☆奇界 No.01 ボンクレ緑地
魔物娘の生きる図鑑世界は、このSSを書いているような人間が生きている人間界とは大きく違う。
特に、環境面ではその違いが多く見受けられる。
人間が住む世界とほぼ変わらない場所もあれば、魔物の魔力によって変質した魔界もある。
その中で、最近奇界というものが見つかった。
そこは普通の土地でも魔界でもない不思議な土地で、最初は魔界の一種と思われていたが、大量の魔物が生息しているにも関わらず土地が魔力の影響を受けないことと、魔界でしか育たない植物と魔界では育たない植物が同時に生育していることから新しい環境と認められた。
そこに生息する魔物娘をはじめとする生物は、その環境に適応した独特な進化を遂げている。
最近では、図鑑世界、人間界を問わず多くの研究機関が派遣されており、調査が活発に勧められている。
奇界は名の通り、とても奇妙で特殊「過ぎる」環境であるが故に人間の常識はもちろん、魔物の常識ですら通用しない。
その為、奇界の調査にはどんな事態が起きても冷静に臨機応変な対応ができる人材が求められるのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ボンクレ緑地。熱帯に分布している奇界だ。
木々が鬱蒼と茂り、あちらこちらで鳥をはじめとする動物の鳴き声がしている。
ここまでだと普通のジャングルの光景なのだが、ここは普通のジャングルのものとは訳が違う。
まず一つ、とにかく巨大な木が存在している事。
人間界にはメタセコイアという高さ100mにも達する巨大な木があるが、ここに生えている巨木はそれの高さや太さをも上回っている。
その木の下に沢山生えている数十メートルもある木ですら、それらの半分程の高さしかない。
二つ、巨木一本一本に独特な生態系が築かれていること。
巨木をよく見ると、幹から生えているサルノコシカケのような形をした巨大なキノコの上で、体長4mはあろうかという二匹のオスのカブトムシが争っている。
この二匹はお互いに相手の体を尖った角の先で小突きあっていたが、次第に片方が劣勢になっていく。
スキを突き、優勢な方のオスが相手の胴体の下に角を潜り込ませ、そのまま投げ飛ばす。
「喰らえ!必殺!熊殺しスペシャル!(※イメージ)」
「あ〜れ〜(※イメージ)」
クリーム色の重厚な甲殻に包まれた体がクルクルと回転をかけて、下の森へ落ちて行った。
「おとといきやがれっ!(※イメージ)」
激闘を制した方のカブトムシは、邪魔者が居なくなったことを確認するとキノコに傷を付け、そこからにじみ出た汁を吸う。
「この時の一杯は格別だぜ〜!(※イメージ)」
勝利を嚙みしめ(彼には歯が無いが)、悠々とキノコ汁を吸っていたカブトムシだったが彼の天下は長く続かなかった。
「おい、誰に断ってショバ取ってんだ、テメェ!(※イメージ)」
「すんませんっ!まさか貴方の場所だとは知らなかったんで…うわぁぁぁーッ!(※イメージ)」
木の隙間から這い出してきた体長8m程の緑色のクワガタに大顎で挟まれ、先程自分が戦った相手と同じ末路を辿った。
「やれやれ…最近の若造は礼儀っちゅーもんを知らんのかいな…(※イメージ)」
クワガタはカブトムシが傷つけた部分からキノコ汁を吸う。
なんて図々しいんだ。コイツ。
「腹は膨れたから、メスと交尾しに行くかのう(※イメージ)」
新鮮な御馳走を堪能したクワガタは、交尾相手のメスを探しに羽を広げて飛び立とうとした。
すると、後ろから太い木の槍が彼の背に向かって飛んできた。
槍は硬い甲殻の隙間に深々と刺さり、そこからどくどくと金色の体液が溢れる。
「オドレッ!許さんぞ…!コ…ラ… ガクッ(※イメージ)」
大樹の親分、標準名エメラルドダイオウクワガタ、学名エメラルダス・エレガントゥス、享年7歳は背後から受けた太いヤリにより、その生涯に幕を閉じた。
彼を仕留めたのは一体誰なのだろうか?
