Bossbattle:04 海魔大海戦 後編
「……!敵艦隊を捕捉しました!」
レコンカ国から数十キロ離れた海域。
前衛に中世の帆船、後方には近代の戦艦を配置した高木の艦隊がついに魔王軍艦隊を捉えた。
敵側の規模は、前衛の帆船を大きくしたような船がずらりと並んでいるだけに見える。
「フン!たかがこんな丸木舟なんぞに負ける我が軍ではない!集中砲火!始め!」
山斗のコックピットから高木が無線で命令を飛ばす。
「海の藻屑に変えてやる!格の差を思い知れ!」
前衛の帆船、後方の戦艦から一斉に砲撃が放たれた。
前回、前々回に攻めてきた魔王軍の艦隊ならあっという間にハチの巣にされて沈んでいるだろう。(なお、乗員はなんだかんだで全員生きて帰る。)
しかし、帆船たちは悠々とそれを悠々と回避していく。
中には水中に潜ったり、空中に浮かんでやり過ごしているものもおり、前に攻めてきた艦隊の船には無い機能だ。
それを見た高木は、後ろに控えていた空母部隊に冷静に支持を飛ばす。
元帥の経験を通して、前の世界より思考がマトモになっていることが分かる。
もっとも、愚物であることには変わりないが。
「砲撃を回避した程度でいい気になるな!空母から爆撃機を発進させろ!」
低いエンジン音を立てて、空母からゼロ戦のような戦闘機が発進した。
この戦闘機は、魔物娘が来る前の人間界の戦争時に活躍した「列風(れつかぜ)」という機種で、主に軍艦や基地への攻撃で戦果を上げていた。
ここから発進される物には人は乗っておらず、空母内に居る魔術師によって操縦されている。
列風の大軍は空中に浮いている艦船の方へと突き進み、艦上へ爆撃をお見舞いした。
一つ、二つと甲板で火柱が上がる。
「フハハハ!所詮魔王軍など烏合の衆に過ぎ……!?」
突如、空中に浮いた艦船を攻撃していた列風が次々と海へ落ちて行く。
ある物は真っ二つに、ある物は強烈な水圧を当てられ…あっという間に全滅してしまった。
「やっりーい!」
「へへーんだ!こんな鉄の塊なんか、蚊トンボにすら及ばねぇな!」
空中に浮かぶ艦船、「ソードシャーク」の艦上では海兵のスキュラやネイレスが歓喜の声を上げている。
「おーい!お前らー!」
空の上から、長刀を持ったマーメイド達が甲板の兵達に向かって声を張り上げる。
彼女らの下半身は普通のマーメイドとは違い、トビウオの物となっており、翼のようになっているヒレの下に作った気流で浮いている。
「残りはもう始末しておいたぜー!艦長に伝えてくれー!」
「おうっ!」
甲板に居た兵達は伝言を受け取ると、物資の運搬作業をしつつ、指揮を執っている艦長のインキュバスにそれを報告した。
報告を受けた艦長は頷くと、ソードシャークを海上に着陸させるように指示をして、再び運搬作業を始める。
「ええい!まだだ!前衛と駆逐艦を突撃させるんだ!」
駆逐艦と前衛の帆船の編隊が魔王軍に向かって全身する。
その様子は、獲物を見つけて襲い掛かろうとする肉食魚のようだ。
「目標!前方の魔王軍!撃ち方よーいっ!」
帆船から爆薬の詰まった弾、駆逐艦からは徹甲弾が撃ち出される。
魔王軍の艦船は何度も砲撃を食らっているが、全くダメージを受けている様子はない。
「なんのォ!ウチの可愛いなんぼやねんはこれしきで負けへんでぇ!」
船首にジパング産のサンゴの飾りをあしらった艦船、「なんぼやねん」が、刑部狸の艦長の指揮で大砲から火を噴かせた。
後から他の艦船達も反撃の大砲を浴びせ、砲弾が当たった数隻の帆船が沈没していく。
海に投げ出された乗組員達は、海兵の魔物娘によって一人残らず掻っ攫われてしまった。
「小癪な奴等だ!砲撃を止めるな!後方の空母からも再び列風を発進させろ!」
砲撃のペースが早まり、ソードシャークを襲った時より多くの列風の軍団が魔王海軍に襲い掛かる。
「撃てェッ!う……!?ウワァーーーッ!」
突如、砲撃を実行していた帆船の一隻が沈んだ。
隣の船も、そのまた隣の船も同じようにして沈んでいっている。
「い、一体何事……!?」
帆船を沈めていた犯人の正体と、沈め方はすぐに判明した。
「オラァーーーッ!」
「ぐぉぉぉぉぉ!」
「うがーーーっ!」
下半身にマグロの特徴を持った筋肉質で大柄なマーメイドが船底に体当たりを、鋭い牙のような装飾を施した腕輪を付けているオニカマスの特徴を持ったマーメイドがサーベルを振るい、小柄だがとても鋭い歯を持っているダルマザメの特徴を持ったマーシャークが噛みつき、これらのマーメイドの群れが船底に攻撃を仕掛け、穴を開けて敵艦を次々と撃沈していたのである。
「まだだ!たかが前衛の船など囮に過ぎん!近代兵器の力を見せてくれ…」
海底から紫色の太いイカのような触手が駆逐艦達の下から伸び、それらを締め付ける。
