とある旅人の出来事
ジパングのとある山に、恐ろしい妖怪たちが住んでる、という噂があった。
この妖怪たち、たいへんイタズラが大好きで、山道を通るひとびとを驚かしたり、積み荷を盗んだりしていた。
たとえば、こんなふうである。
とある男がとなりの村に荷車で酒を運んでいたとき。
ふと男が気づくと、夕方になり暗くなりはじめた山道の先で、娘がうずくまって泣いており、その娘を母親か姉かと思える女がおろおろしていた。
「うぇーん!うぇーん!」
「あらあら、どうしましょう・・・ほら、泣き止んで?ね?」
山道に女子供ふたりだけとはおかしな事だが、男は親切で、ふたりに話しかけた。
「どうしたんだ?なにか、あったのか?」
「あら、どうも・・・実はこの子が泣きはじめてしまって、動かないんですの・・・」
「ひぐっ、うぇーん!うぇぇーん!」
男は荷車を置いて、顔を隠して泣きやまない女の子に、なだめるように話しかけた。
「おぅおぅ、どうしたんだ?お腹でもいてぇのかい?それとも、腹でもへったのかい?」
すると女の子は顔を覆いながら首を振り続け、泣きながら言った。
「ひぐっ、えぐっ・・・ないの・・・」
「ない?なにがだい?何か落としたんだったら一緒に探してあげ・・・」
「目がないのぉぉぉぉぉぉっ!!!」
なんと、顔を上げた娘の目が無く、流れる涙は血で真っ赤だった!
「うわぁぁぁっ!?」
「どうしました?」
「ど、どうしたって、この子、目が・・・」
なにもないかのような声で尋ねた女に振り向くと・・・
「ところで私、キレイ?」
女の口が耳まで裂け、にたりと妖しく笑っていた!
「ぎゃあぁぁぁっ!!?」
男は涙ながら女を押しのけ、荷車に手を伸ばした。
その瞬間。荷車の上の木から、大きなモノが降ってきた。
「ぎゃおーっ!喰べちゃうぞーッ!」
暗く見えにくいが、その巨体は二本の剛腕を振り上げ、男に襲いかかった!
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?おっ、お助けぇぇぇっ!!!」
男は荷車なぞ知ったものかと、叫び散らして逃げだした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
手を変え、品を変え、似たようなことが何回もあった。(妖怪の正体を見たものはいなかったが)
浪人や退魔師や坊さんなど、様々な人が退治を試みたが、みなことごとく返り討ちにあい、若い男になると、帰ってこなかったらしい。
結局、今ではその山は『三妖山』という名前で呼ばれ、極力、人は立ち入らないようしていた・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・あの山に登るのはやめなせぇ、若ぇの。アンタくらいの男はみーんな、帰ってこなかったんだぜ?」
三妖山の麓の茶屋の軒先。長い前置きをくどくどと老いた茶屋主人に聞かされた男は、団子を飲み込んだ。
「ふーん。ごっそさん。おあいそ」
「あ、あぁ。わかったな?登るのはよすんだぞ?絶対だぞ?」
代金をもらうと、主人は店の中の客のほうへ向かった。
男は立ち上がると、肩に引っさげた徳利の中身をちびっと飲んだ。
「・・・『絶対、登るな』、ねぇ」
男はニヤリと笑った。
「やるなやるなと言われたら、やりたくなるのが人の性。いい土産話になりそうだ♪」
男は、筋金入りの遊び人だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夜。
二体の魔物が、チンチロリンをしていた。チンチロリンとは、賭け事の一種。簡単な話を言えば、三つのサイコロを茶碗に投げ込み、でた目によって勝ち負けが決まるもの。ちなみに茶碗から出てもアウト。微妙な力加減がいる。
今、下半身がクモの魔物が、サイを振った。
「おっしゃあ!シゴロ(四・五・六)だ!アタシの勝ち決定だな!」
彼女はウシオニ。先の運び屋の男を最後に襲った巨体が彼女である。
