体を巻きつけ、完全に拘束する。
「これで、今度こそ貴方もお終いねぇ。たっぷり、毒を注ぎんであげるから!シャアッ!」
アポピスは大きく口を開け、ハーピーの喉に喰らいついた!
「……!」
噛みつきが決まったのを見て、王国軍の誰しもがアポピスの勝利を確信した。
アポピスの毒はとても強力な物で、注ぎ込まれてしまえば最後。
ファラオのような強大な力を持つ魔物でさえ侵され、アポピスの忠実な僕と化してしまう。
さらに、毒が消えることはなく一生体内に残り続けるという恐ろしいものだ。
「…………。」
噛みついているアポピスだったが、何やら様子がおかしい。
体中が震えだし、全身から汗が滝のように噴き出し始めた。
そして、体から白い煙が立ち上り始め、ついに力なくその場に崩れ落ちてしまった。
ハーピーの体の部分に触れていた部分は、真っ赤な跡ができ、当のアポピスは体を痙攣させ、全身に流れる熱い快楽に悶えている。
「そ、そんな馬鹿な……!?」
アポピスとその毒の恐ろしさをよく知る王国軍は驚愕した。
毒が効かないことも驚きだが、それどころか一つも攻撃することなく返り討ちにしたこのハーピーの強さには、もはや脱帽するしかない。
「覇気の割には呆気なかったなぁー…こいつらはこんなのに手こずってたのか…」
つまらなそうに、ハーピーはその場でイっているアポピスを見下ろし、王国軍を見た。
「お前ら、こんな奴に手こずってるようじゃまだまだだぜ。」
ハーピーが将軍の前に来て、尾羽の一本をむしり取り、彼に握らせた。
彼女が放っていた暴力的な熱さはなく、優しい温かさが将軍の手に伝わる。
「俺の尾を粉にすると、どんな毒でも治す薬になる。だから、それを毒にやられたお前の部下達に飲ませてやれ。そして、一から鍛え直してやりな。」
言動こそは粗暴であるものの、堂々とした彼女の立ち振る舞いに将軍はただただ圧倒されていた。
自分の人生史上、ファラオ以外にこんなに神々しい魔物など見たことが無い。
「俺はまたいつか、ここに来る。その時は、お前らがどれだけ強くなったか見極めさせてもらうぜ。それじゃ、あばよ。」
そう告げると、ハーピーは翼を広げ、雲一つない青空に向かって飛び去って行った。
この後、将軍はハーピーに言われたとおりに彼女の尾羽を粉にして、毒に侵された兵士達に飲ませたところ、たちまち毒が消え失せ、前よりも更に闘気に溢れる優秀な戦士となった。
その後、彼が主のファラオにこの事を報告したところ、ファラオは大変感激し、以降あの金色のハーピーを戦いの神として崇めるようになり、国ではあのハーピーを祭る神殿が幾つも建てられた。
あのハーピーを祭るようになったこの国は、以前よりも大変栄え、砂漠の国の中でも有数の軍国として繁栄を遂げたという…
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〜終章 演説 後編〜
はー……疲れたー……こういう時は帰って一杯やりてぇー…
その後はクラブにでも行って良い姉ちゃんひっかけてくるか、カジノに行ってバクチでもするか…いや、ソープに行って〇〇〇して×××して△△△もすんのも良いな。
うし!決めた!今日は帰ったら、クラブもカジノもソープも行くぞ!
思い切り豪遊してやるとすっか!人生一度きりなんだから、思いっきり遊ばねぇと損だしよ!
んあ?どうしたんだ?そこのスタッフ君。
何?マイクの電源切り忘れてたから、今喋ったことが筒抜けだぁ?
んな小さい事なんて気にすんなってー!
人間、ちょっとやそっとのことでビビらない肝っ玉を持ってた方が良いんだ!
そう!「真の強者達」みてぇによ!
20/06/18 17:40更新 / 消毒マンドリル
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