☆東国の霊犬
ぼくは、信濃疾(しなの はやて)。
どこにでもいる小学生。
他に言うなら、ペットを飼っていることくらい。
「くぅん♪」
ぼくの膝の上に頭を置いて、仰向けに転がっているのはオド。
ペットのコボルドで、とっても可愛いぼくの妹のような存在だ。
ぼくが小さい頃に、パパが親戚のおじさんから貰ってきて、それ以来家族の一員になった。
「はやて、あしたがたのしみだね。」
明日は、友達のヴァンパイアのコウちゃんの家に遊びに行く。
その時はいつものように新しいゲームで遊ぶんじゃなくて、みんなの家からペットを連れて紹介するんだ。
オドの言う通り、明日が楽しみで仕方がない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「よく集まってくれたね、皆。」
信濃のクラスメイト、呉奈(くれな)コウの家。
地元の小金持ちだけあり、家はそこそこ立派だ。
清潔な服装のショゴスのお手伝いさんが、シックな家の雰囲気を引き立たせている。
「昨日のうちに夏休みの宿題を終わらせておいて良かったぜ!」
「小島もたまには頭を使うんだな、見直し…いでっ!」
「たまにじゃねぇし!いつも使ってるよバカヤロー!」
信濃の友人、人間男児の小島健太(こじま けんた)、ゴブリンの秋山千枝(あきやま ちえ)はコウの家に来て早々小競り合いをおっぱじめた。
「もー、けんたー!すぐけんかするんだからー!」
「ちえも、そのへんにしときなってー」
健太のペット、ボーイッシュな雰囲気のコボルドのキバと千枝のペット、お転婆なクーシーのリンは飼い主の行動に呆れるばかりだ。
「まぁまぁ、喧嘩するほど仲が良いってことじゃない?」
「そうだね。二人はああでなくっちゃと思うよ。」
コウのペット、大人びている態度のケットシーのノワールは、喧嘩している二人を見ても不快さを感じさせる様子をしない。
飼い主のコウも、彼女の意見に同意した。
「なぁ、疾のやつ、随分遅いんじゃねぇのか?」
「言われてみりゃ、確かに。」
小島と秋山は、先程ケンカしていたことを忘れたかのように一人だけ来ていない友人の心配をする。
なんだかんだでやはり仲良しで、友達思いの良い子じゃないか。
「まだまだ時間はあるさ。少し遊んで待と…」
「お嬢様、疾様がお見えになりましたよ。」
「分かった。今行く。」
「やっと来か、ずいぶんとおっせぇな。」
小島は口ではそう言っているが、やはり心配はしている。
典型的なツンデレだ。
「ごめん、遅くなっちゃった。その、オドが…」
部屋に入ってきた信濃が友人達に遅刻した訳を話そうとした瞬間。
「ヴぁぉォォォォォアアォォォォォ!!」
「!?」
身の毛もよだつ様な、形容し難い恐ろしい吠え声が部屋中に発せられた。
あまりにも尋常でない事態に、小島と秋山、キバとリンは思わず抱き合ってガタガタと震えあがり、コウとノワールは何事かと身構える。
「ダメでしょ、オド。初めて友達に会うのが嬉しいからって吠えちゃ。」
緊迫している友人達とは対照的に、信濃は落ち着いた様子で自分の後ろに声を掛ける。
「そうかァ、ごめんね!はやて!」
低い若い女の声をしゃがれさせた様な声を発して、信濃の「ペット」が入室してきた。
全体的にはウルフ属に見えるが、体の皮膚は赤黒い血の色のようで、体には体毛が見られず、尖った耳と房毛の様になっている尾は筋肉と鱗を足して二で割ったような角質に覆われている。
瞳には虹彩がなく、白目を剥き、体中を隆起した筋肉が覆い、体格はここにいる少年少女達より頭二つ分も大きい。
「紹介するよ。これがぼくの飼っているコボルドのオドだよ。」
「よろしくゥね!」
オドは口角を釣り上げて笑っている形を作り、片目をウィンクさせて見せた。
これがちっちゃくて、モフモフしていて、お目目がクリクリした「普通の」コボルドであれば、「元気が合って可愛いね」と顔を綻ばせてなでなでしてあげたくなるが、眼は白眼を剥き、口から鋭い牙を覗かせ、分厚い筋肉に覆われた屈強な体を持っている彼女がそれをすると逆に不気味すぎる。