この木には他にも彼と敵対している無数の親分が居るのだが、彼らが差し向けたヒットマンが犯人であることはない。
「…!」
どうやらこれから、親分のタマを取った犯人が動き出しているようだ。
木の皮に貼りついていた苔が風も無いのにひとりでにベリベリと剥がれて行く。
しかも、剥がれたコケたちをよく見ると目、胸の乳房、水かきのある手足があるのが分かる。
そう、彼女らは魔物娘なのだ。
種族は両生類のミューカストトードというカエルの魔物…の亜種で、最近発見されたのだが正式な名前はまだ決まっていない。
分かっている生態は、コケに擬態して生活し、乾燥に耐性があるということぐらいだ。
とりあえず、話の展開的に呼び名が無いと分かりづらいので、彼女らのことはコケとカエルを意味する言葉から名付けた、「モストード」という名称を使っていくことにする。
「大きさまずまずといった所だな…」
モストードの中で年長とみられる個体が獲物を見定めていると、彼女らの後ろの巨木の枝に付いている葉がガサガサと揺れる。
「……。」
揺れ動いていた葉は、意思を持つかのように空中に舞った。
そして、宙に舞っている状態から手足を生やし、枝から降りてモストードたちの方へ近づいていく。
小さい葉は尻尾と手足が葉のようになったリザードマンに、大きな葉は翼が葉のようになったドラゴンに変身した。
リザードマンはレプティルリーフ、ドラゴンはリーフドラゴンという種族で、モストードと同じく最近見つかったとはいえ、それよりも前に発見され、研究が進んでいる種族なので種族名が付いている。
「まぁこれだけあれば十分だろう。」
「そうだねー。」
モストード、レプティルリーフ、リーフドラゴンの集団はクワガタの体を解体していく。
全てを解体し終えると、モストード、レプティルリーフは慣れた手つきで木の幹を登っていく。
鍛え抜いた人間界のロッククライマーでもこんなに早いスピードで登れることは無いだろう。
リーフドラゴンは翼でフワフワと空を飛び、彼女らの後を追う。
樹上に着いた集団は細かい枝をかき分け、その奥へと入って行く。
その奥は広い空間となっており、細かく積み重ねられた枝や泥が隙間なく詰められた土台の上に、大型甲虫の甲殻を骨組みにしてコケが張られた家が数十棟立っている。
「おかえりー!ねえちゃん!ごちそうとれたんだな!」
「うん、ちょっと小さいが、肉の方の質は中々良さそうだ。」
一番先についたレプティルリーフの女性、ヨウが家に入ると、腰みのを付けた一人の少年が駆け寄る。
「においをかいでいたら、たべたくなってきちゃう〜」
「こらこら、これはお隣のパッハーさんにあげるやつだからダメだぞ。」
部屋の隅から巨木の葉で作った袋からヨウが数個の調理用具とバナナの葉を取り出した。
「うん!わかってる!パッハーさんち、たまごがかえったもんな!」
「偉い。ちゃんと人の事を考えられるのは立派だ。」
ヨウは慣れた手つきでクワガタの足の殻を剥き、それをバナナの葉の上に乗せ、黄色い粉の形状をした調味料をかける。
白いクワガタの肉が真っ黄色になったところで、ヨウはそれを細かくちぎって丸くこねる。
全て丸くし終えると、下に敷いていたバナナの葉でそれを包んだ。
「アッツ。これをパッハーさんの所に持って行くんだ。ちっちゃい頃からお世話になっているんだから、たまにはこういうことをした方が良い。」
「まかせておきなって!」
腰みのの少年、アッツはヨウから荷物を受け取ると駆け足で家を出て行った。
外に出ると、すぐに向かいにある鳥の頭蓋骨が上にある家、リーフドラゴンのパッハーの家に入って行った。
「こんにちはー!」
「おう、アッツ。入りな。」
「ちょいと窮屈だがゆっくりしていけよ。」
わんぱくな少年を出迎えたのは、赤いコケで作った鉢巻を巻いた中年男性と金色の蝶の羽のイヤリングを付けた青年だった。
