連載小説
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『優しさ』(シリアス注意)

・・・チュンチュン・・・

小鳥が鳴き、朝を告げる。

「・・・眠い・・・」

シェリーは、ベッドで寝ぼけ眼を擦った。

「・・・フォン・・・」

ふと隣を見る。

いつも隣で寝ていた愛しの彼は、いない。

「・・・もっぺん、寝よ・・・」

しゅんとテンションを下げ、ぼふっと枕に髪の蛇たちごと頭をうずめる。

そして、瞼を閉じた・・・





「い、つ、ま、で、寝てる気だい!こんのバァカ娘ェッ!!!」





『バコワァァァァン!!!』

力のこもりまくったフライパンの殴打音がシェリーの部屋に響いた!

「ッ!?ッ!!ッ!?!?」

殴られた後頭部を押さえ、ベッドの上でシェリーが痛みにもんどり打つ。

「まったく!20過ぎて母親に朝起こさせる気かい!?フォン坊やがいないからって気を緩ませるんじゃないよ!」

ベッドの横に立つのは、ロングヘアー、いや、シェリーの2倍近い長さの蛇たちを頭から垂らした、グラマラスなメデゥーサ。

「・・・おはよう、ママ・・・」

「はい、おはよう」

そう。
シェリーの母、リディアである。


・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・

「まったく、花嫁修行も若い頃からさせとくべきだったね・・・7時過ぎてもまだ寝てるなんて・・・」

フォン宅の居間。
起こされたシェリーを迎えたのは、母の簡単な手料理。リディアが怒っていたのは、シェリーがご飯を作ってる間にも起きてこなかったことにあった。

「でもママ・・・いつもフォンが起きるのが7時くらいだし、仕事のことを考えても7時半に起きても間に合う・・・」



「そこがバカだと言ってるんだよっ!!!」



『バコワァァァァン!!!』

トーストを齧りながら文句をポツリとこぼしたシェリー。
その瞬間、リディアからのフライパンクラッシュ(今命名)が炸裂!シェリーは、頭を押さえて涙を流した。

「いだい・・・いだいよ、ママ・・・」

しかし、構わずリディアは説教を始めた。

「いいかいシェリー!?アタシたち魔物は、旦那を満足させ、精を搾り取ることが仕事だと言ってもいい!そのためには!旦那に飽きられないようにありとあらゆる誘惑の手口を!普段からできるようにしなければならない!旦那に起きる時間を合わせたら、仕込みも出来てない料理をいきなりだす上、早起きして裸エプロンを着て『おはよう、アナタ♪』という戦法だって取れないんだよ!!」

「だ、だって・・・フォンは目が見えないんだから、ベッドからここまで連れてきてあげないと・・・」

「ボウヤだってひとりでこんくらいの距離は歩けるだろう!『甘やかす』=『愛してる』と勘違いするんじゃない!時に厳しく!後に多いに愛する!そうしないと、ただでさえ慌てん坊でダメっ娘なアンタなんか、いくら優しい坊やでさえつけあがって、他の女に手を出すようになっちまうよ!」

「ふ、フォンはそんな男じゃな・・・」

「今はね!だけどアンタの態度次第では変わるかもしれないんだよ!アンタが努力しないといけないんだよ!男を捕まえるのは魔物特有の魅力だけじゃない!努力!自分を磨き、男を惚れさせる努力なんだよ!美貌なんて年食えばいくらでも衰えるんだ!女としての努力はひと時も欠いちゃいけないんだ!わかったかい!!?」