「よ、よろしくな…」
「オドちゃん、仲良くしようね…」
先程の吠え声で植え付けられた恐怖で顔を引きつらせる高木と秋山。
自分達に対する敵意は無いと分かっていても、やはり怖い物は怖い。
キバとリンに至っては声も出ずに半笑いで頷いているだけだ。
「疾くん、まさかこの子……」
「どうしたの?コウちゃん。」
「…「餓狼(ガロウ)」なんじゃないかな?」
「「餓狼」?」
聞いたことの無い名称に、信濃は戸惑う。
何が何だか分からなそうにしている彼に言い聞かせるように、コウは話を続けた。
「うん。パパから聞いたことがあるんだけど、かつて私達の居る世界にあるジパングという地方で作られたコボルドの一種で、獣型の魔物と山犬…オオカミを掛け合わせて作られたんだ。」
「へぇ、そうなんだ!コウちゃんは相変わらず物知りだね!」
「それで、この餓狼なんだけどね。ある物を狩る為に作られた猟犬なのさ。それは……魔物なんだよ。」
「えっ!?ま、魔物!?」
コウの口から発せられた衝撃の事実に信濃と小島は驚愕し、秋山とキバ、リンは更に怖気ついてしまう。
「アウトドアスポーツの中でも、猛獣を仕留めるスポーツハンティングがあるでしょ?旧魔王時代に、ジパングのある地方の一部の荒くれ者の貴族達は、その狩りの対象を魔物にしたのをやっていた訳なんだ。」
「それで…その狩りのお供として出されていたのが…オドのような餓狼ってこと?」
「その通り。本当は餓狼はコボルドの中どころか、魔物の中でもかなり強いんだ。ある記録には、ウシオニを野兎のように簡単に仕留めてしまったというのもあるくらいさ。つまり、猟犬としてとことん良くできていたってことだね。」
自分の知識を自慢するかのように、コウは大げさに手を広げながら語る。
そんな彼女の話に聞き入る信濃と小島を他所に、オドは秋山とペット二匹にすり寄ろうと近づいている。
「ここまで聞くと、とても恐ろしそうな餓狼なんだけど……実はとっても人懐っこい性格で、飼い主の言う事はちゃんと聞いてくれるし、よく懐いてくれるんだ!」
「えっ?そうなのか?」
「そうさ。ひょっとしたらコボルドよりも飼うのが簡単なんじゃないかって言われてるくらいだよ……ほら。」
コウが手で示した先には、秋山達と楽しそうにじゃれ合っているオドが居る。
オドに顔面を舐められている秋山は、やはり顔を引きつらせていたが、恐怖の感情はほぼ無くなっており、後頭部を撫でて可愛がっている。
キバとリンも、肉厚で独特な触感の尻尾の感触の虜になったようで、眼を輝かせてそれをしきりに触っている。
「獲物となる魔物を噛みちぎって引き裂いていたのは旧魔王時代の話で、今の魔王様になってからは魔物を襲う事も無くなった。今となってはただの可愛い子犬さ。見た目以外はね。」
「ヴぁふヴぁふ♪」
「もー、オドちゃん。くすぐったい……ちょっと舌の棘が痛いけど。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「そーれっ!」
「わんっ♪」
数年後、中学生になった信濃、小島、秋山はそれぞれのペットを連れ、河川敷に来ていた。
小島が野球部で鍛えたピッチングで赤いフリスビーを放ると、それをキバが追いかけてゆき、飛び上がって咥えることでキャッチする。
「行くぞーっ!オド!」
今度は信濃が黒いフリスビーを放った。
まったく運動らしき運動はしていないとはいえ、フリスビーは綺麗な軌跡をを描いて飛んで行く。
飛び方から見るに、純粋な腕力ではなく、どちらかといえばコツを掴んで遠くへ飛ばしているようだ。
「ヴァうんっ!」
オドは投げられたフリスビーを見ると、すぐに強靭な四肢で力強く地面を駆け、それとの距離を詰めていく。
そして、目標物の真下まで近づくと脚に力を込めて跳躍した。
瞳の無い白目を見開き、口を大きく開けてターゲットのフリスビーを咥えこむ。
ガシン!と乾いた音が短く鳴り、オドはクルリと一回転した後、地面に着地した。
