連載小説
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前編
「ふふふふ・・・」

ある秘密基地の奥。
白衣を着て、髪をモヒカンにし、逆三角の形のレンズのサングラスを掛けたヒヒのような顔の男が巨大なモニターの前に宙に浮いているイスのような機械に座り、長い犬歯を見せて微笑んでいる。

「相変わらず俺様の世界征服は順調なようだなぁ!がーっはっはっはっはぁ〜!」

男は片手に食べかけのバナナを持ちながら高笑いする。
彼はドクターマンドリル。悪の天才科学者だ。
世界征服を目標とするマンドリル軍団なる組織を作り、あちらこちらで暴れ回っている。
ついこの間、日本の大都市を欲情の炎で包みこみ、人間を魔物化させたり魔物娘を発情させて大乱交させることで都市機能をストップさせるという凄まじい悪行を実行したばかりである。

「さーて、市街地を欲情の炎で包んでやった次は新しい怪人を・・・」
「そこまでだ!」
「あん?」

男が女性の声が聞こえてきた後ろの方を気だるそうに向く。

「追い詰めたぞドクターマンドリル!貴様の野望もここで終わりだ!」

ボーイッシュファッションに身を包んだ若い女性がドクターマンドリルを睨む。
背は普通の男性よりやや高く、髪は青い短髪で、顔立ちは中性的で男性に近い。
彼女は竜星蒼(たつぼしあおい)。
クールで堂々とした立ち振る舞いと抜群のスタイル、イケメンな顔立ちで若い女性や魔物娘に大人気のスーパーモデルだ。
だが、そんな彼女にはもう一つの顔がある。

「ま〜た懲りずに俺様の邪魔をしに来やがったか。おい!お前ら!」

ドクタードリルが蒼の後ろの部屋の出口に向かって呼びかけた。

「ヒャハハハーッ!」

顔にパンクなペイントを施し、トゲの生えた肩パッドを付け、魔界銀製の武器を担いだ、いかにも世紀末の暴徒の様な格好の大勢の戦闘員が蒼を取り囲んだ。

「マンドリル、懲りずにまた数だけで私をどうにかしようというのか?」

体格もよく、人相の悪い男や強面の魔物娘に囲まれても蒼は平然としてドクター・マンドリルに皮肉を言い放つ。

「がはははは!数だけと油断してると痛い目に遭うぜぇ!おいお前ら!やっちまえ!」

マンドリルの号令で戦闘員たちが掛け声を上げながら蒼に突撃していく!

「はああッ!」

ドグァッ!

「ひでぶぅっ!」
「あべしぃっ!」

蒼の回し蹴りで戦闘員二人が倒れる。

「っだらぁぁぁぁっ!」

顔にハートマークのペイントをしたオーガの戦闘員が後ろからトゲ棍棒を蒼の頭の上に降り下ろそうとする!

「ほああぁっ!」

ズムンッ!

「ばわぁっ!」

蒼の突きが喉に刺さったオーガが崩れ落ちた。

「お前にこの動きがかわせるかあぁぁっ!?」

金属製の仮面を被った筋骨隆々の大男が蒼に拳の連打を浴びせる。
だが蒼は拳の動きを見切って全て避け、男の腰を掴むと他の戦闘員に向かって投げ飛ばした。

「じゃぎぃ!」
「あみばぁ!」
「ういぐるっ!」

三人の戦闘員が巨漢の下敷きになり短い悲鳴を上げて気絶する。下敷きにした巨漢も投げられた衝撃で白目を剥いてピクピクと手足を痙攣させている。

「今だ!」

蒼が上着の右袖をまくると、水色の金属の輪に菱形の青い宝石があしらわれたブレスレットが現れた。

「青の竜星よ!私に力をっ!」

蒼が右腕を掲げると、蒼の右腕に青い光が集まっていき、やがて全身を覆っていった。

「ヒャハハハハッ!スキありぃ〜!」

大ナタを持った戦闘員が、全身を青い光に包まれた蒼を攻撃しようとした。

ブワァァァァアッ!