勢い、声量、テンポ。
どれをとっても凄まじい気迫を感じさせる説教に、シェリーは頷くしかなかった。

すると、リディアの表情と口調が一変した。

「・・・わかればいいんだよ。アンタなりに考えてることもあるんだろう、努力してることもあるんだろう。でもね、まだ足りないんだ。もう少し頑張りな?いいね?」

柔らかな微笑。諭すような声。
どちらも、親が子を優しく諌める時に使うものだった。

「・・・うん。ごめんなさい、ママ」

「謝ることはないんだよ。これから変えればいいんだから。さぁ、朝ごはんを食べちまって、アタシたちの旦那様のお弁当を作るよ。早くしな」



「・・・えっと、あの、今までの会話は僕が聞いていてもいいものだったんでしょうか?」



最初から、そう、リディアの説教の最初からいたフォンが頬を掻きながら、尋ねた。

「いいんだよ。ボウヤに対する釘打ちも兼ねてるんだから」

「僕は浮気しませんよ。生涯シェリー一筋です。絶対です」

「フォン・・・///」

「むぅ・・・こんなセリフ、あの人は恥ずかしがって言ってくれないねぇ・・・羨ましい。娘ながら」

リディアが言うと、シェリーが照れた。

「えへへ・・・そう?」


『バシッ!』

リディアの平手打ちが炸裂した。

「あんたを褒めたんじゃない!!」

「・・・はい」


「・・・・・・・・・」


その様子を聞いているフォンの表情は笑っていた。

が、どこか、違和感があった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

リディアがウィルベルに訪れた日。
リディアは、少しの間、シェリーとともに暮らすことを独断で決めた。

『なってない!こんなまんま、ボウヤにシェリーはあげられないよ!ボウヤが可哀想だ!』

と、こんな調子である。
結局、リディアの雷が恐く、シェリーはフォンとの添い寝をやめている。実際していれば、雷どころか、槍が落ちても不思議でない。リアル槍が。

そして、リディアを含めた、三人の暮らしが、数日間続いていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はい、アーンタ♪アタシの愛情たっぷりのお弁当♪」

「おぉ!リディアの作った弁当か!昼飯が楽しみだ!」

「いやん♪そんなに喜んだって、出るのはアンタのせ、い、え、き、よ♪」

「ははは!よーし、今晩は頑張るか!寝かさんぞぉ!?」

「やーん、ケダモノォー♪」



「「・・・・・・えぇ?」」



工房オヤカタ。
初めてリディアが店に現れてからの親方の変貌っぷりに、メリッサとエドは目を丸くした。

「えっ、ちょっ・・・はぁ?」

「なに驚いてんの?アンタたち?」

「ちょ、シェリーさん?親方のあれは・・・なんなんだ?」


「ははは・・・♪」
「うふふ・・・♪」


いつのまにか親方とリディアは抱き合い、笑いあっていた。もうほっといたらキスまでしそうな勢いである。

「ママが怒ってなければ、パパとママはあんなんよ?ベタベタのデレデレ。今はもうパパもママに怒られることもないし、はっちゃけてるんでしょ」

「・・・ありえない・・・」

「親方って、あんな笑い方するんだな・・・」


「・・・・・・・・・」


「・・・ん?」

ふとエドが気づく。フォンの眉が下がり、困ったような顔をしていたのだ。いや、どちらかといえば、落ち込んだような顔だろうか。

「おい、どうした、フォン?」

「・・・えっ?なに?」

しかし、エドが声をかけると、いつもの明るい笑顔になった。

「あ、いや、なんつーか・・・ま、いいや」

「ははっ、へんなエド」


「よし、お前ら、仕事だ、仕事!エドもフォンもサボるんじゃねぇぞ」


いつもの親方になっていた親方が、フォンとエドの肩を叩いた。

「へーい」
「はい、じゃあね、シェリー」

「いってらっしゃい、フォン」

そうして、店の中には・・・

「・・・で、あんたはいつまでいるんですか、シェリーさぁん?」
「・・・はいぃ?アンタには関係ないでしょ、メリッサァ?」

いつもの戦争メンバーが。

「・・・ホントこいつらは・・・おい、メリッサ。やめ・・・」

エドが止めようとした時。



『ゴッ!!!!』



「ぎゃびっ!?」

「あぁら、ごめんなさいメリッサちゃん。私たち、仕事の邪魔よね。今すぐ帰るわ。ほんと、ごめんなさいね?」

外向き若奥様フェイスを貼り付けたリディアの鉄拳がシェリーの後頭部をどつき、ズルズルとひきずっていった。

「ほら、シェリー?ちゃぁんと立って歩きなさい?街の皆様が馴染まないからって言ってくれるから、蛇のままで歩くけど、せめて姿勢は人の時のように、シャキッとしなさいねぇ?」

「は、はい、ママ・・・」

『カランカラン・・・』

そんな会話をして、シェリーとリディアは、店を出ていった。

「・・・ひひひ、ざまぁみろ」

「・・・メリッサ、お前、だんだん性格ひどくなってねぇ?」

そして、エドとメリッサも、仕事をはじめた・・・

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・なんでもなーい♪なんでもなーい♪こーいーのまほーおでー♪」