ちなみにシゴロは結構強い役で、ピンゾロ(全て1)くらいがシゴロに勝てる役だ。
「あら、そんなこと言うと、運が逃げるわよ?驕れる者はなんとやら、って言うでしょ?」
くすくすと笑って挑発するのは、妖狐、否、稲荷である。
長い金髪から見える狐耳。着物からはみ出た6本の尻尾。素晴らしいほどのモフモフ。
彼女は、妖術を使って口裂け女を演じていたのだ。
「うっせ!さっさと振れ!アタシが勝ったら、昨日残った酒、アタシんだからな!」
「はいはい・・・うふふ・・・」
妖しく笑った稲荷が、優しくサイを振った。
「・・・がっ!!?」
「はい、残念。ピンゾロ。私がお酒もらうわね?」
見事、ピンゾロ。賭けていたのは残った酒だったようで、稲荷がそばに置いてあった酒瓶を自分側に引き寄せた。
「チッキッショォーッ!!なんで勝てねぇかなぁーっ!?」
「うふふ・・・驕ったからでしょうね。反省なさい」
(お・バ・カ♪勝負のあと、疑ってサイを確認しないからよ。私はイカサマしてんだから♪)
実は稲荷は手の中にすべて目が『1』のサイを隠し持っており、普通のサイを振るふりをしてそのサイを振ったのだ。
あとは、悔しがるウシオニの前でお酒を引き寄せる際に、すばやく茶碗内のサイを回収、すり替えを行ったのだ。
黒い。この稲荷、黒いよ。
「稲荷ねぇちゃーん!ウシオニねぇちゃーん!」
稲荷が口元を隠してあざ笑い、ウシオニが悔しさで頭をガリガリ掻いていると、もう一人、魔物が走ってきた。
「あら。どうしたの?」
「なんかあったのか?」
彼女は、ネコマタだった。
丈が短めな着物を着て、その低い身長からもまるで少女である。
もうお分かりだろうが、このネコマタこそ、最初の泣きやまない女の子の正体である。
ネコマタは顔を明るくして、目を爛々と輝かせて言った。
「オトコ!オトコが一人、山道登ってくるよ!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「イケメンね」
「イケメンだな」
「イケメンでしょ?」
三人は草陰から遠目に鼻歌混じりで山道を歩いてくる男を見ていた。
「積み荷もなにもなし。男のみね。退治しに来たってわけでもなさそうね」
「そうとわかれば・・・」
「よーし、負けないよ!」
三人は、小さな声で、じゃんけんをはじめた。
『うーらみっこなしよ、じゃんけんぽい!』
稲荷、チョキ。
ネコマタ、チョキ。
ウシオニ、パー。
ウシオニ、一人負け。
「クッソ!なんでアタシはいつもジャンケン負けるんだよ!?」
音は立てずとも、地団駄を踏むウシオニに、稲荷とネコマタは思った。
(いつも初手が紙(パー)だからよ・・・)
(いつもはじめにパーだすからだよ・・・)
結局、その後、ネコマタが勝った。
「じゃあ、ネコマタ、私、ウシオニの順番で、いつも通り、脅かして気絶させたり、引き返させた人が、男を独り占め。これでいいわね?」
「わかった!」
「クソ、また最後かよ・・・」
「文句言わない!はい!散って!」
こうして、三人はバラバラの位置に一人ずつついた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「月がぁ〜でぇた、出た。よよいのよい、よいっと・・・」
もちろん、夜の山道を行くのは先ほどの男である。
肩に徳利を担いで調子外れな歌を歌っている。かと言って酔っ払っているわけでなく、しっかりした足取りで歩いていた。
「んー、さぁて、どんな妖怪と会えるのかねぇ・・・お?」
すると、道の先にひとりの女の子が鞠をついて遊んでいた。
(はてさて、何が化けているのやら・・・)
分かってないフリをして、雷蔵は女の子に近づいた。
「おーい、嬢ちゃん。こんなとこでひとりで鞠つきなんざしてたら、妖怪に食われちまうぞー?」
すると、女の子は男を見上げず、鞠をつき続けた。
代わりに応えたのは・・・
「じゃあ、お兄ちゃん遊んでくれる?」
鞠と思われたのは、生首だった!