「……いやー、いつみても信濃んとこのオドにゃ敵わねぇなぁ!」
「ホント、コボルドの中どころか人虎よりも迫力あるよ〜」
小島と秋山の二人は、すっかりオドの華麗で豪快な動きに感心していた。
飼い主の反応に、すぐ横にいたキバとリンは嫉妬して、ぷぅーっと頬を膨らませてむくれる。
「あっ!ごめんごめん!カッコいいな〜って思ったのは本当だけど、お前が一番だよ!」
「ほんとう?」
「そ、そーだよ!なっ?なっ?」
「わかった。それじゃ、今日のおやつはメロンにしたら許してあげる〜」
「うっ、今月は厳しいのになァ…よし!良いぞ!今日のおやつはメロンだ!ちゃんと約束する!」
キバの機嫌を戻そうと地面に座り込んで手を合わせて頼み込む小島と、意地悪にニヤけるキバ。
この微笑ましいやり取りに頬を緩める信濃と秋山、オドとリン。
仲良し三人組と、そのペットである三匹組。
彼らの過ごす日常は、いつまでも、温かいものとなるだろう。
一方その頃。
「ぜぇ…ぜぇ……終わらない……」
頭に鉢巻を巻き、目を血走らせて自室の机に突っ伏すコウ。
彼女はあの三人組とは違い、小学校を卒業するとすぐに有名私立学園へ通っていた。
ただいま、膨大な量の夏休みの課題を片付けている彼女は疲労困憊だ。
「相変わらず大変そうだね〜」
「うん…すっごくへんたい…いや大変…」
ノワールに氷と冷水の入った袋を頭に乗せられると、コウはぎこちなく起き上がり、中断していた作業を再開する。
「だから遊びすぎに気を付けてねってあれ程言ったでしょ?」
「反省してます……ものすごく、後悔してます……」
自分で招いた結果を嘆きつつ、コウは夏休みの宿題のラストスパートへと取り掛かった。
しかし、彼女は気づいていない。
ようやく終わりそうな夏休みの宿題のドリルには、まだ裏面があり、彼女がようやく仕上げ終えるのは表面に過ぎないことを……
オマケ 餓狼 イメージ図
どこにでもいる小学生。
他に言うなら、ペットを飼っていることくらい。
「くぅん♪」
ぼくの膝の上に頭を置いて、仰向けに転がっているのはオド。
ペットのコボルドで、とっても可愛いぼくの妹のような存在だ。
ぼくが小さい頃に、パパが親戚のおじさんから貰ってきて、それ以来家族の一員になった。
「はやて、あしたがたのしみだね。」
明日は、友達のヴァンパイアのコウちゃんの家に遊びに行く。
その時はいつものように新しいゲームで遊ぶんじゃなくて、みんなの家からペットを連れて紹介するんだ。
オドの言う通り、明日が楽しみで仕方がない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「よく集まってくれたね、皆。」
信濃のクラスメイト、呉奈(くれな)コウの家。
地元の小金持ちだけあり、家はそこそこ立派だ。
清潔な服装のショゴスのお手伝いさんが、シックな家の雰囲気を引き立たせている。
「昨日のうちに夏休みの宿題を終わらせておいて良かったぜ!」
「小島もたまには頭を使うんだな、見直し…いでっ!」
「たまにじゃねぇし!いつも使ってるよバカヤロー!」
信濃の友人、人間男児の小島健太(こじま けんた)、ゴブリンの秋山千枝(あきやま ちえ)はコウの家に来て早々小競り合いをおっぱじめた。
「もー、けんたー!すぐけんかするんだからー!」
「ちえも、そのへんにしときなってー」
健太のペット、ボーイッシュな雰囲気のコボルドのキバと千枝のペット、お転婆なクーシーのリンは飼い主の行動に呆れるばかりだ。
「まぁまぁ、喧嘩するほど仲が良いってことじゃない?」
「そうだね。二人はああでなくっちゃと思うよ。」
コウのペット、大人びている態度のケットシーのノワールは、喧嘩している二人を見ても不快さを感じさせる様子をしない。
飼い主のコウも、彼女の意見に同意した。
「なぁ、疾のやつ、随分遅いんじゃねぇのか?」
「言われてみりゃ、確かに。」
小島と秋山は、先程ケンカしていたことを忘れたかのように一人だけ来ていない友人の心配をする。
