日常/後編
カチカチカチ・・・ボーン。ボーン。
「ん、四時か」
工房で、依頼された細かな部品を作っていた親方が、顔を上げた。
目元をつまんで押した後、席を立って、フォンのもとへ向かう。
「おぉ、今日もゴッソリ減ってるな」
フォンの机にあった分解物品の山は、すでに平らになっていた。
あと数個の機械を分解すれば、全て終わるくらいになっていた。
次の機械に取り掛かろうとするフォンの肩を、親方が叩いた。
「坊主、おつかれ。今日はもういいぜ」
「えっ、まだ時間じゃないでしょう?」
フォンを知らない人なら聞こえなかったのかと思うが、親方はやれやれと息をついた。
「坊主より俺の耳がイイってのか?ありえねぇな。下手な演技すんじゃねぇよ。金とるぞ」
「う、それは、ちょっと・・・」
「だろうが。坊主は十分働いてんだ。俺がもういいっつったら、もういいんだよ」
「うぅ・・・はい。すいません」
「いいってぇことよ。ほら、片付けな」
フォンは八時出勤、昼休みを挟んで、四時終了。昼休みも長めで、合計6時間勤務である。
もちろん親方の計らいで、他の従業員(と言っても、エドウィンと工房補佐1人だけだが)と同じ給料がでる。昼休みなんか、わざと休ませようと、12時になったあと、2時まで鳴らないように細工してある。今日は遅刻した分働こうとしたのだ。
そうでもしないと、フォンは昼休みを返上してまで働こうとするのだ。
昔、エドウィンがぽろっと、給料が同じな事を言うと、「僕は仕事が楽だから」と言って、八時から四時までぶっ続けで働いたことがある。身体に異常はなかったが、その場にいなかったメリッサが、烈火の如く怒りちらし、エドウィンと親方がそれからフォンをしっかり休ませるための細工をするようになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ボーン。
「ガタッ!」
「落ち着け、メリッサ」
あぁ、メリッサが敏感に反応したってことは、もう四時か。ここの店番、午前に工場とかの人とか、壊れたもんの回収業者が来るとき以外は一般の人、あんまし来ないから時間の感覚がなくなる。
ほんでメリッサは四時になると敏感に反応する。まぁ、恋する乙女の勘(笑)なんだろうな。
「馬鹿兄貴!あたし」
「はいはい分かってるよ。アイツ送るんだろ。行ってこい」
「珍しく理解示してくれてありがとう!フォンにぃ〜!」
おお、速い速い。あっという間に工房に消えてく我が妹。しかし厳しいねぇ、あんだけアタックしてんのに、アイツは分かってないのかね?分かってるけど、知らんぷりしてんのか?
それとも・・・アレかねぇ?
うーん。ま、頑張れとしか言いようねぇな。
てか俺の出番、これで終わり?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カツン、カツン。
フォンにぃの杖が石畳を叩いて音を鳴らす。
ゆっくり歩くフォンにぃを支える私の頭はもういっぱいいっぱいだった。
(いけ、言うんだ私!今日のために色々してきたじゃない!イメトレとかイメトレとかイメトレとかっ!)
今日こそ告白する。昨日、決めたことだった。
思えば、私はフォンにぃに一目惚れしていたんだろう。
まだ私が6才とかのころ、同い年の女の子と遊ばず、フォンにぃ、ついでに馬鹿兄貴と遊んでいた。
「お兄ちゃんが好きなのねぇ」
「兄妹仲がいいこと」
そんなことをよく言われた。小さい頃はそうなんだなと勘違いしてた。自分はお兄ちゃんっ子なんだなと思ってた。
自分の気持ちにはじめて気づいたのは、フォンにぃが孤児院に入るくらいの時だった。
フォンにぃに元気がない。
フォンにぃがご飯を残す。
フォンにぃの顔が暗い。
フォンにぃをどうにかしてやりたい。
その気持ちが兄貴をどうでもいいと思わせた瞬間、私は、フォンにぃが好きなんだなと分かった。
それからずっと、フォンにぃを見て、想い続けた。
パパが私を牽制し続けていたため、世話までは手がだせなかったけど・・・
でも、それも今日で終わり。
過保護なパパは仕事で遠くの街へ出張。ママは逆に応援してくれたし。
馬鹿兄貴は・・・どうでもいい。
今日、言わなきゃ、私は一生想いを告げられないかもしれないっ!