「あぁ、いいぜ。何がいい?」
「・・・へっ!?」
すると、鞠の顔だけでなく、うつむいて顔の見えなかった女の子本体まで驚いた様子で男を見た。
「ん?遊ぶんだろ?って、なんだ。身体の方にも顔あるじゃねぇか。ん、なんだその耳?」
「えっ、あっ、しまっ・・・た」
やってしまったと慌てる少女。実はさっきの驚いた瞬間に変身、および妖術が解け、生首はただの鞠、耳も尻尾も出てしまった。
「ほほぅ。お前は噂の悪さする妖怪だな?」
「え、あ、う・・・」
鞠を落とし、何をされるか分からない恐怖に、ネコマタはカタカタ震えた。
「よし、お仕置きをするか」
「ふぇ・・・わひゃっ!?」
すると雷蔵は、ネコマタをお姫様抱っこで抱え上げ、脇の草むらへ入っていった。
「やっ、あの、お兄ちゃん、なにを・・・ひっ!?なんで服脱ぐの!?やっ、いや、確かにその気はあったけど、あいや、その、やっ、脱がさないで!まだ心とか色々な準備が・・・あっ、やっ・・・
にゃあぁぁぁぁぁぁ・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・遅いわねぇ・・・」
稲荷は、草むらで隠れながら山道を監視していた。
「まさか今回はあの子がとっちゃったのかしら?チィっ・・・あの時、石を出してれば・・・ん?」
その時、調子外れな歌が遠くから小さく聞こえた。
「キタッ!?よしよし・・・うふふ、悪いわね、今回も私が男をもらうわよ・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「猫ヤっちゃった♪猫ヤっちゃった♪っと・・・」
男はちびちびと徳利の中身を呑みながら、山道を進んでいた。
「さっきのネコマタ、チビだったから結構締まりキツかったな・・・あとは胸がありゃあ文句なかったんだが・・・ん?」
ふと前を見ると、一人の女性が男の方に走って来た。
「はっ、はぁっ、た、助けてください!」
女性は服のあちらこちらが切れていて、よろよろしていた。
「おや、どうした?なんかに襲われたのか?」
「や、野盗が!野盗がすぐそこに!」
「野盗だぁ?」
男が女性の後ろに目を向けると、遠くから複数の男の叫び声が聞こえた。
『見つけたかぁーっ!?』
『いねぇーっ!そっちじゃねぇか!』
「ひぃっ!」
女性は男の後ろに回って、震える。
ちなみにこの女性。稲荷が化けているのだ。
(よし、後ろに回り込めた・・・あとは、頭でもぶんなぐってやれば・・・うふふ・・・)
野盗たちの声は妖術で聞こえるように錯覚させているだけ。男は稲荷を腕でかばうようにした。
(よし!かかったわね!あともう一押ししとこうかしら)
「あぅ、お、恐ろしゅうございます・・・」
「・・・そうだな、よし。俺に任せろ」
(・・・かかった。計画どおr)
「よし、とりあえずこっちの草むら行こう」
「ほぇ?」
急に腕を掴まれ、稲荷は無理やり草むらへ連れていかれた。
「やっ、ちょ、急にいかがなされまし・・・わひゃっ!?なぜ胸を・・・あ、んん♪やぁ、そんな乳を揉まないでぇ・・・弱いのぉ・・・あひっ!?い、いつのまに尻尾を!?やっ、あぁっ、だめ!ホントだめ!あっ、あぁっ・・・
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ♪」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・ふぁ、ぁぁぁあ。眠い・・・」
さらに山奥。ウシオニが目を擦りながら待っていた。
「チクショー・・・またアタシは食いっぱぐれか?・・・最近男抱けてないなぁ・・・」
その時。遠くから調子外れな歌が響いて来た。
「・・・ん?来たか?おぉ!ヨッシャ!張り切るぜ!!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「キツネやこんこん♪突かれてこんこん♪突いても突いてもまだイキ足らぬ♪っと・・・」