中年男性はパッハーの父「ヘキ」。この村で一番の猟師だ。
青年はパッハーの婚約者「ハナ」。ヘキの後を継ぐべく特訓に励む健気な男で、妻のパッハーとの仲は村でも評判だ。
「ヘキおじちゃん、これ。パッハーさんに。」
「おー、お前んちの姉ちゃんが作る肉団子は美味いから嬉しいぜ。」
「ありがと!ねえちゃんにいっておくね!」
「ただいま…あら、アッツくん。来ていたの。」
三人が団欒としている所にパッハーが帰ってきた。
腕の中では彼女の娘が豊満な胸に顔をくっつけている。
「パッハーさん!いつもあそんでくれたり、どうぐのつかいかたをおしえてもらっているおれいに、パッハーさんのすきなにくだんごをもってきたよ!」
「あら、ありがとう。」
「それと、これ!」
アッツが腰みのから輪のようなものを取り出した。
色とりどりの綺麗な紐で編まれたそれは、稚拙な編み方ながらもアッツの思いが込められているのが感じ取れる。
「これは何かしら?」
「パッハーさんの赤ちゃんのうでわ!がんばってつくったよ!」
「まぁ……!」
「きっとにあうよ!」
自分だけではなく娘まで想ってくれるアッツの気持ちに、パッハーは嬉しさを隠せなかった。
彼から腕輪を受け取ると、優しく娘の腕にそれをつける。
「うー?」
初めて見る腕輪にパッハーの娘は興味を覚え、じっと見つめている。
「おー!たいっ!たいっ!」
どうやら少年の力作は彼女のお眼鏡に適ったようだ。
目を輝かせて腕輪を付けた腕をブンブン振っている。
「ハッハッハ!やるじゃねぇか!その歳でもう女の子をホレさせちゃうとはな!よっ!色男!」
「オヤジ、アッツに変なこと教えるんじゃねぇよ。」
「おいハナ、こりゃーお前の娘がアッツにお嫁に行っちまうのもすぐだな。」
義父の言葉に一瞬固まり、顔を赤くするハナ。
その一連の様子を見たヘキは豪快に笑う。
「よ、よせよ!あんなガキにうちの娘を任せられるかって!」
「おいおい、落ち着けって。流石に今はそうはいかんが、あいつが立派な男になったらしてやっても良いかって思うんだよ。」
「そ、そうか…それなら安心…ってそうはいかん!あの娘は誰にも渡したかねぇ!」
「大丈夫だ!村一番の猟師の俺が言うんだから間違いねぇ!アイツは今に立派になる!あの子を幸せにできるって!」
「……いや、あんなへちゃむくれの坊主が、立派になんかなれっこない!うちの娘を幸せにできる訳がねぇんだ!」
ハナは口ではそう言っているが、本当はアッツを娘の結婚相手として迎えても良いと思っている。
実際彼はアッツに狩猟技術と格闘術を教えているのだが、予想以上に飲み込みが早いので期待している。
「いーやー!できる!ぜってーできる!あの子を幸せにできる!」
「そんなわけあるか!絶対できない!」
「いやできる!」
「できない!」
「できる!」
「できない!」
くだらない冗談を真に受けてしまったことを皮切りに、ハナはヘキと口喧嘩を始めてしまった。
最初は言い合いだったのがエスカレートし、取っ組み合いに発展している。
「この野郎!お前は見る目がねぇんだ!この若造が!」
「うるせぇ!ジジイ!お前の目が節穴すぎるんだよ!」
「ちょっと!おじちゃん!おにいちゃん!やめてってば!」
「アッツ君。放っておこう。なんだかんだで明日には仲直りするわよ。あっちで肉団子を先に食べちゃいましょ。」
「うん…そうだね…」
「さ、今日はお兄ちゃんと一緒にご飯よ。たくさん食べてね。」
二人のケンカ内容に呆れかえっていたアッツ、パッハーとその娘は、家の奥でお祝いの肉団子を美味しく食べるのであった。
そして、一方その頃。
「助けてくれー!(※イメージ)」
「ヒャッハー!肉だーっ!」
故・クワガタ親分に木から落とされたカブトムシがハイオークが率いるオークの群れに追い回されていた。
オマケ レプティルリーフとリーフドラゴンのイメージ図