そんな決心で、今日は来たんだ!
「ふ、フォンにぃ!」
「ん?なに、メリッサ」
えーと、えーと、次は、次はっ・・・
「えええええと、あああああのね、わたわたわた、私、ね!?」
「えっと、とりあえず、落ち着いて?」
落ち着いてる!大丈夫、フォンにぃ!落ち着いてるよ!
「わた、わった、私はね!ふ、ふぉ・・・」
フォンにぃの、事がっ!
「ん?」
私!いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!
「ふぉ、フォンデュが好きなの!」
「・・・は?」
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
何言ってんの私の馬鹿ァァァァァァッ!!!
「フォンデュって、チーズフォンデュとか、チョコフォンデュとかのやつ?」
「そっ、そうそう!あのね、そのフォンデュを出すお店がこの前オープンしたのよ!結構おいしいらしいし、今度一緒に行かない!?」
あぁ、どんどん話題が逸れてゆく・・・
「うーん。そうだね、昼ご飯に行けたら行ってみようか」
「うん、うん!私は兄貴にたかろうかなァ!」
「あはは、エド可哀想」
うぅ、しかしまだチャンスはあ・・・
サクッ。
「え?」
「お?」
フォンにぃの杖が、軟らかい土に刺さる音がした。
フォンにぃの家にまっすぐ行ける坂道の前は、まだ整備がされてなくて、土が剥き出しになっているのだ。
・・・て、ことは。
「メリッサ、今日もありがとう。ここまで来たら、あとはまっすぐだから、もう帰っても大丈夫だよ」
あああああああああっ!もうチャンスもなかったぁぁぁっ!
「え、あ、と、う、うん。わかっ、た」
・・・はっ!?こんなとこで引いてどうすんのよ!?もうフォンにぃ坂のぼりはじめちゃったけど、叫べば、聞こえる距離ッ!ここで決めろ!私!
「ふ、フォンにぃ!!」
「ん?なんだー?」
よし聞こえた!立ち止まった!振り向いた!さぁ言うんだ私!
「あ、あのねー!」
「うーん?」
「・・・また明日ねー!」
・・・私の、バーカ・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
サクッ、サクッ、サクッ。
乾いた土を杖が刺す音が続く。
坂道をのぼりきった山道をゆっくりとフォンがまっすぐ歩いて行く。
サクッ、サク・・・
不意にフォンが歩みを止めた。
「やぁ、シェリー」
その通り、前から来たシェリーが立ち止まっていた。昼間に獲った食料を抱えている。
「なんで分かったの?」
「シェリーが近づいて来たら分かるコツがあるのさ」
「え?なにそれ!?」
「ヒミツだよ」
「む、いじわる・・・んふ♪」
「ん、どうしたの?」
「べ、べっつにぃ?」
自分の居場所がわかる。そう言われて、嬉しく思うシェリーである。髪の蛇たちなんぞ、音はたてずとも、狂喜乱舞している。
2人は仲良く、並んでフォンの家に向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どうして、こうなった???
お、落ち着くのよ、アタシッ!こ、ここ、こういう時は、素数を数えるのよッ!!
1、2、3、5、7・・・あれ、7の次、なんだっけ?
いやいやいやいや、おかしいおかしいおかしいッ!!え、何がおかしいって?
この状況よッ!!
場所はお風呂。
アタシの前には、フォン。服は、着てない。タオルを腰に巻いてるだけ。
「ど、どうしたの、シェリー?はやく、しよう?」
なにこのおいしすぎて吐き気がする状況?
襲え?襲えって言ってるの?もう何年も押さえ込んだ情欲を、ここで吐き出せと?え、そうなの?現実?夢?夢なら覚めるな。
「シェリー?」
・・・・・・えぇい、ままよっ!