男はまた徳利をちびちびやりながら山道を進んでいた。その身体は汗臭くなっていた。
「ふぃ〜。あの狐、好きモノだったな・・・9発やってやーっと気絶しやがった。・・・てか俺もよくもったな・・・」
その男の目の前に、ドズンと音を立ててウシオニが落ちて来た。
「うははは!男ぉ!お前を抱かせろ!拒否権はねぇぞ!!!」
超直球な発言に、男は片眉を吊り上げた。
「・・・わぉ。いきなりかい」
この時、さすがに男は死を覚悟した。
「さぁ!さっさと始めるぞ!」
「あ、待ってくれ。最期の酒を呑ませてくれ」
唐突に男が徳利をあおった。
『ごぶっ、ごぶっ、ごぶっ!』
意外にたくさん残っていた液体を、お前のすべて飲み干した。
「な、なんだ?なにを飲ん・・・ちょ、え?お前、アソコがもう服を押し上げてるぞ・・・?な、なんだい。もう服脱ぎはじめやがって。腹ぁくくったのかい?ぎゃはは!上等!ヤリまくってやるぜぇ!!!」
ー30分後ー
「ふぅっ、ふぅっ、や、やるじゃないか。まだそこも硬いし、まだまだヤるよな!?いくぜぇ!!?」
ー1時間後ー
「きゅふぅん♪は、ははっ、す、ごいじゃないか・・・ちょっと休みを・・・え?ちょ、まだヤるの?お、おい。あ、アタシが休憩っつってんだからちょっと待って・・・あひゅん!?」
ー3時間後ー
「ひっ!?ひぃっ!!も、もぉらめぇ・・・ご、ごめんなひゃい、あやまりゅ、あやまりゅから、ゆるひて・・・や、まら?まらやるのぉ?も、おなかも、おひりも、たぽんたぽんいっへるよぉ・・・やめへぇ・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あー・・・お天道様が黄色いぜぇ・・・」
一晩で男は山を越えた。
ただし、いろんなモノがついて来たが。
空っぽの徳利。
乱れた着衣。
汗臭い身体。
そして・・・
「にゃうぅ・・・お兄様ぁ♪」
「くぅん・・・ご主人様ぁ♪」
「ふぅ、ふぅ・・・旦那ぁ♪」
三体の、妖怪。
「・・・こりゃ予想外だぜ・・・」
男はため息をついた。
(・・・徳利に入っていた、舶来ものの酒、まさか強精作用があったとはなぁ・・・)
それから男は、連れを三人増やして、旅を続けた。
この妖怪たち、たいへんイタズラが大好きで、山道を通るひとびとを驚かしたり、積み荷を盗んだりしていた。
たとえば、こんなふうである。
とある男がとなりの村に荷車で酒を運んでいたとき。
ふと男が気づくと、夕方になり暗くなりはじめた山道の先で、娘がうずくまって泣いており、その娘を母親か姉かと思える女がおろおろしていた。
「うぇーん!うぇーん!」
「あらあら、どうしましょう・・・ほら、泣き止んで?ね?」
山道に女子供ふたりだけとはおかしな事だが、男は親切で、ふたりに話しかけた。
「どうしたんだ?なにか、あったのか?」
「あら、どうも・・・実はこの子が泣きはじめてしまって、動かないんですの・・・」
「ひぐっ、うぇーん!うぇぇーん!」
男は荷車を置いて、顔を隠して泣きやまない女の子に、なだめるように話しかけた。
「おぅおぅ、どうしたんだ?お腹でもいてぇのかい?それとも、腹でもへったのかい?」
すると女の子は顔を覆いながら首を振り続け、泣きながら言った。
「ひぐっ、えぐっ・・・ないの・・・」
「ない?なにがだい?何か落としたんだったら一緒に探してあげ・・・」
「目がないのぉぉぉぉぉぉっ!!!」
なんと、顔を上げた娘の目が無く、流れる涙は血で真っ赤だった!
「うわぁぁぁっ!?」
「どうしました?」
「ど、どうしたって、この子、目が・・・」
なにもないかのような声で尋ねた女に振り向くと・・・
「ところで私、キレイ?」
女の口が耳まで裂け、にたりと妖しく笑っていた!
「ぎゃあぁぁぁっ!!?」
男は涙ながら女を押しのけ、荷車に手を伸ばした。
その瞬間。荷車の上の木から、大きなモノが降ってきた。
「ぎゃおーっ!喰べちゃうぞーッ!」
暗く見えにくいが、その巨体は二本の剛腕を振り上げ、男に襲いかかった!
