とある家族のジパング旅行
ジパングの春。
舞い散るサクラの花を肴に酒を飲むのも良し。
時期に合わせた団子の味に舌鼓を打つも良し。
はたまた行楽で日々の疲れを癒すも、良し。
そんな春風満開、人々の賑わう時期にはるばる国外から訪れた親子がいた。
「わぁー!見て、パパ、ママ、すごく綺麗よ!」
その娘はサクラの美しさに目を輝かせながら、母よりたわわに実った果実を揺らしながら駆け出していた。
駆け出すといっても、彼女の下半身は蛇である故、はっきりと走り出したと言いづらいが。
「こら!『サティア』!言うこと聞いて大人しくしなさいっ!」
「いいじゃないか。少しくらいはしゃいだって」
「そういう『フォン』は、ネタ集めの手帳をしまいなさい」
「・・・ばれちゃった」
娘の後を歩いているのは、母親であるメデューサと、隻眼の男であった。
遅れながら、この親子の紹介をしよう。
父親の名は『フォン・ウィーリィ』。職業は冒険作家である。様々な地に足を運び、その冒険の内容、土地の特性や出会った人や魔物、それと旅の同行者である妻とのイチャイチャぶりを書き綴っている。主に後者目当てに魔物娘読者が増えている。
先に書いたが、フォンは隻眼である。それ故、過保護な妻であるメデューサの『シェリー・ウィーリィ』がいつどこへでも同行している。彼女はフォンのこととなるやそこらへんの魔物娘と比べものにならぬ戦闘力を発揮する、ボディガードとなっている。
さて、彼らは夫婦とあり、ヤることはしっかりちゃっかりばっちりヤっている。その決勝が、娘『サティア・ウィーリィ』である。まだ幼い彼女を普段は旅に同行させることはフォンもシェリーもしないのだが、今回は別である。
今回の目的地はジパング。安全は確保されているし、なにより仕事ではなく、家族旅行という名目で来ているのだ。
「だ・か・ら、いつもみたいにネタ書き溜めに熱中しすぎて私を無視するなんてしないわよね〜?フォ〜ン?」
「ご、ごめんごめん。もう仕舞うからさ。許して?ね?」
「ママ、あれなんて読むの?」
一瞬仕事モードになりかけたフォンに釘を刺していたシェリーに、サティアが尋ねる。それは桜道にある店に書いてある文字で・・・
『御手洗団子、有〼』
・・・とあった。もちろん、これは団子屋の広告で、声を聞いた団子屋の売り子がニコリと笑ったのだが・・・
「あの字は『おてあらい』だから・・・トイレかしら?」
「え?じゃ、公衆トイレなの?」
シェリーとサティアのやりとりにフォンは「ぶほっ!」と声を出して吹き出し、売り子は盛大にずっこけた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「シェリー、勉強が足りなかったね」
「・・・うるさい」
読み間違い、勘違いをフォンに指摘され、顔を真っ赤にしたシェリーは、恥ずかしさを紛らわすかのように団子を勢い良く食べていた。
「どう?美味しい?お嬢さん?」
「・・・美味しいです」
「うふふ・・・」
その隣で同じように顔を真っ赤にし、縮こまって団子を食べるサティアは、売り子の雪女にいじられていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
団子を食べた後、フォンたちは自分たちの泊まる旅館を探していた。そのため町を回っていたのだが、花見時期であることからか、屋台なんかがたくさん出ていた。
「はーい、輪投げはどーだーい?」
「こっちは的当てだよー!」
「型抜きに挑戦する人はいないかいー?」
こんな声がたくさんするわけで、まだ子供なサティアはやりたくてソワソワしていた。
「・・・なにかやるかい?サティア」
「えっ、いいの?」
「滅多に来られるものじゃないんだ。いいよ。ねぇ?」
「・・・全部はダメよ」
遠回しなシェリーのOKも出て、サティアは屋台のうちからやりたいものを選び出した。
「おじさん!これやりたい!」
「おっ?外国の嬢ちゃんかい?上手く射抜けるかねぇ?」