いただきますッ!ヒャッハー、フォンの生肌だァァァァァァァァァッ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・なんか、臭う」
ギクッ。フォンが反応する。
食器を片付けようとして、フォンの後ろから手を伸ばした時だった。
「そ、そうかなぁ?」
「うん、臭う」
間違いない。フォンだ。フォンが臭う。汗臭い。
「・・・フォ〜ン〜?」
「お、お風呂なら、ち、ちゃんと入ってるよ?」
「お風呂なんて、私、言ったかなぁ〜?」
「あ、う・・・」
まったく、もう。
フォンの悪癖。風呂嫌い。なんて子供っぽい。
目が見えないからと言っても、シャワーを浴びることさえしないのはどうかと思う。
「何日入ってないかなんて聞かないから、入りなさい」
「うぅ・・・いやだなぁ」
「駄々こねないの。なんならアタシが入れてあげようか?」
嫌がって「いいよ!一人で入るよ!」って言うのを期待して言った。
「・・・え?入れてくれる?それなら助かるなぁ」
・・・ナンデスト?
いやいや、今のは幻聴よ。そうよ。アタシがあまりにもフォンと結ばれたいとかあんなことやこんなこととかはたまたどんなこととかしたいと思ってるから変な幻聴が聞こえたのよ。そうよそうに違いなi
「あ、シェリー。大丈夫。僕は目が見えないし、へんなとこ触ったりしないから」
・・・え、マジ?マジでお風呂入る流れなのコレ?フラグが唐突すぎない?ねぇ、嘘だと言ってよバーニー。誰よバーニーって。
・・・へんなとこ触らないって言われてちょっとションボリしたのは内緒。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
うん。そうだった。そういう流れだった。
大丈夫。今は冷静。大丈夫。ちゃんと洗うから。うん。そんだけだから。
「はい、目つぶって。シャワーかけるから」
「ん・・・」
シャワーを頭からかけてやる。フォンは素直に顔を下に向けて座っている。
「大丈夫?熱かったり、冷たかったりしたら言うのよ」
「ん・・・」
小さくうなずくフォン。小さくうずくまりながらうなずくその姿は、なんか可愛くて・・・
落ち着け落ち着け落ち着けアタシ。
大丈夫イケるイケるアタシは頑張ればやれるんだから我慢しなさい我慢するのよでもあぁかわいいチロチロ、チロチロしたい・・・
ハッと気づく。もみあげあたりの蛇がハァハァしてた。
ギュッ!
「イッッッタァッ!」
「え、何!?」
「な、なんでもないわ。シャンプーするわよ」
結構痛かったけど、とりあえずもみあげ蛇をねじっといた。
シャンプーをフォンの頭に垂らして、頭を洗いはじめた。
「む、泡の出が悪い。結構、入ってないわね?」
「ご、ごめん」
もう、大きくなってもだらしないわね。まぁ一回のシャンプーで洗い流せそうね。ちゃんと頭皮まで洗ったげないと。
「うひゃっ!?くすぐったいよ!」
「我慢しなさい。もう大きいんだから」
「う、うん」
わしゃわしゃ。わしゃわしゃわしゃ。
やっとこさ泡が大量に出てきた。これをシャワーで洗い流して・・・
「はい、じゃ、シャンプー終わり」
「うん、ありがとう」
「どういたしましt」
・・・あれ?ちょっと待って?
頭を洗いましたー、流しましたー。
・・・次って・・・
・・・身体?・・・
いやいやいやいや、ないないないない。流石にそこはフォンだって拒否るはずよだって身体よ身体なのよ下手なことしたらポロリでワーォな展開になってしまうのよ?
いやアタシにとっちゃある意味願ったり叶ったりなご褒美なんだけども流石にちょっと早過ぎるっていうかそんなご褒美出されたら理性ががががが・・・
「あ、シェリー?あのさ、もう少し、お願いしたいんだけど・・・」
ご褒美キターーーー\(◎□◎)/ーーーーーーッ!?
「背中だけお願いできるかな?」
おおおおおちつけアタシィ!とりあえずヨダレを拭k・・・え?