作者 レプティルリーフ(左):消毒マンドリル リーフドラゴン(右):パイロ
特に、環境面ではその違いが多く見受けられる。
人間が住む世界とほぼ変わらない場所もあれば、魔物の魔力によって変質した魔界もある。
その中で、最近奇界というものが見つかった。
そこは普通の土地でも魔界でもない不思議な土地で、最初は魔界の一種と思われていたが、大量の魔物が生息しているにも関わらず土地が魔力の影響を受けないことと、魔界でしか育たない植物と魔界では育たない植物が同時に生育していることから新しい環境と認められた。
そこに生息する魔物娘をはじめとする生物は、その環境に適応した独特な進化を遂げている。
最近では、図鑑世界、人間界を問わず多くの研究機関が派遣されており、調査が活発に勧められている。
奇界は名の通り、とても奇妙で特殊「過ぎる」環境であるが故に人間の常識はもちろん、魔物の常識ですら通用しない。
その為、奇界の調査にはどんな事態が起きても冷静に臨機応変な対応ができる人材が求められるのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ボンクレ緑地。熱帯に分布している奇界だ。
木々が鬱蒼と茂り、あちらこちらで鳥をはじめとする動物の鳴き声がしている。
ここまでだと普通のジャングルの光景なのだが、ここは普通のジャングルのものとは訳が違う。
まず一つ、とにかく巨大な木が存在している事。
人間界にはメタセコイアという高さ100mにも達する巨大な木があるが、ここに生えている巨木はそれの高さや太さをも上回っている。
その木の下に沢山生えている数十メートルもある木ですら、それらの半分程の高さしかない。
二つ、巨木一本一本に独特な生態系が築かれていること。
巨木をよく見ると、幹から生えているサルノコシカケのような形をした巨大なキノコの上で、体長4mはあろうかという二匹のオスのカブトムシが争っている。
この二匹はお互いに相手の体を尖った角の先で小突きあっていたが、次第に片方が劣勢になっていく。
スキを突き、優勢な方のオスが相手の胴体の下に角を潜り込ませ、そのまま投げ飛ばす。
「喰らえ!必殺!熊殺しスペシャル!(※イメージ)」
「あ〜れ〜(※イメージ)」
クリーム色の重厚な甲殻に包まれた体がクルクルと回転をかけて、下の森へ落ちて行った。
「おとといきやがれっ!(※イメージ)」
激闘を制した方のカブトムシは、邪魔者が居なくなったことを確認するとキノコに傷を付け、そこからにじみ出た汁を吸う。
「この時の一杯は格別だぜ〜!(※イメージ)」
勝利を嚙みしめ(彼には歯が無いが)、悠々とキノコ汁を吸っていたカブトムシだったが彼の天下は長く続かなかった。
「おい、誰に断ってショバ取ってんだ、テメェ!(※イメージ)」
「すんませんっ!まさか貴方の場所だとは知らなかったんで…うわぁぁぁーッ!(※イメージ)」
木の隙間から這い出してきた体長8m程の緑色のクワガタに大顎で挟まれ、先程自分が戦った相手と同じ末路を辿った。
「やれやれ…最近の若造は礼儀っちゅーもんを知らんのかいな…(※イメージ)」
クワガタはカブトムシが傷つけた部分からキノコ汁を吸う。
なんて図々しいんだ。コイツ。
「腹は膨れたから、メスと交尾しに行くかのう(※イメージ)」
新鮮な御馳走を堪能したクワガタは、交尾相手のメスを探しに羽を広げて飛び立とうとした。
すると、後ろから太い木の槍が彼の背に向かって飛んできた。
槍は硬い甲殻の隙間に深々と刺さり、そこからどくどくと金色の体液が溢れる。
「オドレッ!許さんぞ…!コ…ラ… ガクッ(※イメージ)」
大樹の親分、標準名エメラルドダイオウクワガタ、学名エメラルダス・エレガントゥス、享年7歳は背後から受けた太いヤリにより、その生涯に幕を閉じた。
彼を仕留めたのは一体誰なのだろうか?