サティアが選んだのは、『的当て』であった。
ただ、今のような空気銃なんてないわけで・・・
「・・・ねぇ、パパ」
「ん?どうしたんだい?」
「胸が邪魔で弓が引けないんだけど」
『ざわ・・・』
『ビキィッ#』
サティアの発言に、周りにいた人々の視線が一瞬でサティアの胸元へ集まり、シェリーの額には青筋が浮かんだ。
母親とは似ても似つかぬソレは、明らかに弓の弦の邪魔をしていた。
「・・・僕がやってみようか?」
「パパやってみてー」
娘は視線を気にせず、父であるフォンに弓矢を渡す。
そこで、フォンとシェリーがふとくるりと周りを見渡した。フォンは微笑をたたえ、シェリーも青筋を浮かべたままにっこり笑っていた。
『なにジロジロ見てんだコラ』
しかし、周りにいた者たちには、とくにサティアの胸元を見た者たちにははっきりと、二人が何を言わんとしてるか理解し、サッと視線を外した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ちなみに的当ては、フォンとシェリーが2回ずつ挑戦したのだが・・・
「ママすごいね!2回とも当てるなんて!」
「ま、偶然よ」
シェリーが2回とも当て、景品に狐火の人形をもらっていた。
(・・・弓矢に必要なのは筋力と安定力、あと、胸の薄さってことかな)
「フォンなんか言った?」
「僕、口を開いてさえないんだけど・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さてしばらくして、外国からの旅行者もいる旅館を見つけ出したフォンたちは、部屋をとってやっとこさ一息ついた。
「ママ、私、ユカタ着たい!」
「はいはい、待ちなさい」
初めて見るものばかりでテンション上がりっぱなしのサティアは、もう無邪気な子供のようになり、シェリーに甘えて浴衣を着たいとねだる。
「あ、シェリー。旅館の人から聞いたんだけど、浴衣は大人2人分と身長140cmくらいの子供用2人分あるって・・・」
その時。フォンはハッと気づいた。
サティアが子供用を着る→
→胸が入らない→
→シェリーぷっつん
という流れになるのが目に見えていることに気づいたのだ!
「じゃあフォンが子供用着ればいいわね」
「じゃ、私大人用ー!」
「ちょっと待って。なんでそんな流れになってるの?」
しかし現実はフォンの思い描いた事態から急回転していた。
「だってフォンの方が細いじゃない」
「パパ痩せてるもん」
「待って、ねぇ待って。子供用ってことは丈短いんだよ?」
「大丈夫よ。脛見えるくらいでしょ?」
「いやだからそれがダメだって。かっこ悪いって」
「パパ足も細いし、毛も薄いから気にならないよ、きっと」
「いや、サティアまで悪ノリやめなさい?さすがに僕困るよ?」
フォンがなんとか逃れようと言い返していると、頬を膨らましたシェリーが、子供用浴衣を手に取った。
「あーもう!そこまで言うなら一回着せてみればいいじゃない!サティア、手伝って!」
「はーい!」
「いや!ちょ!待って!やめてぇ!」
フォンがシェリーとサティアに剥かれ始めた時。
「失礼します、お客様。蛇種魔物様用の浴衣を持ってきまし・・・」
ジョロウグモの使用人さんが、入って来た。
そして、剥かれかけてるフォンと、固まったシェリーとサティアを見て・・・
「・・・失礼しました。しばらくしてから出直してまいります。どうぞ、ごゆっくり♥」
「違う!違う!違うッ!!!」
「浴衣ください!浴衣!!」
「とりあえずパパ服着て!!!」
頬を赤らめて去ろうとしたジョロウグモを、三人は必死で引き止め、誤解を解いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「えらいことになりそうになった・・・」
「ママが悪ふざけするから・・・」
「コラ。責任逃れするんじゃない」
なんとかジョロウグモの女中の誤解を解き、フォン一家は温泉へと向かっていた。食事まで時間があるゆえ、人が混む前にゆっくり入ろうという魂胆であった。