「え、あ、背中だけ?も、もちろん、いいわよ!?」
「ありがとう。背中はいつもしっかり洗いにくくてさ」
そ、そうよねー。あり得ないわよね、前は。そうよね・・・ははは・・・orz
「それじゃ、洗うからね」
「うん」
フォンも自分でタオルを濡らして石鹸をつけ始めた。
アタシはフォンの肩に手を置いて、背中を洗う。
布と肌がこすれてゴシゴシという音だけがする。
(・・・結構、肩はがっしりしてる)
フォンはパッと見、ひょろっとしてるように見えるけど、触ってみるとへにゃへにゃではなかった。
・・・普段アタシは、フォンにできるだけ触らないようにしてるから、わからなかった。
なぜ触らないようにしてるかって?べたべた触って、フォンに正体バラしたくないからよ。
本当は、今だって抱きつきたいけど、下半身や頭を触られたら、一発でバレちゃう。それで嫌われるのは・・・嫌だから。
(・・・って、なにしんみりしてんのかしら。馬鹿みたい)
今はフォンの背中を洗うことに集中、集中。あ、痛くないかな?
「フォン、力加減はだいじょう・・・ぶっ!!?」
・・・ワーォ。
「え?あ、うん。痛くないよ」
・・・あ、ありのままおこった事を話すわ。
力加減を聞くために顔を覗きこもうとしたら、いつのまにか、フォンの腰のタオルがずれているのを目撃してしまった。
訳が分からないおいしいシチュエーションっていうか見えてる見えてる見えてる見えてるフォンの(自主規制)がッ!?
「あれ、シェリー?どうしたの?」
・・・結構デカい・・・いや他の野郎の(自主規制)なんて見た事ないけど、昔見た、お父さんのやつとトントンじゃないのかなコレ。お父さんの自慢って、コレが大きいことだったはずだからするとフォンって隠れたきょこ・・・
「シェリー?なんかポタポタ垂れてんだけど、天井の水滴?」
「・・・ふぇ?」
ふっと鏡を見ると。
鼻血をボッタボタに流すアタシがいた。
「ん、四時か」
工房で、依頼された細かな部品を作っていた親方が、顔を上げた。
目元をつまんで押した後、席を立って、フォンのもとへ向かう。
「おぉ、今日もゴッソリ減ってるな」
フォンの机にあった分解物品の山は、すでに平らになっていた。
あと数個の機械を分解すれば、全て終わるくらいになっていた。
次の機械に取り掛かろうとするフォンの肩を、親方が叩いた。
「坊主、おつかれ。今日はもういいぜ」
「えっ、まだ時間じゃないでしょう?」
フォンを知らない人なら聞こえなかったのかと思うが、親方はやれやれと息をついた。
「坊主より俺の耳がイイってのか?ありえねぇな。下手な演技すんじゃねぇよ。金とるぞ」
「う、それは、ちょっと・・・」
「だろうが。坊主は十分働いてんだ。俺がもういいっつったら、もういいんだよ」
「うぅ・・・はい。すいません」
「いいってぇことよ。ほら、片付けな」
フォンは八時出勤、昼休みを挟んで、四時終了。昼休みも長めで、合計6時間勤務である。
もちろん親方の計らいで、他の従業員(と言っても、エドウィンと工房補佐1人だけだが)と同じ給料がでる。昼休みなんか、わざと休ませようと、12時になったあと、2時まで鳴らないように細工してある。今日は遅刻した分働こうとしたのだ。
そうでもしないと、フォンは昼休みを返上してまで働こうとするのだ。
昔、エドウィンがぽろっと、給料が同じな事を言うと、「僕は仕事が楽だから」と言って、八時から四時までぶっ続けで働いたことがある。身体に異常はなかったが、その場にいなかったメリッサが、烈火の如く怒りちらし、エドウィンと親方がそれからフォンをしっかり休ませるための細工をするようになった。
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ボーン。
「ガタッ!」
「落ち着け、メリッサ」
あぁ、メリッサが敏感に反応したってことは、もう四時か。ここの店番、午前に工場とかの人とか、壊れたもんの回収業者が来るとき以外は一般の人、あんまし来ないから時間の感覚がなくなる。
ほんでメリッサは四時になると敏感に反応する。まぁ、恋する乙女の勘(笑)なんだろうな。
「馬鹿兄貴!あたし」
「はいはい分かってるよ。アイツ送るんだろ。行ってこい」
「珍しく理解示してくれてありがとう!フォンにぃ〜!」
おお、速い速い。あっという間に工房に消えてく我が妹。しかし厳しいねぇ、あんだけアタックしてんのに、アイツは分かってないのかね?分かってるけど、知らんぷりしてんのか?