並大抵の攻撃も通さぬ鉄の装甲が徐々にへこみ、ついに完璧に絞め潰されて破壊されてしまった。
「何ッ!?」
駆逐艦を破壊したのは、魔法によって旧魔王時代の姿に戻ったクラーケン達だ。
普通のクラーケンですら軍用の帆船をも握り潰してしまうのだが、彼女らは魔王軍で厳しい訓練を受けている為、自分よりも巨大な氷山ですら粉々にしてしまう強力な締め付けができる。
「クッ!せめて一匹でも倒してやるッ!」
残った一隻の駆逐艦がクラーケンに向かって砲撃しようとしたが、横から強烈な水流を当てられて砲塔を切り落とされてしまう。
反撃が出来なくなった駆逐艦は、ただの船に等しく、クラーケンの群れにのしかかられて…その後は言うまでもなかろう。
「ギョアアアアアーーーッ!」
海面から、巨大な旧魔王時代の姿に戻ったワイバーン達が現れた。
これらの個体は普通のワイバーンとは違い、頭のトサカ、翼、尾の先が魚のヒレの様になっており、足にも水かきが付いている。
「キェーッ!」
ワイバーン達は甲高い咆哮を上げ、あの強烈な水流を周りの巡洋艦に次々と当てててゆき、半数を撃沈した。
「まだだーッ!まだ終わらんッ!俺の本領を見せてくれるわぁ〜っ!」
高木がヒステリックな声で喚き散らし、山斗の操縦席にある一つのボタンを押した。
「なんとしても…この戦争に勝……」
「大変です!艦長!」
「どうした!?」
「操縦が効きません!」
突如、山斗の操縦席を囲んでいた艦隊の舵が一斉に聞かなくなってしまった。
この未曾有の事態に艦隊の乗組員たちは激しく動揺し、大型空母「赤月(あかつき)」の内部では特にその混乱が顕著に見られていた。
「戦闘機を操縦している魔術師達も同様の事を申しております!」
「落ち着け。きっと自動操縦にしてしまったのだろう。手動操作に切り替えるんだ。」
「ですが…既に手動操作にしてあるんです!」
「なんだとッ!?」
「し、しかも…赤月が何者かによって勝手に動かされています!」
「何を言う!?そんな馬鹿な話が……!?」
赤月の艦長が驚きつつたまたまレーダーを見てみると、赤城が勝手に戦闘機を飛ばし、クラーケンやワイバーン達に攻撃を仕掛けているのが分かった。
「こ、これは……やはりそうか……」
「艦長…一体この事態は……」
「ああ。この赤月を始めとする上位の艦船には、デンパとかいうもので高木元帥が自らの手で山斗から自由に操縦できる機能が付いているのだ。」
「えっ!?」
「これは一部の上層部にしか伝えられていない事でな……高木元帥が戦局が不利になったら実行する最後の手段と行って良いだろう。」
赤月の艦長は、深刻な面持ちでレーダーを見やる。
そこには、魔王軍を包囲した高木の艦隊、苛烈になった戦闘機の爆撃や艦砲の砲撃を必死に回避している魔王軍の様子が映されている。
「くはぁ〜はっはっはは!逃げろ逃げろ〜!魔物共め〜!」
山斗のコックピットで、高木は一人高笑いしていた。
髪は脂と汗でベタベタに、目は血走り、口元は狂喜の笑みで歪んでいた。
「ははははは!ざまぁ見ろ!前の世界だけではなく、この世界でもコケにされてたまるかってんだぁ〜!」
窓の外で逃げ回るクラーケンとワイバーンの群れ、艦隊を見たことにより高木は上機嫌だ。
人間界で受けた仕打ちの恨みを晴らすかの如く、魔王軍に徹底的に攻撃を加えている時の姿は、これまでに類を見ないほど醜悪でおぞましい。
「ふははは…はははははーーーっ!見たかぁ!竜寺!高崎!力を得た俺の素晴らしい姿をォォォォォ!」
この場には居ない、前の世界で自分が目の敵にしていた者の名を挙げている辺りがまったくエゴイストな彼らしい。
「これからの時代はァっ!この高木英二様が支配……ぐぉぉぉぉぉ!?」
突如、戦艦山斗に大きな激震が走った。
「い、一体何なんだ……!?」
窓の上から、ヌルリと巨大な何かが現れた。
それは頭の両側にヒレの付いた青い海蛇の頭で、コックピットに居る高木をじっと見つめている。
先程の激震の正体は、この巨大な海蛇が山斗に巻き付いたことによるものだ。
「「人間界よりここに来た者よ……悪い事は言わぬ……これ以上の蛮行は止めよ……」」
「ふざけんな!蛮行だと!?俺の行っていることは正義だ!貴様の様なデカイだけのヘビ風情に何が分かる!」
海蛇はテレパシーを発して、高木の頭の中に直接語り掛けた。
「「確かに、私はお前の素性については何も知らぬ。だがしかし、己の欲望とエゴだけの為に圧政を敷き、多くの人や魔物を傷つける事を正義と呼ぶのはいささかも思わない……」」
「黙れ黙れ!俺のやることは絶対だ!絶対に正しいんだーッ!」
「「説得も無駄なようだな…手荒な真似だが仕方が無い、実力行使と行こう。」」
激しい轟音を立てて山斗が蛇体に締め上げられる。