なんだかんだでやはり仲良しで、友達思いの良い子じゃないか。
「まだまだ時間はあるさ。少し遊んで待と…」
「お嬢様、疾様がお見えになりましたよ。」
「分かった。今行く。」
「やっと来か、ずいぶんとおっせぇな。」
小島は口ではそう言っているが、やはり心配はしている。
典型的なツンデレだ。
「ごめん、遅くなっちゃった。その、オドが…」
部屋に入ってきた信濃が友人達に遅刻した訳を話そうとした瞬間。
「ヴぁぉォォォォォアアォォォォォ!!」
「!?」
身の毛もよだつ様な、形容し難い恐ろしい吠え声が部屋中に発せられた。
あまりにも尋常でない事態に、小島と秋山、キバとリンは思わず抱き合ってガタガタと震えあがり、コウとノワールは何事かと身構える。
「ダメでしょ、オド。初めて友達に会うのが嬉しいからって吠えちゃ。」
緊迫している友人達とは対照的に、信濃は落ち着いた様子で自分の後ろに声を掛ける。
「そうかァ、ごめんね!はやて!」
低い若い女の声をしゃがれさせた様な声を発して、信濃の「ペット」が入室してきた。
全体的にはウルフ属に見えるが、体の皮膚は赤黒い血の色のようで、体には体毛が見られず、尖った耳と房毛の様になっている尾は筋肉と鱗を足して二で割ったような角質に覆われている。
瞳には虹彩がなく、白目を剥き、体中を隆起した筋肉が覆い、体格はここにいる少年少女達より頭二つ分も大きい。
「紹介するよ。これがぼくの飼っているコボルドのオドだよ。」
「よろしくゥね!」
オドは口角を釣り上げて笑っている形を作り、片目をウィンクさせて見せた。
これがちっちゃくて、モフモフしていて、お目目がクリクリした「普通の」コボルドであれば、「元気が合って可愛いね」と顔を綻ばせてなでなでしてあげたくなるが、眼は白眼を剥き、口から鋭い牙を覗かせ、分厚い筋肉に覆われた屈強な体を持っている彼女がそれをすると逆に不気味すぎる。
「よ、よろしくな…」
「オドちゃん、仲良くしようね…」
先程の吠え声で植え付けられた恐怖で顔を引きつらせる高木と秋山。
自分達に対する敵意は無いと分かっていても、やはり怖い物は怖い。
キバとリンに至っては声も出ずに半笑いで頷いているだけだ。
「疾くん、まさかこの子……」
「どうしたの?コウちゃん。」
「…「餓狼(ガロウ)」なんじゃないかな?」
「「餓狼」?」
聞いたことの無い名称に、信濃は戸惑う。
何が何だか分からなそうにしている彼に言い聞かせるように、コウは話を続けた。
「うん。パパから聞いたことがあるんだけど、かつて私達の居る世界にあるジパングという地方で作られたコボルドの一種で、獣型の魔物と山犬…オオカミを掛け合わせて作られたんだ。」
「へぇ、そうなんだ!コウちゃんは相変わらず物知りだね!」
「それで、この餓狼なんだけどね。ある物を狩る為に作られた猟犬なのさ。それは……魔物なんだよ。」
「えっ!?ま、魔物!?」
コウの口から発せられた衝撃の事実に信濃と小島は驚愕し、秋山とキバ、リンは更に怖気ついてしまう。
「アウトドアスポーツの中でも、猛獣を仕留めるスポーツハンティングがあるでしょ?旧魔王時代に、ジパングのある地方の一部の荒くれ者の貴族達は、その狩りの対象を魔物にしたのをやっていた訳なんだ。」
「それで…その狩りのお供として出されていたのが…オドのような餓狼ってこと?」
「その通り。本当は餓狼はコボルドの中どころか、魔物の中でもかなり強いんだ。ある記録には、ウシオニを野兎のように簡単に仕留めてしまったというのもあるくらいさ。つまり、猟犬としてとことん良くできていたってことだね。」
自分の知識を自慢するかのように、コウは大げさに手を広げながら語る。
そんな彼女の話に聞き入る信濃と小島を他所に、オドは秋山とペット二匹にすり寄ろうと近づいている。
「ここまで聞くと、とても恐ろしそうな餓狼なんだけど……実はとっても人懐っこい性格で、飼い主の言う事はちゃんと聞いてくれるし、よく懐いてくれるんだ!」