すっごい低音ボイスで、親方がお気に入りの歌を鼻歌交じりで歌いながら、仕事をしていた。

「あっとゆまーに、あっとゆまー・・・ん?」

ふと、親方がフォンの方を見た。



フォンの手が止まっていた。

目が見えない彼だが、まるでなにか虚空にあるものを見つめるように、ぼーっと顔を上げて、作業をやめていた。

「おい、坊主!どうした!手ぇ、止まってんぞ!」

「・・・えっ、あっ、ごめんなさい!」


親方が叫ぶと、はっとしたかのように我を取り戻して、フォンは手を動かした。

親方は、首をかしげた。
いつものフォンは一度仕事を始めれば、シェリーが来るまでずっと仕事を続けていた。昼休みの合図の時計の音も無視しても、だ。

ところが、最近のフォンはおかしかった。
ミスはしないものの、ふとした時、手を止めて魂が抜けたようなふうになる。

親方はすこし心配になり、フォンに尋ねた。

「おい坊主、どっか具合でもわりぃのか、え?」

「え、いや、そんなことないですよ?」

フォンは親方の方を向き、はにかんで応えた。

「嘘つけ。最近、ちょこちょこボーッとしやがって。なんだ?とうとう給料泥棒の要領でも得たのか?」

「まさか!それこそ絶対ないですよ!」

「なら正直に話せバカ。こちとらおちおち作業に集中できやしねぇ。それともなにか?俺に言いにくいことなのか?え?まさかとは思うが、シェリーのことか?」

すると、フォンのはにかんだ表情が消えた。

「あ、いや、そういうわけじゃ・・・」

親方は驚いた。
ここ数ヶ月、フォンとシェリーが同棲をはじめてから、フォンは一切こんな仕種を見せなかったが、まさかシェリーに問題があったとは思わなかったからだ。

「な、なんだ?シェリーがなんかしたのか?え?言ってみろ?怒りゃしねぇからよ」

フォンがうつむいて、不安がつのった親方がしつこく食い下がる。

するとフォンは顔をあげて、またはにかんで、小さく言った。


「・・・ただ、親子っていいなって、思っただけですから・・・」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

夕方。
親方の店の扉が開いた。

『カラン、カラン♪』

「いらっしゃ・・・あぁ、リディアさん・・・うわぁ・・・」


「どうもエドくん。ご苦労様」

「・・・・・・(ぐったり)」


ニコニコ笑うリディアの後ろには、今日も一日しぼられたのか、シェリーがいかにもしんどそうな顔をしていた。

(メリッサが見たら絶対からかう姿だ・・・先に帰らせてよかったぜ・・・)