大戦時には幾万もの砲撃に耐えた頑強な装甲がメキメキとひしゃげていく。
「全艦!山斗を救護せよ!このクソ蛇をカバ焼きにしてやれ!」
高木が声を張り上げて他の艦に命令を出すが、一隻も繰る気配は無い。
「お、おいっ!?一体どうしたんだ!早く来い!来いと言って……!?」
窓から見えたのは、逃げ惑っていた筈のクラーケンとワイバーンの群れ、魔王軍の艦隊がボロボロになった高木の艦船に攻撃を加えている。
大破している一隻の戦艦が主砲を魔王軍の帆船の一隻に向けたが、逆にあちら側に素早く砲撃され、機能を停止した。
空母も戦闘機を発進させようとするが、ワイバーンの体当たりによってひっくり返された所をクラーケンの触手に絡めとられて沈んでいった。
これには高木も開いた口が塞がらず、ただ震えるしかない。
海蛇の締め付けによって所々の主要機関が破壊されたことにより、山斗の内部中に響き渡る警告音が高木の絶望をさらに強くする。
「ひ、ひぃぃぃぃぃっーーーー!」
居ても立っても居られず、高木はパニックになってコックピットを飛び出し、甲板へと出た。
「こ、これは逃げるんじゃない…戦略的撤退なんだ……」
言い訳をブツブツと自分に言い聞かせ、海に飛び込んで逃げ出そうとする高木。
人の落ち度は厳しく指摘するが、自分の落ち度には甘い彼の性格が露骨に表れている。
「「どこへ行く?」」
醜態をさらす愚将の前に、海蛇の頭が現れ進路を塞ぐ。
「あ、あわわわ……待ってくれぇ!俺が悪かった!こ、降伏するから助けてくれぇ〜〜〜〜〜っ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「………………。」
魔界のネーラル裁判所。
ここでは主に軍事関連の裁判が行われるのだが、最近多発している悪事を働く転生者もここで裁かれる事になっている。
今、高木が裁判に掛けられており、横では証人として尾びれが付いた青い蛇体を持ったラミア、魔王軍第40番部隊隊長「ギアラ・ルクス」が立っている。
彼女の一族はラミアの中でもとても強い力を持った種族で、旧魔王時代の巨大な海蛇の姿を採ることができ、高木の山斗を絞め潰した海蛇の正体は彼女だ。
「被告人、エイジ・タカギ。貴方は能力を乱用して人や魔物に危害を加え、レコンカ国で悪政を働き、多大な損害を出した。」
「はい…それは……紛れもない事実であり…許されざる行為です……本当に…申し訳ありません…謹んでお詫び申し上げます。」
ネーラル裁判所の所長、魔王家第152女のリリム、ジジャが犯行内容を読み上げる。
ギアラに捕縛され、ここまで連れて来られた高木は抵抗する気力も無く、ただ項垂れているだけだ。
前の世界で気に入らない部下を怒鳴り散らす時や、図鑑世界で元帥だった時に命令を飛ばす際に見せる気迫はどこにもなく、すっかり萎縮している。
「貴方の言う通り、今回の件は非常に許されざる行為だ。それで、犯行に至った動機を教えて頂きたい。」
「私は…子供の頃から…居場所が無かったんです……幼い頃は流行っている玩具を持っていないだけでイジメに遭い、大学生時代は女も酒もやってないというだけで除け者にされ、会社では部下に役職を取って変わられ、家庭では粗大ゴミ扱いされる毎日を送っていました…」
動機を話す高木の目から涙が流れ、声も嗚咽で震えてきた。
「それで、何も良い事が無さ過ぎる人生を送っていたことで悔しい思いをしていた所を…黒づくめの謎の男によって力を与えられ…それで…今まで冴えなかった人生を変えられるかと思い…犯行に至った訳です……」
「そのような理由があったとはな…だがしかし、そのような理由があろうと貴方に課せられた刑が軽くなることは無い。」
「それは心得ております。ですので…どんな判決も受け入れられる覚悟があります……自分は、前の世界においてもこの世界においても…許されざる行為をしたのですから……」
顔を上げ、ジジャの目をしっかりと見据える高木。
その瞳には刑を受けて罪を償うという固い意思が宿っている。
「……分かった。では、判決を言い渡す。」
「……………………。」
「被告人、エイジ・タカギ。貴方には……死刑を言い渡す。」
「……………………!」
「死刑と言っても、罪人の命を奪うものではない。我々魔物は人の命を奪う事を極端に嫌うのでな。内容としては…悪人としての貴方の存在をこの世から抹消し、新たなる生を歩ませるのだ。つまり、人生のやり直しのようなものだな。」
「やり直し…ですか……」
「貴方が悪となった原因は、その人生における悲惨な出来事にあるのだろう。それならば、それらが無い世界で生きて善良な人間になれば良いのだ。」
ギアラが優しく高木を諭し、その意見に対してジジャがゆっくりと頷く。