「ぬわぁーーっ!」

攻撃しようとしたナタの戦闘員が青いオーラに吹き飛ばされる。
光に包まれた蒼は強い光と激しいオーラを放っていたが、やがてオーラの勢いと光の強さも弱くなっていき、それらに隠されていた蒼の姿も徐々に露になってくる。
光の中から現れた蒼は、さっきまでのボーイッシュファッションとは違う衣装を身に付けていた。
体の線がはっきりと分かるような近未来を舞台にした映画や漫画で見るようなヒロイックなスーツに、変身前のころには分からなかったPカップはあろうかというはちきれんばかりの胸、その谷間の上にはアクアマリンのような宝玉が力強く光り、頭からは青い角が二本生えている。
翼膜に包まれた翼、ワニのような尾はいずれも深い青色の鱗に覆われており、手足もそれらと同じ色の甲殻に覆われている。

「相変わらず腕は衰えていねぇようだな!蒼星戦士サフィアさんよ!」

竜星蒼のもう一つの姿、それは!
人々の平和のため、日々悪と戦う青き流星の異名を持つ正義のドラゴン、蒼星戦士サフィアなのだ!

「次はどいつだ?」

サフィアがマンドリルの周りを護るようにして取り囲んでいる戦闘員を一瞥する。

「野郎〜!ぶっ飛ばしてやるぅ〜っ!」
「俺が相手だバカヤロウッ!」
「ヒャッハー!てめぇを討ち取れば俺の給料が上がって子分に酒をおごれるぜぇ〜っ!」

戦闘員達が怒号を上げて次々と突撃していく。
だがサフィアは冷静な様子で左手を前に突き出し、魔力を込める。

「失せろ、雑魚共。」

バキョオオオオンッ!

「ちにゃ!」
「親父さぁぁぁん!」
「ぱっぴっぷっぺっぽぉぉぉぉっ!」

サフィアの右の掌から青白いレーザーが放たれ、直線上にいる戦闘員たちを焼き払った。

「あへへへへ・・・・♥」
「んはぁっ・・・・♥」

青白いレーザーに装備を焼き払われて全裸になった戦闘員たちが倒れ伏していた。男はイカ臭いお漏らしをして、女は噴水のように潮を噴いて絶頂している。

「お前ら・・・いつも本当に大変な思いしやがってよ・・・後で給料増やしてやるからな・・・」

マンドリルが倒れている戦闘員たちを見渡して申し訳なさそうに呟く。

「・・・・。」
「はっ!うっかり心の声が出ちまった!・・・・えぇい!相変わらず使えん奴等だ!この役立たず共めが!」

マンドリルは倒れている戦闘員に転移魔法を掛けて何処かへと飛ばした。

「さて、軍団の中で最高の施設に送っといたから大丈夫・・・」

サフィアが同情するような顔でこちらを向いていることに気付き、慌てて彼女の方を向く。

「さぁ、あとは貴様だけだな。」
「クックック・・・甘いわ!サフィア!こんな所で俺様は終わらん!」

パチン!

マンドリルが指を鳴らすと、彼の後ろの空間が歪み出し、黒い穴が現れた。

「こんなこともあろうかと、最後の切り札として究極の怪人を用意していたのだ!出でよ!」

黒い穴の向から禍々しい気配が発せられている。

「究極怪人!ネクロネビュラ!」

ズゾゾゾゾ・・・

黒い穴の中から出てきたのはサフィアやマンドリルよりも小柄な少年だった。
頭の上半部が隠れる形のコウモリの頭のような形をしたヘルメットを被り、胸には目玉を模した赤紫色の宝玉が光り、体には黒地に十字架を模した紫色の紋様があるサフィアと似たような形のスーツを身に付けている。

「さぁ、ネクロネビュラよ!サフィアを倒せ!この俺様の最高傑作である貴様の圧倒的なパワーを見せつけてやるのだ!ガーッハッハッハーッ!」
「分かりました。」

ネクロネビュラは口元に微笑を浮かべると、自分よりも体格もあり、上級の魔物であるサフィアを前にしても臆さずに彼女に歩み寄る。

「来い、サフィア!」

ネクロネビュラは少年の高い声に強者の威圧感が混じった声で言い放つ。

「望む所だ!」

ブゥゥゥゥゥンッ!

サフィアの右手の甲から青白い光の剣が出現する。
それを合図にしたかのようにネクロネビュラも自分の周りにバスケットボール大の黒いエネルギー塊を左右に一つずつ出現させた。

「ハッ!」

ネクロネビュラが自分から見て左に浮いている塊の一つをサフィアに向けて放つ。

「セェィッ!」

剣で塊を切り裂くと、続いて後ろからもう一つの黒い塊が放たれる。

ギインッ!

サフィアは間一髪の所で振り向いて剣で弾き、ネクロネビュラに打ち返した。

バシュン!