この木には他にも彼と敵対している無数の親分が居るのだが、彼らが差し向けたヒットマンが犯人であることはない。
「…!」
どうやらこれから、親分のタマを取った犯人が動き出しているようだ。
木の皮に貼りついていた苔が風も無いのにひとりでにベリベリと剥がれて行く。
しかも、剥がれたコケたちをよく見ると目、胸の乳房、水かきのある手足があるのが分かる。
そう、彼女らは魔物娘なのだ。
種族は両生類のミューカストトードというカエルの魔物…の亜種で、最近発見されたのだが正式な名前はまだ決まっていない。
分かっている生態は、コケに擬態して生活し、乾燥に耐性があるということぐらいだ。
とりあえず、話の展開的に呼び名が無いと分かりづらいので、彼女らのことはコケとカエルを意味する言葉から名付けた、「モストード」という名称を使っていくことにする。
「大きさまずまずといった所だな…」
モストードの中で年長とみられる個体が獲物を見定めていると、彼女らの後ろの巨木の枝に付いている葉がガサガサと揺れる。
「……。」
揺れ動いていた葉は、意思を持つかのように空中に舞った。
そして、宙に舞っている状態から手足を生やし、枝から降りてモストードたちの方へ近づいていく。
小さい葉は尻尾と手足が葉のようになったリザードマンに、大きな葉は翼が葉のようになったドラゴンに変身した。
リザードマンはレプティルリーフ、ドラゴンはリーフドラゴンという種族で、モストードと同じく最近見つかったとはいえ、それよりも前に発見され、研究が進んでいる種族なので種族名が付いている。
「まぁこれだけあれば十分だろう。」
「そうだねー。」
モストード、レプティルリーフ、リーフドラゴンの集団はクワガタの体を解体していく。
全てを解体し終えると、モストード、レプティルリーフは慣れた手つきで木の幹を登っていく。
鍛え抜いた人間界のロッククライマーでもこんなに早いスピードで登れることは無いだろう。
リーフドラゴンは翼でフワフワと空を飛び、彼女らの後を追う。
樹上に着いた集団は細かい枝をかき分け、その奥へと入って行く。
その奥は広い空間となっており、細かく積み重ねられた枝や泥が隙間なく詰められた土台の上に、大型甲虫の甲殻を骨組みにしてコケが張られた家が数十棟立っている。
「おかえりー!ねえちゃん!ごちそうとれたんだな!」
「うん、ちょっと小さいが、肉の方の質は中々良さそうだ。」
一番先についたレプティルリーフの女性、ヨウが家に入ると、腰みのを付けた一人の少年が駆け寄る。
「においをかいでいたら、たべたくなってきちゃう〜」
「こらこら、これはお隣のパッハーさんにあげるやつだからダメだぞ。」
部屋の隅から巨木の葉で作った袋からヨウが数個の調理用具とバナナの葉を取り出した。
「うん!わかってる!パッハーさんち、たまごがかえったもんな!」
「偉い。ちゃんと人の事を考えられるのは立派だ。」
ヨウは慣れた手つきでクワガタの足の殻を剥き、それをバナナの葉の上に乗せ、黄色い粉の形状をした調味料をかける。
白いクワガタの肉が真っ黄色になったところで、ヨウはそれを細かくちぎって丸くこねる。
全て丸くし終えると、下に敷いていたバナナの葉でそれを包んだ。
「アッツ。これをパッハーさんの所に持って行くんだ。ちっちゃい頃からお世話になっているんだから、たまにはこういうことをした方が良い。」
「まかせておきなって!」
腰みのの少年、アッツはヨウから荷物を受け取ると駆け足で家を出て行った。
外に出ると、すぐに向かいにある鳥の頭蓋骨が上にある家、リーフドラゴンのパッハーの家に入って行った。
「こんにちはー!」
「おう、アッツ。入りな。」
「ちょいと窮屈だがゆっくりしていけよ。」
わんぱくな少年を出迎えたのは、赤いコケで作った鉢巻を巻いた中年男性と金色の蝶の羽のイヤリングを付けた青年だった。
中年男性はパッハーの父「ヘキ」。この村で一番の猟師だ。
青年はパッハーの婚約者「ハナ」。ヘキの後を継ぐべく特訓に励む健気な男で、妻のパッハーとの仲は村でも評判だ。