「エイジよ。」
「はい。」
「次は、真っ当な者として生きるのだぞ。執行人、彼を処刑場へ。」
「分かりました。」
ジジャの指示を受けたインキュバスの執行人が、高木を処刑場へと連れて行く。
処刑場は裁判所の中にあり、法廷の隣の部屋だ。
部屋の中は清潔な白い大理石の様な物質でできている。
人間界の物とは違い、陰惨で無機質な雰囲気は無く、安心感を覚えるような温かさと明るさがある。
床には金色の光を放つ魔方陣が書かれていて、神々しい雰囲気が漂う。
「この魔方陣に入ると記憶も成長具合も全て退行していき、やがて純粋な存在である赤子になる。赤子になった後は、子供の居ない夫婦に引き取られるか、孤児院で育てられるなどして面倒は見て貰えるから安心して欲しい。」
「分かりました。」
「予測は付いているとは思うが、辛い記憶だけではなく幸せだった頃の記憶も消えてしまうからな。準備が出来たら、この中へと入ってくれ。」
落ち着いた声で執行人が高木に向かって言う。
何千人もの罪人の刑を見送ってきただけあり、言葉には重みと説得力がある。
「大丈夫です。今から入る準備はできています。」
「それは良い。私から言う事は何もない。どうぞ、入ってくれ。」
執行人に優しい微笑を向けられながら、高木は魔方陣へと足を踏み入れた。
「…………」
高木の体中を、優しい温かさが包み込んでいく。
汚れきった欲望、鮮やかな思い出、ドス黒い恨みの念、澄み切った青春………ありとあらゆる心に入っていたものが浄化されていき、全て無になっていくのを高木は感じ取っていた。
「…これで…償える…やり直せる……」
心が浄化された高木の体は徐々に若返ってゆき、入社当初の若い姿、高校生時代の青年姿、小学生時代の少年姿、幼児、そして赤ん坊になった。
「すぅ………」
赤ん坊になった高木は、ぶかぶかになった将軍の軍服の中で眠りに就いている。
それを執行人は抱き上げ、何処かへと去って行った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おぉっと〜!まさかの幼児返り〜!これは誰もが予想し得なかった大番狂わせだ〜!」
白を基調とした派手なタキシードを羽織り、顔にドミノマスクを付けた背の高い美青年がマイクを片手にわざとらしく大声を上げた。
彼の後ろにある巨大なモニターには、執行人に抱きかかえられている高木が映し出されている。
映像を観ている観客は、どれも仮面を付けており素顔は分からず、それぞれ4〜5人用のソファーに座り、注文した酒や料理、嗜好品等を嗜んでいた。
客には腕を組む男、ワインを飲む少年、水タバコを吸う美女等がおり、彼らを守るように黒服に黒いサングラスのSPと思しき人物が彼らを囲んでいる。
ここは、誰にも知られていない秘密の劇場。
人間界にあるか、図鑑世界にあるかも分からない。
「私も、かれこれこの劇場に長い間勤めておりましたが!こんな光景は初めてです!今まで横暴な転生者達には容赦なく牙を剥いてきた魔物娘達でしたが!なんと今回は慈悲の片鱗を見せました!ファーンタスティック!」
そう盛り上がっている白いタキシードの美青年の元へ、ステージの裏から何者かが近づいてきた。
高木を図鑑世界へ召喚したあの黒ずくめの男だ。
「よう、エース。」
「何だい?ジョーカー?」
「あの世界は中々良い逸材ばかり居る。ここの世界よりも負の要素が詰まってて扱いやすい奴等がな。」
「そうだねぇ!まーったく同感だよ!」
「そこで、だ。俺から一つ提案がある。ただあの世界の奴等が馬鹿をやってるのを見るより、奴等に馬鹿をやらせた方が面白れぇと思うんだ。」
「なるほどー!それは名案だねぇ!」
黒づくめの男は観客の方を向くと、鋭い動きで人差し指を指した。
「酔狂なる観客の諸君!ここはこのジョーカーが一つゲームを提案しよう!ルールは至って簡単だ!プレイヤーである諸君は神となり、この俺が集め、能力を与えた人間共をゲームの駒として動かし、いかに魔物共の居る世を乱せるかを競おうじゃないか!」
「そして盛り上げていこ〜っ!このエキサイティングなエンターテイメントをっ!」
「オォォォォーーーーーッ!」
劇場中に歓声が上がり、あちらこちらから拳が突き上げられる。
「JOKER!JOKER!JOKER!」
「ACE!ACE!ACE!」
謎黒づくめの男ジョーカー、白いタキシードの青年エース、仮面を付けた観客達、転生者を召喚して図鑑世界の秩序を乱すことを、ショー及び遊戯としている彼らは一体何者なのだろうか。
そして、そんな彼らが居る劇場は一体何処なのか。
真相は果たして………
To be continued…
レコンカ国から数十キロ離れた海域。