ふぅ、とエドが息を吐くと、奥からフォンが出てきた。

「リディアさん、毎回すいません」

「あらいいのよ、ボウヤ。これくらいどうってことないわよ」

フォンがお礼を言い、リディアが笑うと。


『ふらふら・・・ポフ』


シェリーが、フォンに力無く抱きついた。

「ふ、ふぉん、あたし、つかれた・・・はやく、かえろう?」

シェリーがフォンに言う・・・が、その目は死にかけている。どーいうことを家でしたらこうなるのだろうか。家事、おそるべし・・・

「え、あ、うん」

「ちょっと待った」

その時、親方が出てきた。

「あらあなた♪どうしたの?」

リディアがとても嬉しそうに猫なで声を出す。ところが、親方は真面目な声のトーンで続けた。



「・・・リディアだけ、残ってくれ。フォン、シェリー、先に帰っとけ」



・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・


「・・・疲れたぁ〜!パパ、ナイス!」

家にたどり着き、フォンを椅子に座らせた瞬間に、糸が切れた人形のように勢いよく椅子に座ったシェリーが言葉を吐き出した。

「あはは、お疲れ様」

「フォン、あははって笑い事ですまされるレベルじゃないのよ?もう洗濯ひとつとっても、洗い方が荒いだの、畳み方が悪いだの・・・すごいしんどかったんだから・・・」

身体だけでなく、髪の蛇たちまでぐったりしたシェリーが愚痴りはじめる。

「そりゃあ、ママに比べたらアタシのスキルは低いけどさぁ・・・だけどあんなぐだぐだ、ぐだぐだ・・・もう嫌んなるわよ」

「・・・・・・」

シェリーは気づいてなかった。

「もうこれが何日も続くのを考えたら、頭痛くなってくるわ。まったく、心配しすぎなのよ、ママは」

「・・・・・・・・・」

フォンの表情が、みるみる難しくなっていることに。



「さっさと帰ってくれたらいいのに」





「そんなこと言うなよッ!」





『ドガンッ!!』

瞬間。空気が凍った。

我慢ならなくなったように、フォンが大声で怒って、机に拳を打ちつけた。

シェリーは目を丸くして驚いた。しかし、自分のなにがフォンを怒らせたのか一瞬分からず、心底慌てていた。

「・・・ご、ごめん。大きな声、出して・・・」

先に口を開いたのはフォンだった。
頭を下げ、小さな声で謝った。

「・・・あ、う、うぅん。あの、フォン、急に、どうしたの?なにか、アタシ、変なこと、言った?」

「・・・リディアさんが、早く帰らないかなって、言った・・・」

うつむいたまま、フォンは小さく続けた、



「ダメだよシェリー。そんなこと、言っちゃ・・・『親は、いついなくなるか、わかったものじゃないんだから・・・』」



この時、はじめてシェリーは気づいた。そして、激しく後悔した。


どうして、フォンの前で親の悪口なんか言ったのだろうか、と。


たとえシェリーの親のことでも、言うべきではなかったと、はじめて思った。

「あ、あの・・・え、と・・・」

シェリーは、言葉が出なかった。
なにを言えばいいんだろう?
なんて謝ればいいんだろう?

いや、謝って埋まる溝なんだろうか。
そう、シェリーは思った。

思えばシェリーは、無意識に見せつけていたのだ。


シェリーと、リディアの、親子仲を。


フォンが小さい頃に失った、失ってはいけない、大切な、大切な絆。


それを貶すようなことを言ったシェリーは、一体なんなんだろうか。


「・・・・・・」
「・・・・・・」


二人を沈黙が包んだ。

(・・・アタシってば、なんてバカなのよ・・・バカ、バカ!)

シェリーは、今すぐこの家から出て行きたい衝動にさえ駆られた。

(・・・きっと、シェリーは自分を責めてる・・・なんで言っちゃたんだよ!?僕が我慢すりゃよかったのに!)

フォンは、シェリーを追い詰めてしまったことの申し訳なさに似た感覚で、己を縛り付けていた。


・・・どれくらい、経ったんだろうか?


『ガチャッ!バタン!!』


荒々しい扉の開閉音とともに、尻尾を引きずる音がした。
リディアが帰ってきたのだ。

「ッ・・・」
(今、入ってこられてはマズイ。フォンをさらに傷つけるかも知れない。)

そう思ったシェリーは、廊下にでて、リディアを遮るように立った。

「あ、ママ・・・あの・・・」





「邪魔。どきなさい」





するとリディアは迷わずシェリーを突き飛ばし、部屋に入った。

「ちょっ、ママ!?」

そして、リディアは無言でフォンに近づいた。
音でわかったフォンは顔をあげ、リディアに笑いかけた。

「・・・あ、リディアさん、おかえりなさ・・・」





「こんの馬鹿ガキがァァァァッ!!」





その笑顔に、リディアの右ストレートが直撃した!!!
フォンは椅子ごと吹き飛ばされ、床に激突。わけもわからない痛みに、フォンは鼻を押さえて驚いていた。

「まっ!?ママ!?ななな!?なにしてるの!?」

「黙ってなさい、シェリー!私はこのガキにムカついてるんだよ!!ちょっと固まってな!!」

『ギロォッ!』

リディアの睨みに、シェリーが固まった。たとえ同族でも、リディアとシェリーには格段の魔力の差があった。シェリーは意識があるものの、指一本動かせない状態だった。

(ちょっ、ママ!?なにしてるのよぉ!?)←口がきけない

次にリディアは、あろうことかフォンの胸ぐらを掴み上げ、フォンを無理やり立たせた。

「うぐっ!?り、リディアさん・・・?」

「こんの・・・」

次の瞬間!

『パシィンッ!』
張り手。


「バカで!」


『パシィンッ!』
もうひとつ、張り手。


「間抜けな!」


『グルっ・・・』
最期に。


「ド阿呆がぁぁぁぁっ!!!」


『ドガァッ!!!』
背負い投げ。

「い、いだい・・・な、なんで・・・?」

フォンは、今、もう自分がどういう状況なのか、なんでこんなボコボコにされてるのか、わけが分からずに痛みに耐えていた。

(ちょっ、まっ、ママ!?なに!?狂った!?狂ったの!!?)

シェリーは石化しても意識があるがために、もう目の前の惨状にパニックに陥りかけていた。

「・・・あの人に聞いたよ。ボウヤ。なに?アンタ、今までアタシとシェリーの仲から一歩くらい引いてたのかい?えぇ!?」

またリディアがフォンの胸ぐらを掴み上げた。

「げほっ・・・だ、だって、僕は、リディアさんの子じゃないですし・・・シェリーだって、久しぶりのお母さんとの生活だから・・・僕が変に干渉したら、邪魔だろうと、思って・・・」

「・・・こんのっ・・・」

すると今度はリディアは。





『ギュッ・・・』





「・・・え?」

(・・・ママ?)