「ヘキおじちゃん、これ。パッハーさんに。」
「おー、お前んちの姉ちゃんが作る肉団子は美味いから嬉しいぜ。」
「ありがと!ねえちゃんにいっておくね!」
「ただいま…あら、アッツくん。来ていたの。」
三人が団欒としている所にパッハーが帰ってきた。
腕の中では彼女の娘が豊満な胸に顔をくっつけている。
「パッハーさん!いつもあそんでくれたり、どうぐのつかいかたをおしえてもらっているおれいに、パッハーさんのすきなにくだんごをもってきたよ!」
「あら、ありがとう。」
「それと、これ!」
アッツが腰みのから輪のようなものを取り出した。
色とりどりの綺麗な紐で編まれたそれは、稚拙な編み方ながらもアッツの思いが込められているのが感じ取れる。
「これは何かしら?」
「パッハーさんの赤ちゃんのうでわ!がんばってつくったよ!」
「まぁ……!」
「きっとにあうよ!」
自分だけではなく娘まで想ってくれるアッツの気持ちに、パッハーは嬉しさを隠せなかった。
彼から腕輪を受け取ると、優しく娘の腕にそれをつける。
「うー?」
初めて見る腕輪にパッハーの娘は興味を覚え、じっと見つめている。
「おー!たいっ!たいっ!」
どうやら少年の力作は彼女のお眼鏡に適ったようだ。
目を輝かせて腕輪を付けた腕をブンブン振っている。
「ハッハッハ!やるじゃねぇか!その歳でもう女の子をホレさせちゃうとはな!よっ!色男!」
「オヤジ、アッツに変なこと教えるんじゃねぇよ。」
「おいハナ、こりゃーお前の娘がアッツにお嫁に行っちまうのもすぐだな。」
義父の言葉に一瞬固まり、顔を赤くするハナ。
その一連の様子を見たヘキは豪快に笑う。
「よ、よせよ!あんなガキにうちの娘を任せられるかって!」
「おいおい、落ち着けって。流石に今はそうはいかんが、あいつが立派な男になったらしてやっても良いかって思うんだよ。」
「そ、そうか…それなら安心…ってそうはいかん!あの娘は誰にも渡したかねぇ!」
「大丈夫だ!村一番の猟師の俺が言うんだから間違いねぇ!アイツは今に立派になる!あの子を幸せにできるって!」
「……いや、あんなへちゃむくれの坊主が、立派になんかなれっこない!うちの娘を幸せにできる訳がねぇんだ!」
ハナは口ではそう言っているが、本当はアッツを娘の結婚相手として迎えても良いと思っている。
実際彼はアッツに狩猟技術と格闘術を教えているのだが、予想以上に飲み込みが早いので期待している。
「いーやー!できる!ぜってーできる!あの子を幸せにできる!」
「そんなわけあるか!絶対できない!」
「いやできる!」
「できない!」
「できる!」
「できない!」
くだらない冗談を真に受けてしまったことを皮切りに、ハナはヘキと口喧嘩を始めてしまった。
最初は言い合いだったのがエスカレートし、取っ組み合いに発展している。
「この野郎!お前は見る目がねぇんだ!この若造が!」
「うるせぇ!ジジイ!お前の目が節穴すぎるんだよ!」
「ちょっと!おじちゃん!おにいちゃん!やめてってば!」
「アッツ君。放っておこう。なんだかんだで明日には仲直りするわよ。あっちで肉団子を先に食べちゃいましょ。」
「うん…そうだね…」
「さ、今日はお兄ちゃんと一緒にご飯よ。たくさん食べてね。」
二人のケンカ内容に呆れかえっていたアッツ、パッハーとその娘は、家の奥でお祝いの肉団子を美味しく食べるのであった。
そして、一方その頃。
「助けてくれー!(※イメージ)」
「ヒャッハー!肉だーっ!」
故・クワガタ親分に木から落とされたカブトムシがハイオークが率いるオークの群れに追い回されていた。
オマケ レプティルリーフとリーフドラゴンのイメージ図
作者 レプティルリーフ(左):消毒マンドリル リーフドラゴン(右):パイロ
19/02/08 00:06更新 / 消毒マンドリル
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