前衛に中世の帆船、後方には近代の戦艦を配置した高木の艦隊がついに魔王軍艦隊を捉えた。
敵側の規模は、前衛の帆船を大きくしたような船がずらりと並んでいるだけに見える。
「フン!たかがこんな丸木舟なんぞに負ける我が軍ではない!集中砲火!始め!」
山斗のコックピットから高木が無線で命令を飛ばす。
「海の藻屑に変えてやる!格の差を思い知れ!」
前衛の帆船、後方の戦艦から一斉に砲撃が放たれた。
前回、前々回に攻めてきた魔王軍の艦隊ならあっという間にハチの巣にされて沈んでいるだろう。(なお、乗員はなんだかんだで全員生きて帰る。)
しかし、帆船たちは悠々とそれを悠々と回避していく。
中には水中に潜ったり、空中に浮かんでやり過ごしているものもおり、前に攻めてきた艦隊の船には無い機能だ。
それを見た高木は、後ろに控えていた空母部隊に冷静に支持を飛ばす。
元帥の経験を通して、前の世界より思考がマトモになっていることが分かる。
もっとも、愚物であることには変わりないが。
「砲撃を回避した程度でいい気になるな!空母から爆撃機を発進させろ!」
低いエンジン音を立てて、空母からゼロ戦のような戦闘機が発進した。
この戦闘機は、魔物娘が来る前の人間界の戦争時に活躍した「列風(れつかぜ)」という機種で、主に軍艦や基地への攻撃で戦果を上げていた。
ここから発進される物には人は乗っておらず、空母内に居る魔術師によって操縦されている。
列風の大軍は空中に浮いている艦船の方へと突き進み、艦上へ爆撃をお見舞いした。
一つ、二つと甲板で火柱が上がる。
「フハハハ!所詮魔王軍など烏合の衆に過ぎ……!?」
突如、空中に浮いた艦船を攻撃していた列風が次々と海へ落ちて行く。
ある物は真っ二つに、ある物は強烈な水圧を当てられ…あっという間に全滅してしまった。
「やっりーい!」
「へへーんだ!こんな鉄の塊なんか、蚊トンボにすら及ばねぇな!」
空中に浮かぶ艦船、「ソードシャーク」の艦上では海兵のスキュラやネイレスが歓喜の声を上げている。
「おーい!お前らー!」
空の上から、長刀を持ったマーメイド達が甲板の兵達に向かって声を張り上げる。
彼女らの下半身は普通のマーメイドとは違い、トビウオの物となっており、翼のようになっているヒレの下に作った気流で浮いている。
「残りはもう始末しておいたぜー!艦長に伝えてくれー!」
「おうっ!」
甲板に居た兵達は伝言を受け取ると、物資の運搬作業をしつつ、指揮を執っている艦長のインキュバスにそれを報告した。
報告を受けた艦長は頷くと、ソードシャークを海上に着陸させるように指示をして、再び運搬作業を始める。
「ええい!まだだ!前衛と駆逐艦を突撃させるんだ!」
駆逐艦と前衛の帆船の編隊が魔王軍に向かって全身する。
その様子は、獲物を見つけて襲い掛かろうとする肉食魚のようだ。
「目標!前方の魔王軍!撃ち方よーいっ!」
帆船から爆薬の詰まった弾、駆逐艦からは徹甲弾が撃ち出される。
魔王軍の艦船は何度も砲撃を食らっているが、全くダメージを受けている様子はない。
「なんのォ!ウチの可愛いなんぼやねんはこれしきで負けへんでぇ!」
船首にジパング産のサンゴの飾りをあしらった艦船、「なんぼやねん」が、刑部狸の艦長の指揮で大砲から火を噴かせた。
後から他の艦船達も反撃の大砲を浴びせ、砲弾が当たった数隻の帆船が沈没していく。
海に投げ出された乗組員達は、海兵の魔物娘によって一人残らず掻っ攫われてしまった。
「小癪な奴等だ!砲撃を止めるな!後方の空母からも再び列風を発進させろ!」
砲撃のペースが早まり、ソードシャークを襲った時より多くの列風の軍団が魔王海軍に襲い掛かる。
「撃てェッ!う……!?ウワァーーーッ!」
突如、砲撃を実行していた帆船の一隻が沈んだ。
隣の船も、そのまた隣の船も同じようにして沈んでいっている。
「い、一体何事……!?」
帆船を沈めていた犯人の正体と、沈め方はすぐに判明した。
「オラァーーーッ!」
「ぐぉぉぉぉぉ!」
「うがーーーっ!」
下半身にマグロの特徴を持った筋肉質で大柄なマーメイドが船底に体当たりを、鋭い牙のような装飾を施した腕輪を付けているオニカマスの特徴を持ったマーメイドがサーベルを振るい、小柄だがとても鋭い歯を持っているダルマザメの特徴を持ったマーシャークが噛みつき、これらのマーメイドの群れが船底に攻撃を仕掛け、穴を開けて敵艦を次々と撃沈していたのである。
「まだだ!たかが前衛の船など囮に過ぎん!近代兵器の力を見せてくれ…」
海底から紫色の太いイカのような触手が駆逐艦達の下から伸び、それらを締め付ける。
並大抵の攻撃も通さぬ鉄の装甲が徐々にへこみ、ついに完璧に絞め潰されて破壊されてしまった。
「何ッ!?」