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?おっ、お助けぇぇぇっ!!!」
男は荷車なぞ知ったものかと、叫び散らして逃げだした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
手を変え、品を変え、似たようなことが何回もあった。(妖怪の正体を見たものはいなかったが)
浪人や退魔師や坊さんなど、様々な人が退治を試みたが、みなことごとく返り討ちにあい、若い男になると、帰ってこなかったらしい。
結局、今ではその山は『三妖山』という名前で呼ばれ、極力、人は立ち入らないようしていた・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「・・・あの山に登るのはやめなせぇ、若ぇの。アンタくらいの男はみーんな、帰ってこなかったんだぜ?」
三妖山の麓の茶屋の軒先。長い前置きをくどくどと老いた茶屋主人に聞かされた男は、団子を飲み込んだ。
「ふーん。ごっそさん。おあいそ」
「あ、あぁ。わかったな?登るのはよすんだぞ?絶対だぞ?」
代金をもらうと、主人は店の中の客のほうへ向かった。
男は立ち上がると、肩に引っさげた徳利の中身をちびっと飲んだ。
「・・・『絶対、登るな』、ねぇ」
男はニヤリと笑った。
「やるなやるなと言われたら、やりたくなるのが人の性。いい土産話になりそうだ♪」
男は、筋金入りの遊び人だった。
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夜。
二体の魔物が、チンチロリンをしていた。チンチロリンとは、賭け事の一種。簡単な話を言えば、三つのサイコロを茶碗に投げ込み、でた目によって勝ち負けが決まるもの。ちなみに茶碗から出てもアウト。微妙な力加減がいる。
今、下半身がクモの魔物が、サイを振った。
「おっしゃあ!シゴロ(四・五・六)だ!アタシの勝ち決定だな!」
彼女はウシオニ。先の運び屋の男を最後に襲った巨体が彼女である。
ちなみにシゴロは結構強い役で、ピンゾロ(全て1)くらいがシゴロに勝てる役だ。
「あら、そんなこと言うと、運が逃げるわよ?驕れる者はなんとやら、って言うでしょ?」
くすくすと笑って挑発するのは、妖狐、否、稲荷である。
長い金髪から見える狐耳。着物からはみ出た6本の尻尾。素晴らしいほどのモフモフ。
彼女は、妖術を使って口裂け女を演じていたのだ。
「うっせ!さっさと振れ!アタシが勝ったら、昨日残った酒、アタシんだからな!」
「はいはい・・・うふふ・・・」
妖しく笑った稲荷が、優しくサイを振った。
「・・・がっ!!?」
「はい、残念。ピンゾロ。私がお酒もらうわね?」
見事、ピンゾロ。賭けていたのは残った酒だったようで、稲荷がそばに置いてあった酒瓶を自分側に引き寄せた。
「チッキッショォーッ!!なんで勝てねぇかなぁーっ!?」
「うふふ・・・驕ったからでしょうね。反省なさい」
(お・バ・カ♪勝負のあと、疑ってサイを確認しないからよ。私はイカサマしてんだから♪)
実は稲荷は手の中にすべて目が『1』のサイを隠し持っており、普通のサイを振るふりをしてそのサイを振ったのだ。
あとは、悔しがるウシオニの前でお酒を引き寄せる際に、すばやく茶碗内のサイを回収、すり替えを行ったのだ。
黒い。この稲荷、黒いよ。
「稲荷ねぇちゃーん!ウシオニねぇちゃーん!」
稲荷が口元を隠してあざ笑い、ウシオニが悔しさで頭をガリガリ掻いていると、もう一人、魔物が走ってきた。
「あら。どうしたの?」
「なんかあったのか?」
彼女は、ネコマタだった。
丈が短めな着物を着て、その低い身長からもまるで少女である。
もうお分かりだろうが、このネコマタこそ、最初の泣きやまない女の子の正体である。
ネコマタは顔を明るくして、目を爛々と輝かせて言った。
「オトコ!オトコが一人、山道登ってくるよ!」
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「イケメンね」
「イケメンだな」