「中々やるな。」
「・・・・。」
「流石マンドリル様の計画を幾度も阻止してきただけのことはあるな!」
「当たり前だ。奴が日々新たな怪人や兵器を生み出すように、私も日々鍛練積んで己の限界を打ち破り続けているのだ。」
「己の限界を打ち破る・・・か。良いだろう!貴様が培ってきた実力の全てを私に解き放つがいい!」

ゾゾゾゾ・・・
ブゥゥゥゥンッ!

ネクロネビュラの背中のマントが漆黒の翼へと代わり、サフィアと同じように右手の甲から光の剣が出現する。
サフィアのものとは違い、紫色の不気味なオーラを放つものが。

「ハァァァァッ!」
「ウォォォォッ!」

ブジンッ!

サフィアとネクロネビュラの剣が激しくぶつかり合い、エネルギーの火花を散らして鍔競り合いとなる。

「ググゥッ・・・!」

現在鍔競り合いはサフィアの方が優勢だ。
体格差とドラゴンの怪力を生かして上から力を込めて相手を押していく。
押す力は次第に強くなり、ついにネクロネビュラは壁に追いやられてしまう。

「ネクロネビュラ、貴様の力はその程度か?」
「それはこちらの台詞だ。サフィア。貴様の方こそ、その程度の実力なのか?」

ネクロネビュラは口元に笑みを浮かべると、自分の右手に力を込めた。

「何っ!?」

なんと、壁際まで追い詰められていたネクロネビュラがサフィアを押し返しているのだ!

ギリギリギリギリ・・・!

「フン!」

ガッ!

「うぐっ!」

ネクロネビュラがさらに力を込めてサフィアを宙へ吹き飛ばした!
そしてその一瞬を逃さず、左手にブラックホールのような黒いモヤの塊を作り出して放つ!

ズゴォッ!

「ぐああああっ!?」

サフィアに放たれた黒いモヤは瞬く間に彼女の全身を包む。

「くっ、か、体が動か・・・な・・・」

黒いモヤに包まれたサフィアは、何かに縛り付けられたように動けなくなる。

「どうだ。これが私の必殺技、シャドーホールドだ。」

ネクロネビュラは勝利を確信したような感情を含んだ微笑で宙に拘束されたサフィアを見上げる。

「こいつはな、重力魔法と闇魔法を融合させた強力な術で、あのリリムでも脱け出すことは困難な代物だ。」
「こ、こんなもの・・・!」
「おっと、こいつはもがけばもがくほど拘束力を強くしていくぞ?」

言葉通り、サフィアの手足と翼と尾を締め付ける感覚が更に強くなる。

「ぐぅぅぅぅぅっ!」
「そして、最後にだ。この術は対象を拘束するだけではなく、魔力を吸収して相手を弱らせる効果があるのだ。その証拠に、ほら。」

ヴンッ!ヴンッ!ヴンッ!

「なっ!?」

さっきまで青かったサフィアの胸の宝玉が赤く点滅している。
宝玉の色は、彼女の魔力の残量を示しており、青色の時は十分に余裕があるが、赤色になって点滅している時は魔力の残量が少なくピンチな状況に陥っているサインだ。

「ま、魔力がっ!早く脱出しなければっ・・・!」

身体中の力を振り絞って動かせる部位を全力で動かすが、拘束が解けることはない。
宝玉の点滅もさらに激しくなる。

「はぁっ・・・はぁっ・・・も、もう・・・力が・・・」

ヴフンッ・・・・

宝玉から光が失われた。
力強い青い光を放っていた面影はなく、表面だけが鈍く光る黒い石のようになり果てた。

ドサッ。

黒いモヤが晴れ、力なくサフィアが落下する。

「ガハハハハ!やった!ついにやったぜぇ!サフィアをぶっ倒してやったぜ〜!ガ〜ッハッハッハッハァ〜!」

マンドリルは天を仰いで高笑いした。
今まで幾度も自分の邪魔をしてきたサフィアを倒したことと、自分の作り出した怪人の強さに歓喜したためである。

「マンドリル様。」
「あん?どうしたぁ?」
「あそこに倒れているサフィアですが、私が引き取っても宜しいでしょうか。」
「構わねぇぜ。手柄を立てた部下に褒美をやんのは当然だからな。」
「はい、ありがとうございます。」

二人のやりとりを前にして、サフィアの意識は闇に堕ちて行った。
18/05/21 01:05更新 / 消毒マンドリル
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■作者メッセージ
次はエロパートだぜぇ!

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