駆逐艦を破壊したのは、魔法によって旧魔王時代の姿に戻ったクラーケン達だ。
普通のクラーケンですら軍用の帆船をも握り潰してしまうのだが、彼女らは魔王軍で厳しい訓練を受けている為、自分よりも巨大な氷山ですら粉々にしてしまう強力な締め付けができる。
「クッ!せめて一匹でも倒してやるッ!」
残った一隻の駆逐艦がクラーケンに向かって砲撃しようとしたが、横から強烈な水流を当てられて砲塔を切り落とされてしまう。
反撃が出来なくなった駆逐艦は、ただの船に等しく、クラーケンの群れにのしかかられて…その後は言うまでもなかろう。
「ギョアアアアアーーーッ!」
海面から、巨大な旧魔王時代の姿に戻ったワイバーン達が現れた。
これらの個体は普通のワイバーンとは違い、頭のトサカ、翼、尾の先が魚のヒレの様になっており、足にも水かきが付いている。
「キェーッ!」
ワイバーン達は甲高い咆哮を上げ、あの強烈な水流を周りの巡洋艦に次々と当てててゆき、半数を撃沈した。
「まだだーッ!まだ終わらんッ!俺の本領を見せてくれるわぁ〜っ!」
高木がヒステリックな声で喚き散らし、山斗の操縦席にある一つのボタンを押した。
「なんとしても…この戦争に勝……」
「大変です!艦長!」
「どうした!?」
「操縦が効きません!」
突如、山斗の操縦席を囲んでいた艦隊の舵が一斉に聞かなくなってしまった。
この未曾有の事態に艦隊の乗組員たちは激しく動揺し、大型空母「赤月(あかつき)」の内部では特にその混乱が顕著に見られていた。
「戦闘機を操縦している魔術師達も同様の事を申しております!」
「落ち着け。きっと自動操縦にしてしまったのだろう。手動操作に切り替えるんだ。」
「ですが…既に手動操作にしてあるんです!」
「なんだとッ!?」
「し、しかも…赤月が何者かによって勝手に動かされています!」
「何を言う!?そんな馬鹿な話が……!?」
赤月の艦長が驚きつつたまたまレーダーを見てみると、赤城が勝手に戦闘機を飛ばし、クラーケンやワイバーン達に攻撃を仕掛けているのが分かった。
「こ、これは……やはりそうか……」
「艦長…一体この事態は……」
「ああ。この赤月を始めとする上位の艦船には、デンパとかいうもので高木元帥が自らの手で山斗から自由に操縦できる機能が付いているのだ。」
「えっ!?」
「これは一部の上層部にしか伝えられていない事でな……高木元帥が戦局が不利になったら実行する最後の手段と行って良いだろう。」
赤月の艦長は、深刻な面持ちでレーダーを見やる。
そこには、魔王軍を包囲した高木の艦隊、苛烈になった戦闘機の爆撃や艦砲の砲撃を必死に回避している魔王軍の様子が映されている。
「くはぁ〜はっはっはは!逃げろ逃げろ〜!魔物共め〜!」
山斗のコックピットで、高木は一人高笑いしていた。
髪は脂と汗でベタベタに、目は血走り、口元は狂喜の笑みで歪んでいた。
「ははははは!ざまぁ見ろ!前の世界だけではなく、この世界でもコケにされてたまるかってんだぁ〜!」
窓の外で逃げ回るクラーケンとワイバーンの群れ、艦隊を見たことにより高木は上機嫌だ。
人間界で受けた仕打ちの恨みを晴らすかの如く、魔王軍に徹底的に攻撃を加えている時の姿は、これまでに類を見ないほど醜悪でおぞましい。
「ふははは…はははははーーーっ!見たかぁ!竜寺!高崎!力を得た俺の素晴らしい姿をォォォォォ!」
この場には居ない、前の世界で自分が目の敵にしていた者の名を挙げている辺りがまったくエゴイストな彼らしい。
「これからの時代はァっ!この高木英二様が支配……ぐぉぉぉぉぉ!?」
突如、戦艦山斗に大きな激震が走った。
「い、一体何なんだ……!?」
窓の上から、ヌルリと巨大な何かが現れた。
それは頭の両側にヒレの付いた青い海蛇の頭で、コックピットに居る高木をじっと見つめている。
先程の激震の正体は、この巨大な海蛇が山斗に巻き付いたことによるものだ。
「「人間界よりここに来た者よ……悪い事は言わぬ……これ以上の蛮行は止めよ……」」
「ふざけんな!蛮行だと!?俺の行っていることは正義だ!貴様の様なデカイだけのヘビ風情に何が分かる!」
海蛇はテレパシーを発して、高木の頭の中に直接語り掛けた。
「「確かに、私はお前の素性については何も知らぬ。だがしかし、己の欲望とエゴだけの為に圧政を敷き、多くの人や魔物を傷つける事を正義と呼ぶのはいささかも思わない……」」
「黙れ黙れ!俺のやることは絶対だ!絶対に正しいんだーッ!」
「「説得も無駄なようだな…手荒な真似だが仕方が無い、実力行使と行こう。」」
激しい轟音を立てて山斗が蛇体に締め上げられる。
大戦時には幾万もの砲撃に耐えた頑強な装甲がメキメキとひしゃげていく。