それとも・・・アレかねぇ?
うーん。ま、頑張れとしか言いようねぇな。
てか俺の出番、これで終わり?
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カツン、カツン。
フォンにぃの杖が石畳を叩いて音を鳴らす。
ゆっくり歩くフォンにぃを支える私の頭はもういっぱいいっぱいだった。
(いけ、言うんだ私!今日のために色々してきたじゃない!イメトレとかイメトレとかイメトレとかっ!)
今日こそ告白する。昨日、決めたことだった。
思えば、私はフォンにぃに一目惚れしていたんだろう。
まだ私が6才とかのころ、同い年の女の子と遊ばず、フォンにぃ、ついでに馬鹿兄貴と遊んでいた。
「お兄ちゃんが好きなのねぇ」
「兄妹仲がいいこと」
そんなことをよく言われた。小さい頃はそうなんだなと勘違いしてた。自分はお兄ちゃんっ子なんだなと思ってた。
自分の気持ちにはじめて気づいたのは、フォンにぃが孤児院に入るくらいの時だった。
フォンにぃに元気がない。
フォンにぃがご飯を残す。
フォンにぃの顔が暗い。
フォンにぃをどうにかしてやりたい。
その気持ちが兄貴をどうでもいいと思わせた瞬間、私は、フォンにぃが好きなんだなと分かった。
それからずっと、フォンにぃを見て、想い続けた。
パパが私を牽制し続けていたため、世話までは手がだせなかったけど・・・
でも、それも今日で終わり。
過保護なパパは仕事で遠くの街へ出張。ママは逆に応援してくれたし。
馬鹿兄貴は・・・どうでもいい。
今日、言わなきゃ、私は一生想いを告げられないかもしれないっ!
そんな決心で、今日は来たんだ!
「ふ、フォンにぃ!」
「ん?なに、メリッサ」
えーと、えーと、次は、次はっ・・・
「えええええと、あああああのね、わたわたわた、私、ね!?」
「えっと、とりあえず、落ち着いて?」
落ち着いてる!大丈夫、フォンにぃ!落ち着いてるよ!
「わた、わった、私はね!ふ、ふぉ・・・」
フォンにぃの、事がっ!
「ん?」
私!いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!
「ふぉ、フォンデュが好きなの!」
「・・・は?」
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
何言ってんの私の馬鹿ァァァァァァッ!!!
「フォンデュって、チーズフォンデュとか、チョコフォンデュとかのやつ?」
「そっ、そうそう!あのね、そのフォンデュを出すお店がこの前オープンしたのよ!結構おいしいらしいし、今度一緒に行かない!?」
あぁ、どんどん話題が逸れてゆく・・・
「うーん。そうだね、昼ご飯に行けたら行ってみようか」
「うん、うん!私は兄貴にたかろうかなァ!」
「あはは、エド可哀想」
うぅ、しかしまだチャンスはあ・・・
サクッ。
「え?」
「お?」
フォンにぃの杖が、軟らかい土に刺さる音がした。
フォンにぃの家にまっすぐ行ける坂道の前は、まだ整備がされてなくて、土が剥き出しになっているのだ。
・・・て、ことは。
「メリッサ、今日もありがとう。ここまで来たら、あとはまっすぐだから、もう帰っても大丈夫だよ」
あああああああああっ!もうチャンスもなかったぁぁぁっ!
「え、あ、と、う、うん。わかっ、た」
・・・はっ!?こんなとこで引いてどうすんのよ!?もうフォンにぃ坂のぼりはじめちゃったけど、叫べば、聞こえる距離ッ!ここで決めろ!私!