「イケメンでしょ?」
三人は草陰から遠目に鼻歌混じりで山道を歩いてくる男を見ていた。
「積み荷もなにもなし。男のみね。退治しに来たってわけでもなさそうね」
「そうとわかれば・・・」
「よーし、負けないよ!」
三人は、小さな声で、じゃんけんをはじめた。
『うーらみっこなしよ、じゃんけんぽい!』
稲荷、チョキ。
ネコマタ、チョキ。
ウシオニ、パー。
ウシオニ、一人負け。
「クッソ!なんでアタシはいつもジャンケン負けるんだよ!?」
音は立てずとも、地団駄を踏むウシオニに、稲荷とネコマタは思った。
(いつも初手が紙(パー)だからよ・・・)
(いつもはじめにパーだすからだよ・・・)
結局、その後、ネコマタが勝った。
「じゃあ、ネコマタ、私、ウシオニの順番で、いつも通り、脅かして気絶させたり、引き返させた人が、男を独り占め。これでいいわね?」
「わかった!」
「クソ、また最後かよ・・・」
「文句言わない!はい!散って!」
こうして、三人はバラバラの位置に一人ずつついた。
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「月がぁ〜でぇた、出た。よよいのよい、よいっと・・・」
もちろん、夜の山道を行くのは先ほどの男である。
肩に徳利を担いで調子外れな歌を歌っている。かと言って酔っ払っているわけでなく、しっかりした足取りで歩いていた。
「んー、さぁて、どんな妖怪と会えるのかねぇ・・・お?」
すると、道の先にひとりの女の子が鞠をついて遊んでいた。
(はてさて、何が化けているのやら・・・)
分かってないフリをして、雷蔵は女の子に近づいた。
「おーい、嬢ちゃん。こんなとこでひとりで鞠つきなんざしてたら、妖怪に食われちまうぞー?」
すると、女の子は男を見上げず、鞠をつき続けた。
代わりに応えたのは・・・
「じゃあ、お兄ちゃん遊んでくれる?」
鞠と思われたのは、生首だった!
「あぁ、いいぜ。何がいい?」
「・・・へっ!?」
すると、鞠の顔だけでなく、うつむいて顔の見えなかった女の子本体まで驚いた様子で男を見た。
「ん?遊ぶんだろ?って、なんだ。身体の方にも顔あるじゃねぇか。ん、なんだその耳?」
「えっ、あっ、しまっ・・・た」
やってしまったと慌てる少女。実はさっきの驚いた瞬間に変身、および妖術が解け、生首はただの鞠、耳も尻尾も出てしまった。
「ほほぅ。お前は噂の悪さする妖怪だな?」
「え、あ、う・・・」
鞠を落とし、何をされるか分からない恐怖に、ネコマタはカタカタ震えた。
「よし、お仕置きをするか」
「ふぇ・・・わひゃっ!?」
すると雷蔵は、ネコマタをお姫様抱っこで抱え上げ、脇の草むらへ入っていった。
「やっ、あの、お兄ちゃん、なにを・・・ひっ!?なんで服脱ぐの!?やっ、いや、確かにその気はあったけど、あいや、その、やっ、脱がさないで!まだ心とか色々な準備が・・・あっ、やっ・・・
にゃあぁぁぁぁぁぁ・・・」
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「・・・遅いわねぇ・・・」
稲荷は、草むらで隠れながら山道を監視していた。
「まさか今回はあの子がとっちゃったのかしら?チィっ・・・あの時、石を出してれば・・・ん?」
その時、調子外れな歌が遠くから小さく聞こえた。
「キタッ!?よしよし・・・うふふ、悪いわね、今回も私が男をもらうわよ・・・」
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「猫ヤっちゃった♪猫ヤっちゃった♪っと・・・」
男はちびちびと徳利の中身を呑みながら、山道を進んでいた。
「さっきのネコマタ、チビだったから結構締まりキツかったな・・・あとは胸がありゃあ文句なかったんだが・・・ん?」
ふと前を見ると、一人の女性が男の方に走って来た。
「はっ、はぁっ、た、助けてください!」
女性は服のあちらこちらが切れていて、よろよろしていた。
「おや、どうした?なんかに襲われたのか?」
「や、野盗が!野盗がすぐそこに!」
「野盗だぁ?」