「全艦!山斗を救護せよ!このクソ蛇をカバ焼きにしてやれ!」
高木が声を張り上げて他の艦に命令を出すが、一隻も繰る気配は無い。
「お、おいっ!?一体どうしたんだ!早く来い!来いと言って……!?」
窓から見えたのは、逃げ惑っていた筈のクラーケンとワイバーンの群れ、魔王軍の艦隊がボロボロになった高木の艦船に攻撃を加えている。
大破している一隻の戦艦が主砲を魔王軍の帆船の一隻に向けたが、逆にあちら側に素早く砲撃され、機能を停止した。
空母も戦闘機を発進させようとするが、ワイバーンの体当たりによってひっくり返された所をクラーケンの触手に絡めとられて沈んでいった。
これには高木も開いた口が塞がらず、ただ震えるしかない。
海蛇の締め付けによって所々の主要機関が破壊されたことにより、山斗の内部中に響き渡る警告音が高木の絶望をさらに強くする。
「ひ、ひぃぃぃぃぃっーーーー!」
居ても立っても居られず、高木はパニックになってコックピットを飛び出し、甲板へと出た。
「こ、これは逃げるんじゃない…戦略的撤退なんだ……」
言い訳をブツブツと自分に言い聞かせ、海に飛び込んで逃げ出そうとする高木。
人の落ち度は厳しく指摘するが、自分の落ち度には甘い彼の性格が露骨に表れている。
「「どこへ行く?」」
醜態をさらす愚将の前に、海蛇の頭が現れ進路を塞ぐ。
「あ、あわわわ……待ってくれぇ!俺が悪かった!こ、降伏するから助けてくれぇ〜〜〜〜〜っ!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「………………。」
魔界のネーラル裁判所。
ここでは主に軍事関連の裁判が行われるのだが、最近多発している悪事を働く転生者もここで裁かれる事になっている。
今、高木が裁判に掛けられており、横では証人として尾びれが付いた青い蛇体を持ったラミア、魔王軍第40番部隊隊長「ギアラ・ルクス」が立っている。
彼女の一族はラミアの中でもとても強い力を持った種族で、旧魔王時代の巨大な海蛇の姿を採ることができ、高木の山斗を絞め潰した海蛇の正体は彼女だ。
「被告人、エイジ・タカギ。貴方は能力を乱用して人や魔物に危害を加え、レコンカ国で悪政を働き、多大な損害を出した。」
「はい…それは……紛れもない事実であり…許されざる行為です……本当に…申し訳ありません…謹んでお詫び申し上げます。」
ネーラル裁判所の所長、魔王家第152女のリリム、ジジャが犯行内容を読み上げる。
ギアラに捕縛され、ここまで連れて来られた高木は抵抗する気力も無く、ただ項垂れているだけだ。
前の世界で気に入らない部下を怒鳴り散らす時や、図鑑世界で元帥だった時に命令を飛ばす際に見せる気迫はどこにもなく、すっかり萎縮している。
「貴方の言う通り、今回の件は非常に許されざる行為だ。それで、犯行に至った動機を教えて頂きたい。」
「私は…子供の頃から…居場所が無かったんです……幼い頃は流行っている玩具を持っていないだけでイジメに遭い、大学生時代は女も酒もやってないというだけで除け者にされ、会社では部下に役職を取って変わられ、家庭では粗大ゴミ扱いされる毎日を送っていました…」
動機を話す高木の目から涙が流れ、声も嗚咽で震えてきた。
「それで、何も良い事が無さ過ぎる人生を送っていたことで悔しい思いをしていた所を…黒づくめの謎の男によって力を与えられ…それで…今まで冴えなかった人生を変えられるかと思い…犯行に至った訳です……」
「そのような理由があったとはな…だがしかし、そのような理由があろうと貴方に課せられた刑が軽くなることは無い。」
「それは心得ております。ですので…どんな判決も受け入れられる覚悟があります……自分は、前の世界においてもこの世界においても…許されざる行為をしたのですから……」
顔を上げ、ジジャの目をしっかりと見据える高木。
その瞳には刑を受けて罪を償うという固い意思が宿っている。
「……分かった。では、判決を言い渡す。」
「……………………。」
「被告人、エイジ・タカギ。貴方には……死刑を言い渡す。」
「……………………!」
「死刑と言っても、罪人の命を奪うものではない。我々魔物は人の命を奪う事を極端に嫌うのでな。内容としては…悪人としての貴方の存在をこの世から抹消し、新たなる生を歩ませるのだ。つまり、人生のやり直しのようなものだな。」
「やり直し…ですか……」
「貴方が悪となった原因は、その人生における悲惨な出来事にあるのだろう。それならば、それらが無い世界で生きて善良な人間になれば良いのだ。」
ギアラが優しく高木を諭し、その意見に対してジジャがゆっくりと頷く。
「エイジよ。」
「はい。」
「次は、真っ当な者として生きるのだぞ。執行人、彼を処刑場へ。」