「えっ?そうなのか?」
「そうさ。ひょっとしたらコボルドよりも飼うのが簡単なんじゃないかって言われてるくらいだよ……ほら。」
コウが手で示した先には、秋山達と楽しそうにじゃれ合っているオドが居る。
オドに顔面を舐められている秋山は、やはり顔を引きつらせていたが、恐怖の感情はほぼ無くなっており、後頭部を撫でて可愛がっている。
キバとリンも、肉厚で独特な触感の尻尾の感触の虜になったようで、眼を輝かせてそれをしきりに触っている。
「獲物となる魔物を噛みちぎって引き裂いていたのは旧魔王時代の話で、今の魔王様になってからは魔物を襲う事も無くなった。今となってはただの可愛い子犬さ。見た目以外はね。」
「ヴぁふヴぁふ♪」
「もー、オドちゃん。くすぐったい……ちょっと舌の棘が痛いけど。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「そーれっ!」
「わんっ♪」
数年後、中学生になった信濃、小島、秋山はそれぞれのペットを連れ、河川敷に来ていた。
小島が野球部で鍛えたピッチングで赤いフリスビーを放ると、それをキバが追いかけてゆき、飛び上がって咥えることでキャッチする。
「行くぞーっ!オド!」
今度は信濃が黒いフリスビーを放った。
まったく運動らしき運動はしていないとはいえ、フリスビーは綺麗な軌跡をを描いて飛んで行く。
飛び方から見るに、純粋な腕力ではなく、どちらかといえばコツを掴んで遠くへ飛ばしているようだ。
「ヴァうんっ!」
オドは投げられたフリスビーを見ると、すぐに強靭な四肢で力強く地面を駆け、それとの距離を詰めていく。
そして、目標物の真下まで近づくと脚に力を込めて跳躍した。
瞳の無い白目を見開き、口を大きく開けてターゲットのフリスビーを咥えこむ。
ガシン!と乾いた音が短く鳴り、オドはクルリと一回転した後、地面に着地した。
「……いやー、いつみても信濃んとこのオドにゃ敵わねぇなぁ!」
「ホント、コボルドの中どころか人虎よりも迫力あるよ〜」
小島と秋山の二人は、すっかりオドの華麗で豪快な動きに感心していた。
飼い主の反応に、すぐ横にいたキバとリンは嫉妬して、ぷぅーっと頬を膨らませてむくれる。
「あっ!ごめんごめん!カッコいいな〜って思ったのは本当だけど、お前が一番だよ!」
「ほんとう?」
「そ、そーだよ!なっ?なっ?」
「わかった。それじゃ、今日のおやつはメロンにしたら許してあげる〜」
「うっ、今月は厳しいのになァ…よし!良いぞ!今日のおやつはメロンだ!ちゃんと約束する!」
キバの機嫌を戻そうと地面に座り込んで手を合わせて頼み込む小島と、意地悪にニヤけるキバ。
この微笑ましいやり取りに頬を緩める信濃と秋山、オドとリン。
仲良し三人組と、そのペットである三匹組。
彼らの過ごす日常は、いつまでも、温かいものとなるだろう。
一方その頃。
「ぜぇ…ぜぇ……終わらない……」
頭に鉢巻を巻き、目を血走らせて自室の机に突っ伏すコウ。
彼女はあの三人組とは違い、小学校を卒業するとすぐに有名私立学園へ通っていた。
ただいま、膨大な量の夏休みの課題を片付けている彼女は疲労困憊だ。
「相変わらず大変そうだね〜」
「うん…すっごくへんたい…いや大変…」
ノワールに氷と冷水の入った袋を頭に乗せられると、コウはぎこちなく起き上がり、中断していた作業を再開する。
「だから遊びすぎに気を付けてねってあれ程言ったでしょ?」
「反省してます……ものすごく、後悔してます……」
自分で招いた結果を嘆きつつ、コウは夏休みの宿題のラストスパートへと取り掛かった。
しかし、彼女は気づいていない。
ようやく終わりそうな夏休みの宿題のドリルには、まだ裏面があり、彼女がようやく仕上げ終えるのは表面に過ぎないことを……
オマケ 餓狼 イメージ図
19/03/05 19:26更新 / 消毒マンドリル
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