「あ、ウィーリィ様方、お待ちください」
「あ、はい、なにか?」
手ぬぐいを持っている歩いているフォンたちを見た通りがかりの女中が声をかけた。
「当旅館には『男湯』『女湯』の他、『夫婦湯』というのがございます」
「メオトユ?」
「早い話が、ご夫婦様で貸し切って入れる温泉でございます。よろしければ、お嬢様の身を預かる女中をお呼びしまして、ご夫婦水入らずでお入りになられては?」
女中の話にシェリーはちょっと期待に顔を明るくしたが、すぐにサティアを見て眉をひそめた。
「いや、でもうちの娘が迷惑をかけるのが目に見えてるし・・・」
「ちょっとママ!流石に私他の人に迷惑かけたりなんてしないわよ!」
「アンタ、フォン似で初めて見るものに興奮してはしゃぐでしょうが!」
また二人が言い争いになる前に、フォンが仲介に入った。
「まぁまぁ、二人とも、落ち着いて。実は僕、その夫婦湯に入ってみたいな。シェリー、いいでしょ?」
「え?ちょっと・・・」
「サティア、いい子にできるよね?女中さんの言うこと聞いて、ちゃーんと身体と頭を洗って、静かに温泉に入れるよね?」
「もちろん!」
「よし決定!女中さん、お願いできますか?」
「お任せください。旅館一、安心できる女中をお呼びします」
こうして、シェリーの静止も聞かず、着々と用意がされていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さて、入る直前までサティアの心配をし、脱衣所ではぶつぶつ言っていたシェリーも、身体を湯で流してフォンと湯に浸かると、リラックスして緩み切った表情になった。
夫婦湯は沈みかける夕陽を見ながらあったまれる露天風呂であった。肩までしっかり使ったシェリーは、ため息を吐いた。
「はぁ〜・・・生き返るわぁ・・・」
「シェリー、すごいおばさんチックだよ」
「う・・・いいじゃない。私たちいい歳してるんだから」
「あはは、そうだね」
フォンと並んで湯に浸かるシェリーは、二人っきりということもあってかフォンにぴったり寄り添い、腕を絡めていた。
「やっぱり家族でっていうのもいいけど、二人の方がしっくりくるね」
「・・・だからってあの子を放置するのは許さないわよ」
「もちろんだよ。僕らの可愛い子なんだから、ね」
フォンの言葉にシェリーは嘆息しながらも、頭をフォンの肩に預け、ぽつりと言った。
「・・・あとどれくらい一緒にいてくれるのかしらね、あの子」
「きっとまだ僕らを大切にしてくれるよ。こんな旅について来てくれるんだから」
「今ならママの気持ちがわかるわ。あの子が一人なのがすごい不安」
「シェリーは心配しすぎだよ。あの子だっていつまでも子じゃないんだ」
「でも・・・」
その時、フォンがシェリーの頭を撫でた。
「それにシェリー。今はふたりっきりなんだから・・・ね?」
そこで二人は見つめあう。
いつもならシェリーが恥ずかしさで顔をそらすものだが、この時ばかりはじっと見つめ返し、フォンは湯に火照ったのか赤くなったシェリーの頬に手を添え、ゆっくりと近づき・・・
「失礼いたしますぜぇ」
「わきゃあ!?」
脱衣所の扉を開けたウシオニの女中の声に、シェリーは奇声をあげてフォンを突き飛ばしてしまった。
「ご夫婦様に、『さぁびす』として、ここら名産の地酒をお持ちしやした。どうぞお飲みくだせぇ」
「あ、あああ、ありがとうございますです!?」
図体のでかいウシオニ女中にびっくりしながらも、シェリーがお礼を言う。その時、ウシオニ女中が目をパチクリさせた。
「・・・失礼ながら、旦那さんはなにしてんですかい?」
「・・・へ?」
シェリーが見ると、頭にでかいたんこぶを作ったフォンが、ずるずると温泉に沈んでいた。
このあと、なぜか晩飯が豪勢になって事情の知らぬサティアがご機嫌に舌鼓を打ち、平謝りする旅館女中たちに同じように平謝りするフォンとシェリーだったが、それはまた別のお話・・・