男が女性の後ろに目を向けると、遠くから複数の男の叫び声が聞こえた。
『見つけたかぁーっ!?』
『いねぇーっ!そっちじゃねぇか!』
「ひぃっ!」
女性は男の後ろに回って、震える。
ちなみにこの女性。稲荷が化けているのだ。
(よし、後ろに回り込めた・・・あとは、頭でもぶんなぐってやれば・・・うふふ・・・)
野盗たちの声は妖術で聞こえるように錯覚させているだけ。男は稲荷を腕でかばうようにした。
(よし!かかったわね!あともう一押ししとこうかしら)
「あぅ、お、恐ろしゅうございます・・・」
「・・・そうだな、よし。俺に任せろ」
(・・・かかった。計画どおr)
「よし、とりあえずこっちの草むら行こう」
「ほぇ?」
急に腕を掴まれ、稲荷は無理やり草むらへ連れていかれた。
「やっ、ちょ、急にいかがなされまし・・・わひゃっ!?なぜ胸を・・・あ、んん♪やぁ、そんな乳を揉まないでぇ・・・弱いのぉ・・・あひっ!?い、いつのまに尻尾を!?やっ、あぁっ、だめ!ホントだめ!あっ、あぁっ・・・
あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ♪」
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「・・・ふぁ、ぁぁぁあ。眠い・・・」
さらに山奥。ウシオニが目を擦りながら待っていた。
「チクショー・・・またアタシは食いっぱぐれか?・・・最近男抱けてないなぁ・・・」
その時。遠くから調子外れな歌が響いて来た。
「・・・ん?来たか?おぉ!ヨッシャ!張り切るぜ!!」
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「キツネやこんこん♪突かれてこんこん♪突いても突いてもまだイキ足らぬ♪っと・・・」
男はまた徳利をちびちびやりながら山道を進んでいた。その身体は汗臭くなっていた。
「ふぃ〜。あの狐、好きモノだったな・・・9発やってやーっと気絶しやがった。・・・てか俺もよくもったな・・・」
その男の目の前に、ドズンと音を立ててウシオニが落ちて来た。
「うははは!男ぉ!お前を抱かせろ!拒否権はねぇぞ!!!」
超直球な発言に、男は片眉を吊り上げた。
「・・・わぉ。いきなりかい」
この時、さすがに男は死を覚悟した。
「さぁ!さっさと始めるぞ!」
「あ、待ってくれ。最期の酒を呑ませてくれ」
唐突に男が徳利をあおった。
『ごぶっ、ごぶっ、ごぶっ!』
意外にたくさん残っていた液体を、お前のすべて飲み干した。
「な、なんだ?なにを飲ん・・・ちょ、え?お前、アソコがもう服を押し上げてるぞ・・・?な、なんだい。もう服脱ぎはじめやがって。腹ぁくくったのかい?ぎゃはは!上等!ヤリまくってやるぜぇ!!!」
ー30分後ー
「ふぅっ、ふぅっ、や、やるじゃないか。まだそこも硬いし、まだまだヤるよな!?いくぜぇ!!?」
ー1時間後ー
「きゅふぅん♪は、ははっ、す、ごいじゃないか・・・ちょっと休みを・・・え?ちょ、まだヤるの?お、おい。あ、アタシが休憩っつってんだからちょっと待って・・・あひゅん!?」
ー3時間後ー
「ひっ!?ひぃっ!!も、もぉらめぇ・・・ご、ごめんなひゃい、あやまりゅ、あやまりゅから、ゆるひて・・・や、まら?まらやるのぉ?も、おなかも、おひりも、たぽんたぽんいっへるよぉ・・・やめへぇ・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あー・・・お天道様が黄色いぜぇ・・・」
一晩で男は山を越えた。
ただし、いろんなモノがついて来たが。
空っぽの徳利。
乱れた着衣。
汗臭い身体。
そして・・・
「にゃうぅ・・・お兄様ぁ♪」
「くぅん・・・ご主人様ぁ♪」
「ふぅ、ふぅ・・・旦那ぁ♪」
三体の、妖怪。
「・・・こりゃ予想外だぜ・・・」
男はため息をついた。
(・・・徳利に入っていた、舶来ものの酒、まさか強精作用があったとはなぁ・・・)
それから男は、連れを三人増やして、旅を続けた。
11/07/26 01:00更新 / ganota_Mk2