「ふ、フォンにぃ!!」
「ん?なんだー?」
よし聞こえた!立ち止まった!振り向いた!さぁ言うんだ私!
「あ、あのねー!」
「うーん?」
「・・・また明日ねー!」
・・・私の、バーカ・・・
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サクッ、サクッ、サクッ。
乾いた土を杖が刺す音が続く。
坂道をのぼりきった山道をゆっくりとフォンがまっすぐ歩いて行く。
サクッ、サク・・・
不意にフォンが歩みを止めた。
「やぁ、シェリー」
その通り、前から来たシェリーが立ち止まっていた。昼間に獲った食料を抱えている。
「なんで分かったの?」
「シェリーが近づいて来たら分かるコツがあるのさ」
「え?なにそれ!?」
「ヒミツだよ」
「む、いじわる・・・んふ♪」
「ん、どうしたの?」
「べ、べっつにぃ?」
自分の居場所がわかる。そう言われて、嬉しく思うシェリーである。髪の蛇たちなんぞ、音はたてずとも、狂喜乱舞している。
2人は仲良く、並んでフォンの家に向かった。
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どうして、こうなった???
お、落ち着くのよ、アタシッ!こ、ここ、こういう時は、素数を数えるのよッ!!
1、2、3、5、7・・・あれ、7の次、なんだっけ?
いやいやいやいや、おかしいおかしいおかしいッ!!え、何がおかしいって?
この状況よッ!!
場所はお風呂。
アタシの前には、フォン。服は、着てない。タオルを腰に巻いてるだけ。
「ど、どうしたの、シェリー?はやく、しよう?」
なにこのおいしすぎて吐き気がする状況?
襲え?襲えって言ってるの?もう何年も押さえ込んだ情欲を、ここで吐き出せと?え、そうなの?現実?夢?夢なら覚めるな。
「シェリー?」
・・・・・・えぇい、ままよっ!
いただきますッ!ヒャッハー、フォンの生肌だァァァァァァァァァッ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「・・・なんか、臭う」
ギクッ。フォンが反応する。
食器を片付けようとして、フォンの後ろから手を伸ばした時だった。
「そ、そうかなぁ?」
「うん、臭う」
間違いない。フォンだ。フォンが臭う。汗臭い。
「・・・フォ〜ン〜?」
「お、お風呂なら、ち、ちゃんと入ってるよ?」
「お風呂なんて、私、言ったかなぁ〜?」
「あ、う・・・」
まったく、もう。
フォンの悪癖。風呂嫌い。なんて子供っぽい。
目が見えないからと言っても、シャワーを浴びることさえしないのはどうかと思う。
「何日入ってないかなんて聞かないから、入りなさい」
「うぅ・・・いやだなぁ」
「駄々こねないの。なんならアタシが入れてあげようか?」
嫌がって「いいよ!一人で入るよ!」って言うのを期待して言った。
「・・・え?入れてくれる?それなら助かるなぁ」
・・・ナンデスト?
いやいや、今のは幻聴よ。そうよ。アタシがあまりにもフォンと結ばれたいとかあんなことやこんなこととかはたまたどんなこととかしたいと思ってるから変な幻聴が聞こえたのよ。そうよそうに違いなi
「あ、シェリー。大丈夫。僕は目が見えないし、へんなとこ触ったりしないから」
・・・え、マジ?マジでお風呂入る流れなのコレ?フラグが唐突すぎない?ねぇ、嘘だと言ってよバーニー。誰よバーニーって。
・・・へんなとこ触らないって言われてちょっとションボリしたのは内緒。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
うん。そうだった。そういう流れだった。
大丈夫。今は冷静。大丈夫。ちゃんと洗うから。うん。そんだけだから。
「はい、目つぶって。シャワーかけるから」
「ん・・・」
シャワーを頭からかけてやる。フォンは素直に顔を下に向けて座っている。
「大丈夫?熱かったり、冷たかったりしたら言うのよ」
「ん・・・」
小さくうなずくフォン。小さくうずくまりながらうなずくその姿は、なんか可愛くて・・・
落ち着け落ち着け落ち着けアタシ。
大丈夫イケるイケるアタシは頑張ればやれるんだから我慢しなさい我慢するのよでもあぁかわいいチロチロ、チロチロしたい・・・
ハッと気づく。もみあげあたりの蛇がハァハァしてた。
ギュッ!