舞い散るサクラの花を肴に酒を飲むのも良し。
時期に合わせた団子の味に舌鼓を打つも良し。
はたまた行楽で日々の疲れを癒すも、良し。
そんな春風満開、人々の賑わう時期にはるばる国外から訪れた親子がいた。
「わぁー!見て、パパ、ママ、すごく綺麗よ!」
その娘はサクラの美しさに目を輝かせながら、母よりたわわに実った果実を揺らしながら駆け出していた。
駆け出すといっても、彼女の下半身は蛇である故、はっきりと走り出したと言いづらいが。
「こら!『サティア』!言うこと聞いて大人しくしなさいっ!」
「いいじゃないか。少しくらいはしゃいだって」
「そういう『フォン』は、ネタ集めの手帳をしまいなさい」
「・・・ばれちゃった」
娘の後を歩いているのは、母親であるメデューサと、隻眼の男であった。
遅れながら、この親子の紹介をしよう。
父親の名は『フォン・ウィーリィ』。職業は冒険作家である。様々な地に足を運び、その冒険の内容、土地の特性や出会った人や魔物、それと旅の同行者である妻とのイチャイチャぶりを書き綴っている。主に後者目当てに魔物娘読者が増えている。
先に書いたが、フォンは隻眼である。それ故、過保護な妻であるメデューサの『シェリー・ウィーリィ』がいつどこへでも同行している。彼女はフォンのこととなるやそこらへんの魔物娘と比べものにならぬ戦闘力を発揮する、ボディガードとなっている。
さて、彼らは夫婦とあり、ヤることはしっかりちゃっかりばっちりヤっている。その決勝が、娘『サティア・ウィーリィ』である。まだ幼い彼女を普段は旅に同行させることはフォンもシェリーもしないのだが、今回は別である。
今回の目的地はジパング。安全は確保されているし、なにより仕事ではなく、家族旅行という名目で来ているのだ。
「だ・か・ら、いつもみたいにネタ書き溜めに熱中しすぎて私を無視するなんてしないわよね〜?フォ〜ン?」
「ご、ごめんごめん。もう仕舞うからさ。許して?ね?」
「ママ、あれなんて読むの?」
一瞬仕事モードになりかけたフォンに釘を刺していたシェリーに、サティアが尋ねる。それは桜道にある店に書いてある文字で・・・
『御手洗団子、有〼』
・・・とあった。もちろん、これは団子屋の広告で、声を聞いた団子屋の売り子がニコリと笑ったのだが・・・
「あの字は『おてあらい』だから・・・トイレかしら?」
「え?じゃ、公衆トイレなの?」
シェリーとサティアのやりとりにフォンは「ぶほっ!」と声を出して吹き出し、売り子は盛大にずっこけた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「シェリー、勉強が足りなかったね」
「・・・うるさい」
読み間違い、勘違いをフォンに指摘され、顔を真っ赤にしたシェリーは、恥ずかしさを紛らわすかのように団子を勢い良く食べていた。
「どう?美味しい?お嬢さん?」
「・・・美味しいです」
「うふふ・・・」
その隣で同じように顔を真っ赤にし、縮こまって団子を食べるサティアは、売り子の雪女にいじられていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
団子を食べた後、フォンたちは自分たちの泊まる旅館を探していた。そのため町を回っていたのだが、花見時期であることからか、屋台なんかがたくさん出ていた。
「はーい、輪投げはどーだーい?」
「こっちは的当てだよー!」
「型抜きに挑戦する人はいないかいー?」
こんな声がたくさんするわけで、まだ子供なサティアはやりたくてソワソワしていた。
「・・・なにかやるかい?サティア」
「えっ、いいの?」
「滅多に来られるものじゃないんだ。いいよ。ねぇ?」
「・・・全部はダメよ」
遠回しなシェリーのOKも出て、サティアは屋台のうちからやりたいものを選び出した。
「おじさん!これやりたい!」
「おっ?外国の嬢ちゃんかい?上手く射抜けるかねぇ?」
サティアが選んだのは、『的当て』であった。