リディアは優しく、フォンを抱きしめた。



「馬鹿っ、ホント、馬鹿だよ、ボウヤ。それで自分がひとりぼっちになって、死んだ両親思い出して、悲しくなって、またひとりぼっちになって・・・なんでそんな自分を労わらないんだい?」



リディアは我が子にするように、フォンの頭を撫でている。そのリディアの目には、涙が流れていた。



「アンタはね、うちの娘の旦那なんだ。アタシにとっちゃもう、アンタだって、大切な家族なんだ。血はつながってなくても、アンタはアタシの大切な『息子』なんだよ」



「・・・え・・・」

フォンの小さな声がした。
リディアはフォンを抱きしめながら、片手で涙を拭いながら続けた。



「なにが、え、だい。水臭いじゃないか。ひとりで悩んでさ、アタシだけじゃなく、シェリーにまで遠慮して・・・アンタだって寂しいなら、アタシに甘えたっていいんだよ。家族なんだ。母親代わりにしてくれたっていいんだ。アンタは独りじゃないんだよ・・・今だって、泣きたきゃ泣いてもいいんだよ」



・・・フォンには、心に刺さる言葉だった。

辛いのではない。
迷惑でもない。
怒るなんてもってのほか。

・・・シェリーには求めなかった、別の『優しさ』が、フォンの心をぐしゃぐしゃにした。

「・・・うっ、ぐっ・・・」

耐えられなかった。
シェリーがいて不服だったわけがない。
シェリーがいて間違いなく充足した生活。
それでも、彼には違うベクトルの『優しさ』が、足りなかった。

「ごめんね、ごめんよ。気づいたげられなくて。アンタも、寂しかったのに、必死に隠して・・・もういいんだよ。さらけだしていいんだよ」

「ひっ、ぐすっ、う、うぅ・・・」

(・・・フォン・・・)



『親の暖かさ』が、フォンは欲しかった。


「うぅっ・・・うわぁぁぁぁ・・・」


フォンは、リディアの胸の中で、泣いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「全く。泣き疲れて寝ちまうなんて、ホント子供だね、坊やは」

フォンはベッドの上で安らかな寝息をたてていた。

泣いて、泣いて。感情を爆発させたフォン。彼の寝顔は、安らかだった。


「・・・むぅ〜・・・」


逆に、シェリーは不満そうな表情だった。

「・・・なぁんでヘソ曲げてるんだい?」

「べっつに。ママに嫉妬なんかしてませんよーだ」

「あっははは!なるほどねぇ!だけどアンタに母性を感じるなんざ流石にボウヤでも無理だよ!あっははは!」

「笑い過ぎ!もういい!アタシも疲れたから。もう寝る!ママがなんと言おうと寝る!」

そう言って、シェリーは部屋をでて行こうとした。

「バカ。シェリー、どこ行くんだい。今日くらい、坊やに添い寝してやりな」

「・・・へっ!?いいの!?」

リディアの発言に、シェリーは驚き半分、嬉しさ半分という表情で振り返った。

「今日はアタシはあの人の部屋で寝るからね。今ごろあの人、きっとベッドで待ってるわ♪」

「・・・あぁ、なるほどね・・・」
(惚気かよ・・・)

要は『今日は親がハッスルするからお前らもハッスルしていいよ』ってことである。フォン爆睡しているが。

「それじゃ、行ってきま〜す♪明日、遅刻すんじゃないわよ?」

「はいはい、いってらっしゃい」

るんるんと足取り?軽くリディアが部屋を出ていくと、シェリーはゆっくりと、フォンの横に寝そべった。

「・・・ま、フォンと寝れるだけでも、いっか」

「・・・すぅ・・・すぅ」

「・・・おやすみ、フォン。また明日♪」

眠るフォンの頬にキスをすると、シェリーは顔を赤らめながら、瞳を閉じた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ちなみに次の日。朝一でリディアの怒号が工房オヤカタに響き渡った。



「遅刻すんなっつっただろうがァァァッ!!!」

「ごめんなさい!」
「ごめんなさい!」

「許さんッ!!!お前ら尻だせ!尻叩きだよっ!!!」

「やぁだぁぁぁぁっ!!」
「えっ、ちょ、僕も!?」
11/07/27 16:26更新 / ganota_Mk2
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■作者メッセージ

・・・シリアスは書かないと言ったな?


すまん、ありゃ嘘だった。





いや、ホントすいません。
なぜ俺はシリアス話ばっかり作れるんだよ!?ギャグ話を作りたい!!もう!!

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