「イッッッタァッ!」
「え、何!?」
「な、なんでもないわ。シャンプーするわよ」
結構痛かったけど、とりあえずもみあげ蛇をねじっといた。
シャンプーをフォンの頭に垂らして、頭を洗いはじめた。
「む、泡の出が悪い。結構、入ってないわね?」
「ご、ごめん」
もう、大きくなってもだらしないわね。まぁ一回のシャンプーで洗い流せそうね。ちゃんと頭皮まで洗ったげないと。
「うひゃっ!?くすぐったいよ!」
「我慢しなさい。もう大きいんだから」
「う、うん」
わしゃわしゃ。わしゃわしゃわしゃ。
やっとこさ泡が大量に出てきた。これをシャワーで洗い流して・・・
「はい、じゃ、シャンプー終わり」
「うん、ありがとう」
「どういたしましt」
・・・あれ?ちょっと待って?
頭を洗いましたー、流しましたー。
・・・次って・・・
・・・身体?・・・
いやいやいやいや、ないないないない。流石にそこはフォンだって拒否るはずよだって身体よ身体なのよ下手なことしたらポロリでワーォな展開になってしまうのよ?
いやアタシにとっちゃある意味願ったり叶ったりなご褒美なんだけども流石にちょっと早過ぎるっていうかそんなご褒美出されたら理性ががががが・・・
「あ、シェリー?あのさ、もう少し、お願いしたいんだけど・・・」
ご褒美キターーーー\(◎□◎)/ーーーーーーッ!?
「背中だけお願いできるかな?」
おおおおおちつけアタシィ!とりあえずヨダレを拭k・・・え?
「え、あ、背中だけ?も、もちろん、いいわよ!?」
「ありがとう。背中はいつもしっかり洗いにくくてさ」
そ、そうよねー。あり得ないわよね、前は。そうよね・・・ははは・・・orz
「それじゃ、洗うからね」
「うん」
フォンも自分でタオルを濡らして石鹸をつけ始めた。
アタシはフォンの肩に手を置いて、背中を洗う。
布と肌がこすれてゴシゴシという音だけがする。
(・・・結構、肩はがっしりしてる)
フォンはパッと見、ひょろっとしてるように見えるけど、触ってみるとへにゃへにゃではなかった。
・・・普段アタシは、フォンにできるだけ触らないようにしてるから、わからなかった。
なぜ触らないようにしてるかって?べたべた触って、フォンに正体バラしたくないからよ。
本当は、今だって抱きつきたいけど、下半身や頭を触られたら、一発でバレちゃう。それで嫌われるのは・・・嫌だから。
(・・・って、なにしんみりしてんのかしら。馬鹿みたい)
今はフォンの背中を洗うことに集中、集中。あ、痛くないかな?
「フォン、力加減はだいじょう・・・ぶっ!!?」
・・・ワーォ。
「え?あ、うん。痛くないよ」
・・・あ、ありのままおこった事を話すわ。
力加減を聞くために顔を覗きこもうとしたら、いつのまにか、フォンの腰のタオルがずれているのを目撃してしまった。
訳が分からないおいしいシチュエーションっていうか見えてる見えてる見えてる見えてるフォンの(自主規制)がッ!?
「あれ、シェリー?どうしたの?」
・・・結構デカい・・・いや他の野郎の(自主規制)なんて見た事ないけど、昔見た、お父さんのやつとトントンじゃないのかなコレ。お父さんの自慢って、コレが大きいことだったはずだからするとフォンって隠れたきょこ・・・
「シェリー?なんかポタポタ垂れてんだけど、天井の水滴?」
「・・・ふぇ?」
ふっと鏡を見ると。
鼻血をボッタボタに流すアタシがいた。
11/04/10 17:02更新 / ganota_Mk2
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