ただ、今のような空気銃なんてないわけで・・・
「・・・ねぇ、パパ」
「ん?どうしたんだい?」
「胸が邪魔で弓が引けないんだけど」
『ざわ・・・』
『ビキィッ#』
サティアの発言に、周りにいた人々の視線が一瞬でサティアの胸元へ集まり、シェリーの額には青筋が浮かんだ。
母親とは似ても似つかぬソレは、明らかに弓の弦の邪魔をしていた。
「・・・僕がやってみようか?」
「パパやってみてー」
娘は視線を気にせず、父であるフォンに弓矢を渡す。
そこで、フォンとシェリーがふとくるりと周りを見渡した。フォンは微笑をたたえ、シェリーも青筋を浮かべたままにっこり笑っていた。
『なにジロジロ見てんだコラ』
しかし、周りにいた者たちには、とくにサティアの胸元を見た者たちにははっきりと、二人が何を言わんとしてるか理解し、サッと視線を外した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ちなみに的当ては、フォンとシェリーが2回ずつ挑戦したのだが・・・
「ママすごいね!2回とも当てるなんて!」
「ま、偶然よ」
シェリーが2回とも当て、景品に狐火の人形をもらっていた。
(・・・弓矢に必要なのは筋力と安定力、あと、胸の薄さってことかな)
「フォンなんか言った?」
「僕、口を開いてさえないんだけど・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さてしばらくして、外国からの旅行者もいる旅館を見つけ出したフォンたちは、部屋をとってやっとこさ一息ついた。
「ママ、私、ユカタ着たい!」
「はいはい、待ちなさい」
初めて見るものばかりでテンション上がりっぱなしのサティアは、もう無邪気な子供のようになり、シェリーに甘えて浴衣を着たいとねだる。
「あ、シェリー。旅館の人から聞いたんだけど、浴衣は大人2人分と身長140cmくらいの子供用2人分あるって・・・」
その時。フォンはハッと気づいた。
サティアが子供用を着る→
→胸が入らない→
→シェリーぷっつん
という流れになるのが目に見えていることに気づいたのだ!
「じゃあフォンが子供用着ればいいわね」
「じゃ、私大人用ー!」
「ちょっと待って。なんでそんな流れになってるの?」
しかし現実はフォンの思い描いた事態から急回転していた。
「だってフォンの方が細いじゃない」
「パパ痩せてるもん」
「待って、ねぇ待って。子供用ってことは丈短いんだよ?」
「大丈夫よ。脛見えるくらいでしょ?」
「いやだからそれがダメだって。かっこ悪いって」
「パパ足も細いし、毛も薄いから気にならないよ、きっと」
「いや、サティアまで悪ノリやめなさい?さすがに僕困るよ?」
フォンがなんとか逃れようと言い返していると、頬を膨らましたシェリーが、子供用浴衣を手に取った。
「あーもう!そこまで言うなら一回着せてみればいいじゃない!サティア、手伝って!」
「はーい!」
「いや!ちょ!待って!やめてぇ!」
フォンがシェリーとサティアに剥かれ始めた時。
「失礼します、お客様。蛇種魔物様用の浴衣を持ってきまし・・・」
ジョロウグモの使用人さんが、入って来た。
そして、剥かれかけてるフォンと、固まったシェリーとサティアを見て・・・
「・・・失礼しました。しばらくしてから出直してまいります。どうぞ、ごゆっくり♥」
「違う!違う!違うッ!!!」
「浴衣ください!浴衣!!」
「とりあえずパパ服着て!!!」
頬を赤らめて去ろうとしたジョロウグモを、三人は必死で引き止め、誤解を解いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「えらいことになりそうになった・・・」
「ママが悪ふざけするから・・・」
「コラ。責任逃れするんじゃない」
なんとかジョロウグモの女中の誤解を解き、フォン一家は温泉へと向かっていた。食事まで時間があるゆえ、人が混む前にゆっくり入ろうという魂胆であった。