「分かりました。」
ジジャの指示を受けたインキュバスの執行人が、高木を処刑場へと連れて行く。
処刑場は裁判所の中にあり、法廷の隣の部屋だ。
部屋の中は清潔な白い大理石の様な物質でできている。
人間界の物とは違い、陰惨で無機質な雰囲気は無く、安心感を覚えるような温かさと明るさがある。
床には金色の光を放つ魔方陣が書かれていて、神々しい雰囲気が漂う。
「この魔方陣に入ると記憶も成長具合も全て退行していき、やがて純粋な存在である赤子になる。赤子になった後は、子供の居ない夫婦に引き取られるか、孤児院で育てられるなどして面倒は見て貰えるから安心して欲しい。」
「分かりました。」
「予測は付いているとは思うが、辛い記憶だけではなく幸せだった頃の記憶も消えてしまうからな。準備が出来たら、この中へと入ってくれ。」
落ち着いた声で執行人が高木に向かって言う。
何千人もの罪人の刑を見送ってきただけあり、言葉には重みと説得力がある。
「大丈夫です。今から入る準備はできています。」
「それは良い。私から言う事は何もない。どうぞ、入ってくれ。」
執行人に優しい微笑を向けられながら、高木は魔方陣へと足を踏み入れた。
「…………」
高木の体中を、優しい温かさが包み込んでいく。
汚れきった欲望、鮮やかな思い出、ドス黒い恨みの念、澄み切った青春………ありとあらゆる心に入っていたものが浄化されていき、全て無になっていくのを高木は感じ取っていた。
「…これで…償える…やり直せる……」
心が浄化された高木の体は徐々に若返ってゆき、入社当初の若い姿、高校生時代の青年姿、小学生時代の少年姿、幼児、そして赤ん坊になった。
「すぅ………」
赤ん坊になった高木は、ぶかぶかになった将軍の軍服の中で眠りに就いている。
それを執行人は抱き上げ、何処かへと去って行った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おぉっと〜!まさかの幼児返り〜!これは誰もが予想し得なかった大番狂わせだ〜!」
白を基調とした派手なタキシードを羽織り、顔にドミノマスクを付けた背の高い美青年がマイクを片手にわざとらしく大声を上げた。
彼の後ろにある巨大なモニターには、執行人に抱きかかえられている高木が映し出されている。
映像を観ている観客は、どれも仮面を付けており素顔は分からず、それぞれ4〜5人用のソファーに座り、注文した酒や料理、嗜好品等を嗜んでいた。
客には腕を組む男、ワインを飲む少年、水タバコを吸う美女等がおり、彼らを守るように黒服に黒いサングラスのSPと思しき人物が彼らを囲んでいる。
ここは、誰にも知られていない秘密の劇場。
人間界にあるか、図鑑世界にあるかも分からない。
「私も、かれこれこの劇場に長い間勤めておりましたが!こんな光景は初めてです!今まで横暴な転生者達には容赦なく牙を剥いてきた魔物娘達でしたが!なんと今回は慈悲の片鱗を見せました!ファーンタスティック!」
そう盛り上がっている白いタキシードの美青年の元へ、ステージの裏から何者かが近づいてきた。
高木を図鑑世界へ召喚したあの黒ずくめの男だ。
「よう、エース。」
「何だい?ジョーカー?」
「あの世界は中々良い逸材ばかり居る。ここの世界よりも負の要素が詰まってて扱いやすい奴等がな。」
「そうだねぇ!まーったく同感だよ!」
「そこで、だ。俺から一つ提案がある。ただあの世界の奴等が馬鹿をやってるのを見るより、奴等に馬鹿をやらせた方が面白れぇと思うんだ。」
「なるほどー!それは名案だねぇ!」
黒づくめの男は観客の方を向くと、鋭い動きで人差し指を指した。
「酔狂なる観客の諸君!ここはこのジョーカーが一つゲームを提案しよう!ルールは至って簡単だ!プレイヤーである諸君は神となり、この俺が集め、能力を与えた人間共をゲームの駒として動かし、いかに魔物共の居る世を乱せるかを競おうじゃないか!」
「そして盛り上げていこ〜っ!このエキサイティングなエンターテイメントをっ!」
「オォォォォーーーーーッ!」
劇場中に歓声が上がり、あちらこちらから拳が突き上げられる。
「JOKER!JOKER!JOKER!」
「ACE!ACE!ACE!」
謎黒づくめの男ジョーカー、白いタキシードの青年エース、仮面を付けた観客達、転生者を召喚して図鑑世界の秩序を乱すことを、ショー及び遊戯としている彼らは一体何者なのだろうか。
そして、そんな彼らが居る劇場は一体何処なのか。
真相は果たして………
To be continued…
19/02/22 13:47更新 / 消毒マンドリル
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