「あ、ウィーリィ様方、お待ちください」
「あ、はい、なにか?」
手ぬぐいを持っている歩いているフォンたちを見た通りがかりの女中が声をかけた。
「当旅館には『男湯』『女湯』の他、『夫婦湯』というのがございます」
「メオトユ?」
「早い話が、ご夫婦様で貸し切って入れる温泉でございます。よろしければ、お嬢様の身を預かる女中をお呼びしまして、ご夫婦水入らずでお入りになられては?」
女中の話にシェリーはちょっと期待に顔を明るくしたが、すぐにサティアを見て眉をひそめた。
「いや、でもうちの娘が迷惑をかけるのが目に見えてるし・・・」
「ちょっとママ!流石に私他の人に迷惑かけたりなんてしないわよ!」
「アンタ、フォン似で初めて見るものに興奮してはしゃぐでしょうが!」
また二人が言い争いになる前に、フォンが仲介に入った。
「まぁまぁ、二人とも、落ち着いて。実は僕、その夫婦湯に入ってみたいな。シェリー、いいでしょ?」
「え?ちょっと・・・」
「サティア、いい子にできるよね?女中さんの言うこと聞いて、ちゃーんと身体と頭を洗って、静かに温泉に入れるよね?」
「もちろん!」
「よし決定!女中さん、お願いできますか?」
「お任せください。旅館一、安心できる女中をお呼びします」
こうして、シェリーの静止も聞かず、着々と用意がされていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さて、入る直前までサティアの心配をし、脱衣所ではぶつぶつ言っていたシェリーも、身体を湯で流してフォンと湯に浸かると、リラックスして緩み切った表情になった。
夫婦湯は沈みかける夕陽を見ながらあったまれる露天風呂であった。肩までしっかり使ったシェリーは、ため息を吐いた。
「はぁ〜・・・生き返るわぁ・・・」
「シェリー、すごいおばさんチックだよ」
「う・・・いいじゃない。私たちいい歳してるんだから」
「あはは、そうだね」
フォンと並んで湯に浸かるシェリーは、二人っきりということもあってかフォンにぴったり寄り添い、腕を絡めていた。
「やっぱり家族でっていうのもいいけど、二人の方がしっくりくるね」
「・・・だからってあの子を放置するのは許さないわよ」
「もちろんだよ。僕らの可愛い子なんだから、ね」
フォンの言葉にシェリーは嘆息しながらも、頭をフォンの肩に預け、ぽつりと言った。
「・・・あとどれくらい一緒にいてくれるのかしらね、あの子」
「きっとまだ僕らを大切にしてくれるよ。こんな旅について来てくれるんだから」
「今ならママの気持ちがわかるわ。あの子が一人なのがすごい不安」
「シェリーは心配しすぎだよ。あの子だっていつまでも子じゃないんだ」
「でも・・・」
その時、フォンがシェリーの頭を撫でた。
「それにシェリー。今はふたりっきりなんだから・・・ね?」
そこで二人は見つめあう。
いつもならシェリーが恥ずかしさで顔をそらすものだが、この時ばかりはじっと見つめ返し、フォンは湯に火照ったのか赤くなったシェリーの頬に手を添え、ゆっくりと近づき・・・
「失礼いたしますぜぇ」
「わきゃあ!?」
脱衣所の扉を開けたウシオニの女中の声に、シェリーは奇声をあげてフォンを突き飛ばしてしまった。
「ご夫婦様に、『さぁびす』として、ここら名産の地酒をお持ちしやした。どうぞお飲みくだせぇ」
「あ、あああ、ありがとうございますです!?」
図体のでかいウシオニ女中にびっくりしながらも、シェリーがお礼を言う。その時、ウシオニ女中が目をパチクリさせた。
「・・・失礼ながら、旦那さんはなにしてんですかい?」
「・・・へ?」
シェリーが見ると、頭にでかいたんこぶを作ったフォンが、ずるずると温泉に沈んでいた。
このあと、なぜか晩飯が豪勢になって事情の知らぬサティアがご機嫌に舌鼓を打ち、平謝りする旅館女中たちに同じように平謝りするフォンとシェリーだったが、それはまた別のお話・・・
14/01/15 16:23更新 / ganota_Mk2